6. 科学技術の中長期的発展に係る俯瞰的予測調査
科学技術動向研究センター1. 調査研究の目的
国の財政事情が逼迫する中、科学技術政策立案にあたり、将来に対する明確かつ俯瞰的なビジョンに基づいた重点化が一層求められている。こうした重点化施策を進めるためには、優先順位付けに関する俯瞰性をもった総合的な分析が基礎情報として重要である。
本調査は、科学技術政策における戦略の策定、即ち優先順位付けに直接寄与できる調査とすることを目標とする。また、次期基本計画が対象とする期間を踏まえ、2015 年を中心として今後 30 年間の科学技術の姿を俯瞰的に把握することを調査設計の基本とする。
2. 調査研究の概要
本調査は、平成 15 年度〜平成 16 年度にわたり科学技術振興調整費に基づき実施するものである。調査は (1) 社会・経済ニーズ調査、(2) 急速に発展しつつある研究領域調査、(3) 注目科学技術領域の発展シナリオ調査、(4) デルファイ調査、の4調査から構成される。最終的には、これらの結果を総合的に分析し、今後 30 年間の科学技術の動向を俯瞰的に把握する。
(1) 社会・経済ニーズ調査
今後 10 年間の社会・経済的ニーズを既存調査結果も踏まえ整理する。これを出発点として、参加型プロセスにより多様な関係者からの意見収集を行う。さらに、科学技術が目標とすべき社会・経済ニーズについて分科会にて検討を行う。
(2) 急速に発展しつつある研究領域調査
論文データベース分析により急速に発展しつつある研究領域を把握する。実施に当たっては、研究領域全体に対する俯瞰的な分析と個々の研究領域の内容分析を組み合わせ、最先端の研究領域を抽出・分析する。
(3) 注目科学技術領域の発展シナリオ調査
今後社会・経済的貢献が大きいと考えられる領域、革新的知識を生み出す可能性を持つ領域などを50程度の領域に集約する。それぞれについて当該領域の第一人者が卓越した個人の見識で発展シナリオを作成し、その後、作成シナリオについて専門家による意見交換を行う。
(4) デルファイ調査
今後 30 年間に社会・経済面、技術的波及面に大きな影響を与えると見られる重要技術の発展動向に関して、専門家への繰り返しアンケートを実施する。結果の利用しやすさを考慮し、分野の下に注目科学技術領域を設け、領域を代表する技術等のパッケージとして捉える。また、技術的実現と社会的適用の時期や条件を問い、研究開発政策、イノベーション政策双方に資するデータを得る。

3. 進捗状況
2 ヵ年の計画のうち今年度の進捗状況は以下のとおりである。なお、(2) 急速に発展しつつある研究領域調査を除く 3 つの調査では専門家からなる分科会を設置して検討を行った。
(1) 社会・経済ニーズ調査
① 調査の基本方針の検討
科学技術政策に社会・経済ニーズを反映させる必要性、ニーズ調査のスタンス、などについて分科会で検討を行い、基本方針を整理した。
② ニーズリストの作成と優先度付け
個別ニーズを抽出、整理した素案を元に、統計的分析手法によりニーズの階層構造化を行った。さらに、階層構造化されたニーズリストについて、意思決定手法を適用して生活者の立場からみたニーズの優先度付けを行った。
③ 参加型プロセス実施方法の検討
ニーズの優先度について複数のオプションを提示できるような情報を得ることを目的とした、参加型プロセスの実施方法等について検討を行った。
(2) 急速に発展しつつある研究領域調査
① 研究領域の抽出
論文データベースを用い、論文の共引用関係から2段階のグルーピングを行い、一定の大きさを持つ研究領域を生成させた。次いで、その中で論文数が急増している領域を抽出した。
② 研究領域の内容分析
抽出された51の研究領域について、含まれる論文群の関連性を示すマップの作成、ならびに領域の解釈を行った。さらに、専門家からのコメントに基づく修正を行った。
(3) 注目科学技術領域の発展シナリオ調査
① 調査の基本方針の検討
シナリオテーマ、盛り込まれるべき内容、シナリオ作成者に関する方針を検討した。
② 発展シナリオテーマ選定方法および選定スケジュールの検討
テーマ選定に当たっては、他調査での検討結果を踏まえて原案を作成し、それをもとに整理・調整の検討を行うこととした。また、選定は来年度2回に分けて行うこととした。
③ 発展シナリオ作成仕様書の検討と予行実施
作成依頼時に手渡す「シナリオ作成仕様書」について検討を行った。また、仕様書の適否をチェックするため、シナリオ作成の予行を実施した。
(4) デルファイ調査
① 予測課題設定のフレームの検討
各技術分野を俯瞰できるような予測課題設定のフレームを各分野で作成した。
② 注目科学技術領域、予測課題、調査項目の検討
今後の技術開発、社会、経済に対して大きなインパクトが期待される注目すべき領域を分野ごとに10程度設定した。次いで、注目科学技術領域を構成する課題を中心に予測課題の作成を行った。さらに、注目科学技術領域及び個別予測課題に対する設問の検討を行った。
4. 特記事項
複数の手法を組み合わせることにより、科学技術の中長期発展の俯瞰的な予測を試みるという本調査の取り組みは、世界にも類を見ない。
5. 論文公表等の研究活動
平成 16 年 3 月 3 日〜 4 日にわたり「俯瞰的予測調査 国際ワークショップ」を開催した。
これは、海外の Foresight 科学技術予測活動に関する動向把握、および技術予測活動の経験や科学技術戦略に関する情報交換を行い、予測活動の今後について検討し、本調査の手法について知見を深めるためのものであり、海外有識者ならびに本調査の各分科会委員など国内有識者の参加を得て実施した。
- 内容:
- 3 月 3 日 欧州におけるForesightの最新動向ならびに日本の動向に関する講演会
- 3 月 4 日 俯瞰的予測調査の概要説明ならびに関係者による討論会
- 海外招聘者:
- 2 名
- Prof. Ian Miles (英 マンチェスター大学)
- Prof. Stefan Kuhlmann (独 フラウンホーファー協会システム・技術革新研究所)
- 3 月 3 日 講演会 予測調査関係者、在京大使館関係者、行政関係者など 125 名
- 3 月 4 日 討論会 予測調査関係者など 43 名
詳細については 11 〜 12 頁に紹介している。