5.3商標出願と三極パテントファミリー

ポイント

  • 商標の出願数は、新製品や新たなサービスの導入、あるいはそれらのマーケティング活動などと関係しており、イノベーションと市場の関係を反映したデータであると考えられる。これを、イノベーションの技術的側面を示す特許出願数と併せて見ることにより、各国のイノベーションの性格がうかがえる。
  • 国境を越えた商標出願数と三極パテントファミリー(日米欧に出願された同一内容の特許)数について、人口100万人当たりの値で比較すると、2010~2012年の日本については三極パテントファミリー数が多く、商標出願数は相対的に少ない。また、韓国も相対的に商標出願数が少ない。なお、ドイツについても三極パテントファミリー数の方が大きいが、商標出願数も少なくない。一方、米国、フランス、英国については商標出願数の方が三極パテントファミリー数より多い。

 図表5-3は主要国の国境を越えた商標の出願数と三極パテントファミリー数である。両方の値とも各国の人口数で規格化されている。
 企業が市場に新製品や新サービスを出す場合、市場の中で差別化を行うことを目的として商標は出願される。そのため、商標の出願数は、新製品や新サービスの導入という形でのイノベーションの具現化、あるいはそれらのマーケティング活動と関係があり、その意味で、イノベーションと市場の関係を反映したデータであると考えられる。
 ここでいう国境を越えた出願とは、外国へ出願した商標を意味する。商標を出願する際には自国への出願が多くなる傾向があり、また、国の規模や制度の違いにより出願数に差異があるため、日、独、仏、英、韓では、米国特許商標庁へ、米国については日本と欧州へ出願した商標の数を補正した値を使用した(図表5-3注:1参照のこと)。
 特許については国の技術力を示す指標として使用されている。特許も自国への出願の有利さがあり、また、地理的位置の影響のためにバイアスがかかる事があるため、それらの影響を受けにくい三極パテントファミリー数を使用した。
 2010~2012年の状況を見ると、日本、ドイツ、韓国については商標出願数よりも三極パテントファミリー数が多い。特に日本については、その状況が顕著である。
 一方、商標出願数の方が三極パテントファミリー数より多い国は、米国、フランス、英国である。特に英国はその状況が顕著である。
 製造業に強みを持つ国や、情報通信産業に特化した国では、商標よりも特許の出願数が多くなり、一方、サービス業の比重が多い国では、商標出願数が多くなる傾向があるとされており、そのような各国の特徴がデータに現れていると考えられる。
 また、商標、パテントファミリー共に国際的な出願に関するデータを用いているため、日本の場合、製造業とサービス業で国際的な事業展開が異なる事が、データに影響していると考えられる。
 次に、2002~2004年と2010~2012年と比較して見ると、各国共に、商標、三極パテントファミリー数のバランスに変化はないが、日本、フランス、韓国は商標、三極パテントファミリー数ともに増加している。
 米国は商標が横ばい、三極パテントファミリー数は増加しており、ドイツは商標が減少、三極パテントファミリー数は増加しており、英国は商標が増加、三極パテントファミリー数は減少している。


【図表5-3】 人口100万人当たりの国境を越えた商標出願と三極パテントファミリー

注:
1)*国境を越えた商標の意味は以下のとおり。
日本、ドイツ、フランス、英国、韓国の商標数については米国特許商標庁(USPTO)に出願した数。
米国の商標数については①と②の平均値。
 ①欧州共同体商標意匠庁(OHIM)に対する日本と米国の出願比率を基に補正を加えた米国の出願数=(米国がOHIMに出願した数/日本がOHIMに出願した数)×日本がUSTPOに出願した数。
 ②日本特許庁(JPO)に対する欧州と米国の出願比率を基に補正を加えた米国の出願数=(米国がJPOに出願した数/EU15がJPOに出願した数)×EU15がUSTPOに出願した数。
2)3年平均値である
資料:
商標出願数:WIPO, “WIPO statistics database”(Last updated: January 2014)
三極パテントファミリー数:OECD,“Main Science and Technology Indicators 2013/2”

参照:表5-3