STI Hz Vol.4, No.1, Part.3: (レポート)デファクトスタンダードとして浸透しつつある体系的課題番号:公的資金から生み出された成果の計測に向けてSTI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00114
  • 公開日: 2018.02.26
  • 著者: 伊神 正貫、村上 昭義
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
デファクトスタンダードとして浸透しつつある
体系的課題番号:
公的資金から生み出された成果の計測に向けて

科学技術・学術基盤調査研究室 室長 伊神 正貫、研究員 村上 昭義

概 要

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、ファンディング情報とそこから生み出された成果の紐付けを、施策や事業レベルで可能とする方策として、我が国の公的資金に統一した形式の課題番号(体系的課題番号)を導入することを提案し、その実現に向けての取組を行ってきた。本稿では、体系的課題番号の着想に至った経緯やその実現に向けた取組を紹介した後、体系的課題番号がデファクトスタンダードとして浸透しつつあることを示す。また体系的課題番号等のIDを通じたデータ連携は、研究プロセスを可視化する「研究プラットフォーム」の構築に際しても有効な手段となり得ることを指摘する。

キーワード:謝辞情報,体系的課題番号,ファンディング,データ連携

1. はじめに

科学技術への投資とそこから得られた成果の関係性を計測・理解することは、公的資金投入の成果についての説明責任、我が国の科学技術システムにおける公的資金の果たす役割や位置づけの理解、科学や技術における潮流と研究ファンディングの関係の理解など、科学技術・学術政策や研究マネジメントを行う様々な局面において重要となる。

これらの分析を可能にする基礎として、ファンディング情報とそこから生まれた成果についての情報が必要であり、国際的には、論文の文献同士をリンクするイニシアチブであるCrossrefが2000年代よりCrossref Funding data(https://www.crossref.org/services/content-registration/funding-data/)を立ち上げて、出版物とファンディング情報の紐付けについて議論と実装を進めている。また、2016年になって国際研究者識別子ORCIDでも、研究者IDとファンディング情報を紐付けるプロジェクトORBIT(https://orcid.org/content/orbit-project)が開始された。

日本の状況を見ると、ファンディング情報とその成果についての情報が時系列で収集され、かつデータベースとして公表されているのは、科学研究費助成事業(KAKEN、科学研究費助成事業データベース:https://kaken.nii.ac.jp/)のみである。

ファンディング情報とその成果を結びつける他の方法として、論文の謝辞情報の活用が考えられる。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、論文の謝辞情報の詳細な分析を行うことで、その収録状況を明らかにするとともに、謝辞情報を用いて施策や事業レベルで論文とファンディング情報の紐付けを可能とし、記入する研究者への負担も軽減するための方策として、我が国の公的資金に統一した形式の課題番号(体系的課題番号注1)を導入することを提案し、その実現に向けての取組を行ってきた1)

本稿では、体系的課題番号の着想に至った経緯やその実現に向けた取組を紹介した後、体系的課題番号がデファクトスタンダードとして浸透しつつあることを示す。最後に、体系的課題番号等のIDを通じたデータ連携は、研究プロセスを可視化する「研究プラットフォーム」の構築に際しても有効な手段となり得ることを指摘する。

2. 体系的課題番号とは

2-1 論文の謝辞情報を用いたファンディング情報の把握とその限界

日本の論文を対象として謝辞情報の収録状況等を詳細に調べた先行研究1)から、2009~12年の日本論文注2の約60%に謝辞情報が含まれていることが明らかにされている。これは、研究実施の際に用いたファンディング等の把握を行う上で、謝辞情報は有力な情報源となり得ることを示しているが、以下に述べるような課題もある。

まず、謝辞情報には多くの表記バリエーションが存在し、そのままでは資金配分機関等の出現頻度等の正確な集計は困難であり、資金配分機関等の名称の名寄せが必要となる。一例として、日本論文(2008~13年)の中で、謝辞情報における出現頻度がもっとも多いのは「文部科学省」であるが、その表記バリエーション数は約1.2万件と膨大な数にのぼる注3

次に、外部から資金配分を受けた研究者が、全ての情報を謝辞に記述しているかは分からない。したがって、研究者が外部から資金配分を受けたことについて、論文の謝辞に必ず記載してもらうようにする必要がある。このためには、資金配分機関等が論文等の成果発表の際に、その貢献を明示することを研究者に重ねて依頼するとともに、研究者の負担にならないような謝辞情報の記述方法を指定する必要がある。

以上に述べたような課題もあり、現状では著者が論文謝辞にファンディング情報を記述しているにもかかわらず、それらを活用して分析するには困難な状況にある。

2-2 体系的課題番号の特徴

謝辞情報を用いた施策や事業レベルの分析を可能とし、研究者への負担も軽減するには、1)謝辞における資金配分機関名等の記述方法の統一化、2)我が国で統一した課題番号(体系的課題番号)の導入が有効と考えられる。その際、体系的課題番号は、少なくとも次に示すような特徴を備える必要がある。

① 日本の研究資金であることが分かる

② 資金配分機関等、施策・事業等の情報を識別子として含める

③ 桁数を固定し、途中にスペースを入れない

体系的課題番号のイメージとそれを用いた謝辞の記述の例を図表1に示す。体系的課題番号に「JP」の文字列を含めるのは、謝辞に記載されているのが日本の資金配分機関等であることを明確にするためである注4。資金配分機関等、施策・事業等の情報を体系的課題番号に含めることで、謝辞の記述に表記ゆれがあっても、これらの情報の復元が可能となる。

図表1 体系的課題番号のイメージとそれを用いた謝辞の記述例図表1 体系的課題番号のイメージとそれを用いた謝辞の記述例

3. 体系的課題番号の導入に向けたNISTEPの取組

体系的課題番号の提案以降、NISTEPではその導入に向けた次のような取組を行ってきた。

3-1 文部科学省や資金配分機関等への体系的課題番号の必要性の説明

NISTEPでは体系的課題番号の導入に向けて、文部科学省の関係部署への個別説明を行うとともに、日本の資金配分機関等の実務担当者が集まる関係機関ネットワーク会合注5における情報共有を適時行ってきた2)。文部科学省の関係部署への個別説明においては、施策・事業の英語表記を特定することの必要性、体系的課題番号の付与の有用性、体系的課題番号を論文謝辞等へ記載することの推進の必要性などを指摘している。関係機関ネットワーク会合においては、我が国の主要な資金配分機関における課題番号の付与の状況を調査するとともに、体系的課題番号の概念やその導入によって想定される効果等の説明を行った。

3-2 資金配分機関等の名寄せ結果の共有

体系的課題番号が本格的に運用されるようになるまでは、既存の謝辞情報に含まれる資金配分機関等の名寄せを行う必要がある。そこで、NISTEPが整備した資金配分機関等の表記バリエーションと資金配分機関名の対応リストを、NISTEPのホームページにおいて公開している3)。これらのデータ公開に加えて、データベース作成会社とも情報を共有することで、これまでに蓄積してきたデータを幅広いユーザが活用できるようにした。クラリベイト・アナリティクス社は、研究分析ツールであるInCitesに、資金配分機関等の名寄せ結果を活用している。

4. デファクトスタンダードとして浸透しつつある体系的課題番号

体系的課題番号の導入は、日本学術振興会(JSPS)や科学技術振興機構(JST)の研究費において進展している。

JSPS及び文部科学省による科学研究費助成事業(科研費)の場合、研究成果を発表する場合は、科研費により助成を受けたことを必ず表示するようになっている。図表2にJSPSのホームページ上に示されている科研費の研究成果における謝辞の表示方法(抜粋)を示す4)。従来、科研費の謝辞の記載ルールには、8桁の課題番号を記載することになっていたが、2016年度より8桁の課題番号の前に「JP」を付け、10桁の体系的課題番号を記載するようにルールが変更されている。

また、JSTにおける戦略的創造研究推進事業においても、グラント番号(体系的課題番号)を成果論文の謝辞に記載するようにホームページ上で研究者に依頼がなされている5)。戦略的創造研究推進事業の、CREST、さきがけ、ACT-I、ERATO、ACT-C、ACCELについて、それぞれの採択課題に係る体系的課題番号がPDF形式で掲載されている。これらの体系的課題番号は、JPで始まる10桁の英数字表記である。例えば、CRESTやACT-Cの体系的課題番号は、「JPMJCRXXXX」であり、さきがけやACT-Iの体系的課題番号は、「JPMJPRXXXX」である。

これらに加えて、日本医療研究開発機構(AMED)においても、論文中の謝辞等に、AMEDの名称と「謝辞用課題番号注6」を記載することについての周知が始まっている6)

このように、体系的課題番号を用いた謝辞の記載が始まりつつあるが、それをデータベース上で確認することはできるのだろうか。そこで、クラリベイト・アナリティクス社の論文データベースであるWeb of Science Core Collection(WoSCC)を用いて確認を行った。WoSCCにおいて助成金番号を「JP????????[ここで?は1文字のワイルドカード文字である]」で検索を行った結果(2017年12月19日検索)、2016年に1,269件、2017年5,860件の論文がヒットした。日本全体の論文数に占める割合は、同時点・同条件で検索を行った場合、1%(2016年)、7%(2017年)であり、体系的課題番号の記載が普及し始めていることが分かる。

2017年の体系的課題番号の記載があるもの(5,860件)について事業別を調べると、全体の88%は科研費のJP+8桁の体系的課題番号であった。他方、戦略的創造研究推進事業の体系的課題番号も一定割合を占めている(CREST:8%、さきがけ:5%、ERATO:2%等)。

上に示した結果は、体系的課題番号を用いることにより事業レベルでの成果の検索が容易に行えることを示している。

図表2  科研費の研究成果における謝辞の表示方法(抜粋)図表2  科研費の研究成果における謝辞の表示方法(抜粋)

出典:日本学術振興会(JSPS)のホームページ(https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/16_rule/rule.html)をもとに著者が作成。

5. 最後に

本稿で示したように、体系的課題番号はデファクトスタンダードとして浸透しつつある。しかし、その取組は、まだ立ち上がりの段階であるため、過去に周知された形式で謝辞が記載されている場合も多い。したがって、研究者に対して論文謝辞への体系的課題番号の記載の徹底を継続して呼びかける必要がある。また、科研費、戦略的創造研究推進事業、AMEDでの事例を参考に、他の資金配分機関や施策・事業においても体系的課題番号の導入が進むこととで、各資金配分機関や施策・事業の我が国の科学技術システムにおける役割や位置づけの理解が進むであろう。

これまでの議論では、ファンディング情報とその成果を結びつける手段としての体系的課題番号に注目した。しかし、少し視野を広げると、体系的課題番号は、研究者が研究を実施するプロセスを理解する上での貴重な情報であることが分かる。現在、研究者(ORCID等)や研究成果・データ(DOI等)に各種の識別子を付ける取組が進みつつある7)。この文脈から、体系的課題番号を捉えなおすと、体系的課題番号は研究課題についての識別子であり、謝辞情報への体系的課題番号の記述は研究者(論文著者)や研究成果(論文)と研究課題を紐付ける役割を持っている。研究成果・データと研究課題を紐付けるという視点で見ると、体系的課題番号の利用を論文の謝辞への記述から更に拡大し、例えば機関レポジトリ等に研究成果・データを収録する際のメタデータとして体系的課題番号を含めるといった考え方もあり得る。

研究者、研究課題、研究成果・データの情報が結びつくことで、アイデアの着想段階に始まり、仮説の検証、実験、データ整理やプロジェクトマネジメント等、誰がどういう貢献をしたかといった研究プロセスが可視化される「研究プラットフォーム8)」が実現されるかもしれない。このプラットフォームにおいては、論文を書くといった研究成果の「出版」以外の、研究に対する貢献を測ることで、論文指標だけに限らない多様な評価が可能となる8)。加えて、研究プロセスの可視化・理解は、研究の発展をさせる上での効果的な研究資金配分や研究マネジメントの在り方等を考える上でも、貴重な情報・手掛かりとなるだろう9)


注1 NISTEPの報告書1)では、体系的課題番号のことを「統一課題番号」と呼んでいるが、これらは同一の概念である。

注2 クラリベイト・アナリティクス社の論文データベースであるWeb of Science (Science Citation Index Expanded)に収録されているArticle及びReviewを対象とした。

注3 ここで示した名寄せでは、機関名レベルでのクリーニングを行っているため、個々の事業名やプログラム名等が記述されている場合は、機関名の表記バリエーションとして処理している。したがって、多くの事業やプログラムを所管している機関では、表記バリエーション数は多くなる傾向にある。

注4 表記バリエーションのクリーニングの際に、国情報が含まれておらず、類似の名称の他国機関との判別がつかない事例も見られた。国際共著論文の割合は年々増加していることから、他国機関との区別を明確にするためにも国情報は必要である。また、日本の国コードに着目した分析を行うことにより、我が国の資金配分機関等の存在感を示すことにもつながると考えられる。

注5 NISTEPでは、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」(SciREX)推進事業の一環として、エビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ・情報基盤の構築と活用を推進している。この活動の一部として、資金配分機関間で情報を共有し、共通の課題を認識して解決に向けた今後の方向性を検討するため、関係機関ネットワーク会合を開催している。

注6 AMEDの場合、課題管理番号(16桁)の左端から11桁目までの先頭に“JP”の2文字を付加した13桁の文字列を「謝辞用課題番号」としている。

参考文献

1) 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究室. 論文の謝辞情報を用いたファンディング情報把握に向けて-謝辞情報の実態把握とそれを踏まえた将来的な方向性の提案-, 科学技術・学術政策研究所 NISTEP NOTE(政策のための科学) No. 13. 2014. http://hdl.handle.net/11035/2994

2) 科学技術・学術政策研究所 第2研究グループ. 科学技術イノベーション政策の基礎となるデータ・情報基盤構築の進捗及び今後の方向性 ~ファンディング関連データを中心として~, 科学技術・学術政策研究所 NISTEP NOTE(政策のための科学) No. 23. 2017. http://doi.org/10.15108/nn023

3) 資金配分機関等名英語表記ゆれテーブル:
http://www.nistep.go.jp/research/scisip/data-and-information-infrastructure (2018年1月14日閲覧)

4) 研究成果における謝辞の表示:https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/16_rule/rule.html (2018年1月14日閲覧)

5) 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業のグラント番号について:
http://www.jst.go.jp/kisoken/evaluation/index.html (2018年1月14日閲覧)

6) 成果論文中の謝辞への「謝辞用課題番号」の記載について(AMEDが支援する研究者の皆様へのお願い):
https://www.amed.go.jp/news/other/20171219.html (2018年1月14日閲覧)

7) 林 和弘. 論文誌の電子ジャーナルをめぐる最近の動き. 科学技術動向. 2009, 100, p. 10-18.
http://hdl.handle.net/11035/2056

8) 林 和弘. オープンサイエンスが目指すもの:出版・共有プラットフォームから研究プラットフォームへ. 情報管理. 2015, 58, p. 737-744. http://doi.org/10.1241/johokanri.58.737

9) 伊神 正貫. 論文を生み出した研究活動の実態を探る-インプットとアウトプットの間を結ぶプロセスの理解に向けたNISTEPの取組-. 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 STI Horizon. 2017, Vol. 3 No. 3. p. 52-57.
http://doi.org/10.15108/stih.00097