5.4研究開発とイノベーションの関係:日米比較
ポイント
- 研究開発活動を実施している企業のイノベーション実現状況を見ると、日本、米国ともに、研究開発費使用額が大きい企業ほどイノベーションの実現割合が高い。
- 日本の研究開発活動を実施している企業の場合、研究開発費の大きさによらず、 新サービスに関するイノベーション は、 製品に関するイノベーション やプロセス・イノベーション よりも実現割合が低い。
- 米国の研究開発活動を実施している企業の場合、研究開発費の大きさによらず、 新サービスに関するイノベーションは、製品に関するイノベーションやプロセス・イノベーション よりも実現割合は低いものの、日本ほどの差はない。
科学技術政策研究所では、2009年に「第2回全国イノベーション調査」を実施し、日本企業のイノベーションの実現状況について調査結果をとりまとめた(5)。本調査は、基本的にイノベーション調査の国際標準を取りまとめた「オスロ・マニュアル」に基づいており、企業のイノベーション活動について、「革新的な製品・サービスまたは業務の改善を目的としたプロセスの開発に必要とされる設計、研究開発、市場調査などの取り組み」と定義し、企業のイノベーション活動状況を調査している。
日本の「第2回全国イノベーション調査」でのプロダクト・イノベーションとは、「新製品あるいは新サービスの市場への投入として定義される。新製品あるいは新サービスには、機能・性能・設計・原材料・構成要素・用途を新しくしたものだけではなく、既存の技術を組み合わせたものや既存製品あるいは既存サービスを技術的に高度化したものも含まれる。ただし、製品あるいはサービスの機能面や使用目的が既存のものと変わらない単なるデザインのみの変更、他社製品・サービスの単なる販売・提供は含まれない」となっている。一方、プロセス・イノベーションとは「新プロセスの導入または既存プロセスの改良として定義される。プロセス・イノベーションには、製品・サービスの製造・生産方法あるいは物流・配送方法の新規導入や改良だけではなく、製造・生産あるいは物流・配送をサポートする保守システムやコンピューター処理などの新規導入や改良も含まれる」 となっている。
米国では、2008年実施の「Business R&D Innovation Survey」において、米国の企業におけるプロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションの実現状況が調査されている。
日本と米国のイノベーション調査において、図表5-4-1に示すように母集団(日本では従業者10人以上の企業、米国では従業員5人以上の企業)が異なり、また、質問形態に差異があるが、出来る限り同条件で、日本と米国の企業のイノベーション実現状況を比較してみる。

注:
1)2006‐2008年度にかけて、自社・自社外を問わず研究開発費を計上した企業を、研究開発活動を実施した企業とする。研究開発費の分類については2008年度の金額に基づいている。なお、日本の企業の研究開発費については2008年の購買力平価により米ドルに換算した。
2)日本の調査において、2008年度の金額を記入しなかった企業が存在するため、「研究開発を実施した企業数」と「各金額に分類された企業数の合計」は一致しない。
3)米国の調査において、重み付けされた合計は、研究開発活動の実施有無が報告されなかった327,300の会社を含まない。
4)母集団については、日本の場合従業者10人以上の企業を対象とし、米国では従業員5人以上の企業を対象としている。
資料:
<日本>第2回イノベーション調査(2009年実施)データに基づき、科学技術政策研究所が集計。
<米国>NSF,“InfoBrief (NSF Releases New Statistics on Business Innovation)”
図表5-4-2は、日本と米国の企業のうち、研究開発を実施した企業については、研究開発費使用額の規模別に分類し、イノベーションを実現した企業の割合を示したものである。ここでいう研究開発費は、内部使用と外部支出を合わせた研究開発支出である。イノベーションを実現するための活動は、社内、社外に関係なく行われているため、それに合わせて、研究開発費についても同様に計測したものを使用した。
イノベーションについては、プロダクト・イノベーションのうち①製品等に関するもの、②サービスに関するもの、及び③プロセス・イノベーションの3つに分類したものを示した(図表5-4-2)。
日本のイノベーション実現状況を見ると、研究開発費使用額が大きい企業ほどイノベーションの実現割合が高く、小さい企業ほどイノベーションの実現割合が低い。ただし、「プロダクト・イノベーションのうち製品等に関するもの」の実現割合は、研究開発費規模が最も大きな企業群でなく、2番目に大きい「研究開発費使用額5億ドル以上10億ドル未満の企業」で、88%と最も割合が高い。
いずれの研究開発費規模においても「プロダクト・イノベーションのうちサービスに関するもの」は、「プロダクト・イノベーションのうち製品に関するもの」及び「プロセス・イノベーション」と比較すると、イノベーションの実現割合が低い傾向にある。
「プロダクト・イノベーションのうち製品等に関するもの」及び「プロセス・イノベーション」については、「研究開発活動を実施している企業」全体で50%以上の実現割合であり、「研究開発活動を実施しなかった企業」との実現割合には約40ポイントの差がある。
米国についても、研究開発費使用額が大きい企業ほどイノベーションの実現割合が高い傾向があるのは日本と同様である。
いずれの研究開発費規模別においても「プロダクト・イノベーションのうちサービスに関するもの」は、「プロダクト・イノベーションのうち製品に関するもの」及び「プロセス・イノベーション」と比較すると、イノベーションの実現割合が低い傾向にあるが、日本ほど、他のイノベーション活動との差はない。
全てのイノベーション活動において、「研究開発費使用額10億ドル以上の企業」は実現割合が最も高いが、「プロセス・イノベーション」については「研究開発費使用額5億ドル以上10億ドル未満の企業」も69%あり、「研究開発費使用額10億ドル以上の企業」(71%)と同程度の高さである。


注:
図表5-4-1と同じ。
資料:
図表5-4-1と同じ。
参照:表5-4-2
(5)科学技術政策研究所、NR no.144「第2回全国イノベーション調査報告書」(2010.9)