政策研ニュース No.207

写真: 12/16 ユネスコ国際生命倫理委員会総会懇親会において当研究所ブースの説明を受ける小坂文部科学大臣
12/16 ユネスコ国際生命倫理委員会総会懇親会において
当研究所ブースの説明を受ける小坂文部科学大臣
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目次

  1. Ⅰ. 年頭挨拶
    科学技術政策研究所長 小中 元秀
  2. Ⅱ. レポート紹介
  3. Ⅲ. トピックス
    • 科学技術への顕著な貢献 in 2005
  4. Ⅳ. 最近の動き

おもちのアイコンⅠ. 年頭挨拶

科学技術政策研究所長 小中 元秀

皆さん、明けましておめでとうございます。年末年始をゆったりとした気分でお過ごしになったことと存じます。


今年の干支は丙戌 (ひのえいぬ) ですが、情報通信分野で、ドッグイヤーという言葉があることをご存知でしょうか。犬の一年が人間の六〜七年に相当するので、物事の進み具合が早いことを喩えてこのように言います。確かに、情報通信の世界では、CPU の演算速度の速さ、ハード・ディスク、メモリーの容量などの開発速度がますます速くなっているように感じられます。また、スーパーコンピューターの開発では、10 ペタ・フロップス (浮動小数点演算を一秒間に 1 京回も実行するという速さ) という演算速度を持つコンピューターまで出現しようとしています。こんなに急いでどこに行くのかと心配になる時もありますが、今まで何か月もかかった科学技術計算が一日、一時間で出来てしまうわけですから、すばらしい進展というべきでしょう。純粋数学、システムバイオロジーなどへの多大な恩恵も期待されています。ほかにも計算機の設計思想が異なってはいますが、暗号解読に力を発揮する量子コンピューターの開発も急ピッチに進んでいます。情報通信分野につられて科学技術全体がドッグイヤーの速さで進んでいると言ってよいでしょう。

昨年、2005 年は偉大な物理学者アインシュタインの重要な三つの理論 (光電効果の理論、ブラウン運動の理論、特殊相対性理論) が発表されて百年が経ったことを記念した世界物理年でした。「日本におけるドイツ年」とも重なり、いろいろな催し、イベントが開催されました。昨年末からは特別展として「アインシュタイン日本見聞録」が今年の二月まで東京国際フォーラムで開催されています。

ちなみに、昨年は社会科学の分野でも記念すべき年でした。社会学者のマックス・ヴエーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という比較宗教学的手法で資本主義を分析した論文を発表して、百周年の年でもあったのです。この事実に関しては、あまり騒ぎにはなりませんでしたが、この論文が発表された意味あいは、人類社会にとっては、アインシュタインの論文と同じぐらい重要なことであったかと思います。その内容は、金儲けを敵視するピューリタニズムの倫理が逆に近代資本主義の発展に大きく寄与したというパラドックスを究明した画期的な論考なのです。文理融合が叫ばれています。ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終焉してからも十七年が経ちました。新しい年を迎えるにあたり、自然科学技術を専門とする方々にも、この論文に挑戦していただければと思います。

科学技術政策の重要課題としては、今年の四月から第 3 期科学技術基本計画が始まります。少子高齢化時代を踏まえた科学技術人材の確保、科学技術研究の重要なアウトカムとしてのイノベーションの推進などが今期基本計画の目玉となるとの議論がなされています。特に人材の確保は、団塊の世代が表舞台から退き始める 2007 年問題を来年に控えて、喫緊の課題であり、また長期的に議論すべき課題でもあります。それと同時に、基本計画に基づいて実施される科学技術政策達成状況調査の実施も求められています。科学技術政策研究所としては、従来のマクロ経済的、科学指標的アプローチだけでなく、社会学的、法律学的、人類学的アプローチなど社会科学的アプローチをも総合的に導入することで、現在当研究所に求められている諸課題の調査研究を行っていきたいと思っています。

平成十八年が皆さんにとって実りあるよき年でありますことを祈念しまして、年頭のご挨拶といたします。

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クリップのアイコンⅡ. レポート紹介

国立大学の産学連携:共同研究 (1983 年 - 2002 年) と受託研究 (1995 年 - 2002 年)
(調査資料-119)

第2研究グループ (中山、細野、福川、近藤)


本報告は、近年その重要性を増し、また、実際に活動も盛んになっている産学連携の実態を把握するため、全国立大学の民間等との共同研究 1) と受託研究 2) の個別案件ごとの詳細データを用いて実施した調査研究の成果である。共同研究については 1983 年度〜 2002 年度を、受託研究については 1995 年度〜 2002 年度を対象としている。

1. 共同研究と受託研究の全般的変遷

共同研究実施先の主体は企業であり、実施件数の 8 割以上を占める。他方、受託研究の委託元については企業の割合は 2 割程度であり、主役は約 8 割を占める公的機関である。

図 1 共同研究,受託研究の相手先

共同研究、受託研究の推移を見てみると、産学連携の活発な活動を反映して、共同研究、受託研究ともに契約件数、実施件数は増加傾向が続いている。共同研究は、1983 年度から 2002 年度までの 20 年間の間、契約件数、実施件数ともに前年度より減少したことは一度もなく、特に、1990 年代半ば以降の件数の増加はそれ以前に比べて著しい。受託研究も全体として増加基調である。2001 年度には一時的に落ち込みが見られるが、国立研究機関,特殊法人の再編の影響に起因すると考えられる。

(左)図2a 共同研究の相手先機関別件数の推移(右)図2b 受託研究の相手先機関別研究の推移

2. 国立大学から見た共同研究と受託研究

共同研究については、1980 年代においては企業が 90% 以上を占めていたが、1990 年代に入り公的機関からの共同研究件数の増加に伴ってその比率が 80% 弱となっている。他方、受託研究は 1995 年度以降に大きな変動はなく、公的機関が約 80% を占め、企業の比率は 20% 前後である。

共同研究の研究分野は、1990 年代初頭まで 80% 超を占めていた理学・工学分野が徐々に減少し、代わってバイオテクノロジー関係の共同研究が増加したためか、保健分野や学際分野が増加している。他方、受託研究の研究分野はほとんど変動がなく、工学 35%、保健 30%、農学 15%、理学 10% の比率で推移している。このように、公的機関が主体である受託研究では、研究分野の変動が少ない。

各国立大学が所在する地域と同じ地域内の相手と実施する共同研究と受託研究の件数は着実に増加している。3) ただし、全体の実施件数に対する同一地域内での件数の比率は、全体の件数が伸びているため、共同研究で 40% 超、受託研究で 30% 超とほぼ一定である。

(左) 図 3a 研究分野別「共同研究」契約件数の推移 (右) 図 3b 研究分野別「受託研究」契約件数の推移

3. 国内民間企業から見た共同研究と受託研究

企業の国立大学との共同研究、受託研究制度の利用についてみると、両制度とも全般的に利用している企業数、実施件数ともに増加している。

両制度を利用した企業の規模別構成比率をみると、中小企業の増加が著しく、産学連携が中小企業にまで広まったことを示している。共同研究については 1980 年代の制度創設当初に 10% 強であった中小企業の比率は 2002 年度には 52% と大幅に上昇した。受託研究についても中小企業の比率は 1995 年度の 12% から 2002 年度の 31% まで上昇している。

同一地域内での実施状況は、共同研究では制度開始以来 20 年の間 30% から 38% の間で推移しており、特に 1990 年代半ばより研究者が直接交流できることから上昇傾向を示している。受託研究については共同研究より少なく 23% 前後で推移しているが、傾向としては減少傾向にある。

研究費総額についてみると、企業との共同研究費総額が企業からの受託研究費総額を上回っており、かつ 2001 年度以降その差は拡大傾向にある。企業については一方的に研究を委託するよりも共同して知の創出を行っていこうとする傾向が強まっている。

ベンチャー企業についてみると,共同研究については、企業規模に比して 1 企業あたり非常に多くの件数を実施し、 負担金額の点からも産学連携に強く関わっている。また、その連携は同一地域内における割合が高く、ベンチャー企業の知識ネットワークは大企業と比較して、 地理的に近いところで行っている。受託研究については、共同研究と比較して、連携範囲は近傍に集中していない。

図 4 区分別地域内連携実施件数の割合

4. 独立行政法人、公益法人、地方自治体等から見た共同研究と受託研究

独立行政法人、公益法人、地方自治体等の団体は受託研究では大きな割合を占める。共同研究の相手先の主役が企業であったのに対して、受託研究の主役は公的機関の 1 つである独立行政法人である。これらの両主役の特性は大きく異なり、共同研究の実施企業では中小企業の台頭もあり 1 企業当たりの研究実施件数が 1 〜 2 件/年程度であるのに対し、独立行政法人では実施機関が少なく、それらの少数の機関が 1 機関あたり大量に研究の委託 (20 〜 50 件/年) を行っている。

独立行政法人の所在地域は、東京、茨城など非常に限られているが、同一地域内での実施比率は非常に低く、広範囲の連携が実施されている。

この対極にあるのが地方自治体である。当然でもあるが共同研究と受託研究ともに地元志向で 80% 以上が同一地域内の産学連携である。また、地方自治体は研究を委託する機関としての数が一番多いが,一方で一機関当たりの実施件数は少ないという特性からも独立行政法人とは対照的な区分である。

なお、今後の調査研究活動として、これまで構築してきた共同研究、受託研究のデータベースを活用して、産学連携の関連アクター間のネットワーク分析を含めたより深い分析を実施していく予定である。 (本記事の執筆:第2研究グループ 福田)

  1. 1) 国立大学等が産業界等から研究者と研究経費を受け入れ、大学等の研究者と産業界の研究者とが共通の研究課題について対等の立場で共同して研究を行うもの。
  2. 2) 民間等から委託を受けて大学の研究者が実施する研究で、これに要する経費を委託者が負担する。研究者の派遣は必要がなく、また、国や国際機関等からの委託も可能である。
  3. 3) 相手先機関の所在地とは本社所在地のことで、大企業の本社所在地は東京に集中しているため、必ずしも地域区分内連携を正確に表していないことに留意する必要がある。
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木々

日本企業の重要特許の成立過程に対する公的研究部門の寄与に関する調査
〜大企業の研究者・技術者へのアンケート調査〜(調査資料-120)

科学技術動向研究センター 金間 大介

写真 :科学技術動向研究センター 金間 大介
2004 年 3 月に横浜国立大学大学院物理情報工学専攻博士課程を修了(工学博士)。その後、独立行政法人NEDO技術開発機構職員を経て 2005 年 4 月より現職。ナノテクノロジー分野を中心に、公的研究開発と経済社会とのつながりに興味を持つ。

1. はじめに

研究開発活動に基づく技術的イノベーションが経済成長を高めることが明らかになるにつれて、従来以上に公的研究開発の産業支援の役割が重要視されるようになってきている。すなわちナショナルイノベーションシステムの確立、特に基礎研究を中心とする公的研究開発の蓄積・成果を応用・開発に活かすシステムが求められている。そこで本調査では、研究開発を中心とする公的投資に基づく諸活動が、民間企業の実施する研究開発活動にどの程度寄与しているか(以下、「公的寄与」という)を、一定の定量性を持って把握することを目的とした。


2. 調査方法

科学技術のアウトカムの重要な部分である新製品、新サービス等を生み出すもととなった、企業において実用化された重要な特許を対象に、その発明者を直接の回答者としてアンケート調査を実施した。研究開発規模等による業種の違いを考慮しながら、特許出願の多い大企業 50 社にアンケートを依頼し、41 社 (回答率 82%) から合計で 324 名の研究者・技術者の回答が得られた。

アンケートの設問項目は「補助金の導入」や「共同研究の実施」のような直接的な寄与のみでなく、公的研究機関の成果が当該技術に間接的に一定の寄与をしているかどうかも測定できるよう考慮し、合計 18 項目の設問を設定した。回答者の選択肢として、「該当する」「多少該当する」「該当しない」の 3 択とした。


3. 調査結果のポイント

(1) 公的寄与の大きさ

アンケート調査の結果より、約 8 割の回答者が全 18 項目中少なくとも 1 項目以上において「該当する」もしくは「多少該当する」と回答 (以下、これを肯定的回答という) しており、その中でも約 22% の回答者が全 18 項目の半数を超える 10 項目以上に対し肯定的回答をしている (図表 1)。この結果、これまでの公的投資の諸活動が大企業の重要特許の発明に対して多様、かつ大きな貢献をしている例が相当数存在することが明らかになった。


図表1 「該当する」もしくは「多少該当する」を選択した設問数に対する全回答者の割合

(2) 大きな寄与がみられた設問項目

18 の設問項目の中で最も大きな公的寄与が認められた回答として、5 割以上の回答者が「公的機関の基礎研究が開発の可能性を提示してくれた」を選択、次いで 4 割以上が「公的機関とのディスカッション等が役立った」を選択した。この結果より、大学をはじめとする公的機関において多様かつ充実した基礎研究が行われることが、民間企業の研究開発を支える上で重要であることがわかった。また、ディスカッション等による寄与が高いことから、知財等の成果の移転のみならず、論文等としては表に出ない成果や、失敗事例から得られる学習効果なども産業界にとって重要なヒントとなる可能性が示唆された。


(3) 共同研究の重要性

18 の設問項目に対する回答状況の分析から、「公的研究機関と共同研究を行った」を選択した回答者は、その他の項目についても高い割合で肯定的な回答をしていることがわかった。共同研究の実施に至る過程あるいはその後において、研究者の交流、公的部門の基礎研究蓄積の活用、技術的問題の解決など様々な寄与が生まれていることが示唆された。


4. 業種別にみた寄与

今回調査した業種において、各々の業種別に比較・分析を試みた結果、業種によって公的寄与に大きな違いがあることがわかった (図表 2)。さらにそれぞれの業種によって公的投資の寄与形態も異なっている。例えば、ライフサイエンス研究の主要な"出口"のひとつとして考えられる医薬品業種では、公的寄与は全体に比べやや低くなっているが、該当回答の割合が少ない一方で、肯定的回答の割合は高いという特徴が認められる。これは、医薬品業の場合、公的研究開発の成果等には強い関心と期待が持たれている現状において、実効性のある寄与はまだ少ないことを示している。今後の課題として、その隘路となっている要因を明らかにし、公的なライフサイエンス研究の産業寄与を向上させていくことが重要である。


図表 2 業種別寄与の定性的比較
5. 公的部門に対する要望

アンケートでは 18 の設問項目に加えて、自由記述形式にて公的部門に対する要望も尋ねた。主な要望を集約すると、以下の 2 種類に分類される。

  • ① 主に公的投資の対象や役割に関するもの
  • ②主に公的部門の運営に関するもの
  • おわりに

    本調査の注意点として、これらの結果は大企業のみを対象とした結果であり、中小企業やベンチャーは含まれていないことが挙げられる。また、本調査は、すでに企業の業績に貢献している重要特許の研究開発過程を対象としたものであるため、ある程度過去の公的投資の諸活動を観測したものとなっている。ただし、現在は企業―公的研究機関の連携がより一層活発化してきているので、今後はこのような公的寄与の割合はさらに高くなると期待される。

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    クリップのアイコンⅢ. トピックス

    科学技術への顕著な貢献 in 2005
    (ナイス ステップな研究者)

    当所における初めての試みとして、2005 年に、『科学技術分野で注目すべき業績を挙げ、経済・社会に貢献したり、国民に夢を与えたりした方』、『理数離れ対策で顕著な貢献をした方』など、それぞれの分野で科学技術への顕著な貢献をされた方々、あるいは、グループで研究等が行われた場合はその代表の方々を、科学技術政策研究所の専門家ネットワークの意見を参考に選定しました。

    <研究部門>
    ○「骨免疫学という新規分野の創出と発展に大きく貢献」
    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高柳広教授

    骨代謝学と免疫学は、どちらも高等生物の生体高次機能を扱う基礎医学系分野であるが、それぞれ運動機能と生体防御といった全く異なった機能を持つ組織を対象とする学問領域であり、独立した分野として研究が行われてきた。ところが、関節リウマチのように免疫異常が骨を破壊する疾患の存在や、種々の免疫系制御分子の遺伝子改変マウスにおける骨代謝異常の解析から、極めて密接な関係にあることが明らかになってきた。高柳氏は、世界に先駆けた視点から、基礎医学分野で独立した分野として発展してきた骨代謝学と免疫学を統合し、骨免疫学という新しい学際分野を開拓した。本研究の重要性は、基礎医学領域にとどまらず、関節リウマチや骨粗鬆症などの運動器疾患や免疫疾患に対する新しい治療法に道を開く可能性がある。

    2005 年は、日本初、世界的にもほとんど例がない骨免疫学を専門とする研究室を同氏は発足させた。また、同氏は発起人の 1 人として、2006 年にギリシャで第 1 回開催を予定している「世界骨免疫学会議」を発足させ、現在その準備を行っている。さらに、2005 年には、米科学誌「ネイチャー・メディスン」等に論文を発表すると同時に、日本から骨免疫学に関する英文総説を世界でも最も多く発表している。これらを通じて、骨免疫学という新規分野が確立されていく重要な 1 年となった。

    ○「未踏の RNA 大陸の発見」
    理化学研究所 林崎良英プロジェクトディレクター

    「哺乳類トランスクリプトームの総合的解析による『RNA新大陸』の発見」のプロジェクトを林崎氏は中心人物として先導した。

    マウスの全てのDNA情報を解析した結果、従来の考えを覆して、これまでは何の役にも立っていないと考えられていた部分から、遺伝子の発現を指令するなど重要な機能を持つRNAが作られていることを新たに発見。2005 年 9 月発行の米科学誌「サイエンス」に発表した。

    がん、アルツハイマー病、動脈硬化、鬱病、心筋梗塞、高脂血症などの遺伝子もRNAによって制御されていると考えられることから、ヒトのRNAの解析が進めば、これらへの新たな治療法の開発につながる。

    ○「生後発達期の脳の発達の仕組みの解明と脳神経倫理学の先導」
    理化学研究所 ヘンシュ・貴雄グループディレクター

    ほ乳類の新生児は、成長の発達初期に自己の経験により神経回路の再構築を行う。この時期は臨界期と呼ばれ、学習・記憶・発達の基礎過程であり、神経細胞は、高度で特異な可塑性(臨界期可塑性)を持つ。ヘンシュ・貴雄氏は、脳の発達の仕組みに関して、臨界期可塑性に関与する神経回路細胞及び神経回路の機能発現の仕組みを世界で初めて解明し、その研究成果を、2005 年 11 月発行の英科学誌「ネイチャー レビュー」に発表するなど、国内外で認められている。

    また、脳科学が進展することにより、個人のプライバシーを侵害する恐れ、差別が行われる恐れなど、脳科学の成果の悪用の懸念が、2005 年には国際的に高まっている。同氏は、2005 年の日本神経科学学会での公開シンポジウム「『脳を育む』神経科学倫理」において座長を行うなど、脳神経倫理学を先導し、重要な役割を果たしている。

    <プロジェクト部門>
    ○「スマトラ島沖大地震震源近傍の海底変動をハイビジョンカメラで観る」
    海洋研究開発機構 末廣潔理事

    2004 年 12 月 26 日におきたスマトラ島沖大地震の地震発生や破壊伝播のメカニズム等を明らかにするため、インドネシア技術評価応用庁と共同で、震源近傍の海底の様子を、ハイビジョンカメラを装備した無人探査機「ハイパードルフィン」で、2005 年 2 月 18 日〜 3 月 5 日、3 月 10 日〜 3 月 19 日の調査の中で観察した。カメラによる震源近傍の地震直後の崖の崩落や地滑り等の海底の様子の撮影は世界初。余震が続く中で潜航調査、地震観測が行われ、海底に残された地震による破壊の痕跡を数多く発見し、巨大地震断層の所在も明らかにした。

    関東大震災など巨大地震のほとんどは海溝型地震であるが、陸上の直下型地震と異なって、海域は観測の空白域として残されているため、今回の調査結果などを基に、アジア地域における津波被害軽減システムの構築や、我が国の防災科学技術の推進に貢献していく。

    ○「『地球ニュートリノ』を世界で初めて検出」
    東北大学 鈴木厚人副学長

    地球は誕生してから 50 億年経つが内部は現在も熱く、その要因は『地球誕生時の熱の残り』と『放射性元素が壊れるときに発生する熱』と考えられている。しかし、それを直接検証するすべが今までなかった。

    鈴木氏が設計したカムランドは、地球内部のウランなどの放射性元素が壊れるときに熱とともに放出されるニュートリノ(地球ニュートリノ)を捉えることができる『オンリー・ワン』施設。この地球ニュートリノを世界で初めて捉えたことを、2005 年 7 月発行 の英科学誌「ネイチャー」に発表。地球ニュートリノを分析することで、地球のエネルギーの起源、地球の誕生・進化の過程、地磁気・大陸移動などの地球運動を解明する手がかりになる。

    ○「重粒子線がん治療装置HIMAC 2500 症例達成」
    放射線医学総合研究所 辻井博彦重粒子医科学センター長

    放射線医学総合研究所においては、世界初の医用重粒子線加速器である重粒子線がん治療装置[HIMAC]を用いて、1994 年より先端的ながん治療を開始し、2003 年 10 月に厚生労働省より高度先進医療の承認を受けている。現在、重粒子線がん治療装置を保有し、がん治療を行っているのは、世界中で我が国のみ。

    HIMACでは、第 3 次対がん 10 ヵ年総合戦略 (2004 年度〜 2013 年度) の中核的施設として、頭頸部・肺・前立腺・骨軟部・直腸(術後再発)・眼等の症例の高度先進医療対応を含め、2005 年 12 月までに 2500 を越える症例の炭素線臨床医療の実績を上げるとともに、他治療法では施術困難とされた患者も救ってきた。特に 2005 年は、9 月より肝がんについて高度先進医療を開始するなど、適応疾患を拡大した。

    <理解増進・教育部門>
    ○「論理的思考力や創造性、独創性を培う理数教育の実践」
    秋田県立大館鳳鳴高等学校 生徒、高田典雅教諭

    教育活動に調査・実験・観察活動を積極的に取入れ、論理的思考力や創造性、独創性を培う指導法による理科教育を実践する高等学校。

    同校で高田教諭から指導を受けた生徒の中から、3 年の虻川修士さんと柴田佳枝さん 2 人の生徒が学習成果としてまとめた「クマムシの研究」が、2005 年 8 月開催の平成 17 年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究成果発表会で研究の進め方やプレゼンテーション手法が評価され、大きな注目を集めた。

    ○「女子高校生夏の学校〜科学・技術者のたまごたちへ」
    女子高校生夏の学校企画委員会、鳥養映子企画委員長(山梨大学教授)

    若い世代が科学への夢をはぐくむことができるよう、先端研究・身近な開発等に携わる研究者・技術者から情報を発信し、科学技術の世界の魅力と多様な科学者・技術者の姿を知ってもらうとともに、 理工系に関心のある女子高校生の自発的なネットワークづくりを支援することを目的とした初の試み (2005 年 8 月開催)。

    鳥養氏は、これまで国立大学協会における男女共同参画の活動や、文部科学省科学技術・学術審議会人材委員会における科学技術系人材の養成・確保に向けた活動をしてきたところ、日本物理学会や男女共同参画学協会連絡会など 5 団体が行った本活動にて、その仕掛け人の企画委員長として貢献し、女子高生が理工系に進む道を盛り上げた。

    ○「船外活動でリーダーを務め、青少年に夢と希望を」
    野口聡一宇宙飛行士

    コロンビア号事故後のスペースシャトル飛行再開フライト第 1 号 (2005 年 7 月 26 日〜 8 月 9 日) に搭乗し、スペースシャトルの飛行安全性の検証や、軌道上での補修技術の実証及び国際宇宙ステーションの姿勢制御装置の交換や船外プラットフォームの取り付けなど、高度な技能を必要とする活動を行った。その際、船外活動において日本人として初めてリーダーを務めるなど、今回のスペースシャトルの諸活動を成功に導く役割を果たした。

    こうした活動は国民、特に青少年に対し、宇宙開発に係る科学技術の素晴らしさを認識させ、困難を克服し未来を切り拓く勇気と希望、感動を与えた。

    ○「脳科学と『クオリア』」
    SONY Computer Science Laboratory 茂木健一郎 博士

    数で表せないクオリア(従来は心の領域とされた意識の中で感じる様々な質感)を鍵にして、人間の意識という人類にとっての究極の謎に挑戦。また、新聞、テレビ等のメディアでの論評、著書、大学での指導等により、クオリアと生活との深い係わりをわかりやすく解きほぐしている。

    2005 年は、メディアにおいて教育番組に加え特に一般の子供までが見る情報番組への出演等にも力を入れた。また、脳は、音楽、文学、美術等と幅広く係わりを持つことから、最新の脳科学の知見を背景に、脳は創造性の源泉であるということをやさしく説明することにも力を入れた。これらを通じて、科学技術の理解増進に顕著な貢献をした。

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    時計のアイコンⅣ. 最近の動き

    ○ 講演会・セミナー
    ・12/ 6 ニール・ブリットン: 国立防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター防災戦略研究チーム・リーダー
      「日本とニュージーランドの防災戦略比較」
    ・12/ 8 ホセ・ロレンツォ・ヴァレス・ブラウ: 欧州委員会研究総局 G3 部 (材料担当) 部長
      「欧州委員会の材料・ナノテク政策」
    12 月 28 日 (水)、第 3 回科学技術政策研究所機関評価委員会 (委員長:池上徹彦 会津大学長) の第 2 回会合が開催された。
    ○ 第 3 回科学技術政策研究所機関評価委員会第 2 回会合を開催
    第 12 回ユネスコ国際生命倫理委員会が 12 月 15 日から 3 日間、上智大学で開催され、科学技術政策研究所(NISTEP)はブース『生命倫理の井戸端会議』(IDOBATA DIALOGUE)を出展した。展示は、「ヒト胚をめぐる問題」や「日本で臓器移植を円滑に実現できない状況」などの生命倫理問題や、その対応策としてNISTEPが提案する社会制度、さらには「第 8 回科学技術予測の結果」などをパネルにして話題提供を行い、それらを素材に来訪者に井戸端会議風の自由な議論をしてもらうことを意図した企画であった。展示会場では、テーマの井戸の模型や障子をモチーフにした壁面などの制作が日本大学芸術学部の協力で実現し、ブース全体のアレンジが会場の雰囲気を盛り上げた。ブースでは、NISTEP担当者も加わって対話に花を咲かせると同時に、来訪者がパネルの問いかけに応じて各自の意見をタックメモに書いて貼り付ける趣向となっており、人々の関心を惹くものとなった。
    ○ 新着研究報告・資料
    「科学技術動向 2005年12月号」(12月22日発行)
    レポート 1   サービス・サイエンスにまつわる国内外の動向
    客員研究官 日高 一義
    レポート 2   LSI の配線設計の課題と設計自動化ツール開発の重要性
    情報・通信ユニット 野村 稔
    蔦
    ふくろう
    文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 情報分析課 news@nistep.go.jp)

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