1.4性格別研究開発費
ポイント
- 性格別研究開発費とは、総研究開発費を基礎、応用、開発に分類したものであるが、日本は自然科学分野のみの研究開発費を分類している。
- 2010年度の日本の性格別研究開発費のうち基礎研究の割合は全体の14.7%、そのうち大学部門が占める割合は49.7%と多い。
- 各国の最新年の性格別研究開発費のうち、基礎研究の割合が大きい国はフランスであり、全体の26%である。一方、一番小さい国は中国で、全体の4.7%である。また、基礎研究費の使用部門別内訳を見ると、大学部門が最も大きいのはフランス、米国、日本であり、公的機関部門が最も大きいのは中国であり、企業部門が最も大きいのは韓国である。
1.4.1各国の性格別研究開発費
性格別研究開発費とは、基礎、応用、開発というおおまかな分類に分けた内部使用研究開発費を指す。この分類はOECDのフラスカティ・マニュアルからなる定義に基づいて各国が分類している。そのため回答者による主観的推計が少なからず影響していることを考慮する必要がある。以下に、フラスカティ・マニュアルに掲載されている性格別の定義を簡単に示す。
基礎研究(Basic research)とは何ら特定の応用や利用を考慮することなく、主として現象や観察可能な事実のもとに潜む根拠についての新しい知識を獲得するために企てられる、試験的、あるいは理論的な作業である。
応用研究(Applied research)とは新しい知識を獲得するために企てられる独自の探索である。しかしながら、それは主として、特定の実際上の目的または目標を目指して行われる。
(試験的)開発(Experimental development)とは体系的な作業であって、研究または実際上の経験によって獲得された既存の知識を活かすもので、新しい材料、製品、デバイスの生産、新しいプロセス、システム、サービスの導入、あるいは、これらすでに生産または導入されているものの実質的な改善を目指すものである。
各国ともに上述した定義に基づいて、計測されていると思われるが、国によって使用されている名称が多少異なっている。たとえば、米国は「(試験的)開発」を「開発(development)」と表現しているが、フランスは「試験的開発(Developpement experimental)」と試験的という言葉を明記している。
ドイツは以前より、厳密な性格別研究開発費のデータを公表しておらず、特に大学部門での性格別研究開発費のデータはない。ただし、2001年から企業部門で性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
また、イギリスも大学部門については性格別研究開発費のデータがないため、総額での性格別研究開発費が計測できていない。
なお、日本の性格別研究開発費(11)は自然科学分野を対象に計測しており国全体の研究開発費総額ではない。また、韓国は2006年まで自然科学分野を対象にしていたが、2007年から全分野を対象にしている。図表1-4-1は主要国の研究開発費を性格別に分類した割合である。2010年(12)の日本の性格別研究開発費のうち基礎研究の割合は全体の14.7%、長期的に見て大きな変化は見られない。
米国は、基礎、応用、開発の割合が日本と似ているが、長期的に見ると、基礎研究の割合に増加傾向が見える。
フランスは、他国と比較して基礎研究の割合が最も大きく、最新年では26%である。一方、開発の割合は減少している。
中国は基礎研究の割合が小さく4.7%である。一方、開発の割合が大きく、かつ増加もしている。
韓国は、2000年代に入ってから基礎研究の割合が増加している。また、応用の割合は減少し、開発の割合は、近年減少傾向にある。


注:
1)日本の研究開発費は自然科学のみ(韓国は2006年まで)。他の国の研究開発費は、自然科学と人文科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
2)ドイツは、基礎研究のみの数値である。
3)購買力平価換算は、参考統計Eと同じ。
<日本>year scaleは、年度。
<米国>1998、1999年値は各性格別研究開発費を合計しても総研究開発費にはならない。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,"Science and Engineering Indicators 2012 "
<フランス、中国>OECD,“Research & Development Statistics 2011”
韓国科学技術統計サービス(webサイト)
参照:表1-4-1
1.4.2各国の基礎研究
次に、各国の基礎研究を、どの部門が担っているかを見る。基礎研究は短期の投資収益は低いが、科学技術の知的資本を築き、未来の基盤を構築するために重要である。
基礎研究費の使用部門別割合の推移(図表1-4-2)を見ると、ほとんどの国で大学部門が大きな割合を占めている。
日本の基礎研究費のうち、大学部門が占める割合は大きく、最新年では49.7%である。また、企業部門の割合も比較的大きい。
米国も大学部門の割合が大きく、長期的に見ると大学部門、非営利団体の割合は増加しており、一方、企業部門、公的部門の割合は減少している。
フランスの基礎研究費のうちの大学部門が占める割合は、他国と比較してもかなり大きく、最新年の値は67.3%である。なお、公的機関の1998、1999年の値にぶれがあるのは、推計方法や調査票等に関する変更が行われたことによるものであり、この間のデータの連続性はないと考えたほうがよい。
中国については、公的機関部門の割合が大きかったが、近年は大学部門の割合が増加しており、最新年では、53.8%である。
さらに高いのは韓国で、2000年以降急速に企業部門が基礎研究の主たる部門になっている。

国 | 使用額(OECD購買力平価換算) | 使用割合 |
(A) 日本 |
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(B) 米国 |
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(C) フランス |
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(D) 中国 |
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(E) 韓国 |
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注:
1)日本の研究開発費は自然科学のみ(韓国は2006年まで)。他の国の研究開発費は、自然科学と人文科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
2)購買力平価換算は、参考統計Eと同じ。
<米国>2007年の値は予備値 。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2008 Data Update ”
<フランス、中国、韓国>OECD,"Research & Development Statistics 2011"
参照:表1-4-2
(11)日本の研究開発統計調査「科学技術研究調査」での性格別研究開発費の定義は以下のとおりであり、対象は自然科学分野のみである。
基礎研究:特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。
応用研究:基礎研究によって発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究をいう。
開発研究:基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究をいう。
(12)この節の日本の場合は、国際比較の際には「年」を』用いている。本来は「年度」である。