政策研ニュース No.199

写真:平成 17 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 (科学技術振興部門) を受賞した丹羽冨士雄客員総括研究官と報告を受ける桑原総務研究官
平成 17 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 (科学技術振興部門) を受賞した丹羽冨士雄客員総括研究官と報告を受ける桑原総務研究官
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目次

  1. Ⅰ. レポート紹介
    • 基本計画の達成効果の評価のための調査報告について(NISTEP REPORT No.83〜92)
      基本計画レビュー調査プロジェクトチーム
  2. Ⅱ. 最近の動き
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本のアイコンⅠ. レポート紹介

基本計画の達成効果の評価のための調査報告について(NISTEP REPORT No.83 〜 92)

基本計画レビュー調査プロジェクトチーム1

科学技術政策研究所では、既に本誌 No.189 で紹介したとおり、第 3 期科学技術基本計画 (以下「基本計画」という)の策定のための政府における議論に資するべく、2003 年度〜 2004 年度の 2 ヶ年にわたり、第 1 期及び第 2 期基本計画の達成効果等について様々な視点からの調査・分析を行う「基本計画の達成効果の評価のための調査」を実施した。

このたび、上記 2 ヶ年にわたる調査成果を NISTEP REPORT No.83 から No.92 までの 10 冊の報告書にとりまとめた。本調査は図表 1 のとおり、8 つのサブテーマから構成されており、NISTEP REPORT No.83 は成果を総括したもの、No.84 〜 92 はサブテーマごとにまとめた。なお、本調査は、科学技術振興調整費を活用し、当研究所を中核機関として株式会社三菱総合研究所及び株式会社日本総合研究所とともに実施したものである。

図表 1: 基本計画の達成効果の評価のための調査 全体概要
図表 1: 基本計画の達成効果の評価のための調査 全体概要
出典: 科学技術政策研究所「基本計画の達成効果の評価のための調査 主な成果」(NISTEP REPORT No.83) より抜粋

本調査の調査成果のうちハイライトを、以下に簡単に紹介する。

1. 研究資金の重点化

研究資金の重点化について、科学技術関係経費 2 における研究関係経費 3 を対象に、研究分野別の推移をみると、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の重点 4 分野の合計は、プレ 1 期で 29.1%、1 期に 37.6% に増え、2 期 (2001 年度から 2004 年度まで) にはさらに 42.1% と増加しており、重点化が謳われている2期は、プレ 1 期、1 期より割合は高まっている。

図表 2: 科学技術関係経費における研究関係経費の研究分野別割合の推移
図表 2: 科学技術関係経費における研究関係経費の研究分野別割合の推移
出典: 科学技術政策研究所「基本計画の達成効果の評価のための調査 主な成果」(NISTEP REPORT No.83) より抜粋
2. 研究者からみた研究環境

研究環境について、SCI データベースにおいて 2001 年の被引用度 (論文1編当たりの被引用回数) 上位 10% 論文の筆頭著者に対するアンケートによれば (図表 3)、基本計画以前 (1991 〜 1995 年) と現在 (2004 年) を比較すると、研究環境は多岐にわたり改善されているが、「研究時間」は少なくなったとの結果が得られている。

研究環境の評点が高いのは「研究テーマ設定の自由度」、「国内の研究者のネットワーク」、「国際的な研究者のネットワーク」などで、低いのは「外国人研究者の人数」、「ポストドクター以外の若手研究者の人数」などとなっている。研究環境の変化に関しては、改善が進んだのは「所属機関における研究者の任期制の導入」、「産学官連携・技術移転をサポートする制度」、「政府の競争的研究資金の量」などが挙げられており、改善度の低いものは、唯一悪化した「研究時間」の他、「経常的な研究資金の量」などとなっている。

図表 3: トップリサーチャーによる研究環境変化の認識
図表 3: トップリサーチャーによる研究環境変化の認識
出典: 科学技術政策研究所「基本計画の達成効果の評価のための調査 主な成果」(NISTEP REPORT No.83) より抜粋
3. 技術移転フローの国際比較

産学官連携について国際比較 (日・米・英) を行った結果、大学から産業界への技術移転をみると、制度的に 20 年程先行している米国及び英国に比べ、個人ベースの連携に依存した知的財産の活用を主軸としてきた我が国では、組織ベースの本格的成果は未だ顕在化していない。

図表 4: 産学連携活動の国際比較
図表 4: 産学連携活動の国際比較
注: 研究開発費については、日・英と米国の間で人件費等の取扱いに差があることに留意する必要がある。
出典: 科学技術政策研究所「基本計画の達成効果の評価のための調査 主な成果」(NISTEP REPORT No.83) より抜粋
4. 科学技術の経済・社会・国民生活への寄与

研究開発の成果である技術に注目し、技術が経済・社会・国民生活にどのようなインパクトをもたらしているのか、科学技術がインパクトを実現する過程で、日本における公的研究開発・支援がどのような寄与をしたのかを分析した。その結果、図表5のとおり、技術の発展過程における公的研究開発・支援の寄与として、① 基礎研究に関する公的研究開発・支援、② 技術の発展・流れに合わせた公的研究開発・支援、③ 基盤技術や技術インフラに関する公的研究開発・支援、④ 政策連携によるインパクト実現の促進の 4 つが特徴的に見出された。

また、技術のインパクト実現過程においては、① や② のような研究開発への投資といった直接的な寄与に加えて、③ や ④ のような調達や研究基盤整備といった間接的な寄与も公的部門の役割として重要である事が明らかになった。

図表 5: 科学技術のインパクト実現までの過程における公的研究開発・支援の寄与
図表 5: 科学技術のインパクト実現までの過程における公的研究開発・支援の寄与
出典: 科学技術政策研究所「基本計画の達成効果の評価のための調査 主な成果」(NISTEP REPORT No.83) より抜粋

4 つの寄与のうち ① 基礎研究に関する公的研究開発・支援について、具体的な事例を紹介する。

図表 6: 光触媒材料についての事例分析 (ナノテクノロジー・材料)
図表 6: 光触媒材料についての事例分析 (ナノテクノロジー・材料) 図表 6: 光触媒材料についての事例分析 (ナノテクノロジー・材料)
出典: 科学技術政策研究所「基本計画の達成効果の評価のための調査 主な成果」(NISTEP REPORT No.83) より抜粋
5. 総論

以上の内容を概観すると以下のとおりである。

今後の世界の中でのわが国の科学技術を考えると
  1. ① 「知の創出」について欧米先進諸国と肩を並べるレベルになった我が国は、その研究基盤の一層の充実を図り、国際的な知識社会における存在感を更に高めていくことが求められるとともに、
  2. ② 「知の活用」のプロセスに関しては、大学から産業界までを含む知の活用やイノベーションについて、これまでの努力で確立されつつあるシステムを本格的に機能させ、経済・社会に貢献していくことが求められる。
矢印
今後の課題

第 1 期、第 2 期において達成された成果を足がかりに、残された課題を克服しつつ、更なる大きな発展を目指すべく、科学技術政策に積極的に取り組むことが次期基本計画における課題である。


  1. 1 この記事は基本計画レビュー調査プロジェクトチームの第2研究グループ上席研究官 山本桂香が作成した。
  2. 2 国の予算 (特別会計分を含む) のうち、大学における研究に必要な経費、国立試験研究機関等に必要な経費、研究開発に関する補助金、交付金及び委託費その他研究開発に関する行政に必要な経費等科学技術の振興に寄与する経費を指す。
  3. 3 科学技術関係経費の使途別分類における研究費に、独立行政法人の研究費相当分と国立大学等の研究費相当分を加えたもので、研究に関する広義の研究費を指す。
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時計のアイコンⅡ. 最近の動き

○ 文部科学大臣表彰受賞のお知らせ

当研究所丹羽冨士雄客員総括研究官が平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞。

丹羽客員総括研究官が平成 17 年度文部科学大臣表彰科学技術賞を科学技術振興部門で受賞しました。これは「体系的な科学技術指標の構築と分析に基づく科学技術の振興」を認められたものです。今後の更なる活躍を期待します。

(表紙写真)
○ 主要訪問者一覧
・4/4Dr. Matthias Hack: ドイツ航空宇宙センター Director
Dr. Nicole Zingsheim: ドイツ航空宇宙センター
Dr. Gisela Philipsenburg: ドイツ連邦教育研究省 Assistant Head of Division R&D and Innovation in Industry; SMEs
Dr. Dirk Matejovski: ノルトライン・ウェストファーレン州サイエンス・センター Executive Director
Martina Munsel: ノルトライン・ウェストファーレン州科学研究省
・4/7Prof. Dr. Ernst-Ludwig Winnacker: ドイツ研究協会会長一行
・4/11Nhlanhla Nyide: 南アフリカ共和国科学技術省 General Manager: Science Communication
・4/25Mamdouh Shoukri, Ph.D., P.Eng: カナダ国マクマスター大学副学長
Jen-Shih Chang, Ph.D.:カナダ国マクマスター大学教授
○ 講演会・セミナー
・4/4Carel van der Poel, Ph.D.: Senior Vice President Philips Research, Director Philips Research Leuven
「Philips Research Leuven: Semiconductor Research and Open Innovation at IMEC」
・4/25Mr. Peter Hohmann: 株式会社日立製作所ヨーロッパ・デザインセンター長
「Face of the Future (Facce del Futuro)」
・4/26武市 正人: 東京大学大学院情報理工学系研究科 研究科長・教授
「わが国の情報分野の人材養成について」
○ 所内研究成果発表会
・4/22杉浦美紀彦: 元 科学技術政策研究所第3調査研究グループ上席研究官
現 兵庫県産業労働部産業科学局科学振興担当課長付主査
植杉 紀子: 第3調査研究グループ上席研究官
「地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係る調査研究」
○ 新着研究報告・資料
「基本計画の達成効果の評価のための調査 - 主な成果 - 報告書」
(NISTEP REPORT No.83)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 第 1 期及び第 2 期科学技術基本計画期間中の政府研究開発投資の内容分析 報告書」
(NISTEP REPORT №84)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 第 1 期及び第 2 期科学技術基本計画において定量目標の明示された施策の達成状況 報告書」
(NISTEP REPORT №85)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 主要な科学技術関係人材育成関連プログラムの達成効果及び問題点 報告書」
(NISTEP REPORT №86)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 主要な産学官連携・地域イノベーション振興の達成効果及び問題点 報告書」
(NISTEP REPORT №87)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 科学技術研究のアウトプットの定量的及び定性的評価 報告書」
(NISTEP REPORT №88)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 科学技術振興による経済・社会・国民生活への寄与の定性的評価・分析 報告書」
(NISTEP REPORT №89)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 我が国の研究活動のベンチマーキング 報告書」
(NISTEP REPORT №90)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 主要国における政策動向調査及び達成効果に係る国際比較分析 報告書」
(NISTEP REPORT №91)
「基本計画の達成効果の評価のための調査 科学技術人材の活動実態に関する日米比較分析 - 博士号取得者のキャリアパス - 報告書」
(NISTEP REPORT №92)
「地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係る調査研究」
(調査資料-114)
「科学技術政策文献の構造分析・内容分析 - 第 1 期科学技術基本計画及び第 2 期科学技術基本計画を対象として」
(調査資料-115)
「米国 NIH 在籍日本人研究者の現状について」
(調査資料-116)
「平成 16 年版科学技術指標 - データ集 - 2005 年改訂版」
(調査資料-117)
「科学技術動向 2005 年 4 月号」(4 月 28 日発行)
 特集 1 米国における数学と生命科学の研究協力促進のための科学技術政策
 ライフサイエンス・医療ユニット 伊藤 裕子
 特集 2 サービス記述と知識処理を行うセマンティックウェブ関連技術
 情報通信ユニット 藤井 章博
蔦
ふくろう
文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 情報分析課 news@nistep.go.jp)

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