4. 調査研究活動の概要

  1. (1) 第1研究グループ
  2. (2) 第2研究グループ
  3. (3) 第1調査研究グループ
  4. (4) 第2調査研究グループ
  5. (5) 第3調査研究グループ
  6. (6) 科学技術動向研究センター
  7. (7) 情報分析課

(1)第1研究グループ

研究課題 1
研究開発のグローバル化

小田切 宏之
岩佐 朋子
古賀 款久
安田 英土(客員研究官)
伊地知 寛博
桑島 健一(客員研究官)
本庄 裕司(客員研究官)
和田 哲夫(客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

研究開発のグローバル化に伴う企業の境界の変化について、バイオテクノロジー関連技術を対象に、分析する。本プロジェクトは「バイオテクノロジー研究開発と企業の境界」プロジェクトと平行して行われており、詳細は同プロジェクトに準じる。

2. 研究課題の概要

研究においても生産・販売においてもグローバル化する状況下で、各企業は海外研究開発拠点の設立、海外研究機関やベンチャー企業への研究委託、ライセンシング等、さまざまな形で研究開発活動をグローバル化させている。どのような場合に自ら海外研究するのか、どのような場合に委託するのか、ライセンシングするのか、その要因について数量分析する。本研究により、国際経済政策と知的所有権との関連等、新しい観点からの政策的含意をえることができると期待される。

3. 得られた成果・残された課題

本年度は、「バイオテクノロジー研究開発と企業の境界」プロジェクトと連動して、関連企業、大学、研究所、省庁への聞き取り調査、また、文献や新聞記事検索等による動向調査を行った。この結果の一部は以下の第5項に記したディスカッション・ペーパーに取りまとめられている。さらに、バイオ関連企業約1,700社に対するアンケート調査を実施した。来年度は、この調査の結果を統計的に整理し、有価証券報告書データ、海外事業活動基本調査データ、技術取引データ等も利用しつつ、研究開発のグローバル化を決める要因、技術取引との関係、その成果等についての統計的分析を行う。

4. 特記事項

海外研究開発については、小田切・安田の "The Determinants of Overseas R & D by Japanese Firms: An Empirical Study at the Industry and Company Levels," Research Policy, 25, 1996, 1059-1079. 等いくつかの研究があるが、本研究では、バイオ関連研究に焦点を絞り、海外研究開発を国際技術契約・ライセンシング等と関連させて、幅広く、グローバル化して技術開発活動を分析する点にオリジナリティがある。

5. 論文公表等の研究活動
  1. Hiroyuki Odagiri, "Transaction Costs and Capabilities as Determinants of the R & D Boundaries of the Firm: A Case Study of the Ten Largest Pharmaceutical Firms in Japan" , NISTEP Discussion Paper No.19(2001年9月), Managerial and Decision Economics誌(公刊予定)

研究課題 2
バイオテクノロジー研究開発と企業の境界

小田切 宏之
古賀 款久
岩佐 朋子
伊地知 寛博
安田 英土(客員研究官)
桑島 健一(客員研究官)
本庄 裕司(客員研究官)
和田 哲夫(客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

研究開発における「企業の境界」について、バイオテクノロジー関連技術を対象に分析する。バイオテクノロジー(以下バイオ)を対象とするのは、もちろん一つには、バイオが今後数十年における技術革新の中心的役割を担うと思われ、また日本政府の科学技術政策でも IT と並び重視されていることによる。また、バイオ技術は幅広く応用可能であるため、既存の産業区分を超えて研究・応用されていること、さらに、バイオ技術の進展がこれまでの研究開発モデルを変えつつあることを考えると、新技術の発展が研究開発における企業の境界をどう変化させていくかを研究するために、バイオはもっとも適切な事例を与えてくれるからである。

2. 研究課題の概要

企業はさまざまな活動を行う。それらの活動のうちどこまでの範囲を企業内で行うのか、どこまでを他企業に発注し、委託し、あるいは共同で行うのか。こうした問題は「企業の境界」の問題として幅広く論じられており、こうした企業の境界の問題が研究開発においても重要であることが認識されるようになってきた。伝統的なモデルでは、基礎的な研究を大学等の公的機関が行い、その成果は論文等で公知のものとされて、それらを活用しつつ企業が研究開発を行って応用・製品化すると考えられている。しかし現実には、研究開発における企業の境界も一本の線ではなく、さまざまな形での中間的な活動が行われ、また、中間的な組織が活用されている。例えば、企業間の共同研究・ライセンシング、産学や産官学による共同研究、産官学研究者によるベンチャー設立、等である。本プロジェクトでは、こうした幅広い観点から研究開発と企業の境界に関して研究を進めていく。またこれによって、技術開発政策が及ぼす影響を従来よりも幅広くとらえられることが期待される。

3. 得られた成果・残された課題

本年度は、関連企業、大学、研究所、省庁に聞き取り調査を行い、また、文献や新聞記事検索等による動向調査を行った。この結果の一部は以下の第5項に記したディスカッション・ペーパーに取りまとめられている。さらに、バイオ関連企業約1,700社に対するアンケート調査を実施した。

来年度は、この調査の結果を統計的に整理し、企業の境界を決める要因についての統計的分析を行う。例えば、どのような場合に企業は自社内での研究開発を重視し、どのような場合に共同研究あるいはアウトソーシングするのか、こうした要因について、アンケート調査で得られるデータを有価証券報告書データ、特許データ、統計データ等と組み合わせることにより、数量分析を行う。

4. 特記事項

アメリカではHenderson, Rebecca; Orsenigo, Luigi; and Pisano, Gary P. "The Pharmaceutical Industry and the Revolution in Molecular Biology: Interactions among Scientific, Institutional and Organizational Change"(in David C. Mowery and Richard R. Nelson [eds.] Sources of Industrial Leadership. Cambridge University Press, 1999, 267-311)等のように、医薬品を中心として、研究開発における企業の境界を分析した研究がある。ただしバイオ全般についての企業の境界についての系統的な研究は世界的にも遅れており、とくに日本についての研究は全くない。そのため、アンケート調査による基礎データを得る意義は大きく、それによる統計的研究は世界的にもオリジナリティの高いものとなることが予想される。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 小田切宏之「医薬研究開発における『企業の境界』 - バイオテクノロジーのインパクト」(南部鶴彦編『医薬品産業組織』東京大学出版会(近刊予定)
  2. Hiroyuki Odagiri, "Transaction Costs and Capabilities as Determinants of the R & D Boundaries of the Firm: A Case Study of the Ten Largest Pharmaceutical Firms in Japan" , NISTEP Discussion Paper No.19(2001年9月), Managerial and Decision Economics誌(公刊予定)

研究課題 3
政策形成・研究開発実施過程における産学官のインタラクションに関する研究

伊地知 寛博
1. 調査研究の目的及び性格

産学官の各セクター間の連携・交流に係るシステムの構築に寄与すべく、科学技術政策の形成・執行過程及び研究開発の実施過程における産業界と政府・公的研究機関・高等教育機関とのインタラクションについて、我が国にとって将来的に有効になると思われるシステムに関する含意を得ることを目的とする。本研究は、2000年度まで同名の課題名において科学技術振興調整費(流動促進制度)によって実施されていた研究をさらに進展させるものとして、とくにその本質的課題の一つである利益相反のマネジメント(management of conflict of interest)に焦点を置いて実施する。

2. 研究課題の概要

本年度は、とくに産学官連携に係る利益相反のマネジメントを展開するしくみとしてのベンチマーキングや、研究資金配分に係る(大学を含む)研究実施機関における利益相反のマネジメントのシステムについて、諸外国の状況と日本の現状を把握することとしていた。

3. 得られた成果と残された課題

本年度は、まず、諸外国で検討されている利益相反のマネジメントのあり方につき整理を行った。また、国内については、本年度も「産学連携に伴う利益相反への対応のためのガイドラインの作成?仮想事例に基づくアンケート調査による検討(21世紀型産学連携手法の構築に係るモデル事業)」に協力し、とくに、利益相反のマネジメントについて国内で定着させていく際に重要となる点について示した。具体的には、アンケート調査では、対象者が大別して技術・知識生成者(大学)、技術・知識移転仲介者(TLO)、技術・知識活用者(産業界)となっていたが、利益相反か否かの判断根拠に関するコメント等回答の一部から、「当事者」だけの利益のみを遇しているのではないかと「見える」部分もあることが窺われ、全般的に国民・社会の利益に沿うガイドラインであることの必要性が示唆された。また、共同研究・委託研究や大学発スタートアップへの関与ならびにエクイティに係る点等、日本においてさらに検討を進めていく必要があることが広く認識された。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 伊地知 寛博、「産学間のインタラクションに係る利益相反(conflict of interest)のマネジメント」、産業構造審議会産業技術分科会産学連携推進小委員会 第6回会合、2001年7月19日
  • (他に本研究を通じて協力した成果については、「産学連携に伴う利益相反への対応のためのガイドラインの作成?仮想事例に基づくアンケート調査による検討(21世紀型産学連携手法の構築に係るモデル事業)」、奈良先端科学技術大学院大学(実施)、科学技術政策研究所他7大学・1研究機関・1団体(共同実施)として公表されている。)

研究課題 4
研究開発投資に関する実証分析

古賀 款久
1. 調査研究の目的及び性格

本研究は、産業の研究開発投資に関する様々な問題について、わが国製造業企業のデータを用いて、実証的に検討することを目指す。そこでは、大規模企業とともに、ハイテクスタートアップスにも対象を広げて検討を試みる。とりわけ、分析の関心は、産業部門のイノベーション活動を支援する目的で創設されている諸政策 - 研究開発優遇税制及び技術開発補助金 - にある。本研究では、並行して、諸外国の技術政策について整理することをも目標とする。

2. 研究課題の概要

本研究では、産業の研究開発投資の決定要因に関する実証的な分析を行う。対象となる産業は、わが国製造業であり、企業は、大規模企業、ならびに、科学技術系新規創業企業である。これらの企業を対象として、本研究では、主に、研究開発支援政策の有効性をデータに基づいて検討する。本年度は、一昨年実施したハイテクスタートアップスに関する質問票調査のデータを利用して、ハイテクスタートアップスのパフォーマンスに関する分析を行った。

3. 得られた成果・残された課題

ハイテクスタートアップスの育成は、わが国の重要な課題の一つとなっている。本年度は、ハイテクスタートアップスに企業成長に関わる諸要因について実証的な検討を行った。ハイテクスタートアップスに関する先行研究にならい、本研究でも、企業規模、資金利用可能性等の企業特性を検討した上で、さらに、近年重要となっている産学連携との関係、債務保証制度の利用度、等の要因も考慮した。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 「科学技術系スタートアップ企業の成長の決定要因」日本経済学会秋季大会論文報告 (2001年10月8日: 一橋大学)(共著)
  2. 「わが国製造業における研究開発投資の決定要因」『経済研究』 第53巻 第1号 2002年pp.18-23(共著)

研究課題 5
R & D の経済影響に関する研究

竹下 貴之
1. 調査研究の目的及び性格

昨今では、技術進歩は成長の源泉と位置付けられ、内生的成長理論等、その経済影響に関する研究が盛んに行われている。現状では、数多くの理論モデルが提案され、論争が続いており、未だ定説に達していない。しかも、分析例としては理論分析が大半を占め、実証分析により定量的情報を導いている例は少ない。そこで、 R & D 活動が経済に与える影響に関して、計量経済学的手法を用いて実証分析を行う。なお、本研究は慶應大学経済学部吉野研究室との共同研究である。

2. 研究課題の概要
① 短期・デマンドサイドに焦点をあてた分析

同額でも種類の異なる政府投資の乗数効果を導出するツールとして、多部門計量モデルがあり、旧経企庁でも本格的な多部門計量モデルが開発されている。そこで、先行例を参考にしつつ、家計部門を詳細化した多部門計量モデルを開発する。そして、 R & D 費用データや建設産業連関表等を用いて、多部門計量モデルにインプットし、同額の政府投資を R & D に費やす場合と、従来型公共投資に費やす場合の乗数効果を比較する。

② サプライサイドも考慮した分析

計量分析手法によって、 R & D 投資が、生産性、民間投資、雇用等に与える影響を分析する。

3. 得られた成果・残された課題

上記①については、多部門モデルの構築を終え、専門家からのコメントを得つつ、最終仕上げを行っている。②については、具体的な研究テーマを明確にし、マクロ生産関数の推計を行っている。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 「短期・デマンドサイドに焦点をあてた多部門計量モデルによる政府 R & D 投資の乗数効果の実証分析」(近日発刊予定)

研究課題 6
省エネルギー公共投資のマクロ経済及び産業毎の影響に関する研究

竹下 貴之
1. 調査研究の目的及び性格

省エネルギーは、エネルギー支出の削減分が他の消費や投資にまわることによって景気浮揚効果があるという説がある。ここでは、その効果に注目し、既存住宅の断熱化を公的資金によって進めた場合の、マクロ経済影響、産業毎の影響、CO2排出量への影響について定量的に検討する。

2. 研究課題の概要

同額でも種類の異なる投資のデマンドサイドの影響を分析するツールとしては、多部門計量モデルが知られている。ここでは、省エネルギーを行う部門が民生家庭部門であることから、このツールを用いて定量的検討が可能である。そこで、旧経企庁の多部門計量モデル等の先行例を参考にしつつ、家計部門を詳細化した多部門計量モデルに、エネルギーバランス計量モデルを連結したモデルを構築する。そして、住宅断熱等の工学的データを収集し、定量的検討を行う。

3. 得られた成果・残された課題

研究で用いる、多部門計量モデル - エネルギーバランス計量モデルを開発済であり、専門家からのコメントを得つつ、最終仕上げを行っている。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動

特になし。

研究課題 7
技術導入取引の契約形態の分析

和田 哲夫(客員研究官)
小田切 宏之
1. 調査研究の目的及び性格

技術は、他の財に比べて専有可能性等いろいろな点で異なり、この結果、技術の取引形態も特殊なものとなることが多い。そこで、過去の技術導入データを用い、特殊契約形態を用いる理由や、契約形態の差から生まれる効果に関する経済学上の予想がデータから支持されるか検証し、理論上の知見を得ることを目的とする。

2. 研究課題の概要

特許ライセンス契約には様々な形態があり、ジョイントベンチャーを用いた企業提携の一部としてライセンスが行われる場合がある。そして、特許ライセンスは、既存技術の実施許諾だけでなく、関連ノウハウの移転を伴うことも多い。そこで、クロスライセンスやジョイントベンチャーが併存するライセンスでは、単純ライセンスに比べ企業間知識フローの幅に差異があるかを課題とした。具体的には、ジョイントベンチャーを保有する企業間での契約を含め、1988年から92年の米国から日本への特許許諾契約に記述される米国特許、及びそれら特許を引用する特許(1998年まで)を主な分析材料とした。単純ライセンス、クロスライセンス、ジョイントベンチャーが存在する当事者間でのライセンス、の三種類のライセンス後の、技術分野ごとのライセンシによる引用特許の数と分布を、特許データベースによって計測し比較した。

3. 得られた成果・残された課題

特許引用データを用いた企業間知識フローの分析の結果、特許ライセンスがない企業間に比べてライセンスがある場合には、ライセンサ・ライセンシ間の知識フローが補強されるが、ジョイントベンチャーが存在する場合、ライセンス対象特許の技術分野以外の企業間知識フローも多くなっていることがわかった。この現象は、クロスライセンスの当事企業間でも同様であった。この結果を「研究開発と企業境界」問題として位置付けると、ジョイントベンチャーは外部組織の半内部化であり、外部知識の市場調達コストが高い場合の中間的取引手段と見ることもできる。そして、企業全体の多角化された知識の取引には、ジョイントベンチャーが有用であると解釈できる。ただし、本年度は、観察されたライセンス契約後の引用特許の分布に対する分析しか行っておらず、時系列で見た当事者間の契約頻度や技術提携の期間について分析できていない。今後、ライセンスデータの入力対象となる期間を延長し、時系列の分析を加えられることが望ましい。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. "Equity Joint Ventures and the Scope of Knowledge Transfer between Diversified Firms: Evidence from U.S.-Japan Alliances," paper presented at the 5th Annual Conference of the International Society for New Institutional Economics, Sep. 2001, Berkeley, California, U.S.A.

研究課題 8
OECD等を通じて国際的に比較可能な調和のとれた日本における全国イノベーション調査(National Innovation Survey)に係る調査研究

下田 隆二
小田切 宏之
伊地知 寛博
古賀 款久
岩佐 朋子
富澤 宏之
柿崎 文彦
俵 裕治
小笠原 敦
宮本 久
後藤 晃 (客員研究官)
丹羽 冨士雄 (客員総括研究官)
永田 晃也 (客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

国際的な動向を勘案しつつ、日本においても、EUメンバー国及び非EUの主要なOECD加盟国によって実施されている現行の「全国イノベーション調査」(EUでは、「第3回共同体イノベーション調査(CIS-3)」と呼ばれる)にできるかぎり準拠した、国際比較可能な、そして国際的に調和のとれた、全国的なイノベーション調査を実施することを前提として適切な準備を行うことが、本調査研究の目的である。なお、このようなイノベーション調査を実施することは、科学技術・イノベーション政策の形成・執行に資するために、イノベーションの現状を観察する基礎的統計として、国際比較可能な全国的・包括的なデータを把握することへのニーズが高まっていることによる。また、産業界においても、その戦略形成のために基礎的データとして活用されることが期待される。

2. 研究課題の概要

CIS-3を踏まえて、日本独自の項目を含む調査票の設計、調査方法の検討、国内外の関係各機関との意見交換や調整・事前調整を実施する。

3. 得られた成果と残された課題

調査票については、CIS-3を踏まえ、国際比較可能性等に留意しつつ、日本版として調査を実施することが適切と考えられる質問事項を概ね定めた。調査方法についても、調査対象の範囲や層化抽出の方法等を含めて具体的に検討して概ね定めた。

4. 特記事項

年度当初は、第1研究グループを核とするメンバーによって実施されていた。2002年度に実施を予定している「全国イノベーション調査」につき、所内外関係者による十全の体制を構築し、必要な検討・準備作業及び関係方面との協議・調整を的確に進めるべく、2002年1月に、「全国イノベーション調査実施準備プロジェクトチーム」が所内に設置され、体制が拡大された。

5. 論文公表等の研究活動

2001年度は特になし。なお、本年度の調査研究の成果は、2002年度に実施される予定の「全国イノベーション調査」の調査票ならびに調査方法論として活用されることから、それら自体を公表される一種の成果物とみなすこともできる。なお、関係機関との調整が進展した段階では、「全国イノベーション調査」は統計調査であるということもあり、(個票データではなく)調査の内容について積極的に公表していく予定である。

(2)第2研究グループ

研究課題 1
科学技術政策システムのarticulation(機能分化と再統合)

小林 信一
中山 保夫(客員研究官)
齋藤 芳子
1. 調査研究の目的及び性格

最近20年位の世界的な科学技術政策の変動を理論的、実証的に跡付け、科学技術政策の革新の方向性を探る。

特に、この間の変化を、科学技術政策システム(政策主体、研究主体、これら相互間の機能的連結や中間的組織の全体)の再編過程、すなわち、科学技術政策に関わる機能の分化と再統合の過程として捉え、概念化した上で体系的に整理する。

また、近年国際的に顕著になってきた、科学技術活動、科学技術政策と社会経済的ニーズ・目標と関係の重視の傾向に着目し、その理論的背景、海外の動向や事例の調査を行い、我が国の科学技術政策の立案の参考になる知見を得る。

2. 研究課題の概要

最近20年間の科学技術政策が世界的な変動期にあることは誰もが認めるところである。さまざまな変化が生じたが、それらの変化を一貫した変化として捉えることが必要である。

変化の時代には、変化が生じる以前の時代の概念体系によって、変化を理解しようとする傾向がある。そのために、変化の本質が正しく理解されない場合が多い。相応しい概念が存在しないということは、現実世界における制度も、前時代の制度の延長として設計される等、バイアスのかかったものとなっている可能性が高い。

このような状況下では、従来未分化であった諸機能の分化と既存の機能との間で機能の再定義、諸機能の再統合が進み、次第に新しい制度が成立していく。これが制度進化である。このような制度進化を理解し、導くためには、適切な概念の創出も必要となる。

具体的な例に即して述べるならば、研究組織と研究助成の両面性を持つ流動的組織とそれを支える流動的人材が、次第に科学技術活動の主要な担い手になってきているという事実がある(ERATO、CREST等)が、これは従来の固定的な研究組織、研究助成、研究者の概念を逸脱している。しかし、こうした活動は、かなりの資金規模になっているだけでなく、研究活動の実質面では国全体の活動の中心的な役割を果たすようになってきており、もはや仮の姿として捉える段階ではない。

また、大学が競争的資金の獲得や産学連携に取り組む一方で、産業部門に対する政府の資金援助がもっぱら「提案公募型」で行われるようになっている。「提案公募型」の資金獲得、研究助成は、本来基礎的研究活動の分野で発展してきたモデルである。しかし現在では、中小企業に対する補助金(SBIR等)もそうしたモデルに準じたものになってきている。大学の行動が産業化し、企業の行動が大学化するという動きだと理解することもできる。だとすれば、大学、企業の機能的な再定義が必要である。

こうしたさまざまな変化、従来の概念体系とは必ずしも適合しないような変化を、科学技術政策システムにおけるarticulationの変化として捉え、概念的、理論的に検討する必要がある。そのような活動を通じて、現実の制度に対する提言も可能となる。

3. 得られた成果・残された課題

冷戦後の科学技術システムの変遷に関する調査を行い、さらに、欧米を中心としたその背景となる新たな科学技術政策論、科学技術論を調査・分析し、考察を行った。また、科学技術システムの変化を如実に表す幾つかの事例を対象として研究を実施した。

これまでの成果の集大成を、NISTEP国際シンポジウム'02に盛り込むべく企画し、2月28日、3月1日の両日に実施した。今後は、(1)社会経済的ニーズと研究ポテンシャルとのarticulation、(2)大学と社会のarticulation、(3)科学技術活動の中間組織と科学技術制度、(4)研究評価の新展開、(5)理論的研究 についてさらなる検討を進め、科学技術政策システムの変容の分析を行い目的の達成に向けた研究活動を実施する。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 小林 信一、知識社会の大学『高等教育研究』4号、pp.19-45、2001.04
  2. 小林 信一、レギュラトリ・サイエンスの必要性、日本リスク研究学会『第14回春期講演シンポジウム講演予稿集』pp.6-13、2001.06
  3. Jiang Wen, Shin-ichi Kobayashi, Exploring collaborative R&D network: some new evidence in Japan, Research Policy, 30, 8, pp.1309-1319, 2001.10
  4. Jiang Wen, Shin-ichi Kobayashi, An Organizational Approach to Coping with the Paradox between Individual Career and Collective Research in Japan International J. Technology Management, 22, 7/8, pp.794-810, 2001.10
  5. KOBAYASHI,S., International Mobility of Human Resources in Science and Technology in Japan, pp.109-124, International Mobility of the Highly Skilled, OECD, 2002.01
  6. Shin-ichi Kobayashi, "New Articulation of Science and Technology Systems in the 21st Century", NISTEP International Symposium '02, Tokyo, Japan, pp.5-15, 2002.02-03

研究課題 2
研究開発に関する会計基準の変更と企業の研究開発行動

小林 信一
吉澤 健太郎
1. 調査研究の目的及び性格

会計基準の国際化に伴い、企業会計基準の改定が平成10年に行われ、研究開発およびソフトウェアに関する会計基準も変更された。新しい会計基準は、平成11年4月以降に始まる事業年度から適用されることになり、平成12年3月の決算から移行していることになる。この変更は、企業の研究開発会計に影響を及ぼすばかりでなく、間接的には企業の研究開発行動にも影響を及ぼすものと予想される。さらには、研究開発会計に基づいてデータが収集されている科学技術研究調査にも影響が及ぶものと考えられ、科学技術政策の基礎的指標を提供し、国際比較にも用いられているのでその影響は甚大であり、本調査研究において研究開発に関する会計基準の変更がどのような影響を及ぼしているのか、今後どのように及ぼしうるのかを明らかにする。

2. 研究課題の概要

新しい会計基準に伴う影響として(1)企業の研究開発会計への影響、(2)企業の研究開発行動への影響、(3)科学技術研究調査への影響、などが考えられる。(1)には、会計基準の変更事項に、研究開発の範囲の明確化、研究開発費の費用処理化などがあるため、製品化に近い研究開発のある部分が研究開発として扱われなくなり、従来繰延資産として扱ってきた研究開発費のかなりの部分が発生時の費用として扱われる、などの変化が予想される。その結果、企業の研究開発費は、会計上の連続性を失う可能性が高い。(2)の例として、単年度で費用処理されることから、景気の良い時には長期的な研究開発を指向し、景気が悪い時には短期的な研究開発を指向する、といった傾向が生じるかもしれない。また、研究開発を外注すれば従来のように資産処理できる場合があることから、研究開発の内生化、外生化の選択にも影響を及ぼすと予想される。このように、会計基準の変更は、企業の技術経営の面でも検討すべき課題である。(3)は、企業の研究開発会計に基づいてデータが収集されている科学技術研究調査の結果には、当然、影響が及ぶものと考えられる。前倒しで実施している企業もあるので、平成11年調査から平成12年調査が過渡的段階を反映したデータとなり、その前後でデータの断絶が生じる可能性が高い。

3. 得られた成果・残された課題

調査に必要不可欠なヒアリングと、平成12年度までの有価証券報告書データ、日経会社情報等のデータについて調査した。この結果、前述等の影響がない企業もあるが、影響がないと思われているような企業でも詳しくヒアリングすると、それなりの影響についてうかがい知る事ができた。現在までのインタビュー調査の(2)の項目について、多くの企業は必要に応じた研究を追求していることもあり、会計基準の変更による影響のあった企業にあたっていない。しかし、ある程度大きな規模の企業では、研究の必要性が少なくても社会的責務の観点から研究を実施しなければならないことに言及されていることから、間接的な影響がある可能性も拭いきれない。企業にとって影響金額が少ない場合でも、統計上大きな意味合いを持つ場合があり、今後アンケート調査を行い、影響についての把握を試みる。

4. 特記事項

影響を分析する上で、平成11年から平成13年の期間に公表された企業の決算資料や、科学技術研究調査報告についての検討は欠かせない。さらに、民間企業だけでなく公的部門(独立行政法人等)においても研究開発会計は重要となりつつあることから、より視野を広げて検討する必要がある。

5. 論文公表などの研究活動
  1. 吉澤 健太郎, 富澤 宏之, 齋藤 芳子, 小林 信一, 「企業会計基準の変化と R & D - 予備調査から」, 研究・技術計画学会第16回年次学術大会・講演要旨集, pp.221-224.8

研究課題 3
科学技術国際協力に関する研究

小林 信一
川崎 弘嗣
1. 調査研究の目的及び性格

科学技術国際協力の実態を、国際比較の観点に配慮しつつ明らかにし、問題点、評価の枠組み等を検討することを通じて、科学技術の国際戦略策定のための基礎的知見を得る。同時に、OECD GSF(グローバル・サイエンス・フォーラム)等の当該問題に関する国際的議論に資する。

2. 研究課題の概要

国際科学技術協力のベストプラクティスを得るため、(1)日本の科学技術における国際的研究開発プログラムの実態と事例研究プログラムの位置付け、及び(2)事例研究プログラムの分析とベストプラクティスの抽出を行う。事例研究プロジェクトとしては、HFSP、HGP、IMS、IPCC、HEPを調査対象とする。これらの調査研究は、海外グループとの調整、比較を行いながら進める。

3. 得られた成果・残された課題

まず上記の(1)については、日本における科学技術の国際協力関係経費を見積もるためのデータ収集、経費の推計、研究分野の分類等、資金面の現状分析を行うための基礎的データを収集した。(2)については、国際協力プロジェクトの開始から運営に至る各プロセスを整理し、体系的な枠組みの概念を検討し、事例研究プログラム分析を行うためのヒアリング調査に着手した。今年度の成果は、Preliminary studyとしてOECD GSFの場で報告した。

今後、事例研究プロジェクトのヒアリング調査を進め、プログラムの分析とインプリケーションについて整理し、まとめていく。
4. 特記事項

本研究は、OECD GSFにおける国際科学技術協力調査の活動と連動して進められており、日本側の研究調査は政策研が中心になって実施している。

5. 論文公表等の研究活動
  1. "Japan's Study on International Co-operation for Science and Technology", Paris, OECD GSF, 31 January 2002 の資料作成に協力

研究課題 4
科学技術指標の機能及び有効性の向上に関する研究

富澤 宏之
1. 調査研究の目的及び性格

科学技術指標の国際比較可能性の向上、及び科学技術政策上の有用性・有効性の向上を目的として、理論的に検討するとともに、実際に指標の改良及び開発を行う。

2. 研究課題の概要

我が国の科学技術指標の開発は、従来、科学技術活動の定量的把握に重点が置かれ、国際比較可能性や科学技術政策上の有用性・有効性については必ずしも重視されていなかったため、一層の向上の余地、必要性がある。

そのため、本研究では、研究開発指標の国際比較可能性の向上について理論的な検討、あるいはOECDの科学技術指標専門家(NESTI)ワーキンググループに参加している各国の専門家との議論を通じて問題点を明らかにする。また、各国の研究開発指標の作成方法を詳しく比較し、研究開発指標の国際比較可能性上の問題点を明らかにする。指標の科学技術政策上の有用性・有効性の向上については、行政部局と協力し、政策策定上のニーズを中心として現状の分析を行うとともに、実際にいくつかの指標の改良及び開発を行う。

3. 得られた成果・残された課題

OECDによって研究開発人材の測定方法として勧告されているFTE(フルタイム換算)について、理論的な面から再検討するとともに各国における統計の実態を調査し、国際的な基準のあり方を検討した。その結果、現在の国際基準自体に理論上の問題があることが明らかとなり、OECDの国際基準に関する専門家部会において、問題点と改善案を報告した。また、研究開発の国際化に関する指標として最近、よく用いられている科学論文の国際共著割合に関して、国際比較可能性の問題があることを数理的なモデルに基づいて明らかにした。さらに、指標の科学技術政策上の有用性・有効性の向上については、政策策定上のニーズを明らかにする試みを行い、それに基づき実際にいくつかの指標の改良及び開発を行った。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. MASASHI SHIRABE, HIROYUKI TOMIZAWA, "Likelihood of overseas access to international co-authorships," Scientometrics, Vol.53, No.1, 2002, pp.123-129.
  2. Hiroyuki Tomizawa, "Measurement of FTE on R&D: Revision of the Frascati Manual Topic 16", DSTI/EAS/STP/NESTI(2001)14/PART16, Working Party of National Experts on Science and Technology Indicators, Committee of Science and Technology Policy, OECD, Rome, 2001.

(3)第1調査研究グループ

研究課題 1
国際級研究人材の養成・確保に関する調査研究

小嶋 典夫
鈴木 研一
和田 幸男
小泉 勝利
中島 志円
大貫 佐知子
1. 調査研究の目的及び性格

平成13年3月30日に閣議決定された第2期科学技術基本計画では、我が国が目指すべき姿の一つとして「知の創造と活用により世界に貢献する」との基本理念が掲げられた。その具体的な目標として「ノーベル賞に代表される国際科学賞の受賞者を欧州主要国並に輩出すること(50年間にノーベル賞級受賞者30人程度)……を目指す。」と定められており、国際級の科学賞を受賞できる研究人材(国際級人材)をいかにして養成・確保するかがわが国の早急に取り組むべき課題である。

2. 研究課題の概要

我が国における国際級褒賞受賞者数は欧米に比して少ない現状にある。欧米並みの水準を目指すためには一定数以上の国際級人材が必要と考えられる。このため国際級人材の欧米主要国及び我が国の比率を明らかにすることを目指す。

また、国際級人材を生み出す教育環境及び研究環境を、明らかにし、国際級人材輩出のために我が国が目指すべき研究環境整備の方向性を示す。

3. 得られた成果・残された課題

さまざまな統計を用いて研究者数の欧米との比較評価を行った。具体的には、研究者の注目度を示す指標のひとつとして、学術論文の他の研究者に引用される回数(論文被引用度数)が知られているが、ノーベル賞受賞者等国際級研究者の被引用度数や、科学技術17分野の論文被引用度数を分析し、国籍別の数量比較を行った。また、世界各国の権威ある学会の外国人会員登録数や、権威ある国際賞受賞者の国際比較を行っている。

平成14年度には、教育環境・研究環境の調査を行う。これに関しては、まず米国及び欧州で活躍中の日本人研究者に対し聞取り調査を行い、欧米の研究環境、教育環境の現状及び日本との環境の相違点について明らかにする。その後、具体的な政策提言に繋がる調査を行う予定である。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動

「国際級研究人材の国別分布推定の試み」(仮題)を調査資料として2002.7に公表予定

研究課題 2
創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方(Ⅱ)
これからの少子高齢社会における研究者社会のあり方

和田 幸男
小嶋 典夫
1. 調査研究の目的及び性格

本調査研究は、我が国全体の様々な環境における創造的な研究者・技術者等のライフサイクルの確立に向けた、現状と今後のあり方を調査、研究する。調査対象範囲は、広く創造的研究者のライフサイクル(研究生涯)に係わる、若手から中高年研究者までの実態把握と今後のあり方を検討するものである。そのため本調査研究の主要なポイントは、以下の5つの観点となる。

  1. 将来の流動促進環境下における産学官研究者・技術者のライフサイクルに係わる、広義の人材流動視点においての現状把握と今後のあり方。
  2. 研究職種間異動の現状と今後のあり方。
  3. 研究基盤・環境にとって重要な研究支援者、研究補助者の現状と今後の育成・確保のあり方。
  4. 産学官各研究機関群別の人材流動関連の現状特性把握と今後のあり方。
  5. 個々の研究者の研究ライフサイクルにおいて創造的で、活力ある研究活動ができ、多様な選択肢のある研究者社会のあり方。これらの観点から本調査研究では、研究者・技術者等のライフサイクル上の様々な視点における詳細な調査研究を行うものである。
2. 研究課題の概要

前調査研究(I)では、上記1)〜4)の項目について、様々な流動視点における現状と創造的研究者・技術者を育成・確保するための望ましいライフサイクルの確立に向けた今後のあり方等を調査研究した(「創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方」 - 科学技術人材の流動化促進に係わる調査研究 - 、和田幸男、科学技術政策研究所 調査資料 - 72、2000年9月)。本研究課題(II)では、前調査研究(I)の結果を受け、主に上記5)の項目について、創造的な研究開発成果を生み出す事を最大の眼目とし、研究者・技術者の研究開発能力と年齢的な能力推移について調査研究する。そのため、若手及び中高齢研究者・技術者を含めた研究者社会全体の今後のあり方等を検討することになる。

3. 得られた成果・残された課題

学官の大学及び独立行政法人研究機関における中高齢研究者(40才以上)、約3,700名に対しアンケート調査し、これまでの研究活動歴、研究活動環境、研究成果及び自己評価による自身の総合的な研究能力と年齢的な推移及び専門分野別の差異等の実証データを得ることができた。

今後、これらのデータを解析評価し、考察するとともに政策提言を行う。

4. 特記事項

学官の40歳以上の研究者約3,700人に及ぶ研究能力の年齢的な推移に関する調査は、これまでほとんどない。

5. 論文公表等の研究活動

特になし。

研究課題 3
博物館・科学館における科学技術の理解増進に関する調査研究

小泉 勝利
小嶋 典夫
1. 調査研究の目的及び性格

IEA(国際教育到達度評価学会)の国際共同研究調査の一つである「第3回国際数学・理科教育調査」(TIMSS)及び同調査の第2段階調査(TIMSS-R)の結果を見ると、点数では数学、理科ともに上位グループに位置しているものの、好き・嫌いについての質問では、好きである度合いが世界で最下位グループに位置していることから、若者の数学・理科に対する関心の低下が伺える。

今後の日本が科学技術創造立国により発展していくためには、研究者や技術者を育成していくことは当然であるが、それだけでなく国民全体がより一層科学技術への興味・関心を持ち、正しく理解していくことが重要である。そのためには、子どもの頃から科学技術への興味・関心を持たせる必要がある。その大きな役割をもっているのは学校、家庭及び社会である。特に、博物館、科学館等(以下、本報告書では「博物館」という)はあらゆる年代の国民が利用でき、重要な役割を担っている。しかし、来館者数の減少や博物館の職員(学芸員等)の不足等の問題も抱えており、その重要な機能の一つである普及・教育(国民への理解増進活動)が十分とはいえず、今後の重要な課題となっている。

2. 研究課題の概要

「博物館・科学館等におけるインタープリター人材に関する研究会(当時の名称)」を設置し、調査方法等について検討し、その結果に基づきアンケート調査票を作成した。事前調査として10カ所の博物館でヒアリング調査を行った。

その後、全国科学博物館協議会及び全国科学館連携協議会の加盟館310館を対象にアンケート調査した。調査内容は理解増進活動を担う人材についての現状と理解増進活動の問題点、展示物や展示方法、その運営全般についての現状と問題点、学校との連携についての現状と問題点等についてであった。

3. 得られた成果・残された課題

217の博物館等及び470人の理解増進業務に従事する職員から回答が得られた。

現在回答について集計し、内容を分析中である。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動

報告書作成中(2002年7月発行予定)

研究課題 4
第5版 科学技術指標に関する調査研究

第5版 科学技術指標検討チーム
1. 調査研究の目的及び性格

本研究は、多様かつ複雑な科学技術活動を定量的データに基づき、総合的・体系的に分析・評価することで、世界における日本の科学技術の水準を明確にし、今後の科学技術政策の企画・立案に資することを目標とする。

2. 研究課題の概要

科学技術指標については平成3年度に最初の報告書を作成して以来、ほぼ3年ごとに改訂を行ってきており、2000年に第4版科学技術指標を発行した。本年度は、科学技術指標の基となる多くのデータを収集している、科学技術研究調査(総務省調査)の見直しに際し、科学技術指標作成に役立てるための要望を取りまとめるとともに、その際に検討した内容を整理し、報告書にまとめた。また、第5版以降の科学技術指標の検討に資するため、諸外国の指標の歴史と現状を整理し報告書を取りまとめた。

3. 得られた成果・残された課題

2003年4月の第5版科学技術指標作成に向け調査研究を継続中である。

4. 特記事項(研究のオリジナリティ・その他)

多様かつ複雑多岐にわたる科学技術活動を、定量的データに基づき総合的・体系的に分析・評価する本指標は、国内では当研究所以外で開発しているところはない。また、国外では、欧米や一部の開発途上国で取り組まれているが、理論と実証の両面から体系的に取り組んでいる点で国際的にも数少ないものといえる。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 第4版科学技術指標(英語版)(2001年4月)
  2. 科学技術指標統計集(2001年改訂版)(2001年5月)
  3. 小嶋 典夫、小林 信一、伊地知 寛博、富澤 宏之、池田 秀明、中島 志円、下田 隆二、吉澤 健太郎、柿崎 文彦、丹羽 冨士雄 「『科学技術研究調査』の見直しについて - 科学技術研究調査研究会に対する科学技術政策研究所の対応 - 」、調査資料 - 79(2001年6月)
  4. 小林 信一、伊地知 寛博、富澤 宏之、池田 秀明、小嶋 典夫、中島 志円、下田 隆二、吉澤 健太郎、柿崎 文彦、丹羽 冨士雄 「「科学技術研究調査」の見直しへの対応 - 検討と提案」、研究技術計画学会 第16回年次学術大会講演要旨集、pp. 217-220.
  5. 中島 志円、小嶋 典夫 「科学技術指標の比較 - 科学技術指標の概要と史的展開 - 」調査資料 - 85(2002年3月)

(4)第2調査研究グループ

研究課題 1
先端科学技術をめぐる法的諸問題

辰井 聡子(客員研究官)
永野 博
下田 隆二
大沼 清仁
1. 調査研究の目的及び性格

遺伝子工学を中心とした近年の生命科学技術の急速な発展は社会に多大な貢献をなし得るものと期待される反面、国民の間に漠然とした不安も喚起している。本調査研究は、将来の包括的な法整備の必要性を視野に入れ、生命科学技術の発展に伴う法政策のあり方について基礎的な考察を行うものである。

2. 研究課題の概要

当グループでは、科学技術の進展が社会にもたらす変化をめぐる法的問題を取り上げている。本年度は昨年度に引き続き、関連の法学諸分野の専門家(行政法、医事法、民法、刑法等の大学研究者、弁護士)からなる「先端科学技術をめぐる法的諸問題研究会」を組織し、議論、検討を行った。

さらに、先端生命科学技術全般の法的・行政的規制を考える際に避けてとおることのできない基礎的な問題の検討を行うため、行政法、医事法、刑法、法哲学の若手専門家からなる「先端生命科学技術の規制に関する法的問題研究会」を組織し、議論検討を行った。

3. 得られた成果・残された課題

「先端科学技術をめぐる法的諸問題研究会」では、昨年度から延べ8回にわたり研究会を行い、科学技術の進歩に伴って惹起されつつある法的問題を多角的な見地から検討した。とりわけ、遺伝子科学技術は生命現象の根幹に触れるものであるため、各種の倫理的・法律的・社会的問題が生起しつつあるところ、各構成員により研究成果が取りまとめられた。

「先端生命科学の規制に関する法的問題研究会」では、① 規制の現状と問題点、② 倫理的問題に関する政策決定のあり方、③ 行政ガイドラインの問題点、④ 法的な規制の諸態様、⑤ 刑事的規制のあり方、について検討を行い、研究会としての見解を取りまとめた。

本課題は技術の進歩とともに新たな問題を引き起こしていく可能性があるため、行政関連部局とも連携を取りつつ継続的な取り組みが必要な課題である。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 高橋 滋、棚村 友博、磯部 哲、辰井 聡子、山口 斉昭、野村 武司、富田 清美、小林 雅人、斎藤 誠「特集 ゲノム応用時代の技術と法」、法律時報909号PP.4-57(2001.9)
  2. 「遺伝子科学技術の展開と法的諸問題」POLICY STUDY No.8(2002.3)
  3. 辰井 聡子「先端生命科学技術の規制に関する法的問題の検討」(仮題)をPOLICY STUDY として2002.7に公表予定

研究課題 2
科学技術の公衆理解に関する研究

岡本 信司
丹羽 冨士雄(客員総括研究官)
清水 欽也(客員研究官)
杉万 俊夫(客員研究官)
永田 素彦(客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

本研究は、科学技術の公衆理解に関して、科学技術全般のみならずライフサイエンス、宇宙開発、マルチメディア等個別分野について、一般国民や科学技術専門家を対象とした意識調査等を実施して、統計的手法等を活用した分析評価を行うことにより、公衆理解に関する問題点を抽出し、その結果を踏まえて、科学技術に対する不安、不信感を払拭するための具体的な理解増進方策に関する政策提言を行い、科学技術に対する理解の増進を図ることを目的とする。

2. 研究課題の概要
(1)研究基盤整備

国内外の研究者ネットワークの構築とデータセンター機能の確立等による研究基盤の整備

(2)国民の科学技術に関する意識調査の実施
  • ① 科学技術一般に関する意識調査
    • 科学技術への関心、理解度(リテラシー)等に関する一般国民への意識調査の実施・分析
  • ② 個別分野別意識調査
    • ライフサイエンス、宇宙開発、マルチメディア等の個別分野に関する一般国民への意識調査の実施
  • ③ その他
    • 専門家、有識者等への意識調査の実施
(3)科学技術理解増進方策の検討

(2)の意識調査結果を踏まえて具体的な理解増進方策を検討

(4)国際協力及び国際共同研究の実施

国際研究グループとの積極的協力、国際共同研究の実施

3. 得られた成果・残された課題

平成12年度に実施した「科学技術に関する意識調査」の分析を行い、学会発表及び報告書をとりまとめた。今後、詳細分析を行う予定。

4. 特記事項

これまで当研究所において、「日・米・欧における科学技術に対する社会意識に関する国際比較調査」をはじめ多くの関連研究を実施してきた経緯あり。

また、研究協力者として参画している文部省科学研究費補助金基盤研究「科学教育システムに関する国際学術調査」(平成11〜13年度)との連携を図る。

なお、平成13年度文部科学白書に一部調査結果が掲載された。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 岡本 信司、丹羽 冨士雄、清水 欽也、杉万 俊夫「科学技術に関する意識調査 - 2001年2〜3月調査 - 」NISTEP REPORT No.72(2001.12)
  2. 岡本 信司「国内外の科学技術に関する意識調査の状況について」調査資料81(2001.12)
  3. 岡本 信司「国民の科学技術に関する意識について」国立教育政策研究所理科大好き支援事業研究セミナー(2002.3)
  4. OKAMOTO Shinji、NIWA Fujio、Public Understanding and Popularization of S&T in Japan、October 2001、3rd Japan-Korea Science and Technology Forum in Seoul, Korea(2001.10)
  5. 岡本 信司「科学技術に関する国民意識の分析」研究・技術計画学会第16回年次学術大会(2001.10)
  6. 清水 欽也、岡本 信司、久米川 真紀「我が国の一般成人の科学・技術理解と中等理科教育」日本科学教育学会第25回年会(2001.8)

研究課題 3
科学技術情報に関する研究

大沼 清仁
平野 千博(客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

科学技術情報のほとんどはマスメディアによって伝えられるが、主に科学技術を扱う科学雑誌については休刊、廃刊が相次いでいる。国民各層が科学技術に関する情報を得て理解するために科学技術情報の総合的な雑誌が果たす役割、伝える内容等について調査研究し、科学技術情報の発信のあり方について考察する。

2. 研究課題の概要

科学技術情報を扱う総合雑誌の発行部数、購読者層、購読者の関心事項等を出版社の資料等から調査するとともに、科学技術の特定の分野に関する雑誌やパソコン関連雑誌等科学関連分野情報誌の発行部数等を調査し、両者の関連を考察する。新たな情報メディアの登場、国民の関心の多様化が進展する中で、科学技術情報総合誌に期待する役割、果たすべき役割を読者や編集者に聞き取り調査を実施し、科学技術情報を効果的に発信する方策について検討する。

3. 得られた成果・残された課題

国民は科学技術情報を主にテレビ、新聞から得ており、雑誌については低位であり、科学雑誌の発行部数は伸び悩み、購読者層は高齢化現象が進展している。一方で科学技術情報誌の一角に位置付けられるコンピューター関連の雑誌は急速に発行部数を伸ばしているほか、特定の分野の雑誌は固定的な読者層をつかんでおり安定した動きを見せている。日米間では科学雑誌の発行部数に大きな差があり、国民の科学技術へのニーズの違いが見受けられる。また、日本には科学ジャーナリスト、サイエンスライターを養成する講座がないため、情報を伝える側の数と質についても差があるとの指摘がなされている。また、インターネットの普及により情報へのアクセスが容易になっており、新たなメディアとしての期待が高まっているが、これまでのメディアによる情報が編集されたものであるのに対してインターネット情報は編集されていないことから、情報の確度が十分とはいえないこと、情報へのアクセスの仕方によっては発信側が伝えたい情報が伝えられない可能性があること等懸念材料もある。

日米間に情報を伝えるメディアに格差があることから、米国をはじめとする諸外国について科学技術情報とメディアについて調査する必要がある。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動

「科学技術情報に関する調査」(仮題)を調査資料 として2002.7に公表予定

(5)第3調査研究グループ

研究課題 1
地域における科学技術振興に関する調査研究(第5回調査)

柿崎 文彦
岡 精一
向山 幸男
権田 金治(客員総括研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

都道府県、政令指定都市における科学技術振興施策を体系的に把握し、科学技術関係経費の分析を行うことにより、国及び地方公共団体の科学技術施策の担当部局における科学技術政策の策定と実施・推進等に資することを目的とする。

2. 研究課題の概要

地域における科学技術振興の重要な担い手である、都道府県、政令指定都市の平成11(1999)年度における各地方公共団体で実施された科学技術に関連する事業、及び経費の決算額を調査票調査により把握した。その基礎資料について、詳細な分析を行い取りまとめた。

3. 得られた成果・残された課題
  • 地域における科学技術関係経費は前回(平成9年(1997)年度)に比べ約9% 減少した。
  • 公設試験研究機関の経費が総額の約46% 、理科系高等教育機関の経費が約33% であり、前回調査時と比べそれぞれ約9% 、約12% 減少した。
  • 地域科学技術関係経費に占める国庫支出金の割合は約5% である。
  • 地域科学技術関係経費のうち施設整備費の割合は約17% である。
  • 地方公共団体に設置される公設試験研究機関における研究課題について59団体のうち49団体が何らかの形で評価を実施している。しかし、公設試験研究機関の機関評価については13団体で実施されているのみである。
4. 特記事項

今回の調査においては、過去4回の調査との継続性に配慮し、地域における科学技術振興施策を12の事業性格別に分けることにより調査精度の向上に努めた。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 柿崎 文彦、新舩 洋一、森川 晴成、渡辺 俊彦、向山 幸男、権田 金治「地域における科学技術振興に関する調査研究(第5回調査)NISTEP REPORT No.70 (2001.7)
  2. 新舩 洋一、「地方公共団体が設置する公設試験研究機関における研究課題評価の仕組みに関する一考察」DISCUSSION PAPER No.18(2001.9)
  3. Seiichi OKA,"Knowledge-based Clusters in Japanese Regional Innovation Systems", The 3rd Korea-Japan Science and Technology Forum,Seoul,Korea,Oct.31-Nov.2,2001

研究課題 2
地域における科学技術振興に関する動向調査

岡 精一
柿崎 文彦
俵 裕治
向山 幸男
1. 調査研究の目的及び性格

都道府県及び政令指定都市における科学技術関係経費(最終予算ベース)を分析し、地域における科学技術振興施策の実態を把握するとともに、国及び地方公共団体における科学技術施策の策定・推進のための基礎資料を提供する。

2. 研究課題の概要

都道府県及び政令指定都市は、地域における科学技術振興の重要な担い手となっている。また、第2期科学技術基本計画の重要施策の一つに地域科学技術振興が含まれ、公的な科学技術投資に地方自治体分が明示的に含まれることからも、地方自治体の科学技術関係経費(最終予算ベース)の分析は重要である。科学技術・学術政策局が実施した「都道府県等における科学技術関係予算調査」によって収集した基礎データの提供を受け分析を行った。

3. 得られた成果・残された課題

「都道府県等における科学技術関係予算調査」における調査票は、当グループが実施した「地域における科学技術振興に関する調査研究(第5回調査)」をベースに作成されたものである。来年度は本調査データとこれまで実施した第1回〜第5回調査(決算ベース)との比較を実施し、更に分析を進める。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動

特になし。

研究課題 3
地域における科学技術振興施策の変遷に関する調査研究(第1回〜第5回調査)

岡 精一
柿崎 文彦
向山 幸男
権田 金治(客員総括研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

都道府県、政令指定都市における科学技術振興施策と科学技術関係経費に関する経年的変化の分析を行うことにより、国及び地方公共団体における科学技術政策の策定及び評価等に資することを目的とする。

2. 研究課題の概要

当研究所では、これまで「地域における科学技術振興に関する調査研究」を平成2(1990) 年度から5回実施してきた。この間地方公共団体における科学技術振興施策を取りまく経済的、社会的環境は大きく変化してきている。そこで、これまで収集、分析した地方公共団体の施策及び経費についてその変遷を遡り、比較検証を実施した。

3. 得られた成果・残された課題

都道府県の9割以上に相当する45団体において、① 科学技術政策専任部署の設置、② 協議会等の設置、③ 審議会等の設置、④ 大綱等の策定のいずれかが実施済みとなっており、地方公共団体において科学技術行政を総合的に推進するための体制の整備は進展している。

過去5回の傾向から、公設試験研究機関の経費の割合が67% から46% に減少、一方で、理科系高等教育機関に係る経費は19% から33% に増加した。

4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動

特になし。

研究課題 4
地域における研究開発型企業の産学連携に関する調査研究

柿崎 文彦
岡 精一
俵 裕治
向山 幸男
1. 調査研究の目的及び性格

産学連携活動は、公的な研究開発投資の社会還元における重要な過程であり、この過程を通じて特に研究開発型企業のパフォーマンスは、公的なセクターで得られた知的成果を経済効果として価値を変換する過程であり、特に地域を視点とするイノベーション活動については、実証的な調査研究が必要になっている。

2. 研究課題の概要

国内外の地域における産学連携についての文献調査、国内外の地域において実施されている産学連携の担当者との意見交換、講演会の開催を通じ、産学連携における研究開発型企業の特性の概要を把握するとともに、大学等の公的な機関を介する地域イノベーションの実証的分析に向けた基礎的調査を行った。

3. 得られた成果・残された課題

国内外の文献収集、専門家・実務家からの意見聴取に基づき、大学・研究機関を核とする産学連携、並びに地域イノベーション・システムのモデルを作成した。今後は、そのモデルを出発点に、多様な地域における産学連携等の成功事例の要因について理解を深め、地域における研究開発型企業のパフォーマンスについて理解を深める予定である。

4. 特記事項
  1. 国内専門家による講演会の実施
    1. 小山康文(岩手大学地域共同研究センター助教授)、「大学からの産学連携 - 岩手モデル - 」
    2. 飯塚尚和(宮城県産業技術総合センター所長)、「地方公設試におけるマネジメントシステムの構築」
  2. 海外の産学連携等のグッド・エグザンプルの調査 - デンマーク・スウェーデン(俵 特別研究員2002.3)
  3. 国内の産学連携等の調査 - 札幌、岩手、京都、兵庫、広島、福岡(岡 特別研究員、他)
5. 論文公表等の研究活動
  1. 小山 康文(岩手大学地域共同研究センター助教授)、「大学からの産学連携 - 岩手モデル - 」(講演録 - 78)
  2. 飯塚 尚和(宮城県産業技術総合センター所長)、「地方公設試におけるマネジメントシステムの構築」(講演録 - 67)

研究課題 5
地域における科学技術資源指標開発に関する調査

新舩 洋一
渡辺 俊彦
権田 金治(客員総括研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

平成8年度に公表した「地域科学技術指標策定に関する調査(NISTEP REPORT No.51)」に提示した分析手法を用い、都道府県ごとの科学技術資源及び科学技術活動の状況(地域イノベーション・システム)の把握を目的に、既存の統計資料等を用いデータ収集を実施するとともに分析を行った。

2. 研究課題の概要

平成8年度に実施した「地域科学技術指標策定に関する調査」において提示したクラスター分析に加え、新たに因子分析を分析手法として採用した。また、新しい指標も追加することで、都道府県ごとの科学技術資源及び科学技術活動の特性について詳細な分析を実施した。「社会基盤」、「科学技術基盤」、「研究開発基盤」、「研究開発成果」に加え、「知的活動」及び「暮らし」に関する指標の採用を試みた。

3. 得られた成果・残された課題

64種類の異なる指標を収集し、平成8年度の前回調査に較べ種類は増加したが、本調査研究で採用した分析手法は、都道府県ごとの地域イノベーション・システムの相違を明確にするためには必ずしも適してはいないものと考えられる。

4. 特記事項

特になし

5. 論文公表等の研究活動
  1. 新舩 洋一、渡辺 俊彦、権田 金治、「地域科学技術指標に関する調査研究」調査資料 - 80(2001.12)

(6)科学技術動向研究センター

研究課題 1
科学技術動向に関する調査研究

科学技術動向研究センター
1. 調査研究の目的及び性格

第2期科学技術基本計画の重点分野を中心に、先端の科学技術に関する動向について体系的かつタイムリーな情報収集・分析を行い、適宜、総合科学技術会議及び文部科学省等に提供することによって、今後の科学技術政策に関する戦略・施策の検討に積極的に貢献する。

2. 研究課題の概要

調査研究は、科学技術専門家ネットワークによる科学技術動向情報の収集・分析とセンター独自の視点で設定した重要科学技術分野・領域の動向分析からなる。

科学技術専門家ネットワークは、約2,800名の研究者、技術者を専門調査員に委嘱し、インターネットWebサイトへ科学技術の動向に関する最新情報や専門的な見解等を投稿形式で収集する仕組みである。これにより国内外の学術会合、学術雑誌等に発表される研究成果、今後の科学技術の方向性等に関する意見が得られる。この情報は毎週整理(「週報」)されて、ネットワークを介して文部科学省、総合科学技術会議の担当者及び専門調査員が共有(閲覧)している。

また、センター独自の視点により設定した科学技術に関するテーマの最新動向について、インタビュー調査、専門家を招いてのセミナー実施、文献調査等をもとに詳細な分析を行った。独自の視点とは、今後、国として取り組むべき具体的な重点事項、研究開発課題等を明確にすることであり、行政部局の動向、社会・経済的ニーズ等も踏まえ、重要と考えられる技術・課題を設定する。

3. 得られた成果・残された課題

専門調査員からは、専門家ネットワークを通じて約1,700件の投稿があった。これらのうちから特に注目される最新の動向を選び、毎月、「科学技術トピックス」としてとりまとめた。今後は、専門調査員の拡充を図るとともに、センターと専門調査員との情報交流の双方向性を高め、より有用な情報が提供・蓄積されることを目指す。

また、センターとして33件のテーマを設定し、調査・分析の結果を「特集」としてとりまとめた。今後は、事前のテーマ提示等、行政部局のニーズを確実に取り込める仕組みを検討する。

これらの成果を「科学技術動向」として毎月編集し、定期的に文部科学省、総合科学技術会議、在京大使館、シンクタンク、マスコミ等へ提供し、さらに政策研Webにて一般に公開した。

この他、文部科学省、総合科学技術会議からの求めに応じて、適宜、各種の資料を提供した。

なお、今年度の分野別の活動状況は、次の通りである。

(1)ライフサイエンス・医療分野
  • ① 専門家インタビュー等による情報収集

    約100名の専門家へのインタビューを行い、最新の情報を収集した。また、日本内科学会総会、がん研究シンポジウム、国際ゲノム会議、植物生理学会等、関連の学会・シンポジウム等に参加し、研究開発動向を把握した。得られた情報や知見は、調査テーマの設定や「科学技術動向」(月報)の記事作成等に活用した。

  • ② 講演会の開催

    注目すべき領域の動向について、専門家を招いて講演会を開催した。講演会で得られた情報や知見は、講演録としてとりまとめ広く情報提供するとともに基礎資料として活用した。

    今年度に開催した講演会は次の通りである。

    • 「第三の生命鎖糖鎖とポストゲノム解析」(講師: 三菱化学生命科学研究所 永井 克孝 所長)
    • 「再生医学の最近の動向」(講師: 京都大学大学院医学研究科 西川 伸一 教授)
    • バイオインフォマティクスの最近の動向とこれからの課題」(講師: 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 高木 利久 教授)
    • 「痴呆研究の動向 - アルツハイマー病の病態解明と治療への展望を中心に - 」(講師: 東京大学大学院薬学系研究科 岩坪 威 教授)
    • 「機能性食品の研究開発の動向と特定保健用食品」(講師: 独立行政法人国立健康・栄養研究所 斎藤衛郎部長)
    • 「大学等におけるがん研究の最近の動向」(講師: 東京大学分子細胞生物学研究所 鶴尾隆所長)
  • ③ 特定テーマの動向分析

    今年度は、「科学技術動向」(月報)の特集として以下の7テーマを取り上げ、詳細な調査・分析を行った。

    • ヒトゲノム解読を巡る国際解析チームとセレラ社の動向及びわが国の今後の動き
    • 遺伝子組換え植物・食品に関する動向
    • 再生医学の最近の動向 - 幹細胞を用いた再生医学について -
    • バイオインフォマティクスの動向
    • 第三の生命鎖糖鎖とポストゲノム解析
    • 痴呆研究の動向 - アルツハイマー病を中心に -
    • 機能性食品の研究開発の動向
(2)情報通信分野
  • ① 専門家へのインタビュー等による情報収集 国内外の専門家へのインタビューを行い、最新の情報を収集した。また、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)等国内外の学会・シンポジウム等に参加し、研究開発動向を把握した。得られた情報や知見は、調査テーマの設定や「科学技術動向」(月報)の記事作成等に活用した。
  • ② 講演会の開催

    注目すべき領域の動向について、国内外の専門家による講演会を開催した。講演会で得られた情報や知見は、講演録としてとりまとめ広く情報提供するとともに基礎資料として活用した。

    今年度に開催した講演会は、次の通りである。

    • 「米国の半導体産業の動向と将来展望」(講師: SRI Consulting Business Intelligence Dr. Mitch Halpern)
  • ③ 特定テーマの動向分析

    今年度は、「科学技術動向」(月報)の特集として以下の9テーマを取り上げ、詳細な調査・分析を行った。

    • 移動通信システムの研究開発動向
    • 次世代LSI用リソグラフィー技術の研究開発動向
    • 次世代Si-MOSデバイスの研究開発動向
    • 通信技術の研究開発動向
    • 猛威を振るうコンピュータウィルス
    • スーパーコンピュータの動向
    • サイバーセキュリティ対策 - 国家の重要インフラをいかにサイバー攻撃から守るか -
    • 次世代デバイスの研究開発動向(IEEE IEDMより)
    • 音声認識・合成と自然言語処理の研究開発動向 - 人に優しいヒューマンインターフェース実現への課題 -
(3)環境・エネルギー分野
  • ① 専門家へのインタビュー等による情報収集

    専門家へのインタビューや現地調査を行い、最新の情報を収集した。また、IEA(International Energy Agency)フォーラム、世界湖沼会議等国内外の学会・シンポジウム等に参加し、研究開発動向を把握した。得られた情報や知見は、調査テーマの設定や「科学技術動向」(月報)の記事作成等に活用した。

  • ② 講演会の開催

    注目すべき動向について、専門家を招いて講演会を開催した。講演会で得られた情報や知見は、講演録としてとりまとめ広く情報提供するとともに基礎資料として活用した。

    今年度に開催した講演会は、次の通りである。

    • 「廃棄物の有効利用と資源化」(講師: 東京工業大学大学院総合理工学研究科 吉川邦夫教授)
    • 「21世紀の電力エネルギー供給システム」(講師: 東京工業大学原子炉工学研究所 嶋田隆一教授)
    • 「バイオセンサーによる環境中の微量化学物質の計測」(講師: (財)電力中央研究所 大村直也主任研究員)
  • ③ 特定テーマの動向分析

    今年度は、「科学技術動向」(月報)の特集として以下の5テーマを取り上げ、詳細な調査・分析を行った。

    • 可燃性廃棄物を熱利用する廃棄物焼却処理技術の動向と課題
    • 米国の新国家エネルギー政策 - 供給重視の論理と各エネルギー源の位置付け -
    • 環境中の微量有害物質の計測に関する動向
    • バイオエネルギー利用の動向と展望
    • 汚染された土壌環境の対策技術の動向
(4)ナノテク・材料・製造技術分野
  • ① 専門家へのインタビュー等による情報収集

    専門家へのインタビューを行い、最新の情報を収集した。また、関連の学会・シンポジウム等に参加し、最新動向を把握した。得られた情報や知見は、調査テーマの設定や「科学技術動向」(月報)の記事作成等に活用した。

  • ② 講演会の開催

    注目すべき動向について、専門家による講演会を開催した。講演会で得られた情報や知見は、講演録としてとりまとめ広く情報提供するとともに基礎資料として活用した。

    今年度に開催した講演会は、次の通りである。

    • 「シリコンデバイスの技術動向と限界」(講師: (株)日立製作所基礎研究所 和田恭雄主任研究員)
    • 「失敗学の構築」(講師: 工学院大学工学部 畑村洋太郎教授)
    • 「ナノバイオロジーの動向と今後の課題」(講師: 大阪大学大学院医学系研究科 柳田敏雄教授)
  • ③ 特定テーマの動向分析

    今年度は、「科学技術動向」の特集として以下の3テーマを取り上げ、詳細な調査・分析を行った。

    • 新規超伝導体MgB2と研究開発動向
    • カーボンナノチューブ製造技術開発の動向
    • マテリアル・シミュレーションの動向 - 第一原理計算を中心として -
(5)社会基盤・フロンティア分野
  • ① 専門家へのインタビュー等による情報収集

    専門家へのインタビューや現地調査を行い、最新の情報を収集した。また、関連の学会、シンポジウム等に参加し、最新動向を把握した。得られた情報や知見は、調査テーマの設定や「科学技術動向」(月報)の記事作成等に活用した。

  • ② 特定テーマの動向分析

    フロンティア(海洋)分野に関連し、深海洋上発電を利用するメタノール製造に関して調査・分析を行い、報告書をとりまとめた。

(6)科学技術政策全般
  • ① 専門家へのインタビュー等による情報収集

    海外の関連機関や専門家を訪問し、最新の情報を収集した。また、AAAS(American Association for the Advancement of Science)、SRI International等政策研究関連機関の会合に参加し、情報交換を行った。得られた情報や知見は、調査テーマの設定や「科学技術動向」(月報)の記事作成等に活用した。

  • ② 講演会の開催

    国内外の科学技術政策に関するテーマについて、専門家を招いて講演会を開催した。講演会で得られた情報や知見は、講演録としてとりまとめ広く情報提供するとともに基礎資料として活用した。

    今年度に開催した講演会は、次の通りである。

    • 「技術移転における産学官協力の在り方」(講師: 武田薬品工業(株) 藤野政彦会長)
    • 「米国のNNIの形成プロセスと最新動向」(講師: SRI International Dr. Christine Peterson)
  • ③ 特定テーマの動向分析

    海外の注目される取り組みや我が国の研究開発基盤の検討等、科学技術政策全般に関わる以下の9テーマを取り上げ、「科学技術動向」(月報)の特集としてとりまとめた。

    • 日米欧の政府 R & D 予算に関する政策動向
    • 米国の科学技術政策動向
    • カリフォルニア州技術革新イニシアティブの動向
    • カナダの科学技術政策動向
    • 米国2002年度政府 R & D 予算編成の動向
    • 科学コミュニケーションの動向 - 科学ジャーナルを取りまく状況 -
    • わが国の研究成果(論文)に対する国際評価 - 日本発の"一流論文"の増加 -
    • 米国 R & D 政策動向 - 連邦政府R&D予算配分に見る重点領域の推移 -
    • フランスの科学技術・イノベーション政策動向 - 産学官ナノテクノロジー・イノベーション・センター・プロジェクトMINATEC -
4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 「科学技術動向」 2001年4月号 〜 2002年3月号
  2. 「深海洋上発電を利用するメタノール製造に関する提案」Discussion Paper No.20 2002年3月

研究課題 2
第7回技術予測調査

桑原 輝隆
宇都宮 博
小笠原 敦
瀬谷 道夫
横尾 淑子
上田 尚郎
新名 秀章
堀内 勝夫
松久保 雅弘
1. 調査研究の目的及び性格

本調査の目的は、多くの専門家の協力の下に「長期的な視野に立って我が国の科学技術の方向を探り、その進歩と社会的ニーズの接点に見通しを立てる」ことである。この調査を通じて、我が国全体としての科学技術の振興、新規施策の立案のための基礎資料が提供され、また、産・学・官の多くの組織が科学技術の将来展望を共有することが可能となる。

2. 研究課題の概要

本調査では、今後30年間に実現すると思われる技術課題を取り上げ、その重要性、実現予測時期、第一線にある国、政府が採るべき手段等についての専門家の意見をデルファイ法(繰り返しアンケート)により収れんさせ、将来の技術発展動向を分析した。調査対象分野は、情報・通信、ライフサイエンス、環境、材料、製造等16分野、参加した専門家は約4,000名である。

今回調査の特徴は、① 経済のソフト化、情報化の進展等を考慮してサービス関連分野を設けたこと、② 社会経済ニーズを明示的に課題作成に生かす仕組みをつくり、技術開発側の視点からでは漏れる可能性のある課題を取り込んだこと、③ 制度等、技術的でないが技術発展に大きな影響を及ぼす事項も必要に応じて取り入れたことである。

また、併せて、将来の重要科学技術分野に関する調査も実施した。

3. 得られた成果・残された課題

主な結果は、次のとおりである。

  • 重要度は高いが実現に時間を要する分野として、ライフサイエンス、エレクトロニクス、環境、材料・プロセス、資源・エネルギーがあげられ、公的支援の必要性が示唆された。
  • 日本が優位とされた課題が多い分野は、資源・エネルギー及び交通の2分野、海外が優位とされた課題が多い分野は、保健・医療、宇宙、流通、ライフサイエンス等の分野であった。
  • 情報系技術、生命系技術、地球・環境系技術、材料系技術、製造・マネジメント系技術、社会基盤系技術の6分野の中で、今後10年間ならびに2010年以降に重要になると考えられる分野を尋ねたところ、今後10年では情報系技術、生命系技術、地球・環境系技術が、2010年以降では情報系技術、生命系技術が重要との認識が示された。
4. 特記事項

特になし。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 「第7回技術予測調査」、「第7回技術予測調査(概要)」 NISTEP REPORT No.71(2001年7月)

研究課題 3
国民健康領域の科学技術に関する研究
- ヒューマンヘルスケア支援技術を中心として -

香月 祥太郎 (客員研究官)
桑原 輝隆
1. 調査研究の目的及び性格

高齢化が進むわが国では、がんや生活習慣病の予防等、日常生活を通して健康を維持・増進する意識が高まっているが、とくに国民健康領域での個々人の健康管理(ヒューマンヘルスケア)に関しては、科学技術の観点からの対応が、重要な政策課題である。本研究は国民の健康の維持・管理に関する意識や要望、生活の質等のニーズを明らかにし、必要な支援技術と課題を検討することを目的としている。

2. 研究課題の概要

健常者を中心とする一般の人々のヘルスケアに対する意識、要望を明らかにし、対応策を検討するため、

  1. ヘルスケアの目標となる健康の概念と枠組みを明らかにする。
  2. その枠組みをもとに健常者のヘルスケアに対する意識を実態的に明らかにし、それに基づく健康の維持増進のためのヘルスケア支援技術、医療技術への要望、期待を分析する。
  3. 上記の結果を基にヘルスケアのための科学技術課題を設定し、その実現のための対応策を検討する。
3. 得られた成果・残された課題
(得られた成果)
  1. 健常者を中心とする一般の人々のヘルスケアに関して、昨年度に引き続き健康概念と枠組みを、ヘルスケア・サイクルの面から検討しモデル化した。
    • ① 健康は「健康状態」、「健康意識」、「健康行動」の3つの要素の相互作用により構成される。
    • ② ヘルスケアとは、この3つの要素を良好に相互作用させ、互いに高めあう正の相関を生み出すサイクルで実現することができる。そのため6つの機能、即ち、健康状態の「分析」と「改善」、健康意識の「理解」と「喚起」、健康行動の「把握」と「実践」が重要である。
    • ③ 上記6つの機能は、自己、自己の周囲、医療専門家の3つの主体の密接な関連性で発揮される。
  2. 上記モデルを実証するため、平成13年11月に「国民の健康管理に関する調査」を実施した。調査は健康保険組合連合会の協力を得て、同組合に加盟している企業の従業員800人を対象に行い、29組合企業の640名の方から回答を得た。回答率は80%であった。調査結果概要は以下の通りである。
    • ① 健康管理領域の概念は、健常者と非健常者の間に位置する幅広い領域の中で、自己実現を意識した概念であると認識される。従って個人の立場を重視しなければならないこと。
    • ② 個人の望む健康管理は、他の人との比較ではなく、直接的、絶対的なものとして認識する必要があり、そのためにも常日頃の個人の健康状態を管理し、それに対して医師等の医療専門家による適切なアドバイスができる体制やシステムが必要である。
    • ③ 健康管理についての具体的課題として、「個人の健康状態の常時フォローアップ・システムの整備」、「健康管理項目の設定とそのデータベース化」、「健康管理の専門医療機関のネットワークの整備」「医療専門家によるカウンセリング体制の確立」等、科学技術と制度への期待が明らかになった。

以上で所定の課題の研究は終了し、目下、報告書を取りまとめている。

4. 特記事項

本調査研究結果と内容についてより精度を高めるため、 医療専門家との意見交換の機会を設けたい。

本調査研究を実施するにあたって、学生研修員 外山 大氏に共同研究者として全面的協力をいただいた。

5. 論文公表等の研究活動

特になし。

(7)情報分析課

研究課題 1
日中間の技術貿易の現状に関する研究 - 中国の環境問題と日本の技術移転 -

花井 光浩
相馬 融
清家 彰敏 (客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

中国における環境問題は、急速な経済発展に伴い年々深刻さを増し、一衣帯水の隣国である日本も直接的影響を受ける問題となっており、先進国からの早急な技術移転が求められている。

ここでは、火力発電設備における環境保全関連技術を事例として、日本から中国への技術移転状況について現状を分析し、技術移転促進のための課題と解決策を中国科技促進発展研究中心と共同で検討・提案することを目的とする。

2. 研究課題の概要

中国においては、今後海外からの環境保全関連技術の導入が伸びていくと予想される。日本からの技術移転も民間企業のみならず、政府ODAも含めて増加が求められているが、より効果的に実施していくための基礎データとなる技術移転の現状が明確になっていない。日本から中国への技術移転状況と欧米から中国への技術移転状況を比較することにより課題を明確にしていく。

  1. 中国における環境汚染状況
  2. 環境汚染物質の処理状況と関連政策
  3. 中国における環境保全技術のレベル
  4. 日本及び欧米から中国への技術移転の現状
  5. 日本及び欧米から中国への技術移転の効果の比較
  6. 日中間の技術移転をより効果的に行うための提言
3. 得られた成果・残された課題

火力発電設備における環境保全関連技術を事例として、日本から中国への環境保全技術の移転状況及び中国における環境汚染状況・環境汚染物質処理状況・環境保全技術レベルを明らかにした。

また、中国側企業へ導入した技術の稼働状況・普及状況等の調査を行い、技術を輸出した日本側企業の考えと比較することにより日中間の技術移転をより効果的に行うための課題を分析した。

4. 特記事項

科学技術政策研究所は共同研究先である中国科学技術部科技促進発展研究中心とは、2000年1月17日に3年間の研究協力等に係わる覚書を中曽根元科学技術庁長官及び朱中国科学技術部長(大臣)立会のもと締結した。その後、2000年3月27日に第一回目の共同研究課題として本課題に取り組むことに合意している。

5. 論文公表等の研究活動
  1. 「中国の環境問題と日本の技術移転」調査資料 - 82(2002.1)として報告書を取りまとめた。

研究課題 2
日本の技術輸出の実態(平成11年度版)

神田 由美子
山口 治
相馬 融
清家 彰敏 (客員研究官)
1. 調査研究の目的及び性格

外国との技術、ノウハウの取引、いわゆる技術貿易の実態把握は、我が国の技術水準、技術開発力に対する知見を得るだけでなく、我が国と外国との技術上の結びつきや、我が国の技術の国際的な波及実態を把握する上で重要な意義を有している。

本調査研究は、技術の輸出について実態を分析し、政策立案のための基礎的なデータを提供することを目的としている。

2. 研究課題の概要
  1. 調査方法及び回収状況
    • ① 調査対象契約 : 平成11年度の1年間に締結された新規の技術輸出契約
    • ② 調査方法 : 郵送によるアンケート調査
    • ③ 調査対象企業 : 資本金10億円以上の製造業すべてと技術貿易に関連がある企業のうち平成9年度、10年度に回答のあった企業(1,734社)
    • ④ 回収結果 : 回答企業数 1,237社 (回収率71.3% )
  2. 調査項目
    • ① 企業について : 業種、資本金規模
    • ② 輸出技術について : 技術の内容、技術分類、技術の種類、先端技術分野
    • ③ 契約相手先について : 輸出先国・地域、資本関係
    • ④ 契約条件 : 契約期間、契約形態、対価受取方法、独占権・再実施権の有無
3. 得られた成果・残された課題
  • 平成11年度に新規の技術輸出を行っている企業数は、平成8年度をピークとして減少傾向にある。
  • 平成7年度にアジアが約3分の2を占めたが、平成8年度に減少に転じて以降、比率に大きな変化は余り見られない。
  • ゾーン別にみると、資本関係のある企業への輸出の比率は、アジアで高く42.8% を占めているのに対し、ヨーロッパでは17.5% 、北米では25.8% となっている。
  • 化学分野の中でも特に「医薬品」は資本関係のない企業へ多く輸出を行っている。
  • クロスライセンス契約件数の経年推移をみると、平成11年度は、落ち込んだ前年度と比較して12件の増大、全体に占める比率も5.7ポイント増えている。
4. 特記事項

特になし

5. 論文公表等の研究活動
  1. 「日本の技術輸出の実態(平成11年度)」調査資料 - 83(2002.3)

研究課題 3
ソフトウェアにおける技術輸出入の動向分析 - 対米大幅入超について -

清家 彰敏 (客員研究官)
山口 治
相馬 融
1. 調査研究の目的及び性格

技術導入、技術輸出の各調査によれば、日本は、ソフトウェアを米国から導入し、ハード系技術をアジアの各国へ輸出しているという構造が得られている。1998年度技術導入調査のソフトウェア輸入は650件(米国497件)で、技術輸出調査は61件(米国18件)であった。調査対象・手法等が異なることを前提にあえて比較すると、対米入超は27.6倍に達する。

本調査は、技術輸入から技術輸出に至るソフトウェアのフローを1996年度から1998年度の3カ年について調査、我が国におけるソフトウェアの技術貿易の構造を把握、対米大幅入超の原因を究明し、政策への資料作りを行う。特に、今後の日米関係をソフトウェア輸出入と特許戦略の視点から分析し、政策資料とする。

2. 研究課題の概要

「外国技術導入の動向分析」で得られたデータから、ソフトウェアに関する技術を内容別に再分類し、金額ベースで調べられている他の統計を活用しながら、詳細に分析し、技術貿易の関係官庁、技術貿易を実施する民間企業に対しても聞き取り調査等を行う。

3. 得られた成果・残された課題
  • 1996年度は分析シミュレーションが1位で16.5% 。1997、1998年度は通信ソースコードが1位になった(1998年度17.8% )。ゲームは、1996年度4.1% 、1997年度が4% 、1998年度が8.9% と急増した。
  • 通信・電子電気系が全体の約3分の1を占める。
  • ソフトウェア開発は米国が群を抜いている。続いて英国、カナダといった英語圏が強い。
  • ソフトウェアの権利は、ハードウェアに比較して曖昧であり、その権利行使は米国がもっとも厳しいと思われ、考察を詳細に行っていく必要がある。
4. 特記事項
  1. 本調査研究は法令に基づく届け出等により分析しており、他の調査が追随することは困難である。
  2. 世界の特許戦略は、米国を中心として、欧州が追随、対抗している構図であり、日本の対応は遅れている。この今後と将来の構図について考察する。
5. 論文公表等の研究活動

「ソフトウェアにおける外国技術導入の動向分析」NISTEP REPORTとして、2002年8月に発表予定。