STI Hz Vol.5, No.4, Part.8:(レポート)科学技術に関する国民意識調査-Society 5.0-STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00198
  • 公開日: 2019.12.20
  • 著者: 細坪 護挙
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.5, No.4
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
科学技術に関する国民意識調査
-Society 5.0-

第1調査研究グループ 上席研究官 細坪 護挙

概 要

2019年3月のインターネット調査の結果、科学技術関心度、科学者信頼度、科学技術肯定性については、いずれも前回2018年10月の観測値から低下傾向にある一方、超スマート社会(Society 5.0)に関連する継続質問、例えば、情報通信技術に対する関心度などでは前回2018年10月の調査結果と大きな変動はなかった。加えて、本稿では、2016年3月の超スマート社会(Society 5.0)に関する調査と同様、Sociey 5.0に対するより詳細な質問項目を設けることによって、世間一般におけるSociety 5.0に関する現時点での認識と経時的な意識変化を把握し、更に変化の背景について分析を行った。

キーワード:Society 5.0,意識調査,認知度

1.はじめに

本調査では、科学技術に関する国民意識の代表的な指標として、科学技術関心度、科学者信頼度及び科学技術肯定性(「科学技術の進歩につれて生活はより便利で快適なものになる」に対する考えを指す)の3つを使用し、これらと超スマート社会(Society 5.0)関連質問の動向から、2019年3月に至る国民の意識の変化を究明する。

2.調査手法

本調査研究では、2019年3月にインターネット調査を行い、約200項目の問いに対する3,000人の回答を取得した。インターネット調査は、世論調査に比べて回答者の代表性の乏しさや偏りを指摘されることもあるが、調査の実施が容易であるため、本調査のような繰り返し調査による変化の観察や試行的な調査に適している。本調査の結果は、インターネット調査の特性を踏まえた分析・解釈が期待され、更に本調査の情報を元に今後の大規模な世論調査の設計・実施を検討する重要な基礎情報となることが期待される。

3.長期的変化

科学技術関心度と科学者信頼度、科学技術肯定性、性別平均の長期的な変化を図表1、図表2、図表3に示す。図表の矢印は1%有意性水準による統計的仮説検定の結果であり、図表中の白抜きの○は同じ年の男女間の差に有意性がないことを示す。科学技術関心度、科学者信頼度、科学技術肯定性はいずれも前回の観測値から低下傾向にある。長期的には、科学技術関心度(図表1)は、男性の方が女性より常に高い一方、科学者信頼度(図表2)で、女性の方が男性より高くなってきたことが分かる。

図表1 科学技術関心度の性別の平均値の時間変化図表1 科学技術関心度の性別の平均値の時間変化

図表2 科学者信頼度の性別の平均値の時間変化図表2 科学者信頼度の性別の平均値の時間変化

図表3 科学技術の進歩につれて生活はより便利で快適なものになる、の性別の平均値の時間変化図表3 科学技術の進歩につれて生活はより便利で快適なものになる、の性別の平均値の時間変化

4.Society 5.0関連の認識やその変化

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、科学技術と社会に関する国民意識調査の一環で、2016年3月に超スマート社会(Society 5.0)に関する調査を行った1)。今回の2019年3月の調査では2016年調査と同様、Sociey 5.0に対するより詳細な質問項目を設けることにより、世間一般におけるSociety 5.0に関する現時点での認識と経時的な意識変化を把握し、更に変化の背景について分析を行った。

超スマート社会(Society 5.0)に特化した質問として、2016年3月の超スマート社会(Society 5.0)調査と類似の質問を聞き、その変化を調べた。超スマート社会(Society 5.0)の印象やイメージ、を聞いた回答結果を図表4に示す。「生活の質が向上する」や「消費者の多様なニーズに応えるサービスが提供される」といった印象が比較的多い。2016年3月から2019年3月までの3年間の変化では、「インターネットやPCなどでは女性が下がっており、「特にない」が増加している。

全般的に見ると、2016年調査と2019年調査の双方において「生活の質が向上する」や、「消費者の多様なニーズに応えるサービスが提供される」などの割合が高い構造は維持されている。

また、超スマート社会(Society 5.0)の実現に重要なことを図表5に示す。「ロボットや人工知能(AI)などの元になる情報通信技術等に関する、利用者個人へのわかりやすい知識の普及」で女性が増加しており、一方、「情報通信技術等に対する、利用者個人の防犯・利用意識やマナーの向上」で低下している。一方、男性では「新しい情報通信技術等の不適切な使用により、権利や財産が侵害されないように法令や制度を整備すること」や「情報通信技術等やその基礎となる数理科学等の研究成果などに関して研究者が十分な説明を行うこと」で増加している。

超スマート社会(Society 5.0)の実現に関連した不安を図表6に示す。「無断で相手の個人情報をさらしたり、裏サイトなどでの誹謗中傷、なりすましなどのネットいじめ、サイバーいじめ」、「偽物のホームページに誘導されてパスワードなどを入力させられるフィッシング」、「『人』の情報通信技術等の修復度の差の拡大によって、年収や処遇などの差が拡大すること」の女性の回答が低下している。全体として女性の方が超スマート社会(Society 5.0)の実現に関連した不安を持つ者が多い傾向にある。

言葉の意味に関する認知度を図表7に示す。2016年3月調査においても取りあげた、超スマート社会(Society 5.0)に関連する14語について、各用語の一般的認知度、及び2016年3月調査からの変化を調査した。

ここでは第5期科学技術基本計画で使われている用語から超スマート社会(Society 5.0)に関連する14語を選び、各用語の一般的な認知度を調査した。結果は、高くても5割程度の認知であった。科学技術基本計画を広く国民に周知し理解を求めていくには、用語選定の工夫や用語説明が必要であると示唆される。また、超スマート社会(Society 5.0)に関連する言葉の認知度は男女差が大きく、女性の方が言葉の意味を知っている回答者が少なかった。

一方、科学技術基本計画で使われた用語が、社会に浸透していった例も見いだされた。過去3年間で認知度の変化が比較的大きかったのは、「Internet of Thing(IoT)」で男女ともに増加した。また、「Internet of Everything(IoE)」「機械学習」「強化学習」「準天頂衛星システム」で男性が有意に増加している。

とりわけIoTに関する認知度はほぼ倍増しており、この3年間で飛躍的に国民の間で周知されたものと言える。企業が具体的なサービスの紹介・広告等でIoTの言葉を使うようになり、仕事や生活の場で「IoT」の言葉を見聞きする国民が増えたことが、認知度増加の背景にあると考えられる。

図表7に対して、回答者の年代を考慮して分解した図表が図表8となる。この図表では男女別に10-20代、30-40代、50-60代それぞれ500名に対して、当該専門用語を知っているかどうかについて割り振ったものとなっている。そして図表中の矢印は2016年3月から2019年3月までの変化が1%有意性水準で有意であることを示している。この図表から言えることは、Internet of Thing(IoT)の大幅な認知度の増加は、特定の年代によるものではなく、全年代において認知度の向上が見られる。一方、他の専門用語に関しては、例えば、機械学習や強化学習に関して、男性の若い世代の増加が男性全体の増加につながっていることが分かる。加えて、特に男性の年齢順に見ると、Internet of Everything(IoE)や、Internet of Thing (IoT)、クラウドサービス、サイバー空間、サイバーセキュリティ技術、情報通信技術(ICT)、スマートメーター、センサー、ヒューマンインターフェース技術などでは男性の年齢が高いほど、認知度が高い。一方、エッジコンピューティング、機械学習、強化学習などでは、男性の年齢が低いほど、認知度が高くなる。

さらに、発展が著しい情報通信技術への評価を見るため、どの業種で「ロボットや人工知能(AI)など」が「人」の就業者より信頼できるか、質問した結果を図表9に示す。2016年調査と2019年調査を比べたときの傾向は明らかで、男性においては建設業を除く全ての業種に対して「ロボットや人工知能(AI)など」が「人」の就業者より信頼できると回答した者の割合が有意に増加している。女性に関しては「銀行・保険業、不動産業」、「公務」、「通信業、放送業、新聞・出版業、広告業・広告制作業」、「専門・技術サービス業、学術研究」、「卸売・小売業」、「飲食店、宿泊業」に対して「ロボットや人工知能(AI)など」に対する信頼度はこの3年間で上昇傾向にある。

全般的には、男性に関しては比較的信頼度が高く、情報通信技術など新たな技術到来に対する期待感を持っているように感じられる。

図表4 超スマート社会(Society 5.0)の印象やイメージ図表4 超スマート社会(Society 5.0)の印象やイメージ

図表5 超スマート社会(Society 5.0)の実現に重要なこと図表5 超スマート社会(Society 5.0)の実現に重要なこと

図表6 超スマート社会(Society 5.0)の実現に関連した不安図表6 超スマート社会(Society 5.0)の実現に関連した不安

図表7 超スマート社会(Society 5.0)に関連する用語の認知度図表7 超スマート社会(Society 5.0)に関連する用語の認知度

図表8 次の言葉の意味を知っている-Internet of Thing(IoT)図表8 次の言葉の意味を知っている-Internet of Thing(IoT)

図表9 どの業種で「ロボットや人工知能(AI)など」が「人」の就業者より信頼できるか図表9 どの業種で「ロボットや人工知能(AI)など」が「人」の就業者より信頼できるか

5.おわりに

超スマート社会(Society 5.0)にまつわる変数を見てきたが、期待や不安などを見ても一貫した方向性は明らかにはならなかった。一方、専門用語の認知度ではIoTが男女全世代で増加するというここ3年間の如実な変化を示した。今後は用語の認知度などについて仮説やモデルを用いた分析が想定される。

参考文献・資料

1) 科学技術に関する国民意識調査 - Society 5.0-[調査資料-282] :https://doi.org/10.15108/rm282