4. 平成 14 年度科学技術政策研究所機関評価
研究所の評価は、それによって研究所の活動の適切さを判断し、その結果を十二分に活かして、効率化・活性化等を図り、より優れた成果を上げていくために必要である。そのため、当研究所においては、原則として 3 年毎に、研究所の設置目的や研究目的・目標に則し、機関運営と研究開発の実施・推進の両面から機関の評価 (機関評価) を実施している。
平成 14 年度においては、平成 10 年度に引き続き、第 2 回の機関評価を実施したところ、その結果の概要は以下のとおり。
1. 今次機関評価の位置付け
(1) 目的
研究開発評価に係る関係指針類に基づき、前回機関評価後における科学技術政策研究所 (NISTEP) の運営全般に係る評価を行い、研究資源の適切な確保・配分及び運営上の問題点の改善等を通じ、機関としてのマネジメントの質的向上及び調査研究活動の一層効果的・効率的な推進を図る。今次機関評価は、NISTEP 所長からの委嘱により、省庁再編後の科学技術行政システムの枠組みを前提として NISTEP の活動・運営のあり方を検討・評価するとの視点から実施。
(国立研究機関たる NISTEP では、中期計画・機関評価の位置付けは法令に則し定められた目標達成のための業務遂行を使命とする独立行政法人研究機関とは本質的に異なり、機関評価委員会は中期計画そのものの妥当性チェック・検証を含めた機関運営全般の評価検討を行う一種の「運営諮問委員会」的位置付け)
(2) 評価項目
- ① 機関運営面:予算・人事運営の現状、意思決定及び成果取りまとめプロセス、国内外関係機関との協力・交流状況
- ② 調査研究実施面:課題設定及び調査研究計画立案プロセス、前回機関評価以降の主要課題取り組み実績、成果の発表・活用状況、研究者業績評価の考え方
2. 機関運営・調査研究活動の評価及び課題
前回機関評価実施時と比べ、科学技術を巡る環境は大きく変化、我が国は「科学技術創造立国」を選択、省庁再編・2 期にわたる基本計画策定等科学技術政策の枠組みも大きく変革。NISTEP への期待は益々増大、今こそ存在をアピールすべき時。次の 5 年間は「政策志向型」を第一の優先度として調査研究活動に取り組むべき。
(1) 研究所運営全般の評価と課題
< 前回機関評価での提言事項への対応状況 >
- 前回機関評価委の提言を踏まえ、昨年 9 月中期計画を策定したことは評価できる。但し、同計画が評価委提言後2 年半以上経過して策定されたのは、種々の事情があったにせよ、遅きに失した感あり。今次機関評価までの期間が 1 年足らずとなり、中期計画の具体化状況の実績に基づく評価が十分できないとの問題が発生。
- 中期計画策定以外の主な提言事項については、省庁再編の流れ等も踏まえ、相応の対応が図られていると認められる。一部指摘事項については中期計画に今後の活動計画として盛り込まれており、今後具体化状況を適宜フォローアップすべき。
< 中期計画の内容について >
- 中期計画に示された今後の調査研究の方向性が網羅的で多岐にわたり、優先度付けがなされていないことは問題。現状の研究資源を前提に早急に戦略的優先度付けを行い、新たに追加する重点事項は現状の資源配分ないし別途資源を確保することにより対応すべき。
- 戦略的優先度付けに際し、外部機関の有効活用、又は大学等との連携強化等、経営資源の制約等による障害回避のための具体的方策の確立が重要。
- 中期計画の目標の一つに掲げられた「世界第一級の中核研究機関」化は、その意欲は評価しうるものの、研究所の諸活動の結果として達成される目標として位置付けるべき。研究分野・目的において国内には NISTEP と比較できる機関はなく、国内唯一の科学技術政策策定のための研究・提言機関としての使命遂行、即ち社会的要請に対応したテーマに取り組み、高度な政策提言機能を発揮することを第一の目標とすることが適当。
< NISTEP の使命 >
- 政策策定機関を主たる顧客とするタスクフォース的役割 (短期的シンクタンク機能) 、将来の顧客ニーズを先取りした「待伏せ研究」や定点観測的調査研究を論文として準備すること (中長期的シンクタンク機能) による政策策定側への貢献を最大の使命と位置付けるべき。
- 特に後者 (中長期的シンクタンク機能) については、顧客たる行政側も将来の政策課題を的確に絞り込めていないケースもあり、 NISTEP 側で「顧客の顧客」たる社会や産業界等の動向を直接把握し、タイムリーな提案を行うことも重要。
< 使命達成のための効果的方策 - 人的ネットワークの拡大 - >
- 我が国には科学技術政策研究が根付いていないことから、国内・海外の研究者を従来以上に広く取り込み、データのギブ & テイクを行うことにより、得られたデータを効果的に加工、発信する機能を持つ研究所を目指すことが重要。
- 特に使命実現のためマクロな国際動向を先取りできる「知恵袋」の確保が重要。 (欧米主要国の有力専門家に加え、中国等注目国のキーパーソンからの情報入手も重視すべき)
- こうした情報収集のための国際的人脈作りの観点から、インフォーマルな人的ネットワークの把握・参加への努力が必要。また、情報収集の際にはギブ & テイクが基本。 NISTEP として提供できる情報の創出、蓄積が最大の課題。
< プレゼンスの向上 >
- 使命達成による顧客満足度の向上、有能な人材を引きつける「魅力」の発信といった顧客への浸透度・認知度向上を目指した種々の取り組み (一種の「マーケティング」活動) により、研究所のプレゼンス向上の努力をすべき。
- このため、類似機関や民間では対応困難な NISTEP ならではの「目玉商品」 (Killer Product) と呼べる成果の創出が必須。従来より海外で評価の高い「科学技術指標」「技術予測」等のレポートと同等・それ以上の質を維持しつつ多くの成果を発表、 NISTEP の特長を顧客・国内外機関にアピールしていく必要あり。
- 海外の政策研究機関が日本の科学技術政策に対しコメントを発表することは日常的、逆はほぼ皆無。今後は海外に向け諸外国の科学技術政策への意見発表や日本の科学技術政策に係る情報発信を積極的に行うことも重要。こうした観点から NISTEP の主要な成果物等関連資料の英文化が必須。
< 評価システムの確立 >
- 今後の取り組みにおいて上述の方向性を制度的に担保するための評価システム確立の要あり。所外人材による機関評価の定期的実施と共に、所内での計画-実施-見直し (Plan-Do-See) のフィードバックによる日常的評価サイクルの確立が必須。 (併せて、研究評価・プログラム評価のあり方に係る検討への取り組みが重要)
(2) 各部門毎の評価と課題
< 研究グループ >
- ベンチャービジネスや科学技術政策システム等の研究課題への取り組みにより、一部については政策面ないし学術的に意味のある成果を創出し、学会発表や国際会議開催等を通じた情報発信により、研究所の国際的プレゼンス向上に相応の寄与を果たしている。加えて、政策当局からのコンサルテーションへの対応にも相応の労力を投入している状況が見て取れる。
- 他方、課題事後評価等においては、当初の設定目標が十分達成されていない、あるいは外部への研究成果の発信が十分でない状況も一部に見られ、より確実な研究進捗管理や情報発信の努力が必要。加えて、グループの運営・課題設定に当たり、大学との連携強化に注力する一方、実践的課題に立脚した検証研究の実施に軸足を置くなど、大学の学術的研究との質的差異化に配意すべき。
< 調査研究グループ >
- 科学技術指標、科学技術理解増進、地域科学技術振興等我が国の重要政策課題に係る調査研究に取り組み、報告書配布に加え、様々なコンサルテーションの機会を通じた関係行政部局への成果伝達等、政策立案支援の努力はなされている。
- 但しこれら取り組みも課題事後評価等の結果を見る限り、政策当局のコンサルテーション対応や対外情報発信に不十分な面あり、調査研究の設計段階から行政当局と十分すり合わせを行う等更なる取り組み強化が必要。学界等との関係では、学会発表等国際的プレゼンス発揮の面で不活性のケースが見られ、研究成果のグローバルな展開、国際的発信強化にも目配りしたバランスのとれた取り組みが必要。
< 科学技術動向研究センター >
- 省庁再編を機に予算・定員等を拡大する形で本研究所に設置された「科学技術動向研究センター」 (以下「動向センター」) は、総合科学技術会議及び文部科学省等へのタイムリーかつ有用な情報提供、一般向け情報発信等の面で所期の予想を越える優れたパフォーマンスを発揮。行政部局への政策提言機能、研究所全体の対外的プレゼンス向上の観点からも、本研究所の調査研究活動の中で中核的かつ枢要な部門としての存在、機能を確立しつつあると認められる。
- 今後、その活動・ネットワーク機能を着実に定着・展開し、成果の「付加価値」の更なる向上に努めるとともに、成果提供・発信先を国内主要企業や大学・高校、国外主要機関へ拡大する等、一層のプレゼンス向上・顧客拡大を図ることが重要。
(3) 今後の機関運営の方向性
- 今後の運営全般の方向性として、今日的課題へのタイムリーな取り組み、政策提言・シミュレーションの実施に加え、国全体の科学技術システムに係る基盤的データの整理・分析及び国内外への提供といった「定点観測」的調査研究・成果展開にも相応の研究資源を投入し取り組みを強化すべき。 (いわば「不易と流行」 (継続性と機動性) の視点)
- これら調査研究の推進に当たっては、可能な限り外部資金の活用可能性を模索し、委託費活用による実務作業の外部シンクタンク等へのアウトソーシングを積極的に進める等、調査研究の一層の効率化・インテリジェント化を図ることが重要。更に、将来のニーズを先取りした「待伏せ研究」の効果的推進に向け、柔軟な組織原理の導入・定着に意を用いるべき。
3. 将来に向けての提言〜「政策立案への貢献を第一の使命とする特長ある研究機関」となるための提言〜
NISTEP はその基本使命の効果的達成に向け、今後の機関運営に当たり以下 (1) 及び (2) の諸課題への取り組みを進めるべき。
(1) 顧客の明定と顧客満足に配意した使命遂行- 調査研究成果の質の向上と政策立案プロセスへの積極的寄与 -
① 政策的・社会的要請に対応したテーマ設定、絞り込みと優先度付け
- 第 3 期科学技術基本計画策定に向けた第 1 期・第 2 期科学技術基本計画の政策評価・レビューへの取り組み
- 「社会の安心・安全 (人間の安全保障、レギュラトリ・サイエンス等) 」
- 「国際競争力強化の観点からの科学技術人材育成」「萌芽的分野の動向」等のテーマへの注力
- 地域の研究開発・イノベーション活動の支援のための調査研究の強化
- 短期タスクフォース的テーマへの取り組みと中長期ニーズを先取りした「待伏せ研究」の適切なバランスの確保
- 中期計画に掲げた中項目の戦略的優先度付け
- グループリーダー交代時の継続課題の見直し
② 政策提言機能の強化
- 戦略的調査研究・政策立案支援のための外部人材を含めた少数精鋭チーム (タスクフォース) の適時的確な組織化
- 具体的政策オプションの提示・政策シミュレーション等の取り組み強化
- 動向センターの専門家ネットワークの積極的活用等による異分野専門家の交流・新分野創出促進、行政部局との双方向のコミュニケーション・提言機能強化
- アジア各国を対象とした調査研究・交流活動の強化
(2) 使命のより効果的遂行のための研究資源の戦略的拡大と成果の発信機能強化
① 外部研究資金の獲得努力の強化
- 民間ファンドを含む各種外部競争的資金への積極的応募促進
- より競争力のある提案作りとプレゼンテーション能力の向上
- 委託費による外部シンクタンクの積極的活用
② 人的ネットワークの拡大及び研究人材養成・確保への支援
- NISTEP の OB / OG を節点とするグローバルなネットワーク作り
- 研究所スタッフの出身機関との連携
- 国際研究協力・交流の質的強化 (国際客員研究官の招へい、研究依頼等)
- 関連大学等との連携強化
- - 連携大学院方式の検討
- - 大学院研究者受け入れによる実践的検証研究の実施
③ 成果の国内外向け発信機能・認知度向上活動の強化とプレゼンス向上
- 主要成果物の認知度向上・高付加価値化への取り組み
- - 「科学技術動向」 (月報) 配布・発信先の戦略的拡大 (企業、大学、高校等)
- - 講演会・セミナー等による行政部局へのサービス提供の促進、成果の知識ベース化
- 定点観測的調査研究データの英語による発信強化
- (海外主要研究拠点との「ギブ & テイク」を可能とする成果の高付加価値化)
- 国際科学雑誌への成果の発表及び海外政策に係る見解の発信
(3) 研究現場のインセンティブ向上
上記 (1) 及び (2) の取り組み推進に当たっては、以下のような所属スタッフへのインセンティブ付与が有効。① 基本使命を踏まえた研究人材の能力研鑽及び適切な評価軸の構築
- 研修プログラムの質的拡充
- 研究者業績評価・調査研究課題評価に際しての一様でない重み付け評価の検討
- 課題評価に際しての「先見性」・「連携度」、業績評価に際しての「動員力」・「統率力」等の目標に即した多様な評価項目の導入の検討
② 研究環境の充実
- 優れた研究成果を触発する交流スペース (知的サロン) の整備
- 各グループの特性に応じた研究スペース・環境の整備
- 客員研究官等外部参画研究者の執務スペースの確保
(1) から (3) に加え、以下の提言項目について、文部科学省をはじめとした行政部局の取り組み強化を期待。
- 次期科学技術基本計画策定に向けた基盤的調査研究に係る十分な予算確保及び行政部局との効果的連携体制の構築
- 政策研究者の意欲向上のため、行政側による政策決定プロセスでの引用・参照成果の明確化
- 文部科学省・外務省を通じた研究成果・情報の外交戦略への活用
- NISTEP 在籍行政官が行政部局復帰後に経験・知識を活かせるローテーションの確立
(平成 14 年度機関評価委員会委員)
委員長 | 池上 徹彦 | 会津大学学長 |
委員 | 池澤 直樹 | ㈱ 野村総合研究所コンサルティング部 チーフ・インダストリー・スペシャリスト |
委員 | 鵜野 公郎 | 慶應義塾大学政策・メディア研究科 教授 |
委員 | 笠見 昭信 | ㈱ 東芝 監査役会議長 監査役 |
委員 | 都河 明子 | 東京医科歯科大学 留学生センター・教養部 教授 |
委員 | 鳥井 弘之 | 東京工業大学原子炉工学研究所 教授 |
委員 | 中島 尚正 | 放送大学東京多摩学習センター 所長 |
委員 | 原山 優子 | 東北大学大学院工学研究科 教授 |
委員 | 松本 和子 | 早稲田大学理工学部 教授 |
委員 | 薬師寺 泰蔵 | 慶應義塾大学法学部 教授 |
(検討経過)
- 4 月 26 日 (金) 第 1 回会合
- 機関評価の枠組み
- 研究所の活動概況
- 外国人専門家による事前レビュー結果
- 今後の検討課題の整理・討議等
- 5 月 28 日 (火) 第 2 回会合
- 研究所運営
- 行政部局関係者からのヒアリング
- < 文部科学省科学技術・学術政策局 井上 正幸次長 >
- 各グループ等活動概況及び調査研究課題評価
- 前回機関評価での指摘事項への対応状況
- 6 月 21 日 (金) 第 3 回会合
- 国内外関係機関との協力等に係る意見聴取・討議
- < NSF 東京事務所 Dr. W. Blanpied 所長 >
- 前回機関評価での指摘事項への対応状況
- 中期計画の具体化状況
- 当研究所職員からの意見聴取等
- 国内外関係機関との協力等に係る意見聴取・討議
- 7 月 25 日 (木) 第 4 回会合
- 研究者業績評価
- 今後の検討の進め方及び報告書に盛り込むべき主な論点
- 執務環境に係る現状調査
- 8 月 29 日 (木) 第 5 回会合
- 機関評価報告書骨子案検討
- 10 月 25 日 (金) 第 6 回会合
- 機関評価報告書取りまとめ