5.5全要素生産性(TFP)

ポイント

  • 経済成長に対する技術進歩の寄与を示す指標として用いられる全要素生産性(TFP)を見ると、日本のTFP上昇率は、1990年代後半にはマイナスであった。2000年代に入ると比較的高い値を示していたが、2000年代後半では低下した。

 全要素生産性(TFP)は、経済成長のうち、資本と労働の投入増加の寄与では説明できない部分の寄与を示す指数である。TFPは、生産効率の改善が経済成長(GDPの増加)に貢献した度合いを示し、技術進歩だけでなく、経営効率や組織効率の改善、分業の進展、規模の経済の実現、不況による過剰な労働や資本の保蔵などの効果が混入していると考えられる。従って、技術進歩そのものを直接的に計測した指標ではないが、長期的に見た場合、TFPには技術進歩の影響が比較的強く表れると考えられており、技術進歩の経済成長への寄与を示す指標として用いられることが多い。
 ここでは、一国の経済を全体的に捉えたマクロベースのTFPの計測例を示す(図表5-5-1)。これは、近年、一般的になっている労働や資本サービスの質の改善を考慮することにより、できるだけ正確に生産性上昇を計測することを目指す計算方法(KLEMS方式などと呼ばれる)に基づく。
 日本のTFP上昇率は、1990年代後半にはマイナスであった。2000年代に入ると比較的高い値を示していたが、2000年代後半では低下した。
 米国は、1990年代後半から2000年代前半におけるTFP上昇率が高い値となっているが、2000年代後半のTFP上昇率は低下した。
 ドイツのTFP上昇率は、1990年代は他国と比較しても高い値であったが、2000年代以降は1990年代ほどの値は示していない。
 フランスは、1990年代後半のTFP上昇率は高かったが、2000年代前半には低下し、2000年代後半になるとマイナスとなった。
 英国は1990年代前半のTFP上昇率は高かったが、その後は1990年代前半と比較すると低くなった。また、2000年代後半ではマイナスとなっている。


【図表5-5-1】 主要国の全要素生産性(TFP)上昇率の推移

注:
各期間のTFP上昇率は各年の値の平均値である。(例えば1990-1995の値は、1990、91、92、93、94、95の各年の対前年上昇率の平均値)
資料:
The Conference Board Total Economy Database™,January 2014, http://www.conference-board.org/data/economydatabase/から作成。

参照:表5-5-1


コラム:TFP指数の推移について

 本文の図表5-5-1では、主要国の全要素生産性(TFP)の上昇率の推移を複数年の平均値で表わしている。一方、TFPはある年を基準とする相対値(指数)として表示することもできる。ここでは、計測が開始された前年すなわち1989年を基準年として、その年の基準値を100とし、その値に順次上昇率を乗ずることによりTFP指数を求めた。
 このように求めたTFP指数は相対値であり、絶対値を示すものではない。たとえば、ドイツの値が大きいが、これは基準からの上昇が大きいことを示すものであり、決して全要素生産性の絶対値が大きいことを示すものではない。
 すなわち、TFP指数は基準年と比較してどの程度全要素生産性が高いか低いかを示すものである。
 図表5-5-2は前述のようにして求めたTFP指数の推移を図示したものである。まず、各国とも2007年以前と以後とで推移が大きく異なることが分かる。リーマン・ショックの影響であることは言うまでもない。

【図表5-5-2】 主要国のTFP指数(1989年基準)の推移

資料:
表5-5-1と同じ。

参照:表5-5-2


 2007年以前は各国ともそのTFP指数は上昇傾向にある。もっとも上昇率が大きいのはドイツ(年平均上昇率は1.25%、以下同じ)である。次いで英国、米国、フランスであるが、いずれも1992、1993年までは下降あるいは微上昇傾向にあり、本格的な上昇傾向はそれ以後である(各0.81%、0.70%、0.50%)。日本は他国とかなり異なる傾向を示し、1991年まで上昇、後下降、92年から97年までは横ばい(0.11%)で、下降の後98年から07年まで上昇(0.63%)している。
 2007年以降では、07-09年間(影響期と呼ぶ)の米国のTFP指数の降下率がもっとも小さく(-0.76%)、その後09-13年間(回復期と呼ぶ)の上昇率(0.88%)が2番目に大きい。リーマン・ショックの震源国である米国が他の先進国に比べて、小さい影響しか受けていないことを示している。他方、英国は影響期の降下率がもっとも大きく(-3.32%)、以後上昇できないでいる(-0.38%)。日本は影響期の降下率(2.24%)はドイツ、フランスとほぼ同じであるが、回復期の上昇率はもっとも大きい(1.24%)。なお、影響期において、米国を除いて、各国とも08年の降下率より09年の降下率の方が大きい。リーマン・ショックは08年9月に起こっており、その影響は同年よりも次年に大きく現れたと考えられる。

(丹羽 冨士雄)