1.4性格別研究開発費

ポイント

  • 2013年の日本の性格別研究開発費のうち基礎研究の割合は全体の15.2%である。「応用研究」は22.8%、「開発」が62.1%である。その割合は長期的に見て大きな変化は見られない。
  • 研究開発費を性格別に分類して見ると、他国と比較して、基礎研究が最も大きいのはフランスであり、応用研究が最も大きいのは英国であり、開発が最も大きいのは中国である。
  • 「企業」、「大学」、「公的機関」部門の研究開発費を性格別で見ると、日本の場合、「企業」は「開発」が約7割を占め、「大学」は基礎が約5割を占めている。「公的機関」は2000年代に入るまで「基礎研究」の増加、「開発」の減少という変化あったが、その後は横ばいに推移している。なお、「大学」の性格別研究開発費の割合の推移に変化は見られない。
  • 中国の「企業」は「開発」の割合が100%に近い状況になっている。「大学」については「応用研究」の割合が一定量あることが特徴である。また、「基礎研究」の増加、「開発」の減少といった研究開発費の性格の変化が顕著に見られる。

1.4.1各国の性格別研究開発費

 性格別研究開発費とは、基礎、応用、開発というおおまかな分類に分けた研究開発費を指す。この分類はOECDのフラスカティ・マニュアルによる定義に基づいて各国が分類している。そのため回答者による主観的推計が少なからず影響していることを考慮する必要がある。以下に、フラスカティ・マニュアルに掲載されている性格別の定義を簡単に示す。
 基礎研究(Basic research)とは何ら特定の応用や利用を考慮することなく、主として現象や観察可能な事実のもとに潜む根拠についての新しい知識を獲得するために企てられる、試験的、あるいは理論的な作業である。
 応用研究(Applied research)とは新しい知識を獲得するために企てられる独自の探索である。しかしながら、それは主として、特定の実際上の目的または目標を目指して行われる。
 (試験的)開発(Experimental development)とは体系的な作業であって、研究または実際上の経験によって獲得された既存の知識を活かすもので、新しい材料、製品、デバイスの生産、新しいプロセス、システム、サービスの導入、あるいは、これらの既に生産または導入されているものの実質的な改善を目指すものである。
 各国ともに上述した定義に基づいて、性格別の研究開発費が計測されていると思われるが、国によって使用されている名称が多少異なっている。たとえば、米国は「(試験的)開発」を「開発(development)」と表現しているが、フランスは「試験的開発Développement expérimental」と試験的という言葉を明記している。
 ドイツは、最近は性格別研究開発費のデータを公表しておらず、特に「大学」部門での性格別研究開発費のデータはない。ただし、2001年から「企業」部門で性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 また、英国は2007年から性格別研究開発費の計測データが掲載されるようになった(OECDデータによる)。
 なお、日本の性格別研究開発費(14)は自然科学分野を対象に計測しており国全体の研究開発費総額ではない。また、韓国は2006年まで自然科学分野を対象にしていたが、2007年から全分野を対象にしている。
 図表1-4-1は主要国の研究開発費を性格別に分類した割合である。「基礎研究」が最も大きいのはフランスであり、「応用研究」が最も大きいのは英国であり、「開発」が最も大きいのは中国である。
 2013年(15)の日本の性格別研究開発費のうち「基礎研究」の割合は全体の15.2%、「応用研究」は22.8%、「開発」が62.1%である。その割合は長期的に見て大きな変化は見られない。
 米国は、性格別の割合が日本と似ているが、近年、「基礎研究」、「応用研究」の割合が減少し、「開発」が増加している。
 フランスは、他国と比較して「基礎研究」の割合が最も大きく、最新年では28.6%である。「基礎研究」、「応用研究」の割合は増加しており、「開発」の割合は減少している。
 英国では「応用研究」の割合が最も大きくかつ増加もしている。
 中国は「基礎研究」の割合が小さく最新年では4.7%である。一方、「開発」の割合が大きく84.6%であり、他国と比較しても最も大きい。また、「開発」の割合は増加もしている。
 韓国は、2000年代に入ってから「基礎研究」の割合が増加している。応用の割合は減少していたが、近年、「基礎研究」、「応用研究」、「開発」ともに、その割合は横ばいに推移している。


【図表1-4-1】 主要国の性格別研究開発費の割合の推移 

注:
日本の研究開発費は自然科学のみ(韓国は2006年まで)。他の国の研究開発費は、自然科学と人文科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
<日本>年度の値を示している。
<米国>2012年値は予備値。
<英国>国家の見積もり又は推定値。
<中国>2009年の値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2011-12 Data Update”
<ドイツ、フランス、英国、中国>OECD,“Research & Development Statistics 2014”
<韓国>韓国科学技術統計サービス(webサイト)

参照:表1-4-1


1.4.2主要国の部門別の性格別研究開発費

 「企業」、「大学」、「公的機関」部門の研究開発費を性格別の割合で見る(図表1-4-2)。
 日本の場合、「企業」は「開発」が約7割を占め、「大学」は基礎が約5割を占めている。「公的機関」は2000年代に入るまで「基礎研究」の増加、「開発」の減少という変化があったが、その後は横ばいに推移している。なお、性格別研究開発費の割合の推移に変化が見えるのは「公的機関」のみであり、「企業」や「大学」については特に変化が見られない。
 米国の「企業」は「開発」の割合が多くを占め、増加もしている。「大学」においては「基礎研究」が多くを占めているが、近年、「開発」に増加が見られる。「公的機関」は「開発」が最も多く、2000年代に入り、増加している。
 フランスの「企業」は2000年代に入り、「開発」の減少、「応用研究」の増加が見られる。「大学」については、ほとんどが「基礎研究」であるが、漸減傾向にある。
 英国の性格別研究開発費は見積もり数値、もしくは推定値であり、「大学」と「公的機関」については、近年まったく変化していない。
 中国の「企業」は「開発」の割合が100%に近い状況になっている。「大学」については「応用研究」の割合が一定量あることが特徴である。また、「基礎研究」の増加、「開発」の減少といった研究開発費の性格の変化が顕著に見られる。「公的機関」には大きな変化は見られない。
 韓国の「企業」では「開発」が7割を占め、最も大きい。「大学」は「基礎研究」が大きいが、他国と比較すると「応用研究」、「開発」の割合も大きい。


【図表1-4-2】 主要国の部門別の性格別研究開発費の割合の推移 

(A)日本
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(B)米国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(C)フランス
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(D)英国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(E)中国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

(F)韓国
(a)企業 (b)大学 (c)公的機関

注:
1)日本の研究開発費は自然科学のみ(韓国は2006年まで)。他の国の研究開発費は、自然科学と人文科学の合計であるため、国際比較する際には注意が必要である。
2)購買力平価換算は、参考統計Eと同じ。
<日本>年度の値を示している。
<米国>2013年は予備値。
<フランス>公的機関の1992、1997、2001、2004、2006年の値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
<英国>国家の見積もり又は推定値。
<中国>2000、2009年の値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。公的機関は1999年値まで過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2011-12 Data Update”
<フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Research & Development Statistics 2014”

参照:表1-4-2



(14)日本の研究開発統計調査「科学技術研究調査」での性格別研究開発費の定義は以下のとおりであり、対象は自然科学分野のみである。
基礎研究:特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。
応用研究:基礎研究によって発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究をいう。
開発研究:基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究をいう。
(15)この節の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している節では「年度」を用いている。