プレス発表資料


平成 17 年 12 月 27 日
科学技術政策研究所

科学技術への顕著な貢献 in 2005
(ナイス ステップな研究者)

この度、科学技術政策研究所 (所長 小中元秀) は、初めての試みとして、2005 年に、『科学技術分野で注目すべき業績を挙げ、経済・社会に貢献したり、国民に夢を与えたりした方』、『理数離れ対策で顕著な貢献をした方』など、様々な分野で科学技術への顕著な貢献をされた方々、グループで研究等が行われた場合はその代表の方々を、科学技術政策研究所の約 2000 人の専門家ネットワークの意見を参考に選定しましたので、お知らせいたします。
(備考)

今回選定された方々については、以下のように文部科学大臣が昼食に招待し、科学技術の諸問題等について懇談することとしています。

○ 日時・場所
(お問い合わせ)
科学技術政策研究所 企画課 犬塚、安達
電話: 03-3581-2466 (直通)
Email: office@nistep.go.jp
ホームページ: http://www.nistep.go.jp
なお、大臣招待の件についての問い合わせ先:
文部科学省科学技術・学術政策局政策課 江崎、丸山
電話: 03-6734-4007 (直通)

(参考)

<研究部門>

○「骨免疫学という新規分野の創出と発展に大きく貢献」

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高柳広教授

骨代謝学と免疫学は、どちらも高等生物の生体高次機能を扱う基礎医学系分野であるが、それぞれ運動機能と生体防御といった全く異なった機能を持つ組織を対象とする学問領域であり、独立した分野として研究が行われてきた。ところが、関節リウマチのように免疫異常が骨を破壊する疾患の存在や、種々の免疫系制御分子の遺伝子改変マウスにおける骨代謝異常の解析から、極めて密接な関係にあることが明らかになってきた。高柳氏は、世界に先駆けた視点から、基礎医学分野で独立した分野として発展してきた骨代謝学と免疫学を統合し、骨免疫学という新しい学際分野を開拓した。本研究の重要性は、基礎医学領域にとどまらず、関節リウマチや骨粗鬆症などの運動器疾患や免疫疾患に対する新しい治療法に道を開く可能性がある。

2005 年は、日本初、世界的にもほとんど例がない骨免疫学を専門とする研究室を同氏は発足させた。また、同氏は発起人の1人として、2006 年にギリシャで第 1 回開催を予定している「世界骨免疫学会議」を発足させ、現在その準備を行っている。さらに、2005 年には、米科学誌「ネイチャー・メディスン」等に論文を発表すると同時に、日本から骨免疫学に関する英文総説を世界でも最も多く発表している。これらを通じて、骨免疫学という新規分野が確立されていく重要な 1 年となった。

○「未踏の RNA 大陸の発見」

理化学研究所 林崎良英プロジェクトディレクター

「哺乳類トランスクリプトームの総合的解析による『RNA 新大陸』の発見」のプロジェクトを林崎氏は中心人物として先導した。

マウスの全ての DNA 情報を解析した結果、従来の考えを覆して、これまでは何の役にも立っていないと考えられていた部分から、遺伝子の発現を指令するなど重要な機能を持つ RNA が作られていることを新たに発見。2005 年 9 月発行の米科学誌「サイエンス」に発表した。

がん、アルツハイマー病、動脈硬化、鬱病、心筋梗塞、高脂血症などの遺伝子もRNAによって制御されていると考えられることから、ヒトの RNA の解析が進めば、これらへの新たな治療法の開発につながる。

○「生後発達期の脳の発達の仕組みの解明と脳神経倫理学の先導」

理化学研究所 ヘンシュ・貴雄グループディレクター

ほ乳類の新生児は、成長の発達初期に自己の経験により神経回路の再構築を行う。この時期は臨界期と呼ばれ、学習・記憶・発達の基礎過程であり、神経細胞は、高度で特異な可塑性 (臨界期可塑性) を持つ。ヘンシュ・貴雄氏は、脳の発達の仕組みに関して、臨界期可塑性に関与する神経回路細胞及び神経回路の機能発現の仕組みを世界で初めて解明し、その研究成果を、2005 年 11 月発行の英科学誌「ネイチャー レビュー」に発表するなど、国内外で認められている。

また、脳科学が進展することにより、個人のプライバシーを侵害する恐れ、差別が行われる恐れなど、脳科学の成果の悪用の懸念が、2005 年には国際的に高まっている。同氏は、2005 年の日本神経科学学会での公開シンポジウム「『脳を育む』神経科学倫理」において座長を行うなど、脳神経倫理学を先導し、重要な役割を果たしている。

<プロジェクト部門>

○「スマトラ島沖大地震震源近傍の海底変動をハイビジョンカメラで観る」

海洋研究開発機構 末廣潔理事

2004 年 12 月 26 日におきたスマトラ島沖大地震の地震発生や破壊伝播のメカニズム等を明らかにするため、インドネシア技術評価応用庁と共同で、震源近傍の海底の様子を、ハイビジョンカメラを装備した無人探査機「ハイパードルフィン」で、2005年2月18日〜3月5日、3月10日〜3月19日の調査の中で観察した。カメラによる震源近傍の地震直後の崖の崩落や地滑り等の海底の様子の撮影は世界初。余震が続く中で潜航調査、地震観測が行われ、海底に残された地震による破壊の痕跡を数多く発見し、巨大地震断層の所在も明らかにした。

関東大震災など巨大地震のほとんどは海溝型地震であるが、陸上の直下型地震と異なって、海域は観測の空白域として残されているため、今回の調査結果などを基に、アジア地域における津波被害軽減システムの構築や、我が国の防災科学技術の推進に貢献していく。

○「『地球ニュートリノ』を世界で初めて検出」

東北大学 鈴木厚人副学長

地球は誕生してから 50 億年経つが内部は現在も熱く、その要因は『地球誕生時の熱の残り』と『放射性元素が壊れるときに発生する熱』と考えられている。しかし、それを直接検証するすべが今までなかった。

鈴木氏が設計したカムランドは、地球内部のウランなどの放射性元素が壊れるときに熱とともに放出されるニュートリノ (地球ニュートリノ) を捉えることができる『オンリー・ワン』施設。この地球ニュートリノを世界で初めて捉えたことを、2005 年 7 月発行 の英科学誌「ネイチャー」に発表。地球ニュートリノを分析することで、地球のエネルギーの起源、地球の誕生・進化の過程、地磁気・大陸移動などの地球運動を解明する手がかりになる。

○「重粒子線がん治療装置 HIMAC 2500 症例達成」

放射線医学総合研究所 辻井博彦重粒子医科学センター長

放射線医学総合研究所においては、世界初の医用重粒子線加速器である重粒子線がん治療装置 [HIMAC] を用いて、1994 年より先端的ながん治療を開始し、2003 年 10 月に厚生労働省より高度先進医療の承認を受けている。現在、重粒子線がん治療装置を保有し、がん治療を行っているのは、世界中で我が国のみ。

HIMAC では、第 3 次対がん 10 ヵ年総合戦略 (2004 年度〜 2013 年度) の中核的施設として、頭頸部・肺・前立腺・骨軟部・直腸 (術後再発)・眼等の症例の高度先進医療対応を含め、2005 年 12 月までに 2500 を越える症例の炭素線臨床医療の実績を上げるとともに、他治療法では施術困難とされた患者も救ってきた。特に 2005 年は、9 月より肝がんについて高度先進医療を開始するなど、適応疾患を拡大した。

<理解増進・教育部門>

○「論理的思考力や創造性、独創性を培う理数教育の実践」

秋田県立大館鳳鳴高等学校 生徒、高田典雅教諭

教育活動に調査・実験・観察活動を積極的に取入れ、論理的思考力や創造性、独創性を培う指導法による理科教育を実践する高等学校。

同校で高田教諭から指導を受けた生徒の中から、3 年の虻川修士さんと柴田佳枝さん 2 人の生徒が学習成果としてまとめた「クマムシの研究」が、2005 年 8 月開催の平成 17 年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究成果発表会で研究の進め方やプレゼンテーション手法が評価され、大きな注目を集めた。

○「女子高校生夏の学校〜科学・技術者のたまごたちへ」

女子高校生夏の学校企画委員会、鳥養映子企画委員長 (山梨大学教授)

若い世代が科学への夢をはぐくむことができるよう、先端研究・身近な開発等に携わる研究者・技術者から情報を発信し、科学技術の世界の魅力と多様な科学者・技術者の姿を知ってもらうとともに、 理工系に関心のある女子高校生の自発的なネットワークづくりを支援することを目的とした初の試み (2005 年 8 月開催)。

鳥養氏は、これまで国立大学協会における男女共同参画の活動や、文部科学省科学技術・学術審議会人材委員会における科学技術系人材の養成・確保に向けた活動をしてきたところ、日本物理学会や男女共同参画学協会連絡会など 5 団体が行った本活動にて、その仕掛け人の企画委員長として貢献し、女子高生が理工系に進む道を盛り上げた。

○「船外活動でリーダーを務め、青少年に夢と希望を」

野口聡一宇宙飛行士

コロンビア号事故後のスペースシャトル飛行再開フライト第 1 号 (2005 年 7 月 26 日〜 8 月 9 日) に搭乗し、スペースシャトルの飛行安全性の検証や、軌道上での補修技術の実証及び国際宇宙ステーションの姿勢制御装置の交換や船外プラットフォームの取り付けなど、高度な技能を必要とする活動を行った。その際、船外活動において日本人として初めてリーダーを務めるなど、今回のスペースシャトルの諸活動を成功に導く役割を果たした。

こうした活動は国民、特に青少年に対し、宇宙開発に係る科学技術の素晴らしさを認識させ、困難を克服し未来を切り拓く勇気と希望、感動を与えた。

○「脳科学と『クオリア』」

SONY Computer Science Laboratory 茂木健一郎 博士

数で表せないクオリア (従来は心の領域とされた意識の中で感じる様々な質感) を鍵にして、人間の意識という人類にとっての究極の謎に挑戦。また、新聞、テレビ等のメディアでの論評、著書、大学での指導等により、クオリアと生活との深い係わりをわかりやすく解きほぐしている。

2005 年は、メディアにおいて教育番組に加え特に一般の子供までが見る情報番組への出演等にも力を入れた。また、脳は、音楽、文学、美術等と幅広く係わりを持つことから、最新の脳科学の知見を背景に、脳は創造性の源泉であるということをやさしく説明することにも力を入れた。これらを通じて、科学技術の理解増進に顕著な貢献をした。