1. はじめに
2001 年 1 月の中央省庁再編によって、総合科学技術会議を司令塔とする新しい科学技術行政体制がスタートしました。これに引き続いて、特殊法人改革、大学改革など、公的部門の科学技術システムの構造改革が進行しています。知識社会へと変貌しつつある 21 世紀に、わが国が安定的、持続的に発展していく鍵を握っているのは、民間部門を含めたわが国の科学技術システムの活力であるといっても過言ではありません。
いうまでもなく科学技術は、文化としての学術研究から、社会、産業への活用をめざす基礎、応用、開発研究までさまざまな活動を包摂した、多様かつ複合的な営みです。科学技術の諸活動の間には密接な関係があり、互いに影響しあうことによって飛躍的な進歩を社会にもたらすことがある一方、無秩序な活動によって社会に思いがけない悪影響や悲劇をもたらす恐れさえあります。したがって、社会における科学技術システムは、創造的な知識を生み出す仕組みとともに、科学技術を適切に管理するガバナンスの仕組みを備えている必要があります。ひとくちに科学技術システムと言っても異なった目的と方法論によって駆動するさまざまなサブシステムの集合体であって、これを律する単一の基本原理はありません。科学技術活動のこうした複雑性、多様性を認識したうえでシステム全体の活力を引き出すことに科学技術政策の眼目があり、政策を支える調査研究もこの複雑性を洞察、把握する点に大きな目的があるといえるでしょう。昨今、経済の活性化に役立つ科学技術が強く求められています。しかし 10 年前には、基礎研究の強化と国際貢献が叫ばれていました。科学技術政策において何をなすべきかを決める際には、何が社会から求められているかを的確に把握する必要があるのはもちろんですが、長期的な視点に立って、将来の社会が必要とするものを先取りして把握することがますます重要になっています。そして当研究所の基本的役割もこの点にあると考えています。
当研究所は、昨年外部の専門家の方々にお願いして、機関評価を受けました。幸い、当研究所の諸活動については、2001 年にスタートした科学技術動向研究センターの活動をはじめとして、おおむね合格点をいただいたところです。同時に、当研究所の課題として、調査研究成果の政策への反映に努力すべきことが第一に挙げられるとともに、社会への発信力を一層高めるよう要請されました。
この年報には 2002 年度の当研究所の活動概要をまとめています。当研究所の活動は大きく分けて、第一に科学技術指標など定点観測的な現状調査、第二に将来に向かっての技術動向調査、そして第三に科学技術政策に論理的根拠を与える分析研究の 3 本柱から成り立っていますが機関評価の結果を受けて質量ともに高めるべくさらに努力する所存です。年報をお読みになった方々からのご批判ご意見を頂戴できれば、大変幸いです。