5.3国境を越えた商標出願と特許出願

ポイント

  • 国境を越えた商標出願数と特許出願数(三極パテントファミリー数:日米欧に出願された同一内容の特許)について、人口100万人当たりの値で比較すると、商標出願数よりも特許出願数が多い国は、日本、ドイツ、韓国である。特に日本については、その状況が顕著であり、他国とかけ離れた状況にある。一方、商標出願数の方が特許出願数より多い国は、米国、英国である。
  • 日本は技術に強みを持つが、国全体で見ると、それらの新製品や新たなサービスの導入という形での国際展開が他の主要国と比べて少ない。

 企業が市場に新製品や新サービスを出す場合、市場の中で差別化を行うことを目的として商標が出願される。そのため、商標の出願数は、新製品や新サービスの導入という形でのイノベーションの具現化、あるいはそれらのマーケティング活動と関係があり、その意味で、イノベーションと市場の関係を反映したデータであると考えられる。
 図表5-3は主要国の国境を越えた商標の出願数と特許出願数の推移である。両方の値とも各国の人口数で規格化されている。
 国境を越えた商標出願とは、外国へ出願した商標を意味する。商標を出願する際には自国への出願が多くなる傾向があり、また、国の規模や制度の違いにより出願数に差異がある。これを踏まえて、日、独、仏、英、韓については、米国特許商標庁へ、米国については日本と欧州へ出願した商標の数を補正した値を使用した(図表5-3注:1参照のこと)。
 国境を越えた特許出願は、三極パテントファミリーをいう。特許については国の技術力を示す指標として使用されている。特許も自国への出願の有利さがあり、また、地理的位置の影響のためにバイアスがかかる事があるため、それらの影響を受けにくい三極パテントファミリー数を使用した。
 主要国の状況を見ると、商標出願数よりも特許出願数が多い国は、日本、ドイツ、韓国である。特に日本については、その状況が顕著であり、他国とかけ離れた状況にある。
 商標出願数の方が特許出願数より多い国は、米国、英国である。
 製造業に強みを持つ国や、情報通信産業に特化した国では、商標よりも特許の出願数が多くなり、一方、サービス業の比重が多い国では、商標出願数が多くなる傾向があるとされており、そのような各国の特徴がデータに現れていると考えられる。
 2002年から2013年の推移を見ると、日本は、商標出願数については微増、特許出願数については減少している。
 米国は、商標出願数は微増、特許出願数については減少している。
 ドイツ、フランス、英国は、商標出願数は増加、特許出願数は減少している。なお、商標出願数が最も大きいのは英国である。
 韓国については、商標出願数、特許出願数の両方が増加している。
 以上の事から考えられるのは、日本は技術に強みを持っているが、新製品や新たなサービスの導入などといった活動の国際的な展開に大きな変化は見られない。
 一方、英国は他の国と比べて新製品や新たなサービスの導入などといった活動に強みを持っており、国際的な展開も進展していると考えられる。
 ドイツ、フランスは、新製品や新たなサービスの導入などといった活動において国際的な展開が進んでいると考えられる。また、韓国は相対的には技術に強みがあるが、特許、商標ともに国境を越えた出願が増えている。


【図表5-3】 国境を越えた商標出願*と特許出願**(人口100万人当たり)

注:
1)*国境を越えた商標数(Cross-border trademarks)の定義はOECD,“Measuring Innovation: A New Perspective”に従った。具体的な定義は以下のとおり。
 日本、ドイツ、フランス、英国、韓国の商標数については米国特許商標庁(USPTO)に出願した数。
 米国の商標数については①と②の平均値。
  ①欧州共同体商標意匠庁(OHIM)に対する日本と米国の出願比率を基に補正を加えた米国の出願数=(米国がOHIMに出願した数/日本がOHIMに出願した数)×日本がUSTPOに出願した数。
  ②日本特許庁(JPO)に対する欧州と米国の出願比率を基に補正を加えた米国の出願数=(米国がJPOに出願した数/EU15がJPOに出願した数)×EU15がUSTPOに出願した数。
2)**国境を越えた特許出願数とは三極パテントファミリー(日米欧に出願された同一内容の特許)数(Triadic patent families)を指す。
3)人口は参考統計Aと同じ。
資料:
商標出願数:WIPO,“WIPO statistics database”(Last updated: December 2015)
三極パテントファミリー数:OECD,“Main Science and Technology Indicators 2015/2”

参照:表5-3