1.2政府の予算
ポイント
- 主要国の科学技術予算(実質額、2005年基準各国通貨)を見ると、2000年代前半での年平均成長率は、ドイツ、フランスは横ばい、その他の国はプラス成長であり、中国は特に高い成長率である。2000年代後半になると、成長率は、日本、イギリスは横ばい、米国、フランスはマイナス成長であるが、ドイツ、中国、韓国は高い成長率を示している。
- 2011年度の日本の科学技術予算(科学技術関係経費)は当初予算で3.7兆円であり、その後補正予算が組まれ、最終的な予算額は4.2兆円である。
本節では、各国政府歳出のなかの科学技術予算について見る。
この報告書では、日本の「科学技術関係経費」を科学技術予算としている。科学技術関係経費とは、①科学技術振興費(一般会計予算のうち主として歳出の目的が科学技術の振興にある経費)、②一般会計中のその他の研究関係費、③特別会計中の科学技術関係費の合計を指す。
1.2.1各国の科学技術予算
主要国政府の科学技術予算総額(OECD購買力平価換算)を見ると(図表1-2-1(A))、日本の金額は3.7兆円、米国の約5分の1程度(2011年)である。経年的な変化を見ると、日本の科学技術予算は2000年代に入ってから横ばいに推移している。米国については、2009年にARRA(American Recov-ery and Reinvestment Act of 2009)による特別な予算が措置された以降は、減少傾向である。また、中国の伸びは2000年代に入り著しく増加している。
政府の科学技術予算の国際比較を行う場合、しばしば国防関係の経費を除いて比較することがある。国防関係の経費が他の経費と性格が異なることから、特に日本を他の国と比較する場合、これを除いた方が妥当であることが多いためである。図表1-2-1(B)に、政府の科学技術予算から国防関係の経費を除いた金額(民生用科学技術予算)を示した。
日本の科学技術予算のうち民生用科学技術予算が占める割合は97.4%(2011年(4))であり、他国と比較してもかなり大きい。一方、米国の民生用は42.8%(2011年)と、半分以下であり、他にはこのように民生用科学技術予算が小さい国は少ない。
経年的変化の面で見ると(図表1-2-1(C))、各国通貨では、2000年代前半(2000~2005年)での科学技術予算総額の年平均成長率は全ての国でプラス成長であり、特に中国、韓国で高い値になっている。2000年代後半(2005~各国最新年)に入ると、科学技術予算総額の年平均成長率は日本、米国で横ばい、ドイツ、中国、韓国で伸びており、フランスはマイナス成長である。
また、物価変動分の影響を除いた実質額の動きを見ると2000年代前半での年平均成長率は、ドイツ、フランスは横ばい、その他の国はプラス成長であり、中国は特に高い成長率である。2000年代後半になると、成長率は、日本、イギリスは横ばい、米国、フランスはマイナス成長であるが、ドイツ、中国、韓国は高い成長率を示している。
2000年代前半より2000年代後半の成長率が高い国は、名目額で見ると、ドイツのみであるが、実質額で見ると、ドイツ、中国(中央・地方政府)が挙げられる。
なお、2000年代後半に入ってから、防衛に関する予算の成長率は、名目値及び実質値で見ても、減少している国が多く、増加している国はドイツ、韓国のみである。




注:
<日本>各年度とも当初予算額である。
<米国>2010年度値は予備値、2011年は要求値。2009年度の値にはARRA:American Recovery and Reinvestment Act of 2009によって,特別に予算が措置された。
<ドイツ>連邦政府及び州政府の2007年、連邦政府の2008,2009年は予定額。
<フランス>1984、1986、1992、1997年のデータは前年までのデータと継続性が損なわれている。2008年は推計値。
<イギリス>2006年度は推計値、2007、2008年度はクロスカッティングレビューでの計画値である。
購買力平価換算には参考統計Eを用いた。
資料:
<日本>文部科学省調べ。
<米国>NSF,"Federal R&D Funding by Budget Function Fiscal Years 2009-2011"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung,"Faktenbericht Forschung 2002"、"Bundesbericht Forschung 2004,2006"、"Research and Innovation in Germany "2005,2007,"Bundesbericht Forschung und Innovation 2010"
<フランス、韓国>OECD,"Main Science and Technology Indicators 2011/2"
<イギリス>OST,"SET Statistics"
<中国>科学技術統計センター、中国科学技術統計(webサイト)
参照:表1-2-1
次に、国の経済規模による違いを考慮して比較するために、科学技術予算の対GDP比率を示した(図表1-2-2)。日本の値は1990年代に入って上昇し、2000年代は横ばいに推移している。2000年代に入ると、韓国と、中国(中央政府及び地方政府)の伸びが著しい。その他の国は横ばい、もしくは減少傾向が見える。
最新年でみると、日本は0.75%、米国が0.99%、ドイツは連邦政府のみが0.51%、州政府を加えると0.80%、フランスは0.84%、イギリスは0.70%である。また、韓国は主要国中トップとなる1.05%、中国は中央政府のみが0.42%、地方政府を加えると1.03%となり、韓国に迫っている。

注:
<科学技術予算>図表1-2-1と同じ。
<GDP>参考統計Cと同じ。
資料:
<科学技術予算>図表1-2-1と同じ
<GDP>参考統計Cと同じ。
参照:表1-2-2
1.2.2各国政府の研究開発費負担割合
研究開発に対する政府の投入資金を調査する方法には、①研究開発費の使用部門において調査を行い、政府負担分を計上する方法、②政府の歳出の中から研究開発に関する支出(科学技術予算(5))を調べる方法(参照1.2.1節)と二つある。
これら二つの方法のうち、①使用側において調査する方法は、研究開発費が複雑な流れを経た場合でも、調査対象が国全体を網羅している限り一国の研究開発費の総額を把握することができるが、資金の負担源を必ずしも正確に捉えることができない。一方、②支出源(科学技術予算)側の調査では、実際に研究開発費として使用されたかどうか不明の部分があるため、研究開発費を正確に把握することが困難になる。
この節では①使用側のデータを用いて政府の研究開発費負担の状況を示すこととする。すなわち、各国の研究開発費総額のうち政府が各部門に負担した研究開発費が占める割合を見る。ここでいう政府とは、主に中央政府であるが、国によって違いが見える。各国の政府が何を指すかを簡単に図表1-2-3に示した。
図表1-2-4を見ると、主要国における政府の研究開発費負担割合の大きい国はフランスである。日本は7か国中で最も低い割合となっており、2010年の政府負担割合は19.3%である。
なお、ほとんどの国は2000年頃まで減少傾向にあり、それ以降、フランス、韓国は横ばい、米国、イギリスも大きな増減がみえるけれども、横ばい傾向である。ただし、ドイツ、中国の漸減傾向は続いている。

注:
表1-1-4(B)と同じ。
資料:
表1-1-4(B)と同じ。


注:
1)使用部門側から見た政府の研究開発費負担分は国により中央政府のみの場合と地方政府を含む場合があるため国際比較の際には注意が必要である。各国の政府については図表1-2-3を参照のこと。
2)研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年度まで自然科学のみ)。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF, "Science and Engineering Indicators 2012"
<ドイツ>Bundesministerium fur Bildung und Forschung,"Bundesbericht Forschung 2004,2006"、"Bundesbericht Forschungund Innovation 2010" 、2008年からはOECD,"Research & Development Statistics 2011"
<日本(OECD推計)、フランス、韓国>OECD,"Research & Development Statistics 2011"
<イギリス>National Statistics website: www.statistics.gov.uk
<中国>中華人民共和国科学技術部、「中国科学技術指標」、中国科技統計数値(webサイト)
参照:表1-2-4
次に、政府が負担する研究開発費の支出先別の内訳、すなわち政府の資金がどの部門で使用されているかについて見る。それにより、各国の政策の違いを見てみる(図表1-2-5)。
日本の場合は、図に示した期間を通じて各部門での大きな変化は見られず、「大学」部門と「公的機関」部門が大きな割合を占めている。また、他の国と比較して「企業」部門への支出が少ない点が日本の特徴である。
米国では、以前は「企業」部門への研究開発費の支出割合が高く1980年代は40%台で推移していた。しかし、1980年代後半以降、その割合が大幅に減少する一方で、「大学」の割合が増加している。また、全体に占める割合は小さいものの「非営利団体」部門の割合も同じ時期に増加している。
ドイツは、1980年代の中頃から「企業」部門の割合が減少する一方で、「大学」部門と「公的機関」・「非営利団体」部門の割合が増加している。「大学」部門は一貫して増加傾向にあったが、近年横ばいに推移している。
フランスでは、以前は「公的機関」部門の割合が大きく、「大学」部門の割合が比較的小さかったが、1990年代に入り、「大学」の割合は増加する一方で、「公的機関」部門と「企業」部門の割合は減少していた。ただし、2000年代に入るとその割合は一定している。
イギリスでは、「大学」部門への支出は大幅な増加傾向にある。また1981年から1996年まで「企業」部門への支出が減少傾向にあったが、それ以降は増減を繰り返している。「公的機関」部門の割合は1990年代後半以降減少傾向にある。
以上をまとめると、政府負担研究開発費の支出先の割合に、あまり変化のないのは日本である。また、「企業」部門への研究開発費の支出が減少傾向にあるドイツ、イギリスが、「大学」部門に対する支出が相対的に増える傾向にある。なお、ドイツ、イギリスと同様の傾向にあったフランスは、2000年代に入ると部門間の割合に大きな変化が見られなくなり、米国も近年、同様の傾向が見える。










注:
1)国際比較注意については図表1-2-4と同じ。
2)研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年度まで自然科学のみ)。
<日本>政府は、国、地方公共団体、国営、公営、及び特殊法人・独立行政法人の研究機関、国立及び公立大学(短期大学等を含む)。
<日本(OECD推計)>
1)1996年からOECDが補正し、推計した値(大学部門の研究開発費のうち人件費をFTEにした研究開発費)を使用しているため、時系列変化を見る際には注意が必要である。
2)政府は、国、地方公共団体、国営、公営、及び特殊法人・独立行政法人の研究機関。
<米国>政府は、連邦政府。
<ドイツ>1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。政府は、連邦及び州政府。
<フランス>政府は、公的研究機関。
<イギリス>政府は、中央政府(分権化された政府も含む)、研究会議、高等教育機関資金会議。
<韓国>政府は政府研究機関及び政府出捐研究機関。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF, "Science and Engineering Indicators 2012"
<ドイツ>Bundesministerium für Bildung und Forschung,"Bundesbericht Forschung 2004,2006"、"Bundesbericht Forschung und Innovation 2010" ドイツの2008年からはOECD,"Research & Development Statistics 2011"
<日本(OECD推計)、フランス、韓国>OECD,"Research & Development Statistics 2011"
<イギリス>OECD,"Research & Development Statistics 2011、ただし1992年からは National Statistics website: www.statistics.gov.uk
<中国>中華人民共和国科学技術部、「中国科学技術指標」、中国科技統計数値(webサイト)
参照:表1-2-5
1.2.3日本の科学技術予算(科学技術関係経費)
科学技術基本計画は、1995年11月に公布・施行された科学技術基本法に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画であり、今後10年程度を見通した5年間の科学技術政策を具体化するものとして、政府が策定するものである。ここでは、科学技術基本計画(以下、基本計画と呼ぶ)ごとの科学技術関係経費の推移をみる(図表1-2-6)。
第1期基本計画は1996~2000年度を対象としており、科学技術関係経費の総額の規模を約17兆円とすることが必要であると明記された。第1期科学技術基本計画の5年間の予算額を合計すると、17.6兆円となった。5年間の推移を見ると、当初予算は増加傾向にあり、補正予算も多く組まれ、1998年度は景気対策を目的として組まれた補正予算が、5年間の予算額に大きく寄与している。
その後の第2期基本計画は2001~2005年度を対象としており、政府研究開発投資の総額を約24兆円とすることが必要であると明記された。当該期間の政府(国)の科学技術関係経費の予算額の合計は18.8兆円である。当初予算の推移は微増、補正予算は2001年、2002年には大きく組まれている。なお、これに地方分2.3兆円を加えると21.1兆円となる。
第3期基本計画においても、2006年度から2010年度の5年間の総額の規模を約25兆円とすることが必要とされている(期間中に政府研究開発投資の対GDP比率が1%、同期間中のGDP名目成長率が平均3.1%を前提としている)。
実際の当該期間の予算額を合計すると、19.6兆円である。5年間の推移をみると、当初予算については横ばいであるが、2009年度は約1兆円の補正予算がつき、5年間の合計は19.6兆円、これに地方分を加えると21.7兆円となる。
2011年からの5年間を対象とする第4期基本計画については、政府研究開発投資に関する具体的な目標を設定しており、同期間中の政府研究開発投資の総額の規模を約25兆円とすること(同期間中に政府研究開発投資の対GDP比率1%、GDPの名目成長率平均2.8%を前提に試算)と明記されている。
2011年度の科学技術関係経費は当初予算で3.7兆円である。補正予算については第4次補正まで付き、最終予算額は4.2兆円である。なお、速報値ではあるが、2012年度の当初予算は3.7兆円である。

注:
1)補正予算は追加額のみである。
2)科学技術基本計画(第1期~第3期)の策定に伴い、1996年度、2001年度及び2006年度に対象経費の範囲が見直されている。
資料:
文部科学省調べ
参照:表1-2-6
政府の科学技術関係経費についての基本的な指標をいくつか示す。
図表1-2-7は、科学技術関係経費の対前年度伸び率を一般歳出と比較したものである。ここでいう一般歳出とは、一般会計歳出から、国債費、地方交付税交付金等を除いた額であり、景気や経済の状況に応じて、政府の裁量で内容や規模が決められることから、政策的経費とされており、これと科学技術関係経費の伸び率を比較することによって、予算編成の中で科学技術関係経費がどれだけ重要視されてきたかを見ることができる。
1990年代での科学技術関係経費の伸び率は、一般歳出の伸び率を上回っていることが多く、かつ伸び率も大きかったが、2000年代中頃からは一般歳出の伸び率と同程度であり、近年は下回ることもある。近年、科学技術関係経費の重要度は低下傾向となっている。
日本の2011年度の科学技術関係経費は、一般会計分が83.4%、特別会計分が16.6%となっている(図表1-2-8)。一般会計分は、国立大学や公的研究機関等の経費、各種の助成費等からなる「科学技術振興費」及び、その他の研究関係費等からなる。一方、特別会計分は、エネルギー需給勘定(石油特会)、電源開発促進勘定(電源特会)が大きな部分を占めている。

注:
1)当初予算である。
2)科学技術基本計画(第1期~第3期)の策定に伴い、1996年度、2001年度及び2006年度に対象経費の範囲が見直されている。
3)2011年度予算編成においては「一般歳出」は、用いられず、一般会計歳出から国債費を除いた「基礎的財政収支対象経費」が用いられているため、2011年度の一般歳出のデータは、一般会計歳出から国債費及び地方交付税交付金等を除いた額を従来の一般歳出相当額として使用している。
資料:
文部科学省調べ、財務省、財政統計(予算・決算等データ)(webサイトより)
参照:表1-2-7

注:
国立大学法人等については、2006年度以前は国費である運営費交付金及び施設整備費補助金に、自己収入(病院収入、授業料、受託事業等)を含めた総額から算定している(この額は、国立大学等が法人化される前の国立学校特別会計制度における科学技術関係経費に相当する額である)。2006年度からは、自己収入を含まない算定方法に変更した。
資料:
文部科学省調べ
参照:表1-2-8
科学技術関係経費を省庁別の割合で見ると、科学技術関係経費の対象範囲が見直された1996年度及び省庁再編された2001年度を除いて、大きな変動は見られない。省庁別の割合は、文部科学省(2000年度以前は科学技術庁と文部省)が一貫して最大であり、2011年度では66.8%を占め、次いで経済産業省(16.0%)、厚生労働省(4.1%)、農林水産省(3.1%)、防衛省(2.6%)、と続いている(図表1-2-9)。

注:
1)各年度とも当初予算である。
2)科学技術基本計画(第1期~第3期)の策定に伴い、1996年度、2001年度及び2006年度に対象経費の範囲が見直されている。
3)2000年度以前において、基盤技術研究促進センター(1985年10月1日設立、2003年4月1日解散)経費については通商産業省、郵政省それぞれに重複計上している。(なお、合計については、重複計上にならないようにしている。)
4)科学技術関係経費は文部科学省が各省庁の提出資料に基づいてとりまとめたものである。
5)財務省所管である産業投資特別会計中の科学技術関係経費における各特殊法人等に対する出資金等は、各特殊法人等を所管している府省に計上している。ただし、財務省と農林水産省の共管である生物系特定産業技術研究推進機構については、農林水産省に計上している。
6)防衛庁は2007年1月9日に防衛省となった。
資料:
文部科学省、「科学技術要覧」、文部科学省調べ。
参照:表1-2-9
政府の科学技術関係経費を国際比較する際には、中央政府だけでなく地方政府も含める場合がある。
2011年度における47都道府県及び19政令指定都市の科学技術関係経費の当初予算合計は、4,505億円であり、同年度の国の科学技術関係経費当初予算額(3兆6,648億円)の12.3%に相当する(図表1-2-10)。

注:
1)当初予算額である。
2)地方自治体の予算額には国庫支出金は含まない。
資料:
文部科学省調べ。
参照:表1-2-10
(4)この節の日本の場合は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。
(5)本来は、科学技術予算のうち、研究開発のために向けられた予算(研究開発予算)のみを調べるべきであるが、日本には研究開発予算のデータが無いため、本報告書では科学技術予算のデータを用いている。ただし、日本の科学技術予算の大部分を研究開発予算が占めている。なお、日本以外のほとんどの国においては、研究開発予算についてのデータがとられている。