政策研ニュース No.214

平成17年度科学技術政策研究所機関評価結果報告
サイエンスラウンジ
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目次

  1. Ⅰ. 海外事情
  2. Ⅱ. レポート紹介
  3. Ⅲ. トピックス
  4. Ⅳ. 最近の動き
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ロケットのアイコンⅠ. 海外事情

「科学技術政策の科学に関するワークショップ」参加報告

科学技術基盤調査研究室長 富澤 宏之

先般(2006年7月12日)、ヘルシンキにおいて、「科学技術政策の科学に関するワークショップ(Workshop on Science of Science Policy: Developing our Understanding of Public Investments in Science)」と題された国際会議が開催され、当研究所から、桑原輝隆・総務研究官が講演者として参加したほか、後藤晃・東京大学先端科学技術研究センター教授および筆者が参加した。

本会議は、マーバーガー米国OSTP長官(科学技術担当大統領補佐官)の提唱により開催されたものである。マーバーガー長官は、最近、科学政策のための社会科学を発展させることの重要性を様々な場で主張している。その背景には、政府の研究開発投資金額を決定するための合理的な根拠や、科学技術のグローバリゼーションが米国社会に及ぼす影響の予測が不十分である、といった問題意識があると考えられる。(Science, vol.308, p.617, 29 April 2005; Science, vol.308, p.1087, 20 May 2005)

本会議は以上の背景のもと、OECD-GSF(グローバルサイエンスフォーラム)の主催で開催されたものであり、科学政策をエビデンスベースのものとするための“科学政策の科学”の確立を目指して、ポリシーメーカーと科学政策研究者が対話を開始することを目的としている。

なお、当研究所では、本会議に向けて、所内にGSF研究会(座長:後藤晃・東京大学大学院教授)を設置し対応を検討した。また、筆者は本会議の国際運営委員会委員として企画に関与した。

以下に会議の概要を述べる。

午前中はマーバーガー長官の基調講演とポリシーメーカー側の発表があった。マーバーガー長官の講演は、「適切な科学政策立案のためには、科学技術への投資が社会にもたらす多様なインパクトについての深い理解が必要であるが、そのようなツールは圧倒的に不足している。科学技術への投資のリターンやイノベーションのインパクトの測定・予測のためのモデルと手法の開発を長期的に進めるべきである」といった内容であった。

日本の林・文部科学審議官は、第3期科学技術基本計画の策定に際して、科学技術政策研究所のデルファイ調査等の結果が重点領域の設定等に活用された状況を報告するとともに、今後の科学技術政策研究への期待を表明した。

英国からは、政府の政策の進捗状況をモニタリングするための数値目標設定の方法等についての報告があった。南アフリカからは、科学技術政策の戦略の説明がなされた。

発表後の議論からは、必要な分析ツールは国により異なるものの、各国で研究開発投資が増加しつつあり、それを正当化するための指標が必要であることは共通する課題であることが示された。また、人材に関する指標の不備を指摘する発言が多かった。

午後は、科学技術政策研究・指標の専門家の発表があった。

カナダのGault氏は、過去10年間のOECDを中心とした科学技術指標開発の総括と、そこからの将来展望について述べた。日本の桑原総務研究官は、第3期科学技術基本計画の策定のために実施した包括的な調査・分析の経験を報告するとともに、今後の課題を提示した。米インディアナ大学のBörner教授は、科学の全体像を示すマッピングの最新の試みを報告した。英マンチェスター大学のGeorghiou教授は、近年の欧州における研究システムの変化と、研究開発やイノベーションへの投資の効果を高めるためのツールとしての評価について論じた。

発表後の議論では、“科学政策の科学”が今後取り組むべき課題について、様々な具体的コメントが出された。日本からの発表については、政策決定と政策研究との間の実際のリンケージの実情を具体的に説明したほとんど唯一の国であったためか、有益な発表であるとのコメントが多く得られた。なお、マーバーガー長官は、非公式の発言であるが、日本の本会議への貢献について非常に感謝をしていた。

本会議では、“科学政策の科学”の多様な面がとりあげられたため、今後の方向性について、コンセンサスが得られたとは言いがたいものであった。また、マーバーガー長官が当初、主張した研究開発のアウトプットを計量経済学的なマクロモデルを用いて測定・予測するようなアプローチについては、あまり議論されなかった。多くの出席者は、それが困難であると認識しているようであり、少なくとも近い将来の実現性については否定的な雰囲気が感じられた。

しかし、次のような点の重要性が浮かび上がった。基礎的な統計の不備も問題であるが、それ以上の課題は、上位レベルないし戦略レベルでの意思決定を支援するための科学的ツールが不足していること、グローバリゼーションのような世界の急激な変化を適切に反映させたツールが必要であること、データそのものの重要性だけではなく、そのより良い使用法が重要であること、等である。

本会議は、ポリシーメーカーと政策研究者との対話が促進され、“科学政策の科学”の重要性についての意識が高められたことで基本的な目的を達しており、OECD-GSFでの継続的な開催の予定は無い。しかし、ここでの議論は、9月にカナダで開催されるOECD-NESTIのBlue Sky Ⅱ会議にインプットされることとなった。

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本のアイコンⅡ. レポート紹介

科学技術指標 ―第5版に基づく2006年改訂版―(調査資料―126) について

科学技術基盤調査研究室

当研究所においては、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき体系的に分析する科学技術指標を1991年に公表し、以来おおよそ3年ごとに指標の構成を見直し、報告書として公表してきました。最新版である第5版としては、「平成16年版科学技術指標(NISTEP REPORT No.73)」を2004年4月に公表しています。

一方、日本及び日本を取り巻く国々における社会・経済・科学技術が急速かつダイナミックな変化を遂げていること、多くの科学技術に関する基礎的データが毎年更新されていることなどから、科学技術指標の構成の見直しを行わない年でも継続的にデータを収集・更新することが重要となっています。このような観点から、これまで、第4版「平成12年版科学技術指標」のデータのみを更新した統計集・データ集、及び第5版「平成16年版科学技術指標」のデータのみを更新した統計集・データ集を公表してきました。

「科学技術指標 -第5版に基づく2006年改訂版-(調査資料-126)」は、第5版「平成16年(2004年)版科学技術指標」の更新版として、新たに得られたデータをもとに図表を更新するとともに、それに合わせて本文(解説)を修正したものです。第5版の更新版としては2回目になりますが、前回のようにグラフと統計表だけではなく、解説を付けたことにより、「平成16年(2004年)版科学技術指標」を参照することなく、独立した報告書として読むことができるようにしました。

今回の更新にあたり、新たに得られた日本の科学技術の状況に関する特徴的なデータをいくつか紹介します。

(1) 日本の科学技術の総合力を検討する際の一つの指標として、科学技術政策研究所は、科学技術総合指標を開発してきました。これを見ると、日本の値は1980年代後半に順調に増加した後、1990年代前半には停滞、その後再び増加の傾向にあります。また、日本の値の伸びは、ドイツ、イギリス、フランスとほぼ同程度ですが、米国とは格差が広がる傾向にあり、特に1990年代中盤から米国とその他の主要国との差はますます開きつつあります。

図1 主要国の科学技術総合指標の推移

図: 1

(2) 多様な人材の育成という観点から、理工系学部卒業者のうち、就職者の産業別就職状況について見ると、2002年に理工系学部卒業生の就職割合においては、2002年に長年トップの座を占めていた製造業とサービス業の地位が逆転しましたが、2004年と2005年は製造業が漸増傾向にあります。

図2 理工系学部卒業生の産業別の就職状況

図: 2

(3) 日本の技術貿易額総額は年々増加しており、2004年の収支比は3.12と技術輸出超過となっています。一方、日本の約4倍の技術貿易額総額を有する米国においても、金額は増加していますが、2003年の収支比は2.41であり、日本の値よりも小さくなっています。また、親子会社間の貿易を除いた場合では、日本は0.97(2004年度)となり技術輸入超過であり、一方、米国は3.38(2003年度)となり技術貿易総額の場合よりも更に技術輸出超過となっています。

図3 日本と米国の技術貿易額の推移(親子会社間の技術貿易とそれ以外の技術貿易)

図: 3

(報告書全文及び概要はhttp://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat126j/idx126j.htmlを御参照下さい。)

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ノートのアイコンⅢ. トピックス

平成17年度科学技術政策研究所機関評価の結果について

企画課 相原 佑康

昨年11月より、池上徹彦前会津大学学長を委員長とする機関評価委員会において、科学技術政策研究所の平成17年度機関評価が行われてきましたが、このほど同委員会からの「将来に向けての提言」を含む報告書がまとめられ、6月 27日に池上委員長より國谷所長に提出されました。

今回の機関評価においては、昨年11月以降計6回の会合が開催され、当研究所より提出した研究所の活動全般に関する資料に基づき、行政部局関係者(林幸秀内閣府政策統括官(科学技術政策担当)、河村潤子文部科学省科学技術・学術政策局科学技術・学術総括官、有本建男内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)からの意見聴取・討議、当研究所の研究職員からの意見聴取等を交え、調査研究活動及び機関運営全般に係る検討・評価が実施されました。

今回の機関評価の最終会合となった第6回会合は、5月31日に開催されました。機関評価の結果、池上委員長より提出された報告書の主なポイントは以下のとおりです。

1.今回の機関評価の位置づけ

今回の機関評価のねらいは、研究開発評価に係る関係指針類に基づき、前回機関評価後における当研究所の運営全般に係る評価を行い、研究資源の適切な確保・配分及び運営上の問題点の改善等を通じ、機関としてのマネジメントの質的向上及び調査研究活動の一層効果的・効率的な推進を図るものです。また、国立試験研究機関である当研究所では、独立行政法人研究機関とは異なり、機関評価委員会は機関運営及び調査研究実施状況全般の評価検討を行う一種の「運営諮問委員会」的位置づけとなります。

2.評価結果及び今後の課題

前回(平成14年度)の機関評価実施時と比べ、科学技術政策研究所の活動・成果に大きな進展があったことが認められました。我が国の科学技術政策を巡る現状では、ようやく日本でもエビデンスベースの科学技術政策検討が定着してきており、このような大きな進展を踏まえ、今次機関評価委員会は、引き続き「政策志向型」、「戦略提示型」を科学技術政策研究所の第一の優先度として調査研究活動に取り組むべきであるとされました。

また、評価対象期間の中で科学技術政策研究所の新たな「目玉商品」となりうるものとして、「全国イノベーション調査」、レビュー調査のなかで「公的施策のインパクト調査」「論文分析等によるベンチマーキング調査」が実施され、また、予測調査においても「シナリオ分析」「発展しつつある研究領域の発掘」など新たな取り組みが開始されたことが指摘されました。第3期基本計画策定で使命を果たすことができたのは、従来から行われてきた先導的研究など理論的、方法論的な中・長期的な調査研究により、調査研究に係る知見、能力等が備わっていたからこそであり、これら活動・成果による我が国の科学技術政策立案プロセスに対する科学技術政策研究所の功績は、大変大きかったと評価されています。

3.将来に向けての提言

当研究所は、今後の機関運営に当たり、(1)科学技術政策研究の対象領域が拡大している中で、限られたリソースの中での戦略的な取り組みを行う際の必要なリソースの更なる充実、(2)次の第4期基本計画策定に向けての課題を抽出していくためには、これまで行われてきた個別の政策(要素)の詳細な分析に加えて、科学技術活動全体を俯瞰できるシステムとして捉えるアプローチが必要、(3)機関運営に当たっては、取り上げるテーマや手法の質の一層の向上、トップクラスの人材の確保、レベルの向上に努めること、とされています。

(1)については、同様な機能を有すると思われている他の競合機関の中でのIdentity(差別化)の確保や、科学技術政策研究における国内外の研究機関等との戦略的な連携が必要であり、差別化にあたっては、その「可視化」が重要とされています。

(2)については、タスクフォース的な短期的な対応に加え、中・長期的な対応にも一定のリソースを投入するための体制を整備するなど、調査研究活動の優先順位付けの再検討が必要であり、従来から行われている理論的、方法論的な調査研究を堅実に進めることが重要とされています。

(3)については、科学技術政策研究所に有識者や科学技術政策の専門家からなる常設的な研究会を組織し、そこでのトップクラスの研究者同士の議論を斟酌することが重要とされています。

当研究所としては、今回の機関評価において提言を頂いた事項等について、今後所員一丸となってその具体化に取組んでいきたいと考えています。

なお、本評価委員会の審議経過等について当所ホームページにおいても掲載しております。

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時計のアイコンⅣ. 最近の動き

○主要訪問者一覧
・7/12 Dr. Chien-in Wang:工業技術研究院産業経済趨勢研究センター政策研究センター グループ・リーダー
Mr. Su-Chi Hung:同研究員
Mr. Je-Roe Chen:同副研究員
○新着研究報告・資料
「科学技術指標 ―第5版に基づく2006年改訂版―」(調査資料―126)
「科学技術動向 2006年7月号」(7月28日発行)
  レポート1 日本の医工連携イノベーションの推進―OCTの産学官連携を事例に―
情報通信ユニット 立野 公男
  レポート2 黄砂現象に関する最近の動き―自然現象か人為的影響か古くて新しい問題の解決に向けて―
環境・エネルギーユニット 山本 桂香
  レポート3 中国の直面する環境・エネルギー問題と日中技術協力の可能性
環境・エネルギーユニット 前田 征児
"Science & Technology Trends Quarterly Review 2006 July No.20"
○イノベーション・ジャパン2006―大学見本市

2006年9月13日(水)〜15日(金)に東京国際フォーラムにて開催される。

当研究所では昨年に引き続き参加。第3期科学技術基本計画の策定過程の議論においてエビデンスデータとして活用された「我が国における科学技術の現状と今後の発展の方向性」や、「忘れられた科学−数学」、「日本企業の重要特許の成立過程に対する公的研究部門の寄与に関する調査」などの調査資料及び、各種シンポジウム等の報告資料などを「研究機関ゾーン」に出展する予定である。

○第22回地域クラスターセミナー
・7/18 ジョルジュ・アウー:スイス経営開発国際研究所−IMD教授
「英国ケンブリッジ地域におけるイノベーションと起業家精神」
蔦
ふくろう
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 企画課 news@nistep.go.jp)

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