政策研ニュース No.208

1/10-11 国際共同シンポジウム「日米における 21 世紀のイノベーションシステム: 変化の 10 年間の教訓」
1/10-11 国際共同シンポジウム
「日米における 21 世紀のイノベーションシステム: 変化の 10 年間の教訓」
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目次

  1. Ⅰ. トピックス
  2. Ⅱ. 最近の動き

クリップのアイコンⅠ. トピックス

「生命倫理の井戸端会議」 - 第 12 回ユネスコ国際生命倫理委員会において -

元第2調査研究グループ主任研究官 牧山 康志

写真: 牧山 康志

2005 年 12 月 15 〜 17 日の 3 日間にわたり、東京の上智大学キャンパスにおいて第 12 回ユネスコ国際生命倫理委員会 (IBC: International Bioethics Committee) 総会が開催された。同総会は、ユネスコとして生命倫理に関わる課題を討議し、宣言等を発している IBC の世界 36 カ国 36 名から構成される委員と一般参加者とが一堂に会し、開かれた議論を交わす会議である。年 1 回、本部のあるフランス (パリ) あるいは加盟国の一都市で開かれている。これまでのフランス以外の開催地としては、オランダ、モロッコ、エクアドル、カナダなどがある。今回は、ユネスコと文部科学省の主催で、文部科学省振興調整費研究として実質的な会議事務を上智大学 (代表: 町野朔教授) が中心となって担当し、同大学キャンパスでの開催となった。会議は、松浦ユネスコ事務局長、ジャン IBC 委員長 (カナダ) など IBC 関係者らに加えて、わが国からは皇太子殿下を始め、小坂文部科学大臣、石澤上智大学長、薬師寺総合科学技術会議議員らを開会式に迎えて、300 名を越える参加登録者という盛況の中、3 日間で 5 つのセッションがもたれた。

ユネスコ IBC は、非公式の会合としてスタートした後、1993 年 11 月の第 27 回ユネスコ総会において公式の諮問機関として発足した。個人資格の有識者の委員からなる IBC (わが国からは現在、森崎隆幸国立循環器病センター研究所バイオサイエンス部長が参加) と、各国代表者からなる政府間会合 (IGBC) との 2 本立てで、生命倫理に関わる宣言等の策定を行っている。これまでに、「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」、「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」などの宣言の草案作りに携わっており、今回の会議は「生命倫理及び人権に関する世界宣言 (Universal Declaration on Bioethics and Human Rights)」が 2005 年 10 月にユネスコ総会にて採択されたのを受けて、同宣言について討議する最初の IBC 総会ということになった。

今回の会議で取り上げられた課題は「生命倫理の世界宣言をめぐって―次の課題」、「UNESCO 生命倫理宣言と文化の多元性―宗教・文化・民族と生命倫理規範」、「インフォームドコンセント」、「社会の責任としての公衆衛生とヘルスケア」、「生命倫理の今日的問題と生命倫理の国際性―生命倫理のアジア的パラダイム」と多岐にわたり、特にアジアにおける多様な社会・文化・経済状況が生む一元的規範の困難さなども話題に上り、討議時間を長くとったプログラムも効を奏して、活発な討議が行われた。

われわれ第2調査研究グループは、同 IBC 総会企画段階でユネスコ事務局から筆者にあった非公式の依頼に応じる形で、会場の一画に「生命倫理の井戸端会議」と題するブースを出展した。

現在、生命を操作する技術が進歩したことで、生命倫理上の様々な問題が生じていることは周知のとおりである。そうした問題の解決のためには、社会における開かれた議論とそれを基盤にする意思決定が不可欠である。社会におけるそうした議論活性化の一環として、いわゆる専門家も一般の人も世間話に近い形で語り合える場を設定する必要があると考えられる。そのような、日常生活の中に溶け込んだ対話の姿として思い浮かぶ言葉が、「井戸端会議」である。

かつて、長屋の人々が、うわさ話や世間話に花を咲かせた感覚で、生命倫理や科学の話ができるような環境を作れば、そこでの話題は口コミで広がり、やがて広く共有されて、社会に根ざした伝統や文化に融合して行くかもしれない。また、難しいテーマも、とにかく気楽に話し合ってみる、これが、科学コミュニケーションの出発点であるともいえる。その意味で、この井戸端会議"Idobata Dialogue"の精神を広く発信することが、科学技術コミュニケーションの新たな展開につながることが期待されるのではないかと考え、今回の企画を試みた。

「生命倫理の井戸端会議」における展示は、「ヒト胚をめぐる問題」(ヒト受精胚を研究利用することに対する賛否両論の存在) や、「日本で臓器移植を円滑に実現できない状況」(年間 5 例ほどのわが国の脳死臓器提供の実情は、社会の仕組みの様々な不整合の表れとも考えられる) などの生命倫理問題や、それらの問題への対応策として筆者らが提案する社会制度、さらには当研究所科学技術動向研究センターが取りまとめている「第 8 回科学技術予測の結果」(将来科学技術がいつの時点で社会に適用されるかを、専門家に対するデルファイ調査の結果として示したもので、例えば「家庭に一台、掃除、洗濯などを行う『お手伝いロボット』が一般化する (2023 年)」など) 等をパネルにして、話題提供を行い、それらを素材に来訪者に井戸端会議風の自由な対話や議論をしてもらうことを意図した企画である。

展示会場には、日本大学芸術学研究科・芸術学部 (木村政司教授ならびに学生の方々) の協力により実際に井戸の模型や障子をモチーフにした壁面を設置し、ブース全体のアレンジが会場の雰囲気を盛り上げた (写真参照)。ブースでは、NISTEP 担当者も加わって対話に花を咲かせると同時に、来訪者がパネルの問いかけに応じて各自の意見をタックメモに書いて貼り付ける趣向となっており、人々の関心を惹くものとなった。

写真: 井戸を配したブースの景観
写真: 井戸を配したブースの景観

タックメモによって表出された意見を要約した事例を示すと、例えば、「社会は何を議論すべきかを多くの場合十分に理解しておらず、教育こそが重要な鍵となる」、科学技術と社会、政策立案の領域を仲介する機関 (中間的専門機関*) について、「仲介役自体が特権化し、誘導的に働く恐れがある。(それぞれのアクターは) 直にぶつかり合うことこそ必要ではないか」、技術予測について「技術的に可能であると予測できる時代での、予測しうる社会的影響への対応等はいつ検討するのか」など、30 を越える反応があり、日々展示の内容に新たな話題の要素が加わっていく面白みも、併せ持つことができた。

今後、こうしたブースを、駅や空港、あるいは学校、図書館などの誰もが行き来する公共空間に持ち出して展示することも有意義ではないか、という意見も聞かれた。また、国内外の研究者から、今後の情報交換を希望する声や資料や情報提供の要請などがあり、ユネスコも情報データベース GEO (Global Ethics Observatory) の構築を進めているように、将来に向け、関係者間での情報の発信や情報共有のための仲介が重要となっており、当所が果たす役割もさらに期待されていると感じられた。

*; 当所 HP "http://www.nistep.go.jp/index-j.html" 調査研究成果 DP33、PS10、PS11 などを参照.

筆者プロフィール: 平成 14 年 4 月 1 日より、18 年 1 月 31 日まで第2調査研究グループ主任研究官。科学技術の社会的ガバナンス制度の構築のための調査研究を行っている。今までに「ヒト胚」(DP33)、「臓器移植」(PS10)、を事例として、あるいは「英国のヒト胚管理制度」(科学技術動向 月報 2003 年 3 月) など海外事例の検討について、報告を行ってきた。
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樹木

国際共同シンポジウム「日米における 21 世紀のイノベーションシステム: 変化の 10 年間の教訓」開催報告

第2研究グループ主任研究官 鎗目 雅


科学技術政策研究所は、全米アカデミー科学技術経済政策理事会、一橋大学イノベーション研究センターとの共催により、1 月 10 日 (火) から 11 日 (水) にかけて、三田共用会議所で国際共同シンポジウム「日米における 21 世紀のイノベーションシステム: 変化の 10 年間の教訓」を開催した。イノベーションは 21 世紀における経済成長の主たる原動力であり、日米両国はそれぞれのイノベーション能力を強化する為、研究開発投資、産学連携、知的財産保護、スタートアップ企業などに関して、過去 10 年間に亘り様々な改革と新規政策の導入を行ってきた。この国際シンポジウムは、これらの分野における日米の経験と教訓を共有し、 21 世紀のイノベーションの在り方について方向性を得ることを目的として開催された。日米の各分野の代表的な研究者に加えて、政府・大学・産業界から約 250 人が参加し、パネルⅠからパネルⅦに分かれて両国からの発表があり、活発な討議・質疑応答が行われた。


第 1 日目は、科学技術政策研究所の小中元秀所長による開会の辞に続いて、日米両国からイノベーションシステムの発展と挑戦に関する基調講演があった。米国下院で小企業委員会委員長を務めるドナルド・マンズーロ議員は、米国は現在、規制や税金によるビジネス・コストの上昇、短期的利益の追求による R&D 投資の低下、科学技術を学ぶ学生数の減少、製造業の海外流出などの課題に直面しているが、まずこうした状況を認識することが解決の第一歩であり、そのために議会や政府が動き出しつつあるという報告があった。総合科学技術会議の薬師寺泰蔵議員は、科学技術と社会規範の関係から、優良イミテーターが外生技術を接ぎ木することによるエミュレーションを通じて各国のイノベーションシステムが変遷していくと論じ、日本は第 3 期科学技術基本計画の下で社会制度改革を進めて、安全で夢のある科学技術を目指すことが重要であると指摘した。


パネルⅠは、マサチューセッツ工科大学のアリス・アムスデン教授をモデレーターとして、「企業 R&D 支援における政府の役割の展開: 米国と日本のモデル」をテーマに行われた。東京大学先端科学技術研究センターの後藤晃教授と元橋一之助教授は、豊富なデータを使って 1990 年以降の日本経済とイノベーションシステムを概観し、科学技術基本計画と総合科学技術会議の重要性が増して、政府資金の増加と産学連携の推進が行われたが、基礎科学と市場経済が重視される中で、従来の産業政策をイノベーションへ向けて再定義する必要性を指摘した。米国国立標準技術研究所 (NIST) 先進技術プログラム (ATP) 経済評価室ディレクターのステファニー・シップ氏からは、1990 年以来 ATP は米国企業による初期段階の技術開発に資金援助を行っているが、ピア・レビューによるプロジェクト選定、定期的なマネジメント、厳しい評価を通じて、リスクの高いイノベーションを生み出すことに貢献し、また産学官連携を促進していることが報告された。ディスカッサントの東北大学未来科学技術共同研究センター長の中島一郎教授は、経済における新産業の登場などの構造変化に対応して、日米両国ではサイエンス型 R&D、産学連携、地域クラスター、中小企業に注目し、基本計画、ロードマップ、プロジェクト・マネジメントなどで新しい取り組みが行われていることを指摘した。


写真: 国際共同シンポジウム

パネルⅡは、ゼネラル・エレクトリック (GE) 元 R&D 担当上席副社長のロニー・エーデルハイト氏をモデレーターとして、「政府 - 産業間 R&D 協力: 日米の実験」をテーマに行われた。東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授で一橋大学イノベーション研究センター客員教授の藤村修三氏と、一橋大学イノベーション研究センター教授で科学技術政策研究所客員総括主任研究官の中馬宏之氏は、日本で過去 10 年間に組織された数多くの半導体コンソーシアムの経験を振り返り、デバイス・材料・装置メーカー間の協力が少なく、新しい技術に対する R&D マネジメントが適切でないため、急激に複雑化しつつある半導体製造に効果的に対応できていないと指摘した。テキサス大学オースチン校リンドン・B・ジョンソン公共政策スクールのディーン・ラスク国際関係講座長のケネス・フラム教授は、SEMATECH や国際半導体技術ロードマップ (ISTR) を通じた国際 R&D 連携は、米国外の強みも取り込むことで、製造コストの減少と性能の改善に貢献してきたが、現在は技術的な壁につき当たっており、その解決にはソフトウェアへの投資が重要であると指摘した。ディスカッサントの独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の本城薫理事からは、NEDO は産業界、大学、公的研究機関の間の協力によって R&D プロジェクトを実施しているが、プロジェクトの選択と集中、技術戦略マップの策定、異なるプロジェクト間の連携、垂直連携体制の構築、プロジェクト・リーダーの権限の強化などを通じて、その成果を効果的に実用化・産業化に結びつける努力をしているという報告があった。


パネルⅢは、合衆国下院小企業委員会のブラッドレイ・ノックス氏をモデレーターとして、「スタートアップ企業と中小企業によるイノベーション促進のための政府プログラム」をテーマとして行われた。全米アカデミー科学技術経済政策委員会のチャールズ・ウェスナー氏は、米国にとって中小企業によるイノベーションは極めて重要であるが、市場におけるベンチャー・キャピタルからの技術開発の初期段階への投資は限られており、企業側からのプロポーザルに対する政府からの小企業イノベーション研究 (SBIR) プログラムや先進技術プログラム (ATP) を通じた資金援助は大きな役割を担っていると報告した。東洋大学経済学部の安田武彦教授は、1990 年代に入ってから日本における起業家活動は停滞しており、その解消のため有限責任会社に必要な最低資本金の撤廃、起業家精神の教育、担保なしの資金援助などの政策が導入されたが、それらに関する情報が広く知られるためには過去にスタートアップの経験がある人材を有効に活用する必要があると指摘した。ディスカッサントのザインエレクトロニクス株式会社の飯塚哲哉社長は、自らのファブレス半導体企業のスタートアップの経験に基づいた報告をし、米国と比較して環境が整っていない日本においても有力スタートアップ企業の成長力は大手企業よりも高くなっており、その促進には単なる補助金の供給ではなく、リスクを取った投資が最も効果的であると指摘した。


パネルⅣは、世界知的所有権機関 (WIPO) 前事務局次長で東京大学先端科学技術研究センター客員教授の植村昭三氏をモデレーターとして、「知的財産とイノベーションシステムの相互作用」をテーマに行われた。カリフォルニア大学バークレー校のブロンウィン・ホール教授は、特許は R&D 活動へのインセンティブを与える一方、短期的には独占を与えることによって競争上悪影響を持っているという伝統的な見方に対して、特許はイノベーションに関わるコストを上昇させる反面、知識集約型産業において新しい小企業の参入を促すという最近の考え方を紹介した上で、1980 年以降の特許システムの拡大・強化は特許出願・取得数を増加させたものの、質の低下や取引費用の増加を招いたなどの批判があり、現在議会でその改革が議論されている最中であると報告した。一橋大学イノベーション研究センター長の長岡貞男教授は、日米の特許システムが直面する課題として、特許出願の増加や特許の複雑性の上昇、質の高い特許への要求の下での効率的な特許審査、公開された特許情報の研究開発における効率的な活用、標準設定や累積的な技術分野で顕著な特許の茂み問題を挙げ、政策的対応として、日米欧での検索・審査結果の相互認証、標準化団体による特許の管理などが重要であると指摘した。ディスカッサントの元ゼロックス、ペンシルベニア大学ウォートン・ビジネススクール客員教授のマーク・マイアーズ氏は、上記の問題に加えて、発明と特許に対するインセンティブの相違、バイオテクノロジー特許の境界、特許制度の調和化、開発途上国の問題、科学研究活動の免除、オープンソース・ソフトウェアの問題などを指摘した。


写真: 国際共同シンポジウム

パネルⅤは、東京大学先端科学技術研究センターの渡部俊也教授をモデレーターとして、「産学連携」をテーマに行われた。 ペンシルバニア州立大学名誉教授で米国科学振興協会上席客員サイエンティストであるアーウィン・フェラー氏は、米国では産学連携が深まるにつれて、大学側の認識・行動が変わりつつあり、ロイヤルティーや一時金の代わりに株式を受け取ることや、萌芽的な技術のより下流領域への投資、経済的に大きなリターンを生む確率が低いことに対するリスク管理戦略などが行われるようになったが、一方で、独立して中立的な科学技術知識の供給源としての大学の役割の衰退、個人と機関の間の利益相反、知識の流通ひいては科学発見・技術進歩を妨げる「反共有地」の拡大など、公共的な利益が損なわれる可能性があることを指摘した。 科学技術政策研究所客員総括主任研究官で横浜国立大学大学院の近藤正幸教授は、日本における産学連携の歴史的変遷を振り返り、世界で始めて総合大学に工学部ができるなど日本の大学は当初から応用志向が強く、また代表的な研究機関であった理研は大きな産業グループを率いていたことを報告し、現在は共同研究による知識の共同生産や、TLO・知財本部によるライセンスを通じた知識の移転、大学からのスピン・オフを通じた知識に基づくスタートアップが国・地域レベルでのイノベーションシステムで重要な役割を果たす一方、大学のアイデンティティの維持、利益相反に関する規則の確立、研究ツール特許の取り扱いを課題として指摘した。 ディスカッサントのイーライリリー科学担当副社長のゲイル・カッセル氏は、現在大学機関・研究者がバイオテクノロジーのスタートアップ企業の株式を取得するなど、産学官で人材、金銭、法律の側面で複雑な関係が形成されつつあるが、それは大学の研究者に資金を提供し、また産業に最先端の知識へのアクセスを可能にするなど利点がある一方で、科学研究における秘密主義、研究結果のバイアス、教育への悪影響、金銭的な利益相反などリスクも存在し、産学官連携のバランスを取る必要があると指摘した。 米国下院科学委員会民主党チーフスタッフのジェームズ・ターナー氏は、大学はトップ企業と関係を結ぶための競争の下では、特許などで柔軟な対応ができない場合には優秀な研究者や学生を失う可能性があり、また大企業は研究のアイデアに関するジャスト・イン・タイムのサプライヤーを必要としているため、やがて大学や公的研究機関も企業のサプライ・チェーンに組み込まれる可能性がある一方、大学側もシックス・シグマなど産業界のベスト・プラクティスから学ぶべきことが多いと指摘した。


パネルⅥは、独立行政法人科学技術振興機構 (JST) 研究開発戦略センターの永野博上席フェローをモデレーターとして、「大学における研究への政府の支援」をテーマとして行われた。 ジョセフ・リーバーマン米国上院議員オフィスの立法ディレクターでチーフスタッフであるウィリアム・ボンヴィリアン氏は、イノベーションを生み出す要因として、R&D と人材に加えて組織が重要であり、過去の成功事例に共通しているのは、協力的で非階層的かつ民主的な環境でラディカルなイノベーションを目的に研究を行っていることで、こうした基礎研究から開発、プロトタイピング、製造初期まで連結したモデルは DARPA でも採用されてきたが、近年 DARPA がそのモデルからシフトしつつある一方、エネルギー省や NIH など他の機関で同様の組織の採用が進められていると報告した。 東京工業大学統合研究院の下田隆二教授は、科学技術基本計画は政府による大学への研究資金を増加させ、その研究環境を改善することに貢献する一方、大学の法人化はかつてないほど運営上の自由を与えたと高く評価し、現在の課題として、大学研究の多様性、資金提供機関及び大学による競争的資金の管理、大学の開放性、産学連携・知的財産権の重要性を指摘した。 ディスカッサントの SEMATECH 元会長で全米アカデミー科学技術経済政策委員会のウィリアム・スペンサー氏は、1980 年代以降企業の基礎研究部門が縮小する中で、好奇心に基づく研究分野のみではなく、現実の問題を解くために原理的な研究が必要となる分野においても大学の役割が大きくなっており、最近は企業がキャンパス内に研究所を設けるなど産学連携に大きな変化が起きているが、そうした状況でも大学は基礎研究と教育を最重視し、その文化を守ることが重要であると指摘した。


パネルⅦは、ウィリアム・ボンヴィリアン氏をモデレーターとして、「産学官連携: バイオテクノロジーの挑戦」をテーマとして行われた。ゲイル・カッセル氏は、現在医薬品産業では、研究開発費用が増大する一方で新薬の発見・開発はますます困難になり、研究開発の生産性が低下しつつある中で、産学官連携による効果は特に感染症対策などの分野で非常に大きいと考えられるが、一方で利益相反を最小限にしながらそれぞれの役割・能力を有効に活用し、リスクを共有していくことが課題であると指摘した。一橋大学大学院経済学研究科の岡田羊祐助教授は、過去 10 年間に導入された産学官連携推進策がバイオメディカル研究で重要な成果を生み出しているのかを探るため、詳細な特許分析を行った。大学と公的研究機関による特許出願は増加したものの、全般的にそうした特許の価値は企業によるものと比べて低いという結果を得たと報告する一方、これが本当に産学官連携が有効に行われた結果なのか、また研究者の流動性が低く、特許の保護が弱いという日本のイノベーションシステムにおいて、公的部門による特許出願を促進するのが本当に望ましいのか、さらに検討が必要であると指摘した。ディスカッサントの日本製薬工業協会知的財産部長で弁理士である長井省三氏は、大学―企業間の共同研究件数・共同研究費、大学の特許出願数で見ると日本でも産学連携は一応進んでいると言えるが、医薬品を保護する特許は原則物質特許一件であり、数百件の特許で製品を保護するエレクトロニクスなどとは大きく異なるため、ライフサイエンス分野における産学連携の評価は量ではなく質、具体的には臨床に入ることが出来たか否かで評価されるべきであり、また国際的な競争という観点から国内外の大学やベンチャー企業との連携が重要であると述べた。


最後に、ウィリアム・スペンサー氏と長岡貞男教授が最後の締め括りと所感を述べてシンポジウムを終了した。なお、シンポジウム 1 日目終了後には、レセプション・パーティーが開催され、白川哲久文部科学審議官に来賓ご挨拶を頂き、登壇者と一般参加者が交流を深めた。現在、本シンポジウムの報告書をまとめており、今後取りまとめ次第公表することになっている。また、全米アカデミープレスより、科学技術政策研究所及び全米アカデミーの共著として報告書を出版する方向で検討中である。

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樹木

ナイス ステップな研究者と小坂文部科学大臣との昼食懇談会について


科学技術政策研究所が選定した 2005 年に科学技術へ顕著な貢献を果たしたナイス ステップな研究者と小坂大臣との昼食懇談会が、1 月 17 日 (火) 、霞ヶ関ビルの東海大学校友会館にて開催されました。

今回選定された 12 名のうち 8 名が参加し、小坂大臣の他、吉野文部科学大臣政務官、林文部科学審議官、小中科学技術政策研究所長らが出席しました。懇談会では、最先端の科学技術研究についての話題から未来の研究者を育てる教育についての話題まで幅広く活発な意見交換が行われました。

小坂大臣は、「この選定によって、研究者には励みや自信をもって研究を進めてもらうとともに、広く国民に研究者の努力を知っていただき、科学技術の理解を深めて、理科好きの子供たちがたくさん増え、科学技術が日本の国力を支える大きな原動力になってほしいと思う。」と研究者を激励しました。

また、今回選ばれた研究者の取組みについては、東京上野の国立科学博物館内に、パネルとしてまとめて展示する予定となっています。


【昼食懇談会参加者】

写真: 昼食懇談会参加者

【昼食懇談会の様子】

写真左: 研究者を励ます小坂大臣 写真右: 少々緊張気味の研究者の皆さん 写真左: 研究者に質問する小中所長 写真右: 小坂大臣に研究報告書を手渡す林崎氏
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時計のアイコンⅡ. 最近の動き

○ 講演会・セミナー
・1/13 Prof. L.E. Scriven: ミネソタ大学化学工学・材料科学学部 Regents' Professor
"U.S. National Science Foundation's Engineering Research Center Scheme
  - Retrospective by a leading Participant -"
・1/18 陳向東: 北京航空航天大学教授 (経済管理学院副院長)
"Current Situation of Patent Application in China"
・1/19 樋口 美雄: 慶應義塾大学商学部教授
「少子高齢化が日本経済・地域社会に与える影響」
○ 「日中韓科学技術政策セミナー 2006」を開催
     1 月 23 日 (月) 、24 日 (火)、標記セミナーが三田共用会議所において開催された。
○ 第 3 回科学技術政策研究所機関評価委員会第 3 回会合を開催
     1 月 31 日 (火)、標記委員会 (委員長: 池上徹彦 会津大学長) の第 3 回会合が開催された。
○ 新着研究報告・資料
「科学技術動向 2006 年 1 月号」 (1 月 30 日発行)
レポート 1  光インターコネクション技術動向 -「京速計算機システム」への適用を目指して -
情報・通信ユニット 竹内 寛爾
レポート 2   無機材料研究におけるマテリアルインフォマティックスの動向
客員研究官 知京 豊裕
蔦
ふくろう
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 情報分析課 news@nistep.go.jp)

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