5.調査研究活動の概要
(1)第1研究グループ
情報技術が知的生産性に及ぼす影響に関する国際比較
榊原清則
- 1.研究の目的及び性格
- 技術研究開発に従事する組織体において広義の情報通信技術(Information Technology、以下IT)が如何に利用されているか、その導入活用実態の調査と、それが組織の成果にどういう影響を与えているかを明らかにすることが本研究の目的である。
- 2.研究課題の概要
- 先端的なIT活用分野の例として、(1)インターネット技術を利用した部品、材料の調達活動、(2)製品開発における新世代3次元CADの利用、(3)企業の基幹業務への統合業務パッケージ(Enterprise
Resource Planning、略してERPとよばれる)の利用をそれぞれとりあげ、特定事例の精査、関係者への聞き取り、質問票サーベイ等を組み合わせた調査活動を実施した。
- また、利用可能な文献および資料を探索し、比較可能な欧米の事例の収集に努め、限定的な国際比較を試みた。
- 3.得られた成果・残された課題
- まず上記の(1)については、科学技術政策研究所および慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で鋭意調査し、関連データの収集をした。その結果、アメリカ企業と日本企業との間に、企業の資材調達面で、インターネット技術の活用実態が異なることが分かった。従来、ITの活用という点では各国ごとの違いを無視した収斂論が支配的である。ITの活用はやがて類似の組織実践に収斂するというのである。しかしこの種の収斂論は必ずしも正しくないことが、本研究で明らかになった。
- 次に(2)と(3)については、昨年度末から今年度にかけて、サーベイ・リサーチを含む詳細な調査研究を実施中である。
- 4.特記事項
- ITの意義をとりあげたのは政策研では初めてのことであり、まずは民間企業の活動におけるITのインパクトに焦点を当てている。大学や国公立試験研究機関におけるITの意義の調査は今後の課題である。
- 5.論文公表などの研究活動
- [1]「ITを用いた資材調達活動の国際比較」Discussion Paper No. 9( 1999年5月公刊)
知識・能力基盤的経済下における研究開発システムの運営に関する国際比較研究
(科学技術振興調整費重点基礎研究制度)
伊地知寛博
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、イノベーション・システムの構築という課題や、国立試験研究機関の独立行政法人化を契機とした日本の公的な研究開発システムの運営のあり方への関心を背景として、すでに多様な関係者から構成されて運営されている主要国の実態を相対化して分析したうえで、日本の研究開発の特質や特長を活かした研究開発システムの運営のありようを探ることを究極的な目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 本研究は、主要国の研究開発において重要な役割を果たす機関、あるいは重要かつ特徴的な技術分野を対象として、これらの機関あるいはこれらの技術に関わる組織における研究開発システムの運営を国際的に相互比較する。その際、多様な機関・組織に所在する知識・能力をいかに統合・調整させて研究開発システムが運営されているかについて、たとえば、正当性・合理性・妥当性といった観点から分析して、望ましい方策について示唆を得る。
- 3.得られた成果・残された課題
- まず、公的な研究開発システムの運営という点で見ると、これはおおむね当該国で一般的な民間企業等における運営の形態と類似しており、関与者の多様性や権限のあり方等について違いが見られた。そして、とくに日本の公的な研究開発システムの運営についても、民間の場合と同様にコーポレート・ガバナンス概念の導入が重要であろうということが示唆された。それから、会議体の構成員の位置づけ、たとえば、個人としての資格かそれとも組織・団体の代表としての資格かという区別について、日本は現状では諸外国と比べてあまり明確化されていないことが示された。また、コンサルテーションのあり方についても同様な課題があり、正当性・妥当性を考慮し、公開性の確保や恣意性の排除等をさらに行っていくことが課題として示唆された。一方で、評価システムについては、諸国にそれぞれの特徴を有しており、日本では、近年の積極的に導入されてきた経緯を踏まえると、公開性・透明性や外部によるチェック体制の確保に留意しつつ、自律的かつ階層的なメカニズムが実効性をもつような特徴であろうということが示唆された。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- 特になし。
研究開発の国際化と我が国経済における知的ストック蓄積に関する調査研究
榊原清則・伊地知寛博・古賀款久・永田晃也(北陸先端科学技術大学院大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究では、わが国における知的ストックの蓄積が、諸外国の知的ストック蓄積・生産性の向上にいかなる影響を及ぼしうるか、について、閉鎖経済および開放経済体系の中で定量的・定性的に把握することを主眼としている。
- 2.研究課題の概要
- 経済活動のグローバリゼーションの進展に伴い、科学技術と経済成長の関連においても、国際的な相互依存関係が一層重要になっている。研究開発投資が形成する知的ストックは一国内における生産性の高度化等に寄与するばかりではなく国際的なスピルオーバー等を通じて他国の経済成長に多大な影響を及ぼす場合がある。本研究では、知的ストックのグローバルな分布状況を定量的に把握するとともに、地域間における知的ストックの相互依存的な経済効果を評価するための理論的・実証的分析を行い、開放経済における科学技術政策のあり方を議論することを目指す。
- 3.得られた成果・残された課題
- 本年度は、欧米等で進められている内生的経済成長理論に関する研究論文を検討することにより、知的ストック蓄積と経済成長とのつながりを理論的に整理した。並行して、国際間の技術的なスピルオーバーに関する実証研究例を、米国・カナダの研究例を中心に整理し、産業レベル・企業レベルのデータに立脚した実証分析の可能性について検討した。また、過去に当研究所が開発したマクロ計量経済モデルの開放経済体系への拡張可能性についても追求した。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- 特になし。
研究開発の国際化における人事・組織管理とインフラストラクチャー
榊原清則、田中茂、根岸廣和(キヤノン(株))
- 1.調査研究の目的及び性格
- 日本における研究開発の国際化は今後ますます進展すると予想されるが、本研究は人事・組織管理およびインフラストラクチャーを如何にしたら外国人研究開発者を引きつけ、またその能力を最大限に引き出せるのか調査・研究する。
- 2.研究課題の概要
- [問題の設定]
- (1)日本国内の国立試験研究機関、特殊法人研究開発機関、および民間企業における研究開発国際化の現状調査
- (2)国際的研究開発組織の国内立地と国外立地の場合の人事・組織管理およびインフラストラクチャー上の差異調査(民間企業のみ)
- (3)国際的研究開発組織の構成員に対する人事・組織およびインフラストラクチャー上の問題点と希望に関する調査(国研、特法、民間企業)
- [その問題を設定した理由]
- 日本国内の研究開発国際化の実状を調査し、外国人研究者から見て日本国内の研究開発環境の魅力を高める上で何が支障となっており、どう改善すべきか試案を提示する。
- (1)日本国内の国立試験研究機関、特殊法人研究開発機関、および民間企業における研究開発国際化の現状調査
- 3.得られた成果・残された課題
- 国研・特殊法人及び民間企業へのアンケート調査により、国研・特殊法人及び民間企業国内組織における外国人研究開発者に関する統計的数値に加えて彼らの貢献度、影響度、また組織側の問題点などの実状が明らかとなり、また外国人研究開発者へのインタビュー調査により、彼らから見た日本の研究開発環境面での魅力や課題が明らかとなった。詳細は5.の調査資料を参照のこと。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- [1] 田中 茂、根岸廣和、榊原清則:「国立試験研究機関、特殊法人研究開発機関及び日本企業の研究開発国際化に関する調査研究 −内への研究開発国際化に向けてー」、調査資料No.67として印刷中。
エンジニア及びマネージャーの育成に関する国際比較研究(科学技術振興費)
榊原清則、加藤みどり
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、日米独3ヶ国の産業界における研究開発の中での生産技術の相違を実証的に明らかにし、生産技術が各産業に及ぼすインパクトを解明し、さらに優秀な生産技術者を育成する方策を提示することを目的とする。なお、本研究はアメリカのLeonard Lynn教授、および早稲田大学寺本義也教授他との共同研究である。
- 2.研究課題の概要
- まず、3ヶ国それぞれの特徴や相違点が明らかになるように、生産技術の明確な定義を与える。次に日米独に共通した電機(半導体)、自動車、医療機器、化学の4産業についてインタビュー調査を行う。半導体および化学産業については、製造装置製造企業との関係も考察に取り入れる。これは、ある生産技術の真の担い手は実際に生産を行っている企業から、その生産装置や設計に関る企業にシフトしているという、生産技術の生産者からの拡散という仮説を取り入れることである。一方で、受託生産に特化した米国企業が非常に高い生産性をあげている事例から、生産技術の学習過程を調査することにより、生産技術のコアとなる知識とその形成プロセスが明らかになると同時に、生産技術に関る人材育成や教育に有用な提言を行うことが可能になる。
- 3.得られた成果・残された課題
- 1999年9月にWashington D.C.で第1回ワークショップを行い、詳細な研究課題手順と調査対象産業を決定した。また、事前の文献調査により、生産技術向上の過程を、工学的・理論的なアプローチと「カイゼン」に代表されるボトムアップ的なアプローチのふたつに分けるというフレームワークを提出し、特に日本企業の研究開発を分析するモデルに組み入れた。今後は各産業における調査の遂行と、その結果の相互比較を行う。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- 特になし。
研究開発と税制
古賀款久
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、産業部門のイノベーション活動を支援する目的で創設されている研究開発優遇税制について、わが国製造業企業のデータを用いて検討することを主目標とする。また並行して各国の研究開発優遇税制を整理したうえで、産業レベルのデータを用いて、それらの投資促進効果を比較考慮することをも目指す
- 2.研究課題の概要
- 従来、研究開発優遇税制は、補助金制度や公的R&D(大学・研究機関が自ら研究開発を行う形態)に比して、民間企業の技術革新に対する助成効果が小さいと考えられてきた。このような考え方の背景には、民間企業の研究開発投資が価格に対して十分感応的ではないとの前提が存在する。本研究では、企業レベルのデータを用いて、わが国製造業企業の研究開発投資の税価格弾力性を推計し、上記の議論がわが国にも当てはまるか否かを検討したうえで、研究開発優遇税制の有効性を吟味する。
- 3.得られた成果・残された課題
- 企業の研究開発投資は、多少のタイムラグを伴うものの、税価格に比較的感応的―User Costが1%低下すると企業のR&Dは0.7%前後促進される―であることがわかった。なお、推計を産業別・企業規模別に行った場合には、産業・企業規模によって、価格に対する感応度に相違が認められた。また、本年度は、取得技術(特許権・ノウハウ等)に対する税制上の取り扱いに関して整理したうえで、技術輸入と研究開発投資との関係について分析を試みたが、必ずしも明確な結論は得られなかった。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 「技術輸入と研究開発投資」一橋大学・産業労働ワークショップ・論文報告(1999年6月22日)
- [2] 「研究開発投資に関する一考察:価格弾力性の推計」横浜市立大学・論文報告(1999年10月21日)
半導体エンジニアの流動性に関する研究
青島矢一、武石彰、楠木 建、林 大樹(以上一橋大学)、軽部 大(東京経済大学)
榊原清則、伊地知寛博
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究の目的は、人材の社会的移動の多面性と相互依存性に注目し、異なる社会的移動を構成要素としたシステム(「流動性システム」)という概念を中心に、国のイノベーションシステムの中核的要素としての技術系人材の流動性を明らかにすることである。移動とは多面性を持っており,通常言われる組織間の移動は,組織という1つの境界の移動にすぎない。その他に専門集団間の境界、製品市場間の境界、技術領域間の境界、地理的な境界、階層間の境界の移動が社会的に存在し、それらの境界をまたぐような人々の行動は全て、社会的移動として流動性の構成要素と考えられる。また、異なる社会的移動は相互に依存関係にある可能性がある。
- 2.研究課題の概要
- 日本におけるイノベーションを促進する方法の1つとして、人材の組織間移動を高めようとする政策案が提示されることがしばしばある。しかし仮に組織間の人材移動が他の社会的移動、例えば、専門領域間や事業領域間移動と相互依存関係にあるならば、企業間移動だけを取り出して、それを推進することが一義的にイノベーションを促進することになるのかどうか慎重になる必要がある。
- 3.得られた成果・残された課題
- 昨年度は日本における半導体エンジニアに絞って様々な社会的流動性を調べるための質問票調査を行った。その初期的な結果について本年度ワーキングペーパーとしてまとめられつつある。たとえば897人の回答者の内35%の人々は少なくとも一度は所属組織を変えている、全体の20人程度の人しか競合企業への移動は行っていない、組織内での機能部門間の移動は双方向的に行われているなど、これまで事例をベースにいわれてきた流動性の実態が定量的に明らかになった。初期的な分析では、移動をする人はあらゆる側面で移動をしている傾向にありそうだということがわかってきている。
- 次年度においてはデータをより詳細に分析していくこととしている。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- 平成11年度はなし。
イノベーションのための新しい組織間関係に関する研究(科学技術振興費)
榊原清則、加藤みどり
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、成長を続ける研究開発型ベンチャーおよび中堅企業の最新の事例を研究し、イノベーションおよびそれを用いた新規事業創造に際しての新しい組織間の関係モデルの構築に反映させる。
- 2.研究課題の概要
- 上記モデルは、1.組織内モデル、2.組織間の関係または関係形成モデル、3.組織と技術市場の関係モデルから構成されると考えられる。研究開発の成果を事業化するには、イノベーションのリスクと事業化のリスク双方を負わなければならないが、適切な組織または分業の選択により、これらを小さくすることができると考えられる。最近ではネットワーク上での研究開発や提携の多様化により新しい形の分業が行われており、モデルに反映させる必要がある。
- 3.得られた成果・残された課題
- 複数のベンチャー企業および、ベンチャー企業と共同研究を行っている大企業の研究開発担当マネージャにインタビューを行った。また、ネットワーク上でのボランタリな研究開発と、その成果の大企業での戦略的活用について文献調査を行った。以上の調査研究をもとに、技術のクローズド-オープン、組織間の関係性のクローズド-オープンに着目した新しいフレームワークを提出した。ビジネスモデルの選択と分業の関係についても仮説が得られた。今後、追加の事例研究を行うことにより、理論的分析が可能になる。また、組織間の関係が技術の成熟状態によって変化するプロセスをモデル化し、分析に組み入れたい。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- [1]加藤みどり、「オープンなR&Dが示す可能性と課題」、オフィス・オートメーション、Vol.20、No.3(2000).
- [2]Midori Kato, New Strategy of IT Industry with Open Source, 2000 MIS/OA international conference, Soul, Korea, July 8-10, 2000.
- [3]Midori Kato, New paradigm of R&D outsourcing, Fifth International Conference, Asia - Pacific Region of Decision Sciences Institute, Tokyo, Japan, July 24 - 27, 2000.
- [2]Midori Kato, New Strategy of IT Industry with Open Source, 2000 MIS/OA international conference, Soul, Korea, July 8-10, 2000.
研究開発関連政策が及ぼす経済効果の定量的評価手法に関する調査(科学技術振興調整費ソフト調査)
榊原清則、伊地知寛博、古賀款久、永田晃也(北陸先端科学技術大学院大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 政府研究開発投資の経済効果に関する予測手法の検討は、科学技術政策研究所においてマクロ経済モデルの開発を通じて推進されてきた。本研究では、このモデルの応用を図る上で必要な各種データを収集し、政策イシューに対応する予測シミュレーションを行い、様々なケースにおける経済効果を比較する。
- 2.研究課題の概要
- 本研究は、科学技術政策研究所開発のマクロ経済モデルを改良したうえで、政府研究開発投資の増額がGDPの拡大にどの程度寄与するかを、公共事業との比較のうえで検討することを目的の一つとする。それと並行して、企業レベルのデータを用いて研究開発関連政策の有効性を検討するとともに、インタビュー調査を通じた政府R&Dに関する事例研究をも実施する。
- 3.得られた成果・残された課題
- 本研究では、公共投資および政府研究開発投資の増額が実質GDPに与える影響を、マクロ計量モデルの中で直接比較することを試みた。数種類の政策シナリオに基づいて行われたシミュレーション計算の結果、政府研究開発投資の実質GDP拡大効果は、短期的に見ると公共投資よりも若干低いものの、長期的には大きくなることが示された。
- 4.特記事項
- 本研究は、研究開発関連政策の有効性について、マクロレベルおよびミクロレベルの双方から分析したという点に特徴を有する。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 「研究開発関連政策が及ぼす経済効果の定量的評価手法に関する調査(中間報告書)」NISTEP
REPORT No.64 1999年6月
- [2] 「同上(最終報告書)」2000年9月公刊予定
研究開発過程の構造化分析
伊地知寛博
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、研究開発の機構論に属するもので、研究開発過程の実態をミクロ・レベルで捉え、研究開発の動的過程をシステムとして構造化し、その構造的特質から明らかにすることを目的としている。研究開発のメカニズムを明確にすることは、研究開発マネジメントを構想するうえできわめて重要である。本研究は、構造化の方法論を用いることで分析の客観化を意図している。
- 2.研究課題の概要
- 本研究では、これまでに本担当者らが開発してきた分析の方法論を用いて事例分析を行う。分析には研究開発のアウトプットを構成する学術文献および特許のデータベースを用い、学術文献や特許に表れる研究者・技術者の氏名を手がかりとして研究開発の組織過程を構造化して表現する。なお、この間、研究開発マネジメントの視点から各種の対象技術について分析を推し進めるとともに、政策分析への適用を考慮してきた。
- 3.得られた成果・残された課題
- LCDについて、生産あるいは研究開発を行っていた主要な組織については全容を捉えるべく、これまでに、日米欧韓計16社・機関について分析を進めてきた。なおさらに、所見の補完等を目的として、先端的な技術開発をめざして新たに展開を示している日米の企業もさらに対象に加えて分析を進めている。従来の分析から、組織の中にLCDの研究開発に一貫して従事して、組織としての新たな知識・技術の生成をしていくコアとなるキーパーソンが存在して、しかも、その組織として持続して研究開発を行ってきている企業が、現在、LCD事業において主要な位置を占めていることがわかってきている。さらに、関連する技術に関する知見を有する研究者・技術者を適切に共同・連携させ、ある程度の長期間、当該技術の研究開発に従事させることによって、人に体化された知識・経験を組織的に統合して利用していくことができることがわかってきた。そして、LCDのような複雑で統合的な技術に関連する事業への参入にあたっては、たとえ小規模な資源の配分であっても研究開発能力の連続的な蓄積や維持が必要とされることが示唆された。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] Ijichi, T. and Hirasawa, R. R&D organizational process on liquid crystal display: an internationally comparative analysis based on patents. in Kocaoglu, D.F. and Anderson, T. R. (eds.), Technology and Innovation Management, selected papers of the Portland International Conference on Management of Engineering and Technology, Portland, Oregon, USA, July 25-29, pp. 438-445, 1999.
ベンチャ−ビジネス支援政策に関する研究
榊原清則、綾野博之、加藤みどり、古賀款久
近藤一徳、田中 茂、根岸廣和(キヤノン(株))、前田 昇(高知工科大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、ベンチャービジネス支援のために講じられている多種多様な公的施策の意義を検討するために、その前提として、日本のベンチャー企業およびそれを担う経営者および起業家の特徴、概要など実態把握につとめ、諸外国特に米国のそれとの違いを究明することを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 本年度は、まず前半において、関連する資料の収集、文献調査を広範に進めた。また、ベンチャービジネス経営者、創業者、ベンチャーキャピタリスト、業界関係者、ならびに政策関係者に適宜インタビュー調査を行い、実態の把握に努めた。
- その上で、年度後半の9月以降、技術系ベンチャー企業5000社を対象に、大規模で体系的な郵送質問票を実施した。調査結果については、現在、集計・分析中である。この調査は、技術系ベンチャー企業に焦点をあてた調査として、わが国初の試みと言える。
- また、この調査を通じて蓄積されたデータベースもそれ自体価値のあるものと言える。
- その上で、年度後半の9月以降、技術系ベンチャー企業5000社を対象に、大規模で体系的な郵送質問票を実施した。調査結果については、現在、集計・分析中である。この調査は、技術系ベンチャー企業に焦点をあてた調査として、わが国初の試みと言える。
- 3.得られた成果・残された課題
- 質問票サーベイの1回目の試みは、すでに1998年度に行われ、ベンチャー企業および起業者の体系的実態把握を行ったものとして、一定の評価を得ている。今年度の試みはそれをさらに発展させるものであり、さらに精緻なデータ分析を進めている。また、実態の記述に重心をおいた過年度の努力から、因果関係の究明によりいっそう焦点を当てた分析結果をとりまとめる方向で、継続努力中である。
- 4.特記事項
- 上記の調査結果をベースに、今後、より絞り込まれた仮説を立てて、それを検証するタイプの調査研究を進めるとともに、科学技術ベースのベンチャー企業に特に焦点を当てた調査を続行する計画である。その過程で、大学や国公立試験研究機関の意義も検討したい。
- そして、国全体の知識生産システムの変容に与えるベンチャー企業の役割を、欧米諸国との比較においてさぐる構想を持っている。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1]「日本のベンチャー企業と起業者に関する調査研究」NISTEP REPORT No. 61として1999年5月公刊。[2]「ベンチャービジネス:日本の課題」Policy Study No. 2 (1999年5月)[3]「新ビジネスモデルによる日本企業の強さの変革」Policy Study No. 3(1999年5月)
政策形成・研究開発実施過程における産学官のインタラクションに関する研究
(科学技術振興調整費流動促進研究制度)
伊地知寛博、榊原清則、平澤 霎、富澤宏之、藤垣裕子
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、科学技術政策の形成・執行過程および研究開発の実施過程における産業界と政府・公的研究機関・高等教育機関とのインタラクションについて、我が国にとって将来的に有効になると思われるシステムに関する含意を得ることを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 本研究は、政策形成・執行過程におけるインタラクションに関する、主としてマクロ・レベルの調査研究と、研究開発の実施過程における、主としてミクロ・レベルの研究から構成される。前者では、主要諸外国で実施されているインタラクションのシステムを、既存文献・資料等の調査のみならず、代表的な組織・機関等でのインタビューを通して実態の情報を収集し、比較分析を行う。あわせて、日本の現状とも対比させる。後者では、産学官の連携による研究開発の事例を取り上げ、特許・学術文献等の知的成果物に関するデータを収集し、これらを用いて、その形成動向を構造化して表現して分析する方法論等を援用して個人レベルでの研究開発組織過程を明確にするとともに、データのより詳細な整理・分析や、分析対象の研究者・技術者および関係者へのインタビューを通じて、その実態を明らかにする。
- 3.得られた成果・残された課題
- 本年度は、マクロ・レベルについては、現在、政策形成過程において産学官のインタラクション・システムに関して先導的・特徴的な取り組みを行っている諸外国を対象として、資料・文献等の収集を行い比較分析を進めてきた。とくに、産学間インタラクションにおける制度的側面の一つとして利益相反に着目して、近年産学連携に熱心なイギリスでの現状について分析した。そしてこの分析を踏まえて同様に産学連携が促進されている日本においても、この利益相反の概念を定着させていくことが重要であることが示唆された。また、ミクロ・レベルについては、公開されている特許データベース等を利用して、そこからのデータを総合して詳細に分析することにより、研究室の運営や知的財産権の取り扱いも含めた、研究開発実施局面での産学間のインタラクションの実態を、かなりの程度、把握し得ることを示した。今後も事例分析を積み重ねて、権利帰属関係や関係者が複雑に入り組んだ対象である産学間インタラクションに関して、さらにその分析の頑健性を確保していくことが課題であろう。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 伊地知寛博 先導的研究者による産学間インタラクション−特許・学術文献データベースを用いた分析−, 研究・技術計画学会第14回年次学術大会講演要旨集, pp. 320-326, 1999.
企業経営・技術戦略の変遷に関する研究
榊原清則、上田尚郎
- 1. 調査研究の目的及び性格
- 20世紀において日本の社会経済の中心を担ってきた民間企業の経営と研究開発活動を総括し、21世紀に向けた科学技術政策の展望を得ることを主な目的としている。
- 2. 研究課題の概要
- 20世紀の経済発展の中心を担ってきた日本を代表する民間企業の各々の変遷を明らかにし、企業経営の主たる成功要因を時代背景と共に整理し、取りまとめることは、将来の科学技術政策を考えるうえで重要な課題である。本研究では、長らく経営トップを努めた企業経営者自身による講話をベースにしてこれまでの日本企業が培った企業経営と技術戦略についての分析を行う。また、この結果から将来の日本企業が進むべき方向性、将来の社会展望を踏まえた科学技術政策のあり方を探ることとする。
- 3. 得られた成果・残された課題
- 1) 「企業経営・技術戦略の変遷に関する研究会」を当研究所内に設置(研究会委員:12名)。
- 2) 平成11年度は以下の方々を講師として招聘し、研究会を開催。
- ・ 第1回:富士通㈱ 山本名誉会長
- ・ 第2回:NEC 関本取締役相談役
- ・ 第3回:日立製作所 三田勝茂相談役
- ・ 第4回:フューチャーシステムコンサルティング㈱ 金丸恭文社長
- 2) 平成11年度は以下の方々を講師として招聘し、研究会を開催。
- 4. 特記事項
- 特になし。
- 5. 論文公表等の研究活動
- 特になし。今後、それぞれの講師による講演録及び質疑応答の概要を「研究会講演録」としてとりまとめる予定。
(2)第2研究グループ
海外主要国の科学技術政策の形成過程と科学技術戦略に関する研究
平澤 冷、富澤宏之、藤垣裕子
武内信雄、数田幸司、劉 海波
伊地知隆博
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、我が国の科学技術政策システムにおける弱点の克服を図るために、諸外国で有効に機能している制度や運営の仕方について実態的な調査を行うとともに、各国における科学技術政策システムの改革の動向を探り、科学技術政策の新しいコンセプトを明らかにすることを目的としている。特に、従来、我が国の科学技術政策システムは戦略的政策の形成機能、および社会一般からの要請を政策形成に反映させるメカニズムが弱かったため、これらの弱点の克服を図る際の参考となるような研究成果を得ることを目指している。
- 2.研究課題の概要
- 前年度までに調査対象とした米国、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、オランダ、EUに加えて、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国の科学技術政策システムに関して実態的な調査を行い、比較・分析を行った。その際には、科学技術政策形成の過程やその組織原理にまで踏み込んで分析し、さらには各国がその政策の基礎としている現状認識や将来展望にも注目して調査・分析を行った。具体的には、下記の点を中心に調査を行った。
- ・科学技術関連政策全体を一元的に統合するためのメカニズム。
- ・戦略的科学技術関連政策形成を担う組織と運営の仕方。
- ・複数の省庁間で、科学技術関連政策の分担を決める基準や組織、運営方策。
- ・基礎的研究分野の分野間のバランスや重点分野の策定の扱い方。
- ・上記の課題の運営を担う人材の育成・集積メカニズム。
- ・市民、生活者、社会一般からの科学技術に対する要請を政策形成に反映させるメカニズム。
- ・議会や各種外部支援体制など、行政組織以外の科学技術推進システムの実態。
- ・科学技術関連政策全体を一元的に統合するためのメカニズム。
- 3.得られた成果と残された課題
- 主要国の政策策定・実施システムについて実態面で比較するとともに、戦略的な科学技術政策の策定・実施の理論的モデルを構成し、それに基づいて比較することにより各国システムの原理的特徴を明らかにした。我が国の科学技術行政体制に参考にすべき点として、以下のような調査結果を得た。
- (1) 意思決定者に対する補佐機能と情報集約機能の充実米国等では、科学技術政策に関して、国家レベルの意思決定者に対する補佐機能や情報集約機能を重視し、そのための仕組みを整えている。
- (2) 戦略形成のための行政機関内外の支援体制の充実米国には、STPIやCRSのような調査・分析を担う専属の支援機関のほか、アカデミー、学会、シンクタンク等が多様な支援機能を提供している。
- (3) 政策立案を担うテクノクラートや専門的アドバイザーの養成米国では学会から行政機関や議会に人材を派遣するフェローシップ制度やアドバイザーの集積を助けるグランド等が充実している。
- (4) 行政組織と研究組織の中間に位置する組織(政策執行中間機構)の充実独国のDFG、プロジェクト・エイジェンシー、マックスプランク研究協会のような、行政と研究現場の円滑な開発を維持するために、固有の政策執行機能をもった多様な組織が欧州諸国では発達している。
- (5) 多元的チェック体制と循環的評価制度の充実米国では、議会、行政、アカデミー相互間、さらには議会内部、行政内部の各レベルで相互チェックが行われ多元的な意思決定システムが実現している。また、欧州諸国では、社会を構成する各界からの代表者から成るパネルが同様の機能を担い、政策の客観性の向上及び多様な意見の反映に効果を発揮している。そして、このような体制のもとで、米国のGPRAのような事後の業績評価を中心とした循環型の評価システムに移行してきている。
- (6) 科学技術政策の範囲の拡大および関連諸政策との連携の進展世界のいくつかの国においては、自然科学分野の研究開発振興策を中心とする従来の科学技術政策から、科学技術政策を様々な社会・経済目的に向けた諸政策やイノベーション政策のなかに位置づけ、政策対象を見直す動きが見られる。さらには、知識基盤社会へ向けて科学技術政策という枠組み自体を見直し、新知識創造を核とした枠組みを模索する動きが一部の国で見られる。
- 一方、今後の課題としては、行政組織以外の科学技術推進システムの実態について、より詳細な調査が必要であり、また、行政組織についても、各国の改革や変化を常時、把握分析していくために継続的な観測システムを整備する必要がある。さらに、政策形成システムの他に、それを運用するアクター(人)、運用すべき内容(コンテンツ)、運営システムについて分析を深める必要がある
- (1) 意思決定者に対する補佐機能と情報集約機能の充実米国等では、科学技術政策に関して、国家レベルの意思決定者に対する補佐機能や情報集約機能を重視し、そのための仕組みを整えている。
- 4.特記事項
- 海外主要国の科学技術政策に関する調査は、従来から行われているが、本調査では、単に基礎的情報の収集にとどまらず、科学技術政策形成の過程やその組織原理にまで踏み込み分析する点に特徴がある。
- 5.論文発表等の研究活動
- [1] 平澤 霎,富澤宏之,伊地知隆博,「NIS(ナショナル・イノベーション・システム)の概念整理と戦略形成への適用」,研究・技術計画学会,第14回年次学術大会講演要旨集,pp.243-248 (1999)
科学技術の形成過程における評価に関する研究
平澤 冷、武内信雄、数田幸司
韓 亨浩、富澤宏之、藤垣裕子
伊地知隆博
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、研究開発活動の主要要素である機関、課題、人材の評価に関する理論的研究並びに国内及び海外の研究評価状況の実態把握を目的とするとともに、さらに広い視点に立ち、評価を意思決定・政策策定の重要要素と位置づけ、国の科学技術政策を形成する過程における評価についての実態と原理的基礎の理解を深めることを目的としている。
- 2.研究課題の概要
- 近年、我が国では研究開発活動の活性化,質的向上のために研究開発に関する組織、課題、人材の評価の実施が急速に進められているが、欧米等に比較して、経験の蓄積が少なく、
- また、日本に適した評価手法や評価結果の活用方法を確立する試みが充分でない。そのため、欧米における評価の実態調査を行い、また、企業や民間研究開発機関における最近の研究開発マネジメント動向を調査し、それらの手法を公的機関に適用する際の考察を行う。さらには、評価プロセスや評価結果と研究開発システムの向上や政策策定との連携について、実態調査と理論的検討を行う。
- 3.得られた成果・残された課題
- 海外主要国における公的機関(内閣、省庁、研究所、助成制度を含む)の政策形成過程を含めた評価に係る組織、制度、体制、運用について文献調査及び現地調査を行い、その実態を明らかにした。また、評価の原理的アプローチとして、人間活動に主眼をおいたシステム論、組織論等を基本とした評価論を構築し、評価と意思決定や政策策定との関係を理論化した。
- 4.特記事項
- 本課題の実施に際しては、定期的な研究会の開催などを通じて、科学技術政策に関わる複数の省庁の関係部局と密接な情報交換・意見交換を行い、研究成果が実際の政策策定等に反映されるよう努めた。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] Hirasawa, R, "Evaluation of Publicly-Funded R&D: Basic Issues and Trends in Management, The International Workshop on Evaluation Systems for Government-funded R&D Projects and Programs", Tokyo, Japan, March 5, 1999
企業環境とイノベーションプロセスの変化に関する調査研究
平澤 冷、中谷 元、須藤剛志
- 1.調査研究の目的及び性格
- 経済活動のグローバル化や情報技術の進展など、企業をとりまく環境の変化に対応するための技術経営が重要性を増している。我国の製造業は生産性の効率化を進めることで、競争力を保持してきた。しかしながら、今日においては国際化や情報化といった環境変化に対応するため、イノベーションプロセスが急速に変化してきており、技術経営戦略の見直しを図る必要が生じている。本調査研究の目的は、国レベルでのイノベーションの変化を比較分析することにより、企業経営の現状と課題を明らかにすることである。
- 2.研究課題の概要
- 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)、独国フラウンフォーファ協会システム・イノベーション研究所(ISI)との共同プロジェクトで行われており、研究開発投資額の大きな企業に対するアンケート調査による技術経営の変化の分析を実施する。アンケート調査に関してはMITが米国企業、ISIが欧州企業、政策研が日本企業に対してそれぞれアンケート送付から集計までを受け持ち、最終的に3所のデータベースを統合し、分析を行う。
- 3.得られた成果・残された課題
- 年間研究開発投資額1億ドル以上の企業に対するアンケート調査を日、米、欧において行い、回答集計およびデータ分析を実施した。回答企業数(回答率)は、日本98社(78%)、米国58社(32%)、欧州53社(40%)であった。
- 分析結果のうち特徴的な内容は次の通りである。①R&D人員の技術分野別比率はこの5年間で日本では余り変化していないが、欧米では一部技術分野で大幅に変動している。欧米では情報通信関連がこの5年間で倍増、米国ではバイオ関連が倍増。②企業の研究所組織は日本では技術分野別に分かれている場合が多いが、欧米では製品/市場別編成やプロジェクト編成が多く、特に欧州ではこの傾向が強まっている。③欧米では技術・製品・企業の買収や他企業とのジョイベン等の手法によりこの5年間で大幅に開発期間を短縮している企業が多い。④開発において欧米企業はプロジェクト管理手法と上流での設計技術を得意とし、日本企業は製造技術を得意とする。⑤海外でのR&D活動は日本企業も年々その比率を高めているが欧米に比べると比率が低く、約15年遅れている。
- 4.特記事項
- 本調査研究で得られたアンケート調査結果は会社名を匿名としてデータベース化され、日米欧の3所で共有されている。
- 5.論文発表等の研究活動
- 特になし。
ニーズ指向型政策経営のあり方 ―ITSを事例として―
平澤 冷、桑原 裕、数田幸司
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査研究は、ニーズ指向型研究開発について、研究開発の方向性と政策目標として期待する成果とがかけ離れた方向に至らないような政策形成メカニズムを検討し、社会ニーズや技術の受容者の要求に根差した政策経営のあり方を考えることを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 科学技術における知的生産の原理は、通常、パラダイムを遵守する立場から学問分野(ディシプリン)の内向的な動因に支配されることが多い。それに対して公共政策がめざすものは、科学技術の研究それ自体であることは稀であり、多くは何らかの形で技術の受容者の要求に根差したものである。公的資金に基づく研究開発は、その成果が科学技術の枠内であることを目的とするシーズ指向型の研究の他は、大部分が目的の明確さにもよるが、ニーズ指向型と言える。このニーズ指向型における研究開発の場合、研究を研究者のオートノミーに委ね、その知的生産の原理が支配する方向に研究が進められていくと、政策目標が期待する成果とは当然異なる結果に至ることになる。そこで、この両者の乖離を避ける何らかの手段が必要となる。これが公共技術経営の課題であると考える。一般には、政策目標への誘導を刺激する環境や装置(例えば評価制度)を設置することになるが、政策目標の妥当性がシーズ側からも検討される必要があり、一方的な誘導メカニズムを想定するだけでは不十分である。
- そこで、本調査研究では、公共技術経営の中でも特にニーズ指向性の強い研究開発課題を対象とした場合の政策経営のあり方について具体的に検討し、その体系的な枠組みを明確にすることを目的とする。
- 3.得られた成果・残された課題
- ・現在、ニーズ指向型のケースとして、ITSを事例に情報収集を実施。(米国・欧州・日本のITS関係者に対してインタビューを実施)
- ・この後、社会ニーズや技術の受容者を考慮した政策経営(体制・運営)のあり方について、基本概念の構築を図り、具体的な分析を進める。
- 4.特記事項
- ・ニーズ指向性の強い研究開発課題において、社会ニーズや技術の受容者の要求を考慮した政策形成メカニズムを検討していく点
- 5.論文公表等の研究活動
- 特になし。
我が国のライフサイエンス分野における数量的分析〜政策変遷、予算および論文生産の時間的推移をめぐって〜
渡部康一、藤垣裕子
- 1.調査研究の目的及び性格
- 我が国の科学技術分野において、評価の取り組みが、今後活発化してくることが予想されるが、そこでは、入出力の観点で研究開発活動の効率性等の分析が重要になろう。本研究では、入力としての研究費と出力としての論文生産に焦点を当てて、その経年推移および相互関係から、我が国の研究開発の実態に迫った。また、対象分野として、現在我が国の研究開発における重要分野であるライフサイエンス研究に着目し、そのパフォーマンスの国際的な位置、他分野との優位性等について、時間的な流れの中で、特徴を描き出すことを試みた。
- 2.研究課題の概要
- 研究開発全般における入出力(予算に対する論文数および論文シェア)の国際比較、日本のライフサイエンス分野のパフォーマンス分析の2つが研究課題である。後者のライフサイエンス分野の分析では、1)政策の変遷と研究投資、2)論文シェアの変遷、3)我が国のライフサイエンス関連分野での入出力比較、の3つの角度から分析した。
- 3.得られた成果・残された課題
- 自然科学全分野について、国の研究開発支出に対する論文生産の国別シェアを、年を追ってプロットして分析した。多くの国で研究費が伸び悩む中、日本では大きく増大してきている状況が分かる。また、研究費の伸びに対する論文シェアの伸びの点では、オランダ、イタリア、ベルギーといった比較的研究開発支出の少ない国で著しく、一方、日本では、さほど効率的ではない状況が読みとれた。
- ライフサイエンス分野に限った分析では、1970年代から99年まで、ライフサイエンスに関する政策の変遷を追うために、政策大綱、科学技術会議の答申、および学術審議会、厚生科学会議などの動向を調査し、政策の変遷と執行レベルの変遷の概表を得た。さらに、研究投資の変遷も調査した。ライフサイエンス分野の論文生産では、日本は着実にシェアを拡大してきており、特にがん研究など急成長分野がある。我が国の研究開発全般の中でライフサイエンス研究は、論文生産においてまだ優位であるとは言えないが、国際的にはそのシェアを着実に伸ばしつつある。さらに分野によっては、がん研究に見られるように、振興施策による研究投資に後押しされた形で、パフォーマンスの著しい分野も見られることが示唆された。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- [1] 渡部康一、藤垣裕子、我が国のライフサイエンス分野における数量的分析〜政策変遷、予算および論文生産の時間的推移をめぐって〜、POLICY STUDY、No.4、1999年6月
科学技術政策コンセプトの進化プロセスに関する研究
藤垣裕子、永田晃也(北陸先端科学技術大学院大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、科学技術政策の歴史を政策コンセプトの進化プロセスと捉えて分析することを目的としている。
- 2.研究課題の概要
- 多様なステークホルダーの利害の調整を経て政策シナリオの設定が行われる公共政策の立案プロセスは、諸個人の認知、パースペクティブなどを他者と共有可能な概念(コンセプト)として表出する「コンセプト創造」のプロセスとして捉えることができる。たとえばCOE、研究組織の流動性(フレキシビリティ)、あるいは研究アカウンタビリティ論など、その年度、あるいは時代ごとにキーコンセプトとして現れる概念は、そのままその年度や時代に必要とされる政策のありかたをうまく反映し、またそれゆえに多様な利害の調整に役だっていると考えられる。本研究の目的は、明文化される政策コンセプトの時系列変化を捉え、科学技術政策の歴史を政策コンセプトのダイナミックな進化のプロセスとして捉える視点から検討することである。政策コンセプトがどのように生成され、正当化、普及、定着の過程を辿るのかを調べ、新しい政策コンセプトが生成されるための条件を抽出し、今後の政策立案におけるコンセプト生成に寄与することを目的とする。
- 3.得られた成果・残された課題
- まず科学技術会議の過去の全答申(1960年の第1号答申から1996年の第23号答申まで、36年分)のデータベース化を行い、これを用いて語の頻度分析、共語分析(関連性尺度および共出現マトリクスに対する因子分析)を行った。その結果、新しいコンセプトの創出、例えばCOE、産学連携、地域科学技術などの出現を時系列的に追うことができた。これは、当時の公共ニーズと国際トレンド(海外からの要求、日米関係)を反映している。また各答申における語の出現頻度ランキングの動向による政策イシューの変化を追跡した。さらに共語分析によって、基本的な政策コンセプトの変化を追った。たとえば「基礎研究」という語は第1号答申(1960)においては「応用研究」という語とともに語られるのに対し、第11号答申(1984)では「社会的ニーズ」という語とともに語られ、第23号答申(1996)では「経済的ニーズ」という語とともに語られる。各期の社会政治的付置(たとえば大学と国研の関係など)の動きが共語マトリクスに反映され、各期のコンセプトの変化(基礎研究概念、科学技術という概念の変化)が語頻度、共語関連性尺度に反映されていることが示唆された。これらの結果をもとに、政策語をめぐる言語表出と政策行為の関係について吟味した。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表などの研究活動
- [1] 藤垣裕子、永田晃也、科学技術政策コンセプトの進化プロセス:科学計量的アプローチによるダイナミクスの分析、POLICY STUDY NO.5(2000年3月)
科学技術活動の定量分析の体系化に関する基礎的研究
富澤宏之
- 1.調査研究の目的及び性格
- 科学技術活動に関する諸データの定量的分析は、科学技術政策研究や科学社会学の経験的・実証的研究において、あるいは科学技術政策の立案においても欠かせないものとなっている。しかし、その基礎となる概念や理論が充分に確立されておらず、しばしば分析結果についての誤解や不適切な利用が見られる。そのため、本研究は、このような分析とその利用に関わる諸概念を体系的に整理し、また基盤データの性質や分析手法を構築することを目的としている。
- 2.研究課題の概要
- 科学技術指標に関する基礎諸概念や理論的基盤について、経済学、社会学等の社会科学や心理学における測定論などを参考にして理論的検討を行った。特に、科学技術指標の体系化に対するシステム論的アプローチの適用を中心に検討を進めた。また、知識重視社会(Knowledge-based-society)の到来に伴いますます重要となっているイノベーションの実態とその競争力の決定要因を把握するために、イノベーション競争力の測定システムをいかに構築するかを検討した。
- 科学技術指標の作成・利用の実態を理解するために、科学技術における様々な意思決定における指標の機能に焦点をあてた分析を行った。
- データの性質等に関しては、科学文献や特許のデータベースの収録内容・データ構造を調べ、抽出可能な定量データを検討する一方で、科学技術政策研究や科学社会学における重要性の観点から検討した。また、実際にデータを加工して、科学技術政策策定の資料となる指標を作成した。
- 科学技術指標の作成・利用の実態を理解するために、科学技術における様々な意思決定における指標の機能に焦点をあてた分析を行った。
- 3.得られた成果・残された課題
- 指標の基礎に関しては、指標のインターフェイス機能に着目した理論構築を行い、意思決定における指標の機能や問題点を明確化した。その応用として、イノベーション競争力の測定システムを構築するためのアプローチを提示した。
- 科学技術指標の作成・利用の実態の分析からは、技術とそれが依拠する科学知識との連携を示す指標(サイエンスリンケージ指標)等の作成・分析を行い、また政策立案の資料として関係部局に提出し、その有効性を確認した。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] Hiroyuki Tomizawa, "A theory of
indicators as interfaces", Society for
Social Studies of Science, Annual Meeting
1999, San Diego, California, USA, October
26, 1999.
- [2] Hiroyuki Tomizawa, "Measurement System for Innovation Competitiveness", The First Japan-Korea Science and Technology Forum, Seoul, Korea, November 24, 1999.
生活領域に浸透する科学技術と社会規範との相関に関する研究
綾野博之
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、以下の問題意識を中心にして、特定の科学技術の社会的側面について明確化することを目的とする。
- 科学技術の生活領域への浸透および情報技術の発達によって,科学技術と社会との相互関係が大きく変わってきている.生産技術の高度な発展は,生活領域における科学技術の浸透と発達を促し,一方で,パーソナル化された科学技術としてわれわれのごく身近に存在している.現在の個人ベースで使われる科学技術は同時に,個人や組織の倫理や信念との関係を相互に社会的に新たな形で調整するという課題を提起する性格を持つ.個人ベース(あるいは家族ベース)で使われる科学技術は,社会的な枠組みの整備を行って初めて,その効率的で「適切な」発達が促進されるという社会的な性格を合わせ持つ傾向が強く,それらの科学技術を企業活動や個人・家族生活に組み込む社会的な選択や方向付けと切り離して論じることができないような形で存在することが多い.
- 本研究は,特に生活領域に浸透してくる科学技術に絞り込んで,科学技術と社会との境界面の変化について整理しながら,特定の科学技術を利用する際に生じてくる社会的な規範に関わる問題の特性について明らかにしていく.科学技術の対象としては、とくに遺伝子治療を選んだ。
- 科学技術の生活領域への浸透および情報技術の発達によって,科学技術と社会との相互関係が大きく変わってきている.生産技術の高度な発展は,生活領域における科学技術の浸透と発達を促し,一方で,パーソナル化された科学技術としてわれわれのごく身近に存在している.現在の個人ベースで使われる科学技術は同時に,個人や組織の倫理や信念との関係を相互に社会的に新たな形で調整するという課題を提起する性格を持つ.個人ベース(あるいは家族ベース)で使われる科学技術は,社会的な枠組みの整備を行って初めて,その効率的で「適切な」発達が促進されるという社会的な性格を合わせ持つ傾向が強く,それらの科学技術を企業活動や個人・家族生活に組み込む社会的な選択や方向付けと切り離して論じることができないような形で存在することが多い.
- 2.研究課題の概要
- 遺伝子治療に関わる社会的・倫理的諸問題の現状をできるだけ簡明な形で整理し、その技術的現状、専門家集団・政府による対応の現状とともに、指摘される社会的・制度的な課題などについて情報提供に資するようまとめる。
- 1) 遺伝子治療実施に当たっての社会的・制度的な課題の整理
- 2) 遺伝子治療臨床研究の日米の研究現状(簡略なサーベイ)
- 3) 生殖細胞遺伝子治療の実施までに至る諸段階の考察
- 現在の医療技術と遺伝子操作技術の急速な発展は目覚ましいものがあり、重要な社会的なインパクトを与える技術として遺伝子治療はとくに注目に値する。これから日本社会は高齢化社会/少子社会へと向かう傾向にあり、医療の高度化は、治療医学から予防医学という性格を強く持つ可能性が高い。生殖系列細胞を含む遺伝子治療の実施までの社会的過程について考察することは、科学技術の社会的なインパクトを見積もり、調整する一つの段階として必要な作業と見られる。
- 遺伝子治療臨床研究の現状と共に、先端的な科学技術の研究実施者、間接的な位置にある生命倫理研究者、一般市民等、広く多様な社会的な意見を収集し、できるだけ簡明な形でまとめることによって、社会的な意志決定にかかわる諸問題を整理した一資料として役立つことを目指す。
- 本年度は、これまでの研究成果をまとめ、今後の状況を見すえた検討課題を明確化していく。
- 1) 遺伝子治療実施に当たっての社会的・制度的な課題の整理
- 3.得られた成果・残された課題
- 昨年10月には、アメリカの4Sで報告を行った。1998年3月までに行われた「遺伝子治療に関するコンセンサス会議」の分析をとおして、日本の人々の生命倫理にかかわる議論・意識の特徴を紹介するとともに、コンセンサス会議を認知論的に考察した。この発表は、科学技術と社会の考察で広く知られる社会認識論を主導する英国ワーウィック大学Steve
Fuller 教授などより高い評価を得た。
- 今後はこれらの成果をまとめていきたい。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] AYANO Hiroyuki, "Consensus Conference on Gene Therapy in Japan, and Understanding Advanced Technologies", Society for the Social Studies of Science Annual Meeting, at University of Arizona, San Diego, USA, October 27-30, 1999
(3)第1調査研究グループ
創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方
―科学技術人材の流動化促進に係わる調査研究―
和田幸男、木村 良
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査研究は、創造的な科学技術人材の育成・確保および研究者等の研究ライフサイクルの確立を目指した人材流動化促進に係わるものである。産学官の研究機関における機関内部の異動も含めた研究者等の人材流動に係わるニーズおよび実態、諸課題を、研究機関側とそこで働く研究者等の両面から調査研究し、細部に亘った現状把握と流動化促進のための政策提言することを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 本調査研究では、人材流動を一部の先端的な研究部門だけに焦点をあてて考えるのではなく産学官全体の問題として、また支援者・補助者も含めた研究者等の多様な研究活動生涯(ライフサイクル)の上から捉える必要があると考える。そのため本調査研究で実施する主要な点は、今後の流動化促進環境下における研究者等の望ましい研究活動ライフサイクルに係わる流動視点を検討する。さらに、これらの流動視点における産学官の研究者等の流動現状を把握・考察し、望ましい人材流動促進に係わる今後のあり方について提言する。そのためのアンケート調査と一部ヒアリング調査を行う。
- 3.得られた成果・残された課題
- 得られた研究成果:
- ・研究者人材の流動促進環境下における研究活動ライフサイクルの11の流動視点を検討した。
- ・産学官の研究機関の機関側および研究者・技術者等側からの回答による、これまでにあまり報告例がない11の流動視点に関連する細部に亘った実態把握をすることができた。
- ・これらにより、各流動視点における流動の現状と今後の流動傾向およびそれらに係わる流動促進のための提言を幅広く行うことができた。
- ・産学官の流動関連の全体を鳥瞰した総合的な流動促進に係わる考察と提言を行うことができた。
- ・産学官の研究機関をその性格上6つの機関群に分類解析し、各群の人材流動結果の特性を捉え考察し、流動化促進に係わる提言を行うことができた。
- ・研究者人材の流動促進環境下における研究活動ライフサイクルの11の流動視点を検討した。
- 4.特記事項
- 特になし
- 5.論文公表等の研究活動
- 報告書完成後、論文投稿する予定である。
科学技術活動に係わるコーディネート機能・人材に関する調査研究
前澤祐一
- 1.調査研究の目的及び性格
- 今日の科学技術研究・開発状況下、研究者・技術者の育成、その能力を発揮させるための条件の整備もさることながら、総合的な科学技術力を高めていくためには、研究開発戦略の策定、研究成果の適切な移転・事業化等のコーディネート機能を一層充実させるとともに、この機能を担うコーディネート人材を育成・確保することが不可欠となっている。特に、今日、研究開発の推進においても“選択、集中、スピード”の考え方が求められており、新しいタイプのコーディネート機能・人材に対する期待が大きくなっている。
- 2.研究課題の概要
- これまで、科学技術人材に関し研究者・技術者の育成・確保については、多くの調査研究が行われてきたが、コーディネート機能の重要性が正当に認識されているとはいえず、コーディネート機能・人材に焦点を当てた調査研究はほとんど実施されていない状況にある。このため、インタビュー調査、質問票調査等によりコーディネート機能・人材の現状、課題、今後の方向性を明らかにし、今後の産学官連携に係る施策、科学技術人材等に関する施策の立案等に資する。
- 3.得られた成果・残された課題
- 幅広い文献調査を行うとともに、大学共同研究センター、企業研究機関、地域研究機関、国立試験研究機関、特殊法人にインタビュー調査を実施した。その結果、各種文献および各機関からの資料等の検討により、これから最も求められるコーディネート機能について、大学、公的研究機関および民間企業と分類して考察できた。アンケート調査およびインタビュー調査から、各機関におけるコーディネート機能等の現状(重要性、マネイジメントの手法、コーディネート機能に関する組織および研究開発事項等)について、現状把握することができ、更にこれらの結果を基に今後のあり方を考察することができた。具体的には、コーディネイト機能の強化、人材の育成・確保のため今後のとるべき方向性として、・集団的創造性を高めるため“協創”的協力関係の構築へ、・公的研究機関におけるコーディネート機能強化等の7つの観点から基本的なあり方を論究することができた。
- 4.特記事項
- 本資料は、下記の報告書に基づき同調査研究グループの和田が代筆した。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] DISCUSSION PAPER No. 12「科学技術活動に係わるコーディネート機能・人材に関する調査研究]、平成11年8月
これからの研究開発と人材養成等の諸政策の連携・統合に関する調査研究
木村 良、平澤 冷、富沢宏之、藤垣祐子、前澤祐一、和田幸男、中田哲也、佐野亮子
- 1.調査研究目的及び性格
- 行政改革の一環として、2001年に文部省と科学技術庁が統合される。両省庁の政策研究機関にあたる国立教育研究所と科学技術政策研究所は、そのため、これまで以上に緊密な協力関係を構築することが求められる。このことから、具体的な方策の一つとして本共同研究は、学術・教育政策と科学技術政策等の政策形成と行政のあり方および人材教育・育成のあり方等を連携・統合し総合的に検討しようとするものである。
- 2.研究課題の概要
- 前年度、共同研究実施に当たっての予備的会合をもち、相互の研究機関におけるこれまでの研究活動の紹介を行いながら、今後の共同研究内容等の検討を行った。その結果、表題にあるような共同研究テーマのもと、以下に示すサブ共同研究テーマを定め、平成11年4月から共同研究を実施することになった。サブ共同研究テーマは、(1)学術政策、科学技術政策および教育政策の総合的な政策形成と行政のあり方、(2)高等教育における人材養成のあり方等、(3)産学官の協調による研究開発推進の条件、(4)科学教育、科学技術理解増進の4テーマである。
- 3.得られた成果・残された課題
- 共同研究の会合は、全共同研究者による全体会合とサブテーマごとの個別会合に分類して開催され、その内全体会合は、平成11年4月から12年2月まで7回開催された。本年度の研究活動は、各サブテーマについて相互の議論・検討による研究成果を創出するところまでには至らず、各回ごとの研究実施状況等の報告、関連研究成果報告および関連海外出張報告等がなされ、議論・協議したところまでとなった。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- これらの共同研究活動を踏まえ両研究所は、独自に共同研究成果を適宜報告書として報告することになる。科学技術政策研究所では、これまでの共同研究会合において政策研側で発表した本共同研究関連の資料をとりまとめ、更にこれまでの共同研究活動の総括を行った内容の報告書を平成12年度の前半に報告書としてまとめる予定である。
科学技術人材の需給に関する調査研究
中田哲也
- 1.調査研究の目的及び性格
- 今後の我が国における科学技術活動を担う人材の安定的に確保していくためには、将来、必要とされる研究者の需要を予測し、その上で、その人材を供給していくための方策を検討していくことが重要であるとの考える。このことから本調査研究は、先行研究の手法を踏襲して将来の研究者数の予測(需要の推計)を試みるとともに、このような予測手法の限界及び将来の課題について考察することを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 最近、科学技術を巡る状況が大きく変化する中で、特にソフトウェア技術の比重の増大、バイオテクノロジーの発展に対する期待の高まり、従来のディシプリンにはない新たな領域の出現等の動きが顕著となっている。しかしながら、科学技術人材の需給のバランスが、このような状況に十分対応しているとは言い難い。このため、本調査研究においては、科学技術人材の量的・質的需給に関し、主要分野ごとに、現状、課題、今後の方向性を明らかにし、今後の科学技術政策の企画・立案に資することとする。
- 3.得られた成果・残された課題
- 会社等及び研究機関と大学等の2つに分けてそれぞれの将来の研究者数を推計・分析した。
- また、本調査研究の結果、研究者の需要推計において基本的課題があることが明らかとなった。今後、これらの課題を解決することが研究者数の将来予測をする上で重要である。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究課題
- [1] Discussion Paper No.13「研究者数予測の試みとその課題に関する考察」 (1999.10)
第4版科学技術指標に関する調査研究
第4版科学技術指標プロジェクトチーム
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、多様かつ複雑な科学技術活動を定量的データに基づき、総合的・体系的に分析・評価することで、世界における日本の科学技術の水準を明確にし、今後の科学技術政策の企画・立案に資することを目標とする。
- 2.研究課題の概要
- 科学技術指標については平成3年度に最初の報告書を作成して以来、ほぼ3年ごとに改訂を行ってきており、本年度、所内に第4版科学技術指標プロジェクトチームを設置し、第4版科学技術指標を作成した。
- 3.得られた成果・残された課題
- 国際比較や時系列などのより詳しい情報の充実等機関評価委員会における指摘や、科学技術指標に対するニーズ等を念頭に置き、第4版科学技術指標を作成した。本版では、従来の現状報告型や国際化などの状況を判定する判定型から、政策の効果を評価する政策評価型に近づけるよう、個々の指標の見直しを行った。例えば、適切な議論を行うための指標や国際比較による日本の科学技術の問題点や弱点を示す指標等を提示するなどの充実を図った。また、科学技術の経済・社会への寄与において、付加価値労働生産性と全要素生産性を用いて科学技術と生産性の向上の関係を示すとともに商品イノベーションに関する指標の開発を行った。
- 4.特記事項(研究のオリジナリティ・その他)
- 多様かつ複雑多岐にわたる科学技術活動を、定量的データに基づき総合的・体系的に分析・評価する本指標は、国内では当研究所以外で開発しているところはない。また、国外では、欧米や一部の開発途上国で取り組まれているが、理論と実証の両面から体系的に取り組んでいる点で国際的にもユニークなものといえる。
- 5.論文公表等の研究活動
- 科学技術指標プロジェクトチーム「科学技術指標−日本の科学技術活動の体系的分析」(第4版)2000年4月刊行予定
(4)第2調査研究グループ
先端科学技術と法的規制
大山真未
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査研究は、科学技術と人間・社会との調和を図るための施策の立案・推進に資することを目的とし、科学技術(特に生命科学技術)の急速な進展に伴い生ずる倫理的、法的、社会的な問題の指摘、対応の在り方についての提言を行うことを目指すものである。
- 2.研究課題の概要
- 当グループでは、従来から科学技術と人間・社会の関わりについての調査研究を行っており、特に近年、科学技術の進展が社会にもたらす変化をめぐる法的問題を取り上げている。本年度は、いわゆるヒトゲノム研究とその応用としての遺伝子診断、遺伝子治療等を契機として生じてくる倫理的、法的、社会的問題について、その概況とこれまでの国際機関、欧米各国、日本での対応、検討の状況について調査研究を行い、今後の課題と方向性について考察を行った。
- 3.得られた成果・残された課題
- 文献調査、有識者からのインタビュー等により、国際機関による宣言、条約のほか、米国、欧州(英・独・仏等)各国の国内生命倫理諮問委員会の報告、国内法制、さらに日本でのこれまでの国、学会等による検討、対応状況を概観し、加えて、法学諸分野、倫理学等の社会科学の関連論文をサーベイし、共通して取り上げられている留意事項、問題点、対応策等を抽出し、今後のヒトゲノム研究と社会との関わりをめぐり、検討の求められる課題と対応の在り方について、考察を行った。
- 今後、引き続き先端的科学技術に関する法的諸問題について、文献調査に加え、法学諸分野、政策科学等の研究者によるフォーラムを形成するなどのアプローチにより、調査研究を行う予定。
- なお、昨年度の調査研究成果である「先端科学技術と法的規制<生命科学技術の規制を中心に>」POLICY STUDY No.1 (1999.5)については、英訳版を作成しており(2000年4月発表予定)、今年度の成果についても同様に海外への情報発信を試みたい。
- 今後、引き続き先端的科学技術に関する法的諸問題について、文献調査に加え、法学諸分野、政策科学等の研究者によるフォーラムを形成するなどのアプローチにより、調査研究を行う予定。
- 4.特記事項
- 生命科学技術と法的規制に関する調査研究結果について、1999年12月に、衆議院科学技術調査室に対して説明を行った。
- 「ヒトゲノム研究とその応用をめぐる社会的問題」調査資料No.66 (2000.3)については、2000年3月6日に、科学技術会議生命倫理委員会ヒトゲノム研究小委員会において、報告を行った。また、平成11年度科学技術政策基礎調査による「ヒトゲノムの研究開発動向及び取り扱いに関する調査」(委託調査)に委員として参加し、同調査資料の説明を行った。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 國谷 実、大山真未「先端科学技術と法的規制(生命科学技術の規制を中心に)」,第14回研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨集399-404
(1999)
- [2] 大山真未「ヒトゲノム研究とその応用をめぐる社会的問題」調査資料No.66 (2000.3)
1970年代におけるテクノロジー・アセスメント施策についての調査研究
寺川 仁、木場隆夫、平野千博(岩手県立大学)、木村 良
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査は、1970年代の我が国におけるテクノロジー・アセスメントを巡る状況を科学技術庁の施策を中心に調査し、テクノロジー・アセスメント活動が停滞していった理由を分析することにより、今後の科学技術と人間社会の調和を目指す政策に向けての基礎的な資料を提供することを目的とした。
- 2.調査研究課題の概要
- 1960年代末から1970年代にかけて、新たな技術開発に当たって事前にその技術がもたらす影響の多面的評価などを行うテクノロジー・アセスメントの概念が米国から我が国に導入され、科学技術庁等によって事例研究、普及活動などの取り組みが行われた。
- 本調査においては、科学技術庁を中心に、科学技術会議、他省庁、そして民間のテクノロジー・アセスメントに関する様々な活動について、文献調査及びインタビューによって、その経過を整理するとともに、テクノロジー・アセスメント活動が停滞していった理由等を分析した。
- 3.得られた成果・残された課題
- 1960年代後半にテクノロジー・アセスメントの概念が米国で生まれた状況、我が国に導入された状況、1970年代における科学技術庁等の施策、科学技術会議の答申等、環境アセスメントとの関連などについて当時の文献により経過を整理した。
- さらに、当時のテクノロジー・アセスメントの定義等、テクノロジー・アセスメント関係の活動が停滞していった主な理由、当時の我が国におけるテクノロジー・アセスメント活動が果たした役割について分析を行った。
- 近年、研究開発によって新たに生み出され社会に適用される科学技術について、大きな期待だけではなく、人間・社会へのマイナスの影響が懸念されており、研究機関が実施する技術開発課題の評価などにおいて、これらの経験を生かしていくことが望まれる。
- さらに、当時のテクノロジー・アセスメントの定義等、テクノロジー・アセスメント関係の活動が停滞していった主な理由、当時の我が国におけるテクノロジー・アセスメント活動が果たした役割について分析を行った。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 寺川仁、木場隆夫、平野千博、木村良「1970年代における科学技術庁を中心としたテクノロジー・アセスメント施策の分析」調査資料No.68(2000.3)
科学技術に関する市民の意見に関する考察−コンセンサス会議の事例から
木場隆夫
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査研究の目的は、「科学技術と人間社会との調和」をいかに図るかという観点から、科学技術に関する専門家と市民の知識構造の違いと意見の齟齬という状況を分析し、市民の意見とはどのような性格のものであるのかを考察しようとするものである。その手だてとして世界各国に広まりつつあるコンセンサス会議に注目し、1997年度に引き続いて、1999年度にもコンセンサス会議が実験として行われたので、その経過を観察し、その結果の分析を行った。
- 2.研究課題の概要
- コンセンサス会議においては、特定の科学技術のテーマを選定し、それに利害関係のない市民十数名を選び、「市民パネル」とし、市民パネルの考えた「鍵となる質問」に対応可能な専門家十数名を「専門家パネル」として、専門家から市民にわかりやすい説明をし、その後、市民パネルと質疑応答を行う。その後、市民パネルだけで議論を行い、その科学技術についての意見をまとめる。1997年度の議題は「遺伝子治療」で、1999年度の議題は「高度情報社会−とくにインターネット」であった。会議のプロセスを分析すると、集まった市民は、専門家からの話を非常に良く聞き、問題の理解をすることに非常に熱心であった。専門家からの説明によって事情を理解し、専門家を信頼するようになる。しかし、それだけではなく、市民の感覚をもとにした「問題の可視化」をするようになる。何が解決されていない問題であるのかを指摘するのである。遺伝子治療の場合であれば、インフォームドコンセントの書式が患者の立場からみれば不備であるとの指摘があった。高度情報社会でも、インターネットが普及する世の中になったときに自己情報コントロール権といったプライバシーの保護を図るべきだという意見や、情報教育が重要であるといった指摘がなされた。
- 3.得られた成果・残された課題
- 会議の観察を通じて、市民が真剣に学習し、そして専門家も容易に発言できないような問題を提示することができることがわかった。科学技術は専門的な事項が多いので、「市民の意見」といっても、容易に何をもって市民の意見と考えるのかは、難しいことが多い。このような会議のプロセスを通じて、明らかになる市民の「問題の可視化」こそ、市民の意見として科学技術政策形成過程に含める意義が高いと考えられる。会議の設定方法については、残された課題が多い。議題の選択、事務局の役割、市民パネル、専門家パネルの編成の仕方など、考慮すべき点である。
- 4.特記事項
- 科学技術に関する社会実験及び対話分析的な研究という、新たな研究方式でアプローチをしている。
- 5.論文公表等の研究活動
- 学術論文
- [1] 木場隆夫,「コンセンサス会議の社会的意義についての考察−日本とデンマークの比較を通して」,岩手県立大学総合政策学会『総合政策』,第1巻第2号,(1999),pp.229-240。
- 学会等での発表
- [2] 木場隆夫,「科学技術政策形成における非専門家の役割」,日本公共政策学会 1999年大会(立命館大学),1999年6月13日
- [3] Kiba Takao 'An Interpretation of the Social Meaning of Consensus Conferences against Paternalism in the Policy Process' at the workshop of European Participatory Technology Assessment in Hague,Netherlands, 4-5 October 1999.
- [1] 木場隆夫,「コンセンサス会議の社会的意義についての考察−日本とデンマークの比較を通して」,岩手県立大学総合政策学会『総合政策』,第1巻第2号,(1999),pp.229-240。
21世紀に向けた宇宙開発政策の在り方に関する研究
岡本信司
- 1.調査研究の目的及び性格
- 平成12年度からの中央省庁等の再編に伴い、宇宙開発委員会をはじめ宇宙開発関係機関の機能、構成等が大きく変化することとなるため、宇宙開発委員会では宇宙開発政策大綱(平成8年2月改訂)を平成12年度中に改訂する予定であるが、今回の改訂に当たっては、21世紀に向けた宇宙開発の在り方のみならず、省庁再編後の宇宙開発推進体制、宇宙産業の展開等宇宙開発における様々な課題を検討していく必要がある。このため、これら改訂作業等に資するための関連調査研究を実施する。
- 2.研究課題の概要
- (1)「宇宙開発政策における貿易問題に関する考察」
- 宇宙産業への政府の関与を規制した衛星調達に関する90年日米合意、WTOにおける規制等について調査を実施する。
- (2)「宇宙の平和利用に関する考察」
- 我が国の宇宙開発における平和利用問題(宇宙開発事業団法及び国会決議による規制)について、これまでの経緯等について調査を実施する。
- (3)「省庁再編後の宇宙開発推進体制」
- 省庁再編後の宇宙開発関係機関の役割、あるべき姿等について調査を実施する。
- (4)「宇宙産業の今後の展開」
- 宇宙開発政策における宇宙産業の在り方、将来の政府・民間の役割等について産業界等の要望等について調査を実施する。(5)「21世紀の我が国宇宙開発の技術的課題」宇宙開発に関する技術動向について、ロケット等輸送系、衛星系、コンポーネント・部品等の個別分野における我が国の技術水準について調査を実施する。
- 宇宙産業への政府の関与を規制した衛星調達に関する90年日米合意、WTOにおける規制等について調査を実施する。
- 3.得られた成果・残された課題
- 「宇宙開発政策における貿易問題に関する考察」及び「宇宙の平和利用に関する考察」に関する調査を実施した。平成12年度は、その他の課題について調査を実施する予定。
- 4.特記事項
- これまでこの種の調査研究が行われた事例はない。
- 5.論文公表等の研究活動
- 特になし。
科学技術の公衆理解に関する研究
岡本信司
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、「科学技術と人間・社会との調和」をはじめ科学技術の公衆理解に関して、科学技術一般のみならずライフサイエンス、宇宙開発、マルチメディア等個別分野について、一般国民をはじめとする意識調査等を実施して、統計的手法等を活用した分析評価を行うことにより、公衆理解に関する問題点を抽出し、その結果を踏まえて、科学技術に対する不安、不信感を払拭するための具体的な理解増進方策に関する政策提言を行い、科学技術に対する理解の増進を図ることを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- (1)研究基盤整備
- 国内外の研究者ネットワークの構築とデータセンター機能の確立等による研究基盤の整備
- (2)国民の科学技術に関する意識調査の実施
- 1)科学技術一般に関する意識調査
- 総理府世論調査等の活用及び科学技術の理解度(リテラシー)等に関する一般国民への意識調査の実施・分析
- 2)個別分野別意識調査
- ライフサイエンス、宇宙開発、マルチメディア等の個別分野に関する一般国民への意識調査の実施
- 3)その他
- 専門家、有識者等への意識調査の実施
- (3)科学技術理解増進方策の検討
- (2)の意識調査結果を踏まえて具体的な理解増進方策を検討
- (4)国際協力及び国際共同研究の実施
- 国際研究グループとの積極的協力、国際共同研究の実施
- 国内外の研究者ネットワークの構築とデータセンター機能の確立等による研究基盤の整備
- 3.得られた成果・残された課題
- 国内外の研究者ネットワークの構築とこれまでに実施された科学技術に関連する国内外の意識調査等に関する情報収集等の研究基盤整備を行うとともに、平成12年度に一般国民に対する科学技術に関する意識調査を実施するための準備を行った。
- 4.特記事項
- これまで当研究所において、「日・米・欧における科学技術に対する社会意識に関する国際比較調査」をはじめ多くの関連研究を実施してきた経緯あり。 また、研究協力者として参画している文部省科学研究費補助金基盤研究「科学教育システムに関する国際学術調査」(平成11〜13年度)との連携を図る。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 岡本信司 「科学技術に関する意識調査の実施と分析手法について」2000年4月刊行予定。
(5)第3調査研究グループ
地域における科学技術資源指標策定に関する調査研究
新舩洋一、森川晴成、柿崎文彦、渡辺俊彦、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査は、平成8年度に実施した「地域科学技術指標策定に関する調査」において試みられた地域における科学技術革新のための科学技術資源計測手法の精緻化と、現実の地域経済に対する応用方策等について調査研究するものである。
- 2.調査研究課題の概要
- 平成8年度に実施した「地域科学技術指標策定に関する調査」において検討された理論的基礎を再度検討して発展させるとともに、新しい指標の追加及び適切な指標の検討を行った上で、それら指標のデータの更新を行う。また、できあがったデータベースをもとにして、より精度の高い地域特性の分析を行う等指標を利用した解析の精度向上を図る。なお、調査研究に際しては、関係資料・参考文献の収集のみにとどまらず、都道府県の公設試験研究機関や研究開発型中小企業へのインタビュー調査の成果も参考とした。
- 3.得られた成果・残された課題
- 関係資料・参考文献の収集によって指標の数が増加するとともに、インタビュー調査結果等を踏まえて交通の利便性等の新しい種類の指標を導入するなどした結果、前回の報告書にくらべて指標の種類・数ともに豊富になった。
- 本調査研究の成果については、平成12年度に報告書にまとめ刊行する予定である。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- 特になし。
我が国の廃棄物処理の現状と課題
休井正人
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、廃棄物処理問題を文明社会と地球環境の抗争の一つとしてとらえ、その解決のために廃棄物を資源と考え再利用する社会の仕組みを作り上げることを目的として、我が国の廃棄物処理及び再利用の現状を調査・分析するとともに、諸外国の現状も踏まえた上で今後の「環境調和型社会」構築への動きをさぐったものである。
- 2.研究課題の概要
- 廃棄物を資源と考え再利用する社会の仕組みを構築するために、まずは我が国の廃棄物処理や廃棄物再利用の現状をまとめることとし、関係資料の収集及び文献調査に努めた。
- 3.得られた成果・残された課題
- 現状における廃棄物処理の現状が明らかになるとともに、既に再利用が実現できているもの、近い将来再利用が可能になると思われるもの、今後再利用のための研究開発が必要なものに分類することができた結果、今後どのようなものについて再利用のための研究開発が必要であるかが明らかになった。
- 4.特記事項
- 従来廃棄されていた物を資源と考え再利用するというテーマに焦点を絞り、廃棄物再利用の現状を様々な分野に渡って網羅的に、かつ詳細に調査研究した本報告書の調査結果は、今後の循環型経済社会制度の確立や技術開発の推進に向けた研究への貴重な基礎資料となることが期待される。
- 5. 論文公表等の研究活動
- [1] 休井正人「我が国の廃棄物処理の現状と課題」調査資料No.64(1999.12)
我が国製造業の空間移動と地域産業の構造変化に関する研究(業種分類3桁での解析)
休井正人、柿崎文彦、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、科学技術と地域経済との関連についての研究が近年重要視されている背景に基づき、標準産業分類2桁(23業種)のレベルで我が国製造業の立地動態についてその空間移動特性及び地域産業の構造変化を解析し公表した(「我が国製造業の空間移動と地域産業の構造変化に関する研究」、NISTEP REPORT No.60)。本研究はこの成果を受け、3桁の業種分類を用い、産業の立地動態等をより詳細に把握することを目的とした。
- 2.研究課題の概要
- 採用した解析手法はNISTEP REPORT No.60にて公表したものと同等である。用いたデータは工業統計表産業編1980年〜1994年の15年間で、3桁の産業分類では業種の数が約160と大幅に増加した(2桁分類では23業種)。また、地域区分は都道府県を単位として、事業所規模別(大事業所及び中小事業所)ごとの産業立地特性指数、地域産業構造転換指数、地域産業集積係数を、それぞれ事業所数、従業者数、製品出荷額、付加価値生産額について算出した。
- 3.得られた成果・残された課題
- 一般的に規模の大きな事業所ほど立地上の制約を受けるので特定地域への集積が高なり(産業立地特性指数が大きくなる)、規模が小さくなるほど立地上の制約は少なくなる(産業立地特性指数が小さくなる)傾向がある。しかしながら、畜産食品製造業、家具製造業、あるいは2桁分類の輸送用機器製造業では大規模事業所と中小の事業所の立地特性に類似性が認められ、異なる事業所の密接な事業あるいは取引関係の存在を示すものと考えられる。今後、地域産業構造転換係数及び地域産業集積係数についても考察を加える予定である。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 権田金治、休井正人、「産業の立地特性(分散と集積)」、研究技術計画学会第14回年次学術大会講演要旨集、pp. 308-313.
我が国における製造業の集積と競争力変化に関する考察
中田哲也、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査研究は、科学技術と地域経済との関連についての研究が近年重要視されている背景に基づき、近年における我が国製造業の立地動態に関する解析手法の開発を行いそれを用いて各都道府県における製造業の立地動態を分析するとともに、新たな産業集積の動きが見られる地域を発見しその集積の理由等を探ることで、地域における科学技術振興施策の企画・立案のための基礎理論情報を提供することを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 各都道府県のおける各種製造業の業種別事業所数に着目し、それが同一業種の全国事業所数に占めるシェアの変遷を示す「産業内競争力変化指数」及び同一都道府県内の全製造業事務所数に占めるシェアの変遷を表す「地域内競争力変化指数」を用いて解析を行い、その時系列的な変化を比較・評価する。
- また、この解析の結果、新たな集積の動きが見られる業種については、その集積地域を訪問し集積の理由を探る。
- 3.得られた成果・残された課題
- 解析の結果、青森県や秋田県において衣服等製造業(アパレル)の新たな集積の動きが見られることが判明した。現地調査をした結果、この新たな集積の背景には、県の積極的な企業誘致策、業界団体の意欲的な取組及び地域におけるリーダーの存在があることが判明した。
- 4.特記事項
- 産業内競争力変化指数及び地域内競争力変化指数という新しい指標を開発し、それによる定量的分析を行った。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 権田金治、中田哲也「我が国製造業の集積の実態に関する一考察」研究・技術計画学会第14回年次学術大会講演要旨集314-319(1999)
- [2] 中田哲也、権田金治「我が国における製造業の集積と競争力変化に関する考察」DISCCUSION PAPER NO.15(2000.2)
アジアと欧州の中小企業における国際競争と協力
柿崎文彦、森川春成、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 様々なイノベーションが産業、研究機関、大学などの科学技術を担う主体の集合体から生み出されている。このような集合体は地理的な集積という視点、あるいはそれらがネットワークを形成していることがしばしばあり、「クラスター」とよばれることがある。こうしたクラスターが企業の競争力に大きな影響を与えるものとして地域科学技術政策研究の中心的な課題になっている。
- 2.研究課題の概要
- 本研究は当研究所と英国エジンバラ大学との共同研究として進められているが、エジンバラ大学側は本共同研究をEC12総局からの受託研究の一環として実施している。英国からは同大学のほか、オックスフォード大学が参加し、英国以外の国・地域からはイタリア、ギリシア、イスラエル、韓国、台湾が参加している。共同研究の目標は中小企業の欧州/アジアにおける競争力評価にあり、産業クラスターに着目した中小企業の業態と立地特性の解明にある。対象としている産業セクターは先端産業、ソフトウェア産業、および伝統産業の代表として繊維産業が選ばれている。
- 3.得られた成果・残された課題
- 共同研究は参加各国が討論のうえ、中小企業の立地関する比較優位に着目したアンケート調査を実施することで進められた。「研究開発型中小企業の立地条件等に関する研究」で行ったアンケート調査は本研究と整合するように設計したものである。各国との比較研究が今後の課題として残されている。
- 4.特記事項
- 調査研究の手法は「研究開発型中小企業の立地条件等に関する研究」に示したものと同じである。
- 5.論文公表等の研究活動
- 本共同研究に関して1999年11月26日〜28日の期間、エルサレム(イスラエル)にてワークショップが開催された。発表内容等は以下の通り(いずれも英語)。
- 権田金治、「空間集積(クラスター)からみたイノベーション・メカニズム」
- 柿崎文彦、「日本における研究・技術開発と中小企業の立地について」
- 権田金治、「空間集積(クラスター)からみたイノベーション・メカニズム」
地域科学技術政策研究に関する国際会議(RESTPOR 2000)の準備
柿崎文彦、森川春成、渡辺俊彦、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本会議は、科学技術政策研究所が地域科学技術政策の果たすべき役割とその方向性について議論を交わすために1993年に開催を提起したものである。1998年11月に米国ノースカロライナで開催されたRESTPOR '98において本会議の日本での開催が決められたことを受けプログラムの企画等の開催準備を行った。なお、本会議は2000年9月に開催を予定している。
- 2.研究課題の概要
- プログラム企画委員会を設置し、メインテーマ、セッションテーマなどを決定した。
- 3.得られた成果・残された課題
- (RESTPOR 2000のメインテーマ)
- Co-Creation through Diversification - Role of Science and Technology in Region
- 多様性からの共創 −地域における科学技術の役割−
- ① A New Paradigm of Regional S&T Policy (地域科学技術政策の新パラダイム)
- ② Diversification in Partnership (パートナーシップの多様化)
- ③ Diversification of Regional Economy (地域経済の多様化)
- ④ Role of University (大学の役割)
- ⑤ Infrastrucrual Institution for Regional Innovation (地域技術革新のための仕組)
- ⑥ Clustering and Emergence of Knowledge (集積と知の創発)
- ⑦ Science, Technology and Region (科学技術と地域)
- Co-Creation through Diversification - Role of Science and Technology in Region
- 4.特記事項
- RESTPOR 2000 プログラム企画委員会委員
委員長 権田金治 科学技術政策研究所 客員総括研究官 委 員 新家健精 福島大学経済学部教授 〃 板山和彦 科学技術振興事業団 研究交流・支援促進室長 〃 鈴木 隆 科学技術庁 地域科学技術振興室長 〃 野村 隆 三重県科学技術振興センター長 〃 馬場靖憲 東京大学人工物工学研究センター教授 〃 山村武彦 株式会社優光社 代表取締役社長 〃 渡辺 孝 日本政策投資銀行 新規事業部長 〃 渡辺俊彦 科学技術政策研究所 総括上席研究官 オブザーバー William Blanpied 米国国立科学財団 東京事務所長 Mourice Bourene 駐日欧州委員会代表部一等参事官 Su Jing 中国科学技術部(STAフェロー)
- 5.論文公表等の研究活動
- 特になし。
研究開発型中小企業の立地条件等に関する調査研究
森川晴成、柿崎文彦、新舩洋一、渡辺俊彦、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 地域における科学技術活動の重要な担い手である研究開発型中小企業が立地を決定する際の要因と地域における研究・技術開発との関わり等について調査・分析を行うことによって、重要度の高い科学技術資源の所在を明らかにするとともに、イノベーションの過程における地域(空間)の役割について調査研究することを目的とする。
- 2.調査研究課題の概要
- 産業の空間移動特性に関して統計データの解析から、産業には集積立地するものと分散立地するものに大きく分けられることが分かってきた。こうした傾向は産業を構成する企業の業態あるいは研究・技術開発活動の違いとして仮説を提示してきたところである。本研究はその仮説の実証を目的に、地域の科学技術資源、科学技術基盤あるいは社会基盤との関連において研究開発型中小企業の立地動向について考察を行った。
- 3.得られた成果・残された課題
- 研究・技術開発活動と企業の立地との関連の把握を目的に、国内の企業(資本金1億円未満の企業で、製造業とソフトウェア業)を対象としたアンケート調査を実施した(1230社、回収率24%)。研究開発型中小企業の特徴として、独自の製品あるいは独自のブランドを有している。製造業に関して独自製品・ブランドを有する企業は一般に大都市圏に多いが、繊維産業では北陸地方に特徴ある集積の状況が見られた。また、ソフトウェア業では独自製品・ブランドを有する企業が地方圏に比較的多く存在していることなどが分かった。企業の立地に関して重要な要因としては、顧客・取引先、交通、物流のポイントが高くなっている。取引関係など地理的な要因を確認する必要があり、アンケート調査を補完するためにヒアリング調査を実施している。
- 4.特記事項
- 昨年に引き続き、学識経験者等で構成する「研究開発型中小企業の立地条件等に関する研究会」を開催した。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 柿崎文彦、森川晴成、新舩洋一、権田金治「地域における産業の立地要因の分析」
- 第14回研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨録472―477(1999)
地域における科学技術振興施策の構造的変遷等に関する調査研究
森川晴成、新舩洋一、柿崎文彦、渡辺俊彦、権田金治(東海大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 都道府県及び政令指定都市における科学技術振興施策については、これまで、過去4回にわたって調査を実施してきた。本研究は、これら過去4回の調査結果を詳細に分析することにより、地域における科学技術施策の構造的変遷の状況について明らかにすることを目的とする。
- 2.調査研究課題の概要
- 地域における科学技術関係経費は、調査の回数を重ねるごとに着実に増加しており、また、その内容についても一層多様化の様相を呈していることがわかってきている。 本研究は、過去4回の調査結果をベースに、その構造変化の状況を詳細に分析する。
- 3.得られた成果・残された課題
- 本研究によって作成されたデータベースは、我が国の地域における科学技術施策の変遷に係る理論的研究に有効なものであり、都道府県及び政令指定都市における科学技術振興施策策定にあたっての基礎資料として役立つことが期待される。
- 過去4回分の調査データは、データベースを構築する上では、量・質ともに若干の不揃いな面があることは否めない。今後データベースとして完成されたものにするためには、第5回調査以降のデータを組み込むことによって、データの量・質ともに一層の強化を図る必要がある。
- 4.特記事項
- 都道府県及び政令指定都市の組織や事業の名称は毎年めまぐるしく変化するため、これまでは、その詳細について経年でとらえることが難しかった。今回はこれらをコード化することによって、経年的変化を、より簡単に追跡できるよう工夫を凝らした。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 新舩洋一、権田金治「地方公共団体における科学技術関係経費の政策科学的解析」,第14回研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨録453―459(1999)
- [2] 森川晴成、権田金治「公設試験研究機関の現状と課題−過去7年間の推移の観点から」第14回研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨録460―465(1999)
(6)第4調査研究グループ
第7回技術予測調査
桑原輝隆、瀬谷道夫、岡本信司、新名秀章
堀内勝夫、横尾淑子、田中清隆、松久保雅弘
上田尚郎、小笠原 敦
- 1.調査研究の目的及び性格
- 技術予測調査の目的は多くの専門家の協力の下に「長期的な視野に立って我が国の科学技術の方向を探り、その進歩と社会的ニーズの接点に見通しを立てる」ことである。この調査を通じて、我が国全体としての科学技術の振興、新規施策の立案のための基礎資料が提供され、また、産・学・官の多くの組織が科学技術の将来展望を共有することが可能となる。 第7回技術予測調査では、科学技術の方向性を評価する際に、科学技術側からの検討のみでは必ずしも十分ではないとの考え方に立ち、従来の技術開発側らのアプローチに新たにニーズ側からのアプローチを加えることにより、我が国の行政体制も刷新される2001年に科学技術の将来ビジョンに関わる有益な資料を提供することを目指している。
- 2.研究課題の概要
- 平成11年度においては、平成12年度に予定しているデルファイ法によるアンケート調査実施の準備として、全体の運営を行う技術予測委員会を設置し、この下に技術系14分科会及びニーズ系3分科会を設置した。
- 技術系各分科会については、前回調査の分野構成を見直すと共に、経済のソフト化、情報化の進展などを考慮し、新たに流通、経営・管理、サービス分野を独立させた。その結果、①情報・通信、②エレクトロニクス、③ライフサイエンス、④保健・医療、⑤農林水産・食品、⑥海洋・地球・宇宙、⑦資源・エネルギー・環境、⑧材料・プロセス、⑨製造、⑩流通、⑪経営・管理、⑫都市・建築・土木、⑬交通、⑭サービスの14分科会という構成で調査対象とする技術の選定等を進めた。
- ニーズ系分科会としては①新社会・経済システム、②少子・高齢化、③安全・安心を設置した。ニーズ系分科会においては、現在及び将来の社会、経済、生活等からのニーズを抽出する作業を行い、これらを技術系の各分科会の作業に反映させるとともに、ニーズの優先度の評価方法等の検討を行った。
- 技術系各分科会については、前回調査の分野構成を見直すと共に、経済のソフト化、情報化の進展などを考慮し、新たに流通、経営・管理、サービス分野を独立させた。その結果、①情報・通信、②エレクトロニクス、③ライフサイエンス、④保健・医療、⑤農林水産・食品、⑥海洋・地球・宇宙、⑦資源・エネルギー・環境、⑧材料・プロセス、⑨製造、⑩流通、⑪経営・管理、⑫都市・建築・土木、⑬交通、⑭サービスの14分科会という構成で調査対象とする技術の選定等を進めた。
- 3.得られた成果・残された課題
- 調査中のため特になし。
- 4.特記事項
- 今回、技術課題とその背景にある社会・経済ニーズとの関連性の把握をニーズアプローチの導入により実施することは新しい試みである。
- 5.論文公表
- 特になし。
第6回技術予測調査フォローアップ
岡本信司、桑原輝隆
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本研究は、平成11年度から開始する第7回技術予測調査実施に先立ち、第6回技術予測調査の利用者の利用状況を調査するとともに、第7回技術予測調査実施に関して科学技術行政に従事している政策担当者及び利用者である産業界等の有識者から意見要望等を聴取する利用者会合を開催することにより、具体的な行政施策への反映、中央省庁再編後の科学技術の将来ビジョンの策定、科学技術基本計画改訂に係る重要研究領域設定等に第7回技術予測調査結果を一層有効に活用できるようにするための基礎情報を収集することを目的とする。
- 2.研究課題の概要
- 第6回技術予測調査の利用者への利用状況調査及び第7回技術予測調査実施に関して科学技術行政に従事している政策担当者及び利用者である産業界等の有識者から意見要望等を聴取することを目的とした利用者会合を以下のとおり実施した。
- (1)第6回技術予測調査報告書購入者及び貸出者への利用状況調査(アンケート調査)
- 平成11年5月発送、6月集計締め切り(429通送付、回収数175通(回収率41%))
- (2)第7回技術予測調査実施に関する利用者会合の開催
- 第1回会合:科学技術庁本庁政策担当者(平成11年6月10日開催)
- 第2回会合:産業界その他有識者(平成11年6月18日開催)
- (1)第6回技術予測調査報告書購入者及び貸出者への利用状況調査(アンケート調査)
- 3.得られた成果・残された課題
- 第6回技術予測調査結果の具体的な利用・活用状況についての情報が得られたとともに今後の技術予測調査への意見要望を把握することができた。
- なお、これらの得られた成果については、第7回技術予測調査技術予測委員会等で検討することにより、第7回技術予測調査の効果的な推進に反映される。
- 4.特記事項
- 技術予測調査結果の利用状況を体系的に調査・整理するとともに利用者会合を開催し、直接意見の聴取を行ったことは、今回初めての試みである。
- 5.論文公表等の研究活動
- [1] 第7回技術予測調査技術予測委員会(第1回:平成12年1月31日開催)において、この調査研究課題に関する資料の説明・配布を行った。
- [2] 岡本信司、桑原輝隆「技術予測調査の利用状況と今後の調査への要望について」調査資料No.69(2000.3)
第6回技術予測日独比較
桑原輝隆、田中清隆
- 1.調査研究の目的及び性格
- 日独両国において、デルファイ法にて調査された技術予測調査結果を多角的に比較することにより、日独両国の将来の科学技術についての認識の一致点や相違点、あるいは今後の技術進展に際しての問題点等を明らかにすることを目的とする。これらの情報は、我が国における科学技術政策立案の基礎資料となるとともに、民間の技術開発戦略策定においても活用されるものである。
- 2.研究課題の概要
- アンケート調査自体は日独両国において既に実施済みであり比較により、以下の事を明らかにする。
- (1)デルファイ法による技術予測調査の普遍性の確認。(実現予測時期は、前回同様にほぼ一致しているかどうか)
- (2)両国で重要視されている技術に大きな違いがあるのか。あるならば何が推定されるか。
- (3)その他各技術分野における日独の研究開発水準、必要とされる政策手段等についての比較分析。
- (1)デルファイ法による技術予測調査の普遍性の確認。(実現予測時期は、前回同様にほぼ一致しているかどうか)
- 3.得られた成果・残された課題
- 調査対象分野、課題数は日本では「情報」、「ライフサイエンス」、「環境」等14分野1072課題、ドイツでは「情報と通信」、「サービス業と消費」、「保健と生命プロセス」等12分野1070課題である。これらのうち約3割が共通の課題となっている。また、調査項目は日本では、「専門度」、「我が国にとっての重要度」、「期待される効果」、「実現予測時期」、「現在第一線にある国等」、「我が国において政府がとるべき有効な手段」、「我が国において問題となる可能性のある事柄」で一方、ドイツでは「専門度」、「重要性」、「実現予測時期」、「研究開発水準」、「包括条件と重要措置」、「起こり得る二次的問題」である。現在、日独共通課題に着目して上記質問項目についての日独の比較を進めている。また、両国の全課題を対象とし、日独それぞれで重視されている課題の傾向等について比較分析を行う。
- 4.特記事項
- 特になし。
- 5.論文公表等の研究活動
- 特になし。
先端科学技術動向調査(加速器科学)
瀬谷道夫、桑原輝隆
- 1.調査研究の目的及び性格
- 本調査研究は、対象分野(領域)の大きな加速器科学を取り上げ、加速器科学にブレークスルーを起こす可能性のある(主として)新しい原理による小型加速器の研究開発状況を調べるとともに、今後の発展動向を予測調査し、加速器科学の多様な発展を支援する方策を考える上での基礎資料を提供することを目的とするものである。
- 2.研究課題の概要
- 近年、加速器科学は素粒子及び原子核物理学のみならず物質・材料科学、生命科学、医療利用などの国民生活に直接的に関わる分野への拡大が著しい。このような状況において、加速器科学が今後も長期にわたり従来型の大型加速器に頼らざるを得ないとなると、将来の加速器科学の多様な、かつ、国民生活により密着した発展を阻害することとなりかねない。このため、ニーズが高いと考えられる小型加速器に関する研究開発動向を調べ、その研究開発状況と直面する技術的な課題等を的確に把握し、支援すべき点を明らかにする。
- 具体的には、主として新しい原理に基づく加速技術の研究開発状況及びそれらの加速技術に基づく先進小型加速器等に関する具体的な提案を調査し、それらを加速器研究者に提示し実現性等に関する予測見解の収集を行う。また、加速器ビームユーザーを対象とする調査により、加速器でつくられる種々のビームの利用状況、将来的な加速器ビームのニーズを把握する。その際、上の先進小型加速器等に関する提案のまとめとそれらに対する加速器研究者の実現性に関する予測見解を紹介し、その開発ニーズも同時に把握する。これらの結果を踏まえつつ、先進小型加速器等の開発を支援する方策に関する考察も行う。
- なお、これらの調査分析は、当研究所の委員会(先端科学技術動向調査委員会(加速器科学))により方向付けを行っている。平成11年度の上記委員会のメンバーを次頁に示す。
- 具体的には、主として新しい原理に基づく加速技術の研究開発状況及びそれらの加速技術に基づく先進小型加速器等に関する具体的な提案を調査し、それらを加速器研究者に提示し実現性等に関する予測見解の収集を行う。また、加速器ビームユーザーを対象とする調査により、加速器でつくられる種々のビームの利用状況、将来的な加速器ビームのニーズを把握する。その際、上の先進小型加速器等に関する提案のまとめとそれらに対する加速器研究者の実現性に関する予測見解を紹介し、その開発ニーズも同時に把握する。これらの結果を踏まえつつ、先進小型加速器等の開発を支援する方策に関する考察も行う。
- 3.得られた成果・残された課題
- 本年度においては、先進小型加速器等に関する具体的な提案と、昨年度実施した「ブレークスルー加速技術による小型加速器等に関する開発予測調査」(平成10年11月〜平成11年1月)の調査に基づくの実現予測結果を提示しつつ、加速器でつくられる種々のビームの利用状況及び将来的な加速器ビームのニーズ等を調査した「加速器ビームニーズ等に関する調査」(平成11年9月〜平成12年1月)。この結果、先進小型加速器等が目標とするビームに大きなニーズがあり、また、先進小型加速器そのものの開発ニーズも大きいことがわかった。
- 以上の調査結果を踏まえ、加速器科学の各分野での研究開発動向を整理するとともに、今後の加速器科学の多様な発展を担う先進小型加速器の開発を支援する方策に対する考察を行い、平成12年度の第1四半期内に報告書をまとめる。
- 4.特記事項
- 他の政策研究機関においては、このような調査研究については例がない。
- 5.論文公表等の研究活動
- 平成11年度においては、昨年度実施した「ブレークスルー加速技術による小型加速器等に関する開発予測調査」の結果を、調査資料−61ブレークスルー加速技術による小型加速器等に関する開発予測調査 (1999年5月)として公表した。
(先端科学技術動向調査委員会(加速器科学)委員一覧)(平成11年度)(敬称略、50音順)
委員長 平尾 泰男 放射線医学総合研究所 顧問
委 員 上坂 充 東京大学 大学院工学系研究科 原子力工学研究施設 教授
〃 遠藤 一太 広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授
〃 小方 厚 広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授
〃 片山 武司 東京大学 大学院理学系研究科 原子核科学研究センター 教授
〃 北川 米喜 大阪大学 レーザー核融合研究センター 助教授
〃 熊谷 教孝 (財)高輝度光科学研究センター 加速器部門長
〃 熊田 雅之 放射線医学総合研究所 主任研究官
〃 小山 和義 工業技術院 電子技術総合研究所 主任研究官
〃 佐藤 勇 日本大学 原子力研究所 教授
〃 佐藤 健次 大阪大学 核物理研究センター 教授
〃 竹田 誠之 文部省 高エネルギー加速器研究機構 助教授
〃 中島 一久 文部省 高エネルギー加速器研究機構 助教授
〃 中村 一隆 東京工業大学 応用セラミックス研究所 助教授
〃 西田 靖 宇都宮大学 大学院工学研究科 教授
〃 野田 章 京都大学 化学研究所 原子核科学研究施設 教授
〃 水本 元治 日本原子力研究所 東海研究所 中性子科学研究センター
〃 陽子加速器研究室長 (主任研究員)
〃 矢野 安重 理化学研究所 加速器基盤研究部長 (主任研究員)
国民健康領域における科学技術の推進 ―ヒューマンヘルスケア支援技術を中心として―
香月祥太郎(三井情報開発(株))、桑原輝隆
- 1. 調査研究の目的及び性格
- 今日、日常の健康管理を通して健康を増進させようとする意識が高まりつつあるが、本研究は、高齢化時代に向けて重要政策課題である国民健康領域、特にヒューマンヘルスケアを対象に、国民の求める健康の維持・管理と生活の質に対するニーズ、及びそれに対応する支援技術を明らかにし、その実現のための課題と方策について検討することを目的としている。
- 2. 研究課題の概要
- 昨年度に引き続き、健常者を含む需要者のヘルスケアに対する意識とニーズに基いて、一次予防の立場から科学技術の対応策について明らかにする。
- (1) 健常者のヘルスケアに対するニーズを実態的に明らかにし、また健康維持、増進のための医療技術、ヘルスケア支援技術への期待を分析する。
- (2) ヘルスケアの目標となる健康の概念と目標を明らかにし、それを支援する技術フレームと技術課題を設定し、その実現のための問題点と対応策を検討する。
- (1) 健常者のヘルスケアに対するニーズを実態的に明らかにし、また健康維持、増進のための医療技術、ヘルスケア支援技術への期待を分析する。
- 3. 得られた成果・残された課題
- [得られた成果]
- (1) ヘルスケアについての概念を整理し、健康の枠組みの中で、その管理目標は、健康を他に代え難い資産として捉え自ら維持、増進させることであり、それによって自らの生活の質を向上させることとした。
- (2) 健康の維持、増進のための支援技術について、医療専門家との議論をもとに以下のように設定した。
- 1) 健常者をベースとした健診データの標準化と健康に関するコーホートデータの整備
- 2) 標準データによる健康管理の数値目標の設定と健康創造のための技術支援
- 3) 医師と健常者、患者とのコミュニケーションを円滑にし、病気への理解を深めるための技術的対応
- 4) 個々人の健康に関する疑問に答え、的確な医療や健康管理の知識を提供できる科学的手法
- 5) 個人のライフスタイルを正しく評価し、個々人に合った生活指導を行う支援技術
- 6) 個人のプライバシーを完全に保護し、「知りたい権利」「知られたくない権利」を保証する技術
- [残された課題]
- 医療領域におけるヘルスケアのニーズの実態と課題を明らかにするため実態調査を企画したが、対象者に承諾を得ることと、内容の更なる検討が必要であるため、次年度に改めて実施を予定する。
- (1) ヘルスケアについての概念を整理し、健康の枠組みの中で、その管理目標は、健康を他に代え難い資産として捉え自ら維持、増進させることであり、それによって自らの生活の質を向上させることとした。
- 5.論文公表等の研究活動
- 報告書を取りまとめる予定。
(7)情報分析課
外国技術導入の動向分析(平成9年度版)
山口 治、吉水正義、清家彰敏(富山大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 我が国における外国技術導入の動向をより正確に把握し、技術貿易関連の研究における基礎的なデータを得ることを目的として、技術導入契約の締結(変更)に関する報告書等に基づき、毎年度、我が国における外国からの技術導入の実績をとりまとめるとともに、最近の技術導入の動向について分析を行っている。
- 2.研究課題の概要
- 1)調査対象
- 平成9年度中に受理された技術導入契約の締結(変更)に関する報告(届出)書。
- 平成9年度新規技術導入契約 2,685件
- 平成9年度変更契約 1,055件
- 2)調査項目
- I 企業:業種分類、資本金規模
- II 導入技術:技術の内容、技術分類、技術の種類、先端技術
- III 契約相手先企業:相手先国・地域、資本関係
- IV 契約条件:契約期間、対価支払方法、独占権・再実施権・クロスライセンスの有無
- 平成9年度中に受理された技術導入契約の締結(変更)に関する報告(届出)書。
- 3.得られた成果・残された課題
- ・新規技術導入件数が激減し、10年前の水準に。
- ・米国からの導入割合は依然として高く、6割強を占め、シェアは拡大。
- ・全体件数減少の中、電子部品、通信機械で大きく増加し、化学機械も増加。
- ・電子部品はパソコン周辺部品、通信機械は携帯電話が主流。化学機械ではゴミ処理プラント等の環境関連。
- ・資本金10億円以上の企業におけるソフトウェアの導入件数が、最近10年間で初めて減少。
- ・ソフトウェアで権利取得が、件数、割合とも2年間連続して減少。
- ・米国からの導入割合は依然として高く、6割強を占め、シェアは拡大。
- 4.特記事項
- 本調査研究は法令による報告書等により分析を行っており、他の調査が追随することは困難である。
- 5.論文公表等の研究発表
- [1]「外国技術導入の動向分析(平成9年度)」NISTEP REPORT No.63(1999.4)
日本の技術輸出の実態(平成9年度版)
花井光浩、吉水正義、清家彰敏(富山大学)
- 1.調査研究の目的及び性格
- 外国との技術、ノウハウの取引、いわゆる技術貿易の実態把握は、我が国の技術水準、技術開発力に対する知見を得るだけでなく、我が国と外国との技術上の結びつきや、我が国の技術の国際的な波及実態を把握する上で重要な意義を有している。
- 本調査研究は、技術の輸出について実態を分析し、政策立案のための基礎的なデータを提供することを目的としている。
- 2.研究課題の概要
- (1)調査方法及び回収状況
- 1) 調査対象企業:資本金10億円以上のすべての製造業及び主要サービス業(3,206社)
- 2) 調査対象契約:平成9年度の1年間に締結された技術輸出契約
- 3) 調査方法:郵送によるアンケート調査
- 4) 講習結果:回答企業数2,625社(回収率81.9%)
- (2)調査項目
- 5) 企業:業種分類、資本金規模
- 6) 輸出された技術:技術の内容、技術分類、技術の種類、内包する特許数、先端技術
- 7) 契約相手先企業:輸出先国・地域、資本関係
- 8) 契約条件:契約期間、契約形態、対価受取方法、独占権・再実施権の有無
- 1) 調査対象企業:資本金10億円以上のすべての製造業及び主要サービス業(3,206社)
- 3.得られた成果・残された課題
- ・ 新規の技術輸出を行っている企業数が大きく減少している。
- ・ アジアへの技術輸出が減少しており、特に、韓国、タイ、インドネシアの落ち込みが大きい。
- ・ 「輸送用機械」、「有機化学」に関する技術において、韓国、タイの落ち込みが大きい。
- ・ 先端技術分野についてみると、輸入が輸出を大きく上回っているが、「バイオテクノロジー」は、輸出が輸入を上回っている。
- ・ アジアへの技術輸出が減少しており、特に、韓国、タイ、インドネシアの落ち込みが大きい。
- 4.特記事項
- 特になし
- 5.論文公表等の研究発表
- [1]「日本の技術輸出の実態(平成9年度)」NISTEP REPORT No.65(2000.1)
ソフトウエアにおける外国技術導入の動向分析 ―日米の競争的関係と協創―
清家彰敏(富山大学)、山口 治、吉水正義
- 1.調査研究の目的及び性格
- これまでの調査によれば、日本は、ソフトウエアを米国から導入し、ハード系技術をアジアの各国へ輸出しているという構造が得られている。
- 本調査は、技術輸入から技術輸出に至るソフトウエアのフローを調査し、我が国におけるソフトウエアの技術貿易の構造を把握するものである。
- 特に、今後の日米関係をソフトウェア導入の視点から分析し、政策資料とする。
- 本調査は、技術輸入から技術輸出に至るソフトウエアのフローを調査し、我が国におけるソフトウエアの技術貿易の構造を把握するものである。
- 2.研究課題の概要
- 「外国技術導入の動向分析」で得られたデータから、ソフトウエアに関する技術を内容別に再分類し、金額ベースで調べられている他の統計を活用しながら、詳細に分析し、技術貿易を実施する民間企業に対してインタビュー調査を行う。
- 3.得られた成果・残された課題
- ・ 1996年度は分析シミュレーションが1位で16.5%。1997年度は通信ソースコードが1位。ゲームは、1996年度が、4.1%。1997年度が4%である。
- ・ 通信・電子電気系が全体の29.7%である。
- ・ ソフトウエア開発は米国が群を抜いている。続いて英国、カナダと言った英語圏が強い。
- ・ OSは米国の占める割合が最大。
- ・ 業務用とゲームが米国の占める割合が最も小さい。
- ・ 通信・電子電気系が全体の29.7%である。
- 4.特記事項
- 本調査研究は法令に基づく届け出等により分析しており、他の調査が追随することは困難である。
- 5.論文公表等の研究発表
- [1]「ソフトウエアにおける外国技術導入の動向分析」NISTEP REPORTとして、2000年に発表予定。
技術導入取引の契約形態・企業内部化要因の分析
和田哲夫(郵政研)、吉水正義
- 1.調査研究の目的及び性格
- 技術は、他の財に比べて専有可能性などいろいろな点で異なることが指摘されており、この結果、技術の取引形態も特殊なものとなることが多い。国際技術取引でも、子会社に対する企業内部移転として行われる場合や、クロスライセンスなど、財一般と異なる特殊形態が使われている。国際企業論の観点から、技術移転の内部化の理由を問う研究が従来から行われてきたが、契約・特許単位の特殊契約形態に関する実証研究はまだ少ない。そこで、技術導入データを用い、どのような要因で技術導入取引に特殊契約形態が用いられるのか、経済学上の知見を得ることを目的とする。なお、平成10年度は電機・情報通信関係技術におけるクロスライセンスを中心に研究結果を得た。
- 2.研究課題の概要
- 米国から日本への特許許諾契約(資本関係のない企業間)と、それに含まれる特許を主な分析対象とした。契約毎にクロスライセンスによって対価の一部が支払われたかどうかを被説明変数とし、その契約中の米国特許に関する被引用特許数や、自己引用特許の比率を主な説明変数として、特許単位で計量分析を行っている。
- 3.得られた成果・残された課題
- 本研究では、まず一方向ライセンス(金銭支払いのみによるライセンス)で多くの企業に許諾されている特許は、多数のライセンスをもつマルチプル・ライセンスのうちの一部としてもクロスライセンスがほとんど見られないことが発見された。更に、自己引用比率で見た技術専有度が高い特許は、一方向ライセンスではなくクロスライセンスでしか与えられない傾向が観察される。この自己引用比率は、企業が継続するイノベーションにおいて守るべき中心的な技術的能力を表すと思われる。
- 特許の技術開発インセンティブを考える上で、イノベーションの累積的な性質が重要であり、どのように企業間で技術契約を結べるかが重要だということが指摘されてきた。ここでは、累積的・相互補完的な技術の代表的な分野において、「特許化された技術での専有可能性」と技術取引の形態が関連を持っていることが示された。
- 4.特記事項
- 電気・情報通信技術では、イノベーションが累積的に起こり、また、技術間での補完関係が重要である。そこで、単独の企業の持つ特許だけでは足らず、複数企業の知的財産権を組み合わせることが必要であり、クロスライセンスが行われていることは知られているが、どのように使われているかについて、実証研究は今までほとんどない。
- 5.論文公表等の研究発表
- [1] 「累積的イノベーションにおける技術専有とクロスライセンス」Discussion
PaperNo.10として1999年6月に刊行。
- [2] 国際新制度経済学会(1999年9月)及び日本経済学会(1999年10月)にて発表。