2.科学技術政策研究所の概要

(1)業務の基本方針

 21世紀における我が国の存立基盤を確実なものとしていくためには科学技術の果たす役割は極めて大きい。このため、我が国の科学技術振興にあたって政府研究開発投資を対GDP比率で欧米主要国並に引き上げるべく拡充すること、我が国の研究開発システムを柔軟かつ競争的で開かれたものに抜本的に改善し、我が国の産学官全体の研究開発能力を引き上げること、研究成果を円滑に国民や社会経済に還元していくことが重要な課題となっている。

 今後、科学技術のための政策に対するこれらの要請に応えていくためには、我が国の科学技術活動の動態と構造、科学技術を取りまく社会的な状況、国民の科学技術に対する意識などに関する深い洞察と分析がますます重要となっている。さらに、科学技術に対する要請の多様化に呼応し、地域における多様な科学技術の振興基盤に対しても、新たな視点に立った政策の展開が求められている。

 また、地球環境、食糧、エネルギー等地球的規模でとらえるべき資源利用に係わる諸現象が現出しつつある中、21世紀において豊かで安定した国際社会を維持、発展させていくため、地球的な視野に立った資源の有効かつ適切な利用、そのために科学技術が果たすべき役割についての分析が必要となっている。

 本研究所は、このような基本認識の下、「科学技術基本計画」を踏まえ、文部科学省(科学技術庁)、総合科学技術会議(科学技術会議)をはじめとする関係機関との密接な連携を図りつつ、科学技術活動及びそれに係わる諸政策に関する基礎的調査研究を多角的かつ総合的に推進することとし、当面、次のような調査研究業務を進めるものとする。

(I)課題対応型調査研究

 科学技術政策の中で重要な位置付けが与えられていたり、あるいは今後、顕在化することが見込まれる課題を対象とする調査研究

イ.  科学技術人材等の科学技術振興条件及び制度に関する分析
ロ.  科学技術と人間・社会との関わりに関する分析
ハ.  地域における科学技術振興及び科学技術の国際的展開に関する分析
ニ.  政策立案及び政策形成過程に関する分析

(II)状況・方向性把握型調査研究

 科学技術活動の状況及びその背景にある社会、経済等の状況を的確に把握し評価するとともに、将来の方向性を展望することを目的とする調査研究

イ.  科学技術指標に関する分析
ロ.  科学技術の動向及び将来予測並びに資源の総合的利用に関する分析
ハ.  外国技術導入及び技術輸出の動向に関する分析
ニ.  技術革新の動向に関する分析

(III)理論展開型調査研究

 政策分析・政策形成のための新しい概念や方法論の開発を目指して、科学技術政策に関する諸問題を理論的、実証的に解明し、政策研究基盤の構築・整備を図ることを目的とする調査研究

イ.  技術革新プロセス、研究開発投資の経済効果等の科学技術の構造・動態や科学技術の経済社会への効果に関する分析
ロ.  科学技術の研究開発推進システムに関する分析
ハ.  体系的な科学技術指標の開発に関する理論的分析

 このような調査研究はすぐれて国際性を有するものであることに鑑み、海外との情報交換、研究者の交流をはじめ、国際会議の開催、共同研究の実施、所内及び所外の有識者によるセミナーの開催等を積極的に進めることにより、科学技術政策研究における国際的なネットワークの構築に努め、本研究所の調査研究の効果的推進に資する。

 さらに、科学技術政策情報データベースシステムの構築に資するため、科学技術指標データの定期的更新、イノベーションに関するデータの蓄積・分析を行い、データベースを整備するとともに、その維持改善に必要な情報処理システムの確立など、支援部門の整備充実に努めるものとする。

 また、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料等の重点分野について、研究開発動向の調査分析機能の強化を図り、体系的、戦略的な科学技術政策の企画・立案に資することを目的として、科学技術動向研究センターを設置し、研究開発分野毎の動向の調査・分析を行う。


(2)組織

  2001年3月末における本研究所の組織と任務は下のとおり

2000年度末定員 54名
同年度参加客員研究官 延べ29名
同年度参加特別研究員 11名
科学技術政策研究所 組織図

<研究グループ等の主な任務>

第1研究グループ :
科学技術の経済社会への効果に関する理論的調査研究
情報技術が知的生産性に及ぼす影響に関する国際比較
研究開発と税制
半導体エンジニアの流動性に関する研究
研究開発過程の構造化分析
ベンチャ-ビジネス支援政策に関する研究
科学技術の経済影響に関する研究
省エネルギー公共投資のマクロ経済及び産業毎の影響に関する研究
研究情報の発信基地としての国内学会の取り組みと産学との連携に関する調査研究
企業経営・技術戦略の変遷に関する研究
第2研究グループ :
科学技術の研究開発推進システムに関する理論的調査研究
科学技術政策システムの機能分化と再統合
モード論とポスト・モード論の検証
研究開発に関する会計基準の変更と企業の研究開発行動
我が国における国際共同研究の動向調査
科学技術指標の機能に関する研究
生活領域に浸透する科学技術と社会規範との相関に関する研究
企業環境とイノベーションプロセスの変化に関する調査研究
第1調査研究グループ :
科学技術人材等科学技術の振興条件に関する実証的調査研究
創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方
科学技術人材の流動化促進に係わる調査研究
博物館・科学館等におけるインタープリター人材に関する調査研究
第5版科学技術指標に関する調査研究
これからの研究開発と人材養成等の諸政策の連携・統合に関する調査研究
第2調査研究グループ :
科学技術の人間・社会との関わりに関する実証的調査研究
先端科学技術と法的規制
科学技術の公衆理解に関する研究
21世紀に向けた宇宙開発政策の在り方に関する研究
科学技術とNPOの関係についての調査
第3調査研究グループ :
地域における科学技術振興に関する実証的調査研究
地域における科学技術振興に関する調査研究(第5回調査)
地域における科学技術資源指標策定に関する調査研究
中小企業の研究技術開発活動にみる立地動向についての調査研究
日中における地域イノベーション・システムに関する比較研究
科学技術動向研究センター(第4調査研究グループ) :
第7回技術予測調査
先端科学技術動向調査(加速器科学)
国民健康領域の科学技術に関する研究 -ヒューマンヘルスケア支援技術を中心として-
領域別技術革新条件調査 -材料・プロセス技術を中心としたシリコンデバイスにおける現在の技術限界と新技術の展望-
領域別技術革新条件調査 -光技術における現在の技術限界と新技術の展望-
技術予測の実証的分析に関する研究 -情報・通信・エレクトロニクス分野のケーススタディー-
情報分析課 :
技術貿易の動向に関する調査及び分析
外国技術導入の動向分析(平成10年度版)
日本の技術輸出の実態(平成10年度版)
日中間の技術貿易の現状に関する研究
-火力発電設備における環境保全関連技術の移転状況と課題-
ソフトウェアにおける技術輸出入の動向分析 -対米大幅入超について-
技術導入取引の契約形態・企業内部化要因の分析

科学技術動向研究センター活動概要

 平成13年1月6日付で内閣府総合科学技術会議、文部科学省など新しい科学技術行政体制が発足し、これまで以上に戦略的な科学技術政策を展開することとなった。そのため、そうした政策立案を支える客観的な調査・分析機能の強化が求められている。科学技術政策研究所では、こうした状況に対応して重要な科学技術分野の動向の調査・分析機能を充実・強化するため、第4調査研究グループを改組して科学技術動向研究センター(以下センター)を設置した。

 センターは、当研究所の研究グループおよび調査研究グループとの連携を図りつつ、第2次科学技術基本計画で定めた重要な科学技術分野について、体系的かつ先見性のある調査・分析を行う。また、従来から当研究所で実施しているデルファイ法を用いた「技術予測調査」を引き続き4〜5年毎に実施する。

 具体的な活動は以下の3つである。また、文末にセンターの組織図を示す。

科学技術専門家ネットワークの構築・運用

 第一線の研究現場にいる研究者等、2400名余が専門調査員として参加する、インターネットを利用した情報収集システム「科学技術専門家ネットワーク」を構築した。これにより、高度に専門化している科学技術の動向分析を的確に行うため不可欠な国内外の最新情報の収集と、今後の科学技術の方向性などに関する専門調査員の意見の収集を行う。

 専門調査員から提供された情報、意見等を毎週まとめて、総合科学技術会議、文部科学省に提供する。さらにセンター自らが収集した情報を加えて、分野別に整理・分析を行い、主要点を「科学技術動向研究センター月報」としてとりまとめる。さらに月報は当研究所Webサイトで公開するとともに、印刷物としても発刊する。

重要科学技術分野・領域の動向の調査研究

 今後、国として取り組むべき科学技術の重点事項、研究開発課題等を明確にするため、重要な科学技術分野・領域の進展を考える上でのキーテクノロジー、ボトルネック等の調査・分析を行う。センター自ら情報の収集・分析を行うとともに、外部専門家を招いた講演会等により多くの専門家の意見を集めている。


開催した講演会
日付 講師 所属 演題
平成13年 1月22日 安西 祐一郎 慶應義塾大学
理工学部長
理工学研究科委員長
情報通信技術の将来
-人間系を中心とするソフトウェア技術と情報環境の実現にむけて
平成13年 2月 2日 山田 肇 客員研究官 第三世代移動通信の標準化と将来性
平成13年 2月 2日 河野 隆二 横浜国立大学 工学部 電子情報工学科 教授 第四世代移動通信に向けた胎動 -ソフトウェア無線技術の展望-
平成13年 2月23日 末松 安晴 高知工科大学 学長 半導体レーザーの技術革新について
平成13年 3月12日 坂村 健 東京大学大学院
情報学環 教授
インフラストラクチャとしてのコンピュータとTRONプロジェクト
平成13年 3月19日 原 正彦 理化学研究所
フロンティア研究システム 局所時空間機能研究チーム
ナノテクノロジーと時空間機能材料
平成13年 3月28日 鎌田 博 筑波大学 遺伝子実験センター長 遺伝子組換え食物・食品の研究状況と安全性確保

技術予測に関する調査研究

 科学技術の長期的将来動向を総合的に把握するため、デルファイ法による技術予測調査を実施する。昨年度より実施中の第7回技術予測の結果をとりまとめ報告する。


科学技術動向センター 組織図
 注)2000年度の主な人事異動
所長: 柴田 治呂 (2000年7月辞職)
青江 茂 (2000年7月科学技術庁より就任)
(2001年1月文部科学省に出向)
間宮 馨 (2001年1月旧科学技術庁より就任)
総務研究官: 木村 良 (2000年5月宇宙開発事業団に採用)
市丸 修 (2000年5月理化学研究所より就任)
(2001年1月宇宙開発事業団に採用)
永野 博 (2001年1月旧科学技術庁より就任)
総務課長: 永田 豊 (2000年4月科学技術庁より就任)
企画課長: 植田 昭彦 (2001年1月文部科学省に出向)
斎藤 尚樹 (2001年1月旧科学技術庁より就任)
第一研究グループ
総括主任研究官:
榊原 清則 (2001年3月任期満了により退職)
第二研究グループ
総括主任研究官:
小林 信一 (2000年4月電機通信大学より就任)
第三調査研究グループ
総括上席研究官:
渡辺 俊彦 (2001年3月科学技術振興事業団に採用)
総務課長: 永田 豊 (2001年3月防災科学技術研究所に出向)

(3)予算

 2000年度の予算を以下に示す。

(   )書き 上段: 科学技術庁分   下段: 文部科学省分 (単位:千円)
事項 予算額 備考
2000年度 1999年度
(項)科学技術庁(文部科学本省)
◇科学技術庁試験研究所の電子計算機借上げに必要な経費
14,754 14,754  
(14,754)  
(     0)  
(項)科学技術庁試験研究所(文部科学本省所轄研究所)
◇ 科学技術政策研究所に必要な経費
694,352 643,692  
(512,146)  
(182,206)  
1.人件費 425,607 413,168 平成12年度(2000年度)末定員
54名
(323,666)  
(101,941)  
2.経常事務費 70,302 67,816 一般管理運営
(54,195)   人当研究費
(16,107)   客員研究官
    国会図書館支部庁費等
3.科学技術構造基礎研究 21,406 22,409 第1、2研究グループの特別研究
(16,890)  
(4,516)  
4.科学技術政策特別調査研究 23,584 25,796 第1〜4調査研究グループの特別研究
(19,777)  
(3,807)  
5.科学技術政策研究国際協力推進 19,070 19,574 国際協力課題
(17,309)  
(1,761)   国際シンポジウムの開催等
6.科学技術政策研究に関する情報処理 93,825 94,929 情報処理システムの整備、運用等
(80,309)  
(13,516)  
7.分野別科学技術動向調査 40,558 0 科学技術動向研究センター設置等
( 0)  
(40,558)  
(項)科学技術振興調整費 64,881 24,446 科学技術政策基礎調査(総合研究)等
(64,881)  
( 0)  
(項)科学技術振興費 3,160 5,679 科学技術庁フェローシップ外国人研究員研究費等
(3,160)  
( 0)  
合計 777,147 688,571  

(4)1年間の主な活動

1.国際会議等

2000年8月25日
日中科学技術政策等討論会(於:中国北京市)
2000年9月5日〜7日
第5回地域科学技術政策研究国際会議(於:三重県志摩観光ホテル) 「地域における知識創造と多様性」
2000年11月29日〜30日
科学技術政策研究所国際コンファレンス(於:東京・科学技術振興事業団)
「起業家精神とナショナル・イノベーション・システム」

2.国内会議

2001年3月9日
顧問会議

3.NISTEP REPORT

時期 題名
2000. 4 <NO.66>「科学技術指標(平成12年度)」
2001. 2 <NO.68>「外国技術導入の動向分析-平成10年度-」
2001. 2 <NO.69>「日本の技術輸出の実態-平成10年度-」

4.POLICY STUDY

時期 題名
2000.10 <NO.6> 「IPO企業とそうでない企業と」
2001. 3 <NO.7> 「アメリカのバイオエシックス・システム」

5.調査資料

時期 題名
2000. 6 <NO.70>「コンセンサス会議における市民の意見に関する考察」
2000. 8 <NO.71>「地域科学技術政策研究会(平成12年3月14,15日)報告書-地方公共団体における研究評価の手法とあり方について-」
2000. 9 <NO.72>「創造的研究者・技術者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方-科学技術人材の流動化促進に係わる調査研究-」
2000. 9 <NO.73>「日本における技術系ベンチャー企業の経営実態と創業者に関する調査研究」
2000.11 <NO.74>「The Comparative Study of Regional Innovation Systems of Japan and China」
2000.12 <NO.75>「21世紀の科学技術の展望とそのあり方」
2001. 3 <No.77>「The Proceeding of International Conference on Technology Foresight-The approach to and the potential for New Technology Foresight-」
2001. 3 <No.78>「科学技術とNPOの関係についての調査」

6.DISCUSSION PAPER

時期 題名
2000. 4 <NO.16>「The Development of Research Related Start Up-A France-Japan Comparison-」
2000. 7 <NO.17>「企業戦略としてのオープンソース -オープンソースコミュニティの組織論と外部資源を利用した研究開発の発展に関する考察」

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