STI Hz Vol.2, No.3, Part.7: (ほらいずん)世界各国の科学技術予測活動 マレーシアのフォーサイト・イニシアティブ:myForesightSTI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00038
  • 公開日: 2016.09.25
  • 著者: 村田 純一
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.2, No.3
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

ほらいずん
世界各国の科学技術予測活動
マレーシアのフォーサイト・イニシアティブ:myForesight

科学技術予測センター 特別研究員 村田 純一

 前号に続き、今号では2016年3月2日に当研究所主催で開催した第7回予測国際会議への参加のために来日した、マレーシアフォーサイト研究所(myForesight1):Malaysian Foresight Institute)の副所長、Mohd Nurul Azammi Mohd Nudri 氏にマレーシア政府機関のフォーサイト活動についてお話を伺った。

 マレーシアは、人口約3,000万人、面積約33万平方キロメートルの多民族、多宗教が共存している。2017年8月には、国交樹立60周年を迎え、我が国とは経済、文化交流が活発で、2016年5月末から6月初頭にかけて、ザヒド副首相兼内務大臣が来日し、麻生副総理兼財務大臣、岸田外務大臣との会談や、安倍総理大臣表敬が行われるなど、良好な2国間関係を保っている2)。本稿では、インタビューなどを基に、マレーシアの科学技術予測の取組について紹介する。


Mohd Nurul Azammi Mohd Nudri
マレーシアフォーサイト研究所 副所長

マレーシアでは、ハイテク産業の発展を促進するために、MiGHT3)(Malaysian Industry – Government Group for High Technology:ハイテクのためのマレーシア産業−政府グループ)という担当組織があります。この組織は、1993年2月22日に設立され、その後1994年10月15日に有限会社となりました。内閣総理大臣の科学顧問をサポートするために内閣府に配置され、産業界と政府から複数の学際領域や省庁間に働きかけることで、科学技術の発展に相乗効果をもたらしています。国がハイテク技術開発の推進に向けて準備するために、フォーサイトや未来について考えることは非常に重要です。

2012年5月16日にニューヨークで開催された第2回 GSIAC(Global Science and Innovation Advisory Council)ミーティングの中で、ナジブ ラザク首相が、フォーサイトのイニシアティブ制度の支援を表明し、myForesight と呼ばれるマレーシアフォーサイト研究所ができました。その後同研究所は、直接・間接的に200以上の機関とともにフォーサイト活動に関与し、国内外の組織とネットワークを構築しています。

現在、myForesightは、年間約100万米ドルの予算で、フォーサイト、ホライズンスキャン、社会実装の支援、及びネットワーク&リンケージの4事業に、直接・間接的に36人のスタッフが関与して、運営されています。資金の一部は政府と産業界(PETRONAS)から提供されています。研究所内でのホライズンスキャン活動と、技術、産業、社会の発展に関連する外部関係者の要求を基に、多数のフォーサイトプロジェクトを行ってきました。

MiGHTは1994年から多数の調査を行い、レポートを出しています。図表は、MiGHTの指示で実施された2010年以降の主要な調査とレポートのリストです。例えば、1994年には、目標年度2015年までの航空宇宙産業の発展に向けた調査を行い、「国家の航空宇宙計画案・2015年」を出しました。そして2015年が近づくと、2030年に向けた業界の発展のために進むべき道を可視化した新たなロードマップの策定を、2014年から開始しました。そのロードマップを踏まえて、2015年に産業と国際貿易省(MITI:Ministry of Industry and International Trade of Malaysia)の下に、航空宇宙産業調整局(NAICO:National Aerospace Industry Coordination Office)が設立されました。

図表 MiGHTの指示による2010年以降の主要調査とレポート
(2012年以降はmyForesightが担当した調査とレポート)

インタビューを基に科学技術予測センターにて作成

2010年には、国家レベルの技術フォーサイト調査がmyForesightの主導で行われました。そのときに九つの将来のキーテクノロジー:先端製造、食の安全、プランテーション作物、輸送、医療・健康、未来のエネルギー、水の安全、地域の保安と安全、ごみの管理と、五つの急進的・複合的で変革を誘引する領域:先端材料、バイオ技術、電子工業、ICT、ナノテクノロジーに注目し、主に検討しました。

調査の詳細については、myForesightウェブサイトを介してアクセスできます。ウェブサイトでは、教育、モビリティー、ICT・電子工学、エネルギーの未来、生活と生活スタイル、環境問題、研究開発、都市と都市化、安全と持続性の9テーマで分類された動向や課題について、閲覧が可能です。また、2016年に入って、R&Dやイノベーション促進の支援のため「Top 8 Technology Values」というブックレットも作りました。産業分野の多くのステークホルダーが関係するような重要なテーマの調査結果については、リーダーのメッセージや概要などを、機関誌「myForesight」で紹介しています。

フォーサイトの結果は、S2A(Science to Action)と呼ばれるフラッグシッププログラムを通じて、ガバナンス、産業及びマレーシア市民の福祉のために科学技術の強化に重要な役割を果たしています。例えば、技術予測調査と研究開発優先順位は、大学や研究機関が国の要望に添う魅力ある研究に対する助成を提案するためのガイドとなります。「鉄道の未来・2030年」は、マレーシアの鉄道関連企業の能力を高めるための協働と、現在から将来の政府投資を求めるための鉄道産業界への指針を提示しています。「マレーシア公共サービスの未来・2020年以降」は、将来の公共サービスのガバナンスを向上させるための提言を基に、公共サービス部門、関係省庁が、それぞれの計画に適用するための基準を示しています。

そして現在、myForesightはマレーシア科学学会と共同で「マレーシアの未来シナリオ・2050年」から派生する技術のオプションを研究・展開しています。

参考情報

1)myForesight ホームページ:http://www.myforesight.my/

2)外務省WEBページ、 国・地域−アジア−マレーシアより:
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/malaysia/index.html

3)MiGHT ホームページ:http://www.might.org.my/en/SolutionPages/Default.aspx