4.2特許
ポイント
- 全世界における特許出願数は、リーマンショックに端を発する不況の影響で2009年には大きな減少を見せたが、2010年以降は再び増加に転じ、2011年には214万件となった。
- 日本への出願数は2000年代半ばから減少傾向にある。特に、2009年の出願数は2008年と比べて約10%減少し、その後も減少は続き、2011年では34万件となった。また、居住者からの出願数の割合は約8割である。
- 米国への出願数は、ここ数年は横ばい傾向であったが、2010年、2011年と連続して増加し50万件となった。また、居住者からの出願数と非居住者からの出願数の割合は、ほぼ半数ずつとなっている。
- 中国への2011年の出願数は53万件であり、米国への出願数を上回った。居住者からの出願数は約8割となり、中国国内の出願人からの出願が特に増加している。
- 日本、米国、中国、韓国からの出願をみると、他国への出願数より、自国への出願数の方が多い。日本の自国への出願数は近年減少しており、2011年で29万件と、ピーク時(2000年)の75%程度の出願数となっている。
- パテントファミリー数に注目すると、1980~1990年代は米国が第1位、日本が第2位であったが、2000年代に入り日本が第1位、米国が第2位となっている。
- 2008年時点の日本の技術分野バランスを見ると、世界全体と比べて電気工学と一般機器の比率が高くなっている。他方、バイオテクノロジー・医薬品とバイオ・医療機器の割合は、世界全体と比べて低くなっている。
- 日本からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では90%以上が米国またはヨーロッパとなっていたが、1990年代に入って中国への出願が増加している。2007年時点では米国への出願が46%、中国への出願が20%、欧州特許庁への出願が13%となっている。
4.2.1世界における特許出願
(1)世界での特許出願状況
4.2.1節では、2012年11月時点でのWIPO(世界知的所有権機関),"Statistics on Patents"を使用している。図表4-2-1はWIPO,"Statistics on Pa-tents"にデータが掲載されている約230国・地域への特許出願数の推移を示したものである。ここでは、世界における特許出願数を、出願人が、自らが居住している国・地域へ行った特許出願(Resident Applications; 居住者からの出願)、出願人が、自らが居住していない国・地域へ行った特許出願(Non-Resident Applications; 非居住者からの出願)に分けて示している。
出願数として、各国・地域の特許官庁に、直接なされた特許出願、PCT(Patent Cooperation Treaty)出願によってなされた特許出願の両方をカウントしている。PCT出願については、各国・地域の特許官庁へ国内移行されたものをカウントした。
全世界における特許出願数は、1990年代半ばから年平均成長率約5%で増加し、2011年には214万件となった。1980年代半ばに約3割であった非居住者からの出願は、居住者からの出願よりも早いペースで増加し、近年は全出願数の約4割を占めている。
世界の特許出願数は、リーマンショックに端を発する不況の影響で2009年には大きな減少を見せたが、2010年以降は再び増加に転じていることが分かる。

注:
1)居住者からの出願とは、第1番目の出願人が、自らが居住している国・地域に直接出願もしくはPCT出願すること。
2)非居住者からの出願とは、出願人が、自らが居住していない国・地域に直接出願もしくはPCT出願すること。
3)PCT出願とはPCT(特許協力条約)国際特許出願を通じた出願のこと。
資料:
WIPO,"WIPO statistics database"(Last updated: November 2012)
参照:表4-2-1
(2)主要国の特許出願状況
次に、主要国への特許出願状況と主要国からの特許出願状況についてみる。ここでは、日本、米国、欧州、中国、韓国、ドイツ、フランス、イギリスへの特許出願状況を対象とした。この8特許官庁への出願で、全世界の特許出願の約8割を占める。
図表4-2-2(A)に、主要国への出願数の内訳を、居住者からの出願、非居住者からの出願の2つに分けて示した。これを見ると日本への出願数は米国に次ぐ規模であるが、2000年代半ばから減少傾向にある。特に、2009年の出願数は2008年と比べて約10%減少し、その後も減少は続き2011年では34万件となった。内訳を見ると日本に居住する出願人からの日本特許庁への出願が84%を占めている。
米国への出願数は、2007~2009年は横ばい傾向であったが、2010年、2011年と連続して増加し50万件となった。また、居住者からの出願数と非居住者からの出願数の割合は、ほぼ半数ずつとなっている。これは米国の市場が海外にとって常に魅力的であることを示していると考えられる。なお、1995年から仮出願制度が導入された。このことも出願数が増加した理由の一つと考えられる。
欧州特許庁への出願数は2009年を例外とし、毎年、増加していたが、2011年は2010年と比較して、6%減少し14万件となった。一方、ドイツ、フランス、イギリスへの出願数は他国と比較すると、大きな変化はなく、ほぼ横ばいである。欧州特許条約の締結国における特許出願は、欧州特許庁への出願により一括して行うことができるので、各国への出願数は横ばいもしくは減少傾向にあると考えられる。
中国への出願数は激増している。この10年(2002~2011年)で中国への出願数は、年平均成長率23%で上昇している。2011年の出願数は53万件であり、米国への出願数を上回った。居住者からの出願数は2000年代前半では約5割であったのが2011年では約8割となり、中国国内の出願人からの出願が特に増加していることが分かる。
図表4-2-2(B)にPCT出願数を示した。PCT出願は各国・地域の特許官庁への特許出願の束と考えることができ、一つの出願で一括して指定した国・地域への出願が可能な点が特徴である。PCT出願数は、近年、横ばいの状況であったが、2011年は2010年と比較して11%増加し18万件となった。
(1991~2011年)

(1991~2011年)

次に主要国からの特許出願状況(図表4-2-2(C))を見る。ここでは出願数の内訳を、居住国への出願、非居住国への出願の2つに分けて示している。出願数として、各国・地域の特許官庁への直接出願、国内移行したPCT特許出願の両方をカウントしている。なお、欧州特許庁への出願は、すべての国で非居住国への出願としてカウントした。
この分析では、複数の出願人がいる場合、第1番目の出願人(applicants又はassignee)が属している国を用いて、各国の出願数を計算している。たとえば、日本(第1番目)と米国(第2番目)の出願人による共同出願の場合、日本のみがカウントされる。
日本、米国、中国、韓国からの出願は居住国への出願数が、非居住国への出願数より多い。日本からの全出願数のうち、約6割が居住国(日本特許庁)への出願である。
居住国への出願数の推移に注目すると、日本は近年減少しており、2011年で29万件と、ピーク時(2000年)の75%程度の出願数となっている。中国は増加が著しく2011年で42万件となっている。米国、韓国は2007年までは増加していたが、近年は微増である。ドイツ、フランス、イギリスにおける居住国への出願数は、ほぼ横ばいか若干減少傾向にある。これまで居住国の特許官庁へなされていた特許出願の一定数が、欧州特許庁へなされるようになったことが、この要因の一つと考えられる。
非居住国への出願数に注目すると、日本からの出願数は、米国と並んで世界トップレベルにあり、2011年で18万件となっている。米国からの出願数は近年減少傾向にある。なお、国内への特許出願を増加させている中国であるが、海外への出願数は、2011年で2万件と、まだ少ない。

注:
1)出願数の内訳は、日本への出願を例に取ると、以下に対応している。
「居住者からの直接出願」:日本に居住する出願人が日本特許庁に直接出願したもの。
「非居住者からの直接出願」: 日本以外に居住(例えば米国)する出願人が日本特許庁に直接出願したもの。
2)欧州特許庁の「居住者からの出願」は1996年から値が掲載されていない。
資料:
WIPO,"WIPO statistics database"(Last updated: November 2012)
参照:表4-2-2
4.2.2パテントファミリーを用いた特許出願数の国際比較
特許出願数の国際比較を困難にしている点の一つが、特許は属地主義であり、発明を権利化したいと考える複数の国に対して出願がなされる点である。このため、ある国Aからの特許出願を数える際、複数の国への特許出願を重複してカウントしている可能性がある。また、ある国Aへの出願を考えると、国Aからの出願が最も大きくなる傾向(ホームアドバンテージ)がある。
これらの特許出願の特徴を踏まえ、国際比較可能性を向上させるために、ここではパテントファミリーによる分析を行う。分析には、EPO(欧州特許庁)のPATSTAT(2012年9月バージョン)を用いた。また、パテントファミリーの分析方法の詳細については、テクニカルノートに示した。
パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2カ国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。したがって、パテントファミリーをカウントすることで、同じ出願を2度カウントすることを防ぐことが出来る。つまり、パテントファミリーの数は、発明の数とほぼ同じと考えられる。
また、パテントファミリーをカウントすることで、特定の国への出願ではなく、世界中の特許庁への出願をまとめてカウントすることが可能となる。特許出願数の国際比較の際に、PCT出願数が利用されることが多いが、PCT出願はある国から海外への出願の一部を見ているに過ぎない。各国から生み出される発明の数を、国際比較可能な形で計測するという点で、パテントファミリーを用いた分析は、各国の技術力の比較を行う上で有用な指標と考えらえる。
以下では、2つの値を示す。一つはパテントファミリー数(2カ国以上への特許出願)に1カ国のみへの特許出願数(単国出願数)を加えた数であり、もう一つはパテントファミリー数である。ここでは前者を「パテントファミリー+単国出願数」、後者を「パテントファミリー数」と呼ぶ。パテントファミリーは、発明者や出願人が居住する国以外での権利化を目指して、2カ国以上に出願されていると考えられ、単国出願よりも価値が高い発明と考えられる。
図表4-2-3にパテントファミリー+単国出願数とパテントファミリー数の時系列変化を示す。1981年に40万件程度であったパテントファミリー+単国出願数は徐々に増加し、2008年には約96万件となっている。パテントファミリー数は1981年に5.7万件、2008年には約21万件となっている。パテントファミリー+単国出願数に占めるパテントファミリー数の割合は、1980年代は15%以下であったが、その比率は徐々に増加し、近年では20%を超えている。

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-3
図表4-2-4に、主要国のパテントファミリー+単国出願における単国出願と複数国出願の割合を示す。日本に注目すると1980年代の前半は約95%が単国出願であった。1980年代半ばから複数国出願の比率が徐々に上昇し、2008年時点では80%が単国出願、20%が複数国出願となっている。
米国については、単国出願と複数国出願の比率がともに約50%となっている。このバランスは、1990年代後半から、大きくは変化していない。
ドイツ、フランス、イギリスについては、いずれの国も、長期的に複数国出願の比率が上昇傾向にある。この3カ国のなかで、複数国出願の比率が一番高いのはフランスであり、2008年時点で63%が複数国出願である。
中国と韓国における複数国出願の割合は、日本と同じく、それほど高くない。年によって比率に揺らぎがあるが、2008年時点で中国は約7%、韓国は約16%となっている。







注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-4
4.2.3国・地域ごとのパテントファミリー+単国出願数、パテントファミリー数
図表4-2-5は、整数カウント法で求めた国・地域ごとのパテントファミリー+単国出願数(A)、パテントファミリー数(B)である。
日本のパテントファミリー+単国出願数は、3時点とも第1位である。2006-2008年時点では、これに中国、米国、韓国、ドイツ、台湾がつづく。アジアの各国については、ここ20年で急激に順位を上げた。
パテントファミリー数に注目すると、1980~1990年代は米国が第1位、日本が第2位であったが、2000年代に入り日本が第1位、米国が第2位となっている。第3位以降に注目すると、2006-2008年時点では、ドイツが第3位であり、これに韓国、フランス、中国、台湾がつづく。中国からのパテントファミリー+単国出願数は著しく増加しているが、図表4-2-4でみたように、現状では出願の多くが中国国内で行われている。このため、パテントファミリー数における順位は、米国、ドイツ等よりも下位となっている。
(A)パテントファミリー+単国出願数


注:
オーストラリア特許庁を集計対象から除いているので、オーストラリアの出願数は過小評価となっている。パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-5
図表4-2-6(A)では、各国の特許出願の量的状況を把握するため、パテントファミリー+単国出願数の各国シェアを整数カウント法で比較した。
まず、パテントファミリー+単国出願数シェアを見ると、日本は1980年代から一貫して、他国を大きく引き離している。1990年代の前半には、日本のシェアは60%近くに達したが、1990年代半ばから急激に減少しており、2007年時点では34%となっている。
この間、1980年代後半から米国、1990年代前半から韓国、1990年代後半から中国が、パテントファミリー+単国出願数を大きく伸ばしている。
中国が急速にパテントファミリー+単国出願数シェアを増加させるのに伴い、2000年代に入ってから、韓国をのぞいた全ての主要国でパテントファミリー+単国出願数シェアは低下傾向にある。2007年(2006-2008年の平均)時点において、上位3国は日本、中国、米国となっている。
次に、質的な側面を加味したパテントファミリー数の変化をみる(図表4-2-6(B))。まず、パテントファミリー数シェアを見ると、米国は1980~1990年代にかけて25%以上を保っていたが、2000年代に入ってからシェアは低下傾向にある。他方、日本のシェアは長期的には上昇傾向にあり、2007年時点では29%となっている。米国と日本の順位は1990年代後半に入れ替わり、2000年代は日本のシェアが第1位となっている。
ドイツは1980年代前半には、日本と同じ程度のシェアを持っていたが、その後、パテントファミリー数におけるシェアは漸減している。ただし、2007年におけるシェアは米国に次ぐ第3位となっている。
韓国のシェアは、1980年代後半から増加しはじめ、1990年代の後半に一時的な停滞をみせたのち、2000年代前半から再び上昇に転じている。
中国のパテントファミリー数におけるシェアは、2000年代前半から増加をみせつつあるが、その勢いはパテントファミリー+単国出願シェアと比べると鈍く、2007年時点における中国のパテントファミリー数におけるシェアは、第6位となっている。
(全技術分野、整数カウント法、3年移動平均)

注:
全技術分野でのパテントファミリー数シェアの3年移動平均(2007年であれば2006、2007、2008年の平均値)、パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-6
特許システムは、国によって異なることから、発明者や出願者の居住国のみへの出願も含むパテントファミリー+単国出願数は、各国の特許システムへの依存度が大きいと考えられる。
他方、パテントファミリーは、発明者や出願人が居住する国以外での権利化を目指して、2カ国以上に出願されていると考えられ、パテントファミリー+単国出願の中でも相対的に価値が高い発明と考えられる。そこで、以降の分析では、パテントファミリーを用いた分析を主に示す。
4.2.4主要国の特許出願の技術分野特性
(1)全世界の技術分野バランス
ここでは、技術分野毎にパテントファミリー数の状況を分析した結果について述べる。技術分野の分類には、WIPOによって公表されている技術分野と国際特許分類(IPC)の対応表を用いた。WIPOの技術分野は、図表4-2-7に示すように、35の小分類に分類されているが、ここでは、これらをまとめた9技術分野を用いる。

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
WIPO, IPC - Technology Concordance Tableをもとに、科学技術・学術政策研究所で分類。
参照:表4-2-7
まず、図表4-2-8では、全世界における各技術分野のパテントファミリー数割合の推移を示す。1981年と2008年を比べると、機械工学は10.2ポイント、化学は7.4ポイント減少している。一方、情報通信技術は14.1ポイント、電気工学は6.1ポイント割合を伸ばした。とくに1990年代に入って、情報通信技術の占める割合が急速に増加した様子が分かる。

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-8
(2)主要国内の技術分野バランス
次に主要国の内部構造をみるために、図表4-2-9では、主要国内の技術分野バランスの変化を示す。
2008年時点の日本の技術分野バランスを見ると、世界全体と比べて電気工学と一般機器の比率が高くなっている。1981年と2008年を比べると、電気工学の割合は7.8ポイント上昇している。情報通信技術についても11.3ポイント上昇しているが、全技術分野に占める割合は、世界全体の割合とほぼ同じである。他方、バイオテクノロジー・医薬品とバイオ・医療機器の割合は、世界全体と比べて低くなっている。
米国は、世界全体と比べて、バイオ・医療機器、バイオテクノロジー・医薬品、化学の比率が高い。1981年と2008年を比べると、バイオ・医療機器の割合は4.4ポイント、バイオテクノロジー・医薬品の割合は1.9ポイント増加している。電気工学と一般機器の割合は、世界全体と比べて小さい。
ドイツは、輸送用機器、機械工学、化学の比率が世界全体と比べて高い。1981年と2008年を比べると、輸送用機器は2.2ポイント増加している一方で、機械工学は6.1ポイント、化学は5.2ポイント減少している。情報通信技術は5.3ポイント増加しているが、その割合は世界全体における情報通信技術の割合の半分程度(2008年時点)となっている。
フランスは、輸送用機器、バイオテクノロジー・医薬品、化学の比率が世界全体と比べて高い。1981年と2008年を比べると、バイオテクノロジー・医薬品は3.9ポイント増加している。他方で、機械工学は9.9ポイントの減少をみせている。情報通信技術の比率は8.8ポイント増加しているが、ドイツと同じく、その割合は世界全体における情報通信技術の割合と比べると小さい。
イギリスは、バイオテクノロジー・医薬品、化学、バイオ・医療機器の比率が世界全体と比べて高い。1981年と2008年を比べると、バイオテクノロジー・医薬品は3.8ポイント、バイオ・医療機器は3.2ポイント増加している。機械工学は11.8ポイント、輸送用機器は4.5ポイント、化学は4.3ポイント、その割合を減少させている。情報通信技術の比率は14.2ポイントと大幅に増加しており、世界における情報通信技術の割合と同程度となっている。イギリスは欧州の中では、パテントファミリー数における情報通信技術の比率が高い国といえる。
中国と韓国は、ともに情報通信技術と電気工学の割合が、世界の平均と比べて高くなっている。







注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-9
(3)世界における主要国の技術分野バランス
図表4-2-10では、世界における主要国の技術分野バランスを示す。具体的には、主要国のパテントファミリー数の技術分野毎のシェア(1996-1998年と2006-2008年、整数カウント法)を作成し、比較を行なった。
日本は電気工学、一般機器、情報通信技術のシェアが高く、バイオテクノロジー・医薬品、バイオ・医療機器のシェアが低いというポートフォリオを有している。図表4-2-9では、1981年と2008年を比べると、日本国内のパテントファミリーに占める情報通信技術のシェアは増加しているようすが見られた。しかしながら、世界におけるシェアは、32.8%から28.7%に減少している。これは、中国と韓国が急激に世界シェアを増加させているためである。
2006-2008年のパテントファミリー数におけるシェアに注目すると、米国はバイオ・医療機器、バイオテクノロジー・医薬品、化学、情報通信技術で世界シェアが25%を超えている。ドイツは輸送用機器、機械工学、化学、その他において世界シェアが15%を超えている。フランスは輸送用機器、バイオテクノロジー・医薬品、化学で、イギリスはバイオテクノロジー・医薬品で、世界シェアが7%を超えている。1996-1998年と比較すると、多くの技術分野で世界シェアは漸減傾向もしくは横ばいにある。
中国や韓国は急激に世界シェアを伸ばしている。とくに韓国については、2006-2008年時点で、電気工学、情報通信技術において、世界シェアが10%を超えている。
4.2.5パテントファミリーの出願先
つぎにパテントファミリーの出願先(自国への出願分は除く)をみることで、主要国からの特許出願の国際的な広がりの時系列変化を見る(図表4-2-11)。
日本からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では90%以上が米国およびヨーロッパとなっていたが、1990年代に入って中国への出願が増加している。2007年時点では米国への出願が46%、中国への出願が20%、欧州特許庁への出願が13%となっている。ヨーロッパ各国の特許庁への直接出願については、年々その割合が減少し、2007年時点では、6%となっている。
米国からのパテントファミリーの出願先は、1981年時点では約半分がヨーロッパ、20%が米国以外の北米・中南米、18%が日本となっていた。1990年代に入って日本以外のアジアの国への出願が増加し、2007年時点ではアジアへの出願が全体の41%を占めている。また、アフリカへの出願も一定数存在している。
2007年時点に注目すると、ドイツについては20%がアジア、23%がアメリカ、43%が欧州特許庁に出願されている。
フランスについてはアジア、米国が各々20%であり、33%が欧州特許庁に出願され、イギリスについては23%がアジア、29%が米国、26%が欧州特許庁に出願されている。
アジアにおける出願先をみると、日本の比率が相対的に下がり、中国や韓国の比率が上がっている。米国とおなじく、アフリカへの出願も一定数存在している。
中国からの出願は1980年代後半時点では、欧州への出願が約半数を占めており、それにアジア、米国がつづいていた。その後、米国への出願の割合が大幅に増加する一方で、欧州への出願の割合は減少している。2007年時点では46%が米国、26%がアジア、14%が欧州特許庁となっている。
韓国からの出願は1980年代後半時点では、米国、欧州、アジア(主に日本)への出願が、ほぼ1/3ずつであった。その後、米国への出願の割合が大幅に増加し、2007年時点では52%が米国、33%がアジアとなっている。アジアにおける出願先をみると、日本の比率が相対的に下がり、中国の比率が上がっている。
(%、1996-1998年と2006-2008年、整数カウント法)

注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-10







注:
パテントファミリーの分析方法については、テクニカルノートを参照。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)をもとに、科学技術・学術政策研究所が集計。
参照:表4-2-11
テクニカルノート: パテントファミリーの集計
特許出願数の国際比較可能性を向上させるために、科学技術指標2013では、パテントファミリーによる分析を初めて本格的に実施した。
パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2カ国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。したがって、パテントファミリーをカウントすることで、同じ出願を2度カウントすることを防ぐことが出来る。また、パテントファミリーをカウントすることで、特定の国への出願ではなく、世界中の特許庁への出願をまとめてカウントすることが可能となる。
しかしながら、パテントファミリーの分析結果については、利用したデータベース、パテントファミリーの定義の仕方、パテントファミリーのカウント方法に依存する。
そこで、以下では、他の分析との比較の際の参考とするため、科学技術指標2013のパテントファミリーの分析に用いた手法をまとめる。なお、説明の中で、「tlsXXX」として参照しているのは、PATSTATに収録されているテーブルの名称である。
A)分析に用いたデータベース
欧州特許庁のPATSTAT(2012年9月バージョン)を使用した。PATSTATには、世界80か国以上、7,800万件以上の特許統計データが含まれている。
B)パテントファミリーの定義
パテントファミリーの定義にはさまざまなものが存在するが、科学技術指標2013では欧州特許庁が作成しているDOCDBパテントファミリー(tls218_docdb_fam)を分析に用いている。
C)パテントファミリーのカウント
パテントファミリーのカウントの際には、OECD Patent Statistics Manualに準拠し、ファミリーを構成する出願の中で最も早い出願日、発明者の居住国を用いた。国を単位とした整数カウントを行った。
D)発明者情報の取得方法
PATSTATの発明者情報や出願者情報には欠落が多いことから、各パテントファミリーと国の対応付けは以下のように行った。
① パテントファミリーを構成する全ての特許出願を検索し、発明者が居住する国の情報が入っている場合は、それを用いた。
② 発明者が居住する国の情報が入っていない場合は、パテントファミリーを構成する全ての特許出願を検索し、出願人が居住する国の情報が入っている場合は、それを用いた。
③ 上記の手順でも国との対応付けが出来なかった場合は、最初の出願は、出願者が居住する国に行うと仮定して、最も早い出願の出願先の国の情報を用いた。
E)パテントファミリーの同定
DOCDBパテントファミリーのうち、1つの特許受理官庁に出願されたものを単国出願、2つ以上の特許受理官庁に出願されたものをパテントファミリーとした。
F)技術分野の分類
国際特許分類(IPC)を用いた技術分野の分類には、WIPOが公表しているIPC - Technology Concordance Table [http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/technology_concordance.html] (January 2013)を用いた。
一つの特許出願に複数の技術分野が付与されている場合は分数カウントにより各分野に計上した。
G)パテントファミリーの最新年
パテントファミリーは、2カ国以上に出願されて初めて計測対象となる。PCT国際出願された特許出願が国内移行するまでのタイムラグは30カ月に及ぶ場合がある。したがって、パテントファミリー数が安定し分析可能な最新値は2008年である。なお、出願先の分析については2007年を最新値とした。
H)その他の留意点
・PATSTAT中に出願情報は収録されているが(tls201_applnにレコードはある)、公報等が出版されていない出願(tls211_pat_publnに該当するレコードがない)については、出願が取り下げられたと考え分析対象から外した。
・オーストラリア特許庁への出願データについては、集計値が異常値と考えられたので、分析対象から外した。
・短期特許、米国のデザイン特許や植物特許は分析対象から外した。