概 要

 「科学技術指標」は、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき、体系的に把握するための基礎資料であり、科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の5つのカテゴリーに分類し、約150の指標で我が国の状況を表している。「科学技術指標2016」において、注目すべき指標を紹介する。

1.研究開発費から見る日本と主要国の状況

(1)日本の研究開発費総額は、米国、中国に続く規模であり、2014年では19.0兆円(OECD推計:17.5兆円)である。

 2014年の日本の研究開発費総額は、19.0兆円(日本(OECD推計):17.5兆円)である。2009年以降、ほぼ横ばいに推移していたが、前年から4.6%(日本(OECD推計):4.8%)増加した。米国は他国を圧倒しており、2013年では46.9兆円である。中国は2009年に日本を上回り、その後も増加し続けている。2014年では38.6兆円である。部門別では、主要国のいずれでも企業の占める割合が最も大きく、この傾向は日本をはじめとしたアジア諸国で顕著である。欧州主要国では比較的、企業以外の割合が大きい。


【概要図表1】 主要国における研究開発費総額の推移  
名目額(OECD購買力平価換算)

参照:科学技術指標2016図表1-1-1


【概要図表2】 主要国における部門別の研究開発費の使用割合

参照:科学技術指標2016図表1-1-6

(2)研究開発費における製造業と非製造業の重みは、国によって異なる。日本は製造業の占める割合が大きい。

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究開発費について、各国最新年からの3年平均で見ると、製造業の割合は日本、ドイツ、中国、韓国では9割弱である。他方、米国、英国では製造業の割合が7割、フランスは7割強であり、非製造業の重みが他国と比較すると大きい。


【概要図表3】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究開発費の割合 

参照:科学技術指標2016図表1-3-5

(3)日本における政府から企業への直接的支援は長期的に減少傾向である。間接的支援は増加傾向にあるが、その値は年によって大きく変化している。

 日本について政府からの直接的支援(企業の研究開発費のうち政府が負担した金額の対GDP比率)、間接的支援(企業の法人税のうち、研究開発税制優遇措置により控除された税額の対GDP比率)の推移を見ると、政府から企業への直接的支援は長期的には減少傾向にあり、近年は横ばいである。他方、間接的支援は、2004年に著しく増加し、その後2008年には減少し、2013年には再び増加している。研究開発税制優遇措置額の変化は、研究開発税制優遇措置の変更、市場経済(景気・不景気)の変化などによる。


【概要図表4】 日本における企業の研究開発のための政府による直接的、間接的支援の状況

参照:科学技術指標2016図表1-3-8

2.研究開発人材から見る日本の状況

(1)日本の労働力人口当たりの研究者数は、主要国のなかで高い水準にある。しかし、過去10年では、主要国の中では研究者数の伸びが小さい。

 研究開発資金と並んで重要なインプットが、研究者数である。日本の労働力人口当たりの研究者数(FTE(1))は、2000年代前半は主要国の中で最も高い値であったが、2009年には韓国が日本を上回った。主要国の中で、日本(FTE)は2014年時点でも高い水準にある。
 部門間のバランスに注目すると、欧州の主要国と比較して、日本、中国、韓国は企業の割合が高い。過去10年程度の変化を見ると、日本や英国ではどの部門でも大きな変化は見られない。他国は順調に労働力人口当たりの研究者数を増加させており、特に韓国における企業の労働力人口当たりの研究者数の増加が著しい。


【概要図表5】 労働力人口当たりの研究者数の推移 

参照:科学技術指標2016図表2-1-5


【概要図表6】 労働力人口当たりの部門別研究者数の推移

参照:科学技術指標2016図表2-1-7及び参考統計B

(2)研究者数における製造業と非製造業の重みにも、国によって違いが見られた。特に英国、フランスでは非製造業の割合が5割を超えている。

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者について、各国最新年からの3年平均で見ると、日本は製造業の割合が約9割、ドイツ、中国、韓国は約8割である。他方、米国は約6割、フランス、英国に関しては、製造業の割合が半分以下であり、非製造業の重みが他国と比較すると極めて大きい。概要図表3で見た研究開発費における製造業と非製造業のバランスと比べると、研究者の場合、非製造業の研究者数の比重が高く出る傾向にある。ただし、日本とドイツについては、研究開発費での製造業と非製造業のバランスは研究者でのバランスと一致している。


【概要図表7】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者数の割合 

参照:科学技術指標2016図表2-2-5

(3)日本の産業分類別従業員1万人当たり研究者数は、非製造業よりも製造業において多い。

 日本の産業分類別従業員1万人当たり研究者数は非製造業(53人)よりも、製造業(547人)において多く、最も多いのは製造業である「情報通信機械器具製造業」の2,052人である。次いで「業務用機械器具製造業」、「医薬品製造業」が続く。
 他方、非製造業で多いのは「通信業(553人)」、次いで「学術研究、専門・技術サービス業(308人)」であるが、製造業と比較すると少ない傾向にある。


【概要図表8】 日本の産業分類別従業員1万人当たりの研究者数(2015年)

参照:科学技術指標2016図表2-2-7

3.大学生から見る日本の状況

(1)非製造業(研究、教育を除く)に就職する理工系学生割合は、学部卒業者で72.0%、修士課程修了者で42.2%であり、長期的にその割合は増加している。他方、博士課程修了者については22.2%であり、過去10年で微減である。

 理工系学部卒業者のうち就職者を産業分類別に見ると、学部学生の「製造業」への就職割合は1980年代には50%台であったが、近年は継続して減少している。2015年では25.0%になっている。他方、非製造業(研究、教育を除く)は増加しており、2015年では72.0%である。
 理工系修士課程学生の就職者の場合、「製造業」への就職割合は、1980年代には70%台であったが、その後は減少傾向となった。2010年以降は50%台となり、2015年では55.6%となっている。他方、非製造業(研究、教育を除く)は増加しており、2015年では42.2%である。
 理工系博士課程学生の就職者の場合、「製造業」への就職割合は概ね30%前後で推移しており、2015年は28.3%である。「教育(学校へ就職した者など)」については1980年代半ばには50%に達したこともあったが、2000年代に入ると30%弱に減少し、2015年では31.9%である。また、「研究(学術・研究開発機関等へ就職した者など)」は2015年では17.6%である。他方、非製造業(研究、教育を除く)は、過去10年で微減しており、2015年では22.2%である。


【概要図表9】 理工系学生の産業分類別就職状況
(A)理工系学部卒業者

参照:科学技術指標2016図表3-3-4

(B)理工系修士課程修了者

参照:科学技術指標2016図表3-3-5

(C)理工系博士課程修了者

参照:科学技術指標2016図表3-3-6

注:
1)就職者数には「就職進学者」(進学しかつ就職した者)を含む。
2)サービス業関連の内訳は以下のとおり。
 教育:学校へ就職した者等。たとえば大学の教員になった者はこれに該当する。
 研究:学術・研究開発機関等へ就職した者等(2003年より計測)。
 上記以外:情報通信業、医療・福祉等
3)非製造業のうち「その他」は、建設業、卸売り・小売業、金融・保険業、公務等である。

(2)日本は、海外に送り出す学生数、受け入れている学生数のいずれも少ない。

 高等教育レベル(ISCED(2)レベル5~8)における外国人学生の出身国・地域と受入国・地域の関係を見ると、主要国の中で、最も多くの学生を世界に送り出しているのは中国であり、全世界の20.7%を占めている。これにドイツ(全世界の3.6%)が続く。他方、海外に送り出している学生が少ないのは英国であり、全世界の0.8%である。日本(1.0%)、米国(1.5%)も少ない。
 次に受入国・地域の側から見ると、最も多くの外国人学生を受け入れているのは米国であり、全世界の24.0%を占める。次に英国(12.8%)が多い。これにフランス(7.0%)、ドイツ(6.0%)、日本(4.2%)が続き、中国(3.0%)、韓国(1.7%)となっている。
 海外に数多くの学生を送り出している中国、韓国は、逆に受け入れている学生は少ない。対して、海外に学生をあまり送り出していない米国、英国は、受け入れている学生が多い。日本は、海外に送り出す学生数、受け入れている学生数のいずれも少ないことが分かる。


【概要図表10】 高等教育レベル(ISCEDレベル5~8)における外国人学生の出身国・地域と受入国・地域(2013年)

注:
1)ISCED2011におけるレベル5~8(日本の大学等(短大、高等専門学校も含む))に該当する学生を対象としている。
2)外国人学生とは、受入国・地域の国籍を持たない学生を指す。
3)中国には香港も含む。
参照:科学技術指標2016図表3-5-2

4.研究開発のアウトプットから見る日本と主要国の状況

(1)10年前と比較して、日本の論文数は横ばい傾向であるが、他国の論文数の拡大により順位を下げている。

 研究開発のアウトプットの一つである論文に着目すると、論文の生産への貢献度を見る分数カウント法では、日本の論文数(2012-2014年(PY)の平均)は、米、中に次ぐ第3位である。また、Top10%補正論文数では、米、中、英、独、仏、伊に次ぐ第7位であり、Top1%補正論文数では米、中、英、独、仏、加、豪、伊に次ぐ第9位である。
 10年前と比較して、日本の論文数は横ばい傾向であるが、他国の論文数の拡大により順位を下げていることが分かる。その傾向は、特にTop10%補正論文やTop1%補正論文といったインパクトの高い論文において顕著である。


【概要図表11】 国・地域別論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数:上位10か国・地域
(分数カウント法)

注:
分析対象は、article, reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。被引用数は、2015年末の値を用いている。
参照:科学技術指標2016図表4-1-6


(2)日本は10年前から引き続き特許数(パテントファミリー数)において、高い順位を保っており、その主たる出願先は継続して米国である。

 次に特許に着目し、各国・地域から生み出される発明の数を国際比較可能な形で計測したパテントファミリー数を見ると、1989-1991年は米国が第1位、日本が第2位であったが、1999-2001年時点、2009-2011年時点では日本が第1位、米国が第2位となっている。日本のパテントファミリー数の増加は、日本からの複数国への特許出願が増加したことを反映した結果である。
 主要国からの特許出願の国際的な広がりを見るために、パテントファミリーの出願先(自国への出願分は除く)を見ると、日本は米国への出願が43.0%を占めている。過去10年で中国への出願割合が増えるのに伴い、欧州への出願割合の重みは低下している。米国ではアジアへの出願割合を増加させており、近年、中国への出願割合が増加している。英国はドイツと比べると欧州特許庁よりも米国への出願割合が高くなっている。中国からの出願では米国への出願割合が増加している。

【概要図表12】 主要国・地域別パテントファミリーの状況
(A)パテントファミリー数(上位10か国・地域)

参照:科学技術指標2016図表4-2-5

(B)主要国・地域別パテントファミリーの出願先

注:
1)自国への出願分は除いている。
2)パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2カ国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。
参照:科学技術指標2016図表4-2-11

5.科学技術とイノベーションから見る日本と主要国の状況

(1)日本と米国は相互に技術依存の関係があるが、日本の場合、米国依存がより顕著である。

 日本の技術輸出における最大の取引相手は米国である。親子会社、親子会社以外で見ても同様である。他方、米国の関連会社以外での技術輸出における最大の取引相手は台湾である。ただし、関連会社間での取引ではアイルランドが最も大きい。アイルランドは企業の法人税がEU内で最も安い国・地域(2014年時点)であり、関連会社間での技術貿易は技術力以外の要因も含むことがわかる。
 日本の技術輸入における最大の取引相手は米国であり、親子会社、親子会社以外で見ても同様である。また、米国の技術輸入における最大の取引相手は日本であり、関連会社、関連会社以外で見ても同様である。特に技術輸入については、日本の米国への依存が顕著である。

【概要図表13】 日本と米国の相手先国・地域別技術貿易額(2014年)
(A)日本
(B)米国

注:
1)日本は年度である。
2)日本と米国の親子会社(関連会社)については定義が違うので国際比較する際には注意が必要である。両国の違いについては以下のとおり。
<日本>親子会社とは出資比率が50%超の場合を指す。
 日本の技術貿易の種類は①特許権、実用新案権、著作権、②意匠権、③各技術上のノウハウの提供や技術指導(無償提供を除く)、④開発途上国に対する技術援助(政府からの委託によるものも含む)である。
<米国>関連会社とは直接または間接に10%以上の株式あるいは議決権を保有している関連会社等を指す。
 米国の技術貿易の種類は①Industrial processes ②Computer software ③Trademarks ④Franchise fees ⑤Audio-visual and related products ⑥Other intellectual propertyである。
参照:科学技術指標2016図表5-1-5

(2)日本の親子会社以外の技術貿易収支比の増加は、日本の技術競争力が高まってきたことを示している。

 日本と米国における親子会社(関連会社)以外の技術貿易収支比を見ると、1前後で推移していた日本は、2000年代後半から増加し始め、2014年では2.3にまで上昇している。これは、時系列で見て相対的な日本の技術競争力が高まってきたことを示している。米国は4前後で推移しており、2014年では3.5である。


【概要図表14】 日本と米国における親子会社(関連会社)以外の技術貿易収支比 

注:
概要図表13と同じ。
参照:科学技術指標2016図表5-1-2

(3)プロダクト・イノベーションの実現割合は、研究開発活動を実施しなかった企業より、実施した企業の方が高い。

 研究開発活動の実施の有無別にプロダクト・イノベーション(自社にとって新しい製品・サービスを導入すること)を実現した企業の割合を見ると、全ての国において、研究開発を実施した企業の方が、プロダクト・イノベーションを実現した企業の割合が高い。最も高い国はドイツであり76.9%、次いでフランスが76.0%、日本は71.0%となっている。


【概要図表15】 主要国のプロダクト・イノベーション実現企業割合(研究開発活動実施別) 

注:
1)イノベーション調査の産業分類について、韓国は製造業を対象としている。その他の国はCIS2010が指定した中核対象産業のみを対象としており、全体の値を国際比較する際には注意が必要である。
2)英国の「全体」の数値は掲載していない。
参照:科学技術指標2016図表5-4-2

(4)プロダクト・イノベーションの実現割合は、サービス業より製造業の方が高い。日本のプロダクト・イノベーション実現割合は、製造業、サービス業のいずれも欧州諸国と比べて低い。

 製造業とサービス業における企業のプロダクト・イノベーションを実現した企業の割合は、いずれの国でも製造業の方が高い。なお、製造業とサービス業において、プロダクト・イノベーション実現企業割合の差が大きい国は韓国であり、最も差が少ないのは英国である。


【概要図表16】 主要国のプロダクト・イノベーション実現企業割合(製造業とサービス業)

注:
英国の「全体」の数値は掲載していない。
参照:科学技術指標2016図表5-4-3

(5)いずれの国でも、プロダクト/プロセス・イノベーション活動実施企業は外部情報源として、市場からの情報を重要視している。

 主要国のプロダクト/プロセス・イノベーション活動実施企業が、非常に重要とした外部情報源を「市場(サプライヤー、顧客、競合他社等)」と「機関(高等教育機関、政府機関)」に分類して見ると、いずれの国でも「市場」の方が大きく、60%から40%の企業が非常に重要であるとしている。他方、「機関」からの情報については、いずれの国でも10%程度の企業が非常に重要な情報源としている。


【概要図表17】 主要国のプロダクト/プロセス・イノベーション活動実施企業の外部情報源 

注:
プロダクト/プロセス・イノベーション活動を実施(継続、中断も含む)した企業を対象としている。
参照:科学技術指標2016図表5-4-5

科学技術指標の特徴

 科学技術指標は、毎年刊行しており、その時点での最新値を紹介している。原則として毎年データ更新され、時系列の比較あるいは主要国間の比較が可能な項目を収集している。

  • 各国が発表している統計データを使用
     科学技術指標で使われている指標のデータソースは、出来る限り各国が発表している統計データを使用している。また、各国の統計の取り方がどのようになっていて、どのような相違があるかについて、極力明らかにしている。
  • 論文・特許データベースについて当研究所独自の分析の実施
     論文データについては、トムソン・ロイター社Web of Science XMLの書誌データを用いて、当研究所で独自の集計をし、分析している。また、集計方法も詳細に記載し、説明している。
     特許関連の指標のうち、パテントファミリーのデータについては、PATSTAT(欧州特許庁の特許データベース)の書誌データを用いて、当研究所で独自の集計をし、分析している。また、集計方法も詳細に記載し、説明している。
  • 国際比較や時系列比較の注意喚起マークの添付
     必要に応じ、グラフに「国際比較注意」「時系列注意」という注意喚起マークを添付してある。各国のデータは基本的にはOECDのマニュアル等に準拠したものであるが、実際にはデータの収集方法、対象範囲等の違いがあり、比較に注意しなければならない場合がある。このような場合、「国際比較注意」マークがついている。また、時系列についても、統計の基準が変わるなどにより、同じ条件で継続してデータが採られておらず、増減傾向などの判断に注意する必要があると考えられる場合には「時系列注意」というマークがついている。なお、具体的な注意点は図表の注記に記述してあるので参照されたい。
  • 統計集(本報告書に掲載したグラフの数値データ)のダウンロード
     本報告書に掲載したグラフの数値データは、以下のURLからダウンロードできる。
      https://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-indicators-and-scientometrics/indicators


(1)研究者数の測定方法として、実数(HC: Head Count)によるものと、研究に従事した割合を考慮した(FTE: フルタイム換算)の2種類がある。主要国の研究者数はFTEによって計測されているので、日本と他国との比較を行う際は日本(FTE)を用いるのが適当である。
(2)UNESCOが開発した教育の国際標準分類(ISCED:International Standard Classification of Education)であり、最新版はISCED2011である。