第4章 研究開発のアウトプット

 近年、研究開発への投資に対する説明責任が強く求められるようになっており、研究開発におけるアウトプットの把握は大きなテーマとなっている。本章では、研究開発活動のアウトプットとして計測可能な科学論文と特許に着目し、世界及び主要国の活動の特徴や変化について紹介する。

4.1論文

ポイント

  • 世界の研究活動のアウトプットである論文量は一貫して増加傾向にある。
  • 研究活動自体が単一国の活動から複数国の絡む共同活動へと様相を変化させている。世界で国際共著論文が増えており、2014年(出版年、PY)の国際共著率は英国61.7%、フランス59.1%、ドイツ56.0%に対し、米国39.3%、日本29.8%である。
  • 日本の論文数(2012-2014年(PY)の平均)は、分数カウント法(論文の生産への貢献度)によると、米、中に次ぐ第3位である。また、Top10%補正論文数では、米、中、英、独、仏、伊に次ぐ第7位であり、Top1%補正論文数では米、中、英、独、仏、加、豪、伊に次ぐ第9位である。
  • 論文数シェア(分数カウント法)を見ると、日本は、1980年代から2000年代初めまで論文数シェアを伸ばし、英国やドイツを抜かし、一時は世界第2位となっていたが、近年はシェアが低下傾向である。しかし、このシェアの低下傾向については、日本のみならず米国、英国、ドイツ、フランスも同様である。
  • 質的指標とされるTop10%補正論文数シェア及びTop1%補正論文数シェア(分数カウント法)の変化を見ると、日本は、1980年代から2000年代初めにかけて緩やかなシェアの増加が見られたが、その後急激にシェアを低下させている。
  • 日本国内の分野バランスをみると、化学と基礎生命科学の占める割合が大きく減少し、臨床医学の占める割合が大きく増加しており、日本としての論文生産の分野構造が大幅に変化してきている。
  • 一方、各分野でのTop10%補正論文数シェアによる分野ポートフォリオをみると、日本は化学、物理学、臨床医学のシェアが高く、計算機・数学、環境・地球科学、工学が低い。

4.1.1世界の研究活動の量的及び質的変化

(1)論文数の変化

 図表4-1-1は、全世界の論文量の変化である。トムソン・ロイター社のデータベースでは、論文の書誌情報の見直しが適時反映されるようになっていることから、前回の「科学技術指標2015」(2015.8)との比較は意味をなさない。
 80年代前半に比べ現在は、世界で発表される論文量は約3倍になっており、世界で行われる研究活動は一貫して量的拡大傾向にある。なお、この間において、分析に用いたデータベースに収録されるジャーナルは順次変更されると共に、ジャーナルの数も拡大してきている。論文数の拡大にはこの要因の寄与も含まれている。


【図表4-1-1】 全世界の論文量の変化

注:
分析対象は、article, reviewである。
年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
資料:
トムソン・ロイター Web of Science XML(SCIE, 2015年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-1


(2)世界及び主要国の論文生産形態の変化

 世界で行われる研究活動が量的拡大を示す一方で、研究活動のスタイルが大幅に変化している。図表4-1-2に、主要国の論文における論文共著形態の変化を示した。①国内論文(単一の機関による論文及び同一国の複数の機関による共著論文)、②国際共著論文(異なる国の機関による共著論文)の2種類に分類した。
 まず、1980年代以降、国際共著論文が増加しており、国境を越えた形で知識生産活動が行われていると考えられる。世界の論文に占める割合も年々上昇傾向にある。2014年時点では、国内論文の割合が75.3%、国際共著論文が24.7%である。


【図表4-1-2】 全世界の論文共著形態割合の推移

注:
article, reviewを分析対象とし、整数カウント法により分析。
年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
国内論文は、単一の機関による論文及び同一国の複数の機関による共著論文を指す。国際共著論文は異なる国の機関による共著論文を指す。
資料:
トムソン・ロイター Web of Science XML(SCIE, 2015年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-2


 また、図表4-1-3は、主要国における論文数の論文共著形態別割合の推移である。いずれの国においても国際共著論文の割合が増加している点は共通であるが、その割合は、2014年時点で日本29.8%、米国39.3%であるのに対し、欧州ではドイツ56.0%、フランス59.1%、英国61.7%と非常に高く、国により異なっている。
 日本は、1980年代前半に比べて国際共著論文の割合が約25ポイントの増加を示している。


【図表4-1-3】 主要国の論文共著形態割合の推移
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国

注:
article, reviewを分析対象とし、整数カウント法により分析。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
国内論文は、単一の機関による論文及び同一国の複数の機関による共著論文を指す。国際共著論文は異なる国の機関による共著論文を指す。
資料:
トムソン・ロイター Web of Science XML(SCIE, 2015年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-3


 さらに、国際共著論文は、国際的な研究の協力や共同活動によりつくられる成果であるため、その比率は分野ごとの背景に依存すると考えられる。例えば、大型研究施設を、各々の国で保有することが現実的に不可能な場合、国際的な大型研究施設設置国を中心とした共同研究が促進される。
 図表4-1-4は分野ごとの国際共著論文比率の推移である。いずれの分野においても、1980年代から、国際共著論文比率は上昇基調である。2014年時点において、環境・地球科学では33.9%、物理学では32.5%であり、他分野に比べ国際共著論文比率が高い。一方、臨床医学は、19.8%であり、国際共著論文比率が一番低い分野である。


【図表4-1-4】 分野ごとの国際共著論文
(A)比率の推移
(B)研究ポートフォリオ8分野

注:
1)分析対象は、article, reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。
2)(A)の分野は(B)を使用。
3) ESI22分野は、http://incites-help.isiknowledge.com/incitesLive/ESIGroup/overviewESI/esiJournalsList.html (ESIMasterJournalList-022016)の雑誌単位の分類である。科学技術・学術政策研究所ではWeb of Sci-ence(SCIE)収録論文をEssential Science Indicators(ESI)のESI22分野分類を用いて再分類している。研究ポートフォリオ8分野には経済学・経営学、複合領域、社会科学は含めない。
資料:
トムソン・ロイター Web of Science XML(SCIE, 2015年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-1-4