STI Hz Vol.2, No.1, Part.6: (ほらいずん)研究者プロファイルの新展開STI Horizon

  • PDF:PDF版をダウンロード
  • DOI: http://dx.doi.org/10.15108/stih.00014
  • 公開日: 2016.03.25
  • 著者: 林 和弘
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.02, No.01
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)


ほらいずん

研究者プロファイルの新展開:研究者識別子(ORCID)を活用した
信頼度の高いアップデートがもたらす可能性

科学技術動向研究センター 上席研究官 林 和弘

研究者評価においては、誰がどの成果を発表したか、どの研究費を活用したか等の研究履歴をできるだけ正確に把握することが重要であるが、研究者に識別子を付与する世界的なプロジェクトORCIDにおいて、研究者の手間を押さえつつ研究者プロファイルを更新する試みが進んでおり、新しい研究評価の可能性を生み出している。

研究者評価においては、誰がどの成果を発表したか、どの研究費を活用したか等の研究履歴をできるだけ正確に把握することが重要である。その中でも論文の著者を同定する試みは名寄せ問題として長らく計量書誌学のトピックの一つであったが、その根本的な解決策として研究者に識別子を付与して管理する試みが続けられている。その中でも最も多様なステークホルダー(出版者、図書館、大学等研究機関、研究助成団体等)が会員(運営会員)として参画している国際的な研究者識別子プロジェクトORCIDに登録している研究者(研究者会員)が200万人を超え、その伸びが加速している。さらに研究者プロファイルの自動アップデートの試みが始まり、研究者の評価に新しい可能性を生み出している。

まず挙げられるのは、出版物、所属、研究助成のレベルで研究活動の透明性・信頼性が高まることによる、より正確な研究者評価の可能性である。運営会員の出版者は、投稿時にORCID ID入力を義務化し、論文掲載後、その著者のORCID記録を自動更新する試験サービスを2015年後半より始めていたが、2016年に入って、Science誌などの主要な出版者が本格運用を開始した。この記録の更新の際には、更新者として出版者名が入るため、手間をかけずに第三者認証による業績リストが構築されることになり、研究者には魅力的なサービスとなる。

一方、運営会員の大学等研究機関が個々の研究者の所属に関してORCIDレコードを更新することで、所属に対する信頼性を高めることができる。同様に運営会員の研究助成団体が研究者の研究費獲得情報を更新することで、研究費に関する情報を信頼性高く更新することも可能になっている。

さらに、この試みは、研究者評価において新しい展開を生み出す可能性も秘めている。今までは、その秘匿性から貢献の公開が難しかった論文誌の査読活動に関しても、出版者が研究者のプロファイルに査読の記録を書き込む実験が行われている。エジプトでは、博士論文の主査であったことがORCIDレコードに記されている例もある。

台湾等幾つかの国では、既に国レベルで研究者へのORCID番号付与を進めている。日本においても、e-Rad、科研費番号、researchmapなど、研究者を識別する多くの試みがある中で、欧米主導とも言えるこの新しい流れにどう対応していくかに注目が集まる。