5.2ハイテクノロジー産業貿易及びミディアムハイテクノロジー産業貿易

ポイント

  • 主要国のハイテクノロジー産業貿易額を見ると中国が急速に増加している。2000年代後半になると、ハイテクノロジー産業輸出額が米国を上回り、2012年には輸入額も上回った。
  • 日本のハイテクノロジー産業貿易は、1990年後半では、黒字幅も大きかったが、2000年代に入ると輸出額は横ばいに推移している一方で、輸入額は増加し続けている。「電子機器」は出超ではあるが減少している。また、「航空・宇宙」と「医薬品」は一貫して輸入超過である。
  • 日本のハイテクノロジー産業貿易収支比を見ると、2012年の日本の収支比は0.94であり、1を下回り、初めて入超となった。
  • 2013年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は3.04であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にあるが、他国より大きく出超である。

(1)ハイテクノロジー産業貿易

 ハイテクノロジー産業の貿易額は、技術貿易のように科学技術知識の直接的なやり取りについてのデータではないが、実際に製品開発に活用された科学技術知識の間接的な指標である。なお、ここでいうハイテクノロジー産業とはOECDの定義(「研究開発集約産業(R&D - intensive industries)」と呼ばれる場合もある)に基づいている。昨年版の科学技術指標2013では5つの産業をハイテクノロジー産業としていたが、OECDは国際標準産業分類(ISIC)の改訂に伴い(ISIC Rev.3→ISIC Rev.4)、ハイテクノロジー産業を「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」の3つの産業に変更した。そのため昨年版とは産業の種類が異なることに注意されたい。
 図表5-2-1に、ハイテクノロジー産業の貿易額(輸出額と輸入額)のOECD加盟国34と非加盟国・地域(3)7についての合計額(4)の推移を示した。これを全世界のハイテクノロジー産業貿易と考えることとする。これを見ると、2009年にはハイテクノロジー産業貿易の規模が縮小されたが、2010、2011年とその規模は大きくなっている。内訳を見ると、「電子機器」の貿易額が最も大きく、その割合も約7割を占める。


【図表5-2-1】 OECD加盟国34と非加盟国・地域7のハイテクノロジー産業の貿易額の推移

注:
非加盟国・地域はアルジェリア、中国、ロシア、シンガポール、ルーマニア、南アフリカ、台湾。
資料:
OECD,“Main Science and Technology Indicators 2013/2”

参照:表5-2-1


 図表5-2-2は主要国のハイテクノロジー産業貿易額の推移である。これを見ると中国が急速に増加しているのが目立つ。2000年代後半になると、ハイテクノロジー産業輸出額が米国を上回り、2012年には輸入額も上回った。
 国別に状況を見ると、日本のハイテクノロジー産業貿易は、1990年後半では、黒字幅も大きかったが、2000年代に入ると輸出額は横ばいに推移している一方で、輸入額は増加し続けている。「電子機器」は出超ではあるが、減少している。また、「航空・宇宙」と「医薬品」は一貫して輸入超過である。
 米国のハイテクノロジー産業貿易は輸出、輸入額ともに拡大している。2000年代に入り、輸入額が輸出額を大きく上回るようになり、赤字が続いている。米国は「電子機器」、「医薬品」が入超であり、「航空・宇宙」が大きく出超である。
 ドイツはハイテクノロジー産業貿易の額を拡大させ、2000年代に入ると日本を上回っている。「電子機器」の額が大きいが収支は均衡している。また、「医薬品」も大きく、「航空・宇宙」ともに出超である。
 フランスは「航空・宇宙」の輸出額が大きく、貿易収支比も高い。また、「医薬品」も出超である。
 英国は2000年代に入り、輸出額は横ばいとなり、輸入額は2000年代後半から横ばいに推移している。「医薬品」は出超であるが、「電子機器」は入超であり、赤字幅は広がっている。
 中国はハイテクノロジー産業貿易の輸出、輸入額ともに著しく拡大し、2000年代後半に入ると輸出額は米国を上回り、大きく伸び続けている。特に「電子機器」の輸出額の増加が激しい。
 韓国のハイテクノロジー産業貿易額は輸出入ともに拡大し、特に輸出額の伸びが著しく、「電子機器」の増加が目立つ。
 昨今、経済発展が著しいBRICsのデータを見ると、ロシア、ブラジル、インドともに輸入額が大きく、増加も著しい。ロシアについては「航空・宇宙」が出超である。ブラジルについても「航空・宇宙」のみ出超である。インドでは「医薬品」の輸出額が著しく伸びており、黒字幅を広げている。


【図表5-2-2】 主要国におけるハイテクノロジー産業貿易額の推移

資料:
<日本、米国、ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、ロシア>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2013/2”
<ブラジル、インド>OECD,“STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.4”

参照:表5-2-2


 図表5-2-3に、ハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。2012年の日本の収支比は0.94であり、1を下回り、初めて入超となった。
 米国の収支比は1前後に推移していたが、2000年頃から減少傾向にあり、2011年では0.77となっている。ドイツ、フランス、英国は長期的に貿易収支比が均衡していたが、2000年代に入ると英国は1を下回り、減少傾向が続いている。一方、ドイツは1を上回っている。また、中国、韓国は長期的に収支比を上昇させており、韓国は主要国中、最も収支比が高い。


【図表5-2-3】 主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-2と同じ。

参照:表5-2-3


(2)ミディアムハイテクノロジー産業貿易

 ミディアムハイテクノロジー産業貿易の状況を把握する事は、ハイテクノロジー産業貿易の状況を把握する事と同様に重要である。
 ここでいうミディアムハイテクノロジー産業とはOECDの定義に基づいており、「化学(医薬品を除く)」、「一般機械」、「電気機械(情報通信機器を除く)」、「自動車」、「その他輸送」といった産業を指す。
 図5-2-4を見ると、ミディアムハイテクノロジー産業貿易の輸出額ではドイツが最も大きく、次いで米国であり、日本も存在感を示しているが、近年では中国の輸出額が日本を上回っている。
 一方、輸入額について見ると、米国が最も大きい。ドイツも大きいが近年では中国が追い越している。
 各国別に見ると、日本は輸出額では、「自動車」、「一般機械」が大きく、2000年代後半から急激に伸びている。
 米国については輸入額において「自動車」の大きさが目立つ。
 ドイツの輸出額は「自動車」が最も多くを占めていたが、2000年代後半になると「一般機械」も急激に増加している。
 フランスでは輸出額において、「自動車」が最も大きかったが、近年では「化学(医薬品を除く)」が上回っている。英国については、フランスの逆の傾向にある。
 中国においては輸出額では「一般機械」、「電気機械(情報通信機器を除く)」が、輸入額では「化学(医薬品を除く)」が急激に増加している。
 韓国の輸出額については「自動車」と「化学(医薬品を除く)」が大きく伸びている。
 ロシア、ブラジル、インドについては、その他の国と比較すると規模が小さい。また入超である。


【図表5-2-4】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業貿易額の推移

資料:
STAN Bilateral Trade in Goods by Industry and End-use (BTDIxE), ISIC Rev.3

参照:表5-2-4


 図表5-2-5に、ミディアムハイテクノロジー産業全体の貿易収支比の推移を示した。
 2013年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は3.04であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にあるが、他国より大きく出超である。
 次いで、韓国の収支比は長期的に増加傾向にあり、2013年では1.97を示している。
 ドイツの2013年の収支比は1.91であり、継続的に出超であり、ほぼ横ばいに推移している。
 中国の収支比は、長期的に見ると増加しているが、中国が出超となったのは2000年代後半からである。フランスの収支比は、推移を見ても大きな変化は見られず、1.0前後で推移している。
 英国の収支比は、1991年以外は入超で推移している。
 米国の収支比は未だ1を超えたことはない。


【図表5-2-5】 主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

資料:
図表5-2-4と同じ。

参照:表5-2-5



(3)アルジェリア、中国、ロシア、シンガポール、ルーマニア、南アフリカ,台湾
(4)各国が自国以外に対して貿易を行った額を合計したもの。