1. はじめに

わが国の公的な科学技術部門の改革は 2001 年 1 月の総合科学技術会議を司令塔とする新しい行政体制のスタートを皮切りに、国研の独立法人化、特殊法人改革と進み、2004 年 4 月の国立大学法人の発足をもってひとつの区切りを迎えました。わずか数年の間のこうした大改革により研究機関や大学の現場では少なからぬ混乱が見られるようですが、この改革はわが国の科学技術の基盤を強化する大きなチャンスです。新しい体制をできるだけ早く円滑に軌道にのせて研究開発の成果を上げることが期待されます。

この時期に科学技術体制の大改革が必要とされた理由は何でしょうか。もちろん、効率的で小さな政府を目指す行政改革が契機になっていることは事実ですが、そればかりではなく、知識基盤社会への移行という時代文脈のなかで新しい科学技術システムの構築が社会から求められている点を見逃すわけにはいきません。今回の改革によってそのための必要条件は整いましたが、この改革を生かすための戦略の立案と政策展開が今後の最大の課題です。ちょうど 2006 年からの第3期科学技術基本計画に向けた改定作業が始まろうとしています。次期基本計画は、新しい体制のもとでの戦略と政策の大綱を定める大変に重要なものになるでしょう。

当研究所は 2002 年に受けた機関評価の結論に基づいて、政策指向型の調査研究を重視する方向へ大きく舵を切りました。その具体的な取り組みとして、2003 年度から政策当局の要請を受け、第 1 期および第 2 期科学技術基本計画の達成状況調査を開始しました。また同じく 2003 年度から科学技術発展予測調査を立ち上げましたが、1971 年以来これまで実施した 7 回の技術予測と違い、今回は専門家の意見を集約するデルファイ調査に加え、社会ニーズ調査も行うなど、次期基本計画への反映を睨んだ作業を進めています。これらの結果は 2005 年春にはまとまる予定です。当研究所は、このような活動を通じて次期基本計画の改定作業に貢献したいと考えています。

一方、当研究所は政策に直接関連する業務だけではなく、より広く、長期的な視点に立った調査研究も進めています。第 1 は経済学や公共政策学などに立脚した科学技術政策の分析であり、科学技術政策と産業イノベーションとの関わりや国際競争力の決定要因などの研究に取り組んでいます。第 2 は行政から一歩離れた立場からわが国の科学技術の現状を正確に捉えるための定点観測調査であり、その結果は科学技術指標として定期的に公表してきています。第 3 は社会のニーズを先取りする課題への取り組みであり、地域イノベーション、人材、科学と社会のコミュニケーションなどの調査研究を進めています。

当研究所はこうした調査研究業務を進めるにあたっては大学や学会さらには海外の研究機関などとの連携を図り、積極的に人的交流を行い、開かれた体制のもとで行うように留意しています。

この年報には 2003 年度の活動概要をまとめています。当研究所は、調査研究内容を質量共に高めるとともに積極的に外部に発信し、科学技術政策に貢献すべくさらに努力する所存です。年報をお読みになった方々からのご批判ご意見を頂戴できれば大変幸いです。

2004 年 6 月
科学技術政策研究所
所長 今村 努