2.2部門別の研究者
ポイント
- 各国最新年の公的機関部門の研究者数を人口1万人当たりで見ると、ドイツが6.2人と一番多く、次いでフランスが4.5人、日本は2.5人であるが、日本とドイツは地方分(州政府等)が含まれるのに対してフランスには地方分は含まれていない。また、同じく地方分が含まれていない米国では1.7人となっている。
- 企業部門の研究者数を見ると、日本と米国は継続して増加傾向にあったが、近年横ばいに推移しており、日本の2011年の研究者数は49万人である。また、2000年代から急激な増加傾向にあるのは中国である。一方で、ドイツ、フランスについては、長期的に見ると増加傾向にあり、イギリスについては横ばい傾向にある。
- 産業分類別で見ると日本の場合、製造業の研究者が約9割、非製造業が約1割なのに対して、米国の場合、製造業は約6割、非製造業は約4割とその傾向は異なる。
- 日本の大学部門の研究者数の内訳を見ると、「教員」では「私立大学」が多いのに対し、「大学院博士課程在籍者」では「国立大学」が多い。「国立大学」の研究者を分野別で見ると、「自然科学」分野が多く、「大学院博士課程在籍者」も同様に「自然科学」分野が多い。一方、「私立大学」は、「自然科学」分野が最も多いものの、「人文・社会科学」分野も多く、両者に大きな違いは無い。
2.2.1公的機関部門の研究者
(1)各国公的機関の研究者
ここでいう公的機関とは何を指すかを簡単に示す。
日本の場合は「国営」(国立試験研究機関等)、「公営」(公設試験研究機関等)、特殊法人・独立行政法人(営利を伴わない)である。
米国の場合は連邦政府の研究機関である。
ドイツでは連邦政府と地方政府、その他の公的研究施設、非営利団体(16万ユーロ以上の公的資金を得ている)及び高等教育機関ではない研究機関(法的に独立した大学付属の研究所)である。
フランスは、科学技術的性格公施設法人(EPST)(ただし、CNRSを除く)や商工業的性格公施設法人(EPIC)等といった設立形態の研究機関である。
イギリスは中央政府、分権化された政府の研究機関及びリサーチカウンシルである。
中国は中央政府の研究機関、韓国は国・公立研究機関、政府出捐研究機関及び国・公立病院である。
公的機関部門の研究者数は公的機関の民営化や、研究開発統計の計測対象の変更によって、大きな変動が起こることに注意が必要である。各国の違いを踏まえた上で各国の公的機関の研究者数を見る。
研究者数の推移を見ると、日本の公的機関の研究者数は長期的な変動はあまり見られない。ドイツ、フランス、イギリスは、値が途中大きな変動を見せる。その主な原因は公的機関であった組織が企業部門に移行したり、研究者数を測定している調査方法が変更になったりしたこと等があげられる。たとえば、イギリスの場合、1985年には公的機関部門であった"UK Atomic Energy Authority"が企業部門に移り、2000年にはDERA(7)が廃止になったことに伴い、企業部門に移ったりしている。なお、米国については2002年から研究者数を発表していない。
各国最新年の公的機関部門の研究者数を人口1万人当たりで見ると、ドイツが6.2人と一番多く、次いでフランスが4.5人、日本は2.5人であるが、日本とドイツは地方分(州政府等)が含まれている。また、地方分が含まれていない米国では1.7人となっている。中国の公的機関部門の研究者数は、他国と比べてはるかに多いが、人口1万人当たりで見ると1.6人とそれほど多くない。また、2009年からはOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って収集し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となっている。イギリスは数の上でも人口1万人当たりでも小さな値となっている(図表2-2-1(A、B))。


(A)公的機関の研究者数の推移


注:
1)公的機関部門の研究者の定義及び測定方法については国によって違いがあるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の定義については図表2-1-1を参照のこと。
2)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3)人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
<日本>
1)国・公営研究機関、特殊法人・独立行政法人。
2)研究者については図表2-1-3を参照のこと。
<米国>
1)連邦政府のみ。
2)1998年からFederal Scientists and Engineersのうち、“Research”と“Development”を主な職業としているものを計測している。
3)2003年以降は国防省の一部を除く。
<ドイツ>
1)連邦政府、非営利団体(16万ユーロ以上の公的資金を得ている機関)、法的に独立した大学の付属の研究所、地方自治体研究所(地方政府に相当する)
2)1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
3)2010年値は国家の見積もり又は推定値。
<フランス>
1)科学技術的性格公施設法人(CNRSは除く)、商工業的性格公施設法人、行政的性格公施設法人(高等教育機関を除く)、省の部局等
2)1992、1997、2000年値は前年度までのデータとの継続性が損なわれている。 1997年から防衛関係は除く。
<イギリス>
1)中央政府(U.K)、分権化された政府(Scotland等)、研究会議
2)1981、1986、1991~1993、2001年値は前年度までのデータとの継続性が損なわれている。 2010年値は暫定値
<中国>
1)政府研究機関
2) 2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
<韓国>国・公立研究機関、政府出捐研究機関、国・公立病院
<EU>
1)各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。 2009、2010年値は暫定値。
2)EU-15の1991、1993年値、EU-27の1997年値は前年度までのデータとの継続性が損なわれている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,"National Patterns of R&D Resources 1995,1998,2002 Data Update"、2000年からは、OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung, "Bundesbericht Forschung 1996,2000,2004","Forschung und Innovation in Deutschland 2007","Bundesbericht Forschung und Innovation 2008,2010", 2008年以降はOECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<フランス、イギリス、中国、韓国、EU>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
参照:表2-2-1
(2)日本の公的機関部門の研究者
日本の公的機関については2001年に、「国営」の研究機関の一部が独立行政法人となった(2003年には、「特殊法人」の研究機関の一部も独立行政法人となった)。そのため、2002年以降のデータはそれ以前との連続性が失われている。以上のことを踏まえて、日本の公的機関の研究者数を見ると、2011年で総数32,422人であり、機関種類別に見ると、「特殊法人・独立行政法人」の値が半数以上を占め、その数19,234人、「公営」は10,796人で3割程度、「国営」は2,392人で1割弱程度である。2002年からの推移を見ると減少傾向にあり、特に公営の研究者数が減少している(図表2-2-2)。


注:
1)2001年度に、国営の研究機関の一部が独立行政法人となったため時系列変化を見る際には注意が必要である。
2)2000年度までは「特殊法人・独立行政法人」は「特殊法人」のみの値。
3)統計調査の内容や調査時点が変更されたため、2000年までは4月1日現在の研究本務者数、2000年までは4月1日現在の研究本務者数、2001年以降は3月31日現在の研究者数を用いた。
4)2002年から測定方法が変更になったため、間隔をあけて掲載している。研究者の測定方法については図表2-1-2を参照のこと。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-2-2
公的機関の研究者数を専門別に見る。ここでいう専門別とは、研究者個人の専門的知識別である。
一貫して「農学」の専門知識を持つ研究者が最大の割合を占めているが、その割合は減少しつつある。その所属先は「公営」研究機関が一番多い。次に多いのは「工学」であるが、その所属先は「特殊法人・独立行政法人」の研究機関が多く、「理学」も同様である。また、「保健」の専門知識を持つ研究者は「特殊法人・独立行政法人」の研究機関に所属している者が多いが「公営」の研究機関にも多く所属している(図表2-2-3)。
(A)研究者数の推移


注:
図表2-2-2と同じ。2002年からHC値。
資料:
図表2-2-2と同じ。
参照:表2-2-3
2.2.2企業部門の研究者
(1)各国企業部門の研究者
企業部門の研究者については、各国ともに研究開発統計調査により研究者数を計測している。そのため、他部門と比較して国際比較可能性が高いデータと考えられる。しかし、経済活動の高度化に伴う産業構造変化に合わせ、各国とも調査方法や対象範囲を変化させており、また各国の標準産業分類の改定も影響するため経年変化にゆらぎが見られるデータでもある。
日本の企業部門の研究者数(FTE値)は継続して増加傾向にあったが、近年横ばいに推移しており、2011年では49万人となっている。
中国は2000年代に入り急速な伸びを示している。ただし、2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って収集し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となっている。
米国は1995年から2003年にかけての伸びが激しい。これは研究開発統計調査での調査対象の変更があり、より幅広に企業を調査した事、また、サービス産業の研究者数をカウントし始めた事が、影響していると考えられる。
フランスやイギリスについては、公的機関が民営化され、企業部門へ移行している機関があり、その分増加している。なお、この図ではあまり変化が見えないが、ドイツ、フランスについては、長期的に見ると増加傾向にある。また、イギリスについては横ばい傾向にある。(図表2-2-4)。


注:
FTE値である。
<日本>
1)2001年以前の値は該当年の4月1日時点の研究者数、2002年以降の値は3月31日時点の研究者数を測定している。
2)研究者については図表2-1-3を参照のこと。
3)産業分類は日本標準産業分類を基に科学技術研究調査の産業分類を使用している。
4)産業分類の改定に伴い、科学技術研究調査の産業分類は1996、2002、2008年版において変更されている。
<米国>
1)産業分類は1998年まではSIC、1999年からはNAICSを使用。
2)2001年からFFRDCsを除いている。
<ドイツ>
1)1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
2)ドイツ産業分類は1993、2003年に変更されている。
3)2008年値は国家の見積もり又は推定値。 2010年値は暫定値
<フランス>
1)1991年と1992年の間に、調査対象区分の変更が行われた(France Télécom and GIAT Industriesが政府部門からBusiness Enterprise部門へ移行した。)。
2)1997年に、管理部門の研究人材についての調査方法が変更された。
3)フランス産業分類は2001、2005年に改定されている。
4)2000、2005年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
<イギリス>
1)1985年と1986年の間、及び2000年に、調査対象区分の変更が行われた(1985年と1986年の間に、"United Kingdom Atomic Energy Authority"が政府部門からBusiness Enterprise部門へ移行した)。
2)2000年に、the Defence Evaluation and Research Agency (DERA)が廃止され、うち4分の3が民間有限会社となりBusiness Enterprise部門へ移行した。
3)1991年と1992年の間に、研究所区分の再分類が行われた。
4)イギリス産業分類は1980、1992、1997、2003、2007年に改定されている。
5)2010年値は暫定値。
<中国>
1)2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応していない
2)1999年までは過小評価された、または過小評価されたデータに基づいた値。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,"National Patterns of R&D Resources 1995,1998,2002 Data Update"、2000年からは、OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung, "Bundesbericht Forschung 1996,2000,2004","Forschung und Innovation in Deutschland 2007","Bundesbericht Forschung und Innovation 2008,2010", 2008年以降はOECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<フランス、イギリス、中国、韓国、EU>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
参照:表2-2-4
(2)各国産業分類別の研究者
図表2-2-5は、各国の産業分類別研究者数を示したものである。ここでいう産業分類とは、各国が標準産業分類を参照して、企業部門の研究開発統計調査のために設定した産業分類である。各国の標準産業分類はISIC(国際標準産業分類)に概ね対応するように設定されているが、やはり国によって多少の差異が出てくる。
以上を踏まえて、日本、米国、ドイツの産業分類別の研究者数を見ると、日本は製造業がかなり多くを占めており、研究者数全体の増加も製造業の影響が大きいと思われる。ただし、2006年頃から、横ばいに推移している。一方、非製造業の研究者は2008年頃から横ばいに推移している。
米国は非製造業が大きいことがわかる。中でも「専門、科学、技術サービス業」が多くを占めている。ドイツは製造業、非製造業共に増加しているのが見える。製造業では「輸送用機械工業」、非製造業では「不動産、賃貸、事業活動」分類が大きくかつ増加もしている。



注:
図表2-2-4と同じ。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,"Industrial R&D 各年" Industrial R&D Information System
<ドイツ>BMBF,"Research and Innovation in Germany 2007" 、"Bundesbericht Forschung und Innovation 2008,2010"
参照:表2-2-5
(3)日本の産業分類別従業員の研究者の密度
日本の産業分類別の研究者は、どの業種の企業に多いのかを、いくつかピックアップした業種の従業員一万人当たりで見る。2011年でもっとも多いのは「学術研究、専門・技術サービス業」の2,665人であり、次いで「情報通信機械器具製造業」で2,569人ある(図表2-2-6)。
「情報通信機械器具製造業」とは通信機械器具、映像音響機械器具、電子計算機の製造業などであり、また、「学術研究、専門・技術サービス業」には、分類項目でいうと自然科学研究所などといった学術機関などが含まれている。

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-2-6
2.2.3大学部門の研究者
(1)各国大学部門の研究者
大学部門は研究者数の国際比較を行う際に、困難を伴う。2.1.1節にて述べたが、再度簡単に注意点を示す。まず、①調査方法が違うこと。大学部門の研究者を計測する際に研究開発統計調査を行わず、各国の既存のデータ、たとえば、教育統計(教職員や学生についての計測をしている統計など)や、職業や学位取得を調査する統計などを用いている国がある。②測定方法が違うこと。研究開発統計調査を行っているのであれば、調査票でFTE計測をした研究者数を測定できるが、教育統計などを用いている場合はFTE係数をかけて、FTE研究者数を計測しなければならない。特に日本は研究開発統計調査を行っているが、FTE計測をしていない。③調査対象が違うこと。各国大学の研究者に含まれている博士課程在籍者の扱いが国によって違いがあり、たとえば、経済的支援を受けているかどうか、その人数にFTE係数をかけるか、などといった差異が出てくる。また、科学技術指標では、日本の大学部門のFTE研究者数 を測定するために、文部科学省が2002年、2008年に実施したFTE係数についての調査に基づくFTE係数を使用した値をFTE研究者数としている(図表2-1-2参照)。そのため、2007年から2008年の数値は継続性が損なわれている。
以上を踏まえて、国毎の経年変化を見ると、日本の大学部門の2011年の研究者数は12.4万人であり、2008年以降は微増である。
ドイツに関しては、1991年の東西統合の影響以外では大きな変化はなく、微増し続けている。
イギリスの研究者数には、1993年と1994年の間に大きな飛躍があるが、これは高等教育機関の改革(旧大学と旧ポリテクニクの一元化)などにより、調査対象が変更されたことが影響していると考えられる。また、イギリスは1999年から2004年までのデータはなく、2005年からのデータは推計値である。
フランスの研究者数は、一貫して増加している。
中国の研究者数は2000年以降急激に増加している。なお、2009年からOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って収集し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となっている。
韓国の研究者数は、増加傾向にあるが、未だ他国とは差がある(表2-2-7)。



注:
1)大学部門の研究者の定義及び測定方法については国によって違いがあるため、国際比較する際には注意が必要である。各国の研究者の違いについては図表2-1-1を参照のこと。
2)各国の値はFTE値である(日本についてはHC値も示した)。
3)自然科学と人文・社会科学の合計である(ただし、韓国は2006年まで自然科学のみ)。
<日本>
1)大学の学部(大学院研究科を含む)、短期大学、大学附置研究所、その他
2)研究者については図表2-1-3を参照のこと。
<米国>University & Colleges
<ドイツ>
1)Universities ,Comprehensive universities, Colleges of education, Colleges of theology, Colleges of art, Universities of applied sciences, Colleges of public administration
2)1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。
3)2010年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。
<フランス>
1)国立科学研究センター(CNRS)、グランゼコール(国民教育省(MEN)所管以外)、高等教育機関
2)1997、2000年値は前年度までのデータと継続性が損なわれている。
<イギリス>
1)1994、2005年値は前年度までのデータと継続性が損なわれている。
2)2005~2008年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。
<中国>2008年までの研究者の定義は、OECDの定義には完全には対応しておらず、2009年から計測方法を変更した。そのため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
<韓国>大学のすべての学科(分校及び地方キャンパスを含む)、付属研究機関、大学付属病院(医科大学と会計が統合している場合のみ)
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」文部科学省、「大学におけるフルタイム換算データに関する調査(2002年、2008年)」
<米国>NSF,"National Patterns of R&D Resources 1995,1998,2002 Data Update"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung, "Bundesbericht Forschung 1996,2000,2004","Forschung und Innovation in Deutschland 2007","Bundesbericht Forschung und Innovation 2008,2010", 2008年以降はOECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<フランス、イギリス、中国、韓国、EU>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
参照:表2-2-7
(2)日本の大学部門の研究者
日本の大学部門の研究者数について、研究者の種類別、機関別、学問分野別の内訳を図表2-2-8に示した。この節でいう大学部門の研究者数は「科学技術研究調査報告」における「研究本務者」の数値であり、学外からの研究者は含まれていない。
2011年3月31日現在で284,025人となっており、そのうち65.4%の185,858人が教員である。また大学部門の研究者には、「大学院博士課程の在籍者(71,074人)」及び「医局員等(27,093人)」も含まれている。なお、この統計では大学教員のほとんどが研究者として計上されている(8)。
全体を見ると、「教員」では「私立大学」が多いのに対し、「大学院博士課程在籍者」では「国立大学」が多い。「国立大学」の研究者を分野別で見ると、「自然科学」分野が多く、「大学院博士課程在籍者」も同様に「自然科学」分野が多い。一方、「私立大学」は、「自然科学」分野が最も多いものの、「人文・社会科学」分野も多く、両者に大きな違いは無い。

注:
大学・大学院の数値である。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」
参照:表2-2-8
次に、専門分野別の研究者数の推移を示した(図表2-2-9(A))。
ここでいう専門別の研究者とは、研究者個人の専門的知識別であり、現在の業務内容を最優先して決められている分類である。
研究者の総数は増加しており、全体の構成としては「保健」と「人文・社会科学」の分野の研究者が多数を占めている。ただし、構成割合の変化で見ると、増加しているのは工学分野の研究者である。
(A)専門分野別研究者数の推移

では、この専門分野別研究者は大学の区分別で見ると、どのような構造になっているのだろうか。
図表2-2-9(B)は研究者個人が持つ専門知識の分野を国・公・私立大学別の割合で見たものである。
「理学」、「工学」、「農学」分野の知識を持つ研究者は「国立大学」が多く、全体の6、7割を占め、「理学」、「工学」については、年々、その割合も増している。「人文・社会科学」、「その他」分野の知識を持つ研究者は「私立大学」が多い。なお、「保健」については「国立大学」と「私立大学」が同程度の割合であったが、2000、2011年では「私立大学」の方が多くなっている。
次に、研究者の所属組織の分野(学問分野)について、国・公・私立大学の構造はどのようになっているのか、を見ると(図表2-2-9(C))、ほとんどが図表2-2-9(B)専門分野別の研究者の割合と似ているが、所属機関が「理学」分野である研究者は「国立大学」が8割以上とかなり多く、私立大学の割合が1割程度と少ない。
個人の専門分野別でみた「理学」の研究者は「私立大学」で2、3割であるのに対して、所属組織の分野で見ると1割程度ということは、「私立大学」にいる「理学」の専門知識を持つ研究者の所属先は必ずしも「理学」分野の組織だけにとどまってはいないことを意味している。


資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」。
参照:表2-2-9
(3)大学教員の出身校の多様化
我が国の大学では伝統的に自校出身の教員が多いという特徴があり、出身校の多様化を進めることが政策課題となっている。
我が国の2010年度の大学教員自校出身者の割合は大学全体平均で32.6%であり、長期的に見ると減少している。部門別に見ると「保健」分野が多く、約5割で推移している。最も少ないのは「社会科学」分野であり、2割程度である。
長期的に見ると、どの分野でも減少傾向が見え、自校出身の教員が減少しつつあると言える(図2-2-10(A) )。
(A)所属組織の専門分野別推移

次に、大学種類別に見ると、各専門分野共通に国立大学教員の自校出身率が高く、公立が低い。分野別に見ると「保健」分野は国立、公立、私立大学ともに自校出身者の割合が特に高い。一方、「理学」分野では国立大学が高く、私立は国立の約半分、公立は約1/4程度である。(図2-2-10(B))。

注:
保健には医学が含まれている。
資料:
文部科学省、「学校教員統計調査報告」
参照:表2-2-10
コラム:大学教員の高齢化 –大学本務教員の年齢階層の変化 –
(1)大学における本務教員の年齢階層構成
総務省が2012年4月に発表した我が国の人口(9)は、2011年10月1日現在、1.28億人であり、2005年に戦後初めて前年を下回った後、増減を繰り返している。また、65歳以上の人口は増加し、14歳以下の人口は減少するという少子高齢化現象が進んでいる。日本の人口の年齢構成の変化は、あらゆる個所に影響を及ぼすと考えられるが、大学教員の年齢構成は、現在、どのような状況であろうか。
ここでは大学本務教員のデータを用いて、大学の教員の年齢階層の状況を見る。ここでいう本務教員とは、当該学校に籍のある常勤教員であり、任期付や特任の教員であっても、当該学校に勤務しているのであれば、本務教員に含まれる。
図表2-2-11(A)に全大学の教員の年齢階層の構成比率を示した。1986年には25-39歳の教員の比率は39%であったが2010年では26%に減少している。一方で、60歳以上の比率は11.9%であったが、2010年には19.6%と増加している。40-49歳の比率は、2004年から25-39歳比率を上回り、また、50-59歳比率は25-39歳比率と同等になっている。
次に、国立大学と私立大学の本務教員の年齢階層構成を見る(図表2-2-11(B)、(C))。
国立大学は、1980年代では、25-39歳比率が一番大きく、次いで年齢の低い順から高い順に並んでいたが、40-49歳比率の割合が増加し、2004年から25-39歳比率を上回っている。60歳以上の比率は元々、低かったがそれでも増加している。
一方、私立大学でも、1980年代では年齢の低い順から高い順に並んでおり、国立大学との差異については、そもそも60歳比率が高いことであったが、最近では、いずれの年代の比率も同程度になっている。
このように、年齢階層で見ると、国立大学より私立大学の方が高齢化が進んでいる。
(A)全大学

(B)国立大学

(C)私立大学

注:
本務教員とは当該学校に籍のある常勤教員。
資料:
文部科学省、「学校教員統計」
参照:表2-2-11
(2)新規採用教員の年齢階層の変化
大学教員の年齢構成の変化は、毎年、新たに大学教員となる者の年齢構成に大きく左右される。そこで、新規に雇用された大学教員の年齢階層構成の推移を見てみる。なお、大学間の異動は、大学部門全体の年齢構成の変化に影響しないため、ここでは、それを含まないデータを用いた。
国立大学と私立大学における新規採用教員数の年齢階層別の構成を見ると(図表2-2-12)、国立大学では、若手の採用教員数の比率が1986年に93.9%であったが、2010年には75%にまで減少している。代わって他の年代の比率が増加しており、特に40代の比率が3.4%から17.5%にまで増加している。一方、私立大学については、国立大学より、若手の採用教員数の比率は少ないが、減少傾向にあるのは同様である。また、他の年代については、50代、60歳以上の比率が、国立大学より高く、かつ増加しているのが特徴である。このように、毎年、新たに大学教員となる者の年齢は上がってきている。
このような変化の背景としては、大学教員の採用に際して、高い研究業績を要求する傾向、あるいは実務経験者や各種専門家を求める傾向が強まっていることをあげることができる。
(A)国立大学

(B)私立大学

注:
採用とは当該学校の本務教員として、大学、短期大学及び高等専門学校の本務教員以外の職業等から異動した者。
資料:
文部科学省、「学校教員統計」
参照:表2-2-12
(3)大学本務教員の高齢化
大学教員の年齢階層構成は、日本の労働力人口の年齢階層構成とどのような関係にあるのだろうか。日本の労働力人口について、25歳以上69歳以下を抽出して、その年齢階層構成を見ると(図表2-2-13)、25-39歳の比率よりも、40-49歳比率の方が、減少傾向が見える。50-59歳については長期的に見れば横ばい、60代の比率については増加している。このように、大学教員は、一般的な労働者よりも高齢化が進んでいることがわかる。

資料:
総務省、「労働力人口」
参照:表2-2-13
以上に述べたような大学教員の年齢階層構成の変化は、大学教員の活動に何らかの影響を及ぼす可能性がある。例えば、研究のパフォーマンスへの影響が懸念される。大学教員の能力は決して年齢で左右されるものではないが、日本の大学の論文数の伸びは、2000年以前に比べ、2000年代に入ってからの方が小さくなっており(10)、若手教員の減少は、その要因のひとつとなっている可能性もある。
研究のみならず、大学機能全体の持続的発展のためにはどうしたらよいか、考慮すべき時期は始まっている。
(神田 由美子)
(7)the Defence Evaluation and Research Agency(DERA)
(8)比較のために大学等の統計(文部科学省、「学校基本調査報告書」平成23年版)を見ると、2011年5月1日現在で大学学部と大学院の本務教員数は、176,684人、短期大学は9,274人であり、計185,958人である。
(9)総務省、「人口推計(平成23年10月1日現在)」
(10)科学技術政策研究所、「減少する大学教員の研究時間」(2011.12)