政策研ニュース No.200

写真左: 韓国科学技術評価・企画院(KISTEP)との覚書の締結 写真右: 「韓国における科学技術行政機構改革の発足に伴う国際シンポジウム」にて講演する永野所長
フィンランドアカデミー
(右: Prof. Raimo Vayrynen)及び
フィンランド技術庁(TEKES)
(左: Dr. Veli-Pekka Saarnivaara)との
国際研究協力覚書の締結
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目次

  1. Ⅰ. レポート紹介
    • 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査(NISTEP REPORT No.94,95,96,97,98)
      科学技術動向研究センター
  2. Ⅱ. 最近の動き
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本のアイコンⅠ. レポート紹介

科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査(NISTEP REPORT No.94,95,96,97,98)

科学技術動向研究センター

科学技術政策研究所では、2003 〜 2004 年度で「科学技術の中長期的発展に係る俯瞰的予測調査」(以下「俯瞰的予測調査」)を実施した。今回の俯瞰的予測調査は 1970 年より取り組んでいる技術予測調査の通算で第 8 回目にあたる。本誌No.199で報告した「基本計画の達成効果の評価のための調査」と同じく、次期科学技術基本計画 (2006 〜 2010 年度) の検討における基礎資料を提供するとの目的のもと、総合科学技術会議や文部科学省関係部局における基本計画関連の検討とも直接的な連携を取りつつ実施された。

俯瞰的予測調査は、従来の技術予測調査から設計を大きく改めた。すなわち多数の専門家にアンケートして技術の実現時期や重要度を聞く「デルファイ調査」に加え、「社会・経済ニーズ調査」、「急速に発展しつつある研究領域調査」、「注目科学技術領域の発展シナリオ調査」を加えた 4 つの調査で構成されている (図 1)。これにより、主に科学技術の応用面 (技術) を対象とし、多数の専門家の合意 (コンセンサス) に基づく調査であるデルファイ調査ではカバーできなかった、基礎科学の動向から社会・経済ニーズまでをカバーしている。さらに優れた個人の識見に基づく規範的 (将来はこうなるであろう加えて、こうすべきという考え方) 予測を加えることなどにより、今後 30 年の科学技術を俯瞰的に捉える調査となっている。

図 1 俯瞰的予測調査の構成

以下に各調査の概要を紹介する。


1. 社会・経済ニーズ調査

本調査では、今の生活において失いたくない「必須」のニーズと「ゆとり・贅沢」といったニーズを市民の視点で抽出し、そのニーズと科学技術との関係を把握することを目的とした。ウェブアンケートや関係者への聞き取り調査、また市民、経営者、有識者の各パネルから抽出した将来社会に向けたニーズ項目について、類似の内容を取りまとめ、12のクラスターに集約した。これら12の将来に向けたニーズの中には、科学技術が深く関与してニーズを満たすことができる項目のみでなく、XからXIIに見られるように、科学技術に加えて、その他の取り組みが必要な項目も存在する。

Ⅰ.科学技術の成果で日本が一目置かれる国であり続ける

Ⅱ.科学技術の未踏領域への挑戦で夢や希望を得る

Ⅲ.地球規模の問題の解決に積極的に貢献する

Ⅳ.新たな産業分野を開拓して、日本が経済的な国際的競争力を維持し続ける

Ⅴ.持続可能な社会システムを目指した新しい仕組みを構築する(都市と農村の連関・一次産業の保全を含む)

Ⅵ.社会の構造変化に対応する(少子・高齢化、人口減少に対応する)

Ⅶ.社会が平和で安全・安心に暮らせる(交通事故・犯罪・テロを回避する)

Ⅷ.災害に強い

Ⅸ.健康に生活できる

Ⅹ.個人の可能性が拡がって、生活の豊かさが実感できる

Ⅺ. 誰もが家庭や社会でやりがいを持ってそれぞれの役割を担い、互いに助け合う

Ⅻ. 子どもも大人も目的を持って学び、真の学力を養う

また、ニーズに対応する技術分野には、どのようなものがあるか試行的に実施した。ニーズ項目に重み付けを与えた 3 つの将来像ケースを設定すると、直接的寄与としては、健康を重視する場合には保健・医療分野というように、各項目に深く関わる分野がそれぞれ多く抽出された。一方、間接的寄与では、情報通信、エレクトロニクス、フロンティア、産業基盤、社会基盤分野の領域がいずれの将来社会像ケースにおいて共通に抽出された。つまり、これらの分野は基盤的性格を持ち、様々なニーズを満たすために必要とされるものであることを示唆している。

戦後、物が不足していた時代は、例えば医薬品の開発や食料不足における品種改良などに進められてきた研究開発は、まさしく国民のニーズに対応する技術だった。現在は以前と比べて物質的に豊かになり、また科学技術を取り巻く環境や国民の意識が今までとは変化し、将来はさらに変化することが想像される。ニーズアプローチですべての課題が解決するというわけではなく、科学技術が問題の解決に主導的な役割を果たす場合があり、市民が思いもかけなかったこと (潜在的なニーズ) が、科学技術によって実現している例も少なくないだろう。シーズ主導による科学技術の限界とニーズ主導による科学技術の限界のそれぞれについて十分な把握を行い、科学技術と社会の調和を検討していく必要がある。


2.急速に進展しつつある研究領域調査

国際的な論文データベースを用い、過去数年間の被引用が特に多い論文 ('97〜'02の 6 年間で約 4 万 5 千件) を対象に「共引用の強さ」(共に引用される度合いの大きな論文群はあるつながりを持つと考えられる) を指標としてグループ化を行い、それらの中で関連する論文が急速に増加している 153 の発展領域 (研究が進展を見せているホットな領域) を抽出した。

これらの 153 の発展領域の中で、約 3 割の 54 領域が学際的・分野融合的領域であることが分析から明らかになり、新たに台頭してくる研究領域においては、学際的・分野融合的領域が非常に重要であることが確認された。

また、153 発展領域の各々について、発展領域を構成するコアペーパ中の日本論文シェアを見ると (表 1 参照)、物理学、化学、植物・動物学の発展領域では、シェアが 7%1 以上の領域が多数あり、日本の存在感が大きいことが分かった。一方、臨床医学、環境/生態学、工学の発展領域においては、シェアが 7% 以上の領域が少なく、日本の存在感は小さい。

学際的・分野融合的領域は日本の苦手とする領域とされているが、本調査においては学際的・分野融合的領域においても、7% 以上のシェアを持っている領域が多数見いだされた。これらの領域は物理、化学、植物・動物学など日本が強みを持つ分野に軸足を持つものが多い。従って、日本が強みを持つ分野で蓄積された人材や知識を活用し、既存の学問分野に留まらず新たな研究領域を開拓していく必要性が確認された。


表1 日本の存在感が高い発展領域

3.注目科学技術領域の発展シナリオ調査

本調査は、専門家集団の集約意見であるデルファイ調査を補完するものとして、今回初めて試みられた調査である。

将来の科学技術政策に対する具体的な戦略・戦術を考えるために、これまでにも種々の調査が行われているが、その多くは過去・現在の状況分析をもとに個々の問題点を解決しようとするものである。この場合には、想定される戦略 (将来のビジョン) が過去あるいは現在の問題への解決方法になり、戦術 (対策) が後手に回るという懸念がある。本調査では、将来ビジョンの不確定さという懸念をあえて容認したうえで、過去・現在の状況分析をもとに、まず将来の発展シナリオを描き、その発展シナリオに向けて日本のとるべきアクション (戦略・戦術) を引き出そうとする試みである。

本調査では、今後 10 〜 30 年程度を見通した場合に、社会・経済的な貢献が大きい科学技術領域、革新的な知識を生み出す可能性を持つ領域などを抽出し、それぞれについて卓越した個人の見識にもとづく発展のシナリオを作成することで、注目すべき科学技術領域の発展の方向性を明らかにしようとした。関連する学会などに幅広く推薦を求めて、各領域の第一人者 2 名を選定し、個人の専門家としての識見に基づく領域の発展シナリオの作成を依頼した。各シナリオの構成は、現状分析、発展シナリオ (将来の見通し) に加えて、日本のとるべきアクション、の 3 つから成っている。

結果的に、47 領域のテーマについて 85 編のシナリオが書かれた。これらに書かれた日本のとるべきアクションは、各領域の今後を考えるうえで貴重な意見と考えられる。また今後、このシナリオ調査をもとにワークショップを開催していく予定であり、さらに深い議論が成されると期待される。


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4.デルファイ調査

図 技術発展段階ごとの設問設定と施策の概念図

デルファイ調査は、専門家アンケートにより、今後30年間の技術発展の方向性を把握することを目的とした調査である。同じ質問を繰り返して意見を収れんさせる手法(デルファイ法)を用いて、1970年以来7回の調査を実施してきた。

8 回目にあたる今回調査では、新しい設計を導入した。第一は、技術発展を面として捉えるための、「分野-領域-課題」という階層構造である。第二は、技術発展段階に応じた施策検討に資するための、発展段階ごと(技術的実現、社会適用)の設問設定である。

まず、今後 30 年間を見通して、13 の分野を設定し、その下に当該分野の発展方向を示す技術群である130の領域を設定した。さらに、それぞれの領域を代表する858の課題を設定した。

2 回の繰り返しアンケート (2004 年 9 月、12 月に実施) を経て、2239 名 (うち、企業 27%、大学 45%、公的研究機関 19%) から回答を得た。回収率は、63% (1 回目)、84% (2 回目) である。

図 調査の構造

課題に対する設問から得られた実現時期並びに推進手段の結果例を下図に示す。各領域を代表する課題の結果を俯瞰的に眺めることにより、領域の発展動向を概観することができる。

図 調査結果の例

領域に対する設問から得られた研究開発水準の結果を下図に示す。エレクトロニクス及びナノテクノロジー・材料分野では我が国の水準が高い領域が多く、ライフサインエンス、保健・医療・福祉、農林水産・食品分野では我が国の水準が低い領域が多い。

図 我が国の研究開発水準(米国、EU との比較)
※1 53 領域を構成する全てのコアペーパに占める日本論文の割合は約 7%。
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時計のアイコンⅡ. 最近の動き

○ 主要訪問者一覧
・5/13Prof. Raimo Vayrynen: フィンランド・アカデミーPresident
 Dr. Veli-Pekka Saarnivaara: フィンランド技術庁Director General
 Mr. Heikki Makipaa: フィンランドセンターDirector ほか一行
・5/23Mr. George R.Heaton: Technology Policy International, Principal,
 Mr. Patrick H.Windham: Technology Policy International, Principal
・5/31李健民氏: 中国上海市科学学研究所所長
 曹培新氏: 中国上海市科学学研究所国際部正処級幹部
 李万氏: 中国上海市科学学研究所研究室主任 ほか一行
 李在亨: 韓国開発研究院専門研究員
 李在鎬: 韓国開発研究院専門研究員
 洪雲善: 韓国開発研究員主任研究員
○ 国際研究協力(覚書の更新)
5月13日に、フィンランド・アカデミー及びフィンランド技術庁が当所を訪問し、研究協力に係る3者協定を更新した。
○ 第 16 回地域クラスターセミナー
・5/18岩渕 明: 岩手大学工学研究科教授
「岩手県における産学官連携の戦略 -岩手大学と INS の取り組み-」
○ 講演会・セミナー
・5/10「ワークショップ 日本の数学の将来シナリオを考える」
於: 虎ノ門パストラル (港区虎ノ門)
・5/12Dr. Daniel Mellet-d'Huart: AFPA Research& Development Department
バーチャルリアリティ プロジェクト マネージャー
「From Virtual Reality to Actual Reality: Using Virtual Reality for Learning」
・5/23柴田 崇徳: 産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究官
「アニマルセラピー効果を生み出すアザラシロボット パロ」
○ 新着研究報告・資料
「科学技術動向 2005 年 5 月号」(5 月 30 日発行)
 レポート 1 合成液体燃料開発の現状と今後の展開-天然ガスやバイオマスからの液体燃料-
 環境・エネルギーユニット 大平 竜也
 レポート 2 大学におけるシニア研究者の現状とこれからの役割-シニア世代の研究者を有効活用する-
 環境・エネルギーユニット 浦島 邦子
 客員研究官 伊藤 泰郎
蔦
ふくろう
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 情報分析課 news@nistep.go.jp)

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