文部科学省では、科学技術・学術審議会において「基本計画特別委員会」を設置し、次期基本計画 (第 3 期科学技術基本計画 (計画期間 2006 年〜 2010 年)) についての検討を進めている。
この一環として、科学技術政策研究所では、産学官の第一線で活躍する研究者、技術者を対象に、我が国の科学技術の目指すべき方向や、政府の科学技術振興の方向性について意見を収集するためのアンケート調査を実施し、2004 年 10 月の第 2 回基本計画特別委員会において、その結果を報告した。
科学技術動向研究センターが運営する「科学技術専門家ネットワーク」のアンケート機能を使い、同ネットワークに登録されている 1,724 名の科学技術専門調査員を対象に自由記述による調査を実施した。調査期間は 2004 年 9 月 6 日から 9 月 17 日までである。このうち、189 名 (企業 31 名、大学 109 名、公的機関 30 名、各種団体等 11 名、その他 8 名) から回答があった。
今回実施した 4 つの設問に対する回答 (意見) の全般的傾向は下記のとおりである。
本調査資料 (http://www.nistep.go.jp/index-j.html) には、回答 (意見) の全般的傾向と合わせて設問ごとの代表的な意見の要約を例示するとともに、いただいた 189 名のアンケート回答 (全文) を添付してある。
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科学技術政策研究所は、2003 年 1 月から 3 月にかけて「全国イノベーション調査」を実施し、このほどその調査統計結果を取り纏め、2004 年 12 月に、『全国イノベーション調査統計報告』として公表した (本調査統計報告については、政策研ホームページよりファイルのダウンロードが可能である: http://www.nistep.go.jp/index-j.html)。
わが国など先進諸国の現代の経済社会は "知識基盤経済"、"知識基盤社会" とよく表現されるように、政策においては、単に研究開発活動を通じて知識や技術を生み出すだけでなく、それらが、新たな製品やサービスを通じて、あるいはこれらの製品やサービスを生み出す新たなプロセスの中に活かされて、経済的・社会的な価値を間断なく創出し、持続的な成長を図っていくことが重要になっている。本調査の調査要領においても記したように、また、最近でもたとえば Lundvall and Borras [2005] にも示唆されているように、全体として的確な科学技術・イノベーション政策を展開していく上で、イノベーション・システムに関する動向を観測していくことが不可欠となっている。このような背景の中で、民間企業のイノベーション活動の状態や動向を調査し、科学技術・イノベーション政策の立案・推進に必要な基礎資料を得ることを目的として、本調査は実施された。
わが国では、このようなイノベーション活動に着目した質問票調査としては、1994 年に後藤と永田が、科学技術政策研究所において、米国と比較可能な方法で実施した調査がその嚆矢であるといえよう (結果については、『イノベーションの専有可能性と技術機会: サーベイデータによる日米比較研究』(NISTEP Report No. 48、1997 年 3 月) などによって公表されている)。この調査から、当時は日米に専有可能性を確保する主たる手段に違いがあることや、産業によってイノベーション・プロセスに違いがあることなどが明らかになっている。
さて、本「全国イノベーション調査」を実施するにあたり、調査対象範囲を産業の面でも企業規模の面でも拡大するとともに、政策基礎資料としての重要性に鑑み、また、この間の国際的な取り組み (たとえば、イノベーション調査のための標準的なガイドラインである「オスロ・マニュアル」の改訂作業や、 EU諸国ならびに OECD 諸国の協力による標準的調査票・調査方法論の策定) を反映して、国際比較可能性を大きく向上させることを意図した。また、総務大臣の承認を受け、統計調査として初めて実施した。
また、新たな商品やサービスが市場に導入されるなどとする国際的に標準の統計調査上の定義とされた "innovation" の概念を、わが国の文脈において的確に反映することについては細心の注意を払った。以下の囲みに述べるように、本調査では「イノベーション」の語を用いることとした。
調査の概要について述べると、調査単位は企業であり、農林水産業、鉱工業、サービス業 (以下に示す表の註を参照) に属する民間企業を対象とした。「平成 13 年事業所・企業統計調査」の結果より当該産業に含まれる約 62 万社の企業のうち、経済活動と企業規模とによって層別した層化抽出法に基づき、従業者数 10 人以上の対象母集団に含まれる 216,585 社から 43,174 社を標本抽出した (うち従業者数 250 人以上の企業については悉皆調査とした)。そして、9,257 社から回答を得た (回答率: 21%)。調査は郵送調査の方法によった。
結果については、紙幅が限られているので本稿では主だったものに留めたい。
1999 年から 2001 年の間、プロダクト・イノベーションかプロセス・イノベーションのいずれかでも実現したイノベーション実現企業の割合は全体で 22% であった。また、この 3 年間においてまだ継続中であるあるいは中止するなどした場合も含めたイノベーション活動実施企業についてみても、全体で 29% であった [表参照]。
イノベーション実現企業 | イノベーション活動実施企業 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全規模 | 小規模 | 中規模 | 大規模 | 全規模 | 小規模 | 中規模 | 大規模 | ||
全経済活動 | 22 | 19 | 26 | 47 | 29 | 26 | 32 | 54 | |
農林水産業 | 19 | 19 | 23 | 0 | 28 | 28 | 30 | 60 | |
鉱工業 | 24 | 21 | 31 | 56 | 33 | 30 | 38 | 63 | |
製造業 | 24 | 21 | 31 | 56 | 33 | 30 | 39 | 63 | |
サービス業 | 19 | 17 | 21 | 37 | 24 | 22 | 26 | 43 |
国際比較については、本調査統計報告では、参考として、イノベーション実現企業ならびにイノベーション活動実施企業の割合について、EU のレポート [European Commission, 2004] に掲載された EU 全体の値と対比して示している。どの企業規模においてもその割合が低いが、とくに日本では中規模企業 (従業者数 50 人以上 249 人以下の企業) における率が低いのが目立つ。
連携・協力についてみると、イノベーション実現企業の 28% は、他の企業・機関等と何らかの協力の取り決めを有している。とくに大規模企業では、より多くの取り決めを有し、また、そのパートナーも、自社グループ内の他の企業、大学あるいは他の高等教育機関とする企業の割合が中小規模企業と比して多く、またその重要度も高くなっている。それから、イノベーションを保護するための手段として、特許が用いられているが、これに加えて、企業機密や商標もよく用いられていることがわかった。
ところで、イノベーション活動を実施しないのはなぜであろうか。阻害要因があるから実施しなかったという企業の割合は少なく (イノベーション活動非実施企業の 19%)、そもそも、市場の状況のためにあるいは以前にイノベーションを行っていたためにイノベーション活動を必要としていなかった企業がかなりの割合を占めていた。
本調査では、新たな経営戦略や知識マネジメントの実施や組織変化といった非技術的な局面での取り組みについても尋ねている。ここでは、イノベーション実現企業だけでなく、イノベーション非実現企業においても、「プロダクト・コスト低減戦略」、「市場拡大・占有率向上戦略」、あるいは、一種の組織の囲い込みを示唆する新しい機能部門または職能の「内部化」などが多いことが示されている。これらは、従来、日本企業の特徴とされてきている、プロセス重視の取り組みや効率化の促進といった所見と符合しているように思われ興味深い。
また、内部研究開発については、とくに人材についてみるとその 82% が大規模企業で従事していることがわかった。これらのことから、日本のイノベーション・システムは、大企業が中心となっており、また、国全体としては、企業数という点でみれば、イノベーション活動を実施しているのはマイノリティであるということが示唆される。
本稿では産業ごとの特徴については割愛するが、本調査統計報告では、できるだけ産業ごと企業規模ごとの状況がわかるように表章している。
このほかにも、企業のイノベーション活動に関わるさまざまな変数について調査している。詳細についてはぜひ本調査統計報告をご一覧いただきたい。また、残念ながら回答率が高くなかったことに関連して、非回答分析の結果概要や解釈上の注意についても、本調査統計報告には記している。
本稿で述べたものを含め、「全国イノベーション調査」では次のような項目について調査している:
文末になるが、調査にご回答いただいた企業をはじめとして、本調査にご協力をいただいた多くの方々にこの場を借りて改めて感謝申し上げる。本調査統計報告が、科学技術・イノベーション政策の基礎資料として国内外で広く活用されるのみならず、今後の政策研究に寄与し、そして、イノベーション活動を担っていらっしゃる産業・企業における経営ビジョン構築や戦略策定にも役立つようであれば幸いである。
・1/11 | 宮脇 敦史:理化学研究所脳科学総合研究センター先端技術開発グループディレクター |
(兼)細胞機能探索技術開発チームリーダ | |
「蛍光タンパク質を用いたバイオイメージング〜生きた細胞内の時空的現象の理解へ向けて〜」 | |
・1/13 | 菅 裕明:東京大学先端科学技術研究センター教授 |
「『切磋琢磨型』アカデミズムの重要性」 | |
・1/19 | 加藤 醇子:クリニックかとう、宇野 彰:筑波大学大学院人間総合科学研究科助教授 |
藤堂 栄子:特定非営利活動法人エッジ会長、品川 裕香:ノンフィクションライター | |
「神経学的要因による読み書き困難に対する多方面からの支援」 |
・1/28 | 伊地知寛博: 第1研究グループ客員研究官 |
「全国イノベーション調査統計報告」 (表紙写真) |
・ | 「科学技術動向 2005 年 12 月号」(1 月 28 日発行) |
特集 1 創薬科学者・技術者の育成と現状 | |
客員研究官 梶本 哲也 | |
特集 2 エレクトロニクスへのナノテクノロジーの応用 - 検討が進むシリコン LSI への適用例から - | |
情報通信ユニット 小松 裕司 | |
客員研究官 小笠原 敦 | |
特集 3 ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性 | |
総括ユニット 辻野 照久 |