3.3理工系学生の進路
ポイント
- 理工系学生の卒業後の進路を見ると、学部学生については、「就職者」の割合は、1980年代には概ね80%前後で推移していたが、1990年代に入り大きく低下した。2011年度では、「就職者」の割合が46.6%となり、一方で、「進学者」は39.4%となっている。
- 理工系修士課程修了者の進路を見ると、「就職者」が全体の約80%を占めており、2000年代に入ると、その割合はさらに増加していたが、2010年では若干減少し、2011年では83.8%を占めている。
- 理工系博士課程修了者の進路を見ると、「就職者」の割合は、2000年頃には大きく減少していたが、近年、上昇しつつある。2011年の「就職者」の割合は66.6%となっている。
- 理工系卒業者のうちの就職者を産業分類別に見ると、学部学生については、「製造業」への就職割合は1980年代には50%台であったが、近年は30%台へと減少しており、2011年では29.2%になっている。
- 理工系修士課程学生の就職者の場合、「製造業」への就職割合は、1980年代には70%台であったが、近年では60%台で推移しており、2011年では56.4%となっている。「教育(学校へ就職した者など)」は4%台から1%台に減少している。
- 理工系博士課程学生の就職者の場合、「製造業」への就職割合は概ね30%前後で推移しており、2011年は30.9%である。「教育(学校へ就職した者など)」については1980年代には40~50%で推移していたが、2011年では32.7%である。なお、「研究(学術・研究開発機関等へ就職した者)は2001年で12.9%である。
- 理工系の学部、修士課程、博士課程学生の就職者を職業分類別に見ると、「専門的・技術的職業従事者」になる者が多い。修士課程、博士課程学生については90%近くを占めている。学部学生については、長期的に見て減少傾向にあり、近年では70%台になっている。
3.3.1理工系学生の就職・進学状況
この節では「理学」系及び「工学」系に特化して、学生の進路状況を見る。ここでいう「就職者」とは経常的な収入を目的とする仕事についた者であり、一時的な職業についた者や、アルバイト等は「その他」に含まれる。なお、このデータは調査時点(該当年の5月1日)で学校側が把握している学生の進路状況を調査したものである。
(1)学部卒業者の進路
2011年の「理工」系の学部卒業者の進路を見ると、「就職者」の割合が46.6%と一番多く、次いで「進学者」39.4%となっている。「就職者」の割合は、1980年代には概ね80%前後で推移していたが、1990年代に入り大きく低下した。近年は上昇しつつあったが、2010年は大きく減少し、代わって増加したのが「進学者」である。1990年代後半からの大学院拡充の影響もあってか、「進学者」の割合は増加傾向にある(図表3-3-1)。

注:
1)この図表では、「就職進学者」(進学しかつ就職した者)を「就職者数」に含めている。
2)就職者:経常的な収入を目的とする仕事についた者
3)進学者:大学等に進学した者。専修学校・外国の学校等へ入学した者は除く。
4)不明:死亡・不詳の者
5)その他:上記以外
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-1
(2)修士課程修了者の進路
「理工」系修士課程修了者の進路を長期的に見ると、2000年代初めまで、構成比に大きな変化は見られず、「就職者」が全体の約80%を占めていた。2000年代に入ると、就職する者の割合はさらに増加していたが、2010年では若干減少し、2011年では83.8%と横ばいに推移ポイントしている。また、「進学者」の割合は2000年代に入り減少傾向にあったが、2010年で若干増加し、2011年では8.5%と横ばいに推移している(図表3-3-2)。

注:
図表3-3-1と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-2
(3)理工系博士課程修了者の進路
2011年の「理工」系博士課程修了者の進路を見ると(図表3-3-3)、「就職者」の割合が66.6%と多い。「就職者」の割合は、2000年頃には大きく減少していたが、近年は上昇傾向にある。また、「その他」が25.8%と、学部卒業生や修士課程修了者と比較すると大きい値である。

注:
図表3-3-1と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-3
図表3-3-3は、「理工系博士課程修了者の卒業後の進路」であるが、理工系学部卒業者や理工系修士課程修了者に比べて「その他」の割合が高いことが分かる。ここでの「その他」とは学校基本調査における「臨床研修医」、「専修学校・外国の学校等入学者」、「一時的な仕事に就いた者」、「左記以外の者」の和である。「その他」の割合が高い要因として以下の2点が考えられる。
ひとつ目はポストドクターの進路区分の影響である。学校基本調査における進路区分には、ポストドクターが「就職者」、「一時的な仕事に就いた者」、「左記以外の者」のいずれに対応するかが明記されていない。ポストドクターの雇用形態は多様であり、数カ月単位で雇用されるケースもあることから、ポストドクターの一部が「一時的な仕事に就いた者」や「左記以外の者」に分類されている可能性がある。
ふたつ目は調査実施時点で進路が確定していない卒業者の影響
が考えられる。学部卒業者や修士課程修了者と異なり、博士課程修了者の中にはアカデミックポストを目指す者も多い。企業への就職については、就職活動の時期が概ね決まっているが、アカデミックポストの公募は年間を通じて行われる。この為、アカデミックポストを目指している者の中には、学校基本調査が調査対象としている卒業の次年の5月1日現在で進路が確定していない者が、相当数いると思われる。これらの者については、進学でも就職でもないので、進路が「左記以外の者」に分類されていると考えられる。実際、2011年度の「その他」(1,193人に占める「左記以外の者」)の割合は約7割と最も大きい。
また、進路状況の調査の際に、進路が決まっていない為、調査に回答せず、結果として学校では進路状況が把握できない者(この場合不詳となる)も一定数存在する可能性がある。
これらから、理工系博士課程修了者の就職割合は過去20年を見ると6割程度であり、「その他」の割合が高いのは、博士課程修了者のキャリアパスの形態が、学部卒業生や修士課程卒業生とは異なっているためと言える。
今後、更なる詳細な情報を得るためには、米国で行われているように、博士人材のキャリアについての追跡調査を継続的に実施し、博士取得者がどのような職業や産業で就労しているかを分析することが必要であろう。
3.3.2理工系学生の産業分類別就職状況
この節では、3.3.1節の「理工系学生の就職・進学状況」での「就職者」がどこに就職したか、を産業分類別に見ている。ここでいう産業分類とは「日本標準産業分類」を使用しており、事業所の主要業務によって産業を決定している(日本標準産業分類の改定は1993、2002、2007年に行われ、いずれも翌年から適用されている)。なお、日本標準産業分類中の「教育」とは「学校教育」のことであり、たとえば小・中・高・大学などはここに含まれる。また「研究」については「学術・研究開発機関」のことであり、学術的研究、試験、開発研究などを行う事業所を指す。
(1)大学学部卒業者のうちの就職者
理工系学部卒業者のうちの就職者の産業分類別就職割合の推移を見ると(図表3-3-4)、「製造業」への就職割合は1980年代には50%台であったが、近年は30%台へと減少しており、2011年では29.2%になっている。これは、後述する理工系博士課程修了者の製造業への就職者の割合(30.9%)よりも低い。一方、「非製造業」のうち「サービス業関連」への就職割合は、10%台から30%台と増加しており、2011年では29%である。そのうちの「教育」は4%台から1%台へと減少していたが、2010、2011年ともに3%台になっている。また、2010年からは「非製造業のその他」の割合が多くなっている。

注:
1)就職者数には「就職進学者」(進学しかつ就職した者)を含む。
2)1981~2001年
サービス業関連:日本標準産業分類(1993年改定)でのサービス業
教育・研究:日本標準産業分類(1993年改定)での「サービス業」のうちの「教育」。
2002~2006年
サービス業関連:日本標準産業分類(2002年改定)での「情報通信業」、「飲食店、サービス業」、「医療、福祉」、「教育、学習支援業」のうち「学校教育」を除いたもの、「複合サービス業」、「サービス業(他に分類されないもの)」のうち「学術・研究開発」を除いたものを指す。
教育・研究:「教育、学習支援業」のうちの「学校教育」、「サービス業(他に分類されないもの)」のうちの「学術・研究開発」を指す。
2007年~
サービス業関連:日本標準産業分類(2007年改定)での「学術研究、専門・技術サービス業」のうち「学術・開発研究機関」を除いたもの、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業」、「教育、学習支援業」のうち「学校教育」を除いたもの、「医療福祉」、「複合サービス事業」、「サービス業(他に分類されないもの)」、「情報通信業」を指す。
教育・研究:日本標準産業分類(2007年改定)での「学術研究、専門・技術サービス業」のうちの「学術・開発研究機関」、「教育、学習支援業」のうちの「学校教育」を指す。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-4
(2)大学院修士課程修了者のうちの就職
理工系修士課程修了者のうちの就職者の産業別就職割合の推移を見ると、「製造業」への就職割合は、1980年代には70%台であったが、近年では60%台で推移しており、2011年では56.4%となっている。「非製造業」のうちの「サービス業関連」への就職割合は10%台から20%台に上昇しているが、そのうちの「教育」は4%台から1%台に減少している。また、「研究」に関しては1%以下である(図表3-3-5)。

注:
図表3-3-4と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-5
(3)大学院博士課程修了者のうちの就職者
理工系博士課程修了者の産業別就職割合の推移を見ると、「製造業」への就職割合は概ね30%前後で推移しており、2011年は30.9%である。「非製造業」への就職割合の方が大きく、全期間を通じて、特に「非製造業」のうち、「サービス業関連」の割合は2000年代に入ると増加し始め、2011年では58.6%になっている。また、「サービス業関連」のうち「教育」については1980年代には40~50%で推移していたが、2000年代には30%弱に減少しており、2011年では32.7%である。なお、2003年から計測しはじめた「研究」への就職割合は、学部卒業者、修士課程修了者の割合と比較すると大きく、2011年では12.9%となっている(図表3-3-6)。

注:
図表3-3-4と同じ。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-6
3.3.3理工系学生の職業別就職状況
この節では3.3.1節の「理工系学生の就職・進学状況」での「就職者」がどこに就職したか、を職業分類別に見ている。ここでいう職業分類とは「日本標準職業分類」であり、個人の職業を分類している。よって、その所属する事業所の経済活動は問わない。
ここでいう「科学研究者」とは「試験所・研究所などの試験・研究施設で、自然科学に関する専門的・科学的知識を要する研究の仕事に従事する者」であり、本報告書における「研究者」はこれを含んでいる。「技術者」とは「科学的・専門的知識と手段を生産に応用し、生産における企画、管理、監督、研究などの科学的、技術的な仕事に従事する者」である。また、「教員」は「学校及び学校教育に類する教育を行う施設等で、学生等の教育・擁護に従事する者」であり、大学の教員などはここに含まれる。
(1)大学学部卒業者のうちの就職者
理工系学部卒業者の職業分類別就職割合を見ると、1990年代には「専門的・技術的職業従事者」が80~90%で推移していたが、2000年代では70%台に減少している。その内訳を見ると「技術者」が多くを占めており、長期的に見て減少しており、2011年では63.8%と過去最低である。一方で、「事務従事者」の職に就く者は増加しており、2011年では全体の9.9%である(図表3-3-7)。

注:
研究者は2011年から職業分類の改正にともない、名称が「科学研究者」から「研究者」となった。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-7
(2)大学院修士課程修了者のうちの就職者
理工系修士課程修了者の職業分類別就職割合について見ると、「専門的・技術的職業従事者」が全体の約90%と、一貫してかなり多くを占めている。その内訳を見ると、「技術者」が80%程度で推移しており、「科学研究者」については、近年5~6%で推移している。また、教員の割合は長期的に見ても減少し続けており、近年では1%台になっている。その一方で微増し続けているのは「事務従事者」である(図表3-3-8)。

注:
研究者は2011年から職業分類の改正にともない、名称が「科学研究者」から「研究者」となった。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-8
(3)大学院博士課程修了者のうちの就職者
理工系博士課程修了者の職業分類別就職割合について見ると「専門的・技術的職業従事者」の割合は90%以上の高水準で推移している。この内訳を見ると、「技術者」が一貫して30~40%で推移しているのに対して、「科学研究者」の割合は20%弱だったのが、2000年頃から増加し始め、2011年では38.1%まで増加している。また「教員」の割合は、逆に40%程度だったものが20%弱と減少している(図表3-3-9)。

注:
研究者は2011年から職業分類の改正にともない、名称が「科学研究者」から「研究者」となった。
資料:
文部科学省、「学校基本調査報告書」
参照:表3-3-9