STI Hz Vol.6, No.1, Part.2:(ほらいずん)NISTEPフォーサイトシンポジウム-第6期科学技術基本計画に向けて日本の未来像を展望する-(開催報告)STI Horizon

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  • DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00199
  • 公開日: 2020.02.25
  • 著者: 横尾 淑子
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.6, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
NISTEPフォーサイトシンポジウム
-第6期科学技術基本計画に向けて日本の未来像を展望する-
(開催報告)

科学技術予測センター センター長 横尾 淑子

概 要

科学技術・イノベーション政策の策定に当たって、科学技術と社会との関係性を踏まえた検討が求められている。そこで、第6期科学技術基本計画に向けて日本の未来像と科学技術イノベーションの役割について各界の有識者による議論を行うことを目的として「NISTEPフォーサイトシンポジウム」を2019年11月に開催した。

中長期的な展望を踏まえてイノベーションにより社会を変革する国となることが求められており、そのためには抜本的な構造改革が必須であるとの認識が、講演及びパネル討論を通じて得られた。

キーワード:科学技術基本計画,フォーサイト,イノベーション

1.はじめに

科学技術・イノベーション政策の策定に当たって、日本社会の望ましい未来に向けた科学技術の役割など社会との関係性を踏まえた検討が求められており、産学官の様々な主体が社会や科学技術の未来を展望する取組(フォーサイト)を実施している。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)科学技術予測センターは、科学技術の発展による社会の未来像を描くことを目的とする大規模な科学技術予測調査を1971年以来約5年ごとに実施しており、2019年11月に第11回調査1)の概要を取りまとめた。

この調査結果の発展的展開のため、2021年度からスタート予定の第6期科学技術基本計画(以降、第6期基本計画)に向け、世界の中における日本の未来と科学技術イノベーションの役割について展望する「NISTEPフォーサイトシンポジウム」2)を科学技術振興機構(JST)及び新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共催により開催した。なお、シンポジウムの実施概要は文末の図表を参照されたい。

2.基調講演

内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の上山隆大議員、及び、文部科学省科学技術・学術審議会総合政策特別委員会主査の濵口道成JST理事長に、第6期基本計画策定に向けた課題等について基調講演を頂いた。

(1)上山 隆大 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)議員

上山氏は、「第6期科学技術基本計画への提言:科学技術基本法の課題」と題する講演の中で、以下のように述べた。

第6期基本計画期間である2021-2025年は、日本にとって21世紀後半を決定する重要な5年間であり、人口問題(日本に溶け込んだ外国人など新しい“日本人”の再定義)、地政学的変動(太平洋経済圏へ)、デジタル・トランスフォーメーションなどを想定し、2030年、2050年の国家像・社会像からのバックキャストにより第6期基本計画を議論すべきである。

社会を見据えた、社会を変える、あるいは世界に貢献するイノベーションを推進すべきであり、この新しいイノベーションの理念を科学技術基本法に規定し、第6期基本計画を時代を画するものとすべきである。そして、研究開発のみならず、科学技術が社会に浸透するまでのプロセス全体の議論を行う必要がある。

第6期基本計画の眼目は、人的資本への投資、政策システム改革、ジャパンモデルであり、「自由と信頼(データの信頼性、科学技術の信頼性、国家の信頼性)」がキーワードとなる。

上山 隆大 CSTI 議員

上山 隆大 CSTI 議員

(2)濵口 道成 科学技術振興機構(JST)理事長

濵口氏は、「我が国の科学技術・イノベーション~現状と課題~」と題する講演の中で、以下のように述べた。

科学技術の急速な進展が社会や生活に変化をもたらす一方、社会の不安定化や格差拡大などの問題が生じている。科学技術・イノベーションと社会をどのようにつなぐのか、1999年のブダペスト宣言で示された科学の責務、「社会における科学と社会のための科学(Science in/for Society)」の意義は重要性を増している。日本は、超高齢人口減社会という転機を迎える中、科学研究力低下の危機的状況にあり、研究者育成、人材流動性、国際共同研究、新興・融合領域開拓などの課題を抱えている。将来にわたり研究開発への持続的な投資が求められるが、社会保障費増大など財政逼迫がネックとなる。この打開策としてはイノベーション創出しかない。恒常的なイノベーションのためには、特許戦略、拠点形成、ベンチャー創出、女性の活躍促進、産学連携促進など、イノベーション創出の構造化を図る必要がある。

濵口 道成 JST 理事長

濵口 道成 JST 理事長

3.未来展望の取組紹介

科学技術・イノベーション政策関連のシンクタンクは、各組織のミッションに応じて、科学技術と社会について将来を見通すための特徴ある活動を行っている。本シンポジウムでは、主催・共催3機関から最近の取組を紹介した後、関連シンクタンクに属する専門家による試行的ワークショップの結果紹介を行った。

NISTEPは、第11回科学技術予測調査の結果として、社会の未来像と科学技術の未来像を統合した「基本シナリオ」、及び、推進すべき分野横断・融合的領域を抽出した「クローズアップ科学技術領域」について紹介した。

JST研究開発戦略センター(CRDS)3)は、基盤的調査として「研究開発の俯瞰報告書」を取りまとめつつ、近年は異分野融合型研究に着目した報告書「Beyond Disciplines」の発行など、融合・横断の視点を重視した提案・発信を強化していることを紹介した。

NEDO技術戦略研究センター(TSC)4)は、調査からプロジェクト実施まで一貫して取り組んでいる組織の特徴を踏まえ、バックキャストとフォーキャストを組み合わせた技術戦略の策定からプロジェクト構想までの一連のアプローチについて紹介した。

最後にNISTEPから、関連シンクタンク専門家による試行的ワークショップの結果として、以下の4つの重要領域を抽出したことを紹介した。

・ 災害への備えから復興までを支える観測・予測と材料科学技術・領域

・ 持続的な経済と人間を守る、全脳AIを搭載した人間調和型ロボット

・ 個別医療・先制医療を浸透させる先進技術とプラットフォーム

・ 日本のものづくりをリードする、先進計測とシミュレーション

4.パネル討論

科学技術・イノベーションを巡る幅広い社会的視点から議論を行うことを目的として、各界の有識者をパネリストに迎えてパネル討論が行われた。まず、学術界及び産業界の未来展望の取組事例として、日本学術会議及び産業競争力懇談会(COCN)における検討の紹介を頂き、続いて、パネリストから第6期基本計画に向けた提言を頂いた。その後、第6期基本計画検討の論点整理に向けた討論に移った。

(1)未来展望の取組事例紹介

日本学術会議副会長の渡辺美代子氏は、未来のための社会変革が今こそ必要であると述べ、SDGsへの取組の国際比較を例に、日本の誇るべき点(教育、混沌を受け入れる文化、分野統合の仕組み)と課題(人口縮小、多様性欠如(特にジェンダー))を挙げた。続いて、日本学術会議が検討中の提言「日本の展望2020(仮称)」5)について、人間と社会を見据え、分野の壁を超えた議論を基に学術による未来予測を試みるものであると紹介した。

COCN専務理事の須藤亮氏は、COCNの「第6期科学技術基本計画に向けた提言」6)について紹介を行った。提言では、基本計画策定に向けて、“地経学”的な環境変化への対応、イノベーションエコシステムの構築、イノベーション創出に向けた社会の価値観の転換、Society 5.0の実現とSDGsの達成の必要性を挙げ、「課題解決ジャパンモデル」を提唱している、と述べた。

(2)討論の概要

事例紹介に続き、様々な社会的視点からの論点等がパネリストから提供された。続いて、これらを踏まえ、①世界における日本のポジション、地球規模課題への貢献、②将来における持続可能な経済システム、③デジタライゼーションにおける未来、④安心・安全、文化的な価値等の実現と人文社会科学と自然科学の連携、⑤ジェンダーとダイバーシティ、⑥我が国の科学技術イノベーションシステムと各セクターの役割、について討論が行われた。

パネリストから提供された、データ駆動型社会、科学技術外交、社会保障、科学技術と社会の視点からの論点等を以下に記す。

安西祐一郎氏(日本学術振興会顧問)

・ デジタル・トランスフォーメーション下での社会変革に対応するには産業構造・雇用構造・教育構造の転換が必要であり、それをリードする基本計画とすべき。

岸輝雄氏(外務大臣科学技術顧問)

・ 日本独自の研究推進システム構築(特に大学と国立研究開発法人の位置付けの見直し)が急務。

・ 課題は、国際連携推進(デュアルユース技術や、連携と技術流出のバランスを考慮)、高等教育・科学技術・イノベーションを包括する省庁の設置、人口減対応など。

永井良三氏(自治医科大学学長)

・ 社会エコシステムとしての科学技術イノベーションが求められており、それには早期からの社会との協働が必要。

・ 研究開発成果の活用のみならず、“学術の()”を根付かせることが重要。

山本佳世子氏(日刊工業新聞社論説委員)

・ AI、自動運転車などが進む中で倫理学、哲学、法学、心理学等との融合など、人文・社会科学の貢献が必要。

最後に、ファシリテータを務めた濵口道成氏(JST理事長)が、「日本はクリティカルな転換点にあり、根本からの変革が必要である。人文・社会科学と自然科学の融合、産業界との連携など、相互理解と信頼を基に協働して構造改革の戦略づくりを行う必要がある。」と討論を取りまとめた。

5.おわりに

現在の日本は危機的状況にあり変革のときを迎えていること、そして、デジタル・トランスフォーメーションの中でイノベーションにより社会を変革することが求められており、そのためには、日本の独自性を考慮しつつ、抜本的な構造改革を進める必要があることが、シンポジウムの講演や発言を通じて示された。あわせて、基本計画期間を超えた中長期的な未来展望の必要性や科学技術と社会との関係性など、フォーサイトの今後の方向性も示唆された。

謝辞

御多忙の中本シンポジウムへの参加を御快諾頂きました、講演者、発表者、パネリストの皆様方、また、試行的ワークショップ参加の皆様方に厚く御礼申し上げます。

パネル討論の様子
パネル討論の様子

図表 シンポジウム実施概要

名 称 NISTEPフォーサイトシンポジウム
~第6期科学技術基本計画に向けて日本の未来像を展望する~
日 時 2019年11月6日(水)13:30~18:00
場 所 文部科学省第一講堂
主 催 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)
共 催 科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
後 援 内閣府
構 成 I.基調講演
 上山隆大 総合科学技術・イノベーション会議議員
 濵口道成 科学技術振興機構理事長
II.未来展望の取組紹介
 発表(NISTEP/JST-CRDS/NEDO-TSC)
 関連シンクタンクの専門家によるワークショップ結果報告
III.パネル討論
 取組事例紹介:
  渡辺美代子 日本学術会議副会長
  須藤亮   産業競争力懇談会専務理事
 討論:
  ファシリテータ:濵口道成 科学技術振興機構理事長
  パネリスト:安西祐一郎 日本学術振興会顧問
        岸輝雄   外務大臣科学技術顧問
        永井良三  自治医科大学学長
        山本佳世子 日刊工業新聞社論説委員兼編集委員
        上山隆大  総合科学技術・イノベーション会議議員
        須藤亮   産業競争力懇談会専務理事
        渡辺美代子 日本学術会議副会長

参考文献・資料

1) NISTEPウェブサイト「科学技術予測・科学技術動向」領域ページ:
https://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-foresight-and-science-and-technology-trends

2) NISTEPフォーサイトシンポジウム(講演資料等掲載):https://www.nistep.go.jp/archives/42383

3) JST-CRDS:https://www.jst.go.jp/crds/

4) NEDO-TSC:https://www.nedo.go.jp/introducing/tsc_index.html

5) 日本学術会議「日本の展望2020」:http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/tenbou2020/index.html

6) 産業競争力懇談会「第6期科学技術基本計画に向けた提言」:
http://www.cocn.jp/material/bee097c4bcba616ab31a331ac83e5ce4f616cd12.pdf