STI Hz Vol.5, No.1, Part.7:(ほらいずん)サーキュラーエコノミーの動向と2050年のビジョンSTI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00166
  • 公開日: 2019.03.20
  • 著者: 浦島 邦子
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.5, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
サーキュラーエコノミーの動向と2050年のビジョン

科学技術予測センター 上席研究官 浦島 邦子

概 要

地球規模での問題解決のための取組として、国連では持続可能な開発目標(SDGs)を、そして欧州を中心にサーキュラーエコノミー(CE)社会という概念が提案され、世界に拡大している。CEは環境に配慮した経済活動と社会づくりであり、多くの資源を輸入に頼っている我が国では、既に3R(リデュース、リユース、リサイクル)が社会に浸透し、廃棄物を資源として利用する活動が実施されて長い。欧州連合(EU)ではサーキュラー・エコノミー・パッケージが推進されている。世界循環経済フォーラム2018では、CEに関する世界の取組が紹介された。この会議で天然資源や製造、輸送、サービス、食料、生活、プラスチック、そして機能に関する2050年のビジョンが提案された。他国の事例に学び、我が国でも将来社会を見据えて、消費型からサーキュラー型へビジネスモデルを転換する取組が必要であり、これまで注目されていなかった時間や空間も資源として活用することが望まれる。CEの概念が普及することで、我が国が抱える人口減少や過疎化に伴う空き家問題の解決や、増加する廃棄物を有効利用した新たなビジネスの創出の可能性がある。CEの推進に必要な科学技術の検討も重要性が増してくるだろう。

キーワード:サーキュラーエコノミー,フィンランド,SDGs,3R,EU

1. サーキュラーエコノミーとは

地球規模での問題解決のための取組として、国連では持続可能な開発目標(SDGs)を、そして欧州を中心にサーキュラーエコノミー(循環型経済:CE)社会という概念が提案され、世界に拡大している。

サーキュラー・エコノミー(以下CE)を提唱した本『Waste to Wealth(無駄を富に変える)1)』によると、近年新興国経済が発展し、全世界的にエネルギーや原材料の需要が高まったことから、原材料の価格変動が予測できず、供給の不安定さに対応したコスト高が世界規模で問題となっている。現在の大量生産・大量消費型のビジネス形態を継続した場合、2030年には世界で約80億トン分の天然資源が不足し、その経済損失額は2030年時点で4.5兆米ドル、2050年時点では25兆ドルに達する見込みが発表されている2)。そして製品を生産・活用・廃棄、という従来型のビジネスモデルを継続している企業は、競争力を失ってしまう。こうした背景のもと提唱されたのがCEである。CEは生産と消費の在り方を根本的に変える経済モデルである。CEは、製品・部品・資源を最大限に活用し、それらを消費することなく永続的に再生・再利用し続けるビジネスモデルでもある。いわゆる3R(リデュース(排出削減)、リユース(製品・部品の再使用)、リサイクル(資源の再生利用))や、シェアリングエコノミーなども含まれる。ここでは環境政策に限らず、資源を持続可能な形で活用することで、産業の活性化や雇用の促進につなげるというのが、CEの基本概念である。

2. CEをベースにしたビジネスモデルの事例

2016年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)で「サーキュラー・エコノミー・アワード」3)が設置され、この賞はアクセンチュア株式会社4)がサポートしている。そしてこの賞には民間企業だけでなく、投資家や循環型社会を目指す都市も参加している。生産・消費型からサーキュラー型へビジネスモデルを転換・構築し、成功している企業を6つのモデルに分類した事例が図表1である。

図表1 サーキュラー型ビジネスモデルの例

モデル 概要 事例 関連する技術の例
1 サーキュラー型のサプライチェーン 再生可能な原材料を用いることにより、調達コストの削減や安定的な調達を可能にする。 IKEA社(ソーラーパネルを店舗に設置)など。 設計技術、エネルギーマネージメント
2 回収&リサイクル 廃棄を前提にしていた設備や製品を再利用することで、生産コストや廃棄コストを削減できる。 P&G社(「無駄ゼロ」施設を持つ)など。メリカリ(フリマ企業)。 3Dプリンター、ネットワーク
3 製品寿命の延長 修理やアップグレード、再販売によって、使用可能な製品を活用する。 キャタピラー社(エンジン部品を再製造する)など。原材料から同じ機材を作るのと比べて、エネルギー90%、原材料80%も効率向上。 3Dプリンター、リサイクル技術
4 シェアリング・プラットフォーム 家庭にある製品の8割は、月に1度しか使われていない。消費者は、保有しているモノを貸すことで収入を得られるようになる。 Uber、Lyft(配車アプリを展開する)など。エアークローゼット(アパレル企業)。 ワイヤレスネットワーク、モバイル
5 サービスとしての製品 顧客は所有せず、利用に応じて料金を支払うビジネスモデル。 ミシュラン社(走行距離に課金する)など。 センサー、GPS、データ分析
6 マネージメントとしての製品 製品を売るだけではなく、管理サービスとして売るビジネスモデル。 フィリップスライティング社(街全体の照明を管理し、イベント時には色合いや明るさの調整、交通整理や治安改善の効果)。 センサー、マネージメント、モニタリング、データ分析
出典:“無駄を富に変える”エグゼクティブ・サマリー、をもとに作成し、加筆

3. サーキュラーエコノミーに関する取組と事例

3-1 欧州連合(EU)

2015年12月に欧州委員会は、CEの実現に向けたEU共通の枠組みとして「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を採択、これは気候変動や環境課題に対処するとともに、雇用創出や経済成長、投資、社会的公正などを促進していくことで、EUが抱える広範な政治的課題に貢献することを目的としている。Horizon 2020のもとで6億5000万ユーロ、そしてその他55億ユーロを超える資金のもと、図表2に示すような内容で実施している5)

また、今回の指令改正案で挙げられた、廃棄物に関する主要なEU目標は下記の通りである。

  • 2030年までに都市ゴミの65%をリサイクルする。
  • 2030年までに包装廃棄物の75%をリサイクルする。
  • 2030年までに都市ゴミの最大10%まで埋立地を減らす。
  • 分別収集された廃棄物の埋立て禁止。
  • 埋立てを阻止するための経済的手段の推進。
  • EU全体のリサイクル率の定義の簡素化と改善、及び計算方法の統一。
  • ある産業の副産物を別の産業の原材料に転用する、産業界の共生を再利用し促進するための具体的な対策。
  • 生産者がより環境に優しい製品を市場に投入し、回収及びリサイクル計画を支援するための経済的インセンティブ(例えば包装、電池、電気及び電子機器、自動車用)。

図表2 EUにおけるサーキュラー・エコノミー・パッケージの概要

対象 内容
プラスチック 循環経済におけるプラスチックの戦略。リサイクル可能性、生分解性、プラスチック中の有害物質の存在、そして海洋ゴミを大幅に減らすための持続可能な開発目標の問題に取り組む。
食品廃棄物の削減 2030年までに食品廃棄物を半減させるための、一般的な測定方法、日付表示の改善、及び世界の持続可能な開発目標を達成するためのツールを含む、食品廃棄物を削減するための行動。
品質基準 単一市場における事業者の信頼を高めるための二次原材料の品質基準の開発。
エコデザイン エネルギー効率に加えて、製品の修理性、耐久性及びリサイクル性を促進するための2015年から2017年までのエコデザイン作業計画における措置。
化学肥料 単一の市場における有機肥料及び廃棄物ベースの肥料の認識を容易にし、バイオ栄養素の役割を支持するための、化学肥料に関する規則の改訂。
水の再利用 廃水の再利用のための最小要件に関する立法案を含む、水の再利用に関する一連の行動。
出典:原文を筆者が翻訳、解釈して作成
3-2 フィンランドの取組

フィンランドは、2015年に世界で初めて国レベルでのCE のロードマップとその行動計画に当たるアクションプランを策定した6)。その中心的組織がシンクタンクのSitraである。Sitraはフィンランド議会が1967年に設立、公的資金である寄附を基盤に、年間8.5-9億ユーロ(約1000億円強)を運用し、長期的な視点から持続可能な社会を作り上げ、経済の競争力強化を目指すプロジェクトを数多く手掛けている。持続可能なビジネスモデルの構築を通じ、環境に配慮しながら経済成長を目指すCEの先駆者として注目されている。

4. 第2回世界循環経済フォーラム2018の概要とビジョン2050

前述したように、フィンランドは国を挙げてCEに取り組んでおり、その活動を広げるために第1回世界循環経済フォーラム(World Circular Economy Forum: WCEF)を2017年にヘルシンキで主催、開催した。この会議には世界100か国以上から1,500人以上が参加して行われた。そして第2回WCEF20187)は、日本の環境省8)とフィンランドのSitraが主催して横浜で開催された。第3回は2019年ヘルシンキで、第4回は2020年にカナダで実施が予定されている。

WCEF2018は、世界で最も優れた循環型経済ソリューションを提示することを目的に、64か国から1,100人を超える専門家が、現状と2050年までに真の循環経済を実現するために必要なことについて話し合った。この会議の総括として、次に示す3つの方向性が発表された。

  • ・ 世界は循環経済の共通のビジョンを欠いている。
  • ・ 循環経済はビジネス、貿易及び雇用創出を改善する。
  • ・ 緊急に、より強い指導力と国際協力のための対応が必要である。

会議では、多くのセッションで天然資源、製造、輸送、サービス、食料、生活、プラスチック、そして機能などが話題となった。提案された「WCEFビジョン2050」9)の概要を図表3に示す。

WCEF2018のサイドイベントとして、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)はSitraと「The Future of the Economy is Circular – the Role of Foresight Practices and STI」というテーマでワークショップを開催10)し、フィンランドでのCEの取組と、日本が実施している科学技術予測調査11)との将来性について事例を混ぜながら話し合った。ワークショップでは、政策決定者や科学者の取組だけでなく、市民も参加する社会全体の取組と、各々の認識の必要性が提案された。詳細については、別途報告する予定である。

図表3 WCEFビジョン2050の概要

経済活動を主にした2050年の姿 CEに考慮した2050年の姿
天然資源と製造 経済はまだ化石燃料と天然資源の持続不可能に基づいている。 製品は、細心の注意、長寿命、そして次のライフサイクルを念頭に置いて設計される。使用済み製品は、3Rのアプローチや、アップグレード及び修理によって価値を得る。
製品や原材料は主に埋め立てられている。生産工程は、抽出から消費、廃棄まで、一方向にのみ機能するように最適化されている。 製造業や農業などの産業はクローズドループで機能し、不要な副産物を生成しなくなる。世界的なバリューチェーンは第 4次産業革命を経て、デジタル技術と自動化によって最適化されている。それまでの“無駄”は原料とエネルギーとして認知されている。
青々とした森林と肥沃な土地は不毛になり、汚染されている。 天然資源の限界量を認識しており、生態学を考慮した経済活動がされている。投資は持続可能な事業に向けられている。
輸送サービス ほとんど一人の人間を輸送する車で道路が渋滞し続ける。交通から放出されるガスによって、都心部での呼吸困難が発生する。 汚染のない革新的な自動車によるオンデマンドサービスによって、アクセスが容易で質の高い交通手段により、便利な生活が提供されている。
電気自動車は高級品のままで、大多数の人々はそれらを買うことができない。 高速接続とシームレスなデジタル通信により、資産を所有することなく様々なサービスを効果的に利用することができる。
公共交通機関は高価で、古い交通機関網は衰退している。 新しい材料と生化学物質によって、資源効率の良い自動車、燃料、そして輸送インフラの生産が可能になっている。
フード&リビング 化石燃料を燃やしたエネルギーによる生活は、地球温暖化を加速させ続けており、地球上のこれまで以上に広い地域に住むことができる。 地産地消による再生可能エネルギーによって生活可能な地域に住んでいる。共同生活は単なる傾向ではなく、新しい通常の生活様式となっている。
地球規模の人口に対応するための食料生産量増の取組は、気象サイクルの変動も併せて深刻な土壌侵食と収穫高の減少をもたらす。貧しい国々はかつてないほど大量の飢きんにひんしている。 効率的な都市部及び農村部のバイオサイクルと革新的な生産方法によって、地元で取れた豊富な食品がすべての人にいきわたっている。土壌は自然に肥沃に保たれている。
建設廃棄物となる天然資源とその地域は再利用を考慮した設計ではなく、最も安価で炭素集約的な材料から作られている。 地域的に豊富で再生可能な材料は、低炭素のクローズドループで製造された再利用可能なコンクリート、アルミニウム、鋼鉄と並んでモジュール式構造に使用されている。
プラスチック 再生不可能な化石資源の利用が増加し、プラスチック需要が増加している。 主要な消費行動として再利用が広く受け入れられている。プラスチックは耐用年数が過ぎたものはリサイクルされ、未使用の化石資源の代わりにリサイクル原料によって生産されている。
容器や包装などのプラスチックベースの製品は、その後に何が起こるかを考慮せずに使い捨て用に設計され続けている。 プラスチックは持続可能な代替品であるバイオベースの材料に移行した。
海はプラスチックでいっぱいになり、命は放置されている。ゴミを捨てる埋立地の面積は成長し続けている。 海と陸地は、プラスチック廃棄物のないきれいな自然環境となっている。
機能 冗長な技能と知識によって人的資本を失い、広範な失業に直面している。 教育は生涯学習と再教育として理解されている。社会は人間のスキルと能力の価値を十分に認識している。循環経済は、単なる個人所得よりも深い目的で仕事を生み出す。
教育は主に富裕層の特権であり、価値創造の既存の構造に挑戦する能力が限られている分野を主に生み出す。 学校や他の教育機関は、あらゆる職業のすべての人々のために「もったいない」のような多様な知識と価値観の創造と拡大に焦点を当てている。
貧しい人々や教育を受けていない人々は社会にとって非生産的であるとみなされており、裕福で教育を受けた人々による差別が高まり続けている。 対等なもの同士及び分野横断的な学習方法は一般的になり、公的部門及び民間部門によって支持されている。イノベーションと研究開発のためのより強力な資金調達と支援は、社会的能力を向上させるための不可欠なアプローチである。
出典:WCEFビジョン20509)の原文を筆者が翻訳、解釈して作成

5. 日本の取組と今後に向けて

紹介したように、近年ICTの普及により新たなビジネスモデルが多く見受けられるようになってきている。CEは環境に配慮した経済活動と社会づくりであるが、多くの資源を輸入に頼っている我が国では、既に3Rが社会に浸透し、廃棄物を資源として利用する活動1213)が実施されて長い。しかし、空間や時間といった資源を活用するといった取組は、海外と比較するとまだ不十分であるが、一部実施されているケースもある。例えば、高齢者が多い地域においては「自ら車を運転する」よりも「移動手段をサポートしてもらう」といった、モノの占有という形態から、サービスの提供といった変化が現実的であり、実証実験が幾つかの地域で既に始まっている1415)。人口減少や過疎化に伴う空き家といった問題にも、CEの概念を取り組むことで解決できる可能性がある。

WCEFビジョン2050で提案された、様々なビジョンに関わる技術の開発は、将来社会にとって優先されるテーマである。CEの概念に基づき、社会全体を見渡し、様々なステークホルダーの参画によって、良い社会づくりに向けた取組が早急に望まれる。

参考文献

1) Peter Lacy, Jakob Rutqvist, Waste to Wealth: The Circular Economy Advantage, 2015 Edition, Kindle版

2) ピーター・レイシー、ヤコブ・ルトクヴィスト、エグゼクティブ・サマリー無駄を富に変える、アクセンチュア、
https://www.accenture.com/t00010101T000000__w__/jp-ja/_acnmedia/Accenture/Conversion-Assets/DotCom/Documents/Local/ja-jp/PDF_4/Accenture-Waste-Wealth-Exec-Sum-JP.pdf

3) Circular economy award, https://thecirculars.org/

4) デジタル競争時代における産業転換、産業構造審議会新産業構造部会討議⽤資料、アクセンチュア株式会社取締役会⻑程近智

5) Closing the loop: Commission adopts ambitious new Circular Economy Package to boost competitiveness, create jobs and generate sustainable growth, Brussels, 2 December 2015,
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-15-6203_en.htm

6) 「循環経済」の旗手フィンランド~環境との両立に挑む、昆虫食も~、https://www.jiji.com/jc/v4?id=201807fin0001

7) WCEF2018 ホームページ, https://www.sitra.fi/en/publications/world-circular-economy-forum-2018-report/

8) 世界循環経済フォーラム2018の開催について、環境省、https://www.env.go.jp/press/105046.html

9) WCEF Visions 2050, https://www.sitra.fi/en/articles/wcef-visions-2050/

10) WCEF2018 Side Events, https://www.sitra.fi/en/articles/wcef2018-side-events/

11) 例えば、http://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-foresight-and-science-and-technology-trends

12) 循環型社会の形成をめぐる社会情勢、環境省、https://www.env.go.jp/press/y030-24/ref03.pdf

13) 循環型社会の形成、平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(PDF版)、
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/pdf/3_3.pdf

14) ささえ合い交通、http://kibaru-furusato-tango.org/about-sasaeai/

15) 豊田市 中山間地域における高齢者の移動支援の取組~たすけあいプロジェクト~、
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/281840.pdf