STI Hz Vol.3, No.3, Part.1:持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組(その4(最終回)総合検討)STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00088
  • 公開日: 2017.08.28
  • 著者: 予測・スキャニングユニット
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.3, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組
(その4(最終回) 総合検討)

科学技術予測センター 予測・スキャニングユニット

概 要

 科学技術予測センターでは、高齢・低炭素・地域活性化をキーワードとして、2035年の理想とする暮らしの姿及びその実現に向けた戦略を検討する予測調査を実施した。まず、4地域を対象として地域の将来社会像を検討し、次いでその実現に寄与する科学技術やシステムの検討、最後にこれらを統合した検討・分析を行った。各地域の将来社会像を統合すると、「未来型地域コミュニティ」、「快適生活」、「グローカル新産業」の3項目に集約され、その実現に寄与する科学技術・システムとして、次世代モビリティ・システム、高度バーチャル技術、伝統・ノウハウの伝承などが挙げられた。調査手法として、科学技術と将来社会像との関連付け、複雑な社会課題への対応、多様なステークホルダーの参加を指向した新たなアプローチを試みた。今後は、目指すべき将来社会像の実現に向けた科学技術の関わり・寄与及び戦略立案について、多面的に検討する必要があることから、予測活動の高度化に向けた更なる手法改良が求められる。

1. はじめに

科学技術予測センターでは、高齢・低炭素・地域活性化をキーワードとして、2035年の理想とする暮らしの姿及びその実現に向けた戦略を検討する予測調査1)を実施した。その目的は、目指すべき将来社会像の実現に向けた科学技術の関わり・寄与及び戦略を見いだすこと、併せて新たなアプローチを試みることである。

調査では、北九州市(福岡県)、上山市(山形県)、久米島町(沖縄県)、八百津町(岐阜県)の4地域(並びはワークショップ開催順)を対象として、地域の将来社会像及びその実現に寄与する科学技術やシステムの検討を行った。検討は、論点抽出(ステップ1)2)、地域の理想とする将来社会像の検討(ステップ2:地域ワークショップ3)、将来社会像実現に寄与する科学技術の検討(ステップ3:学会ワークショップ4)、将来社会像実現のための戦略の検討(ステップ4:総合ワークショップ)、取りまとめ(ステップ5)、の5段階から構成された。

第4報となる本稿では、ステップ4に当たる総合ワークショップの概要を報告するとともに、本調査開始に当たっての問題意識と試行したアプローチについて取りまとめる。

2. 総合ワークショップの概要

2-1 開催概要

総合ワークショップは、地域の視点と科学技術の視点の双方から、将来社会像の重点化とその実現に向けた戦略について総合的に検討を行うことを目的として、2017年2月、東京にて実施された。参加者は、対象地域代表者(ステップ2に参加)及び学会代表者(ステップ3に参加)、並びに産学の科学技術専門家である。また、本ワークショップは「環境未来都市」構想推進協議会平成28年度ワーキンググループの一つとして採択されたため、同協議会構成団体(省庁、自治体、関連企業等)からの任意参加も得た。

前半には、ワークショップを実施した地域及び学会の代表が検討結果を紹介し、参加者間で情報共有を図った。後半には、8グループに分かれ、目指すべき将来社会像の実現に向けた重点テーマと各ステークホルダーがなすべきことの検討を行った。最後に各グループが結果を発表し、全体討論を行った。

2-2 検討結果

グループ討議では、地域の将来社会像をあらかじめ各グループに割り振って検討を進めた。具体的には、まず、ステップ2の結果を取りまとめた「地域の将来社会像」とステップ3の結果を取りまとめた「科学技術リスト」とを関連付けた案を出発点として、他地域への展開可能性や当事者が認識していない地域の強みの発見などの観点から拡充を図った(図表1)。次いで、最も推進すべきと思われる重点テーマを将来社会像の中から選択し、その実現に寄与する科学技術・システムや社会システム等の検討を行った。各グループで選択された重点テーマの概要を図表2に示す。

総合ワークショップでの検討結果を踏まえ、重点テーマの内容から共通項を抽出し、「未来型地域コミュニティ~地域コミュニティに支えられた社会」、「快適生活~質の高い生活を享受する社会」、「グローカル新産業~特徴を生かして地域が活性化した社会」の3項目の社会像に集約した。この3項目に関連する科学技術・システムを整理した結果を図表3に示す。

今回のテーマ「高齢社会×低炭素社会」に関連する科学技術・システムとして、各テーマに共通してICTの活用と高度情報インフラ関連技術が取り上げられた。また、生活をサポートする各種ロボット、自動運転や無人のモビリティと、それを適度に制御するAI(人工知能)や最適化システム、あるいは感性のデジタル化で実現するVR(バーチャルリアリティ)などの先進技術が求められている。さらに地域ニーズとして、農産物、工芸品、有形・無形の伝統、ノウハウの各種計測・データ化・デジタル化と生産あるいは再現技術が挙げられた。また、ロボットやモビリティ、先端製品のオンサイト・オンデマンド生産・修理技術が重要とされ、特にその場で対応できるセミプロの存在や、問題解決のためにその場でプロジェクト構成できる専門家ネットワークの重要性が指摘された。なお本検討では、地域での関心が高いと考えられる生活サポートや産業関連技術が多数出された一方、学会ワークショップで多く提案された、健康・医療や環境・エネルギー関連技術については、余り取り上げられていないことも特徴である。

図表1 将来社会像と科学技術の関連付け(北九州グループの例)
[将来社会像(地域WS結果)]         [将来像と科学技術の関連付けの例]将来社会像と科学技術の関連付け(北九州グループの例)

図表2 グループから提案された重点テーマ図表2 グループから提案された重点テーマ

図表3 重点テーマの集約と関連科学技術・システム図表3 重点テーマの集約と関連科学技術・システム

3. 本調査におけるアプローチ

本調査では、「将来社会像の設定→科学技術(将来社会像実現に寄与する科学技術)の抽出→戦略(将来社会像実現のための戦略)の設定」の順で検討を進めた。以下に、本調査におけるアプローチ上の課題と試行について記す。

3-1 当センターの予測活動における課題

当センターは、5年ごとに大規模な中長期科学技術予測調査を実施するとともに、手法開拓や深堀りを目的とした特定テーマの予測調査を実施してきた。本調査開始に当たっての問題意識(課題)及び本調査における対応(試行)について整理したのが、図表4である。

最初に挙げられる課題は、科学技術と将来社会像との関連付けである。これまでの調査において、社会・経済ニーズに対する科学技術の寄与度の評価、社会目標や社会変化をブレークダウンして科学技術との親和性を高める工夫、様々な科学技術に支えられた生活場面の描写などを行ってきた。しかし、社会像と個別科学技術の関連付けには依然としてギャップが存在し、科学技術の社会インパクトの検討も十分であったとは言えない。科学技術は、社会に新しい仕組みや可能性をもたらしたり課題解決に寄与したりすることもあれば、新たな問題を生じさせることもある。科学技術と社会の両方の視点からの議論、科学技術と社会課題をつなぐための枠組みや構造化などが必要と考えられる。

第二の課題は、複雑な社会課題への対応である。社会課題解決のために学際的・分野融合的な検討が必要であることは共通認識となっており、当センターでも複数の科学技術分野に関わるテーマを設定してシナリオ作成を行ってきた。しかし、科学技術による社会課題対応は、別の社会課題に正負の副次的効果をもたらす可能性があり、また効果の評価は人々の価値観にも左右される。一つの目標達成を目指すだけでなく、総合的な視点から全体最適の着地点を模索する取組も必要と考えられる。

第三の課題は、多様なステークホルダーの参加である。これまでの調査において、ステークホルダー別の検討は行ってきたが、多様なステークホルダーが一堂に会した検討については、地域を対象とした検討を除けば未着手であった。予測活動は、「オープン、参加型、行動指向」をキーワードとして、「未来について考え、議論し、未来をつくる」活動5)である。欧州の事例に多く見られるように、中間結果や最終結果を用いて多様なステークホルダーが議論するステージを組み込む必要があると考えられる。これは、第5期科学技術基本計画9)でうたわれている「社会の多様なステークホルダーとの対話と協働」にも関わる課題である。

図表4 これまでの取組と対応の方向性図表4 これまでの取組と対応の方向性

3-2 試行内容

前節の問題意識を踏まえ、本調査で試行した具体的なアプローチを図表5及び以下に記す。

図表5 本調査の具体的アプローチ図表5 本調査の具体的アプローチ

(1)科学技術と社会像との関連付け

本調査では、前述のとおり、「将来社会像→科学技術→戦略」の順で検討を進めた。この大きな流れの中の各ステップにおいて、将来社会像から戦略までの一連の流れを重複して実施する(図表6)ことにより、科学技術と将来社会像との関係性の意識を明確に持った議論への誘導を図った。

また、科学技術と将来社会像を関連付ける枠組みとして、第5期科学技術基本計画を基にしたカテゴリを設定した。基本計画では、目指すべき国の姿とその実現に向けた4本柱9)が掲げてられている。柱の一つである「経済・社会的な課題への対応」は、社会ベースであり科学技術の検討も可能なカテゴリと考えた。具体的には、健康・暮らし、環境・エネルギー、ものづくり・地方創生、安全安心・インフラの4カテゴリを設定し、地域の将来社会像を当てはめた上で、カテゴリごとに関連する科学技術の検討を行った。

本調査での検討は、科学技術と将来社会像をカテゴリ別に分類した段階にとどまった。今後は、こうした科学技術と社会像の関連付けを出発点として、科学技術システムとしての検討や社会的な仕組みも含めた総合的な検討、また、大きな寄与が期待できる領域や複数カテゴリにわたる基盤的領域の検討などへの展開が求められる。

図表6 各ステップでの検討内容図表6 各ステップでの検討内容

(2)複雑な社会課題への対応

本調査では、個別には多くの検討がなされている高齢社会対応と低炭素社会構築を掛け合わせた議論を試みた。将来社会像のアイディア出しを行うステップ2において、イメージが湧かずグループ討議が停滞することも想定されたため、最初は制限を設けず幅広く生活シーンごとのアイディア出しを行った。その後、それらを高齢社会及び低炭素社会の視点から評価する方法をとった。具体的には、高齢社会対応から見た重要度(寄与度)と低炭素社会構築から見た重要度(寄与度)の2軸図上に提案された項目を位置づけた(図表7)。

今回、重要度(寄与度)の指数化は行わなかったことから評価に曖昧さが残り、地域間やグループ間の比較を実施しなかった。また、2軸図に位置づける作業の中で、双方の重要度が高い象限に持って行くための議論はなされたものの、画期的な発想には至らなかった。社会課題を掛け合わせた議論を誘導するには、更なる工夫が求められることが示唆された。

図表7 地域ワークショップにおける複数課題の掛け合わせ検討の手順図表7 地域ワークショップにおける複数課題の掛け合わせ検討の手順

(3)多様なステークホルダーの参加

今回、各地域の検討結果から共通項を抽出して国レベルの検討に展開することを目的に、専門家だけではなく一般市民も含めた多様なステークホルダーによる議論の場を設定した。あわせて、「地域というステークホルダー」の参加という意味合いも込めた。

地域におけるワークショップでは、当該地域の自治体に人選を依頼し、地元の大学、企業、金融機関、市民団体等からの参加を得た。さらに、自治体の関連部署から実務者の参加を得て、地域における施策検討との連係の可能性を高めた。続いて将来社会像に即した科学技術を導き出すことを目的に、学会の協力を得て実施したワークショップでは、既に地域で検討された将来社会像についても再考し、産学の科学技術専門家の視点を追加した。そして、総合ワークショップでは、それまでのワークショップに参加していない科学技術専門家や自治体関係者も交えた議論の場を設定し、多様性を高めた。各ステップの検討においては、前ステップの結果を出発点とすることで全体の統一感を保ちつつ、前ステップとは異なる参加者による新たな視点追加と結果の拡充を図った。

4. 終わりに

本調査では、高齢社会と低炭素社会の共存に向けて、地域の理想とする将来社会像を検討し、次いでその実現に向けた科学技術やシステム、及び各ステークホルダーが取り組むべき事柄の検討を行った。

文献調査からは、高齢化の更なる進行に伴ってエネルギー消費が増大する可能性が示唆された。地域の将来社会像検討では、地域コミュニティの役割、地域資源のブランド化、便利さと適度な不便さの共存、地域から世界への展開などが共通して挙げられた。高齢社会対応と低炭素社会構築の観点からは、再生可能エネルギーを高齢化の進んだ地域の活性化につなげること、居住域のコンパクト化により低炭素化を図るとともに、多世代のコミュニティを形成して共助(互助)関係をつくること、歩いて楽しいまちづくりにより低炭素化と高齢者の健康維持を図ること、場所を選ばない働き方や学びによりエネルギー消費効率化と年齢によらない活躍機会を確保すること等、複合的な検討が両立の解をもたらす可能性があることが示唆された。将来社会像実現に寄与する科学技術の検討では、ICTやAI等をはじめとする先端科学技術の発展が大きな役割を果たすことが示された。一方、具体的な推進方策の検討においては、制度設計や意識改革等、社会システム面の寄与も多く挙げられた。

手法面では、科学技術と社会像の関連付け、複雑な社会課題への対応、多様なステークホルダーの参加を指向して、新たなアプローチを試みた。今後は将来社会像の実現に向けた科学技術の関わり・寄与及び戦略立案について、急速な科学技術発展がもたらす新たな可能性、科学技術の負の影響、科学技術発展に伴って必要となる社会の仕組み、人の価値観などの社会変化など、多面的な検討が求められる。また、研究開発の推進のみならず社会への実装も含む幅広い視点から、様々なステークホルダーを交えた議論を通じて、これらの予測活動が、地域政策、エネルギー政策、高齢化政策等と連関した科学技術イノベーション政策に貢献することを目指していきたい。

謝辞

本調査実施に当たり多大な御協力を賜りました、北九州市、上山市、久米島町、八百津町、日本学術振興会水の先進理工学第183委員会、公益社団法人応用物理学会、一般社団法人日本機械学会、「環境未来都市」構想推進協議会の関係の皆様、また、ワークショップに参加くださった多くの皆様に、心より感謝申し上げます。

参考文献

1)科学技術予測センター、「地域の特徴を生かした未来社会の姿~2035年の高齢社会×低炭素社会~」、調査資料-259 (2017)

2)予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組(その1 文献調査)」、STI Horizon Vol.2 No.4 (2016) http://doi.org/10.15108/stih.00057

3)予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組(その2 地域における理想とする暮らしの姿の検討)」、STI Horizon Vol.3 No.1 (2017) http://doi.org/10.15108/stih.00070

4)予測・スキャニングユニット、「持続可能な「高齢社会×低炭素社会」の実現に向けた取組(その3 地域の未来を創造する科学技術・システムの検討)」、STI Horizon Vol.3 No.2 (2017) http://doi.org/10.15108/stih.00079

5)例えば、European Foresight platform:http://www.foresight-platform.eu/community/forlearn/what-is-foresight/

6)科学技術動向研究センター、「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査(第8回科学技術予測調査)」、NISTEP Report No.9498 (2005)

7)科学技術動向研究センター、「将来社会を支える科学技術の予測調査(第9回科学技術予測調査)」、NISTEP Report No. 140142、 145 (2010)

8)科学技術動向研究センター、「第10回科学技術予測調査」、NISTEP Report No. 164、調査資料240、242 (2015)

9)第5期科学技術基本計画 https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf