政策研ニュース No.211

4/21-4/23科学技術週間 丸ビルイベント「サイエンスラウンジ」
サイエンスラウンジ
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目次

  1. Ⅰ. レポート紹介
  2. Ⅱ. トピックス
  3. Ⅲ. 最近の動き
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本のアイコンⅠ. レポート紹介

University-Industry Collaboration Networks for the Creation of Innovation : A Comparative Analysis of the Development of Lead-Free Solders in Japan, Europe and the United States
(「産学官連携ネットワークによるイノベーションの創出:日米欧における鉛フリーはんだ開発の比較分析」)
(Discussion Paper No.41)

元第2研究グループ主任研究官 鎗目 雅

(日本語要約)

研究の背景

近年、社会・経済活動における知識に基づく活動の重要性は飛躍的に高まっている。科学技術に関する知識内容の高度化・専門化が急激に進み、各学問分野の専門領域が細分化して社会における様々な問題が複雑化しつつあり、一人の人間が全体像を把握することはもはや不可能な状況となっている。こうした背景の下、知識が各領域・組織内で閉じた形で独立に生産される様式から、社会における行動主体が個別の境界を越えて共同作業を行うことで、知識の創出・伝達・活用のネットワーク化が進展しつつある。ネットワークを通じて多様な主体が共創的に取り組むことにより、単独では対処することが困難な複雑な問題に対して、従来得られなかった有効解を発見・実行できる可能性がある。現在実態として、異分野間の融合、国際的な共同研究、異なるセクター間の連携などが積極的に進められている。特に最近は産学官連携を通じたイノベーションの創出が期待されているものの、そのネットワークがどのように形成されてきているのか、またイノベーションにどのような影響を与えているのか、まだ本格的な実証研究はなされていない。知識をどのように創出・伝達・活用するかという問題を、ネットワークを通じた知識の流通システムに関する問題と捉え、その構造と進化を分析することが必要とされている。

研究の目的・対象

本研究では、関わる大学、企業、研究機関が、研究開発プロジェクトへの参加、科学論文の共著を通じてどのようなネットワークを形成したのか、その構造について時間的・地域的な観点から比較し、その相違がイノベーションの結果にどのような影響を及ぼしているのか検証を行った。既存研究では、詳細な歴史的な資料の分析に基づく定性的なケース・スタディーがいくつか存在するが、本研究では、産学官連携ネットワークを分析するにあたって、定量的で一般化可能な方法論を開発し、活用することを意図している。研究対象として、電機電子産業における鉛フリーはんだの開発を取り上げ、日本、米国、欧州における研究開発コミュニティー・ネットワークの構造・変化の国際比較を通じて、産学官連携がイノベーションに与えた影響の分析を行った。定量的なデータを補完するため、鉛フリーはんだの開発に関わった大学研究者、企業、政策担当者などへのインタビューを行い、詳細な情報の収集も行った。

研究対象を取り巻く状況

これまで鉛含有はんだは、ほとんど全ての電機電子製品において基盤技術として幅広く使用されてきており、1990年初頭の時点では、鉛を含まないはんだはまだほとんど開発・利用されていなかった。鉛フリーはんだは、融点が高く、はんだ付けされる部品・デバイス、プリント基板が従来のままでは、はんだ付け時の熱により、ふくれ、破壊、短絡などのトラブルが発生する可能性が存在する。鉛含有はんだから鉛フリーはんだへの転換には、部品、生産設備、最終製品に影響を及ぼすため、組成・インターフェースの整合性が取れた基盤技術の開発の必要性があり、実装、はんだ、装置、部品、デバイス、プリント基板などの関連企業による新しい技術の評価・標準化に関わる知識の共有が必要とされる。鉛含有はんだに関しては、その環境への影響から1990年代初頭にアメリカ議会で規制に関する議論が行なわれたが、結局鉛含有はんだに関わる規制は導入されなかった。その後ヨーロッパにおいて、1998年に欧州委員会から廃棄電機電子機器(WEEE/RoHS)指令のドラフトが提案され、2002年末にWEEE & RoHS指令の導入に関する最終的な合意を受けて、2006年7月から鉛含有はんだの使用が基本的に禁止される予定である。一方日本では、廃掃法の強化改正や、家電リサイクル法の導入があり、鉛を含む電子機器は適切な処理を経ない限り廃棄ができないことになっているが、現在のところ鉛含有はんだ自体に対する法規制は導入されていない。

研究の方法

産学官連携ネットワークの分析を行うための方法として、社会ネットワーク分析を活用した。社会ネットワーク分析の特徴として、ネットワークに関わる様々な側面について定量的な指標が応用できることが挙げられる。ネットワークを測定する指標として、ノード(ネットワークに参加している各組織)、エッジ(ネットワークに含まれる組織間のリンク)、コンポーネント(含まれている全ての組織に到達することが可能である最大集合)、ネットワーク集中化(ネットワークが一極集中している度合)、次数中心性(各組織につながっているリンクの数)、媒介中心性(各組織が他の2組織間を結ぶ最短経路上に位置する度合)などを用いた。ネットワーク分析を活用することにより、産学官連携を通じて組織間に発生する複雑なネットワークの構造と進化を可視化し、定量的に分析することが可能となった。データに関しては、日米欧における鉛フリーはんだの開発に関わる研究開発プロジェクト、科学論文、米国特許を収集した。そうして構築したデータベースを基に、研究開発プロジェクトに参加している組織間、また科学論文の共著者が所属する組織間を結んでネットワークを形成した。

分析から得られた知見

日米欧における研究開発プロジェクトに関する参加者のネットワーク分析からは、以下のような知見が得られた。日本では、欧米と比較して1999年の段階からネットワークが形成され、ノードの数が多く平均次数も高くなっていることから、早い段階から多くの組織が参加し、互いに多くの相手とつながっていることが分かる。媒介中心性に関しては、1999年の時点から日立製作所、ソニー、富士通、NEC、東芝などの企業と東京大学や大阪大学の研究者が高い値を示しており、大手電機電子企業と並んで大学研究者が初期の段階から重要な位置を占めていることが伺え、後になって公的機関も重要度を増してきている。米国では、1999年ではネットワークの規模は日本と比べて小さかったものの、2004年では参加者の規模、つながりのある相手の平均数ともに日本に近づいている。テキサス・インスツルメンツやIBMなどの大手電機電子メーカーとともに、標準技術研究所(NIST)や製造科学センター(NCMS)のような公的研究機関が重要な位置を占めている。欧州では、1999年の段階からネットワークは成長したものの、2004年でも日米と比べて規模は小さい。2004年においては、フィリップスやジーメンスなどの大企業よりも重要な位置を占めている大きい大学も多くなっている反面、ネットワーク内では企業参加者と大学参加者がお互いにほぼ明確に離れた領域を形成している。

科学論文に関するネットワーク分析から得られた知見には、以下のことが挙げられる。ネットワークに含まれるノードの数に関しては、日米欧で大きな違いは見られず、鉛フリーはんだに関する科学論文を書いている組織の数は各地域であまり変わらないことが分かる。研究開発プロジェクトと比較してみると、科学論文ネットワークに参加している大学の数はかなり多くなっている。日本では、1999年の時点からネットワークにおけるノードの集中化が見られ、2004年では最大コンポーネントに含まれるノードが全体の半分以上を占めていることから、比較的早い段階から科学論文の共著者間でのつながりが固まりを形成するようになっていたことが伺える。大学と企業からネットワークに参加している組織の数はほぼ同じ程度である一方、公的機関と並んで大学が比較的重要な位置にある。米国においては、当初ネットワーク構造は分散していたが、その後は日本と同様に共著者ネットワークが大きな塊を形成するようになった。2004年の段階では、公的機関がネットワークの上でより重要な位置を占めるようになっている。欧州では、1999年から2004年にかけて、ネットワークに含まれる組織の数自体は日本とそれほど違わないものの、2004年段階におけるネットワークの構造は、日米と比較してかなり分散化されたものとなっている。

こうした研究開発活動の結果として、鉛フリーはんだに関する米国特許の出願を見てみると、1980年代末までは関連する特許の出願は極めて少ない。1990年代に入って米国からの特許の出願が一時的に増えたものの、その後減少している。一方、日本からの特許出願は1990年代中ごろから着実に伸びており、その後を追うように、米国からの特許も再び増加する傾向が見られる。欧州に関しては、特許出願は低い水準にとどまっていて、上昇の兆しは見られない。また、電機電子機器における鉛フリーはんだの実用化に関しては、松下電器産業が1998年に世界で初めてMDプレーヤーで使用され、他の日本の大手メーカーも1990年代末ごろまでには製品化を始めている。一方、欧米の電機電子機器に関しては、実用化の時期が日本より遅れ、また実用化された製品の範囲も限られている。

研究のまとめ

ネットワーク分析による知見に関係者へのインタビューを通じて得られた情報も総合すると、産学官連携ネットワークを通じた鉛フリーはんだの開発に関して以下のような状況が示唆される。鉛含有はんだに関する環境規制の導入の動きはアメリカで始まったが、鉛フリーはんだの開発への取り組みにおいて、欧米に比べて日本では早い段階から、大学の研究者が産学官を含めたネットワークの形成に当たって重要な役割を果たした。大学研究者の主導で組織された研究開発プロジェクトを通じて、技術開発に関するロードマップを作成し、鉛フリーはんだの特性やその評価手法に関する共通の尺度を構築することによって、研究者、製造者、利用者の間で認識を統一し、情報・知識の共有が進んだ。共通して使用できる鉛フリーはんだの種類を同定することで標準化が進められ、日本における鉛フリーはんだの実用化が促進された。米国に関しては、日本より鉛フリーはんだ開発に関する産学官連携が遅れたものの、その後は急速にネットワークの形成が進められおり、その中では大手企業と並んで公的研究機関が重要な役割を果たしている。欧州については、現在でも日米に比べて産学官連携ネットワークの形成が遅れており、特に大学と民間企業が互いにほぼ離れた形でネットワークを形成している状況である。環境問題のように社会的意義のある領域に関して、大学の研究者が比較的中立的な立場から産学官連携ネットワークを形成し、科学技術的な側面の評価と標準化を進めたことは、イノベーションを創出する上で極めて重要であったと考えられる。米国及び欧州においては、大学研究者のこうした機能が十分に顕在化されなかったため、産学官連携ネットワークの形成が遅れ、イノベーションを早期の実現を妨げた可能性が考えられる。

研究からの示唆と今後の課題

これまでナショナル・イノベーション・システムを分析するにあたっては、具体的な方法論が確立しておらず、実証研究を行うことが容易ではなかったが、ネットワーク分析を活用することによって、新たな方法論を提供すること可能性が示された。同一の分析手法を他地域における実際のデータに応用することで、社会的・文化的に異なる条件で研究開発ネットワークの形成メカニズムとその構造がどう異なるのか、モデルの形成とその検証へ展開することが考えられる。研究開発ネットワークが国内にとどまらず、国際的な相互作用を通じて変遷する可能性も検討することも考えられる。さらに、鉛フリーはんだ以外の他の個別産業分野・技術分野に対象を広げ、その比較分析を行うとともに、産学官連携に関するより大規模データベースを活用し、マクロ・レベルでの包括的な分析も可能である。このように産学官ネットワークの構造・機能・進化に関してさらに詳細な定量分析を行い、産学官連携ネットワークと知識内容・生産構造との関係に関する仮説の洗練化とモデルの一般化を進める必要がある。また、産学官連携ネットワークの構造・進化の観点から、新しい技術の標準化・認証に関わる制度、社会的意義のある技術分野における大学・公的機関の機能、知的財産権の管理・活用などをどのように確立していく必要があるのか、政策立案・制度設計を検討していくことも必要である。

(謝辞:本Discussion Paperをまとめるにあたって、科学技術政策研究所第2研究グループ客員総括研究官の近藤正幸教授から貴重なコメントをいただいた。記して感謝申し上げる。)

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ノートのアイコンⅡ. トピックス

気軽に科学を語り合う〜サイエンスラウンジ開催報告〜

第2調査研究グループ

文部科学省ビルが丸の内の仮庁舎に移って、3回目の春を迎えた。

昨年から、その好立地を活かして、文部科学省主催の科学技術週間イベントが丸ビルで行われるようになった。今年も、丸ビル1階のオープンスペースには、移動式のプラネタリウムであるメガスターが設置された。高層ビルに囲まれた東京の只中で、数百万の星に埋め尽くされた星空を眺めるという貴重な体験を、1週間のあいだに数千人もの人々が堪能したのだった。

週末には、丸ビルでの科学技術週間イベントのもう一つの目玉であるサイエンスラウンジが開催された。第2調査研究グループも、その企画・運営に全面的に協力した。ここでは、その概要を報告したい。

サイエンスラウンジが開催されたのは、メガスターの向かいに位置するカフェ・イーズ。ソフトドリンクやビール、ワインを片手に、一般の人々が、科学技術の一線で活躍する人たちの話に気軽に耳を傾け、思いをめぐらせ、さらには自由に語り合えるような場を生み出したいとの思いから、今回のサイエンスラウンジは企画された。

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メガスターの開発者大平貴之氏とテレビキャスター黒山ひろ美氏

第一夜「メガスターナイト」

初日のゲストは、メガスターの開発者である大平貴之氏と、テレビキャスターでベリーダンサーでもある黒山ひろ美氏。黒山氏を聞き役に、大平氏はビールを飲みながら、青春時代の思い出から、メガスター開発までに至る経緯、そして開発後の苦労を、ときにユーモアを交えながら語っていった。

「メガスターがヒットしてよかったことは?」との問いかけに、「食べたいものが自由に食べられるようになった」と答える大平氏。サラリーマン時代には、プラネタリウム作りに必要なネジ代を捻出するため、食べたい料理を我慢してバナナ2本ですごしたこともあるという。また、メガスターを開発し、各地で上演されるようになってからは、仕事中にもメガスター不調の連絡があると、そのたびに親族(メガスター)の事故や肋骨・手足などの不調を訴えて仕事を抜け出し、現場に向かったという。そして、職場にも、メガスターの公演者にも迷惑をかけることになるからと、会社を辞め、フリーとなった3年前。

波乱万丈のこれまでの人生を語るなかにも、大平氏の宇宙への熱い想いと、その魅力的な横顔が伝わってくる。大平氏のトークに刺激されて、「プラネタリウムにあう音楽は?」といった質問をはじめ、会場からもさまざまな発言が飛び出す。

宇宙とプラネタリウムに思いをめぐらせ、メガスターの開発をめぐる人間ドラマに魅了されているうちに、あっという間に金曜夜の「メガスターナイト」は幕を降ろした。

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茂木健一郎氏とサイエンスライター竹内薫氏

第二夜「科学は仮想か!?」

サイエンスラウンジ2日目、土曜の夕方は、「クオリア」概念を切り口に意識の謎に切り込み、メディアでも大活躍中の茂木健一郎氏と、『99.9%は仮説』(光文社新書)がベストセラーを邁進中のサイエンスライター竹内薫氏によるトーク。東大物理学科での大学院生時代に同級生だったという二人は、互いに「薫」、「茂木」と呼び合いながら、軽快なトークで科学をめぐる既成観念を突き崩していく。

「日本がダメなのは…」と切り出す茂木氏。「大学とか組織に属さないと研究できないと思っているところ。」ケンブリッジでの研究生活を振り返り、大学に正規に所属していなくても、セミナーに出席するなど、ごく自然にキャンパスのなかで研究活動を行っていた人たちがいたことを紹介する。そして、変人科学者が一目置かれる熟成した社会を日本も目指すべきだなどというユニークな意見が飛び交った。

ジャズピアニスト山下洋輔のエピソードなども交えながら、「変人」でいられる社会、いいかえれば、過度に他人の目を気にすることなく、やりたいことを追求できるような社会が、科学研究の未来のためにも社会にとっても必要だということで、2人の意見は一致した。その後、家族から「変わり者」といわれ続けてきたという参加者からの発言が飛び出したり、科学の社会への貢献のあり方や科学におけるロマンなどの多彩な話題をめぐって、自由な議論が繰り広げられた。

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サイエンスナビゲーター桜井進氏

第三夜「数学に魅せられた人たち」

3日間のイベントを締めくくる最終日には、これまでとは少し趣向を変えて、π(パイ)をめぐるダイナミックなサイエンスショーが、サイエンスナビゲーターの桜井進氏によって繰り広げられた。

音楽と映像を駆使しながら、πをめぐる人間ドラマ、そしてπをとりまく無限の可能性とその不思議な魅力を浮き彫りにしていく桜井氏。参加者たちは、自然と、桜井ワールドに飲み込まれていく。

円の直径と周囲の長さの比という、一見、きわめて明快にも見える数値が、数千年にわたって、数知れぬ数学者たちを魅了してきた。「πを3.14ではなく、3にしようという動きがありましたが、そのような試みは、円を六角形にしてしまうものです。周の長さが直径の3倍の多角形といえば、六角形だからです。」説得的でダイナミックな桜井氏の語りの魅力は、そんな一言にも凝縮されている。そして、πのより精確な値を求めようと奮闘してきた数学者たちの姿が、描き出されていく。きわめてエレガントな計算式を導き出そうと奮闘した、ライプニッツやオイラー。インド出身の天才数学者ラマヌジャンの、きわめて感動的で、しかしきわめて不遇な生涯。

それらのエピソードを目の当たりにするなかで、参加者たちは、無理数でありさらに超越数であるという、πの持つ不思議な性質へと引き込まれていく。会場の女子生徒からは、πのほかに超越数はどれくらいあるのかという質問があがる。そして、自然界のほとんどの数が超越数だという櫻井氏からのコメントに驚きを隠せない表情をみせる。

また、数学者たちが追い求める数学の「美しさ」とは、具体的にはどのようなものなのかという参加者からの問いかけに、逆に桜井氏から、女性が追い求める「美しさ」の条件を問いかける場面も印象的だった。

科学技術と市民への新しいアプローチ

今回の3日間にわたるサイエンスラウンジの特徴は、なによりも、丸ビル1階のカフェという絶好の立地条件で行われたことにあるだろう。平日には近所のオフィスで働く人々が、また週末には、ショッピングや安らぎを求めて丸の内に訪れる人たちが行き交う丸ビル。そして、友人と語り合ったり、疲れた足を休めるのにふらっと立ち寄るカフェというスペース。そのような空間を活用し、テーマにふと興味をもった人たちが気軽に参加でき、肩肘張らずに科学技術について語り合えるような場を作り出そうという意図のもとで、今回のイベントは実施された。

これまで科学技術関係の取り組みといえば、科学技術に強い関心を抱いている人たちが、研究者の講演をかしこまって拝聴したり、あるいは、科学館や博物館、大学・研究所公開などにわざわざ赴くというのが、一般的なスタイルだった。

しかし、第3期科学技術基本計画において、科学技術関係予算に5年間で25兆円の公費投入が謳われ、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」という姿勢が掲げられたように、科学技術に強い関心をもつ人々のみならず、これまでとりたてて科学技術の動向に関心を抱いてこなかった人々も含めて、科学技術は社会の広範な人々の支持を得る必要がある。そして、科学技術をめぐる話題が普段の会話のなかに入り込み、政治や経済、文化、芸術が語られるのと同じように、日常的に語られるようになっていくことが欠かせない。そのためには、旧来のスタイルでは振り向かなかった多くの人々に関心を喚起するような、新しいアプローチが求められている。

サイエンスラウンジという試み

その際、科学技術の現場で第一線で活躍する人々と、一般の人々が、気軽に語り合えるような場を作っていくことが、一つの打開策となるだろう。今年の科学技術週間に、学術会議が各地の団体と協力して全国21箇所で開催したサイエンスカフェも、そのような取り組みの一つとして位置づけられる。サイエンスラウンジは、全国的に展開されたそれらサイエンスカフェの取り組みと連動しながら、他方で、サイエンスショーという、エンターテイメントとして科学を楽しむという可能性も組み込むことで、「魅せる」科学というコンセプトも盛り込んで企画されたのだった。

写真: 5

実際、今回のサイエンスラウンジでは、普段、科学館や博物館に行ったり、あるいは講演会や大学・研究所の一般公開に積極的に参加したりはしていない人々が、参加者の半数近くを占めた。また、科学技術への興味関心の低下が顕著だとされる20代・30代の参加者が、7割近くを占めたことも際立っている。さらに、参加者のほぼ7割が女性であったことは特筆すべきだろう。プラネタリウムという、女性が比較的関心を持ちやすいと思われるテーマを取り上げた初日のみならず、数学を題材にした最終日についても、参加者の7割以上が女性であった。また、バックグランドが文系である参加者が半分以上を占めていたことも、大きな特徴だろう。

参加者の満足度も、きわめて高かった。「とても満足」と回答した参加者が全体の半数以上、「満足」、「ちょっと満足」との回答も含めれば9割が満足感を示していた。参加者からの自由な発言を促すための仕掛けとしては、まだ改善の余地があるとはいえ、サイエンスラウンジのような取り組みをさらに発展させていくことの必要性を実感させられる。

サイエンスラウンジは、ゲストと参加者との対話を重視し、うちとけた雰囲気での会話をはぐくむために、参加者を少数に限定して行われた(毎回の定員は40名だった)。そのため、参加を希望しながらも断念せざるをえなかった人々も少なくない。また、参加者へのアンケートでも、「また企画してほしい」との声も多かった。そのような人々の期待にこたえるためにも、今回の取り組みに限定されず、普通の人々が、科学者・研究者と出会い、科学技術について語り合うなかで、ともに科学技術を育んでいくような多様な試みが、全国各地で広がっていくことが期待される。

写真: 6 写真: 7

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時計のアイコンⅢ. 最近の動き

○人事往来
・5/1 第3調査研究グループ 渡邊 康正 配置換(研究開発局海洋地球課地球・環境科学
  総括上席研究官   技術推進室長)

(訂正:前号4/1付人事往来で第2調査研究グループ総括上席研究官 桑原 輝隆 併任(総務研究官)とありましたが、正しくは第3調査研究グループ総括上席研究官の併任(4/1〜4/30)でした。)

○組織変更

4月1日付で情報分析課を改組し、科学技術に関する基礎的な事項の調査研究のうち基盤的なものも加えて担当する科学技術基盤調査研究室が発足しました。

○「ナイスステップな研究者展」

4月17日(月)〜5月7日(日)に、国立科学博物館新館2階入り口通路において、当研究所が平成17年度に選定した「ナイスステップな研究者」の業績を展示紹介。

○科学技術週間 丸ビルイベント「サイエンスラウンジ」

4月22日(土)に、丸ビル1階カフェ・イーズにおいて、茂木健一郎氏を招待して、トークショー「科学サロン」を開催。

○ドイツ連邦議会議員ハインツ・リーゼンフーバー氏の訪問

4月21日に、ドイツの連邦議会議員であるハインツ・リーゼンフーバー氏が当研究所を訪問された。

リーゼンフーバー氏は1982年から1993年まで11年間ドイツ連邦研究技術大臣であり、連邦議会 経済技術委員会のメンバー、連邦議会教育研究技術アセスメント委員会の準メンバーでもあること から経済的視点にご関心が高い。

今回、三極委員会総会への出席のため来日し、このたびの当研究所へのご訪問が実現した。 当研究所訪問に先立ち文部科学省も訪問されており、河本文部科学副大臣と意見交換を行った。

会談では、2006年4月にスタートした第3期科学技術基本計画の特徴などについて説明を行い、リーゼンフーバー氏からもさまざまな質問がなされ、全体としても活発な意見交換が行われた。

○新着研究報告・資料
科学技術動向 2006年4月号」(4月28日発行)
  レポート1 廃棄物不法投棄による汚染の修復と技術
客員研究官 川本 克也、環境・エネルギーユニット 浦島 邦子
  レポート2 微小重力利用の研究動向 - 宇宙環境と地上環境での研究の競争と協調 -
推進分野ユニット 辻野 照久
日本における21世紀のイノベーションシステム:変化の10年間の教訓 (調査資料 No.121)
優れた成果をあげた研究活動の特性:トップリサーチャーから見た科学技術政策の効果と研究開発水準に関する調査報告書(調査資料No.122)
中国における科学技術活動と日中共著関係(調査資料No.123)
University-Industry Collaboration Networks for the Creation of Innovation : A Comparative Analysis of the Development of Lead-Free Solders in Japan, Europe and the United States (Discussion Paper No.41)
蔦
ふくろう
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 企画課 news@nistep.go.jp)

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