政策研ニュース No.194

所内講演会「南アフリカ共和国の科学技術政策と動向」(上写真)と科学技術政策研究に係る研修プログラム(右写真) 所内講演会「南アフリカ共和国の科学技術政策と動向」(上写真)と科学技術政策研究に係る研修プログラム(右写真)
所内講演会「南アフリカ共和国の科学技術政策と動向」(上写真)
と科学技術政策研究に係る研修プログラム(右写真)
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目次

  1. Ⅰ.レポート紹介
  2. Ⅱ. 最近の動き
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本のアイコンⅠ. レポート紹介

学校教育と連携した科学館等での理科学習が児童生徒へ及ぼす影響について
-学校と科学館等との連携強化の重要性-(調査資料-107)

第2調査研究グループ上席研究官 中村 隆史

1.調査の目的

我が国は、科学技術の振興により豊かな国民生活を実現する「科学技術創造立国」を目指しているが、近年、いわゆる国民の科学技術離れ、あるいは子供たちの理科離れが指摘されている。

子どもたちの理科離れに対するひとつの方策として、地域の科学館等(「科学館等」とは、科学館、科学系博物館、理科・科学センターなどを総称して使用している)の活用がある。そこで、学校教育と連携した科学館等での理科学習(以下、「学校教育と連携した科学館等での理科学習」を「科学館学習」という)を受けることが児童生徒の理科に関する意識へ与える影響について、国立教育政策研究所の協力を得ながら調査分析を行った。

2.アンケート方法等

(1)調査対象とする市の選定

調査の対象とする市を選定するに当たり、全国の科学館等へ学校との連携を行っているかアンケートを実施し、この結果から、科学館等とその所在地の市が連携し市内全部の小中学校に対し科学館学習を行なっているところを対象として選定した。

この結果、対象となったのは「ふくしま森の科学体験センター」のある福島県須賀川市、「真岡市科学教育センター」のある栃木県真岡市、「京都市青少年科学センター」のある京都府京都市、そして「出雲科学館」の島根県出雲市の4市である。

(2)児童生徒へのアンケートの実施方法

調査の対象とした学年は、平成13年度教育課程実施状況調査と比較するため、小学校5年生から中学校3年生までの5学年(京都市は小5から中2までの4学年)とした。

標本の抽出方法は、須賀川市、真岡市、および出雲市は全数調査を実施したが、京都市においては、京都市全児童生徒数の約10%からアンケートが回収されるよう調査学校を抽出した。

アンケート票は、前半部分は科学館学習が理解できたか、おもしろかったか等、科学館学習についての設問から構成されており、後半部分では、平成13年度小中学校教育課程実施状況調査(以下「全国平均」という)から11設問を選び、質問と選択肢を同じにすることにより、全国平均と比較することとした。

3.調査の結果

今回調査対象となった4つの科学館等の規模や科学館学習の対象学年や回数等の概要は(表1)の通りである。


(表1) アンケートを行った4つの科学館等の概要
ふくしま森の科学体験センター(福島県須賀川市) 真岡市科学教育センター(栃木県真岡市) 京都市青少年科学センター(京都府京都市) 出雲科学館
(島根県出雲市)
設立年月日 平成13年12月 平成5年6月 昭和44年5月 平成14年7月
延床面積 3,877㎡ 3,544㎡ 9,675㎡ 4,841㎡
主な事業 児童生徒への科学館学習や実験・工作教室等一般開放を実施。 市内小中学校の理科学習(教員研修を含む)の実施が事業の中核。 児童生徒への科学館学習、教員研修、市民科学事業を実施。 児童生徒への科学館学習や市民への生涯学習等を実施。
科学館学習の対象学年 小3〜中3 小3〜中3 小5〜中2 小3〜中3
一人当たりの科学館学習の回数 年に1回 年に2〜3回 年に1回 年に1〜3回
時間割と内容 クラスごとに希望するプログラムを選択、学習時間は半日から1日。 実験学習が2時間とプラネタリウム学習が1時間。 小5と中1は展示学習(30分)とエコ学習(30分)、プラネタリウム学習(1時間)。小6と中2は実験学習(2時間)。 実験学習が2時間とサイエンスショーが1時間

また、今回のアンケート票の回収状況は、4市とも学校単位では100%回収した。さらに、児童生徒数で見てみると、4市とも90%以上の回収率であった。

(1)科学館学習を受けた4市の児童生徒の理科に関する意識は、全国平均を上回っている。

「理科の勉強は好きですか」、「理科の勉強は大切だと思いますか」等、理科に関する意識について、調査した4つの市の児童生徒と全国平均を比較した。この結果、市や設問によりばらつきはあるが、単純に設問と学年別に今回のアンケート結果の肯定的な意見が全国平均を上回ったかどうかを調べてみると、4市それぞれの学年数(須賀川市、真岡市、出雲市は小学校2学年、中学校3学年の計5学年、京都市は小学校2学年、中学校2学年の計4学年)に11(設問数)を掛けた延べ209学年のうち、全国平均を上回っているのは延べ171学年(81.8%)あった。上回った割合は数ポイントから30ポイントまで様々であるが、この4つの市の児童生徒の理科に関する意識が高いことは明らかであろう。(図1は須賀川市の例)


表

(2)「科学館学習を受けること」と「児童生徒の理科に関する意識が高くなること」との間には相関関係がある。特に、「科学館学習が分かった」と回答した児童生徒よりも「科学館学習はおもしろかった」と回答した児童生徒の方に、より強い相関がある。

前項の(1)では、単純に今回のアンケート結果と全国平均を比較したものである。しかし、子どもたちの理科に関する意識の向上には様々な要因が考えられ、この結果だけで科学館学習を受けることが児童生徒の理科に関する意識に影響を及ぼしていると、断定することはできない。

そこで、科学館学習を受けることが、児童生徒の理科に関する意識に何らかの影響を与えているのか調べるために、児童生徒を「理科の授業が分かる」と回答したグループと「理科の授業が分からない」と回答したグループに分けてから、それぞれのグループで、更に「科学館学習がおもしろかった」、「おもしろくなかった」あるいは「科学館学習が分かった」、「分からなかった」の回答で分け、この中で「理科の勉強が好き」など、理科に関する意識で肯定的な回答をした児童生徒がどのくらい存在するのかを比較することとした。

この結果、「理科の授業が分かる、分からない」に関係なく、「科学館学習はおもしろかった」、「科学館学習が分かった」と回答した児童生徒の方が、「おもしろくなかった」、「分からなかった」と回答した児童生徒より、理科に関する意識が、4つの市の全設問において高くなっている。

さらに、それぞれの設問で、「科学館学習はおもしろかった」と「おもしろくなかった」との差と、「科学館学習が分かった」と「分からなかった」との差を比較してみると、4市合計での40設問(1市当り10設問×4市=40設問)中、33設問(82.5%)で「科学館学習はおもしろかった」と「おもしろくなかった」の差の方が大きくなっている。このことから、「科学館学習が分かった」ことよりも「科学館学習はおもしろかった」ことの方が、児童生徒の理科に関する意識との間により強い相関があると推察できる。


表

(3)出雲市において、科学館学習を受ける前と受けた後のアンケート結果を比較したところ、科学館学習を受ける前より受けた後の方が、理科に関する意識が高くなっていた。特に、「科学館学習はおもしろかった」と回答した児童の方が、「科学館学習が分かった」と回答した児童よりも、理科に関する意識が高い。

出雲市では今回のアンケートを実施した時点で、科学館学習を受けていなかった小学校5年生が多数存在した。出雲科学館は平成14年7月(4年生の時)に開館しており、この学年の児童は、平成14年9月に1回科学館学習を受けている。そして、5年生になった後の平成15年10月の今回のアンケートを実施した時点では、一部の児童がまだ5年生での科学館学習を受けていなかった。その後、この一部の児童は平成15年12月と平成16年2月の2回科学館学習を受けた。

そこで、このような児童を対象にして、平成16年4月(6年生に進級後)に平成15年10月と同じアンケートを行った。1回目と2回目のアンケートの間の半年間にあった主な理科に関する行事は2回の科学館学習であり、この2つのアンケートの結果を比較することで、科学館学習が児童へ与える影響をより明確に推察できると考えられる。また、2回目のアンケートの実施が科学館学習の直後でないことから、このアンケートの結果は個別の科学館学習の効果というよりは、科学館学習を続けることによる意識の変化をより大きく表していると思われる。

この結果、12の設問のうち8問で科学館学習を受ける前よりも受けた後の方が、意識が高くなっている(図2)。特に「理科の勉強で、実験や観察をすることが好き」と回答した割合が、他の設問に比べより高く伸びていることは、科学館学習の中心が実験や観察であることを鑑みると、科学館学習の効果(学習と意識の因果関係)をより明確に示していると考えられる。

また、科学館学習を受けた後のアンケートの結果を、設問毎に「科学館学習が分かった」と回答した児童と「科学館学習はおもしろかった」と回答した児童を抽出し比較すると、「科学館学習が分かった」とする児童よりも「科学館学習はおもしろかった」とした児童の方の意識が高くなる傾向がみてとれる。このことから、科学館学習は理科の勉強を理解させることもさることながら、理科をおもしろく感じさせて興味を持たせることも重要であると考えられる。

(4)科学館学習を受けた後の理科に関する意識の変化は、女子の方が男子より全国平均との差が大きく上回っており、より多くの女子が科学館学習の影響を受けていると考えられる。

今回の調査と全国平均との意識の差を男女別で比較してみると、女子の方が男子よりも全国平均を上回る傾向が見られる。

理科に関する意識について質問した11の設問について、全国平均との差を具体的に見てみると、4市それぞれの学年数(前項(1)と同じ)に11(設問数)を掛けた延べ209学年のうち、女子の方が男子より全国平均との差が大きかったのは154学年(73.7%)であった。また、小中学校別に見てみると、小学校では82学年(93.2%)で女子の方が上回っており、中学校では女子の方が上回っていたのが72学年(59.5%)あった。

(5)まとめ

科学館学習の効果について、これまではそれぞれの科学館等が独自に行った簡単なアンケートの結果や科学館等の担当者の体験等により説明されていたが、今回の調査分析は、具体的な数値で学校教育と連携した科学館等での理科学習が児童生徒に及ぼす影響を分析したものである。

この調査結果からは、(1)〜(4)を総合すると、調査を実施した4つの市では、学校教育と連携した科学館等での理科学習を受けることが児童生徒の理科に関する意識の向上に積極的な影響を与えていると推察される。また、(2)、(3)の分析の中から、科学館学習においては「分かる」こともさることながら、「おもしろく感じる」ことも、児童生徒の理科に関する情意面(「理科が好き」、「実験や観察が好き」等)での意識に与える影響が大きいと推察される。このように、今まではっきりと示されてこなかった科学館学習の児童生徒への影響が具体的に示されたことにより、今後はより積極的に地域における科学技術理解増進活動の中核を担う科学館等の機能の活用・強化を図っていく必要がある。

なお、今回の調査は大都市のみならず3つの中小都市でアンケートを実施し、そのいずれでもやりかたさえ工夫すれば、子どもたちに理科のおもしろさに接する貴重な体験を提供することができ、その効果もあることがデータにより確認することができた。

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レポート終了

技術系製造業におけるスタートアップ企業の成長要因
(DISCUSSION PAPER No.37)

第1研究グループ 榊原 清則(慶応義塾大学)・本庄 裕司(中央大学)・古賀 款久

1. はじめに

わが国における長期的な経済活動の低迷などから、年々、創業に対する社会的関心が高まっている。このことは、近年、「ベンチャー企業」という用語が紙面をにぎわしているだけでなく、ここ数年の『中小企業白書』をはじめとして、創業がいくつかの政府機関によって取り上げられていることからもうかがい知ることができる。いまや創業は社会的かつ政策的に重要な課題と言っても過言ではないだろう。創業は、既存企業に対して競争圧力としてはたらき、市場効率化を促進する役割をはたすと考えられている。創業間もないスタートアップ期の企業(以下、「スタートアップ企業」と呼ぶ)は、雇用創出のみならずイノベーションの源泉として期待されている 。とりわけ、技術に特化した産業において、スタートアップ企業は将来的なイノベーションの担い手として注目されており、いわゆる「技術系ベンチャー企業」の登場に大いに期待が寄せられている。

このようにイノベーションや雇用創出の担い手としての期待から、税制上の優遇措置、補助金、公的融資など、創業を促進するためのさまざまな施策も講じられている。その一方で、創業がもたらす経済的利益への期待に対して懐疑的な見解も存在する。たとえば、D. B. Storey 『Understanding the Small Business Sector』(International Thomson Learning Press)(邦訳: 忽那憲治・安田武彦・高橋徳行『アントレプレナーシップ入門』(2004)、有斐閣)は、イギリスにおける企業数の変化率と国内総生産成長率との関係を示し、新規開業率の引き上げによって必ずしも長期的な経済的利益をもたらすとは限らないと論じている。また、必ずしもすべてのスタートアップ企業が成長して経済的利益をもたらすとは限らず、実際には一部の成長著しいスタートアップ企業によって経済的利益がもたらされることも考えられよう。

そもそも創業が活発であったとしてもそれが市場において既存企業に対する競争圧力としてはたらかない限り、市場効率化を促進する役割を期待することは難しい。また、創業した企業が市場に存続した上で十分な成長を達成しない限り、イノベーションや雇用創出の担い手としての役割をはたすことは難しい。すなわち、経済的利益の視点からは創業よりもむしろ創業後の成長が重要といえるだろう。さらにいえば、創業による経済的利益が成長著しいスタートアップ企業によってもたらされるならば、市場におけるイノベーションを期待する上では成長著しい企業を特定化した上で重点的な政策を検討する方がむしろ効率的である可能性は高い。本稿では、筆者らが参画したアンケート調査、「日本における技術系ベンチャー企業の経営実態と創業者に関する調査研究」のデータを用いて、化学、加工機械、電気機械、自動車、精密機械の技術系製造業を対象に、スタートアップ企業の成長要因を実証的に分析する。

本稿の分析を通じて、どのような企業特性や経営者特性が創業後の成長に影響を与えるかを明らかにし、特に、企業の研究開発活動や株式公開意欲が創業後の成長に影響を与えるかについて明らかにする。このような分析は、経済的利益を追求する政策担当者のみならず、あらたな資金提供先を模索する投資家や金融機関に対しても有益な情報を提供すると期待されるだろう。

2. 先行研究との関係

これまでの間、産業組織論の分野を中心に、創業を含めた新規参入は既存企業に対する競争圧力としてはたらき、市場効率化を促進する源泉としてとらえられてきた。このことから、新規参入を分析対象とし、新規参入を促進する要因、あるいは阻害する要因を明らかにするための実証分析が数多く試みられてきた 。しかし、実際には、すべてのスタートアップ企業が市場効率化を促進するとは考えにくい。創業後に十分な成長をとげずに市場からの撤退を余儀なくされる企業も少なくない。また、そもそもすべてのスタートアップ企業が競争や成長をめざすとも限らず、単なる経営者の趣味や志向にもとづいて創業した企業も少なくない 。

既に述べたとおり、経済的利益の視点からは創業そのものよりもむしろ創業後の成長の方が関心は高い。このような考えに呼応するかのように、1990年代を中心に欧米諸国の企業データを用いて、創業(新規参入)後のパフォーマンスに焦点をあてた実証分析が試みられるようになった 。しかしながら、その当時、わが国における創業後のパフォーマンスに関する実証分析はほとんどみられず、結果的には欧米諸国の研究に対して遅れをとることになった。その1つの理由として、東京証券取引所などで株式公開企業と比較すると、スタートアップ企業に関するデータソースがほとんど存在しないことがあげられる 。わが国ではスタートアップ企業を対象とした実証分析に利用可能なデータは十分に整備されておらず、スタートアップ企業の経済活動を容易に把握できない状況にあったといえるだろう。

その後、創業が社会的あるいは政策的に注目を集めるにしたがって、ごく最近になって、既存のデータベースを再編加工したデータ、あるいは独自のアンケート調査など、さまざまなデータソースを用いて、わが国におけるスタートアップ企業の特徴やパフォーマンスに関する実証分析が試みられるようになった。たとえば、『2002年版中小企業白書』 は、経済産業省「工業統計表」および国民生活金融公庫「新規開業実態調査」などのデータをもとに、創業後の存続や成長の決定要因を分析している 。これらの先行研究のいくつかは、創業後のパフォーマンスを企業成長でとらえており、規模などの企業特性および経営者の個人属性の影響を実証的に分析している。

これまでの先行研究では製造業だけでなくそれ以外の業種も含んだ上での分析がいくつかみられるが、イノベーションの視点からは、技術を必要としない業種におけるスタートアップ企業の役割は相対的に関心が低い。むしろ技術に特化した産業において、スタートアップ企業の研究開発活動がどのくらい有効であり、また、実際の成長につながっているかについて関心がもたれるだろう。しかしながら、これまでの実証分析では、筆者らの知る限り、単に創業後のパフォーマンスを対象とした研究にとどまっており、技術に特化した産業を対象とした企業の研究開発活動までも含めた実証分析はいまだ試みられていない。すなわち、スタートアップ企業の研究開発活動について十分に言及された分析結果は提示されていない。

そこで、本稿では、技術に特化した産業に限定し、企業の研究開発活動に焦点をあてた上で創業後のパフォーマンスを分析する。しかしながら、一般的に用いられるデータソースからはスタートアップ企業の研究開発に関するデータを入手することは困難なことから、本稿では、独自のアンケート調査から得られたデータを用いて実証分析を試みることにした。

3. 推計結果と結論

本稿では、1989-1998年の10年間に設立された技術系製造業におけるスタートアップ企業を対象に、企業特性および経営者特性の2つの視点から企業成長の要因を明らかにした。実証分析には、「日本における技術系ベンチャー企業の経営実態と創業者に関する調査研究」のアンケート調査によって得られたデータを用いた。企業特性として、これまでの先行研究で用いられた企業の規模や年齢(設立からの経過年数を企業の「年齢」と定義する)に加えて、企業の研究開発活動、創業時の所有構造と資本構成、また、株式公開意欲の影響を分析した。また、経営者特性として、経営者の年齢だけでなく、学歴や創業以前の職務経験の影響も分析した。

本稿の推計結果をまとめると、以下のようになる。まず、企業の規模と成長および年齢と成長とは負の関係にあり、小規模で若いスタートアップ企業ほど成長している傾向が示された。加えて、研究開発集約度と企業成長とは正の関係にあり、研究開発に積極的なスタートアップ企業ほど成長している傾向が示された。また、他企業との資本関係が存在するスタートアップ企業ほど成長している傾向がみられているが、その結果は十分に有意ではなかった。さらに、創業時の資本構成については有意な結果が得られなかった。その一方で、株式公開に積極的なスタートアップ企業ほど成長しており、目標意識によって実際の成長が達成されることを示唆する結果を得ている。最後に、経営者の個人属性については、学歴の影響がややみられるものの全体的にはあまり有意な結果は得られなかった。

本稿の推計結果から、成長するスタートアップ企業像をまとめると、「研究開発や株式公開に積極的な小規模で若い企業」となる。これは、多くの人がイメージする「ベンチャー企業」に近いといえるだろう。このような企業が実際に成長を達成していることから、わが国において新たな成長企業を生み出す必然性を前提とすれば、昨今のベンチャー企業支援の流れに対して、一定の理解を与える結果とも解釈できよう。ただし、このような成長企業が実際に経済全体にどのような影響を与えるかについてはまだ十分に明らかにされておらず、わが国におけるベンチャー企業のあり方を論じるためにも、この点については将来的に解明していく必要があるだろう。

最後に、今後に残された課題として、とりわけ、企業の研究開発活動の内生性についてふれておきたい。本稿で分析対象とした技術系製造業には、化学、一般機械、 電気機械、輸送用機械、精密機械と性格を異にする業種が含まれている。本稿では、業種間の差異は業種別変数を用いて制御されているが、実際には、これらの変数では十分に制御できない差異が存在し、市場ニーズが研究開発にフィードバックされやすい業種とそうでない業種など、市場構造の違いによって企業の研究開発活動に影響を与える可能性は残る。このような内生性(説明変数と被説明変数との間の双方向的な因果関係)に対処する一つの方法としては、サンプル企業を適切な業種ごとに分類してモデルを推計する方法が考えられるが、十分に業種を識別できないことなどから本稿では行っていない。また、スタートアップ企業においては、経営者に蓄積された知識と企業の研究開発能力との間に相互依存的な関係があり、経営者の個人属性と研究開発活動との間の内生性も考えられよう。このように、今後取り組むべき課題は少なくはないが、これらの問題については別稿に委ねることとしたい。(文責 古賀款久)

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時計のアイコンⅡ. 最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・11/2〜18Ms. Noncedo Vutula: 南アフリカ共和国科学技術省研究情報課課長(JICAインターンシップ)
Ms. Nonhlanhla Mkhize: 同研究情報課課長補佐(JICAインターンシップ)
・11/11Dr. Patarapong Intarakumnerd: タイ国家科学技術庁(NSTDA)
イノベーション・システム・プロジェクト・マネージャー他一行
・11/12Dr. Pairash Thajchayapong: タイ国家科学技術省(MOST)次官
Dr. Voranop Viyakarn: タイ国家科学技術庁(NSTDA)研究官
Dr. Patarapong Intarakumnerd: タイ国家科学技術庁(NSTDA)
イノベーション・システム・プロジェクト・マネージャー他一行
Mr. Thanin Pa-Em: 同研究官
Ms. Somtawin Ritruangnam: 同研究官
Mr. Tanat Dhiensiri: 同研究官
Dr. Kitipong Promwong: 同研究官
Ms. Nucharin Ratchukool: 同研究官
Ms. Tipawan Tangjitpiboon: 同研究官
渡辺 泰司: 同政策アドバイザー
・11/24山田 直: 科学技術政策研究所国際客員研究官(九州大学ロンドン・オフィス所長)
・11/30Dr. George W. Stroke: 元米国ミシガン大学、ニューヨーク州立大学教授
○ 講演会・セミナー
・11/17Ms. Noncedo Vutula: 南アフリカ共和国科学技術省研究情報課課長 (写真)
「南アフリカ共和国の科学技術政策と動向」
○ 科学技術政策研究に係る研修プログラム
・11/17近藤 正幸: 第2研究グループ客員総括主任研究官
「レポートライティングの手法〜英語を想定した文章作成とプレゼンテーション」
・11/29小池 和男: 法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授(第1研究グループ客員研究官)
「聞き取りの方法論〜職場の技能調査を例に〜」
○ 科学技術政策研究所「月例成果報告会」
・11/30渡井 久男: 科学技術動向研究センター材料・製造技術ユニット・リーダー
「国として戦略的に推進すべき技術の抽出と評価-我が国の科学技術力のベンチマーキング-」
大平 竜也: 科学技術動向研究センター環境エネルギーユニット
「石炭利用・クリーン化技術の最新動向と今後の展望-クリーンコールテクノロジーに注目して-」
○ 新着研究報告・資料
当研究所ホームページ【「基本計画レビュー調査」国際ワークショップ開催結果】において各発表者のアブストラクトおよびペーパーをアップデート。
「科学技術動向 2004 年 10月号」(11 月 29 日発行)
  特集 1 周波数共用をめぐる技術と政策の動向
  客員研究官 山田 肇 情報・通信ユニット 藤井 章博
  特集 2 石炭利用・クリーン化技術の最新動向と今後の展望―クリーンコールテクノロジーに注目して―
  環境・エネルギーユニット 大平 竜也
蔦
ふくろう 文部科学省科学技術政策研究所広報委員会(政策研ニュース担当: 情報分析課news@nistep.go.jp)

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