5.4.3主要国における起業の状況

(1)開廃業率の国際比較

 この節では、企業の開業率、廃業率を見ることにより、企業のライフサイクルの変化が活発に行われているかどうかを見る。
 日本の場合、「雇用保険事業年報」をもとにした開廃業率は、事業所における雇用関係の成立、消滅をそれぞれ開廃業とみなしている。他国については、各国において統計の方法が異なるため、単純に比較することはできないが、図表5-4-9に主要国の開業率、廃業率を示した。
 各国最新年の開業率を見ると(図表5-4-9(A))、日本の開業率は5.2%であり他国と比較して最も低い数値である。他方、最も高いのは英国であり14.3%、次いでフランスが12.4%となっている。2001年と比較すると、日本は漸増しているが、他国より低い水準で推移している。他国は日本より高い水準で推移しており、特に英国は2010年頃から増加傾向が続いている。対して、ドイツは2000年代後半から減少傾向にある。
 各国最新年の廃業率を見ると(図表5-4-9(B))、日本は3.8%であり、開業率と同様に他国と比較して最も低い数値である。他方、最も高いのは開業率と同様に英国であり9.4%、米国が10.0%(2011年が最新値)、ドイツ7.6%となっている。2001年と比較すると、日本はほぼ横ばいに推移している。英国やドイツについては、2000年代後半から微減している。
 なお、フランスについては、開業率、廃業率ともに変化の度合いが大きい。これは2009年1月から施行された「個人事業主制度」により、簡易な申請のみで起業が可能になったことや、創業間もない企業への税制優遇措置のような制度の変更等の影響だと考えられる。
 日本は開業率の方が廃業率より高いが、他国と比較すると開廃業率共に低い水準であり、ほとんど変化していない。他国については英国、フランスは開業率の方が廃業率より高く、米国、ドイツは廃業率の方が開業率より高い。


【図表5-4-9】 主要国における開廃業率の推移 
(A)開業率

(B)廃業率

注:
起業の開廃業率の算出方法は、国によって異なるため、国際比較するには注意が必要である。
<日本>開廃業率は、保険関係が成立している事業所(適用事業所)の成立・消滅をもとに算出している。具体的には開業率は、当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数/前年度末の適用事業所数であり、廃業率は、当該年度に雇用関係が消滅した事業所数/前年度末の適用事業所数である。なお、適用事業所とは、雇用保険に係る労働保険の保険関係が成立している事業所数である。
<米国>開廃業率は、雇用主(employer)の発生・消滅をもとに算出している。
<英国>開廃業率は、VAT(付加価値税)及びPAYE(源泉所得税)登録企業数をもとに算出している。
<ドイツ>開廃業率は、開業・廃業届を提出した企業数をもとに算出している。
<フランス>開業率は、企業・事業所目録(SIRENRE)へのデータベースに登録・抹消された起業数をもとに算出している。
資料:
中小企業庁、「中小企業白書」

参照:表5-4-9


(2)起業意識の国際比較

 ここでは、世界の国・地域が参加するグローバル・アントレプレナーシップ・モニター(Global Entrepreneurship Monitor:GEM)調査(5)の結果から、主要国の起業意識の違いを見る。
 ここでいう「起業無関心者の割合」とは、GEM調査における「起業活動浸透指数」、「事業機会認識指数」、「知識・能力・経験指数」の三つの指数について、一つも該当しない者の割合を集計している。
 起業無関心者の割合の推移を見ると(図表5-4-10)、最新年の日本は主要国中最も割合が高く77.3%である。他の主要国と比較すると約40ポイントも差がある。時系列推移を見ると、日本は継続して高い水準にあるのに加えて、2009年頃から起業無関心者の割合が高まっている。他国を見ると、2000年代後半までフランスは大きく減少、英国は減少、ドイツ、米国は横ばいに推移していたが、その後はフランス、英国は微増、ドイツは横ばい、米国は減少している。


【図表5-4-10】 主要国における起業無関心者の割合の推移

注:
1)グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(Global Entrepreneurship Monitor:GEM)調査の結果を表示している。
2)「起業無関心者の割合」とは、「起業活動浸透指数」、「事業機会認識指数」、「知識・能力・経験指数」の三つの指数について、一つも該当しない者の割合を集計している。
資料:
中小企業庁、「中小企業白書」

参照:表5-4-10


(3)起業後の企業生存率の国際比較

 最後に、企業が起業した後5年間に、どの程度事業を継続させているかを見る(図表5-4-11)。
 日本の企業生存率は他の主要国と比較して高く、5年後であっても81.7%の企業が事業を継続させている。他方、他の主要国は5年後には全ての国で半数以下の割合となっており、半数以上が市場から姿を消している。
 5.4.3(1)で示したように、日本は開業率、廃業率共に、他の主要国と比較して低いことが分かっている。また、起業無関心者の割合が高いことから、日本は起業するには腰が重いが、起業した後は長期わたり事業を継続させていく傾向があることが分る。


【図表5-4-11】 主要国における起業後の企業生存率の推移 

注:
1)日本の企業生存率は(株)帝国データバンク「COSMOS2(企業概要ファイル)」のデータベースに企業情報が収録されている企業のみで集計している。また、データベース収録までに一定の時間を要するため、実際の生存率よりも高めに算出されている可能性がある。
2)米国、英国、ドイツ、フランスの企業生存率は、2007年から2013年に起業した企業について平均値をとったものである。
資料:
中小企業庁、「中小企業白書」

参照:表5-4-11



(5)GEM調査の主要目的は、ベンチャー企業の成長プロセスを解明し、起業活動を活発にする要因を理解し、その上で国家の経済成長や競争力、雇用などへの影響を定量的に測定することにある。最終的には、国家経済の活性化につなげるための政策提言を目的としている。1999年に我が国を含め10カ国からスタートし、2015年には62の国や地域が参加している。サンプル数は一つの国当たり最低2,000サンプル(サンプリングは無作為抽出)であり、全世界共通の調査票が使われている。