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- DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00423
- 公開日: 2025.12.22
- 著者: 西川 洋行
- 雑誌情報: STI Horizon, Vol.11, No.4
- 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
特別インタビュー
READYFOR株式会社 代表取締役CEO
米良 はるか 氏インタビュー
-伴走者として資金を届け、科学技術を支援する
社会インフラをめざして-
日本を代表するクラウドファンディング企業であるREADYFOR株式会社のCEO米良はるか氏に、クラウドファンディングに着目したきっかけから、これからREADYFORが目指すものは何かについて個人的な背景も含めてお話を伺った。社会的に意義があるもののうまく資金が回っていない分野に活きた資金を提供することを目指して事業を開始したことや、個人的な経験が活動の原点にあることなどをお話しいただいた。また、科学研究や医療技術分野への資金提供に注力された理由や、社会に対する貢献への想いや使命感についても語っていただいた。これから力を入れていきたい分野について、科学技術や医療の他、文化や教育といった非営利分野を挙げられ、そうした活動に関して行政の支援を要望されていた。最後に、READYFOR株式会社として、そして個人としての夢とビジョンを語っていただいた。

(略歴)
慶應義塾大学経済学部卒業。2011年日本初のクラウドファンディング「READYFOR」を開始。2014年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。2011年に世界経済フォーラム「グローバル・シェイパーズ」に選出。日本人として史上最年少でダボス会議に出席し、2025年には「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出される。これまでに「人生100年時代構想会議」「未来投資会議」「新しい資本主義実現会議」等の有識者構成員を務める。
(READYFOR株式会社ホームページより)
- クラウドファンディング企業としてREADYFORの設立に至った背景をお伺いします。そもそも会社を興そうとされたきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは、大学在籍時に東京大学の松尾豊先生の研究と出会ったことでした。当時、スタンフォード大学から東京大学に移籍されたばかりの松尾先生との共同研究でセマンティックウェブ技術を活用したWEBサービスの開発というテーマを与えられました。TOC(制約理論・全体最適化)向けのサービス開発やマネタイズ方法の検討を行い、サービスのコンセプトやビジネスプランをチームで作成し、実際にWEBサービスの開発を行いました。そのときのWEBサービス開発のスピード感やユーザーからのフィードバックを受けてサービスをアップデートしていく、迅速な開発サイクルに強い魅力を感じていました。当時は大学3年生で周囲は就職活動の時期でしたが、共同研究で得た経験から新しいものづくりへと関心が移っていきました。また、両親の影響もあり、もともとはマーケティングに興味があったのですが、松尾研との共同研究の経験からデジタル分野に惹かれていきました。
幼少期から大人と話すことや知らない話を聞くことが好きでした。研究者やエンジニアの方々と共に活動することで、様々な分野の人たちとのネットワークができていきました。知らないことを知り、それをどうやって多くの人に受け入れられる形にするかを考えることが好きになり、現在のプロダクトや事業づくりにもその発想が活かされています。自分としては研究自体というよりも事業を作る方に興味があります。これは松尾研で交流のあったSPYSEEというサービス開発等を通じて知り合った他の企業家や松尾先生の影響が大きいのかもしれません。松尾先生が研究成果を産業化し社会に還元することを重要視していたこともあり、エンジニアだけではなくサービスや事業化に興味を持つ人たちが集まってシナジー効果が生まれていました。
- クラウドファンディングに着目されるようになった経緯は何だったのでしょうか?
前述したSPYSEEの開発を通じて、WEB上で個人の情報やネットワークが可視化される時代の到来を感じていました。そこで、WEB上で個人がやりたいことを実現できる仕組みとしてクラウドファンディングや投げ銭のシステムのプロトタイピングを行いました。米国留学でクラウドファンディングがビジネスとして成立することを実感し、本格的に日本での事業化を決意しました。
29歳でがんが見つかり闘病生活を余儀なくされたことは会社の方針をアップデートする上で一つの転機になりました。事業の社会的意義や役割について再考する契機となり、サービスが社会にとって不可欠な存在になることが、売上げや時価総額の最大化よりも価値のあることだと考えるようになったのです。社会構造上お金が集まりにくいが社会的な意義の大きい領域に資金を提供することが必要で、そうした領域に強みを持つ企業となることを社会的使命と位置付けるようになりました。
- READYFORでは科学技術分野にもフォーカスされているとお聞きしました。
大学や研究機関で研究資金が不足しているという課題が話題となっていたこともあり、早い段階でクラウドファンディングの活用が検討されていたということがきっかけです。科学技術それ自体はビジネスとしては成立しづらく資金が集まりにくい分野なので、これこそがREADYFORのミッションであると思いました。闘病時に研究開発されていた治療法に助けられたこともあり、使命感のような気持ちもありました。寄附の仕組みで科学技術分野に資金を集めることで、社会に不可欠な分野を支援できればと考えています。今では、科学技術だけでなく、文化財や自然環境、野生動物等のソーシャルセクターへと支援領域を拡大しています。
- 資本主義社会への問題意識の現れという側面があるようにも思われます。
資本主義の進展に伴う格差の拡大や、逆に必要なところに資金が集まらないという構造への課題意識はあります。そうした課題に向き合っていく上では、一方では既存の社会の仕組みを理解し活用を図りながら、より良い方向へと進んでいければと考えています。資本主義は完全なものではないと思いますが、すばやく資金を集める仕組み自体には価値を感じています。資本主義にあらがうということではなく、社会の仕組みを活用しながら課題解決を図っていければと考えています。その意味では、科学技術やイノベーションを活用し社会の課題解決を図ると言うのも、根本的な価値観として一貫していると思っています。トマ・ピケティの「21世紀の資本」1)でも言及されているように、資本主義の集中と分散のバランスがキーになるのではないかと思っています。資本主義の枠組みは維持しつつ、その仕組みの改善を集中と分散をキーワードにして、分散型投資等様々な方向で行えないか可能性を模索しています。
- READYFORのCEOとして、心がけていることや気を付けていることを教えてください。
異なる立場や意見を持つ人の話を聞き、バランスの取れた意思決定を心がけています。一方に偏ることなく、公平に受け止め個人が選択できる状況を大切にしています。そしてその両方の意見が交わる交差点、その交差点に立つことを意識し、例えば政府の開催する会議や大企業、NPOなど多様な場での活動から得た情報を相互に活用しています。そうしたセクターを越えた横断的な議論や巻き込みが、社会課題解決やイノベーション実現のスピード向上につながると考えています。オープンサイエンスや、市民との垣根をなくすような取組にも関わっていきたいと考えています。
- 医療分野に注力されているとお聞きしましたが。
エビデンスに基づかない情報の氾濫が患者の判断を鈍らせる問題を、自分の実体験から認識したのがきっかけです。信頼できる情報提供の重要性から、研究者の正確な情報や意思に基づいた資金調達に繋げる仕組みを、クラウドファンディングを活用して構築しました。医療研究を対象としたクラウドファンディングに対応している国内プラットフォームは一部にとどまりますが、READYFORでは信頼性や情報開示の適切さを担保するために有識者委員会を設置し、外部専門家やジャーナリストによるレビュー体制を整備しています。数年かけて蓄積してきた専門家による審査や情報開示体制のノウハウが我々の強みとなっていると思います。投資判断やコスト負担は大きいですが、研究のみならず大学病院の医師や研究者の待遇改善など、必要なところに資金やサービスを提供することに意義を感じています。
- 資金調達について、現状や新たな取組について教えてください。
研究や社会課題解決の分野の資金調達は、ビジネスセクターに比べると資金提供者や伴走支援者が少ないのが現状です。特に伴走支援者が少ないために、資金の使い方や事業の立ち上げがうまくいかない事例も多く、より密接な伴走支援がより大きなポジティブインパクトにつながるのではないかと考えています。クラウドファンディングは研究分野でも多く活用されるようになっており、社会へのアウトプットや資金循環のサイクルを生み出す有効な手段として認知されるようになってきました。READYFORでは、ファンドレイジングの戦略立案から実行までを包括的に支援するサービスを提供しています。例えばクラウドファンディングで約9億円を集めた独立行政法人国立科学博物館とは業務提携を結び、クラウドファンディングに限らず、遺贈寄附や、毎月の継続的な支援を募る「マンスリーサポーター制度」など、幅広い寄附手段を導入しています。大学でも寄附を財源基盤の一つとする動きもあり、寄附基盤の整備も重要です。
- 社会の仕組みの中で、行政に対する要望はございますか。
行政は、国益や国際競争力の観点からも、やはり民間だけでは対応できない大規模な領域に資金を集中すべきではないでしょうか。資金を細分化すればトータルの間接コストが高くなるので、細分化された社会課題やシーズは民間に任せ、行政には民間が活動しやすい環境整備を期待しています。努力した人が正当に評価される仕組みを整備することも重要だと思います。また、大学に所属しなくても研究ができるようなオープンサイエンスのビジョンにもクラウドファンディングは有効だと思います。税金による資金調達では多くのペーパーワークや出口戦略のようなものが求められるので、研究者の内発的動機に基づく挑戦を支える仕組みとしてクラウドファンディングは有効だと思います。それらを含めて、行政が全てを担うのではなく、民間による自律的な基盤づくりも、中長期的なイノベーション創出推進には不可欠ではないでしょうか。
- 少し話題を変えて、READYFORの現在の戦略についてお聞かせください。
個人的な体験を基盤にしつつも、合理的なポジションを取る方向にシフトしているところです。「みんなの想いを集め、社会を良くするお金の流れをつくる」という会社のパーパスを明確に言語化しており、戦略と組織が一貫して紐づくようになっています。社会的インフラとしてなくてはならない存在となることを目指しています。資金が必要であるにもかかわらず、現在の資本主義の仕組みでは資金が流れにくい領域に資金を流す社会的インフラとなって、「社会にとってなくてはならない存在」となることを目指して事業を展開しています。それがクラウドファンディングであり、それが発展して遺言による寄附や相続した財産の寄附といった遺贈寄附事業や、超富裕層向けの寄附アドバイザリー事業などにつながっています。
また、大学や研究機関との連携を重視し、現在、約90の大学や研究機関と提携しています。社内外で勉強会を実施し、専門知識の習得やアップデートを行うとともに、支援する研究者の想いや目的を正しく理解し、研究者と社会をつなぐ「翻訳者」の役割を担うことを重視しています。支援する研究者や団体の想いを誤解、曲解することなく良き伴走支援者でありたいとの思いから、支援の現場での信頼関係構築や実体験を大切にして全国を飛び回っています。
- クラウドファンディングの各プロジェクトの評価はどのようにされているのですか。
クラウドファンディングの実施に当たっては、最初に「何をするために、幾ら使うのか」というコミットメントを決め、それを実行したかどうかを評価基準にしています。成果やインパクトは多様であり、全てをポジティブインパクトで測る必要はないと考えていますが、可能な場合はポジティブなインパクト評価を行っています。例えば、銀行の休眠預金を活用した助成金事業では、その事業内容や経済効果、行動変容などをKPI(重要業績評価指標)として設計して評価に用いています。投資額に対してどれだけポジティブインパクトが生まれたかを測る仕組みを作っています。クラウドファンディングや助成金、エクイティ投資など様々な資金提供の方法があり、事業の内容や実施段階に応じて使い分ける必要があります。日本では非営利領域へのそうした資金の出し方はまだ十分には整備されていませんが、多様な資金が既に存在していることから、適切な資金の選択や手段を選べるエコシステムの構築が望まれます。それも含めて、伴走支援者の判断や資金の活用の仕方を「見える化」していくことが今後の課題だろうと考えています。
- 今後、取り組むべき課題があれば教えてください。
まず、日本のスタートアップや非営利領域については、資金調達や支援体制の整備、役割分担がまだ十分に確立していません。行政が関与する非営利領域では、多岐にわたる関係者や機関、評価指標などが混在し、事業者、実施者へのバトンタッチの複雑性が高いです。その点については、新しいツールやサービスが登場しているので、行政による補助金やクラウドファンディングとの連携が進んでいる状況にあります。また、最近ではウェルビーイングの向上を評価指標にする動きが増えていますが、最終的には経済効果で測ることが望ましいとの意見もあり、多様なアイデアが許容され、ウェルビーイングで言うところの心理的安全性のある環境が、創発的なイノベーションや経済的インパクトの創出につながると考えています。行政は成果が見込める事業を重視する傾向があるように感じていますが、多様なアイデアや人材が許容され、社会全体としての多様性が確保されて様々なチャレンジができる土壌づくりが重要だと考えています。そして、情報の透明性、信頼性の確保も重要です。READYFORでも、クラウドファンディングで支援する団体の状況や資金の活用状況を把握し、寄附者が安心して支援できる環境を整えていますが、そうした環境の整備がより重要になってくるでしょう。より大きな資金が動く研究支援、例えば希少疾患の治療法に係る研究など、行政が手を出しにくい領域に資金を流すことが重要なのですが、より多くの寄附者に安心して支援してもらえるためにも、こうした環境整備が求められるのではないでしょうか。また、クラウドファンディングなどを通じた様々な経験を積み重ねることで、自分たちが寄附先を見極める目利きの能力や、彼らが行おうとしている事業のストーリーを把握する能力の向上も図っていきたいと考えています。
- インタビューを終えて。
お話を伺う中で、日の当たらない研究や研究資金の不足に悩む研究者を支援することの社会的意義に思い至り、勇気を持って自ら行動を起こした結果がREADYFOR株式会社の設立につながったのだろうと思いました。学術研究をはじめとして、現在の社会・経済の仕組みではうまく資金が行き届いていない分野、取組等に資金を届ける手法としてクラウドファンディングを選択し、社会のインフラとして定着させることはとても意義深いことだと思います。
(キーワード:クラウドファンディング,非営利領域の資金支援,社会貢献のための資金供給,科学・医療領域への支援、インタビュー日:2025年7月28日、READYFOR株式会社 本社)
※本記事は、インタビュー対象者個人の見解を幅広い観点からまとめたものであり、インタビュー対象者の所属組織やNISTEPの公式見解ではない点も含まれます。
参考文献
1) トマ・ピケティ.21世紀の資本.山形浩生,守岡桜,森本正史訳.みすず書房,2014
* 所属はインタビュー当時

