政策研ニュース No.202

写真: 小中  元秀  科学技術政策研究所長
小中 元秀 科学技術政策研究所長
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  1. 所長挨拶
    • 科学技術政策研究所長 小中 元秀
  2. Ⅰ. レポート紹介
  3. Ⅱ. 最近の動き
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所長挨拶

7 月 15 日付けで所長に就任しました小中元秀です。


科学技術政策研究所は昭和 63 年に設置されてから、科学技術活動に関する調査研究、科学技術政策に関する調査研究などを行ってきました。最近は、平成 18 年度から始まる第三期科学技術基本計画の策定作業に対して、その検討に必要な基礎的データ・資料を文部科学省、総合科学技術会議などへ提供し、エビデンスベースの政策の立案に活用され、研究所自体の活動そのものが高く評価されるまでになりました。研究所は 4 年ほど前に 10 年程度の将来を展望しつつ、今後 5 年間程度の研究所の調査研究の活動計画として中期計画を定めました。同計画の「今後の取組みの目標」の中で、「特に、科学技術基本計画との連携を強化し、科学技術行政部局による第二期基本計画の具体化・フォローアップにあたり当研究所の調査研究の蓄積を生かして協力するとともに、第三期基本計画の立案に必要となる調査研究を先行して行う」と謳われています。この目標に向けて研究所は、過去 2 年間に亘りその総力を挙げて、各種の調査研究を実施し、基本計画策定作業に対して大きな貢献をしてきています。


統計などの世界に、ロジステック曲線なる曲線があります。これは目標なり飽和状態から遠いと物事の成長速度が速いのですが、目標に近づくほど遅くなるという経験則に基づいた成長曲線のことです。この曲線はほとんどあらゆる組織・事物の盛衰に該当するようです。政府が行財政改革をするのも、企業が組織を 2 〜 30 年で大きく変えるのもロジステック曲線の飽和状態から回避するためだとも考えられます。わが研究所は今まさに高度成長の真っ只中にあります。「政策の企画・立案への積極的貢献を目標とした調査研究」、「重要研究分野の科学技術動向に関する調査研究」など更にその活動を深化させ、科学技術行政機関、あるいは国民の期待にきめ細かく応えていく必要があると思います。当研究所は、まだまだ飽和状態に達していません。


私の仕事に対する姿勢をご紹介します。極めて簡単なことです。しかし、実践は難しいことでもあります。それは、どんなに仕事が辛いこと、困難なことであっても、その仕事をやっている人は楽しくやろうということです。これは今まで私が携わってきた、原子力船「むつ」、JICST の一般会計導入、動燃改革、衆議院事務局出向などから体験的に得た教訓でもあります。「辛い仕事を楽しくやろう。」という一見矛盾した呼びかけが私のモットーです。


これからも活力ある研究所にしていきたいと思っています。皆さんのご理解とご支援、ご協力を期待しまして、私からの就任挨拶とさせていただきます。

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本のアイコンⅠ. レポート紹介

地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係る調査研究 (調査資料-114)

第3調査研究グループ


写真: 左から丸山泰廣特別研究員、斎藤尚樹前総括上席研究官、植杉紀子上席研究官、上段左杉浦美紀彦前上席研究官、上段右岩本如貴前研究官

1. 本調査研究の概要

地域科学技術振興の目標は、知的資産や科学技術力の蓄積により新たなイノベーションを促進し、地域の活性化の原動力とすることや、地域の様々な要請にきめ細かく応え、住民の生活の質を向上させることにある。

一方で、地域における科学技術活動については関連の深い各種資源について、現状認識はあるものの、定量的把握は十分になされているとは言えない。このため、各地域における科学技術関連活動の現状やポテンシャル等を定量的に把握するため地域科学技術指標の開発が必要である。

こうした観点から、当研究所では従前より進めてきた「地域科学技術指標」に関する調査を発展させ、当該指標を用いた地域特性の分析を行った。さらに、各地域における科学技術関連活動を総合的に把握する観点から「地域科学技術・イノベーション総合指標 (以下、「地域総合指標」という) 」を開発した。


2.地域科学技術指標による分析

図表1 カテゴリー分析例 (A県) (1) 地域科学技術指標におけるデータ収集について
①「地域」の概念

「地域」という概念は州、都道府県及び市町村等といった行政単位だけではなく、複数の市町村を含めた圏域や複数の都道府県によるエリアも考えられる。したがって、理想を言えば、地域科学技術指標もこれら広範囲な「地域」の概念に対応しうるものであることが望ましい。しかし、地域における科学技術活動に関するデータはほとんどが都道府県を単位としたものであることを考慮し、本調査・分析では既往調査と同様、都道府県単位でのデータ収集を行った。

②指標のフレームとデータの収集

本調査における指標のフレームの設定にあたっては、イノベーション施策の枠組みである、地域の①社会資本・制度、②生活環境、③経済・社会環境、④研究開発基盤、⑤研究開発活動・成果を視野に入れ、これらに係る85の個別指標を収集・作成した。

図表2  特許発明者数による分析例 (A県) (2) カテゴリー別の分析

本分析では、(1)にて得られた85指標をさらに、細分化し、各都道府県の分析を行った (分析結果については図表1のとおり。) 。

この分析により、各都道府県における研究開発基盤の整備状況など科学技術に関する特色を把握することが可能となった。また、各都道府県の傾向として、アウトプット系・波及効果系において平均以上の水準にある都道府県には相応の水準の研究開発基盤が存在するという結果が得られた。

(3) 特許発明者による分析

本分析では、85 の個別指標の 1 つである、「特許発明者数」に注目し分析を行った。ここで「特許発明者数」とは、特許庁が発行する整理標準化データをもとに、特許に記載された発明者・考案者を抽出し、各研究領域・各都道府県別に整理したデータである。

分析方法は「特許発明者数」について、全国における各都道府県の割合を 8 分野別 (図表 2 左) 及び 1 つの分野に注目した時の研究領域別 (図表 2 右) に算出した。本分析により、各都道府県の分野別特徴と、ある分野に注目した時の研究領域の特徴が発明者の分布から把握することが可能となった。

図表3 科学技術・イノベーション総合指標体

3.地域科学技術・イノベーション総合指標の構築

(1) 指標体系と分析手法

本分析では、各地域における研究開発のインプットから技術移転、実用化・起業化に至るプロセスを念頭に置きつつ、地域科学技術に包含されている科学技術系の主な15の個別指標 (図表 3) を抽出し、総合化した。なお、将来的には経済波及効果を表す産業系指標の取込みも検討すべきではあるが、地域科学技術におけるイノベーション推進に向けたポテンシャルが相対的にどの程度進展したのかを把握するという観点から、本分析では科学技術系指標に限定して分析を行った。前述の15の個別指標の総合化に当たっては、情報の集積を行うため、「主成分分析」を採用した。主成分分析によって得られた第 1 主成分を各都道府県の科学技術・イノベーション活動のポテンシャルを示す「総合指標」として採用し、「地域総合指標」を構築した。

(2) 上位 20 都道府県の推移この分析により得られた一定期間中 (1990 - 2003 年度) の主成分得点の推移及び伸び率を図表 4 に示す。
図表 4  主成分得点の伸び率トップ20都道府県の推移

主成分得点及び伸び率では東京都が突出しており、次いで大都市圏が上位を占めている。また、主成分得点ではトップ 20 以下ではあるが、伸び率において岩手、徳島、香川、熊本はトップ 20 に入っており、精力的な活動をしている自治体として注目できる。

(3) 各都道府県の「強み」

4 つの指標区分 (インプット系、インフラ系、アウトプット系、波及効果系) のうち、どの指標区分が対全国平均で相対的に高いかを見れば、各都道府県における「強み」として捉えることができる。図表 5 は最も相対比の高い指標区分を色分けしたのである。波及効果系が強いのは 8 都府県である。本分析により、東京都を取り巻く各県にてインフラ系に強く、東京都での波及効果系に係る「出口」側の活動を支えていると捉らえる。これに対し、大阪府はインプット系、インフラ系、アウトプット系に強い府県に囲まれており、結果としていわば関西圏の「総合力」を発揮する形ではないかと推察できる。

図表 5  各都道府県の「強み」

4. 今後の課題

今回の地域科学技術指標については、地域の科学技術に関する85の個別指標を収集し、様々な方法により分析を行った。その結果、各都道府県の科学技術ポテンシャルを把握・分析できる道が拓けたことは、施策効果を分析するに当たり、有用なツールとなり得るものである。

今後の課題として、本研究の結果を踏まえ更なる高度化に取組んでいく。


本記事執筆: 第3調査研究グループ特別研究員 丸山 泰廣


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木のアイコン米国 NIH 在籍日本人研究者の現状について (調査資料-116)

第1調査研究グループ上席研究官 三浦 有紀子

写真 :みうら  ゆきこ

1. 調査研究目的

海外の優れた研究機関での経験は、研究者にとって非常に有意義なものであるという認識の下、我が国の政策においても研究人材の海外経験を奨励するような気運が高まっている。

その一方で、「知」の空洞化についての懸念が示されるなど、海外で活躍する日本人研究者に対して、帰国の動機付けとなるような環境整備の重要性も認識されつつある。しかし、現在、海外在住の日本人研究者の意識や活動状況等については、ほとんど把握できておらず、研究者の海外派遣や帰国の奨励策を具体的に検討することは容易ではない。

そこで、本調査研究では、研究者の海外派遣や帰国奨励策のあり方を検討する材料を収集する目的で、海外において研究活動を行っている日本人の現状や意識を明らかにすることを試みた。

2. 調査方法

調査対象となる海外在住日本人研究者に関する基本的な情報を収集することは、現時点では非常に困難であるため、研究者の在籍数が多い等、規模が大きな海外研究機関、米国国立衛生研究所 (NIH) に焦点を当て、そこで働く日本人研究者に対し、質問票による調査を実施した。

質問票による調査の実施に当たっては、現在、米国 NIH において研究活動を行っている者に対し、NIH で仕事をするに至った事実関係とその理由、将来の希望、特に帰国の意思の有無およびそう考えるに至った理由を明らかにし、さらにこれらの回答内容の背景を探るために、現在の研究環境と日本との比較や政府への要望等を質問した。

3. 調査結果

(1) 回答状況

質問票発送数は、338 通、回答数 128 通、回収率は 37.9% であった。

(2) 回答者の特性
① NIH における身分

ポスドクが 83 名、テニュア制の適用を受けている研究者 (Principal investigator) が 12 名 (うち 10 名が既にテニュアを取得済み)、テニュア制非適用の研究者 (Staff scientist 等) が 24 名などとなっている。

② 年齢および学位分野

39 歳以下が 71.8% (92 名)、40 歳以上が 24.2% (31 名) 、不明 3.9% (5 名)。

学位分野では、医学が過半数を占め (54.7%)、続いて理学 (18.0%)、薬学 (7.0%) 等となった。

(3) 回答結果
① 日本国外活動期間と NIH 在籍期間

ポスドクでは、日本国外活動期間と NIH 活動期間が一致する者が大半で、滞在期間は平均して 2 年 7 ヶ月であり、5 年を超える者はわずかであった。それ以外の研究者では、逆に 5 年を超える者が多くを占め、海外の別の機関から移動してきた者もいた。

② 前職

NIH のポスドクである者のうち、約 30% が既に大学や公的研究機関の研究職に在籍経験があり、ポスドク経験者も 10% 以上存在した。大学院修了 (博士号取得) →ポスドク→大学や公的研究機関の研究者というキャリアパスをたどる者は予想外に少ない可能性が示唆された。

③ 現在の職を見つけた経緯

以前の上司や恩師あるいは知人・友人の紹介や推薦によった者が比較的多く、公開の求人情報等を利用した場合は少なかった。

④ 渡米理由

多くの回答者が研究者修練の一環として考えていたが、「日本で希望する研究職がなかったから」と回答した者も少なくなく、日本での研究者就職事情の厳しさを窺わせる結果となった。

⑤ 米国滞在予定

ポスドクでは、現在所持するビザの有効期限内に帰国を予定している者が多かったが、それ以外の研究者ではグリーンカードを取得済みか申請を予定している者が多く、長期滞在あるいは永住を考えている可能性が明らかになった。

⑥ 将来の希望

現在の身分に関わりなく、次の転職先としては「日本の大学・公的研究機関の研究職」を希望している者が多く、「日本以外の研究職」を選択した者は、その理由として日本の研究環境への不満や日本での就職活動の困難さを挙げた。

⑦ 実際の就職活動状況

就職活動を現在行っているあるいは現職中に行った経験があると回答したのは、全体の 20% 程度で、ポスドクとして在籍期間がある程度長い者でも就職活動をしている例は少なかった。また、応募先としては、日本と日本以外の研究職がほぼ半数ずつであった。

⑧ その他

日本の研究室と比較した場合の NIH の研究室の特徴として多かった意見は、「研究費が潤沢」、「リソースの配分や運営方法が優れている」、「多様な人材が存在」、「研究支援者の能力が高い」や「研究交流が活発」などであった。

4. 考察

NIH に在籍している日本人研究者は、概ね渡米の目的遂行という点で現在の状況に満足していることが推察された。しかし、日本への帰国を希望している一方で、日本の研究環境への不満や日本での就職活動の困難さから、海外での研究活動を継続している例、帰国しない可能性がある例も少なくなかった。

以上のことから、まずは、就職活動を容易にする等、日本に帰国しやすい環境を整備することが研究者の海外渡航希望者を増加させると思われた。さらに、海外にいる日本人のみならず、海外の優秀な研究人材を呼び込むためには、我が国の研究環境の改善と改善努力の効果を広くアピールすることが必要と思われた。

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時計のアイコンⅡ. 最近の動き

○ 人事往来
・7/15所長   永野 博 辞職 (科学技術振興機構)
  小中 元秀 採用 (理化学研究所) (表紙写真)
・7/22企画課長   岡村 直子 出向 (科学技術・学術政策局計画官付企画官)
  犬塚 隆志 転任 (内閣府参事官補佐)
○ 主要訪問者一覧
・7/14Dr. Dirk Pilat:経済協力開発機構科学技術産業局経済分析・統計課課長代行
○ 国際研究協力 (覚書の締結)
6 月 28 日に、中国科学院科技政策与管理科学研究所の Rongping Mu 所長を訪問し、研究協力に関する覚書 (MOU) を締結した。
○ 第 18 回地域クラスターセミナー
・7/25田口 康: 文部科学省科学技術・学術政策局地域科学技術振興室長
「知的クラスター創成事業の進捗状況と今後の課題」
○ 講演会・セミナー
・7/21ワークショップ「学際的研究をどう進めていくか - 生活支援ロボティクスをめぐるヒトとロボティクスの関係 -」
於: 六本木アカデミーヒルズ カンファレンスルーム (港区六本木)
・7/22亀岡 秋男: 北陸先端科学技術大学院大学理事・副学長、知識科学研究科教授
「アセアン (ASEAN) 10 カ国による、テクノロジー・フォーサイト共同プロジェクトの実践報告」
・7/27藤井 光: 九州大学大学院工学研究院助教授
一ノ瀬 俊明: 国立環境研究所地球環境研究センター主任研究員
「ヒートアイランドに関する最近の研究について」
○ 新着研究報告・資料
「科学技術動向 2005 年 7 月号」 (7 月 27 日発行)
レポート 1 欧州の情報化社会技術に関する予測調査
情報通信ユニット 藤井 章博
レポート 2 デジタルカメラとカメラ付携帯電話の動向
情報通信ユニット 立野 公男
レポート 3 東アジアにおける大気汚染物質モニタリングについて
−アジアの環境先進国としての我が国の展開−
環境・エネルギーユニット 福島 宏和
○ 『生命倫理の社会的リスクマネジメント研究』報告書 第2調査研究グループ 牧山 康志

平成15・16年度科学技術振興調整費調査研究『生命倫理の社会的リスクマネジメント研究』、 (研究代表者:野口和彦、中核機関:㈱三菱総合研究所) の最終報告書が発行された。

本報告において当所は「生命倫理のリスクマネジメントにおける科学技術政策の役割」を分担した。本振興調整費研究では、今後の社会への適応の在り方が社会で問われるヒトゲノム遺伝情報の取扱いにおけるリスクマネジメントを事例に、個人の感情が関わる倫理的問題をも包含する リスクとは何か、ステークホルダーの同定、リスクの洗い出しから、政策的な対応に至るまでの プロセスにおけるリスクマネジメントの手法を明確にした。本報告の中では適切なリスクマネジメントを実現するための制度上の選択肢として、多様なステークホルダーを適切に仲介してマネジメントを主導する「中間的専門機関」についても言及されている。なお、報告書の内容は下記URLの「科学技術振興調整費成果報告書データベース」に掲載される予定。

(問合せ:office@nistep.go.jp) http://www.chousei-seika.com/search/info/infonet.aspx
○ 研究交流会

科学技術政策研究所は「科学技術基本計画の達成効果の評価のための調査」及び「科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査」の大きな成果について取りまとめが終了し、また、機関評価委員会からも OB 等の人的ネットワークの活用についての提言があったことを受けて、6 月 30 日、顧問及び OB 等による研究交流会を所内で開催した。顧問の井村 (独) 科学技術振興機構顧問、末松国立情報学研究所顧問、中原住友電気工業 ㈱ 顧問、吉村政策研究大学院大学長、歴代所長の村上日本原子力研究所顧問、佐藤 (独) 科学技術振興機構国際室審議役、青江宇宙開発委員会委員、間宮 (独) 宇宙航空研究開発機構副理事長、今村 (独) 海洋研究開発機構理事ら総勢 50 名が参加、最近の調査分析成果について報告し、活発な意見交換を行った。

蔦
ふくろう
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 情報分析課 news@nistep.go.jp)

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