4.2.5パテントファミリーの出願先

 つぎにパテントファミリーの出願先(自国への出願分は除く)をみることで、主要国からの特許出願の国際的な広がりの時系列変化を見る(図表4-2-11)。
 日本からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では約90%が米国およびヨーロッパとなっていたが、1990年代に入って中国への出願が増加している。2009年時点では米国への出願が45.7%、中国への出願が22.0%、欧州特許庁への出願が12.1%となっている。ヨーロッパ各国の特許庁への直接出願については、年々その割合が減少し、2009年時点では、4.2%となっている。
 米国からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では約半分がヨーロッパ、19.9%が米国以外の北米・中南米、17.8%が日本となっていた。1990年代に入って日本以外のアジアの国への出願が増加し、2009年時点ではアジアへの出願が全体の44.1%を占めている。また、アフリカへの出願も一定数存在している。
 2009年時点に注目すると、ドイツについては21.7%がアジア、23.0%が米国を含む北米・中南米、43.4%が欧州特許庁に出願されている。フランスについてはアジアが22.3%、米国を含む北米・中南米が26.8%であり、35.1%が欧州特許庁に出願されている。英国については24.5%がアジア、36.6%が米国を含む北米・中南米、26.5%が欧州特許庁に出願されている。
 これらの国についてアジアにおける出願先をみると、日本の比率が相対的に下がり、中国や韓国の比率が上がっている。米国とおなじく、アフリカへの出願も一定数存在している。
 中国からの出願は1980年代後半時点では、欧州への出願が約半数を占めており、それにアジア、米国がつづいていた。その後、米国への出願の割合が大幅に増加する一方で、欧州への出願の割合は減少している。2009年時点では49.6%が米国を含む北米・中南米、25.1%がアジア、17.2%が欧州特許庁となっている。韓国からの出願は1980年代後半時点では、米国、欧州、アジア(主に日本)への出願が、ほぼ1/3ずつであった。その後、米国への出願の割合が大幅に増加し、2009年時点では54.1%が米国を含む北米・中南米、32.6%がアジアとなっている。アジアにおける出願先をみると、日本の比率が相対的に下がり、中国の比率が上がっている。


【図表4-2-10】 主要国の技術分野毎のパテントファミリー数シェアの比較
(%、1998-2000年と2008-2010年、整数カウント法)

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2014年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-10


【図表4-2-11】 主要国におけるパテントファミリーの出願先
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ
(D)フランス
(E)英国
(F)中国
(G)韓国

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2014年秋バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-2-11


テクニカルノート: パテントファミリーの集計

 特許出願数の国際比較可能性を向上させるために、科学技術指標2015では、パテントファミリーによる分析を実施している。
 パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2カ国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。したがって、パテントファミリーをカウントすることで、同じ出願を2度カウントすることを防ぐことが出来る。また、パテントファミリーをカウントすることで、特定の国への出願ではなく、世界中の特許庁への出願をまとめてカウントすることが可能となる。
 しかしながら、パテントファミリーの分析結果については、利用したデータベース、パテントファミリーの定義の仕方、パテントファミリーのカウント方法に依存する。
 そこで、以下では、他の分析との比較の際の参考とするため、科学技術指標2015のパテントファミリーの分析に用いた手法をまとめる。なお、説明の中で、「tlsXXX」として参照しているのは、PATSTATに収録されているテーブルの名称である。

A)分析に用いたデータベース
 欧州特許庁のPATSTAT(2014年秋バージョン)を使用した。PATSTATには、世界80か国以上、8,000万件以上の特許統計データが含まれている。

B)パテントファミリーの定義
 パテントファミリーの定義にはさまざまなものが存在するが、科学技術指標2015では欧州特許庁が作成しているDOCDBパテントファミリー(tls218_docdb_fam)を分析に用いている。

C)パテントファミリーのカウント
 パテントファミリーのカウントの際には、OECD Patent Statistics Manualに準拠し、ファミリーを構成する出願の中で最も早い出願日、発明者の居住国を用いた。国を単位とした整数カウントを行った。

D)発明者情報の取得方法
 PATSTATの発明者情報や出願人情報には欠落が多いことから、各パテントファミリーと国の対応付けは以下のように行った。発明者情報および出願人の情報は、tls206_person、tls207_pers_appln、tls227_pers_publnを用いて取得した。
  ①パテントファミリーを構成する全ての特許出願を検索し、発明者が居住する国の情報が入っている場合は、それを用いた。
  ②発明者が居住する国の情報が入っていない場合は、パテントファミリーを構成する全ての特許出願を検索し、出願人が居住する国の情報が入っている場合は、それを用いた。
  ③上記の手順でも国との対応付けが出来なかった場合は、最初の出願は、出願人が居住する国に行うと仮定して、最も早い出願の出願先の国の情報を用いた。

E)パテントファミリーの同定
 DOCDBパテントファミリーのうち、1つの特許受理官庁に出願されたものを単国出願、2つ以上の特許受理官庁に出願されたものをパテントファミリーとした。

F)技術分野の分類
 国際特許分類(IPC)を用いた技術分野の分類には、WIPOが公表しているIPC - Technology Concordance Table [http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/technology_concordance.html] (January 2013)を用いた。
 一つの特許出願に複数の技術分野が付与されている場合は分数カウントにより各分野に計上した。

G)パテントファミリーの最新年
 パテントファミリーは、2カ国以上に出願されて初めて計測対象となる。PCT国際出願された特許出願が国内移行するまでのタイムラグは30カ月に及ぶ場合がある。したがって、パテントファミリー数が安定し分析可能な最新値は2010年である。なお、出願先の分析については2009年を最新値とした。パテントファミリー+単国出願については、2011年を最新値とした。

H)その他の留意点
 ・PATSTAT中に出願情報は収録されているが(tls201_applnにレコードはある)、公報等が出版されていない出願(tls211_pat_publnに該当するレコードがない)については、出願が取り下げられたと考え分析対象から外した。
 ・オーストラリア特許庁への出願データについては、集計値が異常値と考えられたので、分析対象から外した。
 ・短期特許、米国のデザイン特許や植物特許は分析対象から外した。