2. 科学技術政策研究所の概要
(1) 業務の概要
複雑化・高度化する社会・経済の構造的変化に適切に対応し、適時的確に科学技術政策を展開していくためには、政策立案の基盤となるべき調査研究の新たな展開が一層求められている。こうした状況の下、当研究所は以下の3つをミッションとしている。
- ① 俯瞰的・長期的見地に立って科学技術政策研究を実施し、国の科学技術政策の企画・立案を先導すること
- ② 調査研究を積極的に社会に発信し、企業等における研究開発及びイノベーション・マネジメント戦略の策定を支援すること
- ③ 国際的ネットワークの中核機関として、国内外の関係機関・人材を幅広く結集し、政策調査研究の国際的展開を図るとともに、企業の研究戦略担当者、政策研究者、行政官等を育成すること
当研究所では、上記のミッションを踏まえ、国際性及び学際性を重視した広い視野に立ちつつ、以下のような広範かつ体系的な調査研究活動を進めている。
(ア) 研究開発に関する調査研究
技術が生み出されるプロセスやその前段階である「知」の創造プロセスとしての研究開発に焦点を当てた調査研究。具体的には、内外の研究開発及び科学技術の動向把握、研究開発を担う人材の育成・確保、研究開発資金、望ましい研究体制・研究環境、研究評価、国際研究協力のあり方等に関する調査研究を行う。
(イ) 技術の経済社会ニーズへの適応過程に関する調査研究
研究開発の成果としての技術が市場等を通じ広く経済社会ニーズへ適応していく過程を対象とする調査研究。具体的には、研究開発が進展する過程において、より多くのイノベーションが発生する条件及び方途、技術の経済社会ニーズへの適応過程において生ずる諸問題等の摘出と考察、技術者・技能者等の養成・確保、研究開発・技術進歩と経済成長との関係等について調査研究を行う。
(ウ) 科学技術と社会の包括的な関係に関する調査研究
科学技術と社会との関係を考察する調査研究。具体的には、科学技術と社会とのコミュニケーションの現状及び望ましいあり方等科学技術と社会のブリッジの強化 (社会の意向を研究・技術開発、技術の経済社会ニーズへの適応に反映させる方策の検討) 等に関する調査研究を行う。
(エ) 共通的・基盤的・総合的な調査研究
上記 (ア) 〜 (ウ) の共通基盤となる、更にはこれらを総合した調査研究。具体的には、科学技術政策に関する理論的研究、技術予測調査、科学技術指標の開発・整備、産学連携の現状調査地域科学技術振興の調査研究等を行う。
(2) 運営の特色
当研究所では、研究職と行政職がそれぞれの能力を活かし相互に連携、協調して調査研究を進めている。
① 柔軟な研究体制
科学技術政策研究は、社会・経済現象なども含んだ科学技術を巡る様々な諸事項を総合的に扱う分野であり、その研究対象、研究方法とも既存の枠にとどまらず極めて広範多岐にわたっている。
このため当研究所ではグループ制を採用し、その時々の政策課題に柔軟に対応している。さらに、研究グループの枠を超えて、所内の研究員をメンバーとしたプロジェクトチームを構成して組織横断的な研究を行っている。
② 開かれた研究体制
当研究所では、内外に開かれた研究所として研究活動を推進していくため、国内外関係機関と研究協力を推進し、また研究者の交流を積極的に進めている。
これまで、海外の大学、国立研究所等をはじめとする科学技術政策に関する研究機関等と書簡交換等の協力取決めを行い、研究協力を進めている。
人材面でも、客員研究官制度等の活用により、国内外の専門家の研究活動への幅広い参画を進める他、フェローシップ制度や共同研究プロジェクトを通じて、積極的に研究者の受け入れを進めてきている。
種々の分野で活躍している研究者との交流、研究活動の国際的展開や研究ネットワークの拡大、得られた知見や成果の公開、新たな研究課題の探索・問題点の整理のため、内外の著名な研究者を招いて行う講演会やワークショップを関係府省等外部に開かれた形で数多く開催している他、国際会議を 1 年間に 1 〜 2 回程度開催している。
(3) 組織
2005 年 3 月末における当研究所の組織と任務は下のとおり。
2004 年度末定員 | 54 名 | |
同年度客員総括・主任研究官 | 計 3名 | |
同年度客員研究官 | 計 79名 | (客員研究協力官を除く) |
同年度国際客員研究官 | 計 3名 | |
同年度特別研究員 | 計 8名 |

<研究グループ等の主な任務>
第1研究グループ | : 科学技術の経済社会への効果に関する理論的調査研究
|
第2研究グループ | : 科学技術の研究開発推進システムに関する理論的調査研究
|
第1調査研究グループ | : 科学技術人材等科学技術の振興条件に関する実証的調査研究
|
第2調査研究グループ | : 科学技術の人間・社会との関わりに関する実証的調査研究
|
第3調査研究グループ | : 地域イノベーション・国際科学技術政策動向に関する実証的調査研究
|
科学技術動向研究センター | : 科学技術の動向に関する調査研究
|
情報分析課 | : 第 5 版科学技術指標のフォローアップ
|
<2004年度の主な人事異動>
第1研究グループ客員総括主任研究官 | :中馬 宏之 (2004 年 4 月から任命 一橋大学教授) |
第2研究グループ客員総括主任研究官 | :近藤 正幸 (2004 年 4 月から任命 横浜国立大学教授) |
情報分析課長 | :飯島 邦男 (2004 年 4 月採用 (科学技術振興機構から)) |
所長 | :今村 努 (2004 年 7 月辞職 (海洋研究開発機構へ)) |
永野 博 (2004 年 7 月国際統括官より就任) | |
総務課長 | :大柴 満 (2004 年 7 月辞職(理化学研究所へ)) |
佐々木 照一 (2004 年 8 月放射線医学総合研究所より就任) | |
総務研究官 | :平野 千博 (2005 年 3 月辞職(政策研究大学院大学へ)) |
(4) 予算
2004 年度の予算を以下に示す。
事項 | 予算額 | 備考 | ||
2004年度 | 2003年度 | |||
◇科学技術政策研究所に必要な経費 | 883,528 | 880,383 | ||
1. | 人件費 | 462,704 | 464,139 | 平成16年度(2004年度)末定員 54名 |
2. | 経常事務費 | 77,071 | 81,910 | 一般管理運営 客員研究官等 |
3. | 官庁会計事務データ通信システムに必要な経費 | 3,785 | 3,936 | |
4. | 科学技術政策研究国際協力推進 | 22,572 | 20,254 | 国際協力課題 国際シンポジウムの開催等 |
5. | 科学技術政策研究に関する情報処理 | 91,151 | 103,167 | 情報処理システムの整備、運用等 |
6. | 科学技術システム基盤研究 (科学技術構造基礎研究) | 21,618 | 20,881 | 主に第1、2研究グループの調査研究活動に係る経費 |
7. | 科学技術政策課題対応調査研究 (科学技術政策特別調査研究) | 66,930 | 52,738 | 主に第1〜3調査研究グループの調査研究活動に係る経費 |
8. | 分野別科学技術動向調査 | 118,012 | 118,855 | 主に科学技術動向研究センターの調査研究活動に係る経費 |
9. | 科学技術動向研究のためのネットワーク構築 | 19,685 | 14,503 | 外部専門家との双方向情報ネットワーク構築、整備、運用 |
合計 | 883,528 | 880,383 |
(5) 1 年間の主な活動
① 科学技術振興に関する基盤的調査の実施
次期科学技術基本計画策定のための検討に資する基礎資料を行政部局等に提供することを目的として、当研究所においては、2003 年度より 2 年間、以下の 2 課題を科学技術振興調整費により実施している。
(ア) 基本計画の達成効果の評価のための調査
本調査は、第1期及び第2期科学技術基本計画の達成状況・達成効果の評価に資することを目的とする調査。具体的には、海外との比較分析をしつつ、政府研究開発投資の実態や投資の有効性を検証するとともに、研究開発システム改革の具体的内容、実績を把握・整理し、その定着状況、効果等を分析するほか、これらの問題点や経済・社会・国民生活に与えた影響を明らかにする。
(イ) 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査
本調査は、次期基本計画検討の際の基礎情報提供を目的として、(関連行政部局との明解なリンクを持って) 実施される調査。「社会・経済ニーズ調査」、「急速に発展しつつある科学技術領域調査」、「注目科学技術領域の発展シナリオ調査」、「デルファイ調査」(の 4 調査) を実施し、科学から社会応用まで、また、外挿的 (・客観的) 予測から規範的 (・主観的) 予測まで、幅広い情報収集と分析を行う。最終的にはこれらを総合的に分析し、今後 30 年間の科学技術の動向を俯瞰的に把握する。
② 調査研究成果
2004 年度においては、NISTEP REPORT No.73 「科学技術指標」 No.74 「基本計画の達成効果の評価のための調査」ほか 18 本のレポートを取りまとめるとともに、調査資料 No.105 「科学技術の中期発展に係る俯瞰的予測調査」をはじめとして、12 本の報告書を調査資料に取りまとめた。また、主に所外専門家等の意見を聞くことを目的に、DISCUSSION PAPER No.37 「技術系製造業におけるスタートアップ企業の成長要因」をはじめ、3 本の DISCUSSION PAPER を取りまとめた。
さらに、科学技術動向研究センターにおいては、科学技術に関する注目すべき動向や今後の科学技術の方向性等に関して、毎月「科学技術動向」として取りまとめた。
③国際関係
(ア) 当研究所においては、海外の大学、国立研究所等をはじめとして海外科学技術政策研究関係機
関等と研究協力に係る覚書 (MOU) を締結し、研究協力を進めている。このうち、2004 年度においては以下の機関との研究協力に係る覚書 (MOU) を更新した。
- 韓国科学技術企画評価院 (KISTEP)(韓国)
- ワシントン大学ボセル校 (米国)
(イ) 2004 年度においては、以下の国際ワークショップ及び国際コロキアムを当研究所が主催した。
- 国際コンファレンス「基本計画レビュー調査」〜統合的科学技術政策による効果のベンチマークに向けて〜
2004 年 9 月 13 日〜 14 日開催 (於 三菱ビル 9F 964・965 号会議室及び文部科学省 10F 第 1 ・第 2 会議室) - 国際コロキアム「サイエンスコミュニケーションのひろがり」〜縫い目のない文化を実現するために〜
2005 年 2 月 7 日開催 (於 コクヨホール)
④ 科学技術振興事業団 (JST) 研究開発戦略センターとの連携・協力
当研究所と科学技術振興事業団 (JST) 研究開発戦略センターは、両機関が限られた人材・資金の下で最大限の効果的な調査分析を進めていくため、国際科学技術動向及び先端科学技術動向の調査分析に関して、各種研究・研修会合等への相互参画、関連情報・調査分析結果の相互提供等の連携・協力を進めていくことで 2003 年 4 月に合意した。
⑤ 「政策研究FS」制度の創設
調査研究課題の効果的発掘・設定及び実施準備、並びに所内研究スタッフの課題提案力向上・調査研究具体化に向けたインセンティブ付与を図ることを目的として、将来の調査研究課題の本格実施に向けた探索・実現可能性調査及び予備的検討を行う「政策研究FS」制度を 2003 年度に創設した。制度創設初年度の 2003 年度においては、4 課題の調査研究を実施した。