科学技術指標2012
科学技術政策研究所科学技術基盤調査研究室
要旨
 「科学技術指標」は、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき、体系的に把握するための基礎資料であり、科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の5つのカテゴリーに分類し、関連する多数の指標で我が国の状況を表している。今回の「科学技術指標2012」では、各国の研究開発費の負担部門から使用部門への資金の流れの図や日本の研究者のうちの博士号取得者の割合といった指標を追加し、充実を図った。
 今回の「科学技術指標2012」では、昨年版と比較して様々な指標で変化が見られた。日本の研究開発費総額は、2008、2009年度に引き続き、2010年度も減少している。日本の研究者数の伸びは近年、停滞しており、また、研究者の新規採用者数については、2010、2011年と連続して減少している。なお、大学院博士課程入学者数は、2002年をピークに減少傾向が続いている。
 一方、日本の論文数(2009-2011年の平均)を見ると、「世界の論文の生産への関与度(整数カウント法)」では、日本は世界第5位であり、日本の被引用数の高いTop10%補正論文数(2009-2011年の平均)を見ると、「世界のインパクトの高い論文の生産への関与度(整数カウント法)」では、日本は世界第7位である。


Japanese Science and Technology Indicators 2012
Research Unit for Science and Technology Analysis and Indicators
National Institute of Science and Technology Policy
ABSTRACT
 "Science and Technology Indicators" is a basic resource for understanding Japanese science and technology activities based on objective, quantitative data. It classifies science and technology activities into five categories, R&D Expenditure, R&D Personnel, Higher Education, The Output of R&D; and Science, Technology, and Innovation. The multiple relevant indicators show the state of Japanese science and technology activities. "Science and Technology Indicators 2012" has been enhanced with the addition of two new indicators, i.e., the percentage of Japanese researchers with doctorates and charts showing the flow of R&D funding in various countries from sectors that bear the costs to sectors that use the funds.
 Science and Technology Indicators 2012 sees a number of changes in indicators compared with the previous year. Total research and development expenditure in Japan declined in FY 2010, as it did in FY 2008 and 2009. Growth in the number of researchers in Japan has been stagnant in recent years. New hires of researchers declined in both 2010 and 2011. The number of people enrolling in doctoral programs has also been trending downwards since peaking in 2002.
 Looking at the number of academic papers produced in Japan (average for 2009–2011), Japan was fifth in terms of "degree of participation in the production of papers in the world (whole counting method)." As for the adjusted number of papers among the top 10% of the world's most cited papers (average for 2009–2011), Japan ranked seventh in terms of "degree of participation in high impact papers in the world (whole counting method)."

要 旨

1.研究開発費

(1)各国の研究開発費の国際比較

  • 日本の研究開発費総額は 2010年度で17.1兆円である。前年と 比較すると 0.79%の減少であり、2008年、2009年に引き続き減少している。また対GDP比率は3.6%であり、2008年度をピークに減少している。
  • 研究開発費の使用割合は、各国ともに企業部門が一番大きな割合を示しており、日本、米国、ドイツは約7割、フランス、イギリスでは約6割を占める。また、中国は企業部門の割合が増加しており、近年では約7割を占めている。韓国では約8割を占める。
  • 各国の負担部門から使用部門への研究開発費の流れを見ると、「政府」については、「公的機関」及び「大学」に流れている国が多く、「大学」により多く流れている国は、日本、ドイツ、フランス、イギリスである。「政府」から「企業」の流れは、ほとんどの国で小さいが、米国については「企業」への流れも大きい。
  • 「外国」部門の負担についてはイギリスでの割合が大きい。また、フランス、ドイツも比較的大きい方である。なお、3国ともに「企業」へ研究開発費が多く流れているのが特徴である。

(2)政府の予算

  • 主要国の科学技術予算(実質額、2005年基準各国通貨)を見ると、2000年代前半での年平均成長率は、ドイツ、フランスは横ばい、その他の国はプラス成長であり、中国は特に高い成長率である。2000年代後半になると、成長率は、日本、イギリスは横ばい、米国、フランスはマイナス成長であるが、ドイツ、中国、韓国は高い成長率を示している。
  • 2011年度の日本の科学技術予算(科学技術関係経費)は当初予算で3.7兆円であり、その後補正予算が組まれ、最終予算は4.2兆円である。

(3)企業部門の研究開発費

  • 日本の企業部門の2010年の研究開発費は12兆円、前年と比較すると0.22%の増加とほとんど横ばいであり、2009年における大幅な減少から回復していない。研究開発費対GDP比を見ると、日本の値は1990年以降、トップクラスにあるが、2009年、2010年と連続して減少し、最新年の対GDP比は2.51%である。
  • 各国の政府による企業への直接的資金配分(直接的支援)と研究開発優遇税制措置(間接的支援)について見ると、直接的支援の方が大きいのは米国、イギリス等であり、間接的支援の方が大きいのはカナダや日本等である。フランス、韓国は直接的支援、間接的支援とも大きい。

(4)大学部門の研究開発費

  • 日本の大学部門の研究開発費は3.4兆円(2010年度)、対前年度比では3.3%の減少率である。また、人件費分にFTE係数をかけた場合では2.1兆円(2009年度)である。
  • 主要国の大学の研究開発費の政府負担割合を見ると、各国最新の3年平均で、政府負担分が最も大きいのはフランスであり89.9%、最も小さいのは日本で49.5%である。2003-2005年と比較すると、最も増加したのは韓国であり、最も減少したのは米国である。
  • 主要国の大学の研究開発費の企業負担割合を見ると、各国最新の3年平均で最も大きいのは中国で34.7%と群を抜いている。一方、最も小さい国はフランスで1.9%である。日本は2.6%でフランスに次いで小さい。2003-2005年と比較すると、最も増加したのはドイツであり、最も減少したのは韓国である。

(5)性格別研究開発費

  • 2010年度の日本の性格別研究開発費のうち基礎研究の割合は全体の14.7%、そのうち大学部門が占める割合は49.7%と多い。
  • 各国の最新年の性格別研究開発費のうち、基礎研究の割合が大きい国はフランスであり、全体の26%である。一方、一番小さい国は中国で、全体の4.7%である。また、基礎研究費の使用部門別内訳を見ると、大学部門が最も大きいのはフランス、米国、日本であり、公的機関部門が最も大きいのは中国であり、企業部門が最も大きいのは韓国である。

2.研究開発人材

(1)各国の研究者数の国際比較

  • 2011年の日本の研究者数は、大学の研究者数をフルタイム換算した場合66万人、ヘッドカウントの場合89万人。FTE研究者数は近年横ばいに推移している。
  • 中国の研究者数は、2000年代に入り、急増していたが、2009年からはOECDのフラスカティ・マニュアルの定義に従って測定し始めたため、2008年値よりかなり低い数値となっている。
  • 日本の研究者のうち、博士号取得者の割合を見ると、2011年の全体での割合は20.3%である。部門別見ると、「大学等」についての割合が大きく、同年で59.3%、次いで「公的機関」では43.5%である。両部門ともに増加傾向にある。一方で、「企業等」については4.2%、ほとんど変化もなく、横ばいに推移している。
  • 日本の研究者の新規採用者は2009年をピークに減少している。近年、減少が激しいのは「企業等」である。

(2)部門別の研究者

  • 企業部門の研究者数を見ると、日本と米国は継続して増加傾向にあったが、近年横ばいに推移しており、日本の2010年の研究者数は49万人である。また、2000年代に入り、急激な増加傾向にあるのは中国である。一方で、ドイツ、フランスについては、長期的に見ると増加傾向にあり、イギリスについては横ばい傾向にある。
  • 日本の大学部門の研究者数の内訳を見ると、「教員」では「私立大学」が多いのに対し、「大学院博士課程在籍者」では「国立大学」が多い。「国立大学」の研究者を分野別でみると、「自然科学」分野が多く、「大学院博士課程在籍者」も同様に「自然科学」分野が多い。一方、「私立大学」は、「自然科学」分野が最も多いものの、「人文・社会科学」分野も多く、両者に大きな差は無い。

(3)研究支援者

  • 研究者一人当たり研究支援者数を部門別に見ると、大学部門の支援者数が、他部門と比較して少ないのは、日、独、仏、英、中国であり、一方、大学部門の支援者数が多いのは韓国である。大学部門の支援者数の経年変化を見ると、ほとんどの国で、横ばいもしくは減少傾向にあるが、韓国については2000年代に入ると、増加している。
  • 日本の大学の研究者一人当たりの研究支援者数は横ばいであるが、大学部門の研究支援者数自体は増加している。内訳を見ると、2000年代に入り、増加しているのは「研究事務・その他関係者」であり、近年、増加したのは「研究補助者」である。

3.高等教育

(1)学生の状況

  • 日本の大学学部学生の入学者数は2000年頃から横ばいに推移していたが、2011年度は前年度と比較して11%減少し、61.3万人となった。私立大学への入学者数が多く、全体の約8割を占めている。また、分野別に見ると、全体の約3割が自然科学分野を専攻している。
  • 修士課程の入学者数は、2005年頃から横ばいに推移していたが、2010年度は前年度と比較して5.4%増加したものの、2011年度は、3.6%減少し、7.9万人となった。国立大学への入学者数が全体の約6割を占めている。また、専攻別に見ると、全体の約6割が自然科学系を専攻している。
  • 博士課程の入学者数は2003年をピークに減少傾向にあったが、2010年度は前年度と比較して3.6%増加したものの、2011年では4.8%減少し、1.6万人となった。国立大学への入学者数が多く、全体の約7割を占めている。また、専攻別に見ると、全体の約7割が自然科学系を専攻している。

(2)理工系学生の進路

  • 理工系学生の卒業後の進路を見ると、学部学生については、「就職者」の割合は、1980年代には概ね80%前後で推移していたが、1990年代に入り大きく低下した。2011年度では、「就職者」の割合が46.6%となり、一方で、「進学者」は39.4%となっている。
  • 理工系修士課程修了者の進路を見ると、「就職者」が全体の約80%を占めており、2000年代に入ると、その割合はさらに増加していたが、2010年では若干減少し、2011年では83.8%を占めている。
  • 理工系博士課程修了者の進路を見ると、「就職者」の割合は、2000年頃には大きく減少していたが、近年、上昇しつつある。2011年の「就職者」の割合は66.6%となっている。
  • 理工系博士課程学生の就職者の場合、「製造業」への就職割合は概ね30%前後で推移しており、2011年は30.9%である。「教育(学校へ就職した者など)」については1980年代には40~50%で推移していたが、2011年では32.7%である。なお、「研究(学術・研究開発機関等へ就職した者)は2001年で12.9%である。
  • 理工系の学部、修士課程、博士課程学生の就職者を職業分類別に見ると、「専門的・技術的職業従事者」になる者が多い。修士課程、博士課程学生については90%近くを占めている。学部学生については、長期的に見て減少傾向にあり、近年では70%台になっている。

(3)学位取得者の国際比較

  • 人口100万人当たりの学位取得者数を見ると、日本の学士号取得者は4,246人で、韓国、米国、イギリスよりは少ないが、ドイツ、フランスを大きく上回っている。一方、博士号取得者は135人で、イギリス、ドイツの約半分であり、米国、韓国、フランスよりも下回っている。

(4)外国人学生

  • 日本と米国の外国人大学院生の状況を見ると、日本は、2011年は全体で1.6万人であり、中国人大学院生が最も多く、半数の0.8万人を占めている。一方、米国は、2010年は全体で17.6万人であり、インド人大学院生が最も多く6.2万人である。

4.研究開発のアウトプット

(1)論文

  • 研究活動自体が単一国の活動から複数国の絡む共同活動へと様相を変化させている。世界で国際共著論文が増えており、「世界の論文の生産への関与度(整数カウント)」と「世界の論文の生産への貢献度(分数カウント)」に差が生じるようになった。
  • 日本の論文数(2009-2011年の平均)は、「世界の論文の生産への関与度」では、米国、中国、ドイツ、イギリスに続き世界第5位である。一方、「世界の論文の生産への貢献度」では、日本は米国、中国に次ぐ3位であるが、4位ドイツ、5位イギリスと僅差である。
  • 1990年代後半より、中国が「世界の論文の生産への関与度」と「世界の論文の生産への貢献度」ともに高めており、2000年代後半では世界第2位のポジションとなっている。
  • 日本国内の分野バランスをみると、化学のシェアが減り、臨床医学のシェアが増加している。
  • 一方、各分野での世界シェアによる分野ポートフォリオをみると、日本は物理学、化学、材料科学のウェートが高く、計算機・数学、環境・地球科学が低い。
  • 2011年の国際共著率はドイツ52%、イギリス54%、フランス54%に対し、米国35%、日本27%である。

(2)特許

  • 世界の特許出願数は、リーマンショックに端を発する不況の影響で2009年には大きな減少を見せたが、2010年には再び増加に転じた。その数は200万件に迫っている。
  • 日本への出願数(約35万件)は米国に次ぐ規模であるが、2000年代半ばから減少傾向にある。米国への出願数(約49万件)は、ここ数年は横ばい傾向であったが、2010年には2009年と比べて約7%の増加を見せた。2010年の中国への出願数は約39万件であり、日本特許庁への出願数を上回った。
  • 日本、米国、中国、韓国からの出願をみると、他国への出願数より、自国への出願数の方が多い。日本からの全出願数のうち、約6割が自国(日本特許庁)への出願である。国内への特許出願を増加させている中国であるが、他国への出願数は約1万4千件と、まだ少ない。
  • 日本特許庁、米国特許商標庁、欧州特許庁への特許出願数をみると、10年前から引き続いて、日本は大きな存在感を示している。技術分野別の出願状況をみると、再生可能エネルギーにおける日本のシェアが減少傾向にある。

5.科学技術とイノベーション

(1)技術貿易

  • 日本の技術貿易収支比は2010年で4.6であり、1993年以降、出超が続いている。
  • 系列会社間の取引を差し引いた技術貿易を見てみると、日本の技術貿易収支比は2010年で1.7であり、2006年以降出超である。一方、米国は3.9である。
  • 日本の技術輸出額を産業分類別に見ると、2010年度での技術輸出額が多い産業は、「輸送用機械器具製造業」であり、1.3兆円と全産業の52.7%を占めている。これに続くのが「医薬品製造業」であり、0.3兆円、全体の12.8%を占めている。一方、技術輸入額が多い産業は、2010年度で見ると、「情報通信機械器具製造業」であり0.2兆円、全産業に占める割合は39.3%である。
  • 「輸送用機械器具製造業」については、親子会社間の取引が約8割なのに対して、「医薬品製造業」の場合は約5割にとどまっている。親子会社間での取引の多い日本の技術輸出の中では「医薬品製造業」は、より国際的な技術移転をしている産業であるといえる。

(2)ハイテクノロジー産業貿易

  • 全世界でのハイテクノロジー産業貿易は一貫して増加傾向にあるが、2009年では、2008年より約10%減少している。内訳を見ると「電子機器」産業が、全体の約4割を占め最大である。
  • 国別で見ると、米国は貿易規模が大きく、拡大傾向にあるが、中国は近年、貿易額を急増させ、輸出額は米国を上回っている。ドイツの貿易額も急拡大しており、日本はドイツに次ぐ第4位の位置にある。2009年は各国ともにハイテクノロジー産業貿易額は減少したが、2010年では再び増加した。
  • 日本の収支比は1984年を頂点として、長期的に減少傾向にあり、2003年には韓国、2009年には中国に追い抜かれているが、貿易収支比が1を下回った事はない。
  • 日本は「電子機器」、「医用・精密・光学機器」産業とともに出超である。米国については「医用・精密・光学機器」、「航空・宇宙」産業が出超であり、ドイツは「医薬品」、「医用・精密・光学機器」、「航空・宇宙」産業が出超である。

(3)商標出願と三極パテントファミリー

  • 国境を越えた商標出願数と三極パテントファミリー(日米欧に出願された同一内容の特許)数について、人口10万人当たりの値で比較すると、2007~2009年の日本、ドイツ、韓国は、相対的に見て、三極パテントファミリー数が多い。一方、米国、イギリスについては商標出願数の方が三極パテントファミリー数より多い。

(4)企業のイノベーション活動の日米比較

  • 研究開発活動を実施している企業のイノベーション実現状況を見ると、日本、米国ともに、研究開発費使用額が大きい企業ほどイノベーションの実現割合が高い。
  • 日本の研究開発活動を実施している企業の場合、研究開発費の大きさによらず、新サービスに関するイノベーションは、製品に関するイノベーションやプロセス・イノベーションよりも実現割合が低い。一方、米国も同様であるが、日本ほどの差はない。

(5)全要素生産性(TFP)

  • 経済成長に対する技術進歩の寄与を示す指標として用いられる全要素生産性(TFP)を見ると、日本のTFP上昇率は1990年代には主要先進国のなかで最も低かったが、2001年以降は比較的、高い値となっている。ただし、日本を含む主要先進国のいずれも、2000年代後半はTFP上昇率が低下している。

科学技術指標2012について

1. 国際比較や時系列比較の注意喚起マークの添付

 必要に応じ、グラフに「国際比較注意」「時系列注意」という注意喚起マークを添付してある。各国のデータは基本的にはOECDのマニュアル等に準拠したものであるが、実際にはデータの収集方法、対象範囲等の違いがあり、比較に注意しなければならない場合がある。このような場合、「国際比較注意」マークがついている。また、時系列についても、統計の基準が変わるなどにより、同じ条件で継続してデータが採られておらず、増減傾向などの判断に注意する必要があると考えられる場合には「時系列注意」というマークがついている。なお、具体的な注意点は図表の注記に記述してあるので参照されたい。

2. 各国の統計の前提等の整理

 各国の統計の取り方がどのようになっていて、どのような相違があるかについて、極力明らかにしている。

3. 利用するデータベースの統一

 論文データについてはWeb of Scienceのデータに統一するとともに、国際共著の論文が増大していることに対応した分析を行っている。特許については日・米・欧の3極への出願等を分析し、国際比較性を高めるようにしている。

4. 図表等のカラー化

 図表等をカラー化するとともに、極力一つの国に特定の色を対応させるなどの統一性を図っている。

5. 統計集のCD-ROMの添付

 報告書に掲載したグラフの表(データ)は、PDFファイルを格納したCD-ROMを添付している。



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