5. 国際会議
(1)技術予測国際会議
科学技術政策研究所は APEC 技術予測センターの協賛を得て次のとおり第 2 回国際会議を開催した。
- 会議名称:
- 第 3 世代技術予測と科学技術政策における優先順位づけ
- 第 2 回技術予測国際会議 - - 開催期間:
- 2003 年 2 月 27 日 (木) 〜 28 日 (金)
- 会場:
- 国際連合大学本部ウ・タント国際会議場 (東京都渋谷区)
① 開催目的
2000 年 3 月に当研究所が開催した第 1 回技術予測国際会議において、技術予測は、技術的可能性の探求に主眼を置いた第 1 世代、市場の観点を取り入れた第 2 世代を経て、技術を受け入れ利用する側の市民等社会各層の関係者が参画する第 3 世代へと移行しつつあることが、認識された。
この会議から 3 年を経た現在、各国で第 3 世代予測への展開が図られ、成果が生まれつつある。同時に、科学技術政策との連携が強く意識されるようになり、重点化戦略の策定等に貢献する技術予測が模索されてきた。我が国では、第 3 期科学技術基本計画 (2006 〜 2010 年) の策定に向けて、従来以上に社会・経済ニーズを踏まえた形での技術予測調査が計画中である。
このような中、各国が経験を学び合い、より有用な技術予測を確立していくことを目的として、本会議を開催した。
② 会議の概要
会議は、基調講演及び 6 つのセッションから構成された。各セッションにおいて、日本を含む 12 か国、3国際機関の 20 名の専門家が各国の活動状況等について発表を行った。一般参加者は、2 日間で約 400 名であった。
- 参加国・機関:
- 日本、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、フィンランド、チェコ、韓国、中国、タイ、ベトナム、APEC 技術予測センター、欧州委員会研究総局、欧州委員会未来技術研究所
セッション構成は、次の通りである。
- ○基調講演
- 井村裕夫 総合科学技術会議議員
- ○セッション 1 「科学技術戦略と技術予測」
- 講演: David Cheney (米国) 、Paraskevas Caracostas (欧州委員会) 、桑原輝隆 (科学技術政策研究所)
- ○セッション 2 「先端技術の発展動向」
- ・ライフサイエンス
- 講演: 軽部征夫 (東京工科大学) 、コメント: Kerstin Cuhls (ドイツ) 、Qiquan Yang (中国)
- ・情報通信技術
- 講演: 生駒俊明 (一橋大学) 、コメント: Ken Ducatel (欧州委員会) 、Youngrak Choi (韓国)
- ・ナノテクノロジー
- 講演: Greg Tegart (APEC) 、Yann Cadiou (フランス) 、コメント: 奥和田久美 (科学技術政策研究所)
- ○セッション 3「各国の技術予測活動 - 欧州」
- 講演: Ian Miles (英国) 、Kerstin Cuhls (ドイツ) 、Yann Cadiou (フランス) 、Eija Ahola (フィンランド) 、Karel Klusacek (チェコ) 、Lennart Björn (スウェーデン)
- ○セッション 4「国際的な技術予測活動」
- 講演: Witaya Jeradechakul (APEC) 、Ken Ducatel (欧州委員会)
- ○セッション 5「各国の技術予測活動 - アジア」
- 講演: Youngrak Choi (韓国) 、Qiquan Yang (中国) 、Chatri Sripaipan (タイ) 、Le Dinh Tien (ベトナム)
- ○セッション 6「技術予測の発展可能性」
- 講演: Luke Georghiou (英国)
③ 会議の成果
会議を通じて、以下のことが認識された。
- 技術予測は評価の段階に入りつつある。特に、技術予測の実施に当たっては政策決定過程との連携が必要であり、この点を踏まえた評価と評価結果のフィードバックが、技術予測の今後の発展・改善につながる。
- 社会と科学技術の係わりという視点が重視される中で、技術を受け入れ利用する側の市民等社会各層の関係者が参画する第3世代技術予測がますます求められる。
- 多くの先進国・途上国で、それぞれの事情、問題意識に基づいた技術予測が実施されており、これらの経験を活かした国際的な情報の交換・協力・結果比較が重要である。
また、平成 15 年度に計画している技術予測調査に関し、本会議に参加した海外 (英、独、仏、EU 等) の主要な技術予測調査機関と緊密な協力を図ることについて合意が得られた。例えば、社会・経済ニーズを把握するための手法については、先駆的な取り組みを行っているドイツのフラウンホーファ協会システム・イノベーション研究所 (ISI) から詳細な情報提供等の協力を得られることとなり、シナリオ分析の手法については、多くの経験を有する英国マンチェスター大学、 EU 未来技術研究所 (IPTS) 等からノウハウの提供等協力を得られることとなった。
(2) STEPI-NISTEP Science and Technology Policy Workshop
科学技術政策研究所 (NISTEP) と韓国科学技術政策研究所 (STEPI) は 2002 年 8 月 29 日 (木) 〜 30 日 (金) に大韓民国済州島 KAL ホテルにおいて「STEPI-NISTEP Science and Technology Policy Workshop」と題する国際ワークショップ (出席者: 日本側 7 名、韓国側 10 名) を開催した。本ワークショップのテーマは「創造的ナショナル・イノベーション・システムの構築」であり、目的はこのテーマに関する両国のベストプラクティスについての意見交換と両機関の交流の促進である。ワークショップの概要は以下のとおりである。
○第 1 セッション " 企業 R&D 戦略形成 " :
はじめに、小田切総括主任研究官より、バイオ研究開発における企業の境界についての報告があった。この報告では,特許による専有可能性が企業の境界を決定する重要な要因の一つであることが主張された。Youngjoon Gil 氏(三星総合研究院)より、今後の企業の技術革新においては、顧客のニーズをいかに効率的に研究開発過程に反映することができるかどうかが重要な挑戦課題となることが報告された。
○第 2 セッション " 人的資源 " :
本セッションでは、科学技術人材の流動性に関するトピックが議論された。はじめに Sangwon Ko 氏 (情報通信政策研究院) から科学技術人材の流動性について、特に、国立研究機関から大学への人材の流動に関する経済分析の報告があった。続いて、第1調査研究グループ石井上席研究官より、人材をベースとしたナショナル・イノベーション・システムのコンセプトの提案があった。当該コンセプトの有用性について検討するために、東大・東工大と米 MIT の工学部卒業生のデータを使用した分析結果について報告がなされた。
○テーマ発表:
本セッションでは、両研究所の若手研究員が現在取り組んでいる様々な研究テーマに関する報告が行われた。韓国側からは、Eun-Kyoung Lee 氏から、科学技術分野における女性研究者の育成に関する韓国政府の取り組みについて、Yong Ho Bae 氏から韓国におけるナノ技術の現状とその国際競争力について、さらに、Jungwon Lee 氏から公的研究機関から効率的な技術移転を行う際の戦略に関する報告があった。日本側からは、古賀研究員より科学技術系スタートアップ企業の成長要因について報告し、また、計良上席研究官より、わが国の地域イノベーション政策の現状とその重要性に関する報告があった。
○第 3 セッション " 研究評価システム " :
このセッションでは、両国における研究評価システムについての報告が行われた。韓国の研究評価システムについては、Yongsoo Hwang 氏が、創造性を高めるための研究評価システムの形成に関して、2 つの事例 - 創意的研究開発振興事業と 21 世紀フロンティア研究開発事業 - を基礎に議論を展開した。これに対して、小林総括主任研究官より、わが国の研究評価システムの現状と問題点について、主に欧米との比較検討が行われた。
○第 4 セッション " R&D 計画システム " :
本セッションでは、科学技術政策の形成過程に関する議論が行われた。はじめに、桑原科学技術動向研究センター長より、近年における我が国の科学技術の重点化政策の形成過程をレビューするとともに、科学技術政策の重点化戦略を支える技術予測の展開について問題提起を行った。続いて、Karpsoo Kim 氏からは、研究開発テーマの企画におけるシステム構築について問題提起があった。Kim 氏は研究開発テーマの企画立案過程において、わが国はネットワーク重視であるのに対し、韓国は、少数のカリスマの存在が重要であることを指摘した。
○総括セッション:
ここでは、2 日間の議論を整理し、今後、日韓両国が望ましいナショナル・イノベーション・システムを形成する上で、目指すべき方向性を探るための議論が行われた。冒頭で、Wong Myong Lee 氏より、模倣から創造へ転換するために国としてとるべき政策の方向性は何か、という問題提起がなされ、このテーマに基づいた議論が展開された。また、この議論を通じて、今後両機関間で、相互理解を促すための協力を継続することが了解された。最後に、Choi 院長と当所との間で両機関の研究協力の継続に係る MOU (Memorandum of Understanding) が締結され、全日程を終了した。