概 要

 「科学技術指標」は、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき、体系的に把握するための基礎資料であり、科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の5つのカテゴリーに分類し、約150の指標で我が国の状況を表している。「科学技術指標2015」において、変化のあった指標、注目すべき指標を紹介する。

1.研究開発費から見る日本と主要国の状況

(1)日本の研究開発費総額の対GDP比率は主要国の中でも高い水準にある。ただし、10年前と比べた対GDP比率の増加分には、GDPが減少した効果も含まれる。

 日本の研究開発費総額の対GDP比率は、最新年である2013年に3.75%(OECD推計3.45%)であり、主要国の中でも高い水準にある。ここ10年の変化に注目すると、英国、フランスを除いた主要国での研究開発費総額の対GDP比率は増加傾向にある。ただし、この間、日本のGDPは減少、他国のGDPは増加傾向にある。したがって、日本の研究開発費総額の対GDP比率の増加分の一定割合は、GDPの減少による効果である。他方、米国、ドイツ、中国、韓国では、経済規模が拡大すると同時に研究開発費総額の対GDP比率も上昇している。


【概要図表1】 主要国の研究開発費総額の対GDP比率の推移 

参照:科学技術指標2015図表1-1-3

【参考】 主要国の国内総生産(GDP)

注:
各国のGDPは2008SNAによる(日本と中国は除く)。
参照:科学技術指標2015参考統計C

(2)日本の政府の研究開発負担割合は、主要国の中では低位に位置している。

 次に、研究開発費における政府の役割(負担割合)を見る。最も大きい国はフランスであり2012年で35.0%である。日本は、ここで示した7カ国の中では最も低い割合となっており、2013年の政府負担割合は19.5%(OECD推計17.3%)である。これは、日本の研究開発費の負担割合のうち、企業(69.6%)に加えて、私立大学(9.6%、主に授業料収入から成り立つと考えられる)の負担割合が他国と比較して高いためである。


【概要図表2】 主要国における政府の研究開発費負担割合の推移 

参照:科学技術指標2015図表1-2-4

(3)日本の大学の研究開発費のうち、企業負担の割合に大きな変化はない。

 特に、大学に注目して研究開発費における企業による負担割合を見ると、ほとんどの国で大きな変化は見られないが、ドイツの増加と韓国の減少が見られる。最新年の状況を見ると、中国が最も高く(33.8%)、これにドイツ(14.0%)、韓国(11.0%)、米国(5.2%)、英国(4.1%)、フランス(2.7%)、日本(2.5%、OECD推計2.6%)と続いている。


【概要図表3】 大学における企業負担研究開発費の割合の推移

参照:科学技術指標2015図表1-3-11

2.研究開発人材から見る日本の状況

(1)日本の労働力人口当たりの研究者数は、主要国のなかで高い水準にある。しかし、過去10年では、主要国の中では研究者数の伸びが小さい。

 研究開発資金と並んで重要なインプットが、研究者数である。日本の労働力人口当たりの研究者数(FTE(1))は、2000年代前半は主要国の中で最も高い値であったが、2009年には韓国が日本を上回った。主要国の中で、日本(FTE)は2013年時点でも高い水準にある。しかし、過去10年程度の研究者数の変化を見ると英国を除く主要国において、研究者数が増加しているのに比べて、日本の研究者数(FTE)はほぼ横ばいとなっている。部門別に見るとドイツでは大学の研究者数、フランスや韓国では企業の研究者数の伸びが特に顕著である。


【概要図表4】 主要国の研究者数の推移
(A)労働人口当たりの研究者数の推移  

参照:科学技術指標2015図表2-1-5

(B)部門別研究者数の推移 

注:
米国データからは企業部門以外の状況が把握できないため、ここには示していない。
参照:科学技術指標2015図表2-1-7

(2)日本の研究者について見ると、男性研究者の多くが「企業」に在籍しているのに対して、女性研究者の多くは「大学等」に在籍している。

 日本の研究者における女性割合は2014年時点で、14.6%である。部門別に男女別研究者数の割合を見ると、男性研究者が最も多く在籍しているのは「企業」(64.1%)であり、次いで「大学等」(31.1%)である。他方、女性研究者は「大学等」(61.8%)に最も多く在籍しており、次いで「企業」(32.9%)である。


【概要図表5】 日本における部門別の男女別研究者数の割合(2014年)

注:
Head Count (実数値)である。
参照:科学技術指標2015図表2-1-12

(3)日本の博士号を持つ研究者は、男女ともに「大学等」に多く在籍している。

 男女ともに「大学等」において、研究者に占める博士号保持者の割合が高い(男性43.6%、女性25.7%)。他方、「企業」における研究者に占める博士号保持者の割合は、男性4.4%、女性3.0%と小さい。


【概要図表6】 男女別の部門別博士号保持者の状況(2014年)

注:
Head Count (実数値)である。
参照:科学技術指標2015図表2-1-12

3.大学院生から見る日本の状況

(1)大学院博士課程を目指す社会人の割合が増えている。

 日本の大学院博士課程の入学者数は、2003年度をピークに減少傾向にあり、2014年度は1.5万人となっている。他方で、社会人博士課程入学者数は継続して増加しており、2014年度では0.6万人となっている。社会人博士課程入学者数の全体に占める割合は、2003年度で21.7%であったが、2014年度では37.7%と約2倍となった。


【概要図表7】 大学院(博士課程)入学者数
(A)専攻別入学者数の推移(博士課程)
(B)社会人入学者数の推移(博士課程)

注:
「社会人」とは、各5月1日において職に就いている者、すなわち、給料、賃金、報酬その他の経常的な収入を目的とする仕事に就いている者であり、企業等を退職した者、及び主婦等を含む。
参照:科学技術指標2015図表3-2-4

(2)大学院に在籍している学生の構成に変化が生じている。

 日本の全大学院生(在籍者)に占める社会人大学院生割合は、2000年度では12.1%であったが、2014年度では22.3%と、約2倍となった。
 2010年までは、大学院全学生数、社会人大学院生数ともに増加を見せていたが、2011年をピークに大学院全学生数は減少に転じ、社会人大学院生数の増加度合いも小さくなっている。分野別に見ると、理工系の修士・博士課程における社会人大学院生の数は2000年代中盤から減少傾向にある。


【概要図表8】 日本の社会人大学院生(在籍者)の状況

注:
1)ここでの大学院生とは、修士課程または博士前期課程、博士課程または博士後期課程、専門職大学院課程のいずれかに在籍する者をいう。
2)「社会人」とは、各5月1日において職に就いている者、すなわち、給料、賃金、報酬その他の経常的な収入を目的とする仕事に就いている者であり、企業等を退職した者、及び主婦等を含む。
参照:科学技術指標2015図表3-2-7及び3-2-5

4.研究開発のアウトプットから見る日本と主要国の状況

(1)10年前と比較して、日本の論文数は横ばい傾向であるが、他国の論文数の拡大により順位を下げている。

 研究開発のアウトプットの一つである論文に着目すると、日本の論文数(2011-2013年(PY)の平均)は、論文の生産への貢献度を見る分数カウント法では、米、中に次ぐ第3位である。また、Top10%補正論文数では、米、中、英、独、仏に次ぐ第6位であり、Top1%補正論文数では米、中、英、独、仏、加に次ぐ第7位である。
 10年前と比較して、日本の論文数は横ばい傾向であるが、他国の論文数の拡大により順位を下げていることが分かる。その傾向は、特にTop10%補正論文やTop1%補正論文といったインパクトの高い論文において顕著である。


【概要図表9】 国・地域別論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数:上位10か国・地域
(分数カウント法)

注:
分析対象は、article, reviewである。年の集計は出版年(Publication year, PY)を用いた。被引用数は、2014年末の値を用いている。
参照:科学技術指標2015図表4-1-6


(2)日本は10年前から引き続き特許数(パテントファミリー数)において、高いシェアを保っているが、一部技術分野では韓国や中国の追い上げを受けている。

 次に特許に着目し、各国・地域から生み出される発明の数を国際比較可能な形で計測したパテントファミリー数を見る。
 パテントファミリー数シェアを見ると、米国と日本の順位は1990年代後半に入れ替わり、2000年代は日本のシェアが第1位となっている。これは、日本から複数国への特許出願が増加したことを反映している。中国のシェアは増加し続けており、2009年では第5位となっている。
 パテントファミリーにおける日本の技術分野バランスを見ると、電気工学、一般機器、情報通信技術におけるシェアが高く、バイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器のシェアが低いというポートフォリオを有している。時系列変化を見ると韓国や中国のパテントファミリー数の増加に伴い、電気工学、情報通信技術の日本シェアは低下傾向である。輸送機器、機械工学、化学の日本シェアについては、それほどに突出はしていないが、ドイツや米国と同じくらいのシェアとなっている。10年前と比べたシェアについても、微増又は横ばい傾向となっている。

【概要図表10】 主要国のパテントファミリー数の状況
(A)パテントファミリー数シェア(整数カウント法)

注:
全技術分野でのパテントファミリー数シェアの3年移動平均(2009年であれば2008、2009、2010年の平均値)
参照:科学技術指標2015図表4-2-6(B)

(B)技術分野毎のパテントファミリー数シェアの比較
(%、1998-2000年と2008-2010年、整数カウント法)

注:
パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2カ国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。
参照:科学技術指標2015図表4-2-10

5.科学技術とイノベーションから見る日本と主要国の状況

(1)日本は技術に強みを持つが、それらの新製品や新たなサービスの導入という形での国際展開が他の主要国と比べて少ない。

 日本は技術に強みを持つことが、特許の分析から見えているが、それらが新製品等につながっているのだろうか。そこで、国境を越えた商標出願数と特許出願数(三極パテントファミリー数)を見る。ここでは商標出願数を、海外における新製品やサービスの導入の状況に関係した指標と考え、特許出願数を国の技術水準を測る指標と考えた。
 商標出願数と特許出願数のバランスを見ると、商標出願数よりも特許出願数が多い国は、日本、ドイツ、韓国である。日本については、その傾向が特に顕著であり、2002年から2012年の11年間で大きな変化は見られない。つまり、日本は技術に強みを持つが、国全体で見ると、それらの新製品や新たなサービスの導入という形での国際展開が他の主要国と比べて少ない。

【概要図表11】 国境を越えた商標出願*と特許出願**(人口100 万人当たり)

始点を2002年、終点を2012年として11年間の時系列変化を示している。

注:
1)*国境を越えた商標数(Cross-border trademarks)の定義はOECD,“Measuring Innovation: A New Perspective”に従った。具体的な定義は以下のとおり。
 ・日本、ドイツ、フランス、英国、韓国の商標数については米国特許商標庁(USPTO)に出願した数。
 ・米国の商標数については①と②の平均値。
 ① 欧州共同体商標意匠庁(OHIM)に対する日本と米国の出願比率を基に補正を加えた米国の出願数=(米国がOHIMに出願した数/日本がOHIMに出願した数)×日本がUSTPOに出願した数。
 ② 日本特許庁(JPO)に対する欧州と米国の出願比率を基に補正を加えた米国の出願数=(米国がJPOに出願した数/EU15がJPOに出願した数)×EU15がUSTPOに出願した数
2)**国境を越えた特許出願数とは三極パテントファミリー(日米欧に出願された同一内容の特許)数(Triadic patent families)を指す。
参照:科学技術指標2015 図表5-3

(2)日本のハイテクノロジー産業の競争力の優位性は低下しているが、ミディアムハイテクノロジー産業の競争力は高い水準を保っている。

 最後に、製品やサービスの貿易収支からハイテクノロジー産業の競争力を見ると、日本は継続して貿易収支を減少させている。貿易収支を見ると、2011年以降、1を下回り、入超となっており、2013年の日本の収支比は0.78である。産業別に見ると、これまで出超であった電子機器が、2013年に初めて約90億ドルの入超となった。また、医薬品については、入超が継続しており、2013年は約180億ドルの入超である。
 他方、2014年の日本のミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比は2.70であり、主要国中第1位である。推移を見ると、1990年代中頃に、急激な減少を見せた後は漸減傾向にあるが、他国より大きく出超である。産業別に見ると、2014年時点では、自動車が約1,200億ドルの出超、機械器具が約810億ドルの出超となっている。


【概要図表12】主要国におけるハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

貿易収支比 = 輸出額÷輸入額

注:
ハイテクノロジー産業とは「医薬品」、「電子機器」、「航空・宇宙」である。
参照:科学技術指標2015図表5-2-3

【概要図表13】主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易収支比の推移

注:
ミディアムハイテクノロジー産業とは「化学品と化学製品」、「電気機器」、「機械器具」、「自動車」、「その他輸送」、「その他」である。
参照:科学技術指標2015図表5-2-5

科学技術指標の特徴

 科学技術指標は、毎年刊行しており、その時点での最新値を紹介している。原則として毎年データ更新され、時系列の比較あるいは主要国間の比較が可能な項目を収集している。

  • 各国が発表している統計データを使用
     科学技術指標で使われている指標のデータソースは、出来る限り各国が発表している統計データを使用している。また、各国の統計の取り方がどのようになっていて、どのような相違があるかについて、極力明らかにしている。
  • 論文・特許データベースについて当研究所独自の分析の実施
     論文データについては、トムソン・ロイター社Web of Science XMLの書誌データを用いて、当研究所で独自の集計をし、分析している。また、集計方法も詳細に記載し、説明している。
     特許関連の指標のうち、パテントファミリーのデータについては、PATSTAT(欧州特許庁の特許データベース)の書誌データを用いて、当研究所で独自の集計をし、分析している。また、集計方法も詳細に記載し、説明している。
  • 国際比較や時系列比較の注意喚起マークの添付
     必要に応じ、グラフに「国際比較注意」「時系列注意」という注意喚起マークを添付してある。各国のデータは基本的にはOECDのマニュアル等に準拠したものであるが、実際にはデータの収集方法、対象範囲等の違いがあり、比較に注意しなければならない場合がある。このような場合、「国際比較注意」マークがついている。また、時系列についても、統計の基準が変わるなどにより、同じ条件で継続してデータが採られておらず、増減傾向などの判断に注意する必要があると考えられる場合には「時系列注意」というマークがついている。なお、具体的な注意点は図表の注記に記述してあるので参照されたい。
  • 統計集(本報告書に掲載したグラフの数値データ)のダウンロード
     本報告書に掲載したグラフの数値データは、以下のURLからダウンロードできる。
      https://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-indicators-and-scientometrics/indicators


(1)研究者数の測定方法として、実数(HC: Head Count)によるものと、研究に従事した割合を考慮した(FTE: フルタイム換算)の2種類がある。主要国の研究者数はFTEによって計測されているので、日本と他国との比較を行う際は日本(FTE)を用いるのが適当である。