STI Hz Vol.4, No.3, Part.11:(レポート)論文を生み出すような研究活動の活発度とその変動要因:NISTEP定点調査2017の深掘調査からの示唆STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00146
  • 公開日: 2018.09.25
  • 著者: 村上 昭義
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
論文を生み出すような研究活動の活発度と
その変動要因:
NISTEP定点調査2017の深掘調査からの示唆

科学技術・学術基盤調査研究室 研究員 村上 昭義

概 要

本レポートでは、NISTEP定点調査2017において実施した、「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」の活発度とその変動要因に関する深掘調査の結果を報告する。研究活動の現在の活発度や活発度の上昇度合いは、外部資金の獲得額が高い回答者ほど高い傾向にある。活発度上昇の理由としては、「研究立ち上げ期から本格実施期への移行」が最も多く選ばれたが、特に着任時期が3~5年前である回答者が選択した割合が高かった。他方、活発度を低下させる主な理由は研究時間の減少であると、NISTEP定点調査の回答者である一線級の教員・研究者は認識している。これらの結果は、研究の活発度の維持・上昇には、日々の研究時間に加えて、中期的な時間の確保も必要であることを意味している。

キーワード:第5期科学技術基本計画,研究活動の活発度,研究時間,外部資金と研究成果,
ライフステージ

1. はじめに

「科学技術の状況に係る総合的意識調査(以下、NISTEP定点調査)」は、産学官の一線級の教員・研究者や有識者(約2,800名)への継続的な意識調査を通じて、我が国の科学技術やイノベーションの状況変化を把握する調査である。本調査では、第5期科学技術基本計画1)を踏まえて作成した質問票を通じて、定量指標では把握が困難な点も含めて、科学技術やイノベーションの状況やその変化について包括的な把握を行う。本調査の特徴は、毎年、同一の回答者に、同一のアンケート調査を実施することで、日本の科学技術やイノベーションの状況変化を定点観測する点にある。また、本調査では、これらの5年間継続する定常質問(63問)に加えて、特に状況把握が必要であると思われる事項についての深掘調査も実施している。

本レポートでは、NISTEP定点調査20172)で実施した、「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」の活発度とその変動要因に関する深掘調査の結果を報告する。

2. 「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」の活発度及びその変化

2-1 深掘調査の問題意識と回答者について

主要国の論文数が増加する中で、日本の論文数の伸び悩みが指摘されている3)。日本の論文数の伸び悩みは、多様な要因の重ね合わせであると考えられるが、より詳細な理解を深めるためには、個々の研究者の論文を生み出すような研究プロセスの理解が必要である。そこで、NISTEP定点調査の回答者である現場の教員・研究者(大学等、公的研究機関の部局長から推薦された一線級の方、約1,500名)と大規模研究開発プロジェクト(SIP, ImPACT, COI)の研究責任者(約150名)に、「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」の現在の活発度と過去3年間程度の活発度の変化、その変動要因について深掘調査を実施した。分析では、回答者の属性情報をもとに、各選択項目について回答割合の傾向を調べた。

2-2 現在の研究活動の活発度について

図表1に、現場の教員・研究者と大規模研究開発プロジェクトの研究責任者である回答者に、「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」の現在の活発度を尋ねた結果を示す。

現在の研究活動の活発度の全回答者の状況は、「低い(大変低い・低い)」とする割合が38%、「高い(大変高い・高い)」とする割合が62%であり、NISTEP定点調査の全回答者では現在の活発度が高いとする割合が約6割を占めている。

属性別の状況に注目すると、現場研究者では、全回答者の状況に近く、大規模研究開発プロジェクトの研究責任者では、現在の活発度が「低い(大変低い・低い)」とする割合は23%、「高い(大変高い・高い)」とする割合は78%であり、全回答者に比べて現在の活発度が高いとする割合が大きい。職位別では、教授・部課長クラスが准教授・主任研究員クラスや助教・研究員クラスに比べて、現在の活発度が高いとする割合が大きい。大学種別では、国立大学等(大学共同利用機関法人も含む)が公立大学や私立大学に比べて、現在の活発度が高いとする割合が大きい傾向にある。

また、大学回答者については、大学グループ別の集計を行った。本調査における大学グループは、2009~2013年の日本国内の論文数シェア(自然科学系、分数カウント)を用いて分類を行った。論文数シェアが1%以上の大学のうち、シェアが特に大きい上位4大学は、先行研究4)の大学グループ分類に倣い、第1グループに固定し、それ以外の大学を第2グループ、0.5%以上~1%未満の大学を第3グループ、0.05%以上~0.5%未満の大学を第4グループとした。大学グループ別では、現在の活発度が高いとする割合が第1グループで最も大きく、第4グループになるほど低いとする割合が大きい。

回答者が2017年度に獲得した外部資金の額と現在の研究活動の活発度の関係を見ると、外部資金の獲得額が高いほど、現在の活発度が高いとする割合が大きくなる。外部資金を獲得していない場合、現在の活発度が低いとする回答者の割合は約7割を占めている。NISTEP定点調査の自由記述からは、所属機関から配分される個人研究費が年々減少し、外部資金を獲得できなければ研究活動を継続できないという意見が多く見られるが、それらを裏付ける結果と言える。また、上記の属性別の状況も、研究活動の活発度が高い属性は、総じて外部資金の獲得額が高い割合が大きいことから、現在の研究活動の活発度は、外部資金の獲得額に大きく関係していることが分かる。

図表1 研究活動の現在の活発度図表1 研究活動の現在の活発度

注:四捨五入したため、合計が100%にならない場合がある。括弧内の数字は該当回答者数を意味する。
2-3 研究活動の過去3年間の変化について

次に、「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」の過去3年間程度の変化について回答者に尋ねた結果を図表2に示す。

全回答者の活発度の変化は、「低下している(大きく低下・低下)」とする割合が27%、「変化なし」とする割合が35%、「上昇している(大きく上昇・上昇)」とする割合が37%であった。

属性別の状況に注目すると、大規模研究開発プロジェクトの研究責任者では、研究活動の活発度が「上昇している(大きく上昇・上昇)」とする割合が51%であり、現場研究者に比べて大きい。職位別の状況に注目すると、准教授・主任研究員クラスの研究活動の活発度が低下しているとする割合が教授・部課長クラスと助教・研究員クラスに比べて大きい。大学グループ別では、活発度の変化が上昇しているとする割合が第1グループで最も大きく、第4グループになるほど小さい傾向にある。回答者が2017年度に獲得した外部資金の額と研究活動の変化の関係を見ると、外部資金の獲得額が高くなるほど、研究活動の活発度が上昇しているという回答割合が大きい。研究活動の活発度の変化においても、外部資金の獲得額が大きく関係している様子が分かる。

図表2 研究活動の過去3年間程度の変化図表2 研究活動の過去3年間程度の変化

注:四捨五入したため、合計が100%にならない場合がある。括弧内の数字は該当回答者数を意味する。

3.研究活動の活発度の変動要因

3-1 研究活動の活発度が「大きく低下または低下」と回答した要因

過去3年間の研究活動の活発度の変化で「低下している(大きく低下・低下)」と回答した者に、図表 3に示す項目から活発度の低下要因を上位2位まで選択するように求めた。この集計での割合とは、回答者が選択した項目の割合を意味し、各項目割合を合計すると100%になり、1位と2位の回答割合まで含めると合計割合は200%になる。1位と2位を合計した回答割合で最も大きい項目は、「⑩職務時間内で研究以外への活動に割く時間が増加した」であった。1位のみの回答割合でも58%であり、顕著に大きい割合を示している。2番目に回答割合の大きい「⑫その他」の自由記述欄にも研究時間に関連する記述が散見された。研究時間の減少は研究活動の活発度を低下させる主要因であると、一線級の教員・研究者は認識している。

ここで、外部資金の獲得額別に項目⑩の回答割合(1位と2位の合計)を調べると、外部資金の有無や獲得額に関係なく、全ての区分で回答割合が大きいことが分かった(図表4)。外部資金を獲得している回答者は、外部資金を得ているのにもかかわらず、研究時間を確保できていない状況が示唆される。

研究活動の低下要因として回答者の属性による違いが顕著なものに注目すると、「③研究成果の応用や実用化フェーズに入った」が特徴的な傾向を示した。外部資金の獲得額別に回答割合(1位と2位の合計)を調べると(図表5)、外部資金の獲得額が高くなるほど回答割合が大きい傾向にある。特に大学回答者のみでは、外部資金がない場合及び100万円未満の場合に選択されず、より強い傾向が見られる。外部資金の獲得額が高くなると、論文を生み出すような研究活動だけでなく、研究成果の応用や実用化フェーズに移行した研究活動も行われていると考えられる。

また、男女別の「⑪ライフステージ(育児・出産、介護等)の移行により、研究に割り当てる時間が減った」の回答割合(1位と2位の合計)では、女性の回答割合が37%と非常に大きい(図表6)。ライフステージの移行は女性研究者の研究活動に影響を与えていることが分かる。

図表3 研究活動の活発度が「大きく低下または低下」した要因図表3 研究活動の活発度が「大きく低下または低下」した要因

注:1位の回答割合を合計すると100%となり、2位の回答割合も含めて合計すると200%となる。
 ただし、四捨五入の関係で200%にならない場合がある。

図表4 外部資金の獲得額別の「⑩職務時間内で研究以外への活動に割く時間が増加した」の回答割合
(1位と2位の合計)図表4 外部資金の獲得額別の「⑩職務時間内で研究以外への活動に割く時間が増加した」の回答割合(1位と2位の合計)

注:1位と2位の回答割合の合計値である。

図表5 外部資金の獲得額別の「③研究成果の応用や実用化フェーズに入った」の回答割合
(1位と2位の合計)図表5 外部資金の獲得額別の「③研究成果の応用や実用化フェーズに入った」の回答割合(1位と2位の合計)

注:1位と2位の回答割合の合計値である。

図表6 男女別の「⑪ライフステージの移行により、研究に割り当てる時間が減った」の回答割合
(1位と2位の合計)図表6 男女別の「⑪ライフステージの移行により、研究に割り当てる時間が減った」の回答割合(1位と2位の合計)

注:1位と2位の回答割合の合計値である。
3-2 研究活動の活発度が「大きく上昇または上昇」と回答した要因

次に、過去3年間の研究活動の活発度の変化で「大きく上昇または上昇」とした回答者に、図表7に示す項目から活発度の上昇要因を上位2位まで選択するように求めた。1位と2位を合計した回答割合で最も大きい項目は、「①研究が立ち上げ期から本格実施期へ移行した」であった。続いて、「③新たな外部資金を獲得した、または、外部資金が大幅に増加した」、「⑤他の組織等との連携、共同研究が開始・活発化した」の項目が多く選択されており、研究活動を活発化させる要因は多様であることが分かった。1位のみの回答割合に注目すると、「①研究が立ち上げ期から本格実施期へ移行した」と「③新たな外部資金を獲得した、または、外部資金が大幅に増加した」が大きい項目である点は全体の状況と同じであるが、次に続く項目が「②ブレークスルーとなるような成果が得られた」であった。

回答者の現在の所属に着任した時期に注目して、「①研究が立ち上げ期から本格実施期へ移行した」の回答割合(1位と2位の合計)を調べると(図表8)、回答割合が最も大きい着任時期は「3~5年前」であった。ただし、雇用期間が長くなるにつれ、回答割合は低下する傾向にある。長期的に同じ所属である場合、「⑤他の組織等との連携、共同研究が開始・活発化した」や「③新たな外部資金を獲得した、または、外部資金が大幅に増加した」などの回答割合が大きい。

また、男女別の「⑩ライフステージ(育児・出産、介護等)の移行により、研究に割り当てる時間が増えた」の回答割合(1位と2位の合計)では、研究活動の低下要因の項目⑪と同様に、女性の回答割合が11%と大きい(図表9)。

図表7 研究活動の活発度が「大きく上昇または上昇」した要因図表7 研究活動の活発度が「大きく上昇または上昇」した要因

注:1位の回答割合を合計すると100%となり、2位の回答割合も含めて合計すると200%となる。
 ただし、四捨五入の関係で200%にならない場合がある。

図表8 着任時期別の「①研究が立ち上げ期から本格実施期へ移行した」の回答割合
(1位と2位の合計)図表8 着任時期別の「①研究が立ち上げ期から本格実施期へ移行した」の回答割合(1位と2位の合計)

注:1位と2位の回答割合の合計値である。

図表9 男女別の「⑩ライフステージの移行により、研究に割り当てる時間が増えた」の回答割合
(1位と2位の合計)図表9 男女別の「⑩ライフステージの移行により、研究に割り当てる時間が増えた」の回答割合(1位と2位の合計)

注:1位と2位の回答割合の合計値である。

4.まとめと示唆

研究活動の現在の活発度や過去3年間の変化では、特に外部資金の獲得額が高いほど、現在の活発度が高く、活発度も上昇している。研究活動の活発度と外部資金の獲得額は大きく関係していることが分かった。

研究活動の低下要因は、「⑩職務時間内で研究以外への活動に割く時間が増加した」を選んだ回答者が顕著に多い。外部資金の獲得額別に項目⑩の回答割合を調べると、外部資金の有無や獲得額に関係なく、全ての区分で回答割合が大きい。研究活動の活発度と外部資金の獲得額は大きく関係していることから、少なくとも外部資金を獲得するような教員・研究者が研究活動に専念できる環境を用意することが重要であろう。また、外部資金の獲得額が増えるほど、「③研究成果の応用や実用化フェーズに入った」の回答割合が大きい傾向にあった。この結果は、外部資金の獲得額が高くなるにつれ、「研究成果を創出し、論文を生み出すような活動」から、研究成果の応用や実用化フェーズに移行するため、論文以外の成果も生み出されていることを示唆している。

研究活動の上昇要因では、多様な要因が選択されたが、「①研究が立ち上げ期から本格実施期へ移行した」が最も回答割合が大きい。ただし、着任してからの期間が3~5年である場合に回答割合が最も大きい。任期付きの教員・研究者の任期が5年以内の場合、研究が本格実施期に移行した段階で任期が切れ、研究を中断・異動しなければならない事態も想定される。上昇した研究活動の活発度を維持するには、テニュアトラック制度などによる任期後の無期雇用への移行も重要であることを示唆している。

加えて、研究活動の低下・上昇要因の両方で、ライフステージの移行に関する項目を選択する女性の割合が大きい。女性研究者の研究活動の活発度の低下及び上昇に、ライフステージの移行が大きく影響していることを示唆しており、女性研究者の活躍促進のためには個々の状況に応じたより細やかな対応が必要であると言えよう。

謝辞

NISTEP定点調査の実施に当たって、貴重な時間を割いて調査に御協力くださった教員・研究者及び有識者の皆様に深く感謝申し上げる。


注 NISTEP定点調査は、これまで、第3期科学技術基本計画(2006~2010年度)期間中の第1期、第4期科学技術基本計画(2011~2015年度)期間中の第2期を実施し、現在は第3期NISTEP定点調査を実施している。

参考文献

1) 第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定),
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html(2018年7月12日閲覧)

2) 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究室(2018). 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2017), NISTEP REPORT No.175, 2018年4月. http://doi.org/10.15108/nr175

3) 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究室(2017). 科学研究のベンチマーキング2017−論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況−, 調査資料−262, 2017年8月. http://doi.org/10.15108/rm262

4) 科学技術政策研究所(2009). 日本の大学に関するシステム分析−日英の大学の研究活動の定量的比較分析と研究環境(特に、研究時間、研究支援)の分析−, NISTEP REPORT No.122, 2009年3月.
http://hdl.handle.net/11035/689