5.2主要国の産業貿易の構造

ポイント

  • 主要国の貿易額(輸出額)における製品とサービスのバランスに注目すると、各国最新年において、韓国(11.7%)、ドイツ(18.8%)、日本(19.8%)はサービスの割合が小さく、英国(46.0%)、米国(33.8%)、フランス(29.6%)では、サービスの割合が大きい。
  • 主要国の産業貿易の構造を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業が最も多くを占める国が多い。各国最新年においてミディアムハイテクノロジー産業の割合が大きな国は日本(56.8%)、次いでドイツ(49.2%)である。中国では、ハイテクノロジー産業が最も多くを占めている(30.8%)。中国は、ミディアムハイテクノロジー産業の割合も27.8%と高く、それぞれの産業が一定の重みを持っている。
  • ハイテクノロジー産業貿易収支比を見ると、日本は長期的に貿易収支を減少させている。2011年以降1を下回り、入超となった。2018年の日本の収支比は0.76であり、元々低かった英国、米国と同程度となっている。韓国は主要国中、最も収支比が高く、2018年で1.88、これにドイツが1.23、中国が1.19と続いている。
  • 2019年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.59であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。米国、ドイツ、フランス、英国の貿易収支比が大きく変化しない中、貿易収支比を増加させているのは韓国、中国である。ただし中国は2015年頃から微減に推移している。韓国は2014年以降漸減していたが、近年では微増し、2019年では1.76を示している。
(1)主要国の貿易

 貿易の主たるものは製品であるが、目に見える製品の輸出入以外にも、サービスの貿易が様々な形態によって行われており、各国の国内においてもサービス分野の比重はますます高まっていると考えられる。ここでは主要国の貿易について、製品とサービスに分類した輸出入額の推移を見る(図表5-2-1)。
 輸出入額全体の推移を見ると、ほとんどの国で、2008年まで増加傾向にあり、2009年に一旦落ち込んだ後、増加に転じている。また、程度の差はあるが、製品の方がサービスより貿易額が多い。
 各国別に状況を見ると、日本の輸出額については、2009年以降、製品、サービスともに年によるゆらぎはあるが、増加傾向にある。サービスの輸出額については、輸出額全体の19.8%(2018年)を占めており、その割合は長期的に見ると、増加傾向にある。
 米国の輸出額については、長期的に見ると2009年以降、製品、サービスともに増加している。2014年から2016年にかけて製品の輸出額は減少したが、その後は再び増加した。サービスの輸出額は継続して増加している。サービスの輸出額については、輸出額全体の33.8%(2018年)を占めており、その割合は増加傾向にあったが、近年は頭打ちである。
 ドイツ、フランス、英国については、2009年以降の輸出入額は、継続して増加しており、製品、サービスともに同様である。その傾向はドイツにおいて最も顕著である。サービスの輸出額に注目すると、ドイツでは輸出額全体の18.8%(2019年)、フランスでは29.6%(2019年)、英国では46.0%(2019年)をサービスの輸出額が占めており、その割合は各国ともに長期的には増加傾向にある。
 韓国については、他の国と異なり、2012年から、輸出入額の減少が起きていたが、2017年から増加に転じた。サービスの輸出額は、輸出額全体の11.7%(2018年)であり、他の国と比較して、最も小さい割合であり、2010年頃からほぼ横ばいに推移している。


【図表5-2-1】 主要国における貿易額の推移

注:
1)中国は「製品」と「サービス」に分類されたデータが記載されていなかった。
2)フランスの2017~2019年、韓国の2018年は暫定値である。中国の2017、2018年、韓国の1995~1999年は見積もり値である。
資料:
OECD,“National Accounts” Gross domestic product (GDP)

参照:表5-2-1


(2)主要国の産業貿易の構造

 ハイテクノロジー産業やミディアムハイテクノロジー産業といった「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」(3) の貿易については、技術貿易のように科学技術知識の直接的なやり取りについてのデータではないが、実際に製品開発に活用された科学技術知識の間接的な指標であると考えられている。ここではまず、OECDの定義による研究開発集約のレベル(研究開発費/粗付加価値)にもとづき、産業を分類し、産業貿易のバランスを見る。
 図表5-2-2では、主要国の産業貿易のうち、輸出額について、①ハイテクノロジー産業(HT産業)、②ミディアムハイテクノロジー産業(MHT産業)、③ミディアムテクノロジー産業(MT産業)、④ミディアムロウテクノロジー産業(MLT産業)、⑤その他の5つに分類し、その構造を見た。
 日本ではMHT産業が最も大きく、2019年では、56.8%を占めている。他国と比較しても最も大きい。次いでHT産業が15.5%、MT産業が13.8%、MLT産業は6.2%となっている。時系列を見ると、MHT産業は長期的に見ると増加している。HT産業については、2000年以前は30%程度で横ばいに推移していたが、その後減少し、2010年頃から再び横ばいに推移している。MT産業は2000年代に割合が増加した後、2011年をピークに微減に推移している。
 米国はMHT産業が最も大きく、2019年では、34.7%を占めている。次いでHT産業が24.1%、MLT産業が23.1%、MT産業が8.9%となっている。時系列を見ると、MHT産業はほぼ横ばいに推移している。HT産業は、2000年代に入ると減少した後、2010年以降増加していたが、近年では減少傾向にある。MLT産業は2000年代後半から増加した後、2014年以降減少していたが、近年では再び増加している。MT産業は漸増していたが、近年横ばいに推移している。
 ドイツはMHT産業が半数を占めており、2018年では49.2%である。次いでHT産業が18.6%、MLT産業が16.5%、MT産業が10.7%となっている。時系列を見ると、ドイツは他国と比較すると変化が少なく、MHT産業、MLT産業、MT産業は横ばい又は微減、HT産業は漸増している。
 フランスはMHT産業が最も多く、2018年では36.1%を占めている。次いでHT産業24.4%、MLT産業が22.3%、MT産業が11.3%である。時系列を見ると、MHT産業は2000年代後半から減少した後、2010年頃からは微増している。HT産業は長期的には増加している。MLT産業、MT産業は2010年頃からほぼ横ばいに推移している。
 英国はMHT産業が最も大きく、2019年で32.7%である。次いでHT産業が22.7%、MLT産業が21.0%、MT産業が14.8%である。時系列を見ると、MHT産業は長期的に見れば、ほぼ横ばいに推移している。HT産業は2000年頃まで増加した後は減少に転じ、2013年以降増加していたが、最新年では減少しMLT産業と同程度となっている。MT産業は2013年に大きく増加した後、減少に転じ、近年はほぼ横ばいに推移している。
 中国は1990年ではMLT産業が多くを占めていたが、1990年代にHT産業、MHT産業が増加、それに伴いMLT産業が減少し、2018年ではHT産業が30.8%と他国と比較しても最も大きい。MHT産業が27.8%、MLT産業が26.3%と、研究開発集約型の産業からそうでない産業まで3つの産業がほぼ同程度となっている。
 韓国では、1990年ではMLT産業が最も多くを占めていたが、その後は2010年頃まで継続的に減少が続き、これに代わってMHT産業の増加が見られた。HT産業については、2004年まで漸増した後は減少、近年はまた増加に転じている。2019年では、MHT産業が最も大きく40.7%である。次いでHT産業29.9%、MT産業14.4%、MLT産業が14.3%である。

 

【図表5-2-2】 主要国の産業貿易輸出割合
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国
(H)産業貿易の内訳

資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-2


(3)ハイテクノロジー産業貿易

 ハイテクノロジー産業とはOECDの定義(「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」と呼ばれる場合もある)に基づいている。具体的には「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」の3つの産業を指す。
 図表5-2-3は主要国のハイテクノロジー産業貿易額の推移である。ほとんどの国で「電子機器」産業が多くを占めている。
 国別に状況を見ると、日本の輸出額は横ばいに推移し、2010年代に入って減少傾向にあったが、近年増加している。輸入額についても増加傾向が続いた後、2012年を境に減少していたが、近年は増加している。また、輸出、輸入ともに「電子機器」が多くを占めている。
 米国は輸出、輸入額ともに拡大していたが、輸出額については、2014年以降ほぼ横ばいに推移し、最新年では増加した。2000年代に入り、輸入額が輸出額を大きく上回るようになった。米国の輸出は「航空・宇宙」が他国と比較しても大きいことが特徴である。輸入額については、「電子機器」、「医薬品」が大きい。
 ドイツのハイテクノロジー産業貿易の輸出額については、長期的に見ると増加傾向にある。輸入額については、2005年頃から伸びは緩やかであるが、増加傾向にある。輸出入ともに、「電子機器」の額が大きいが、収支はほぼ均衡している。また、「医薬品」と「航空・宇宙」は、ともに出超である。特に「医薬品」の輸出額は、ここに示した国の中で最も大きい。
 フランスは「航空・宇宙」の輸出額が「電子機器」よりも大きいのが特徴であり、貿易収支も出超となっている。また、「医薬品」も出超である。
 英国については、輸出額は2010年頃からほぼ横ばい、輸入額は2014年まで増加した後、横ばいに推移している。長期的に見ると、輸出額については「航空・宇宙」が増加しており、「電子機器」は減少傾向にある。「医薬品」については2015年頃から微減している。輸入額については、「電子機器」が一定の規模を保って推移しているため、「電子機器」が入超となっている。
 中国は輸出、輸入額ともに著しく拡大し、2000年代後半に入ると輸出額は米国を上回り、大きく伸びた。2013年を境に、輸出、輸入共にその伸びは停滞していたが、最新年では大きく増加している。産業の構成を見ると、輸出、輸入ともに「電子機器」が大部分を占めている。
 韓国についても、輸出、輸入額ともに「電子機器」がほとんどを占めており、特に輸出額での増加が著しい。2014~2016年にかけて微減したが、その後は増加し続けている。
 BRICsのデータを見ると、ロシア、ブラジル、インドともに輸入額が大きい。ブラジルは「航空・宇宙」で、インドは「医薬品」で出超であり、輸出額も伸びている。

 

【図表5-2-3】 主要国におけるハイテクノロジー産業貿易額の推移

資料:
<日本、米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2019/2”
<ロシア、ブラジル、インド>OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-3


 図表5-2-4に、ハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。日本は長期的に貿易収支を減少させている。2011年以降、1を下回り、入超となっている。2018年の日本の収支比は0.76である。
 米国、ドイツ、フランス、英国の収支比は、1990年代は、1前後に推移していた。米国、英国については、2000年前後から1を下回り、入超で推移し続けている。2018年では米国は0.67、英国は0.83となっている。
 ドイツは2000年頃から1を上回り出超となり、2012年以降は横ばいに推移している。2018年では1.23である。
 フランスは1990年代前半には1を上回り、出超で、ほぼ横ばいに推移している。2018年では1.17である。
 中国は収支比を上昇させていたが、2008年以降、漸減している。2018年では1.19である。
 韓国は主要国中、最も収支比が高い。2018年で1.88となっている。

 

【図表5-2-4】 主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-3と同じ。

参照:表5-2-4



(4)ミディアムハイテクノロジー産業貿易

 図5-2-2で見たように、ミディアムハイテクノロジー産業は主要国の多くで、輸出額において1番の重みを持っており、その状況を把握する事は、ハイテクノロジー産業貿易の状況を把握する事と同様に重要である。
 ここでいうミディアムハイテクノロジー産業とはOECDの定義に基づいており、国際標準産業分類第4次改訂版(ISIC Rev.4)を用いたデータを使用した。具体的には、「化学品と化学製品」、「電気機器」、「機械器具」、「自動車」、「その他輸送」、「その他」といった産業から構成される。
 図5-2-5を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業貿易の輸出額ではドイツが最も大きく、これに中国、米国が続く。日本も存在感を示していたが、2011年以降、中国の輸出額が日本を上回っている。輸入額を見ると、米国が最も大きい。次いでドイツが大きかったが、2010年以降、中国が上回っている。
 各国の輸出、輸入の内訳を見ると、日本の輸出額の内訳は「自動車」が最も大きく、次いで大きいのは「機械器具」である。全体の約7割を占めるこれらの産業は、2000年代に入ってから急激な伸びを示した後、2009年に大きく減少した。その後、回復を見せたが、長期的に増減しながら、概ね横ばいに推移している。輸入額では「化学品と化学製品」が最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。
 米国の輸出額では、「化学品と化学製品」が最も大きく、これに「自動車」、「機械器具」が続いている。輸入額では「自動車」が最も大きいが、「機械器具」も大きい。
 ドイツの輸出額は「自動車」が最も大きく、次いで「機械器具」が大きい。輸入額は「自動車」が最も大きく、これに「化学品と化学製品」が続く。
 フランスでは輸出、輸入ともに、産業の種類別の規模のバランスが似通っている。輸出は「化学品と化学製品」、「自動車」の順で大きく、輸入は「自動車」、「化学品と化学製品」の順で大きい。
 英国も輸出、輸入ともに産業の種類別の規模のバランスが似ている。輸出、輸入共に「自動車」が最も大きい。
 中国においては輸出額では「電気機器」、「機械器具」が大きく、輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。
 韓国においては、輸出額では「化学品と化学製品」と「自動車」が大きい。両者とも2010年頃までは大きく伸びていたが、2010年代に入って伸びは鈍化した。「化学品と化学製品」は最新年では減少した。輸入額では「化学品と化学製品」、「機械器具」が大きい。
ロシア、ブラジル、インドについては、その他の国と比較すると規模が小さい。また全ての国で輸入額の方が大きい。輸入額の内訳を見ると、ロシアでは「機械器具」、ブラジル、インドでは「化学品と化学製品」が最も大きい。


【図表5-2-5】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業貿易額の推移

注:
その他は「磁気、光学メディア」、「医療及び歯科用機器・備品」等である。
資料:
OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-5


 図表5-2-6に、ミディアムハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。
 2019年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.59であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にある。
 韓国の収支比は長期的に増加傾向にあったが、2014年以降漸減していた。近年では微増し、2019年では1.76を示している。
 ドイツの2019年の収支比は1.60であり、継続的に出超である。2004年に最も高い2.03を示した後、漸減している。
 中国の収支比は、長期的に見ると増加していたが、2015年以降減少傾向にあり、2018年では1.33となっている。
 フランスの収支比は、長期的に減少しており、2018年では0.90である。
 英国の収支比は、1991年以外は入超で推移している。2019年では0.76である。
 米国の収支比は未だ1を超えたことはなく、2019年では0.65である。


【図表5-2-6】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-5と同じ。

参照:表5-2-6



(3)2019年5月に入手したOECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”では、それまでの「研究開発集約産業(R&D intensive industries)」から「研究開発集約活動(R&D - intensive activities)」に変更されていた。各レベルについて、対象となる産業は今までと同様である。