STI Horizon

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  • DOI: 10.15108/stih.00003
  • 公開日: 2015.12.01
  • 著者: 斎藤尚樹, 小笠原敦
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.1, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

特別インタビュー
大阪大学 西尾 章治郎 総長 インタビュー

聞き手:総務研究官 斎藤 尚樹、
科学技術動向研究センター長 小笠原 敦

大阪大学は、論文や特許の引用情報等を基にトムソン・ロイター社が作成した「世界で最もイノベーティブな大学100校」ランキング(2015年9月公表)において世界18位にランクインした。京都大学(22位)や東京大学(24位)を抑えて日本の大学の中ではトップの位置を占める。

8月26日に大阪大学第18代総長に就任した西尾章治郎総長は、「大阪大学が有する多様な知が連携(協奏)しながら、新たな知を構成員とともに創出(共創)し続け社会や世界に還元すること、すなわち「多様な知の協奏と共創」によって、大阪大学の力強い持続可能な礎を築く」をスローガンに掲げる。

西尾総長に、大学あるいは研究と社会とのつながりを中心とした大阪大学における新しい取組について、さらにSTI Horizon誌に期待することについて、お話を伺った。


西尾 章治郎 大阪大学 総長
西尾 章治郎 大阪大学 総長

Q:大阪大学総長のお立場から、貴学におけるアカデミアと社会とをつなぐ取組の内容や狙いについてお聞かせください。

四つの「オープン」

大学は、今まで学術・研究の拠点として、どちらかというと社会とのつながりの面からは閉じている、あるいは、社会から離れているという見方がありました。そこで、私は開かれた大学、開かれた総長室を目指しています。社会との連携をとっていくことを重視したいと考えています。そのため、アカデミアと社会とのつながりについて、私が標語的に打ち出している言葉に「四つのオープン」があります。オープンエデュケーション、オープンサイエンス、オープンイノベーション、そしてそれらを踏まえたオープンコミュニティです。

オープンエデュケーションについては、教育コンテンツをオープンにすることや社会人が学びやすい環境を作ることを考えています。オープンサイエンスは、サイエンスを社会に開かれた形で行うこと、さらにデータや学術情報のオープン化があります。オープンイノベーションについては人文学・社会科学との連携を考えています。最先端のサイエンスとテクノロジーだけではイノベーションは起こせません。社会実装されていく上で、複雑な現代社会に変革を促そうとしたら、最初から人文学・社会科学の研究者と協力していく必要があります。

最後のオープンコミュニティは、最も肝要な概念です。1999年、国際連合教育科学文化機構(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)により世界科学会議がブダペストで開催されました。その会議において21世紀の科学の在り方に関してコンセンサスが得られている、社会の負託を受けたサイエンス、あるいは、社会への貢献を考えた研究を志向して、オープンコミュニティ、つまりアカデミアと社会をオープンにつないでいくことを考えたいと思っています。

「産学連携」と「社学連携」

産学連携については、より重視したいことがあります。従来の産学連携はどちらかというと研究が主体でした。今後大学予算が厳しくなる中で、人材育成も大学だけでなく産業界と連携するという考え方が重要であると思っています。「協創的教育コンソーシアム」と言っておりますが、博士課程教育リーディングプログラムと同じ考え方とも言えます。大学では最先端の研究に携わる教員は大勢いますが、古典的で重要な分野に深く関わる教員が少なくなってきています。例えば、白物家電に関わる開発をしようとしたときに必須である電磁気・回路理論を分かりやすく教えられる教員が大学では少なくなってきています。ところが、産業界には教えられる方がいます。そのような場合には、産業界から講師を派遣していただくことで、関連分野の人材育成プログラムを強化できます。このように、社会・産業界と一緒になって人材育成の仕組みを作ることを考えていきたいと思っています。

市民へのアプローチでは、本学では「社学連携」という言葉をよく使います。特に、社会とのインタフェースを考えたとき、我が国で先駆け的に設置したコミュニケーションデザイン・センターが大きな役割を担ってきました。このセンターが中心となって展開してきた、大学における最先端の知識や成果を多くの市民に広く分かりやすく説明することなどの社学連携活動を更に発展、強化することに取り組んでいきます。こうした取組を通じて、開かれた大学が実現すると考えています。

オール関西の連携

また、教育に関しては、オール関西の連携を作らなければいけないと考えています。京都大学、神戸大学と大阪大学が共同のシンポジウムを開催する枠組みなどを既に構築していますが、関西地区の更に多くの大学との連携関係を強化することがますます重要になってきています。例えば、そのような連携のもとで、一つの大学では実現できないような充実したコースワークを設けることができ、大学の恒久的目標である高度な人材育成ができると考えます。

そのような広域連携は、一部の分野では既に始まっています。例えば、ソフトウェア工学では関西地域の大学で活躍されている多くの教員の方々が強い連携を図り、該当分野での充実した人材育成プログラムを大阪の「うめきた」、あるいは本学の中之島センターなどで展開されています。このようなオール関西の連携は、留学生から見ても大変魅力的に映ると考えています。

Q:科学技術・イノベーション政策、また、これを支えるエビデンス(データ、情報基盤)の整備や提供の在り方について、学術コミュニティのキーパーソンのお一人として御意見・御提言をお聞かせください。

「データビリティ」の実践

第5期科学技術基本計画の検討の中でオープンサイエンス、データ科学が重要事項として取り上げられていますが、新たな融合領域を開拓する上でもデータセントリックな取組は非常に重要です。私は、溶けて混然とするようなイメージのある「融合」と言うよりも「クロス」と呼びたいと思いますが…。

私が大阪大学で率先して実践したいことは、「データビリティ(datability)」という概念です。これは、dataとabilityを合わせた言葉で、ドイツにおいて初めて使われたものです。データセントリックなアプローチのもとで、あらゆる分野における新たな発展の可能性を探るものです。

このデータビリティの概念のもと、本学で行われる様々な研究、さらには教育の過程で創出される膨大なデータをサイバーメディアセンターのクラウドサーバに集約し、情報科学分野の研究者の最大限のサポートを得て、これらの多様なデータをクロスさせ、新たな「知」の創出を強力に推進していきたいと考えています。例えば、本学の強みである免疫学分野と学内の他の生命科学分野のデータをクロスすることにより新しい知見が得られると確信しています。

アカデミッククラウドに向けた試み

第5期科学技術基本計画の検討の中でうたわれていることのプロトタイプ、あるいは先駆け的な拠点を大阪大学で実践したいと思っています。

先ほど申し上げた「オープンX」の概念をベースとして、本学でオープンサイエンスを実践していく拠点形成を進め、全国に向けて情報発信をしていきたいと考えています。例えば、現在、七つの大学に置かれているスーパーコンピュータのセンターは、計算パワーという点で大きな意義を持ち、その観点から全国の大学にサービスを行ってきた歴史があります。今後は、そのミッションに加えて、データ科学を進める拠点としても大きな役割を持つようになると思います。

大阪大学の新たな取組がうまくいけば、その取組を他の大学にも拡大し、日本全体のアカデミッククラウドが有機的に構築されていくのではないかと思います。第5期科学技術基本計画の検討の中で言われている、超サイバー社会、超スマート社会を学術の分野にフォーカスして構築していくとしますと、本学のこのような試みが非常に重要になるのではないかと考えます。来年度からは、そのための概算予算を全学的な動きとして要求していきたいと思っています。

データ工学を専門とする研究者が総長を務める大学として、こうしたことを進めていくことは、大きなメッセージになるのではと思っています。

Q:「オープンX」のような取組はどのように評価されるのでしょうか。強みの捉え方も、従来の論文引用や大学ランキングなどとは異なるものになるのでしょうか。

大切な御質問だと思います。例えば、オープンコミュニティのような社会との連携、社会への貢献を非常に重視するような取組については、従来の論文引用や大学ランキングなどとは異なる評価指標が必要と考えます。それは、人文学・社会科学分野における評価指標として求められるものとも深く関係するようにも思います。ただし、その評価手法を具体的に現時点でお答えするのは難しいことです。今までに申し上げたようなことに取り組んでいく中で、新しい尺度も考えていくことになると思います。

Q:貴学での取組を進めるに当たって、新雑誌STI Horizon誌に期待することなどありましたら、お聞かせください。

不易流行が基本

若い層の方々がワクワクする、ときめきを感じられる雑誌にしてほしいと思います。例えば、私が副会長を務めた情報処理学の会誌においても表紙デザイン、巻頭言をはじめ大幅な改訂が行われ、若手の会員を中心に大変好評を得ております。

ただし、単に奇をてらう、流行を追うといった表面的で浅い変化はいただけません。新しく変えていくことは大切ですが、元々科学技術動向誌が持っていた良さを生かす工夫をしていただき、不易流行、つまり、変えてはいけないところをきちんと押さえた上で、新しい企画を入れていただきたいと思います。


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