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- DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00425
- 公開日: 2026.02.20
- 著者: 藤田 健一、松本 泰彦
- 雑誌情報: STI Horizon, Vol.12, No.1
- 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
レポート
地域イノベーションの現状と課題
-新潟・富山・石川・福井地域でのヒアリング調査から-
令和6年度の九州沖縄地域に引き続き、大学とステークホルダーの産学連携などの現況を調査し、地域イノベーションを達成するための課題や成功条件等を明らかにすることを目的に、新潟・富山・石川・福井の4県の大学、自治体、公設試験研究機関(公設試)、財団、企業、金融機関の中から計29機関を抽出し、ヒアリング調査を実施した。
各県では、地域特性を生かした分野で連携が進む一方、コーディネーターやURA(リサーチ・アドミニストレーター)の不足が共通課題とされ、適任人材の確保・権限強化・処遇改善が必要と指摘された。また、国プロ(政府研究開発プロジェクト)では、申請や終了後の自走化に必要な人材・資金・ノウハウの不足が指摘され、国による支援体制の整備が求められる。地方大学には、地域産業振興、人材供給、リスキリングへの貢献が期待され、大学発ベンチャーやスタートアップは地方創生の起爆剤とされるが、地方では経営人材と資金の不足が課題である。
キーワード:産学官連携,地域イノベーション,コーディネーター・URA,大学発ベンチャー, スタートアップ
1. はじめに
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)第2調査研究グループでは、令和6年度から、各都道府県において地域イノベーションの実現に当たり主要な組織・機関であると考えられる大学、自治体、公設試験研究機関(公設試)、財団、企業、金融機関を訪問して、産学連携等の現況をヒアリング調査し、地域イノベーションを達成するための課題や成功条件等を明らかにするための調査研究に取り組んでいる。本調査研究では、47都道府県全てを複数年度にわたり調査し、分析に必要なデータを十分に取得することを目指している。
今号では、令和7年度において既に実施した、新潟・富山・石川・福井地域での調査結果をお知らせする。また、次号では、中国・四国地域での調査結果をお知らせする予定である。
なお、令和6年度に実施した九州沖縄地域での調査結果については、STI Horizon 2025秋号 2025.Vol.11 No.31)、STI Horizon 2025冬号 2025.Vol.11 No.42)をご参照されたい。また、九州沖縄地域での調査結果の全体について、NISTEP調査資料として近日中に公開予定である。
2. 訪問機関
以下の29機関を訪問し、ヒアリング調査を行った。
新潟県(10機関)
- ●新潟大学 ●長岡技術科学大学
- ●新潟県庁 ●新潟市役所 ●長岡市役所
- ●新潟県工業技術総合研究所
- ●にいがた産業創造機構 ●亀田製菓株式会社
- ●株式会社パンタレイ ●株式会社大光銀行
富山県(6機関)
- ●富山大学 ●富山県庁
- ●富山県産業技術研究開発センター
- ●富山県新世紀産業機構 ●富山県機電工業会
- ●株式会社北陸銀行
石川県(7機関)
- ●金沢大学 ●北陸先端科学技術大学院大学
- ●石川県庁 ●石川県工業試験場
- ●石川県産業創出支援機構
- ●石川県鉄工機電協会
- ●株式会社QRインベストメント
福井県(6機関)
- ●福井大学 ●福井県庁
- ●福井県工業技術センター
- ●ふくい産業支援センター
- ●セーレン株式会社 ●株式会社福井銀行


3. 新潟・富山・石川・福井地域の特徴
各県の特徴を生かした分野に重点を置いて地域イノベーションに取り組むところが多く、また、県内において関係機関による協議体などを設置して産学連携に取り組んでいるところや、協議体などは特に設置せずに、個人的なネットワークにより連携しているところがあった。また、各県内の連携のみならず、隣接県等との連携や他地域との連携もなされている。一方、九州沖縄地域と同様に人材不足が深刻であるとされ、いずれの県においても、地域イノベーション促進におけるコーディネーター・URA(リサーチ・アドミニストレーター)不足が課題として挙げられた。
新潟県では、新潟大学や長岡技術科学大学などを核とする産学連携に取り組んでおり、関係機関による協議体やコンソーシアム、ネットワークが形成されている。地域イノベーションの分野としては、食・ものづくり・DX(デジタル・トランスフォーメーション)・防災・エネルギーなど幅広い。また、多くの機関において、「大学外・大学内双方の橋渡し人材の重要性」が認識されている一方、「適任者の確保が困難」、「専門性や待遇についての課題」などが挙げられ、地域イノベーション促進におけるコーディネーター・URA不足が課題となっている。
富山県では、「アルミ」、「医薬・バイオ」、「DX」を核とした産学官連携によって地域イノベーションが推進されており、関係機関によるコンソーシアムや連絡会議が形成されている。大学との連携や人材育成においては、富山大学や富山県立大学が中心となり、「共同研究」、「特別講義」、「DXセミナー」、「リスキリング」など教育・研究両面で取り組まれている。一方、コーディネーター・URAの不足が課題となっている。
石川県では、地域イノベーションにおいて、「ものづくり(機械・繊維)産業を基盤とした新産業創出」に重点が置かれており、産業のDX推進が重要施策とされているとともに、研究シーズとものづくり企業とのマッチング機会の提供や、金融機関によるリスクマネー供給などを行い、産学官金連携の推進、大学発ベンチャーやスタートアップの育成に取り組んでいる。産学官金連携担当者間の定型的なコミュニケーション体制は特になく、それぞれの機関に所属する担当者の個人的なネットワークで相互につながっており、機能している。一方、県内人材だけではイノベーションの発展に限界があるという認識のもと、県外(都市部)の大学や企業、専門家とつながりのあるコーディネーターの必要性が指摘された。
福井県では、「ふくいオープンイノベーション推進機構(FOIP)注2」を核とした大学・自治体・公設試・財団・企業・金融機関による産学官金の連携組織において、多くの活動が実施されている。当該機構は、公設試・財団が事務局の役割を果たし、重点分野としては、宇宙、炭素繊維、ヘルスケア、AI(人工知能)・IoT(Internet of Things)・ロボット、脱炭素関連技術である。一方、大学と企業をマッチングさせる「目利き」の人材や、継続的かつ優秀なコーディネーターの重要性が強調された。
4. 産学官連携をより充実させるための課題
今後の更なる産学官連携の発展のために必要な政策の示唆を得るため、産学官連携をより充実させるための課題について尋ねたところ、大学とステークホルダーをつなぐコーディネーターやURAの重要性、大学のシーズと地元企業等のニーズとのマッチングに関する重要性などに関する意見が多かった。また、一部に中小企業が大学を「敷居が高い」と感じる傾向があるとの意見があった。以下に意見の一部を示す。
【コーディネーターやURAに関すること】
- 〇コーディネーター・URA人材は、大学のシーズと企業・自治体ニーズをつなぐキーパーソンであり、有機的にネットワークを構築するためには欠かせない人材である。
- 〇コーディネーターに求められる資質について、技術や産業に関する深い知識のみが重視されがちだが、それ以上に人としての魅力や信頼感、柔軟なコミュニケーション能力が欠かせない要素であると感じている。
- 〇欧米と比較すると、我が国ではURAの裁量で決定できる範囲が狭く、例えば、プロジェクトの内容や予算・人員配置の変更など、現場のURAに十分な裁量がない傾向があり、これがURAの活動に影響を及ぼしている可能性もあるのではないか。
- 〇大学外部のコーディネーターや大学内部のURAなど、大学と企業の接続機能は一般的には有効と考えるが、実務上の課題は「つなぐ人材」の有無というよりも、研究成果を事業水準に落とし込める実装型開発人材が圧倒的に不足していることである。
- 〇限られた大学内の人材を適材適所に配置し、組織全体の最適化を図っておりますが、高度専門人材については各大学間での獲得競争が顕著となっており、優れた人材を安定的に確保するためには、待遇面をはじめとする魅力的な条件を整備する必要があると認識しています。
- 〇URA、コーディネーターともに、人数は十分ではない。大学の研究力向上のためのURA、企業等との共同研究推進に向けたコーディネーターの量的拡充を進めたい。雇用の原資となる補助金等の獲得を進める必要があるが、各大学間での人材の奪い合い、待遇面(有期雇用)等が課題と考えている。
- 〇県外(都市部)の大学や企業、専門家とつながりのあるコーディネーター人材が身近に欲しい。県内人材だけではイノベーションの発展に限界がある。特に大学との連携がうまくいくには、大学内における研究内容をしっかりと把握し企業の事業と結びつけることができるような専門家(URA)や、先生が研究に専念できるようサポートしてくれるスタッフの存在が重要。
- 〇連携に対する企業側の潜在的なニーズは一定程度あるものの、「企業側で課題が十分整理しきれていない」、「研究シーズとのミスマッチやスケジュール感の相違」といった課題があると認識しています。これらの課題を整理し、連携適否の判断、適切な研究シーズの選定など、目利き・コーディネート機能を担う人材は重要であると考えます。
【大学のシーズと地元企業等のニーズとのマッチングに関すること】
- 〇大学の保有するシーズ、連携企業の持つ技術の把握、市場ニーズを理解することが次世代技術を生かした製品開発に必要かと思いますので、上記を理解している人材やネットワーク(団体)が必要かと思います。交流会などの人的交流によって大学の持つシーズを正確に把握することが期待した成果を得られる要因になるかと思います。
- 〇地域を取り巻く課題がますます複合的になっている面や、大学のシーズが非常に広範囲にわたっている面を考えれば、企業のニーズとのマッチングを推進する場を積極的に整える必要がある。
- 〇大学の研究シーズと企業のニーズをマッチングさせることができる目利きの人材がいらっしゃると連携が広がると考えます。人的交流により、研究開発の広がりが期待され、更にはコンソーシアムを通じて交流した企業との事業活動にもつながることが期待できる。
【大学に対する期待・意識に関すること】
- 〇産学官連携において、期待した結果が得られるかどうかは、「そのテーマに携わる先生がいらっしゃるかどうか」に加え、「当該の先生が産学連携に意欲があるかどうか」が最重要であると考えます。中小企業の課題に対し、どこまで親身に真剣に向き合っていただけるか、そこが成果に至る最大の要因でしょう。
- 〇大学の研究者は大勢いるため連携する研究者をいかに見つけるかが難しく、また、中堅・中小企業は「敷居」が高く感じておられ気軽に大学にコンタクトできない状況である。一方、大手企業は、卒業生とかいろいろなつながりが日頃からあり連携しやすい。
- 〇特に中小企業においては、大学は敷居が高く、相談しにくいイメージがある。大学も積極的に情報提供活動に努めているにも関わらず、その存在や相談ルートが十分に周知されていないという現状がある。
5. 国プロに関する課題
今後の国プロ(政府研究開発プロジェクト)へ更なる申請促進に向け、現状における課題について尋ねたところ、申請に当たっての困難性や、終了後の自走化についての困難性に関する意見が多かった。以下に意見の一部を示す。
【国プロへの申請に当たっての困難性に関すること】
- 〇国プロへの申請では、プロジェクトに参画する産学官の人材集めと、事業化までを見据えた際、その道筋を立て、実行できるプロデュース能力を持った中心人物の発掘に課題を感じています。
- 〇今後も国プロへの申請を検討しているが、課題は自治体との具体的な連携体制の構築と事業を推進する人員の不足である。
- 〇設備の更新のための予算が付きづらいことから、新しい研究に取り組みづらい。そういう設備を導入できる事業があると有り難い。
- 〇特に大型の競争的資金は、求められる自己負担あるいは地域負担が大きくなってきており、もともと都市に比べてリソースが少ない地方大学にとって単独では成果が出しにくい状況になっている。今後は、競争的資金ではなく、大学と自治体、産業界で、目的を明確にした協議体を作り、そこに国が予算を出すような仕組みを検討してもらえると有り難い。
【国プロ終了後の自走化に関すること】
- 〇国プロは、一定の期間で終了し、プロジェクト終了後もその成果の社会実装に向けた活動が求められているが、補助事業が終了することで研究資金確保が困難になり、プロジェクトが中断するリスクがある。また、国プロの応募から実施、報告までには、専門的な知識とノウハウを持つ人材が不可欠であるが、多くの企業では、そうした業務を担える人材が限られており、既存の業務と兼務することによる負担増が課題である。
- 〇共創プロジェクトに取り組むためのスタートアップ費用の確保に向けて、今後も国プロの申請を考えているが、一方で、終了後の各取組における自走化(共同出資・コンソーシアム型の事業体への移行など)が課題と考えています。
6. 地方大学に期待すること
大学は、教育・研究・社会貢献など様々な役割を担っているが、地方大学に期待することは何かを尋ねたところ、地域産業の振興、人材供給、リスキリングに関する期待が多く挙げられた。また、地域の技術力向上についての期待も多かった。以下に意見の一部を示す。
【地域産業の振興、人材供給、リスキリングに関すること】
- 〇地方大学が持つ高度な知見を基礎とした研究開発を地元企業と連携して行うことで、地域産業の振興と地元企業への人材供給の両面を担うことを期待しています。
- 〇県内企業が抱える技術課題に対して、役割分担を明確にしながら、共同で解決するパートナーであってほしい。本県では産業のDX推進が重要な施策となっており、企業内のデジタル人材育成のためのリスキリングに取り組んでもらいたい。また、県内企業への優秀な若手人材の供給を期待したい。
- 〇地域産業との密な連携(地域に根差した研究活動)や人材流出を防ぐ機能(充実した地元でのインターンシップ機会の提供やリカレント教育の提供)などを期待している。
- 〇教育機関として優秀な人材供給や、大変革時代における社会人のリスキリングはもちろん、世界的なイノベーションの創造から地域企業に役立つソリューションまで、地域の実情や各大学の特色を生かした研究開発において、地域社会・経済のハブとしての役割を期待したい。
- 〇地方大学には、地域に根差した産業課題の解決に貢献する人材育成や研究開発を推進していただくことを期待している。特に、ものづくり分野においては、地域企業が求める技術力を備えた人材を、安定的に育成・供給することが重要であり、人口減少時代を迎え、中高年層のリスキリングのニーズも高まっていることから、大学が地域に対して学び直しの機会を提供することで、地域全体の産業振興にもつながる。
【地域の技術力の向上に関すること】
- 〇地域企業との共同研究の推進や、国のプロジェクトへの協力を通じて、地域産業の技術力向上に貢献していただきたい。
- 〇地方大学に最も期待していることは、研究成果を社会実装まで直接担うことではなく、技術が実証フェーズへ進むための「前工程の成熟」を支援する役割である。最終的な製品化・市場投入は企業側の責任領域であると考えており、その手前に存在する実装可能性の確保を大学と協働することで、新産業の創出に向けた確実な技術基盤を整えることを期待している。
- 〇身近に利用できる機器・設備の活用は是非継続させていただきたい。
7. 大学発ベンチャー・スタートアップ関連
大学発ベンチャー・スタートアップは、研究成果の事業化に加え、地域課題の解決や地方創生、人材育成の手段として重要視されている。各県においては、資金支援、技術相談、教育・マッチング事業、海外研修など多様な支援策を展開している。特に、富山・石川・福井では、大学・高等専門学校(高専)発スタートアップ創出プラットフォーム「Tech Startup HOKURIKU(TeSH)注3」により連携して支援策を講じている。一方、課題としては、地方での経営人材やリスク資金の不足、社会実装の難しさ、大学内評価制度の制約が挙げられる。以下に意見の一部を示す。
【大学発ベンチャー・スタートアップの意義】
- 〇大学発ベンチャーやスタートアップは、もはや単なる研究成果の事業化にとどまらず、地域貢献・地方創生の手段、地域に根差した課題解決型ビジネスの創出、若者の地元定着、外部資本や人材の呼び込みなど、地方創生の重要な起爆剤になるものと考えている。
- 〇大学発ベンチャーは、日本社会にとって、セーフティネットを兼ね備えた挑戦の場として機能させられると考えている。通常、起業して失敗した場合、日本社会においてはマイナスの評価をされがちだが、大学でインキュベートして失敗した場合、日本社会はそれを前向きに捉える傾向があるためである。
- 〇アントレプレナー教育においては、経営マインドや課題発見・解決能力の醸成、社会との接点という観点で、大学発ベンチャーは学生等にとって「実践の場」として重要になる。
【大学発ベンチャー・スタートアップ支援に関すること】
- 〇大学発スタートアップ支援事業として、民間企業の知見を活用し、大学の研究室や起業家を訪問し、研究シーズの発掘に当たるとともに、具体の製品化につなげるため、ものづくり企業等とのマッチング機会の提供を図るプレゼン会の開催や、事業化に向けた助言などの育成支援を実施しています。
- 〇北陸三県(富山・石川・福井)の大学・高専発スタートアップ創出プラットフォーム「Tech Startup HOKURIKU(TeSH)」の構成団体として、大学発ベンチャーの創出・育成を支援している。
- 〇新たな社会実装に向けた活動と捉えており、大学発ベンチャーを含めたオープンイノベーションを支援していきたいと思います。地方においては、経営者人材の確保が難しく、時間はかかるもののアントレプレナーシップ教育が重要と思いますが、アントレプレナーシップ教育ができる教員も不足している状況かと思います。
- 〇県内中小企業と同様、技術相談、測定・分析、共同研究等、当機関が実施する業務による技術的支援を行っている。
- 〇大学ベンチャー関連ファンドへの出資や創設協力、伴走支援を行っています。
- 〇初期段階のスタートアップが直面する資金不足を解消するため、補助金制度を提供するとともに、経営・事業化アドバイスとして、事業計画の策定、知的財産戦略、マーケティング、財務など、ベンチャー経営に不可欠な専門知識を持つ外部の有識者(税理士、ベンチャー支援者など)による個別相談の機会を提供しています。
- 〇毎年、県内学生などを対象としたビジネスプラン発表会を開催するとともに、大学生と先輩の起業家との交流を促進するため、県内の大学生がポートランドやシリコンバレーなどで起業・ビジネスを学ぶ研修への派遣などを実施している。
- 〇スタートアップ・新事業創出の助成金事業において、大学発スタートアップ企業に対して加点措置を行うなど、大学発ベンチャーに対し、補助金申請において優遇措置を設けている。また、ベンチャー塾やベンチャー創出セミナー、ベンチャーピッチの開催など、ベンチャー支援を行っている。
- 〇ベンチャーが取り組むプロジェクトに対して、技術評価や課題解決に向けた助言、試験・分析など技術的な支援を行っている。
【大学発ベンチャー・スタートアップについての課題に関すること】
- 〇地方大学発スタートアップの量・質両面の充実には、地方における民間連携によるリスク資金、経営者人材の供給のための仕組みが必要である。また、大学の研究成果のうち、そのまま社会実装できるものは少なく、社会実装化、起業化に向けた磨き込みが必要である。
- 〇特に地方において、大学発ベンチャー支援は、経営人材の不足、技術はあるがビジネスとしての展開が困難、資金調達が困難であるという課題がある。また、支援人材の確保や大学内の教員評価上の課題もある。
8. まとめ:今後に向けての示唆
新潟・富山・石川・福井の全ての県において、コーディネーター・URAの不足が指摘されている。これらの人材は大学の研究シーズと企業・自治体のニーズをつなぐキーパーソンであり、柔軟なコミュニケーション力・信頼性が求められるが、現状では権限・待遇・必要な専門性などが制約となっているとの意見があった。このため、各地域におけるコーディネーター・URAの育成・配置に対する国の人的・財政的支援や、大学と企業・自治体のマッチング機能を担う専門人材の確保、研修プログラムの整備、これらの人材における権限と処遇の強化などが必要であると考えられる。また、その際、産学官連携の推進組織において公設試や財団が運営の中心となっている地域もあることから、大学以外の機関もコーディネーター・URAの配置の対象とすることも一案である。
国プロに関しては、多くの県から、「申請に必要な人材・ノウハウ不足」、「設備更新の困難」、「終了後の資金確保が難しい」などの意見が出ており、国による支援として、地方大学・中小企業向けの申請支援体制(専門人材・事務サポート)の整備、研究インフラ整備を支援するための設備更新支援枠の設置、終了後の自走化支援として、成果事業の継続助成、コンソーシアム事業体化の支援などが考えられる。
また、各県から、地方大学に対し、「地域産業の振興」、「人材供給」、「リスキリング」への期待が高いとの意見が多数あったことから、社会人向けリスキリング講座・再教育支援への補助の拡充、インターンシップや地元就職支援の充実強化が求められる。
更に、大学発ベンチャーやスタートアップは地方創生・若者定着の起爆剤となりうるが、地方では、経営人材やリスク資金の不足などが課題とされており、経営人材・アントレプレナー教育の支援拡充、初期資金・リスクマネー供給制度の拡充強化なども重要であると考えられる。
注1 JAREC:公益財団法人全日本科学技術協会(令和7年度地域イノベーションヒアリング調査の委託先)
https://www.jarec.or.jp/ (令和7年12月現在)
注2 ふくいオープンイノベーション推進機構(FOIP):福井県内の企業や大学・高等専門学校(高専)、公設試等の研究機関、金融機関が連携する組織 https://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/foip/foip.html (令和7年12月現在)
注3 Tech Startup HOKURIKU (TeSH):北陸先端科学技術大学院大学と金沢大学を主幹機関とし、富山県・石川県・福井県の11大学、3高専を共同機関とする地域の大学・高専発スタートアップ創出プラットフォーム
https://tech-startup-hokuriku.jp/about/index.html (令和7年12月現在)
参考文献・資料
1) STI Horizon 2025秋号 2025.Vol.11 No.3 https://doi.org/10.15108/stih.00406
2) STI Horizon 2025冬号 2025.Vol.11 No.4 https://doi.org/10.15108/stih.00416

