4.調査研究活動の概要


(1) 第1研究グループ

研究課題1 :

情報技術が知的生産性に及ぼす影響に関する国際比較

榊原清則

1.調査研究の目的及び性格

 技術研究開発に従事する組織体において広義の情報通信技術(Information Technology、以下IT)が如何に利用されているか、その導入活用実態の調査と、それが組織の成果にどういう影響を与えているかを明らかにすることが本研究の目的である。

2.研究課題の概要

 先端的なIT活用分野の例として、(1)インターネット技術を利用した部品、材料の調達活動、(2)製品開発における新世代3次元CADの利用、(3)企業の基幹業務への統合業務パッケージ(Enterprise Resource Planning、略してERPとよばれる)の利用をそれぞれとりあげ、特定事例の精査、関係者への聞き取り、質問票サーベイ等を組み合わせた調査活動を実施した。また、利用可能な文献および資料を探索し、比較可能な欧米の事例の収集に努め、限定的な国際比較を試みた。

3.得られた成果・残された課題

 科学技術政策研究所および慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で鋭意調査し、関連データを収集した。本年度はとくに3次元CADとERPについて、民間企業の導入適用の実態把握に努めた。その結果、アメリカ企業と日本企業との間で、先端的情報システムの導入活用が大きく異なることが分かった。そして、この違いの説明として、(1)戦略、(2)組織、(3)ITの間の、全体としての関係パターンが日米間で大きく違っているという仮説を含む試論が展開された。

4.特記事項

 ITの意義をとりあげたのは政策研では初めてのことであり、まずは民間企業の活動におけるITのインパクトに焦点を当てている。大学や国公立試験研究機関におけるITの意義の調査は今後の課題である

5.論文公表などの研究活動

  1. 「先端的情報システムと日本企業の課題」(Mimeograph)

研究課題2 :

研究開発と税制

古賀款久

1.調査研究の目的及び性格

 本研究は、産業部門のイノベーション活動を支援する目的で創設されている研究開発優遇税制について、わが国製造業企業のデータを用いて検討することを主目標とする。また並行して各国の研究開発優遇税制を整理したうえで、産業レベルのデータを用いて、それらの投資促進効果を比較考量することを目指す。

2.研究課題の概要

 従来、研究開発優遇税制は、補助金制度や公的R&D(大学・研究機関が自ら研究開発を行う形態)に比して、民間企業の技術革新に対する助成効果が小さいと考えられてきた。このような考え方の背景には、民間企業の研究開発投資が価格に対して十分感応的ではないとの前提が存在する。本研究では、企業レベルのデータを用いて、わが国製造業企業の研究開発投資の税価格弾力性を推計し、上記の議論がわが国にも当てはまるか否かを検討したうえで、研究開発優遇税制の有効性を吟味する。並行して、政府補助金と企業の研究開発投資の代替補完関係に関する実証分析も進めた。

3.得られた成果・残された課題

 企業の研究開発投資の税価格弾力性は0.6程度となったが、これを企業規模別、産業別に分類して再推計すると、大規模企業では高く、中規模企業では低いという結果になった。また、産業を研究開発集約的産業と非集約的産業に二分したうえで税価格弾力性を再推計すると、非集約的産業で大きな値を示した。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 一橋大学産業労働ワークショップ論文報告(2000年6月6日)
  2. 日本財政学会論文報告(2000年10月21日:明海大学)

研究課題3 :

半導体エンジニアの流動性に関する研究

青島 矢一、武石 彰、楠木 建、林 大樹(以上一橋大学)、
軽部 大(東京経済大学)
榊原 清則、伊地知 寛博

1.調査研究の目的および性格

 本研究の目的は、人材の社会的移動の多面性と相互依存性に注目し、異なる社会的移動を構成要素としたシステム(「流動性システム」)という概念を中心に、国のイノベーション・システムの中核的要素としての技術系人材の流動性を明らかにすることである。移動とは多面性を持っており、通常言われる組織間の移動は、組織という一つの境界の移動にすぎない。その他に専門集団間の境界、製品市場間の境界、技術領域間の境界、地理的な境界、階層間の境界の移動が社会的に存在し、それらの境界をまたぐような人々の行動は全て、社会的移動として流動性の構成要素と考えられる。また、異なる社会的移動は相互に依存関係にある可能性がある。

2.研究課題の概要

 日本におけるイノベーションを促進する方法の一つとして、人材の組織間移動を高めようとする政策案がしばしば提示される。しかしもし組織間の人材移動が他の社会的移動、例えば、専門領域間や事業領域間移動と相互依存関係にあるならば、企業間移動だけを取り出して、それを推進することが一義的にイノベーションを促進することになるのかどうか慎重になる必要がある。

3.得られた成果・残された課題

 一昨年度に日本における半導体エンジニアに絞って様々な社会的流動性を調べるための質問票調査を実施した。その初期的な結果からは、897人の回答者の内35%の人々は少なくとも一度は所属組織を変えていること、全体の20人程度の人しか競合企業への移動は行っていないこと、組織内での機能部門間の移動は双方向的に行われていることなど、これまで事例をベースにしておもにいわれてきた流動性の実態が、より包括的に明確になった。また、初期的な分析では、組織間の移動をする人はあらゆる側面で移動をしている傾向にありそうだということもわかってきた。

 参画している客員研究官は、現在政策研での研究と並行して、韓国、台湾、米国で同様の調査を進めている。政策研での調査の真の価値は国際比較を行ったときに現れると期待される。今年度は日本のデータをより詳細に分析すると同時に、他国との比較の観点も踏まえて分析を進めてきた。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 平成12年度はなし。


研究課題4 :

研究開発過程の構造化分析

伊地知寛博

1.調査研究の目的および性格

 本研究は、研究開発の機構論に属するもので、研究開発過程の実態をミクロ・レベルで捉え、研究開発の動的過程をシステムとして構造化し、その構造的特質から明らかにすることを目的としている。研究開発のメカニズムを明確にすることは、研究開発マネジメントを構想するうえできわめて重要である。本研究は、構造化の方法論を用いることで分析の客観化を意図している。

2.研究課題の概要

 本研究では、これまでに本担当者らが開発してきた分析の方法論を用いて事例分析を行う。分析には研究開発のアウトプットを構成する学術文献および特許のデータベースを用い、学術文献や特許に表れる研究者・技術者の氏名を手がかりとして研究開発の組織過程を構造化して表現する。なお、この間、研究開発マネジメントの視点から各種の対象技術について分析を推し進めるとともに、政策分析への適用を考慮してきた。

3.得られた成果・残された課題

 LCDについて、生産あるいは研究開発を行っていた主要な組織については全容を捉えるべく、これまでに、日米欧韓計16社・機関について分析を進めてきた。なおさらに、所見の補完等を目的として、先端的な技術開発をめざして新たに展開を示している日米の企業もさらに対象に加えて分析を進めている。従来の分析から、組織の中にLCDの研究開発に一貫して従事して、組織としての新たな知識・技術の生成をしていくコアとなるキーパーソンが存在して、しかも、その組織として持続して研究開発を行ってきている企業が、現在、LCD事業において主要な位置を占めていることがわかってきている。さらに、関連する技術に関する知見を有する研究者・技術者を適切に共同・連携させ、ある程度の長期間、当該技術の研究開発に従事させることによって、人に体化された知識・経験を組織的に統合して利用していくことができることがわかってきた。そして、LCDのような複雑で統合的な技術に関連する事業への参入にあたっては、たとえ小規模な資源の配分であっても研究開発能力の連続的な蓄積や維持が必要とされることが示唆された。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 平成12年度はなし。


研究課題5 :

ベンチャ-ビジネス支援政策に関する研究

榊原清則、古賀款久、近藤一徳((株)ハーマン・インターナショナル)
本庄裕司(中央大学)、前田昇(高知工科大学)

1.調査研究の目的及び性格

 本研究は、ベンチャー・ビジネス支援のために講じられている多種多様な公的施策の意義を検討するために、その前提として、日本のベンチャー企業およびそれを担う経営者および起業家の特徴、概要など実態把握につとめ、諸外国特に米国のそれとの違いを究明することを目的とする。

2. 研究課題の概要

 本年度は、質問票調査を通じて集められた企業データに基づいて、わが国の起業家企業の特徴を、経営、財務、大学等との関係、および公的支援施策の利用状況、等、様々な角度から整理した。とりわけ本年度は、株式公開を希望する企業の特性、大学との共同研究と企業成長等を中心に理論的・実証的な検討を加えた。

3.得られた成果・残された課題

 本年度の調査を通じて、わが国の起業家企業およびその経営者には以下の特徴が見出されることが明らかとなった:(1)1980年代以降IPO志向企業が増加している、(2)経営者は平均53歳であるが近年高齢化の傾向にある、(3)わが国の起業家は実務経験豊富なCraft型経営者と高学歴なElite経営者に大別される、(4)既存企業から独立して創業した経営者が比較的多い、(5)IT・バイオなどの新しい分野では若い起業家が増えている、(6)大学との共同研究を実施している企業が少ない。また、大学との共同研究が企業成長に与える効果については、大学との共同研究を行っている企業ほど、高い成長率を示していることがわかった。

4.特記事項

 本調査から得られたデータならびに分析結果は、技術系ベンチャー企業を対象とした点で非常に貴重である。

5.論文公表などの研究活動

  1. 榊原清則他「日本における技術系ベンチャー企業の経営実態と創業者に関する調査研究」科学技術政策研究所・調査資料 No.73(2000年9月)
  2. 榊原清則「日本の産学連携と知識生産システム」『組織科学』第34巻第1号 (2000年9月)
  3. 榊原清則「IPO企業とそうでない企業と」Policy Study No.6 (2000年10月)

研究課題6 :

政策形成・研究開発実施過程における産学官のインタラクションに関する研究
(科学技術振興調整費流動促進研究制度)

伊地知寛博、榊原清則、富澤宏之

1.調査研究の目的および性格

 本研究は、科学技術政策の形成・執行過程および研究開発の実施過程における産業界と政府・公的研究機関・高等教育機関とのインタラクションについて、我が国にとって将来的に有効になると思われるシステムに関する含意を得ることを目的とする。

2.研究課題の概要

 本研究は、政策形成・執行過程におけるインタラクションに関する、主としてマクロ・レベルの調査研究と、研究開発の実施過程における、主としてミクロ・レベルの研究から構成される。前者では、主要諸外国で実施されているインタラクションのシステムを、既存文献・資料等の調査のみならず、代表的な組織・機関等でのインタビューを通して実態の情報を収集し、比較分析を行う。あわせて、日本の現状とも対比させる。後者では、産学官の連携による研究開発の事例を取り上げ、特許・学術文献等の知的成果物に関するデータを収集し、これらを用いて、その形成動向を構造化して表現して分析する方法論等を援用して個人レベルでの研究開発組織過程を明確にするとともに、データのより詳細な整理・分析や、分析対象の研究者・技術者および関係者へのインタビューを通じて、その実態を明らかにする。

3.得られた成果・残された課題

 本年度は、マクロ・レベルについては、政策形成過程において産学官のインタラクション・システムに関して先導的・特徴的な取り組みを行っている諸外国を対象として、資料・文献等の収集を行い比較分析を進めてきた。とくに、産学間インタラクションにおける制度的側面の一つとして利益相反のマネジメントに着目し、米国・英国・仏国等の現状と比較して、同様に産学連携が促進されている日本の制度上の特徴を示すとともに,今後の政策形成等への取り組みに対する含意を得た。

 また、ミクロ・レベルについては、公開されている特許データベース等を利用して、そこからのデータを総合して詳細に分析することにより、かなりの程度、研究室の運営や知的財産権の取り扱いも含めた、研究開発実施局面での産学間のインタラクションの実態を把握し得ることを示した。そして、この実態の分析を通じて、とくに利益相反のマネジメントの面について、より明確にこれが連携のあり方に関わる重要な課題であることを浮き彫りにさせた。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 伊地知寛博 産学間のインタラクションに係る利益相反-特許データによる実態分析およびマネジメントに関する主要国の現状-, 組織科学, vol. 34, no. 1, pp. 54-75.
  2. 榊原清則・伊地知寛博 日本における産学連携の実態と利益相反問題,青木昌彦・澤昭裕・大東道郎 他(編),『大学改革 課題と争点』,pp. 369-392.
  3. 伊地知寛博 利益相反のマネジメントに関する制度の国際比較, 研究・技術計画学会第15回年次学術大会講演要旨集, 東京, 2000年10月20日-21日, pp. 374-377.

研究課題7 :

科学技術の経済影響に関する研究

竹下貴之

1.調査研究の目的及び性格

 昨今では、技術進歩は成長の源泉と位置付けられ、内生的成長理論など、その経済影響に関する研究が盛んに行われている。現状では、数多くの理論モデルが提案され、論争が続いており、未だ定説に達していない。しかも、分析例としては理論分析が大半を占め、実証分析により定量的情報を導いている例は少ない。そこで、R&D活動が経済に与える影響に関して、計量経済学的手法を用いて実証分析を行う。なお、これは慶應大学経済学部吉野研究室との共同研究である。

2.研究課題の概要

(1) 短期・デマンドサイドに焦点をあてた分析

 同額でも種類の異なる政府投資の乗数効果を導出するツールとして、多部門計量モデルがあり、旧経企庁でも本格的な多部門計量モデルが開発されている。そこで、先行例を参考にしつつ、家計部門を詳細化した多部門計量モデルを開発する。そして、R&D費用データや建設産業連関表のデータを多部門計量モデルにインプットし、同額の政府投資をR&Dに費やす場合と、従来型公共投資に費やす場合の乗数効果を比較・検討する。

(2) サプライサイドも考慮した分析

 計量分析手法によって、R&D投資が、生産性、民間投資、雇用などに与える影響を分析する。

3.得られた成果・残された課題

 上記(1)については、先行例を網羅的に整理し、それらを参考にしつつ、現在、多部門計量モデルを構築途上である。②については、慶應大学吉野研究室と共同研究を発足させた段階である。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 「短期・デマンドサイドに焦点をあてた多部門計量モデルによる政府R&D投資の乗数効果の実証分析」Discussion Paper (2001年7月公刊予定)

研究課題8 :

省エネルギー公共投資のマクロ経済及び産業毎の影響に関する研究

竹下貴之

1.調査研究の目的及び性格

 省エネルギーは、エネルギー支出の削減分が他の消費や投資にまわることによって景気浮揚効果があるという説がある。ここでは、その効果に注目し、既存住宅の断熱化を公的資金によって進めた場合の、マクロ経済影響、産業毎の影響、CO2排出量への影響について定量的に検討する。

2.研究課題の概要

 同額でも種類の異なる投資のデマンドサイドの影響を分析するツールとしては、多部門計量モデルが知られている。ここでは、省エネルギーを行う部門が民生家庭部門であることから、このツールを用いて定量的検討が可能である。そこで、旧経企庁の多部門計量モデルなどの先行例を参考にしつつ、家計部門を詳細化した多部門計量モデルに、エネルギーバランス計量モデルを連結したモデルを構築する。そして、住宅断熱などの工学的データを収集し、定量的検討を行う。

3.得られた成果・残された課題

 研究で用いる、多部門計量モデル-エネルギーバランス計量モデル連結モデルのプロトタイプモデルは、既に構築済であり、かつ、必要データも入手済であり、これらを用いた分析結果を既にDiscussion Paper No.14として発行済みである。しかし、プロトタイプモデルはセミクローズドモデルであり、フルリンク・フルクローズとした本格モデルとすべく、現在構築作業中である。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 竹下貴之「省エネルギー公共投資のマクロ経済及び産業毎の影響に関する研究(その1)」Discussion Paper No.14 (2000年1月)
  2. 「省エネルギー公共投資のマクロ経済及び産業毎の影響に関する研究(その1)」第16回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス:虎ノ門パストラル(2000.1.30)
  3. 「省エネルギー公共投資のマクロ経済及び産業毎の影響に関する研究(その2)」Discussion Paper(2001年9月発刊予定)

研究課題9 :

研究情報の発信基地としての国内学会の取り組みと産学との連携に関する調査研究

根本正博、榊原清則

1.調査研究の目的及び性格

 産業界および大学や国立研究所などの公的機関で蓄積されている研究情報の発信媒体に利用される日本国内の学会を対象として、情報技術の取り込み実態を調査し、今後の活動方針の指向性を探るとともに、科学技術立国を唱える官界に求められる研究情報の収集発信体制に関する施策の含意を明らかにする。

2.研究課題の概要

 日本を科学技術立国として成立させる根幹をなす要素の一つに企業や大学、国公立試験研究所などの研究機関における研究開発活動があり、先端技術革新に関する研究開発情報を交換し、研究開発活動のクオリティーを高めるための議論あるいは成果発表の場として国内学会が利用される。本調査研究では、産学の研究開発活動の発信媒体である国内学会に注目し、研究情報の収集発信基地としての学会の実態を調査し、研究開発活動に対して学会活動体制の持つインパクトを解明するとともに産学の研究情報の収集発信体制に対する官の関わりの有り様についての提言を狙う。さらに幾つかの研究分野について、欧米に活動拠点のある複数の学会における情報管理発信体制も調査し、当該分野の国内学会に関する調査結果との比較研究も狙う。

3.得られた成果・残された課題

 研究情報の発信状態を把握するための取りかかりとして、分野別の学協会についてホームページの開設割合を調べた結果、6月時点で、自然科学部門のうちの理学と工学については43-50%程度であるのに対し、自然科学部門のその他分野と人文科学部門は8-22%程度に止まっていることが明らかとなった。この結果を踏まえ、研究の対象を理学と工学系の学協会に絞ることとした。

 更に、質問票調査の設計に資するために、機動的な運営がなされやすいと推察される正会員が400-2000名程度の中小学会から3学会を選びインタビュー調査を行った。この調査から、(1)情報技術(Information Technology:IT)としてWebは大いに利用されているが電子ファイル化の取り組みには導入姿勢で濃淡がある(2)IT化を担うのは会員のボランタリー活動が中心(3)論文等の「空洞化」現象を避けるために、投稿後の処理を早め、速報性を重視する(4)国内外の学会等との連携は密接とは言えない(5)一般社会人との緊急的・日常的関わりへの認識は薄い反面、産業界向けには自らの基盤を支える研究者育成等の視点で重要と捉え活動している、ことなどが明らかになった。

 現在、IT化における情報基地としての在り方を探る調査項目をまとめており、精査の段階にある。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題10 :

企業経営・技術戦略の変遷に関する研究

榊原清則、上田尚郎

1.調査研究の目的及び性格

 20世紀において、日本の社会経済の中心を担ってきた民間企業の経営と研究開発活動を総括し、21世紀に向けた科学技術政策の展望を得ることを主な目的としている。

2.研究課題の概要

 戦後の経済発展の中心を担ってきた20世紀の日本を代表する民間企業の各々の変遷を明らかにし、企業経営の主たる成功要因を時代背景と共に整理し、取りまとめることは将来の科学技術政策を考えるうえで重要な課題のひとつである。本研究では、企業のトップを勤められた経営者自身による講話をベースにして、これまでの日本企業が培った企業経営と技術戦略について分析を行ない、将来の日本企業が進むべき方向性、社会展望を踏まえながら、将来への科学技術政策のあり方を見出すことである。

3.得られた成果・残された課題

(1) 「企業経営・技術戦略の変遷に関する研究会」を当研究所内に設置した。(研究会構成員:12名)

(2) 本年度は以下の講師を招聘し、研究会を開催した。

*平成12年度開催
1. 第5回:キヤノン株式会社 名誉会長 賀来 龍三郎 氏
2. 第6回:株式会社東芝 相談役 佐波 正一 氏
3. 第7回:三井化学株式会社 会長 幸田 重教 氏
4. 第8回:アルファ・エレクトロニクス株式会社 社長 楠美 省二 氏
5. 第9回:株式会社国際基盤材料研究所 社長 佐々木 正 氏(元シャープ(株)副社長)
6. 第10回:株式会社ニコン 取締役社長 吉田 庄一郎 氏
7. 第11回:武田薬品工業株式会社 会長 藤野 政彦 氏
8. 第12回:キリンビール株式会社 専務取締役 荒蒔 康一郎 氏

(3) 講師による講演及び質疑応答の概要を記した研究会講演録を取りまとめ中である。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


(2) 第2研究グループ

研究課題1 :

科学技術政策システムの機能分化と再統合

小林信一、富澤宏之、尾下博教、吉澤健太郎

1.調査研究の目的及び性格

 最近20年くらいの世界的な科学技術政策の変動を理論的、実証的に跡付け、科学技術政策の革新の方向性を探る。とくに、この間の変化を、科学技術政策システム(政策主体、研究主体、これら相互間の機能的連結や中間的組織の全体)の再編過程、すなわち、科学技術政策に関わる機能の分化と再統合の過程として捉え、概念化し、体系的に整理する。単なる理論的研究というだけでなく、制度設計の側面も有する政策的研究である。

2.研究課題の概要

 最近20年間の科学技術政策が世界的な変動期にあることは誰もが認めるところである。さまざまな変化が生じたが、それらの変化を一貫した変化として捉えることが必要である。

 変化の時代には、変化が生じる以前の時代の概念体系によって、変化を理解しようとする傾向がある。そのために、変化の本質が正しく理解されない場合が多い。相応しい概念が存在しないということは、現実世界における制度も、前時代の制度の延長として設計されるなど、バイアスのかかったものとなっている可能性が高い。

 このような状況下では、従来未分化であった諸機能の分化と既存の機能との間で機能の再定義、諸機能の再統合が進み、次第に新しい制度が成立していく。これが制度進化である。このような制度進化を理解し、導くためには、適切な概念の創出も必要となる。

 具体的な例に即して述べるならば、研究組織と研究助成の両面性を持つ流動的組織とそれを支える流動的人材が、次第に科学技術活動の主要な担い手になってきているという事実がある(ERATO、CREST等)が、これは従来の固定的な研究組織、研究助成、研究者の概念を逸脱している。しかし、こうした活動は、かなりの資金規模になっているだけでなく、研究活動の実質面では国全体の活動の中心的な役割を果たすようになってきており、もはや仮の姿として捉える段階ではない。

 また、大学が競争的資金の獲得や産学連携に取組む一方で、産業部門に対する政府の資金援助がもっぱら「提案公募型」で行われるようになっている。「提案公募型」の資金獲得、研究助成は、本来基礎的研究活動の分野で発展してきたモデルである。しかし現在では、中小企業に対する補助金(SBIR等)もそうしたモデルに準じたものになってきている。大学の行動が産業化し、企業の行動が大学化するという動きだと理解することもできる。だとすれば、大学、企業の機能的な再定義が必要である。

 こうしたさまざまな変化、従来の概念体系とは必ずしも適合しないような変化を、科学技術政策システムにおけるarticulationの変化として捉え、概念的、理論的に検討する必要がある。そのような活動を通じて、現実の制度に対する提言も可能となろう。

3.得られた成果・残された課題

 特になし。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 小林信一,「科学技術と社会 〜21世紀の科学技術のすがた〜 」,『ケミカル・エンジニアリング』,2001年1月号,pp.1-7.
  2. Jiang Wen and Shinichi Kobayashi, "Technology diffusion in Chine: some new evidence in computer-aided design", Science and Public Policy, pp.41-47, Vol.28, No.1, February 2001.
  3. 小林信一,「大学教育の職業的レリバンスと大学の組織設計」,『大学改革 - 課題と争点』(青木昌彦,澤昭裕,大東道郎,他編),pp.283-305,東洋経済新報,2001年2月1日.
  4. 小林信一,「新経済時代に向けた科学技術体制の改革」、日中科学技術政策研究会、北京、中国2000.8.25
  5. Hiroyuki Tomizawa, "Allocation Systems for National R&D Budget in Japan", The Second Japan-Korea Science and Technology Forum, Tokyo, Japan, 24-25 October 2000.
  6. 富澤宏之,平澤 冷,「国家戦略としての総合科学技術政策:Modern Science & Technology Policyをめぐる考察」,研究・技術計画学会 第15回年次学術大会,2000年10月(第15回年次学術大会講演要旨集 pp. 139-142 )

研究課題2 :

モード論とポスト・モード論の検証

小林信一

1.調査研究の目的及び性格

 ギボンズらによるモード論の提唱(1994年)以来、関連著作も多数発表され、またシンポジウムなども多数開催されている。その過程で、モード論の精緻化、問題点の指摘、現実局面への適用、ポスト・モード論の模索が進んできた。また、直接モード論を参照しないまでも、各国、地域の科学技術政策の枠組みは、陰に陽にモード論の影響を受けているか、あるいはモード論によってよりよく理解できるような方向に変化してきている。我が国においても、モード論の紹介以来さまざまな局面で引用され、現実の場面でも参照されてきた。同時に、モード論の精緻化、問題点の指摘、ポスト・モード論の模索も進んできており、検証すべき段階に至ったと考えられるため、それが及ぼした影響も含めたモード論の検証を試みる。なお、モード論は、日本の研究開発のモデル化、それへの対抗として構想された面もある。日本においてモード論の再評価、ポスト・モード論の総括を行うことは意味がある。

2.研究課題の概要

 モード論はその発表以来、論文等に多数引用され、シンポジウム等も多数開催されてきた。また、直接モード論を参照しないまでも、各国、地域の科学技術政策の枠組みは、陰に陽にモード論の影響を受けているか、あるいはモード論によってよりよく理解できるような方向に変化してきている。

 我が国においても、モード論の紹介以来さまざまな局面で引用され、現実の場面でも参照されてきた。

 同時に、モード論の精緻化、問題点の指摘、ポスト・モード論の模索も進んできており、そろそろ検証すべき段階であると考える。

3.得られた成果・残された課題

 これまでに、文献により、モード論をめぐる議論の波及、展開を調査するとともに、現実局面への適用などの例について、事例調査を進めてきた。また、海外研究者との情報交換を行った。今後も、これらの調査を進めるとともに、連続ワークショップなどによる外部者を含めた検討や、さらには総括的なシンポジウムの開催を予定している。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題3 :

研究開発に関する会計基準の変更と企業の研究開発行動

小林信一、吉澤健太郎

1.調査研究の目的及び性格

 会計基準の国際化に伴い、企業会計基準の改定が平成10年に行われ、研究開発およびソフトウェアに関する会計基準も変更された。新しい会計基準は、平成11年4月以降に始まる事業年度から適用されることになり、平成12年3月の決算から移行していることになる。この変更は、企業の研究開発会計に影響を及ぼすばかりでなく、間接的には企業の研究開発行動にも影響を及ぼすものと予想される。さらには、研究開発会計に基づいてデータが収集されている科学技術研究調査にも影響が及ぶものと考えられ、科学技術政策の基礎的指標を提供し、国際比較にも用いられているのでその影響は甚大であり、本調査研究において研究開発に関する会計基準の変更がどのような影響を及ぼしているのか、今後どのように及ぼしうるのかを明らかにする。

2.研究課題の概要

 新しい会計基準に伴う影響として(1)企業の研究開発会計への影響、(2)企業の研究開発行動への影響、(3)科学技術研究調査への影響、などが考えられる。(1)には、会計基準の変更事項に、研究開発の範囲の明確化、研究開発費の費用処理化などがあるため、製品化に近い研究開発のある部分が研究開発として扱われなくなり、従来繰延資産として扱ってきた研究開発費のかなりの部分が発生時の費用として扱われる、などの変化が予想される。その結果、企業の研究開発費は、会計上の連続性を失う可能性が高い。(2)の例として、単年度で費用処理されることから、景気の良い時には長期的な研究開発を指向し、景気が悪い時には短期的な研究開発を指向する、といった傾向が生じるかもしれない。また、研究開発を外注すれば従来のように資産処理できる場合があることから、研究開発の内生化、外生化の選択にも影響を及ぼすと予想される。このように、会計基準の変更は、企業の技術経営の面でも検討すべき課題である。(3)は、企業の研究開発会計に基づいてデータが収集されている科学技術研究調査の結果には、当然、影響が及ぶものと考えられる。前倒しで実施している企業もあるので、平成11年調査から平成12年調査が過渡的段階を反映したデータとなり、その前後でデータの断絶が生じる可能性が高い。

3.得られた成果・残された課題

 まず上記の(1)(2)(3)に必要不可欠なヒアリングは、平成12年度の決算完了後(今年5月以降)行う予定である。事前調査として、平成11年度までの有価証券報告書データと、日経会社情報等のデータについて調査した。この結果、前述の影響の兆候がある企業もあったので今後確認する。また、(3)については、研究費関係の定義について比較をおこなっている。

4.特記事項

 影響を分析する上では、タイミングが重要である。平成12年から平成13年にかけて調査を実施することは、企業の決算の公表、科学技術研究調査のデータ収集、報告などのタイミングを考慮すると、ほとんど唯一の選択肢であると思われる。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題4 :

我が国における国際共同研究の動向調査

小林信一、尾下博教

1.調査研究の目的及び性格

 科学技術開発には、気象・環境など一国だけの問題に留まらないものや、宇宙科学・高エネルギー物理学・深海探査など規模が大きいため一国だけで行うことが困難なものがある。また、多国間で情報交換を行うことによって、成果が単なる総和に留まらず、質・量ともにより向上することが期待できる。

 本件は、我が国におけるこうした国際共同研究の現状を調査・分析し、問題点があれば抜き出すことを目的とするものである。

2.研究課題の概要

 国際共同研究には、協定に基づく二国間協力、多国間協力、国際連合など国際機関を通じての協力等様々な形態があり、我が国も、こうした枠組みに基づいて科学技術開発に関して国際貢献を行ってきているところであるが、調査・分析は十分には為されておらず、レビューに留まっている。そこで、我が国における国際共同研究について、基本的枠組み(協定、取決め、国際会議、国際機関等)から出発して、実際の活動状況、組織・体制、会議開催状況、資金の使われ方・調達方法、成果物(論文、特許等)等を調査し、現状分析を行うとともに問題点の洗い出しを行う。

3.得られた成果・残された課題

 これまでに、科学技術白書、旧科学技術庁年報等を通じて、我が国における国際共同研究の枠組みを元に現状調査を行い、活動状況をほぼ把握した。一方、資金の使われ方、成果物等については資料が十分でなく、当該省庁にアクセスして調査することが必要と考えている。

4.特記事項

 本研究は OECD グローバル・サイエンス・フォーラムの活動や欧米の同種のプロジェクトと連動して進められている。

5.論文公表などの研究活動

  1. Shinichi Kobayashi, "International S&T Cooperation - Policies, Programs and Activities", The Second Japan-Korea Science and Technology Forum, Tokyo, Japan, 24-25 October 2000.

研究課題5 :

科学技術指標の機能に関する研究

富澤宏之、小林信一

1.調査研究の目的及び性格

 科学技術指標の開発や分析、利用を適切に行うために科学技術指標に関する諸概念を体系的に整理するとともに、指標の機能を理論的・実証的に明らかにすることを目的とする。また、実際に重要な機能を有する指標を作成し、基盤データの性質の解明や分析手法の確立も目指す。

2.研究課題の概要

 科学技術指標は、科学技術政策研究や科学社会学の経験的・実証的研究において、あるいは科学技術政策の立案においても欠かせないものとなっている。しかし、その基礎となる概念や理論が充分に確立されておらず、そのことが分析結果についての誤解や不適切な利用を生じている事例が多く見られる。また理論的基礎が不十分であることが新指標開発の妨げとなっていることも多い。そのため、本研究では、科学技術指標に関わる諸概念を体系的に整理することを中心課題としている。また、これまでの検討を通じて、指標の機能に関する理解が進んでいないことが前述のような諸問題の根元的な原因となっていることが明らかになりつつあり、そのため、指標の機能を概念的・理論的に検討するとともに、実際に活用されている指標が果たしている機能を調査・分析することが必要と考えられる。

3.得られた成果・残された課題

 前年度までの指標の基本概念に関する理論的検討結果に基づき、特定の指標に関する問題を検討した。OECDによって研究開発人材の測定方法として勧告されているFTE(フルタイム換算)について、理論的な面から再検討するとともに各国における統計の実態を調査し、国際的な基準のあり方を検討した。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. Hiroyuki Tomizawa, "A Review of the Treatment of FTE in Measuring R&D Personnel", OECD CSTP/NESTI Meeting, Paris, France, 5-7 June 2000.

研究課題6 :

生活領域に浸透する科学技術と社会規範との相関に関する研究

綾野博之

1.調査研究の目的及び性格

 本研究は、以下の問題意識を中心にして、特定の科学技術の社会的側面について明確化することを目的とする。

 科学技術の生活領域への浸透および情報技術の発達によって、科学技術と社会との相互関係が大きく変わってきている。生産技術の高度な発展は、生活領域における科学技術の浸透と発達を促し、一方で、パーソナル化された科学技術としてわれわれのごく身近に存在している。現在の個人ベースで使われる科学技術は同時に、個人や組織の倫理や信念との関係を相互に社会的に新たな形で調整するという課題を提起する性格を持つ。個人ベース(あるいは家族ベース)で使われる科学技術は、社会的な枠組みの整備を行って初めて、その効率的で「適切な」発達が促進されるという社会的な性格を合わせ持つ傾向が強く、それらの科学技術を企業活動や個人・家族生活に組み込む社会的な選択や方向付けと切り離して論じることができないような形で存在することが多い。

 本研究は、特に生活領域に浸透してくる科学技術に絞り込んで、科学技術と社会との境界面の変化について整理しながら、特定の科学技術を利用する際に生じてくる社会的な規範に関わる問題の特性について明らかにしていく。科学技術の対象としては、とくに遺伝子治療を選んだ。

2.研究課題の概要

  遺伝子治療に関わる社会的・倫理的諸問題の現状をできるだけ簡明な形で整理し、その技術的現状、専門家集団・政府による対応の現状とともに、指摘される社会的・制度的な課題などについて情報提供に資するようまとめる。

遺伝子治療実施に当たっての社会的・制度的な課題の整理
遺伝子治療臨床研究の日米の研究現状(簡略なサーベイ)
生殖細胞遺伝子治療の実施までに至る諸段階の考察

 現在の医療技術と遺伝子操作技術の急速な発展は目覚ましいものがあり、重要な社会的なインパクトを与える技術として遺伝子治療はとくに注目に値する。これから日本社会は高齢化社会/少子社会へと向かう傾向にあり、医療の高度化は、治療医学から予防医学という性格を強く持つ可能性が高い。生殖系列細胞を含む遺伝子治療の実施までの社会的過程について考察することは、科学技術の社会的なインパクトを見積もり、調整する一つの段階として必要な作業と見られる。

 遺伝子治療臨床研究の現状と共に、先端的な科学技術の研究実施者、間接的な位置にある生命倫理研究者、一般市民等、広く多様な社会的な意見を収集し、できるだけ簡明な形でまとめることによって、社会的な意志決定にかかわる諸問題を整理した一資料として役立つことを目指す。

 本年度は、これまでの研究成果をまとめ、今後の状況を見すえた検討課題を明確化していく。

3.得られた成果・残された課題

 特になし。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 綾野博之,『アメリカのバイオエシックス・システム』, Policy Study No.7, 2001年2月

研究課題7 :

企業環境とイノベーションプロセスの変化に関する調査研究

中谷 元、須藤剛志(三菱電機)、平澤 冷(政策研究大学院大学)

1.調査研究の目的及び性格

 経済活動のグローバル化や情報技術の進展など、企業をとりまく環境の変化に対応するための技術経営が重要性を増している。我国の製造業は生産性の効率化を進めることで、競争力を保持してきた。しかしながら、今日においては国際化や情報化といった環境変化に対応するため、イノベーションプロセスが急速に変化してきており、技術経営戦略の見直しを図る必要が生じている。本調査研究の目的は、国レベルでのイノベーションの変化を比較分析することにより、企業経営の現状と課題を明らかにすることである。

2.研究課題の概要

 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)、独国フラウンフォーファ協会システム・イノベーション研究所(ISI)との共同プロジェクトで行われており、研究開発投資額の大きな企業に対するアンケート調査による技術経営の変化の分析を実施する。アンケート調査に関してはMITが米国企業、ISIが欧州企業、政策研が日本企業に対してそれぞれアンケート送付から集計までを受け持ち、最終的に3ヶ所のデータベースを統合し、分析を行う。

3.得られた成果・残された課題

 年間研究開発投資額1億ドル以上の企業に対するアンケート調査を日、米、欧において行い、回答集計およびデータ分析を実施した。回答企業数(回答率)は、日本98社(78%)、米国58社(32%)、欧州53社(40%)であった。

 分析結果のうち特徴的な内容は次の通りである。R&D人員の技術分野別比率はこの5年間で日本では余り変化していないが、欧米では一部技術分野で大幅に変動している。欧米では情報通信関連がこの5年間で倍増、米国ではバイオ関連が倍増。a企業の研究所組織は日本では技術分野別に分かれている場合が多いが、欧米では製品・市場別編成やプロジェクト編成が多く、特に欧州ではこの傾向が強まっている。b欧米では技術・製品・企業の買収や他企業とのジョイベン等の手法によりこの5年間で大幅に開発期間を短縮している企業が多い。c開発において欧米企業はプロジェクト管理手法と上流での設計技術を得意とし、日本企業は製造技術を得意とする。d海外でのR&D活動は日本企業も年々その比率を高めているが欧米に比べると比率が低く約15年遅れている。

 80年代に欧米企業に勝っていた日本企業がなぜ90年代に負けてしまったのかを探るために、企業のコア・コンピタンスがどのようにすれば高まるのか、そのためにはイノベーションのための組織形態はいかにあるべきかを検討し、日本企業の今後の戦略について提案した。残された課題は、この提案の前提条件が正しいか、実現可能性はどうかについて、成功企業・失敗企業のケーススタデイを行い検証を行う事である。

4.特記事項

 本調査研究で得られたアンケート調査結果は会社名を匿名としてデータベース化され、日米欧の3ヶ所で共有されている。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


(3) 第1調査研究グループ

研究課題1 :

創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方
科学技術人材の流動化促進に係わる調査研究

和田幸男

1.調査研究の目的及び性格

 科学技術基本計画では、我が国の創造的な研究者・技術者を育成・確保するための人材流動が求められている。そこで本調査研究は、我が国の産学官の研究機関における研究者・技術者等のライフサイクルの確立に向けた、人材流動の実態と今後のあり方について、アンケート調査を中心に調査研究するものである。

2.研究課題の概要

 本調査研究では、人材流動を一部の先端的な研究部門だけではなく、産学官全体の問題として、また支援者・補助者も含めた研究者等の多様な研究活動生涯(ライフサイクル)の上から捉える必要があると考える。そのため、本調査研究で実施する主要な点は、今後の流動化促進環境下における研究者等の望ましい研究活動ライフサイクルに係わる様々な流動の視点を検討する。さらに、これらの流動視点における現状の産学官研究者等の流動実態を把握・考察し、今後の望ましい人材流動促進のあり方について提言する。そのためのアンケート調査と一部ヒアリング調査を行う。

3.得られた成果・残された課題

得られた研究成果:

  • 研究・開発人材の流動促進環境下における研究活動ライフサイクルの11の流動視点としてポスドク制度、任期付任用、転職・出向および職種間移動等を検討した。
  • 産学官の研究機関の機関側および研究者・技術者等側からの回答による、これまでにあまり報告例がない上記11の流動視点に関連する細部に亘った実態把握をすることができた。
  • これらにより、各流動視点における流動の現状と今後の流動傾向、課題および課題を解決するための方策を幅広く検討することができた。
  • 産学官の研究者流動の全体を鳥瞰した総合的な流動促進に係わる考察と提言を行うことができた。
  • 産学官の研究機関をその性格上6つの機関群に分類解析し、各研究機関の人材流動結果の特性を捉え考察し、流動化促進に係わる提言を行うことができた。

残された課題:

 これからの少子・高齢社会において、創造的研究活性と年齢に係わらない自由な、競争的研究者社会のあり方を一般的な社会の今後のあり方と関連付けて調査、検討する必要がある。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 和田幸男「創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方
    -科学技術人材の流動化促進に係わる調査研究-」調査資料No.72(2000.9)

研究課題2 :

博物館・科学館等におけるインタープリター人材に関する調査研究

小嶋典夫、小泉勝利

1.調査研究の目的及び性格

 最近、科学技術を巡る状況が大きく変化する中で、国民の科学技術に対する理解を増進することが、これからの日本の科学技術人材の育成に欠かせないものである。また、国民全体の科学技術への関心及び知識のレベルを上げることでその中から優秀な研究者も排出されることが期待される。しかし、国際教育到達度評価学会(IEA)が調査した第3回国際数学・理科教育調査(TIMSS)及び第3回国際数学・理科教育調査第2段階調査(TIMSS-R)においても数学、理科の点数はトップクラスにあるが、好き嫌いではともにワーストクラスである。このような状況のなか、学校や家庭以外の場で科学に接する機会を増やし、興味をわかせることが重要である。そのためには、子供から大人までのあらゆる階層を対象にしている博物館・科学館等(以下、「科学館等」という)を活用することが有効な手段であると考えられる。特に、そこでは、実際に触れる事の出来る展示物や実習教室、また説明者等のインタープリターなどの充実等が必要であると考えられる。したがって、本調査研究は、これらの現状及び課題を把握し、今後のこれらのあり方・方向性について打ち出すことを目的とする。

2.研究課題の概要

 家庭、学校以外で最も身近な博物館、科学館について、特に直接接して説明等をするインタープリター人材の活動が重要になっているので、科学館等や関係者等に対してヒアリング調査を行い、問題点等を明確にするとともに、博物館・科学館等をグループ分けし、そのグループ毎に特徴や課題、対応等を明らかにすることで、今後の科学技術政策の企画・立案に資することとする。

 具体的には、今年度は、科学館等に対してヒアリング調査を7か所で行い、インタープリター人材を中心に科学館等全体の現状、課題等を調査した。

3.得られた成果・残された課題

 今年度は、科学館等数カ所のヒアリング調査を行い、実務者の視点からの問題点が浮かび上がってきたが、次年度も引き続き科学館等のヒアリング調査を行うとともに、有識者等外部の視点からの問題点やこれらの問題点等に対する対応策等についてとりまとめることとしたい。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表等の研究課題

 特になし。


研究課題3 :

第5版科学技術指標に関する調査研究

第5版科学技術指標検討チーム

1.調査研究の目的及び性格

 本研究は、多様かつ複雑な科学技術活動を定量的データに基づき、総合的・体系的に分析・評価することで、世界における日本の科学技術の水準を明確にし、今後の科学技術政策の企画・立案に資することを目標とする。

2.研究課題の概要

 科学技術指標については平成3年度に最初の報告書を作成して以来、ほぼ3年ごとに改訂を行ってきており、2000年に第4版科学技術指標を発行した。本年度は、第4版科学技術指標の英語版及びデータ部分の改訂を行うとともに、2003年に発行予定の第5版科学技術指標の検討チームを設置し、検討を行った。

3.得られた成果・残された課題

 日本の科学技術指標の不十分な点や各国で出されている科学技術指標の内容の比較(米国を中心に)等を行ってきた。指標の体系や内容等について次年度も引き続き検討することとする。

4.特記事項

 多様かつ複雑多岐にわたる科学技術活動を、定量的データに基づき総合的・体系的に分析・評価する本指標は、国内では当研究所以外で開発しているところはない。また、国外では、欧米や一部の開発途上国で取り組まれているが、理論と実証の両面から体系的に取り組んでいる点で国際的にも数少ないものといえる。

5.論文公表等の研究活動

 第4版科学技術指標(英語版)及び同参考資料データ改訂版2001年4月発行(予定)


研究課題4 :

これからの研究開発と人材養成等の諸政策の連携・統合に関する調査研究

市丸 修、小林信一、富澤宏之、伊地知寛博、小嶋典夫、和田幸男、小泉勝利

1.調査研究目的及び性格

 行政改革の一環として、文部省と科学技術庁が統合された。両省庁の政策研究機関にあたる国立教育政策研究所と科学技術政策研究所はそのため、これまで以上に緊密な協力関係を構築することが求められる。

 このことから、具体的な方策の一つとして本共同研究は、学術・教育政策と科学技術政策等の政策形成と行政のあり方および人材教育・育成のあり方等を連携・統合し総合的に検討しようとするものである。

2.研究課題の概要

 相互の研究機関におけるこれまでの本共同研究に関連する研究活動の内容を紹介しながら、共同研究内容等の検討を行った。その結果、表題にあるような共同研究テーマのもと、以下に示すサブ共同研究テーマを定め、平成11年4月から共同研究を実施することになった。

 サブ共同研究テーマは、

  1. 学術政策、科学技術政策および教育政策の総合的な政策形成と行政のあり方に関する調査研究
  2. 高等教育における人材養成のあり方に関する調査研究
  3. 産学官の協調による研究開発推進の条件に関する調査研究
  4. 科学教育、科学技術理解増進のあり方に関する調査研究

 の4テーマである。

3.得られた成果・残された課題

 共同研究の会合は、全共同研究者による全体会合とサブテーマごとの個別会合に分類して開催され、その内今年度の全体会合は、平成12年4月から13年3月まで5回開催された。

 本年度の研究活動は、各サブ課題を独自に実施するところまでには至らず、各回ごとに研究実施状況等の報告、相互の関連研究成果報告および関連海外出張報告等がなされ、議論・協議した。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表等の研究活動

 これらの共同研究活動を踏まえ、両研究所からは独自に共同研究成果が適宜報告書として報告されることになる。

 当研究所においては13年度中に、本共同研究に関連する当研究所の成果を整理統合し、共同研究成果とする予定である。


(4) 第2調査研究グループ

研究課題1 :

先端科学技術と法的規制

大山真未

1. 調査研究の目的及び性格

 本調査研究は、科学技術と人間・社会との調和を図るための施策の立案・推進に資することを目的とし、科学技術(特に生命科学技術)の急速な進展に伴い生ずる倫理的、法的、社会的な問題の指摘、対応の在り方についての提言を行うことを目指すものである。

2.研究課題の概要

 当グループでは、特に近年、科学技術の進展が社会にもたらす変化をめぐる法的問題を取り上げている。本年度は、関連の法学諸分野の専門家(行政法、医事法、民法、刑法等の大学研究者、弁護士)からなる「先端科学技術をめぐる法的諸問題研究会」を組織し、議論、検討を行った。

3.得られた成果・残された課題

 「先端科学技術をめぐる法的諸問題研究会」では、先端科学技術の現状を踏まえ、そのもたらす社会的状況を鳥瞰的に検討し、問題先取り型・問題解決指向型のアプローチにより、望ましい制度作りに向けての政策提言を行うことを目的としている。具体的には、本年度は「遺伝子研究とその応用をめぐる個人情報保護」をトピックとして取り上げ、あわせてその周辺、関連の問題である情報公開と研究情報保護、知的財産権等をも視野に入れ議論を行った。当面2001年夏までの予定であるが、関係専門家とのネットワーク構築、今後の社会科学研究へのインパクト、新しい法学分野確立に向けての先駆けとしての意義からも、継続的な取り組みが課題と考えられる。

4.特記事項

 本年度はこれまでの調査研究の蓄積を活かし、各種委員会に委員として参加した。具体的には、科技庁、文部省、厚生省及び通産省共同による「ヒトゲノム解析研究に関する共通指針(案)」作業委員会委員として、指針作成に関わった。また、平成12年度科学技術政策基礎調査による「ヒトゲノムの研究開発動向及び取り扱いに関する調査」に委員として参加した。平成12年度科学技術政策基礎調査による「生命倫理問題に対する社会的合意形成の手法の在り方に関する調査」の下での「ヒトゲノム研究に関するコンセンサス会議」の試行に際しては、作業部会委員として参加し、併せて同会議において、ヒトゲノム研究の社会的影響等について、市民に対する説明を担当した。

 この他、「先端科学技術と法的規制 < 生命科学技術の規制を中心に > 」(1999年5月)を「生命と法 -クローン研究はどこまで自由か-」と改題し、大蔵省印刷局より刊行した(2000年11月)。

 さらに、2001年2月には、龍谷大学生命倫理研究会において、依頼を受け講演を行った。

5.論文公表などの研究活動

  1. 大山真未「ヒトゲノム研究とその応用をめぐる社会的問題」,第15回研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨集438-441 (2000)
  2. 大山真未「ヒトゲノム研究とその応用をめぐる社会的問題」自治体学研究(神奈川県自治総合研究センター)44-49, No.81 (2000.9)

研究課題2 :

科学技術の公衆理解に関する研究

岡本信司、丹羽富士雄、清水欽也(広島大学)、杉万俊夫(京都大学)

1.調査研究の目的及び性格

 本研究は、科学技術の公衆理解に関して、科学技術全般のみならずライフサイエンス、宇宙開発、マルチメディア等個別分野について、一般国民や科学技術専門家を対象とした意識調査等を実施して、統計的手法等を活用した分析評価を行うことにより、公衆理解に関する問題点を抽出し、その結果を踏まえて、科学技術に対する不安、不信感を払拭するための具体的な理解増進方策に関する政策提言を行い、科学技術に対する理解の増進を図ることを目的とする。

2.研究課題の概要

(1)研究基盤整備

 国内外の研究者ネットワークの構築とデータセンター機能の確立等による研究基盤の整備

(2)国民の科学技術に関する意識調査の実施

  1. 科学技術一般に関する意識調査
    科学技術への関心、理解度(リテラシー)等に関する一般国民への意識調査の実施・分析
  2. 個別分野別意識調査
    ライフサイエンス、宇宙開発、マルチメディア等の個別分野に関する一般国民への意識調査の実施
  3. その他
    専門家、有識者等への意識調査の実施

(3)科学技術理解増進方策の検討

(2)の意識調査結果を踏まえて具体的な理解増進方策を検討

(4)国際協力及び国際共同研究の実施

 国際研究グループとの積極的協力、国際共同研究の実施

3.得られた成果・残された課題

 一般国民に対する科学技術に関する意識調査を実施するための準備として、英国、ベルギー、米国に出張して海外の研究者との意見交換を行うとともに、海外の状況を調査した。

 また、国民3000人を対象とした「科学技術に関する意識調査」を実施した。

4.特記事項

 これまで当研究所において、「日・米・欧における科学技術に対する社会意識に関する国際比較調査」をはじめ多くの関連研究を実施してきた経緯あり。

 また、研究協力者として参画している文部省科学研究費補助金基盤研究「科学教育システムに関する国際学術調査」(平成11〜13年度)との連携を図る。

5.論文公表などの研究活動

  1. 岡本信司「科学技術に関する意識調査の実施と分析手法について」資料(2000.4)
  2. 科学技術政策研究所ニュースNo.141、142、143、144、146、148
    「科学技術に関する国民意識調査について(その1〜6)」

研究課題3 :

21世紀に向けた宇宙開発政策の在り方に関する研究

岡本信司

1. 調査研究の目的及び性格

 平成12年度からの中央省庁等の再編に伴い、宇宙開発委員会をはじめ宇宙開発関係機関の機能、構成等が大きく変化することとなるため、今後、21世紀に向けた宇宙開発の在り方のみならず、宇宙産業の展開等宇宙開発における様々な課題を検討していく必要がある。このため、これらの検討に資するための関連調査研究を実施する。

2.研究課題の概要

  1. 「宇宙開発政策における貿易問題に関する考察」
    宇宙産業への政府の関与を規制した衛星調達に関する90年日米合意、WTOにおける規制等について調査を実施する。
  2. 「宇宙の平和利用に関する考察」
    我が国の宇宙開発における平和利用問題(宇宙開発事業団法及び国会決議による規制)について、これまでの経緯等について調査を実施する。
  3. 「宇宙産業の今後の展開」
    宇宙開発政策における宇宙産業の在り方、将来の政府・民間の役割等について産業界等の要望等について調査を実施する。
  4. 「21世紀の我が国宇宙開発の技術的課題」
    宇宙開発に関する技術動向について、ロケット等輸送系、衛星系、コンポーネント・部品等の個別分野における我が国の技術水準について調査を実施する。

3.得られた成果・残された課題

 「宇宙の平和利用に関する考察」に関する調査を実施した。

4.特記事項

 これまでこの種の調査研究が行われた事例はない。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題4 :

科学技術とNPOの関係についての調査

寺川 仁、小嶋 典夫、平野 千博(岩手県立大学)、永野 博

1.調査研究の目的及び性格

 民間非営利活動団体の活動を推進するため、1998年に「特定非営利活動促進法」(通称「NPO法」)が施行されたことなどを踏まえ、科学技術に関連が深いNPOについて事例調査を行うことにより、これらのNPOの現状を把握するとともに、今後の科学技術行政における、NPO を視野に入れた対応の方向を検討した。

2.研究課題の概要

 科学技術とNPOの関連を、「科学技術の理解増進」、「自由な研究の場の提供」、「政策策定への参加」、「技術者の育成」、「技術の普及」と分類したうえで、これらの観点から、公開されているNPO 法人の定款上の活動目的を調べて選定した13のNPO法人と、政策決定への参加に密接に関連すると考えられる1つの任意団体のNPOの合計14のNPOを選定し、これらに対して聞き取り調査を行った。

3.得られた成果・残された課題

 博物館の活用・支援、科学実験教室の開催、研究者を中心とするNPOによる研究活動や科学技術理解増進活動、コンセンサス会議、政策提言活動などの、科学技術に関連する活動において、NPOが主体の一つとして機能しており、今後はこれらの活動においてNPOが大きな役割を果たすことが期待できることがわかった。

 科学技術行政としては、NPOを科学技術活動の主体の一つとして明確に位置付けるべきであり、科学技術活動を行っているNPOとの連携、支援を図っていくべきであると考えられる。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 寺川 仁、小嶋典夫、平野千博、永野 博「科学技術とNPOの関係についての調査」調査資料No.78(2001.3)

(5) 第3調査研究グループ

研究課題1 :

地域における科学技術振興に関する調査研究(第5回調査)

森川晴成、新舩洋一、柿崎文彦、渡辺俊彦、権田金治(東海大学)

1.調査研究の目的及び性格

 本調査研究は、地域の科学技術振興において重要な地位を占める都道府県及び政令指定都市における科学技術振興施策と、地域における平成11年度の科学技術関係経費の把握を目的とする。

2.調査研究課題の概要

 都道府県及び政令指定都市における科学技術振興施策と科学技術関係経費を把握した。今回の調査では公設試験研究機関の研究課題等の評価について設問を加えた。

3.得られた成果・残された課題

 調査の結果、以下のことが明らかとなった。

  1. 科学技術振興のための都道府県における総合的推進体制の整備が着実に進んでいる。
  2. 平成11年度の地域における科学技術関係経費は平成9年度にくらべて減少した。
  3. 地方公共団体における科学技術関係経費の財源の内、国庫支出金が占める割合は約5%である。
  4. 地方公共団体における科学技術関係経費の内、約17%が施設整備費である。
  5. 地方公共団体においては、その設置する公設試験研究機関における研究課題について59団体のうち49団体が何らかの形で評価を実施している。しかし、公設試験研究機関の機関評価を実施している団体は少ない。

4.特記事項

 今回の調査においては、過去4回の調査、特に前回の第4回調査との連続性に配慮し、地域における科学技術振興施策を12の分野に分けて把握すること等によって、調査精度の向上に努めた。

5.論文公表等の研究活動

  1. Fumihiko Kakizaki,"A Comparativ Study of the Relationship between Regional S&T Infrastructure and Industrial Performance in Japan" PESTPOR 2000 Conference
  2. 森川晴成、新舩洋一、柿崎文彦、渡辺俊彦、権田金治「地域における科学技術振興に関する調査研究(第5回調査)」NISTEP REPORT (2001.6予定)

研究課題2 :

地域における科学技術資源指標策定に関する調査研究

渡辺俊彦、新舩洋一、権田金治(東海大学)

1.調査研究の目的及び性格

 本調査研究は、「地域科学技術指標策定に関する調査(平成8年度)」において提示したモデルを用い地域における科学技術資源等の計測により、地域技術革新に関して検討するものである。

2.調査研究課題の概要

 平成8年度に実施した「地域科学技術指標策定に関する調査」において提示したモデルを検討して発展させるとともに、新しい指標の追加及びその検討を行った。また、その指標を用い地域特性の分析を行った。前回の調査研究において課題となった、創造的活動を理解・尊重するような地域であるかどうか、企業家精神が旺盛な地域かどうか等の定量的等についても検討を行った。

3.得られた成果・残された課題

 交通の利便性等の新しい種類の指標を導入するなどした結果、前回の報告書にくらべて指標の種類・数ともに豊富になった。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表等の研究活動

  1. 新舩権洋一、渡辺俊彦、権田金治「地域科学技術指標に関する調査研究」として公表予定。

研究課題3 :

中小企業の研究技術開発活動にみる立地動向についての調査研究

森川晴成、柿崎文彦、権田金治(東海大学)

1.調査研究の目的及び性格

 地域におけるイノベーションを把握するために、研究開発活動の主要な担い手である中小企業の業態、研究開発活動等と、その立地動向との関連性を分析することで、産業の分散及び集積を科学技術の視点から検討する。

2.研究課題の概要

 関連企業との分業等による経済的なメリットから企業は集積して立地することが最も効率がよいと考えられてきた。しかしながら、産業状況変数(企業数、従業員数、出荷額)の空間移動特性の研究から、産業には集積立地するものと分散立地するものに大きく分けられることが明らかとなった。本研究では産業状況変数のほか、研究開発活動、経営上の技術情報の入手先等を調査票調査により把握し、分析を行った。

3.得られた成果・残された課題

 企業はその業種・業態によって、その企業に有用な情報の種類や入手の方法、そしてそのための手段が異なり、特に研究開発型の企業では、公設試験研究機関等の地域の科学技術基盤との関連性が見られる。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 森川晴成、権田金治「研究・開発と中小企業の立地に関する研究」第15回研究・技術計画学会年次学術大会講演要旨録234-237(2000.10)
  2. 柿崎文彦、森川晴成、権田金治「中小企業の研究技術開発活動にみる立地動向についての調査研究」として発表予定。

研究課題4 :

日中における地域イノベーション・システムに関する比較研究

Su Jing、渡辺俊彦、権田金治(東海大学)

1.調査研究の目的及び性格

 中国は現在「計画経済」から「市場経済」へと大きく転換しつつあり、中国政府は、経済開発を促進するために、新しい科学技術政策のもとに全国に53カ所のハイテク開発地域を建設した。それらのいくつかは成功しているが、成功していないものが多い。不成功の理由の一つには、その開発地域を支援するための社会的システムが十分に整備されていないことが挙げられる。このため、地域科学技術振興政策の必要性、地域イノベーション・システムの構築の仕方、地域科学技術資源の最大限の活用等を検討することが、中国の緊急的課題である。これらの課題の検討に当たっては、地域イノベーション・システムの研究を活発に行っている日本に学ぶところが多いところから、日中の比較調査を実施することによって知見を得ることとした。

2.調査研究課題の概要

 日本及び中国における地域イノベーション・システムの構成要因等を明らかにし、それらの構成要因等が実際にどのような関わり合いのなかで、両国の地域イノベーション・システムとして形成され、有効に機能されているかを解明した。また地域イノベーション・システムを具体的に解明するために日中の特定地域を選定し、それらの地域の研究開発活動の実態を比較分析するための事例研究を行い、中国における地域イノベーション・システムのあるべき姿として、そのフレームワークの構築とそのメカニズムを究明した。

3.得られた成果・残された課題

 日本及び中国における中央政府及び地方政府の地域科学技術振興に係わる種々の政策・制度、科学技術関係経費等が明らかにされた。特に、Su Jing氏にとっては、日本の科学技術庁、通産省、文部省等の科学技術振興政策の具体的な取り組みの内容(法的制度を含む)やそれらの具体的なプロジェクトを実施している中小企業庁、JST等の主要な機関の活動状況が網羅的に把握できたことは、大きな成果であったと思われる。一方、日本側にとっても、情報が乏しい中国の研究開発状況の具体的な内容(ハイテク開発地域等)や研究開発制度・仕組み等が明らかにされたことにより、中国政府の科学技術の取り組み方の一端が把握できた。

4.特記事項

 Dr.Su Jing(中国国家科学技術部政策法律規制及び体制改革局プロジェクト研究協調官)は、STAフェローとして平成11年11月10日〜平成12年11月9日の1年間、当該研究課題を研究した。

5.論文公表等の研究活動

  1. Su Jing「The Comparative Study of Regional Innovation Systems of Japan and China」調査資料No.74(2000.11)
  2. (RESTOPORでの発表)発表タイトルは同上

(6) 科学技術動向研究センター (第4調査研究グループ)

研究課題1 :

第7回技術予測調査

桑原輝隆、瀬谷道夫、新名秀章、堀内勝夫、小笠原 敦
松久保雅弘、上田尚郎、宇都宮 博、横尾淑子

1.調査研究の目的及び性格

 本調査の目的は、多くの専門家の協力の下に「長期的な視野に立って我が国の科学技術の方向を探り、その進歩と社会的ニーズの接点に見通しを立てる」ことである。この調査を通じて、我が国全体としての科学技術の振興、新規施策の立案のための基礎資料が提供され、また、産・学・官の多くの組織が科学技術の将来展望を共有することが可能となる。

2.研究課題の概要

 昨今、科学技術と社会との関係がより密接になってきている。そこで、本調査においては、技術を担当する分科会のほかに科学技術に対するニーズを担当する分科会を設け、社会経済ニーズを明示的に課題作成に生かす仕組みをつくり、技術、社会など多様な視点から重要な科学技術を取りあげることを試みる。また、制度、ライフスタイルなど技術的でない事項が技術発展に大きな影響を及ぼす場合があることを考慮し、必要に応じてそれらを非技術課題として取り入れる。さらに、経済のソフト化、情報化の進展などを考慮し、新たにサービス関連分野を設けるなど、社会の変化を反映させる。

 調査では従来通りデルファイ法を用いる。分野ごとの分科会及び委員会において調査課題及び重要度や実現予測時期などの設問を設定し、専門家へのアンケートを2度繰り返して回答を収れんさせる。調査結果は、分野ごとおよび全分野横断的な分析を行う。

3.得られた成果・残された課題

 分科会および委員会の検討を経て16分野1065課題、7設問を設定し、8月および12月にアンケート調査を実施した。併せて、現在及び10年後の研究開発の重要分野について、全分野の専門家に回答を求めた。現在調査結果を分析中であり、6月には総論及び分野別各論から成る報告書を公表の予定である。

 なお、今回は世紀の変わり目に当たることから、8月の調査において「21世紀中に実現する、あるいは実現して欲しい画期的な新技術や、これに伴う生活や社会の根本的な変化」などについて自由な発想の記述を求め、これを取りまとめて別途公表した。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 宇都宮 博、小笠原 敦、桑原輝隆「21世紀の科学技術の展望とそのあり方」調査資料No.75 (2000年12月)
(第7回技術予測調査委員会 委員一覧)(敬称略)
委員長 牧野 昇 株式会社三菱総合研究所相談役
[技術系]
委員 (情報通信) 相磯 秀夫 東京工科大学学長
委員 (エレクトロニクス) 石原 宏 東京工業大学
フロンティア創造共同研究センター教授
委員 (ライフサイエンス) 軽部 征夫 東京大学国際・産学共同研究センター長
委員 (保健・医療) 平井 俊策 東京都立神経病院長
委員 (農林水産・食品) 西尾 敏彦 (社)農林水産技術情報協会理事長
委員 (海洋・地球・宇宙) 濱田 隆士 放送大学教授
委員 (資源・エネルギー・環境) 吉田 邦夫 アジア科学教育経済発展機構理事
委員 (材料・プロセス) 弘岡 正明 流通科学大学副学長
委員 (製造) 川口 忠雄 成蹊大学工学部教授
委員 (流通) 田島 義博 学校法人学習院専務理事
委員 (経営・管理) 沼田 潤 武蔵工業大学環境情報学部教授
委員 (都市・建築・土木) 月尾 嘉男 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
委員 (交通) 石田 東生 筑波大学社会工学系教授
委員 (サービス) 須藤 修 東京大学社会情報研究所教授
[ニーズ系]
委員 (新社会・経済システム) 佐和 隆光 京都大学経済研究所教授
委員 (少子・高齢化) 袖井 孝子 お茶の水女子大学生活科学部教授
委員 (安全・安心) 吉井 博明 東京経済大学コミュニケーション学部教授

研究課題2 :

先端科学技術動向調査(加速器科学)

瀬谷道夫、桑原輝隆

1.調査研究の目的及び性格

 本調査研究は、応用分野(領域)の広い加速器科学を取り上げ、加速器科学にブレークスルーを起こす可能性のある(主として)新しい原理による小型加速器の研究開発状況を調べるとともに、今後の発展動向を予測調査し、加速器科学の多様な発展を支援する方策についての基礎資料を提供することを目的とするものである。

2.研究課題の概要

 近年、加速器科学は素粒子及び原子核物理学のみならず物質・材料科学、生命科学、医療利用などの国民生活に直接的に関わる分野への拡大が著しい。このような状況において、加速器科学が今後も長期にわたり従来型の大型加速器に頼らざるを得ないとなると、将来の加速器科学の多様な、かつ、国民生活により密着した発展を阻害することとなりかねない。このため、ニーズが高いと考えられる小型加速器に関する研究開発動向を調べ、その研究開発状況と直面する技術的な課題等を的確に把握し、支援すべき点を明らかにする。

 具体的には、主として新しい原理に基づく加速技術の研究開発状況及びそれらの加速技術に基づく先進小型加速器等に関する具体的な提案を調査し、それらを加速器研究者に提示し実現性等に関する予測見解の収集を行う。また、加速器ビームユーザーを対象とする調査により、加速器でつくられる種々のビームの利用状況、将来的な加速器ビームのニーズを把握する。その際、上の先進小型加速器等に関する提案のまとめとそれらに対する加速器研究者の実現性に関する予測を紹介し、その開発ニーズも同時に把握する。これらの結果を踏まえつつ、先進小型加速器等の開発を支援する方策に関する考察も行う。

 なお、これらの調査分析は、当研究所の委員会(先端科学技術動向調査委員会(加速器科学))により方向付けを行った。平成12年度の上記委員会のメンバーを次頁に示す。

3.得られた成果・残された課題

 本年度においては、1昨年度実施した「ブレークスルー加速技術による小型加速器等に関する開発予測調査」(平成10年11月〜平成11年1月)及び昨年度実施した「加速器ビームニーズ等に関する調査」(平成11年9月〜平成12年1月)の結果を踏まえつつ、加速器科学の各分野での研究開発動向を整理するとともに、今後の加速器科学の多様な発展を担う先進小型加速器の開発を支援する方策に対する考察を行い、政策提言案をまとめるとともに報告書を作成した。

4.特記事項

 他の政策研究機関においては、このような調査研究については例がない。

5.論文公表等の研究活動

 平成12年度においては、本調査の結果を

  • NISTEP REPORT No.67 「加速器技術に関する先端動向調査」(平成12年12月)及び
  • 調査資料-76「加速器ビームニーズ等に関する調査結果」(平成12年12月)

 にまとめた。

(先端科学技術動向調査委員会(加速器科学)委員一覧)(平成12年度))(敬称略、50音順)
委員 上坂 充 東京大学 大学院工学系研究科 原子力工学研究施設 教授
 〃 遠藤 一太広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授
 〃 小方 厚 広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授
 〃 片山 武司東京大学 大学院理学系研究科 原子核科学研究センター 教授
 〃 北川 米喜大阪大学 レーザー核融合研究センター 助教授
 〃 熊谷 教孝(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門長
 〃 熊田 雅之放射線医学総合研究所 主任研究官
 〃 小山 和義工業技術院 電子技術総合研究所 主任研究官
 〃 佐藤 勇 日本大学 原子力研究所 教授
 〃 佐藤 健次大阪大学 核物理研究センター 教授
 〃 竹田 誠之文部省 高エネルギー加速器研究機構 助教授
 〃 中島 一久文部省 高エネルギー加速器研究機構 助教授
 〃 中村 一隆東京工業大学 応用セラミックス研究所 助教授
 〃 西田 靖 宇都宮大学 大学院工学研究科 教授
 〃 野田 章 京都大学 化学研究所 原子核科学研究施設 教授
委員長平尾 泰男放射線医学総合研究所 顧問
委員 水本 元治日本原子力研究所 東海研究所 中性子科学研究センター
陽子加速器研究室長 (主任研究員)
 〃 矢野 安重理化学研究所 加速器基盤研究部長 (主任研究員)

研究課題3 :

国民健康領域の科学技術に関する研究 -ヒューマンヘルスケア支援技術を中心として-

香月祥太郎(NTTソフトウェア)、桑原輝隆

1.調査研究の目的及び性格

 生活習慣病の予防など、日常の健康管理を通して健康を増進させようとする意識が高まりつつある中で、国民健康領域、特にヒューマンヘルスケアへの科学技術の対応は、今日の重要な政策課題である。本研究は、高齢化時代に向けて、国民の求める健康の維持・管理と生活の質に対するニーズ、及びそれに対応する支援技術を明らかにし、その実現のための課題と方策について検討することを目的とする。

2.研究課題の概要

  1. 健常者を中心とする一般の人々のヘルスケアに対する意識とニーズを明らかにし、一次予防の立場からニーズの実現に必要な科学技術への対応策について検討する。
  2. ヘルスケアの目標となる健康の概念と枠組みを明らかにする。
  3. 健常者のヘルスケアに対する意識を実態的に明らかにし、それに基づく健康維持・増進のためのヘルスケア支援技術、医療技術への期待を分析する。
  4. 技術フレームと技術課題を設定し、その実現のための問題点と対応策を検討する。

3.得られた成果・残された課題

(得られた成果)

  1. 健康とは、人間として正常とされる範囲での諸活動を行なうための、身体的・精神的に良好な状態をいい、質の高い生活を送り自己実現を達成するための貴重な資源であり、資産であると規定する。
  2. ヘルスケアについての概念は、個人、個人を含むコミュニティ(環境)及び社会の3つの領域からなる枠組みの中で考えることとし、その個々の領域では、健康状態、健康意識、健康行動の3つの要素が相互に作用することによって良好な健康管理が行なえる。
  3. この健康の枠組みの中で、健康管理目標は、健康を他に代え難い資産として捉え、自らの努力で維持・増進させることであり、それによって自らの生活の質を向上させることが可能である。
  4. 以上のことを勘案し、一般の人々を対象とした"ヘルスケアに関する意識調査"のアンケート調査表を設計し、実施に向けて検討を進めている。
  5. 一方、第6回技術予測調査から、ヘルスケアに関連した項目を抽出し、重要度の観点で整理すると共に、健康の維持、増進のための支援技術について、医療専門家の意見を参考に内容の検討を進めた。

(残された課題)

 "ヘルスケアに関する意識調査"に関して、調査表が完成し実施する段階である。今後はこの結果を参考に、本研究の取り纏めを行なう予定である。

4.特記事項

 個人の健康に関する意識調査は、プライバシーに抵触しないよう配慮する必要があり、また実施機関との調整が必要である。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題4 :

領域別技術革新条件調査
-材料・プロセス技術を中心としたシリコンデバイスにおける現在の技術限界と新技術の展望-

上田尚郎、桑原輝隆

1.調査研究の目的及び性格

 科学技術における既存技術の向上・発展の可能性と新技術の可能性を比較し、技術革新の動向を把握することを目的として、シリコンデバイスにおける技術限界と新技術の展望について本研究を実施する。シリコンデバイス(メモリ、MPU等)に関する微細加工技術では、かつて「ミクロンの壁」といわれ非シリコンの新技術が不可欠と考えられた。しかし既存技術が発展し、光によるデバイス製造技術が改良され、現状ではサブミクロンまでの設計ルールが実現している。このように既存技術の可能性を評価することは、新技術の動向を明らかにする上で重要である。

2.研究課題の概要

 本調査では、デバイス技術の中核にあるシリコンデバイスを取り上げ、既存技術の向上・発展の可能性を評価することで、新しい技術革新の可能性を評価・展望する。

3.得られた成果・残された課題

 シリコンデバイスに関連する最新の技術動向等について、第一線の研究者の講演を中心に情報収集を実施している。これまでの成果について、下記に簡単にまとめる。

  • 専門家による講演会を実施。講演者は、長崎総合科学大学:松井誠教授、東北大学:大見忠弘教授)。
  • シリコンデバイスの技術限界の要因は、(1)半導体特性(Siの物性値)、(2)絶縁体(SiO2の物性値)、(3)導電体(回路電極)、(4)界面制御技術、(5)デバイス構造、が挙げられる。
  • 高集積化によりトランジスタ素子数が増大、電力密度の増大が問題。これはデバイス構造の複雑化と電力消費(発熱量)の増大につながり、ともすれば性能限界への壁となる。
  • サブ0.1μm時代に向けた配線の微細化では、ゲート絶縁膜(SiO2)の機能低下(リーク電流増加)が、デバイスの最大の限界要因となるため、SiO2に替わる高誘電率材料が検討されている。数十ナノレベルの微細化技術を睨み、SOIデバイスの開発や革新的な配線構造等の研究も進められつつある。
  • 現状ではシリコンを凌駕できるデバイス材料は見あたらず、将来も汎用デバイス材の中心である。今後の課題として、現状のシリコンにかわる新材料として注目を集める Cナノチューブ等のデバイス、さらに次世代デバイスとして基礎研究が進みつつある単電子デバイスや、量子デバイスの技術動向についても注目し、それらの可能性についても言及していきたい。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題5 :

領域別技術革新条件調査 -光技術における現在の技術限界と新技術の展望-

松久保雅弘、桑原輝隆

1.調査研究の目的及び性格

 本調査研究の目的は、科学技術の各領域において、既存技術の向上・発展の可能性と新技術の可能性を比較することを通じて、全体としての技術革新の動向を把握することである。

2.研究課題の概要

 例えば、メモリ、MPU等についての微細加工技術については、約20年前には「ミクロンの壁」が言われ、シリコンデバイスの一層の向上のためには非シリコンの技術が不可欠と考えられていた。しかし、実際には、光によるシリコン加工技術の改良で、サブミクロンの設計ルールが実現し、新技術によるデバイスはまだ実用化されていない。このように、既存の技術の可能性を評価することは、新技術の動向を明らかにするうえで重要な要因である。

 この調査では、光技術に関する既存技術の向上・発展の可能性の評価および新技術の展望について研究者、専門家を招いた講演会を開催することによる方法を中心に調査を行う。この調査において取り上げる光技術は光磁気記録技術および光通信技術である。

3.得られた成果・残された課題

 今年度は、研究者・専門家を招いた所内講演会を4回開催した。光磁気記録技術については、現在研究開発レベルではあるが、記録密度 64 G bit/inch2の光磁気記録を達成したことおよび今後記録密度 1 T bit/inch2まで光磁気記録方式により記録密度が向上する可能性があり、記録密度 1 T bit/inch2を実現するには、熱安定性の向上に向けた材料開発を行っていく必要があることがわかった。 光通信技術については、これまで開発が進められてきた光通信システムにおける伝送容量の大容量化が限界に達しようとしており、これを打破する技術として光時分割多重方式(OTDM)が注目していく必要があること等がわかった。今後、光磁気記録技術、光通信技術が更なる発展をしていくための課題について調査する。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

 特になし。


研究課題6 :

技術予測の実証的分析に関する研究 -情報・通信・エレクトロニクス分野のケーススタディー-

桑原 輝隆、小笠原 敦、堀内 勝夫

1.調査研究の目的及び性格

 過去30年間実施されてきた技術予測作業(第1回から第6回)から得られたデータを下に、各種の実証分析を行う。即ち、どの様な技術進展は的確に予測され、逆にどのような技術は予測し得なかった等を検証する事により今後、技術予測調査の手法等へ深化させ、その有用性を増して行く事を目的とする。

2.研究課題の概要

 情報・通信・エレクトロニクス分野において、第1回目から第6回目までに実施された技術予測でのアンケート調査結果及び、第1回目から第2回目の技術課題について、1992年及び1997年に実施した評価結果等により実証分析を行う。

3.得られた成果・残された課題

 本研究によって、(1)予測された技術項目が、実際に実現されたタイプ、(2)予測された技術項目が、実際には実現しなかったタイプ、(3)予測出来なかった技術項目が、実際には実現されたタイプの3つのタイプに基づいて実証分析結果を得た。即ち、(1)については、実現予測時期と実際の実現時期の関係、②については、他の技術によりその目的が達成されたのか、あるいは社会ニーズが生じなかったのか、③については、全く予測できなかったのか、要素技術は見通されていたがそのシステム化が見通されなかったのか、なぜ予測出来なかったのか等の問題意識に基づいた分析及び検証等を行った。残された課題としては、実証分析結果に基づいた課題を整理して、今後、技術予測調査の手法等へ深化させ、その有用性を増して行くための施策は何かを検討する。

4.特記事項

 情報・通信・エレクトロニクス分野はドッグイヤーと言われ、極めて技術の進化スピードが速いのが特徴であるため、それらの要因が技術予測の実施結果で他の分野と比較して、如何に異なった分析結果となるかがポイントである。

5.論文公表などの研究活動

 特になし


(7)情報分析課

研究課題1 :

外国技術導入の動向分析(平成10年度版)

山口 治、相馬 融、清家 彰敏(富山大学)

1.調査研究の目的及び性格

 我が国における外国技術導入の動向をより正確に把握し、技術貿易関連の研究における基礎的なデータを得ることを目的として、技術導入契約の締結に関する報告書等に基づき、毎年度、我が国における外国からの技術導入の実績をとりまとめるとともに、最近の技術導入の動向について分析を行っている。

2.研究課題の概要

1)調査対象

 平成10年度中に受理された技術導入契約の締結(変更)に関する報告(届出)書。

平成10年度新規技術導入契約 1,527件
平成10年度変更契約 782件
(但し、平成10年度は法令改正により、3千万円以下の契約は報告義務がない)

2)調査項目

  1. 企業:業種、資本金規模
  2. 導入技術:技術の内容、技術分類、技術の種類、先端技術分野
  3. 契約相手先企業:相手先国・地域、資本関係
  4. 契約条件:契約期間、契約形態、対価支払方法、独占権・再実施権の有無

3.得られた成果・残された課題

  • 新規技術導入件数は、経済活動の停滞により、減少傾向。
  • 米国からの導入件数は減少しているが、米国の割合は6割強を維持。
  • 全体件数減少の中、「ラジオ・テレビ・音響器具」で大きく増加し、「その他電子応用装置」、「精密機械」は横這。
  • 資本金100億円以上の企業の割合が増加し、景気停滞のなか、大企業への偏重傾向。
  • 特許や商標を含む技術の割合が増加しており、欧米企業の工業所有権戦略に変化の可能性。
  • ソフトウェアにおいても、知的所有権重視の傾向が進展し、独占権等を伴った導入が減少傾向。

4.特記事項

 本調査研究は法令による報告書等により分析を行っており、他の調査が追随することは困難である。

5.論文公表等の研究発表

  1. 山口治、相馬融、清家彰敏「外国技術導入の動向分析(平成10年度)」NISTEP REPORT No.68(2001.2)

研究課題2 :

日本の技術輸出の実態(平成10年度版)

花井 光浩、山口 治、相馬 融、清家 彰敏(富山大学)

1.調査研究の目的及び性格

 外国との技術、ノウハウの取引、いわゆる技術貿易の実態把握は、我が国の技術水準、技術開発力に対する知見を得るだけでなく、我が国と外国との技術上の結びつきや、我が国の技術の国際的な波及実態を把握する上で重要な意義を有している。

 本調査研究は、技術の輸出について実態を分析し、政策立案のための基礎的なデータを提供することを目的としている。

2.研究課題の概要

  1. 調査方法及び回収状況
    1. 調査対象契約:平成10年度の1年間に締結された技術輸出契約
    2. 調査方法:郵送によるアンケート調査
    3. 調査対象企業:資本金10億円以上の製造業すべてと技術貿易に関連がある企業(3,205社)
    4. 回収結果:回答企業数 2,745社 (回収率85.6%)
  2. 調査項目
    1. 企業について:業種、資本金規模
    2. 輸出技術について:技術の内容、技術分類、技術の種類、先端技術分野
    3. 契約相手先について:輸出先国・地域、資本関係
    4. 契約条件:契約期間、契約形態、対価受取方法、独占権・再実施権の有無

3.得られた成果・残された課題

  • 平成10年度に新規の技術輸出を行っている企業数は、大きく落ち込んだ平成9年度とほぼ同数であった。
  • アジアへの技術輸出が減少しており、特に、韓国の落ち込みが続いている。
  • 「電子部品・デバイス」において台湾が、「医薬品」において米国が、「非鉄金属」および「発送電・配電・産業用電気機械」において中国が大きく伸びている。
  • 先端技術分野についてみると、輸入が輸出を大きく上回っているなかで、「バイオテクノロジー」「医薬品」は、輸出が輸入を上回っている。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表などの研究活動

  1. 花井光浩、山口治、相馬融、清家彰敏「日本の技術輸出の実態(平成10年度)」NISTEP REPORT No.69(2001.2)

研究課題3 :

日中間の技術貿易の現状に関する研究
-火力発電設備における環境保全関連技術の移転状況と課題-

花井光浩

1.調査研究の目的及び性格

 中国における環境問題は、急速な経済発展に伴い年々深刻さを増し、一衣帯水の隣国である日本も直接的影響を受ける問題となっており、先進国からの早急な技術移転が求められている。

 ここでは、火力発電設備における環境保全関連技術を事例として、日本から中国への技術移転状況について現状を分析し、技術移転促進のための課題と解決策を中国科技促進発展研究中心と共同で検討・提案することを目的とする。

2.研究課題の概要

 中国においては、今後海外からの環境保全関連技術の導入が伸びていくと予想される。日本からの技術移転も民間企業のみならず、政府ODAも含めて増加が求められているが、より効果的に実施していくための基礎データとなる技術移転の現状が明確になっていない。日本から中国への技術移転状況と欧米から中国への技術移転状況を比較することにより課題を明確にしていく。

  1. 中国における環境汚染状況
  2. 環境汚染物質の処理状況と関連政策
  3. 中国における環境保全技術のレベル
  4. 日本および欧米から中国への技術移転の現状
  5. 日本および欧米から中国への技術移転の効果の比較
  6. 日中間の技術移転をより効果的に行うための提言

3.得られた成果・残された課題

 火力発電設備における環境保全関連技術を事例として、日本から中国への環境保全技術の移転状況および中国における環境汚染状況・環境汚染物質処理状況・環境保全技術レベルを明らかにした。

 今後、中国側企業へ導入した技術の稼働状況・普及状況等の調査を行い、技術を輸出した日本側企業の考えと比較することにより日中間の技術移転をより効果的に行うための課題を分析していく。

4.特記事項

 共同研究先である中国科学技術部科技促進発展研究中心とは、2000年1月17日に3年間の研究協力等に係わる協定を中曽根元科学技術庁長官および朱中国科学技術部長(大臣)立会のもと締結した。その後、2000年3月27日に第一回目の共同研究課題として本内容に取り組むことに合意している。

5.論文公表などの研究活動

 報告書を取りまとめる予定。


研究課題4 :

ソフトウェアにおける技術輸出入の動向分析 -対米大幅入超について-

清家 彰敏(富山大学)、山口 治、相馬 融

1.調査研究の目的及び性格

 技術導入、技術輸出の各調査によれば、日本は、ソフトウェアを米国から導入し、ハード系技術をアジアの各国へ輸出しているという構造が得られている。1998年度技術導入調査のソフトウェア輸入は650件(米国497件)で、技術輸出調査は61件(米国18件)であった。調査対象・手法等が異なることを前提にあえて比較すると、対米入超は27.6倍に達する。

 本調査は、技術輸入から技術輸出に至るソフトウェアのフローを1996年度から1998年度の3カ年について調査、我が国におけるソフトウェアの技術貿易の構造を把握、対米大幅入超の原因を究明し、政策への資料作りを行う。特に、今後の日米関係をソフトウェア輸出入と特許戦略の視点から分析し、政策資料とする。

2.研究課題の概要

 「外国技術導入の動向分析」で得られたデータから、ソフトウェアに関する技術を内容別に再分類し、金額ベースで調べられている他の統計を活用しながら、詳細に分析し、技術貿易の関係官庁、技術貿易を実施する民間企業に対しても聞き取り調査等を行う。

3.得られた成果・残された課題

  • 1996年度は分析シミュレーションが1位で16.5%。1997、1998年度は通信ソースコードが1位になった(1998年度17.8%)。ゲームは、1996年度が、4.1%。1997年度が4%、1998年度が8.9%と急増した。
  • 通信・電子電気系が全体の約3分の1である。
  • ソフトウェア開発は米国が群を抜いている。続いて英国、カナダといった英語圏が強い。
  • ソフトウェアの権利は、ハードウェアに比較して曖昧であり、その権利行使は米国がもっとも厳しいと思われ、考察を詳細に行っていく必要がある。

4.特記事項

 本調査研究は法令に基づく届け出等により分析しており、他の調査が追随することは困難である。

5.論文公表等の研究発表

  1. 「ソフトウェアにおける外国技術導入の動向分析」NISTEP REPORTとして、2001年7月に発表予定。

研究課題5 :

技術導入取引の契約形態・企業内部化要因の分析

和田 哲夫(学習院大学)、相馬 融

1.調査研究の目的及び性格

 技術は、他の財に比べて専有可能性などいろいろな点で異なり、この結果、技術の取引形態も特殊なものとなることが多い。そこで、過去の技術導入データを用い、特殊契約形態を用いる理由や、契約形態の差から生まれる効果に関する経済学上の予想がデータから支持されるか検証し、理論上の知見を得ることを目的とする。

2.研究課題の概要

 特許ライセンスに対する対価は、一般にランニングロイヤリティと固定額ロイヤリティ(イニシャルまたはミニマム)の一方または両方が用いられる。この2つの方式の選択要因を、技術導入データと特許データベース等を組み合わせて統計的に調べた。具体的には、1988年から92年の米国から日本への特許許諾契約のうち、直接・間接の資本関係がない企業間で結ばれた契約であって、かつクロスライセンスではない契約と、それに含まれる米国特許、及びそれら特許を引用する特許(1998年まで)を主な分析材料とした。ランニングロイヤリティの説明要因として、企業の資本金額や総保有特許数と、特許引用データを用いた契約対象特許の被引用数に着目した。

3.得られた成果・残された課題

 企業の資本金額や総保有特許数から見て、ライセンサ企業の規模とランニングロイヤリティ使用に正の関係、ライセンシ企業の規模とランニングロイヤリティ使用には負の関係が確かめられた。大企業はよりリスク許容的と仮定すれば、ランニングロイヤリティはリスク分担手段である、という解釈と整合的である。しかし、ライセンスされる特許の被引用回数が多くなればなるほど、一括支払いのみが用いられ、ランニングロイヤリティが使われない、という傾向も強く有意に観察された。多く引用される特許は経済価値が高い、という他の先行研究結果を字句通りあてはめると、より高いリスクを全くライセンサが分担しないのはおかしい。そこで、多く引用される特許は、ライセンサが完全にコントロールすることが難しい研究開発外部性が大きい、という理解をするべきではないか、と暫定的に結論づけた。ライセンサが無形の技術援助をしても、製品売り上げを通じてライセンサへの対価増加に寄与しないため、そもそもそのような援助を促進すべくランニングロイヤリティを用いる意味がなくなってしまうためであろう。研究開発外部性の内容について、特許分類データなどを用いてさらに詳細に検討する必要がある。

4.特記事項

 特になし。

5.論文公表等の研究発表

  1. "Post-Contracting Innovations and Contingent Payment Scheme in Patent Licensing Contracts" (with Noriyuki Yanagawa), paper presented at the 4th Annual Conference of the International Society for New Institutional Economics, Sep. 2000, Tubingen, Germany

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