第2章 研究開発人材

 科学技術活動を支える重要な基盤である人材を取り扱う。この章では研究開発人材、すなわち、研究者、研究支援者について、日本及び主要国の状況を示す。研究者数に関する現存のデータには、各国の研究者の定義や計測方法が一致していないなどの問題があり、厳密な国際比較には適していないとも言えるが、各国の研究者の対象範囲やレベルなどの差異を把握した上で各国の状況を把握することはできる。

2.1各国の研究者数の国際比較

ポイント

  • 2011年の日本の研究者数は、大学の研究者数をフルタイム換算した場合66万人、ヘッドカウントの場合89万人であり、近年横ばいに推移している。
  • 中国の研究者数は、2000年代に入り、急増していたが、2009年からはOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って測定し始めたことにより、2008年値よりかなり低い数値となっている。
  • 各国の研究者数を部門別に見ると、各国ともに企業部門が大きな割合を占めている。なお、女性研究者数を部門別に見ると、各国ともに企業部門に占める女性研究者数の割合は小さい。
  • 日本の研究者のうち、博士号取得者の割合を見ると、2011年の全体での割合は20.3%である。部門別見ると、「大学等」についての割合が大きく、同年で59.3%、次いで「公的機関」となっており43.5%である。両部門ともに増加傾向にある。一方で、「企業等」については4.2%、ほとんど変化もなく、横ばいに推移している。
  • 日本(大学・公的機関)と米国(大学)におけるポストドクターの外国人割合を見ると、日本の外国人比率は23.2%、一方、米国では53.1%である。
  • 日本の研究者の新規採用者数は2009年をピークに減少している。近年、減少が激しいのは「企業等」である。

2.1.1各国の研究者の測定方法

 「研究者」とはOECD「フラスカティ・マニュアル」によると「新しい知識、製品、プロセス、方法及びシステムの着想または創造に従事する専門家、並びにこれらに関係するプロジェクトのマネジメントに従事する専門家」(1)とされている。
 研究者数を計測する場合、研究開発費と同様に、質問票調査を行い、計測しているが、一部の国の部門によっては別の統計データを使用しているところもある。また、研究者を数える場合、二つの方法がある。ひとつは研究業務をフルタイム換算(FTE:full-time equi-valents)し、計測する方法(2)である。この場合のFTEとは研究開発活動とその他の活動を区別し、実際に研究開発活動に従事した時間を研究者数の測定の基礎とするものである。研究者の活動内容を考慮し、研究以外の活動に当てた時間を除いて研究者数を数える方法であり研究者数の計測方法として国際的に広く採用されている。(3)
 もうひとつは研究開発活動とその他の活動を兼務している業務内容であっても、すべてを研究開発活動とみなし、実数(HC:head count)として計測する方法である。
 図表2-1-1は各国の研究開発費の使用部門と同様の4部門について、研究者の定義、測定方法を、表したものである(各国のデータはFTE値である。HC値の場合のみ、記述している)。各国ともに上述しているOECD「フラスカティ・マニュアル」の研究者の定義を基に研究者を質問票調査で測定し、計測しているが、部門によっては質問票調査を行っていなかったり、FTE計測をしていなかったりと、国や部門によって差異がある。特に大学部門の研究者の計測には国による違いが見える。  日本では総務省が行っている研究開発統計(科学技術研究調査)で研究者数を計測しているが、研究者をFTEで計測し始めたのは2002年からである。
 図表2-1-2(A)は2001年以前の研究者の測定方法であり、FTEでもHCでもない。①に○がついている人数を研究者数として計上している。
 2002~2007年の測定方法については、図表2-1-2(B)に示す。FTE研究者数の測定方法は②に○がついている人数を計上している。HC研究者については③に○がついている人数を計上している。
 また、2008年以降は新しいFTE調査により得られたFTE係数を用いている(図表2-1-2(C))。
 このように日本の研究者については、以上3つを研究者数として示した。


【図表2-1-1】 各国の部門別研究者の定義及び測定方法

注:
1)研究開発統計調査からデータを計上しているが、*は研究開発統計以外の統計調査からなるデータである。
2)各国とも研究開発統計調査ではFTE計測をしているが、していない部門では(HC)と示した。
3)日本の大学の②博士課程在籍者は後期(3~5年)の者。
4)米国の大学部門については①経済的支援を受けている博士課程在籍者の50%を計上することによって、FTE研究者を計算している。
5)ドイツは公的機関部門と非営利団体部門が一緒である。大学部門については①HCの教員にFTE係数をかけることによって、FTEの研究者を計算している。
6)研究者とだけ表記している部門についての研究者の定義及び測定方法は得られなかった。
7)米国については1999年までの研究者の測定方法による。
資料:
科学技術政策研究所、「主要国における研究開発関連統計の実態:測定方法についての基礎調査」(2007.10)
総務省、「科学技術研究調査報告」


【図表2-1-2】 日本の研究者の測定方法
(A)2001年以前


(B)2002年~2007年まで


(C)2008年以降


注:
1)①2001年以前の研究換算をしていない「研究を主にする者」、②2002年以降の「研究を主にする者」と「研究を兼務する者のうちFTEした者(FTE)」、③2002年以降の「研究を主にする者」と「研究を兼務する者(HC)」。
2)大学等にある数値はFTE係数。該当する人数にFTE係数をかけて計測している。
①2002~2007年:2002年に文部科学省で実施された「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」の結果を用いた。ただし、「医局員・その他の研究員」については「教員」と同じFTE係数を使用している。
②2008年~:2008年に文部科学省で実施された「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」の結果を用いた。
資料:総務省、「科学技術研究調査報告」

2.1.2各国の研究者数の動向

 日本の研究者数は2011年において66万人、HC値は89万人である。日本は2008年以降、FTEの研究者数を計算するための係数を変更している。そのため2007年と2008年のFTE値の継続性は損なわれている。
 米国の研究者数は、大学部門は1999年まで、公的機関・非営利団体部門は2002年までしか、公表されていない。このため2000年以降の総研究者数はOECDによる見積もり数値である。
 ドイツは企業部門、公的機関・非営利団体部門では研究開発統計調査を実施しているが、大学部門に関しては教育統計から計測しており、研究者のFTE値は、学問分野毎のFTE係数を使用して推測している。1990年の東西統一の影響を受けて1991年に研究者数が増加したため、データの継続性は損なわれている。
 フランスはすべての部門で研究開発統計調査を行い、研究者数を計測している。
 イギリスでは、大学部門については研究開発統計調査を実施していなかったため、1999年以降の総研究者数はOECDの見積もり数値であった。しかし最近イギリスが大学部門の研究者数を公表し始めて、2005年からの数値が公開されている。
 中国は研究開発統計データが公表されているが、統計調査の詳細はわからない。また、2009年からはOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って収集し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となっている。
 韓国は部門ごとに研究開発統計調査を実施しているが、2006年までは対象分野が「自然科学」に限っており、2007年から全分野を対象とするようになった。近年はフランスを上回っている。

【図表2-1-3】 主要国の研究者数の推移 

注:
1)国の研究者数は各部門の研究者の合計値であり、各部門の研究者の定義及び測定方法は国によって違いがある場合があるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の定義の違いについては図表2-1-1を参照のこと。
2)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3)人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
<日本>
 ①2001年以前の値は該当年の4月1日時点の研究者数、2002年以降の値は3月31日時点の研究者数を測定している。
 ②「日本*」は図表2-1-2(A)①の値。
 (研究者の研究換算の統計を取っていない「研究を主とする者」の人数。なお、所属機関外の研究者数はカウントしていない)
 ③「日本(HC)」は図表2-1-2(B)の②の値。(「研究を主とする者」と「研究を兼務する者」の数。ただし、大学等の研究者数は前記に「学外からの研究者」を含む)
 ④「日本」のFTE値の2007年までは図表2-1-2(B)の値
 (2002年に実施された「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」の結果を用いてFTE値を計算した「大学等」の値と「企業等」、「公的機関、非営利団体」については「研究を主とする者」と「研究を兼務する者のうちFTEした者」を計測している)
 ⑤「日本」のFTE値の2008年以降は図表2-1-2(C)の値
 (2008年に実施された「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」の結果を用いてFTE値を計算した「大学等」の値と「企業等」、「公的機関、非営利団体」については「研究を主とする者」と「研究を兼務する者のうちFTEした者」を計測している)
<米国>2000年以降は各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。
<ドイツ>1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。2010年は各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。
<イギリス>1999年以降は各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。2005年から計測方法を変更し、国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。2010年は暫定値。
<中国>2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
<EU>各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。2009、2010年は暫定値
資料:<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」、文部科学省、「大学におけるフルタイム換算データに関する調査(2002年、2008年)」
<米国>NSF,"National Patterns of R&D Resources 1995,1998,2002 Data Update"、2000年からは、OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung, "Bundesbericht Forschung 1996,2000,2004","Forschung und Innovation in Deutschland 2007","Bundesbericht Forschung und Innovation 2008,2010", 2008年以降はOECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<フランス、イギリス、中国、EU>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<韓国>KISTEP、科学技術統計DB(webサイト)
参照:表2-1-3


 次に、研究者数の相対値、すなわち人口当たりの研究者数(図表2-1-4)によって各国の規模を考慮した国際比較を試みる。日本は、2002年以降の値で見ると、米国よりも高い値となっており、ヨーロッパ諸国の約2倍となっている。ただし、日本のFTE値は2007年から2008年にかけて研究者のFTE係数を変更しているためFTE値の継続性が損なわれている。
 伸び具合を見ると一番大きく伸びているのは韓国であり、特に2004年以降の伸びは著しい。ヨーロッパ諸国は長期的に見て漸増傾向にある。 また、労働力人口当たりの研究者数(図表2-1-5)について見ても日本の値が大きい。伸び具合を見ると、人口当たり研究者数の推移との差はあまりないように見えるが、フランスの値が近年増加傾向にあるのが見える。

【図表2-1-4】 主要国の人口当たりの研究者数の推移 

注:
国際比較注意及び研究者数については図表2-1-3、人口は参考統計Aと同じ。
資料:
国際比較注意及び研究者数については図表2-1-3、人口は参考統計Aと同じ。
参照:表2-1-4


【図表2-1-5】 主要国の労働力人口当たりの研究者数の推移 

注:
国際比較注意及び研究者数は図表2-1-3、労働力人口は参考統計Bと同じ。
資料:
国際比較注意及び研究者数は図表2-1-3、労働力人口は参考統計Bと同じ。
参照:表2-1-5

2.1.3各国の研究者の部門別の動向

(1)各国の研究者の部門別内訳

 各国の研究者数を研究開発費の使用部門と同様に、「企業」、「大学」、「公的機関」、「非営利団体」に分類し研究者数の状況、経年変化を見る。
 2.1.1で述べたように部門別の研究者数の国際比較は困難が伴うが、この節では現時点で入手可能なデータを使用し、各国の特徴を見てみる。
 イギリス以外の国では企業部門の割合が一番大きく、次いで大学部門、公的機関部門、非営利団体部門となっている。
 大学部門の割合については、イギリスは大きく、韓国では比較的小さい割合である(図表2-1-6)。
 次に、研究者数の部門別の推移を見ると(図表2-1-7)、イギリス以外の国では、企業部門の研究者数が多くを占めており、総研究者数の増加は企業部門の影響が大きいことがわかる。特に工業新興国である中国、韓国では企業部門の研究者数の増加が著しい。なお、中国については、2009年からはOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って収集し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となっている。一方、イギリスは他国と比較すると、企業部門の増加が顕著ではない。また、公的機関部門も減少しているが、これは一部公的機関が企業部門に移行したためと考えられる。

【図表2-1-6】 主要国における研究者数の部門別内訳 

注:
1)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
2)人文・社会科学を含む。
3)各国の非営利団体は研究者数全体から、企業等、大学等、公的機関を除いたもの(日本は除く)。
<米国>表記年は、各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。
<ドイツ>公的機関は非営利団体を含む。表記年は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。
<イギリス、EU>表記年は、暫定値(provisional)。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」、文部科学省、「大学におけるフルタイム換算データに関する調査(2002年、2008年)」
<米国、ドイツ、フランス、イギリス、中国、韓国、EU>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2011/2
参照:表2-1-6


【図表2-1-7】 部門別研究者数の推移 
(A)日本*
(B)日本
(C)日本(HC)
(D)米国
(E)ドイツ
(F)フランス
(G)イギリス
(H)中国 
(I)韓国
(J)EU-15
(K)EU-27

注:
1)国際比較注意については図表2-1-3を参照のこと。
2)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3)人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
4)日本の研究者については図表2-1-3を参照のこと。
5)米国の2000年以降の大学と非営利団体は研究者数全体から企業、公的機関を除いたもの。
6)ドイツの1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。最新年は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。
7)フランス、イギリス、中国、韓国、EUの非営利団体は研究者数全体から、企業等、大学等、公的機関を除いたもの。
8)中国の2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
9)イギリスの2010年、EUの2010,2011年は暫定値(provisional)。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」文部科学省、「大学におけるフルタイム換算データに関する調査(2002年、2008年)」
<米国>NSF,"National Patterns of R&D Resources 1995,1998,2002 Data Update"、2000年からは、OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung, "Bundesbericht Forschung 1996,2000,2004","Forschung und Innovation in Deutschland 2007","Bundesbericht Forschung und Innovation 2008,2010", 2008年以降はOECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<フランス、イギリス、中国、韓国、EU>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
参照:表2-1-7

(2)日本における博士号を持つ研究者

 2.1.1で前述しているように、研究者の定義については、特に学術的な資格の有無が要件とされているわけではない。しかしながら、国によっては、研究者の定義に「博士以上の学位保有者と同等以上の専門知識を持っている者」などと、より具体的な条件を明確に付けている国もある。博士号を持っている研究者の数を見る事は、高度な知識を持つ人材としての研究者数を見る指標の一つと考えられる。
 日本の研究者における博士号取得者の状況を見ると(図表2-1-8(A))、2011年で15.8万人である。各部門の博士号取得者数が最も多い部門は「大学等」であり、増加傾向にある。最も少ないのは「非営利団体」であるが、そもそも非営利団体の研究者数は他の部門と比較するとかなり少ない。「公的機関」、「企業等」も少なく、いずれも、その伸びはほぼ横ばいに推移している。
 また、各部門の研究者(博士課程在籍者は除く)のうちの博士号取得者の割合を見ると(図表2-1-8(B))、2011年の全体での割合は20.3%である。部門別見ると、「大学等」についての割合が大きく、同年で59.3%、次いで「公的機関」では43.5%である。両部門ともに増加傾向にある。また、非営利団体も、その伸びは大きい。一方で、最も少ないのは「企業等」であり、2011年で4.2%、2002年と比較しても、変化も少なく、横ばいに推移している。

【図表2-1-8】 各部門における博士号を持つ研究者の状況(HC)
(A)博士号取得者数の推移
(B)研究者に占める博士号取得者の割合

注:
「大学等」の研究者は、「教員」、「医局員その他の研究員」を対象とし「大学院博士課程在籍者」を除いている。
資料:総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-8

2.1.4各国女性研究者

 各国の女性研究者の割合を比較する。研究者の多様性向上の観点からも女性研究者の活躍が期待されている。また、女性研究者の活躍促進は科学技術基本計画の基本方針の一つでもある。
 女性研究者数の全体に占める割合はHC値を用いて計測している。また、米国は厳密な意味での女性研究者の数値がなく、イギリスは同国が推計したデータである。
 我が国の女性研究者の全研究者数に占める割合は2011年で13.8%である。その割合は、調査国中、最も小さいが、その数で見ると、ロシア、イギリスに次いで3位である。(図表2-1-9)。
 各国の女性研究者の割合を部門別に見ると、どのような違いがあるのだろうか。入手できた主要国の女性研究者の総研究者数に占める割合を部門別に見る(図表2-1-10)。
 ドイツは公的機関部門と非営利団体部門が一緒である。
 各国とも女性研究者の割合が小さいのは企業部門である。大学部門では比較的、各国とも割合が大きい。また、フランス、イギリス、韓国では非営利団体の割合の大きさも目立つ。
 日本の2011年の値を見ると、大学部門が大きく、24.3%である。また一番小さい部門は企業部門で7.5%であり、今後の企業部門での女性の活躍が望まれる。

【図表2-1-9】 女性研究者数の割合(HC値比較)

注:
1)日本は2011年、スイスは2008年、その他の国・地域は2009年である。
2)実数である。
3)下記資料中に米国、中国のデータはない。
5)イギリスの値は国の見積もりまたは推定値。
6)ロシアの値は過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<その他>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
参照:表2-1-9


 各国の女性研究者の割合を部門別に見ると、どのような違いがあるのだろうか。入手できた主要国の女性研究者の総研究者数に占める割合を部門別に見る(図表2-1-10)。
 ドイツは公的機関部門と非営利団体部門が一緒である。
 各国とも女性研究者の割合が小さいのは企業部門である。大学部門では比較的、各国とも割合が大きい。また、フランス、イギリス、韓国では非営利団体の割合の大きさも目立つ。
 日本の2011年の値を見ると、大学部門が大きく、24.3%である。また一番小さい部門は企業部門で7.5%であり、今後の企業部門での女性の活躍が望まれる。

【図表2-1-10】 主要国の女性研究者数の部門ごとの割合
(A)日本(2011年)
(B)ドイツ(2009年)
(C)フランス(2009年)
(D)イギリス(2009年)
(E)韓国(2010年)

注:
フランスの公的機関の値は防衛関係は除く。
イギリスの企業の値は国家の見積もり又は推定値。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<その他の国>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
参照:表2-1-10


 次に日本の女性研究者数及び全研究者数に占める割合の推移を見ると(図表2-1-10)、女性研究者の数は2010年時点では121,141人であり、1992年と比較すると2.5倍の増加となっている。過去の推移を見ると、女性研究者数及びその割合は、ほぼ一貫して増加傾向にある。他国と比較すると女性研究者の数が多いとは言い難いが、我が国においても知識社会の進展と共に女性研究者の役割が大きくなっていることがうかがえる。

【図表2-1-11】 女性研究者数及び全研究者に占める割合の推移

注:
総務省「科学技術研究調査報告」にて発表された女性比率を採用した。ここでは2001年までの研究者数については企業等及び非営利団体・公的機関は研究本務者、大学等は兼務者を含む研究者を使用し計算している。2002年以降の男女別の研究者はヘッドカウントで調査している。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-11

2.1.5研究者の流動性

 研究者の流動性を高めることは、知識生産の担い手である研究者の能力の活用に大きな影響を与えるとともに、労働現場においても活力ある研究環境を形成すると考えられる。

(1)米国での博士号取得者の出身状況

 研究者の流動性、もしくは国際性を表すための指標として、外国人研究者の数といった指標が考えられる。しかしながら、日本については、外国人研究者は計測されていない。また、米国についてもScientists & Engineers といった職業分類で見た場合での外国人のデータはあるが、狭義の意味での研究者の数値はない。そこで、この節では、データが取得できる米国の博士号取得者のうちの外国人の状況を見る。
 2008年の米国における博士号取得者109万人のうち、32%の35万人が外国出生者である(図表2-1-12)。「科学・工学関連分野」の割合が大きく、その分野別の内訳を見ると、「工学」分野の博士号を持っている外出生者が一番多く、54.2%を占めている。また、「コンピューター・数学科学」分野も多い。

【図表2-1-12】 米国における分野別博士号取得者のうちの外国出生者比率(2008年)

資料:
NSF,"SESTAT PUBLIC 2008" webサイト
参照:表2-1-12


【図表2-1-13】 米国における出身地域別、職業分野別、博士号取得者の雇用状況(2006年)

注:
「科学工学」はScience and Engineeringの訳である。
資料:
NSF,“Characteristics of Doctoral Scientists and Engineers in the United States: 2006”
参照:表2-1-13


(2)ポストドクターの外国人割合

 次にポストドクターの外国人割合を見る。図表2-1-14は日本の大学・公的機関におけるポストドクターに占める外国人割合を示したものである。また、ここでいう分野とは、各ポストドクターが在籍している研究室の主たる研究分野を指す。
 全体での外国人比率は23.2%である。分野別に見ると、「工学」分野での外国人割合が37.5%と最も多く、次いで「理学」及び「農学」分野が19.1%となっている。

【図表2-1-14】 日本の大学・公的機関におけるポストドクターの雇用状況
(研究分野別外国人比率)(2009年11月在籍者)

注:
1)ここでのポストドクター等とは博士の学位を取得後、任期付で任用される者であり、①大学等の研究機関で研究業務に従事している者であって、教授・准教授・助教・助手等の職にない者、②独立行政法人等の研究機関において研究業務に従事している者のうち、所属する研究グループのリーダー・主任研究員等でない者を指す。(博士課程に標準修業年限以上在学し、所定の単位を修得の上退学した者(いわゆる「満期退学者」)を含む)。
2)研究分野はポストドクター等の在籍研究室の主たる分野。
3)2009年11月在籍者である。
資料:
科学技術政策研究所、「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-大学・公的研究機関への全数調査(2009 年度実績)-」
参照:表2-1-14


 図表2-1-15は米国の大学におけるポストドクターに占める外国人(Temporary visa holders)割合を示したものである。また、ここでいう分野とは、各ポストドクターの所属機関の分野である。
 全体での外国人の比率は53.1%と半数以上である。分野別に見ると「工学」分野が63.0%と最も高く、次いで、「物理学」が62.0%となっている。

【図表2-1-15】 米国の大学におけるポストドクターの雇用状況(研究分野別外国人比率)(2009年)

注:
1)ここでの外国人とはTemporary visa holders、米国人とはU.S. citizens and permanent residents のこと。
2)ここでのポストドクターとは以下の資格の両方を満たしている者。
 ①最近の5年以内に授与された一般の博士号取得者で、博士号またはそれに相当(例えば、SCD(Doctor of Science)またはDEng(Doctor of Engineering))、医療や関連分野の第一専門職学位(MD(Doctor of Medicine)、DDS(Doctor of Dental Science)、DO(Doctor of Osteopathic Medicine/Osteopathy)、またはDVM(Doctor of Veterinary Medicine)) 、外国の米国の博士号に相当する者。
 ②一般に5年から7年までの期間限定任用であり、主に学問や研究のためのトレーニングをしている者、機関のユニットに所属するシニア学者の監督の下で働いている者。
3)研究分野はポストドクターの所属機関の分野。
資料:
NSF-NIH Survey of Graduate Students and Postdoctorates in Science and Engineering, 2009.
参照:表2-1-15


(3)日本の研究者の部門間の流動性

 日本の研究者の新規採用(4)、転入(5)、転出(6)状況を見てみる(図表2-1-16(A))。2011年に全国で採用された研究者は64,175人である。内訳は新規採用28,259人、転入が35,916人である。一方、転出者は48,779人である。新規採用者については2009年をピークに減少しているのが見える。
 これを部門別で見ると、「企業等」では新規採用者が転入者を上回って推移していたが、近年、その差は縮まっている。新規採用者は2009年をピークに減少しており、2011年の対前年成長率は20.8%とかなりの減少率である。一方、転出者は近年、横ばいに推移している。
 「大学等」では新規採用者よりも転入者の方が多い。長期的に見ると、新規採用者数は減少傾向にあり、転入者は近年横ばいに推移している。
 「非営利団体・公的機関」においては、転入者の方が新規採用者よりも多い。
 「企業等」、「大学等」はいずれも転出者より新規採用・転入者の方が多いが、「非営利団体・公的機関」においては次第に新規採用・転入者数が減少している。

【図表2-1-16】 研究者の新規採用・転入・転出者数
(A)総数


(B)部門別

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-16


 次に、この転入した研究者はどこから来たのかを、部門ごとに2002年と最新年で比較して見る(図表2-1-17)。
 2011年に、「企業等」に転入した研究者のうち、会社から転入してきた研究者は95.1%とかなりの割合占めている。2002年と比較すると、会社から転入してきた研究者の割合は4.3ポイント増加している。ただし、そのうち40%が親子会社からの転入である。
 「非営利団体・公的機関」は、同部門から54.9%と最も多く転入してきている。2002年と比較すると、3.4ポイントの増加である。
 「大学等」は、同部門から41.7%の研究者が転入してきているが、他部門からの転入も多く、「非営利団体・公的機関」からの割合は39.4%と同規模になっている。
 「大学等」は「非営利団体・公的機関」から転入してきた研究者の割合が大きく、かつ増加もしている。一方、「非営利団体・公的機関」は「会社」から転入した研究者の割合が比較的大きかったが、2002年と比較すると減少している。
 いずれの部門も、他部門からの転入研究者はほとんど増えておらず、同部門からの転入研究者が増加しており、部門間の流動性が高まっているとは言い難い状況になっている。

【図表2-1-17】 転入研究者数の転入元別内訳
(A)企業等
(B)非営利団体・公的機関
(C)大学等

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-1-17


コラム:3.11 東日本大震災に伴う外国人研究関連者の出入国状況

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害(東日本大震災)は、少なからず日本の研究現場にも衝撃を与え、特に「外国人研究者が海外に戻った」、「日本へ海外から研究者が来なくなっている」など日本の研究活動に従事する外国人の流動に関する懸念を聞くことがあった。そのため昨年このコラムで、その動きの一端を追うべく、法務省が毎月公表している出入国管理統計の在留資格ごとの出入(帰)国者数を用いて、外国人研究関連者の動きの分析をした。2011年の5月までのデータを用いて、東日本大震災は、外国人研究関連者の出入国に影響を及ぼしたことが認められたが、比較的短期間の中で例年並みに落ち着きを取り戻しているようであると述べたが、その後のデータが公表されたのでそれらを紹介したい。
 この分析における外国人研究関連者とは、現在27種類ある在留資格のうち、「教授」と「研究」の在留資格を交付された者とする。在留資格の「教授」で認められる活動は、本邦の大学若しくはこれに準ずる機関又は高等専門学校において研究、研究の指導又は教育をすることである。また、「研究」で認められる活動は、本邦の公私の機関との契約に基づいて研究を行う業務に従事することである。従って、この2つのうちいずれかの在留資格を持つ者は、研究活動に携わっていると考えられる。なお、日本で「教授」および「研究」の活動に従事している外国人研究関連者は、それぞれ8,050人と2,266人であり、合計1万人程度の規模である(法務省登録外国人統計表2010年)。
 まず、日本からの外国人研究関連者の出国の状況はどうなっているか。図表2-1-18は、2009年1月から2011年の12月まで各月の外国人研究関連出国者数の変動である。(A)から、出国者数は月毎に変動することと、その月毎の変動が2009年~2011年の比較から安定していることが分かる。それにならい、2011年3月を見ると、明らかに前年より出国者数が増加していることが分かる。前年同月比で1,621人増(61%増)の出国であり、3月に起こった事象の影響であると推測できる。なお、2011年4月以降は、前年同様の出国者数となっている。
 また、出国者総数の内訳として、(B)出国者のうち、再入国許可のある者の数と(C)出国者のうち、再入国許可のない者の数を見てみよう。2011年3月に見られた大幅な出国者の増加は、その大部分が再入国許可を持つ者の出国であったことが分かる。再入国許可とは、日本において在留資格を持つ外国人が在留期間内に一時的な用務等により日本を出国した後、再び日本に入国する際に新たに査証(ビザ)を取得する必要がなく、入国の手続きの煩雑さが軽減されるものである。
 では、日本への外国人研究関連者の入国の状況はどうなっているか。図表2-1-19は、2009年1月から2011年の12月まで各月の外国人研究関連入国者数の変動である。こちらも出国の場合と同様に、月毎に入国者数は変動していることと、その変動が2009年~2011年の比較から安定していることが分かる。それにならい、2011年3月を見ると、前年と同様であるが、4月と5月は前年同月比で843人増(52%増)、424人増(21%増)の入国となっている。なお、2011年6月以降は、前年同様の入国者数となっている。
 また、入国者総数の内訳として、(B)入国者のうち、再入国許可のある者の数と、(C)入国者のうち、新規申請者の数の変化を見てみよう。(B)入国者のうち、再入国許可のある者の数を見ると、2011年3月までは前年までと同様の傾向が見られるが、2011年4月と5月は前年同月比で992人増(79%増)、396人増(22%増)の再入国者となっている。一方、(C)入国者のうち、新規申請者の数は、2011年3月と4月は、前年同月比で75人減(21%減)、149人減(40%減)となっていたが、2011年5月には28人増(12%増)に転じたことが確認された。
 このように、最新のデータも勘案しまとめると、東日本大震災は、外国人研究関連者の出入国に影響を及ぼしたことが認められたが、比較的短期間の中で例年並みに落ち着きを取り戻したと言える。イギリスの政府主席科学顧問が日本からの退避の必要性はないと見解を公表したことや、各研究機関における外国人研究関連者へのきちんとした対応が功を奏したとも考えられる。一方で、法務省は高度な能力や資質を有する外国人を受け入れるために、「高度人材に対するポイント制による優遇制度」を2012年5月より導入した。この取り組みにより、外国人研究関連者が日本に来るインセンティブをうみだせると良いと考える。

(阪 彩香)

【図表2-1-18】 日本からの外国人(研究関連
目的の在留資格を有する)出国者数の変化
【図表2-1-19】 日本への外国人(研究関連
目的の在留資格を有する)入国者数の変化
(A)出国者総数
(A)入国者総数
(B)出国者のうち、再入国許可のある者の数
(B)入国者のうち、再入国許可のある者の数
(C)出国者のうち、再入国許可のない者の数
(C)入国者のうち、新規入国者の数

注:
1)2012年2月24日現在のデータである。
2)在留資格が「教授」と「研究」を分析対象とする。
資料:
法務省、「出入国管理統計統計表」を基に、科学技術政策研究所が集計。
参照:表2-1-18

注:
図表2-1-18と同じ。
資料:
図表2-1-18と同じ。
参照:表2-1-19



(1)日本については、総務省「科学技術研究調査報告」における「研究者」の定義にしたがっている。総務省においては、「研究」は基礎研究、応用研究及び開発研究に分類されており、それらの活動を行う「研究本務者」はフラスカティ・マニュアルの"R&D scientists and engineers"にほぼ対応していると考えられる。
(2)たとえば大学等の高等教育機関の研究者は、研究とともに教育に従事している場合が多いが、このような研究者(パートタイム研究者)を、専ら研究を業務とするフルタイム研究者と同等に扱うのではなく、実際に研究者として活動したマンパワーを測定しようとする方法がフルタイム換算である。具体的には、例えば、ある研究者が1年間の職務時間の60%を研究開発に当てている場合、その研究者を0.6人と計上する。
(3)OECDは、研究開発従事者のマンパワーはフルタイム換算によって測定するべきとの勧告を1975年に行い、多くのOECD加盟国等がフルタイム換算(FTE)を採用している。フルタイム換算の必要性やその原理については、研究開発統計の調査方法についての国際的標準を提示しているOECDのフラスカティ・マニュアルに記述されている。なお、2002年版では、HCとFTEの両方を測定することを勧告している。
(4)いわゆる新卒者。最終学歴修了後、アルバイトやパートタイムの勤務、大学や研究機関の臨時職員としての雇用などの経験のみの者が採用された場合も含む。なお、任期付研究員については9か月以上の任期があれば新規採用者となる。
(5)外部から加わった者(新規研究者を除く)
(6)転出者には退職者も含まれる。



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